自宅で死を迎えることのできた高齢者は全体の12.3%4 に過ぎない。十島村ではさらにこの割合は低く、この 10年間に島内で死を迎えた人はわずか3名である。島 民が島での最期を迎えることを望んでいながら、本土 への移動を余儀なくされている現実を考えると、島民 のQOLやよりよく生きる権利が保障されているとは言 い難い。島民の生活の質を支え、よりよく生きる権利 を守るためには、終末期医療や在宅医療、訪問看護な どを充実させていくことが急務である。
本稿では、本土との往来が困難で隔絶性の高い外海 遠洋離島である鹿児島県十島村を取り上げ、島民が島 で最期を迎えることを妨げている要因を明らかにし、
無医島での看護師の役割と存在意義についての検討に 資するため、文献調査を行った。
1. はじめに
わが国は海に囲まれた島国であり、医師が常駐して いない離島も多く、そのような無医地区の保健医療体 制はきわめて不十分である1。国のへき地保健医療対策 においては、無医村地域の医師の確保が急務とされて いるが、医師の確保は困難をきたしている2。鹿児島県 十 島 村 (トカラ列 島 )は、鹿 児 島 県 本 土 から200〜
350km離れた東シナ海と太平洋の間に位置し、日常的
に本土との往来が困難な隔絶性の高い外海遠洋離島で ある。
十島村では、島民が最期を迎えるにあたっては、住 みなれた島を離れ遠く離れた本土の病院への入院を余 儀なくされている。全国の統計によれば、全高齢者の うち89.1%3が自宅での死を望んでいるが、そのうち
Ethical problems with island residents who are unable to spend their final days in their home islands
白川真紀
*、八代利香
*、吉留厚子
*、吉田愛知
*Maki Shirakawa
*、 Rika Yatsushiro
*、 Atsuko Yoshidome
*、 Aichi Yoshida
*キーワード:離島、へき地、無医地区、看護師の役割、介護
Key words: isolated islands, remote area, doctor-less area, nurse,
s role, elderly care
鹿児島県十島村は外海遠洋離島であり、7 つの有人島がある。医師は 7 島で 1 名、看護師は各島に 1 名が常 駐している。島民は最期を迎える時、長年住みなれた島を離れなければならない現状がある。その要因に ついて文献調査をした結果、「高齢化・過疎化」「医師不在」「社会資源の不足」「遺体処理の問題」の 4 つが 明らかになった。このような状況は、島で最期を迎えることを望む島民の、よりよく生きる権利や生命の尊 厳などの基本的生存権を損ねている。唯一島にいる医療専門職として、看護師の存在と果たすべき役割の 拡大が、今後の重要な課題と考える。
Toshima Village, Kagoshima Prefecture, Japan, is a remote area encompassing an isolated group of pelagic islands. Seven of the islands are inhabited. While each island has a remote-area clinic with a full-time nurse, only one island has a full-time doctor. Towards their final days, the residents have to leave their islands for hospital admission in the main land of Kagoshima city. Factors underlie this situation are 1)aging and depop- ulation 2)lack of medical doctors, 3)lack of social resource, and 4)cadaver processing problems. In this sit- uation, the residents’ basic human rights are at risk. As the only health care professional in the islands are nurs- es, it is imperative to expand their role.
