[特 集]
[事業紹介]
[事業報告]
[資料紹介]
[コ ラ ム]
[寄 稿]
自主研究8Aプロジェクト研究主査インタビュー アジア太平洋センター
設立10周年記念シンポジウム受講者募集 ホームページリニューアル
第1回ワークショップ、第1回アジア情報懇話会 若手研究者研究活動助成対象者決定
ADB寄託資料、図書目録 インド特集
福岡市博物館体験学習展示会
チャン・ルーン《水の中》1993/ベトナム 福岡アジア美術館収蔵
[インタビュー]
第8期自主研究8Aプロジェクト 研究主査インタビュー
8Aプロジェクト
「アジアの都市における共生社会のビジョン」
●プロフィール
出口 敦
(でぐち あつし)氏
九州大学大学院人間環境学研究院助教授 1961年生まれ。
東京大学工学部都市工学科卒業、東京大 学大学院都市工学系研究科都市工学専攻 博士課程修了。
専門は、都市計画学、都市設計学。東京 大学助手を経て1993年から現職。
今回のテーマは「アジアの都市における共生社会のビ ジョン」ということですが、今回の研究の主な目的及 び趣旨はなんですか。
◆アジアの大都市は、今後ますます都市が拡張し、高密度化してい くことが予想される一方で、深刻で複雑な都市問題が内在しています。
近代化の枠組みによる問題解決に限界が現れつつある中、新たな対 応として、「共生」の概念が注目されています。人工と自然の共生や、
異文化の共生など、異種、異質な組織、仕組み、人、モノ相互の存 在のあり方が、新しい都市社会の形成や都市活動にどのような意味 を持つか関心が高まっています。
本研究では、異種、異質なモノや人が混在するアジアの「都市」
を対象にした共生する社会像とは何かという課題へのアプローチを 試みることが目的です。混在と共生とは異なる概念と考えていますが、
特に、今回の研究チームを構成している都市計画、環境政策、公衆 衛生、文学、経済・流通、居住のそれぞれの分野における「共生」
の概念の提示を試みると同時に、具体的な対象都市を選定して、そ れぞれの都市で個別の専門的視点と具体的課題を持ちながらフィー ルド調査を進めて、共生する社会の姿を考えていきたいと考えてい ます。できれば、異なる専門分野相互の研究者が議論する中から新 しい学際的都市研究のテーマも見出せればいいなと思っています。
アジアの都市における「共生社会」としての特徴はど ういったところでしょうか。
また、福岡市において共通する点は何かありますか。
◆いまや国際的規模での従来の社会システムと価値観の転換期を迎え、
欧米型モデルに倣った近代化の過程や制度を見直し、新しいコミュ ニティ社会の形成や環境改善の方策が求められています。これまで の排他的、規範的な都市の近代化の方法が行き詰まってきたとの認 識の上に立って見ると、一見、近代化以前の不安定で混沌とした状 況に見えるアジアの高密度な都市そのものの中に共生社会の原型が あったように思います。私の専門分野である都市計画に関わる点で 申しますと、熱帯系気候のアジアの都市では人工的な都市環境の中 にも、適度な自然や生態系を維持してきましたし、郊外にニュータ ウンを建設して住宅地と職場を分離する近代的な都市計画制度を導 入する以前には、一見無秩序に混合しているように見える職住近接 の高密度なコミュニティの秩序とそれを支える独自の建築様式を確 立していました。
博多のかつての町屋などはその良い例です。もっと大きなスケー ルで見ると福岡は、博多と福岡という異なるアイデンティティと機 能を持った町が共生して発展してきたと言えます。
上海外灘
2002年4月から、アジア太平洋センターの第8期自 主研究がスタートしました。今期の自主研究8Aでは、
アジアにおける都市問題への新たな対応として注目さ れる「共生」という概念を用いてプロジェクトを実施し ます。各研究者が具体的な対象都市を選定し、それぞ れの都市で個別の専門的視点と具体的課題を持ちながら、
共生社会像へアプローチし、都市計画、環境政策、公 衆衛生、文学、経済・流通、居住のそれぞれの分野に おける 「共生」 の概念を提示することを目的としています。
今回は、8Aプロジェクトの研究主査である、出口敦 九州大学大学院人間環境学研究院助教授にプロジェク トのテーマである「アジアの都市における共生社会の ビジョン」の趣旨や意義についてお話しを伺いました。
●研究期間
2002年4月1日〜2004年3月31日まで
●研究主査
出口 敦(九州大学大学院人間環境学研究院助教授)