*鹿児島大学医学部保健学科 School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Kagoshima University
■研究論文
2. 調査方法
対象文献は、医学中央雑誌Web版にキーワード、「離 島医療」「十島村」を入力し、鹿児島県十島村のことに ついて記載されていた論文2件と、十島村誌、十島村 における保健・医療・福祉の在り方に関する調査研究 報告書、鹿児島県庁ホームページ上に掲載されている
「鹿児島県保健医療計画」および「鹿児島県離島振興計 画」、十島村役場ホームページに掲載されている「十島 村の紹介」および「行政情報」を対象とした(表1)。そ れらの対象とした文献から、島民が島で最期を迎える ことのできない要因に関連している文章を抽出し、内 容が類似しているものを研究者4名で分類し、項目名 をつけた。分類した内容は、十島村役場の保健師2名 に提示し、妥当であることの確認を得た。
3. 対象地域の概要
1.鹿児島県の離島の概況
鹿児島県には28の有人離島があり、離島面積及び離 島人口はともに全国1位である5。県内における離島の 市町村数は2市12町4村であり、全市町村数に占める 割合は29.2%である。離島に暮らす人口は191,386人で あり県民の10.7%を占める。これらの地域は交通基盤 の立ち遅れも加わって全般的に医療提供体制の整備が 遅れており、医療機関の利用が困難な地域が多い。鹿 児島県全域で無医地区と定められているのは16地区で あり、そのうち離島は4地区である。また住民の居住す る28の島のうち15島が無医島となっている。
2.十島村の概要
十島村はトカラ列島とも呼ばれており、屋久島と奄 美大島との間に広がる南北約160㎞に及ぶ「南北に長 い自治体」である6。鹿児島県本土からは約350㎞離れ ており、口之島、中ノ島、平島、諏訪瀬島、悪石島、子 宝島、宝島からなる7つの有人島と、5つの無人島の合 計12の島々から構成されている。また、役場庁舎は 1965年に鹿児島市に移転し、行政区内にないという珍 しい自治体である。村営の定期船「フェリーとしま」
が唯一の交通手段であり、鹿児島市との間を週に2往 復運航しており、本土に最も近い口之島までは片道6 時間、最も遠方の宝島までは約13時間を要する。台風 シーズンや低気圧の通過する冬場は、定期船の運航も 不規則になりがちで、欠航も多い。
4. 結果
十島村の住民が島で最期を迎えられない要因として、
「高齢化・過疎化」「医師不在」「社会資源不足」「遺体 処理の問題」の4項目が見出された。
1.高齢化・過疎化
十島村は1島当たりの人口が51人から136人という 小さな離島である。この島には高校がないため、中学 校卒業後は本土に進学する以外に選択肢はなく、島の 16歳から19歳までの人口はゼロである。高校を卒業し た後も鹿児島県本土に就職する者が多く、若者が島へ 戻ってくることは極めて稀である7。そのため、生産年 齢人口の減少が著しく、各島別の高齢化率は、口之島 74.5%、中之島63.3%をはじめとして、どの島も高い
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割 合 を示 している8。十 島 村 全 体 での高 齢 者 世 帯 は 45.0%、高齢者独居世帯は25.1%であり、全国および 鹿児島県と比較しても高齢化、過疎化の進行が深刻で ある(表2)。
2.医師不在
十島村では、昭和27年の十島村立診療所条例の公布 により、各島にへき地診療所が開設されること9が決定 した。その後平成5年までの40年という長い月日をか けて、7つの有人島すべてにへき地診療所が開設され た。しかし、医師の確保は困難であり、昭和54年から 平成14年までの間は、どの島にも医師は常駐していな かった。昭和56年に十島村へき地診療所条例が施行さ れ、鹿児島赤十字病院を十島村の中核医療機関に県が 指定し、医師による巡回診療が開始された(p.448)7。 平成14年からは医師の長期派遣体制(3ヶ月交代)が 確立され、現在では、北方に位置する中之島に鹿児島 赤十字病院の医師1名が常駐し、上4島(中ノ島、口之 島、平島、諏訪之島)を主に担当している。残りの下3 島(悪石島、子宝島、宝島)については、鹿児島赤十 字病院から派遣された医師が、1か月に2回ほど巡回診 療を行う体制がとられている。しかし、その他の期間 は中之島の医師がすべての島を担当しなければならな い状況で、医師が常駐する中之島から一番近い口之島 でも漁船で45分、最も遠い宝島までは船で7時間かか る。そのため医師が臨終に立ち会うことが困難なこと が多く、医師による死亡診断ができないという問題が 発生する。
看護師のいない島では、以前から学校の養護教諭や、
時には学校に赴任した教師の夫人が島民の診療や保健 活動に従事していた(p.1537)9。平成元年からはボラ ンティアの看護師が1年交代で着任するようになり、
平成5年からは十島村が看護師を採用し、全ての島に 看護師を常駐させる体制となった。現在、各島のへき 地診療所は遠隔診療の拠点となっており、常駐する看 護師は、診療所の管理・運営、診療所での処置・ケ ア・相談、訪問看護、島外との連絡・調整と多岐にわ たる役割を担っており、常駐看護師の存在は、島民に 大きな安心感を与え、医療保健活動に大きく貢献して いる。しかし、看護師1名がこれらすべての役割をこな すには限界があり、看護師の肉体的および精神的負担 は大きい。また、島には入院施設がないため、島で最 期を迎える島民は在宅で最期を迎えざるを得なくなる が、看護師1名だけの在宅ケアには限界があり、それが 不可能となる場合も多い。このような事情により、島 民は島での治療や看護、介護を断念し、350km離れた 鹿児島県本土で治療や看護を受けざるを得なくなる。
とくに高齢者や重篤な疾患をもつ患者の場合には、退 院することなく島を離れたまま本土で最期を迎えざる
を得なくなることが多い。このように、現行の医療体 制には、医師不在を中心に、島で終末期ケアを受ける システムが整っていないという問題がある。
3.社会資源の不足
島の高齢者は「島で死にたい」「自宅で最期を迎えた い」と、最期まで住み慣れた島で過ごすことを望みつ つも、同時に「いつまで島に居られるのだろうか」と いう不安を常に抱いている。実際、この10年間に島で 最期を迎えた人はわずか3名に過ぎず、しかもそのう ちの2名は急死である。あとの1名は、島での最期を強 く希望して看取られることになった高齢者である。
地域の重要な社会資源のひとつに介護サービスがあ るが、島には介護施設がない。十島村は約6割が高齢 者世帯であるため、老々介護とならざるを得ないこと が多く、在宅での介護にも限界がある。家族のみによ る個人的な介護が限界に達すると、近隣の人々の援助 や介護サービスなどの社会資源を利用するなどの手段 が必要不可欠となってくるが、島には介護サービスや 医療福祉のサービスを提供するためのマンパワーがき わめて少ない。そのため、食事が作れない、買い物に 行けないなどの程度の自立生活の障害が発生した場合 でも、生活自体が成り立たなくなり、子や孫が住む本 土に身を寄せざるを得なくなる。
4.遺体処理の問題
十島村には火葬場などの遺体処理の施設がない。過 去には鳥葬、風葬などがあったが、現在では近隣住民 からの苦情や衛生上の問題もあり、仮に島で死を迎え たとしても土葬しない限り埋葬は不可能となる。その ため、火葬を希望する場合には本土に渡らざるを得な い。
5. 考察
十島村の医療体制は長い歳月をかけて徐々に整えら れつつあるが、今でも島民が島で最期を迎えることは 困難である。しかし、篠崎は、様々な調査により、「病 院ではなく自分の家で死にたい」と希望する人が増え ていることが明らかであると述べている10。十島村の島 民の多くも、「島で死にたい」「自宅で最期を迎えたい」
と望んでいた。しかしほとんどの島民は住みなれた島 で最期を迎えられない状況に至る。
現行の医師法第20条は「死亡診断は医師が臨終に立 ち会うか、もしくは主治医の診察後24時間以内に治療 中の疾患で死亡した場合に死亡診断書を作成できる。
または、死亡後、診察し死体検案書を交付することが できる」11と定めている。十島村は、島外への移動手段 が船しかなく、中之島に常駐しているただ一人の医師
が臨終に呼び出されたとしても、最短で45分、遠けれ ば7時間かかり、医師の死亡診断書の速やかな交付が 困難な場合が多い。高波は、往診のできる医師や往診 体制をとっている医療機関が多くない現状においては、