「インドネシアにおける高密度都市の仮設的空間の
構成と賑わいの場の形成」
●共同研究者
松田 晋哉(産業医科大学公衆衛生学教室教授)
「ベトナムにおける環境問題の現状とその課題」
新谷 秀明(西南学院大学文学部助教授)
「上海に見る多文化共生のすがた」
三宅 博之(北九州市立大学法学部教授)
「バングラデシュにおける環境保全・環境教育政策と その地域社会への受容」
王 志剛(中国・南開大学経済研究所副教授)
「経済・流通システムにおける共生」
李 賢姫(韓国・ 園大学校建築学部副教授)
「都市居住空間における共生の思想」
(敬称略・順不同)
インドネシア屋台
ベトナム街角 韓国ソウル路地
今回の自主研究は、 従来の形式とは異なり、 参加研 究者が各自の研究事項についてそれぞれ独自で調査 研究を行い、その後意見交換をするという形式です。
出口先生ご自身は、今回インドネシアで屋台や露店と いった仮設的空間に関する実態調査をなされるそうで すが、この内容について少しご説明いただけますか。
また、インドネシアに着目された理由は何ですか。
◆近年の国際的な都市計画の課題の一つとして、都市本来が持つ「賑 わい」の再生、特に中心市街地の再生が上げられています。そのた めの方策が模索されていますが、本来、アジアの各都市には路上の 市場など近代化の中で排除されてきた高密度に賑わう場があって、
そこには仮設的・可変的であることを特色とする柔軟な装置が恒常 的な賑わいを形成してきたという共通点があります。
インドネシアの都市には、いまでも多くの市場や仮設的空間があり、
都市に流入してきた若者らの雇用の受け皿にもなっている実態があ ります。こうした仮設的空間の担い手達の住宅問題などは、深刻な 都市問題の一つにもなっているようですが、都市内に一つの経済を 作り出しているとも言えます。
今回は、アジアの都市空間の特性として仮設性と柔軟性に着目して、
インドネシアの屋台や露店が集中する地区での一見無秩序に見える 空間での賑わい創出のメカニズムや、道路の占用等の関連する制度 上の課題、および社会的経済的背景との関係にアプローチしたいと 考えています。
仮設的な要素が、恒常的な都市空間や地域社会とどのように共生 して、折り合いをつけながら運営されているのかといった課題に関 心があります。他の研究者の方の成果と照らしながら、アジアの都 市を理解する上でも適当なテーマと思っています。
今後のアジア太平洋地域の国際関係を考えていく上で、
今回の自主研究の成果としてはどのようなものが期 待されますか。
◆アジア諸都市の居住環境の改善に関しては、これまでは、近代的 な技術を導入したり、近代的施設を建設するなどの物的環境の改善 に力点が置かれてきました。しかし、ゴミ問題や環境問題への対応 を考える場合でも、多角的、複眼的な観点からのアジアの都市社会 の理解が必要です。
今回のアジア都市研究の成果は、それぞれの都市の文化的歴史的 背景や政策・制度等の社会的仕組みを十分理解し、それらと都市問題、
環境問題との因果関係をより深化したレベルで理解することに役立 つと考えています。そうした理解がなければ、効果的な居住環境の 改善への支援や貢献はできないと考えています。
そうした都市理解のスタンスとして、今回のプロジェクトでは「共 生」というキーワードを掲げながら、これまでの近代的な合理主義 や機能性といった価値観そのものと距離をおいて、アジア都市の将 来像を考えることにも意義があると思っています。
また、今回のアクションが専門分野単位の単眼的な研究や実践から より学際的なアジア都市研究の必要性を共有でき、新しい学際的な都 市研究を進める契機になれば、それも大きな成果だと思っています。
[事業報告]
平成14年度第1次 若手研究者研究活動 助成対象者を決定
第1回 ワークショップ
テ ー マ:
講 師:
コメンテーター:
日 時:
会 場:
「中国東北部と日本の経済交流
〜黒竜江省を中心として〜」
志 剛 氏
(中国黒竜江省社会科学院北東アジア研究所助教授)立石揚志 氏
(西南学院大学商学部教授)平成14年4月17日 (水) 13:30〜15:30 福岡市役所15階講堂
〈講演要旨〉
ODAは日本外交の重要な柱の一つであり、対中交渉の重要なカ ードでもある。中国経済は、日中国交回復後、特に改革開放政策開 始以降、日本政府の円借款や外資導入などが成長を促す重要な役割を 果たし、日中貿易の拡大などによって、世界経済への関与をいっそう 深めてきた。