在宅での終末期医療を望むこと自体が難しいであろう と述べており(p.253)11、まさしくこれは十島村の現状 であると言える。そのため、医師不在の住みなれた離 島で最期を迎えたいと望む島民の思いをかなえること は現実的には不可能に近い。また、臨終に際して死亡 診断を交付してもらう目的で、島から離れた遠隔の医 療施設に入院せざるを得ない現実では、個人の価値や 平等、個人の尊重(尊厳)を基盤とした基本的人権は 十分に保障されず、自律尊重の原則12も満たすことは 難しい。
離島という社会資源が限られた状況では、マンパワ ー不足や設備の未整備により、十分な医療福祉サービ スや介護保険サービスは受けられない。野口は、社会 資源に乏しく、また訪問看護ステーションも成り立た ないほど過疎化が進行したへき地・離島では、高齢者 は「動けなくなったら島を離れなければならない」と 覚悟していると述べている13。十島村に限らず、へき 地・離島の高齢者たちは、本土に渡って死を迎えるこ とを余儀なくされており、「いつまで島に居住できるだ ろうか」と半ばあきらめの境地で余生を過ごさざるを 得ない状況であり、その人がよりよく生きる権利が損 なわれている。さらに野口は、本土に渡っての死を余 儀なくされる人は、老後を悲観し、島に生きてきたこ と、つまり自分の人生に、喜びや誇りをもてないでい るとも述べている(p.638)13。離島に住んでいるという だけで、本土の人々と同じように社会資源を十分に活 用できず、人生の最期を迎えるにあたっては生きる場 所さえも変えざるをえない状況では、生命の尊厳やそ の人のQOLが尊重されているとは言い難い。また、医 療体制や社会資源不足は、「看護者の倫理綱領」が謳 う、「平等に看護を提供する」ことを難しくし、公正の 原則も保障されない。
離島における保健・医療・福祉の基盤整備や、介護 保険サービスの供給体制を整えることは容易ではない と思われる。人口減少や高齢化の進行による医療・福 祉・介護のマンパワーの不足は簡単には解決できない 問題である。しかし、各島には1名ずつの看護師が常 駐している。資源の少ない無医島では、これら看護師 の能力を最大限に引き出すことにより、離島医療体制 の改善が図れるのではなかろうか。在宅医療の重要性 が注目されつつある状況のなか、人の死に際して看護 師の果たすべき役割が今後ますます重要になるだろう。
1948年に制定された保健師助産師看護師法による看護 師の役割は、「療養上の世話または診療の補助」であ り、看護師が臨終に際して行うことのできる行為は死
後の処置のみである。しかし同法の4章第39条2には、
「分べんの介助または死胎の検案をした助産師は、出生 証明書、死産証書又は死胎検案書交付の求めがあった 場合は、正当な事由がなければこれを拒んではならな い」とあり、助産師は胎児の死亡診断をし、死亡診断 書を作成できることが認められている。厚生労働省の
「新たな看護のあり方に関する検討会」の報告には、人 の死に際しての看護ケアのあり方が検討された旨の記 述があり、「在宅で死を迎える患者への対応」における 看護師の役割について、検討されつつある。このよう な流れの中で、たとえ特別地域での例外的措置として でも、看護師による死亡診断が制度上可能となれば、
医師不在の離島における在宅死の状況は大きく変化す ると考えられる。大湾らは、小離島での「在宅死」を 実現させるための課題として、看護師による直接ケア、
調整、相談、教育の実践など、看護師の果たすべき役 割の重要性を指摘している14。医師不在の離島に常駐 し、診療所を実質管理している看護師は、島民に最も 身近で頼りにされている医療従事者である。島で最期 を迎えることを望む島民にとって、医療専門職として の看護師の存在とその果たすべき役割の拡大は、今後 実現すべき重要な課題と考える。
6. 結語
島民が島で最期が迎えられない要因には、①高齢 化・過疎化、②医師不在、③社会資源の不足、および
④遺体処理に関わる問題があることが明らかになった。
離島・へき地の保健・医療・福祉サービスの整備は容 易ではないが、人が人らしく生き、よりよく暮せる離 島であるために、今後の看護師の役割と存在意義をさ らに検討していかなければならない。
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