2001年中国のGDPはすでに1兆米ドルを超えたが、経済総量で
見 た 場 合 は 日 本 の GDPの4分の1に過 ぎず、しかも地域格 差が大きいため、東 北3省のような経済 的に遅れている地域 は今後も外国とりわ け日本との経済交流 に大きな期待を寄せ ている。
黒竜江省は歴史的に日本との関係が深く、日本からのODAも比 較的多い。ODAは教育部門の整備や農業開発など公共性の高い分 野に使われており、今後は国有企業改革により大きな役割が期待さ れている。これまで中国東北地域は、地理的近接性などから、環日 本海の地方自治体との交流が盛んであったが、九州・福岡とも、学術、
人材、教育などの分野での交流を進め、後に経済交流に発展してい く可能性は大いにあるだろう。
アジア情報懇話会開催
この懇話会は、業務としてアジアにかかわっている企業・団体・
行政機関が、情報の交流を通して多角的な視点からアジアに関する 理解と認識を深め、業務展開上の参考としていただくことを目的と した意見交換会です。
第25回例会(2002年5月21日)
今回の例会は、「日本はアジアに追いつくことができるか?」とい うテーマで下記のとおり開催いたしました。
話題提供者:阿比留正弘 氏(福岡大学経済学部教授)
コーディネーター:鍋山 徹 氏(日本政策投資銀行九州支店企画調査課長)
懇話会での主な内容
●日本の学生は元気がない。過去、インドや中国の学生と交流をし てきたが、彼らは眼の輝きが違う。また、その能力も非常に高く、
日本の学生と比較した時、将来に強い不安を感じた。しかし、いま の学生は、子どもの頃から「まかせられる」という経験をしていない。
それは親や教師の責任であり、社会や教育が彼らのやる気をうばっ ているのではないか。
●教師(教授)は学生に課題のみを与え、教えることはしない。そ して、解答は学生自身に行わせる。このようなアウトプットの教育 をすることにより、学生に活躍の舞台を与え、彼らの自主性の喚起 を促すことが必要である。大学は誰のためにあるのか。学生のためか、
それとも教師(教授)のためか。遠くない将来、学歴社会は破綻し、
その時大学の真価が問われるはず。
●現在、学生に企業へのインターンシップを行わせたり、企業のト ップとの交流をさせている。これにより、学生が自分の将来や人生 を真剣に考え、そして自分自身の人生の主役になってほしい。みず から自分の人生をデザインすることが自己実現に結びつく。
この助成は、アジア太平洋地域の「異なる文化理解」の促進また は「地方発展」に関する研究を対象とし、九州北部4県の若手研究 者(40歳未満)の研究活動を資金的に支援するものです。平成14 年度の第1次募集では、過去最高の26件の申請があり、選考委員 会で審査の上、次の9人の方に海外現地調査活動費の助成を行うこ とに決定しました。
劔 陽子(産業医科大学医学部助手)
「ミャンマー連邦におけるコミュニティーヘルスワーカーの働き」
グエン ティミン ヒエン(九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程)
「ヴィエトナムにおける米の生産と流通の経済分析」
中村和敏(長崎県立大学経済学部講師)
「インドネシアにおける中小企業の発展」
福嶌 智(九州大学大学院人間環境学府博士課程)
「中国帰国者の文化的背景をめぐる一考察
−福岡市と遼寧省における調査をもとに−」
鞏 従 容(九州大学大学院人間環境学府博士課程)
「中国の住宅商品化政策下での分譲住宅の供給と管理に関する研究」
佐々木拓雄(九州大学大学院比較社会文化学府博士課程)
「ジャワの一都市における「普通のムスリム」とイスラーム復興」
西谷 郁(九州大学大学院比較社会文化学府博士課程)
「中国映画史における1930年代:その文献資料調査」
蘇 鳳 鳴(九州大学大学院比較社会文化学府博士課程)
「カムにおける民族間交渉とチベット族の自己イメージ形成」
日下部達哉(九州大学大学院人間環境学府博士課程)
「バングラデシュにおける初等教育制度受容に関する調査研究」
(敬称略、申請順)
[事業紹介]
アジア太平洋センター設立10周年記念シンポジウム
お申し込みは、はがき、FAX、電子メールで、
講演会名を明記の上、郵便番号、住所、氏名(ふ りがな)、年齢、職業、電話番号を記入して当センターまで。電話 でもお申し込みできます。(入場無料)募集定員:260名
申込先:(財)アジア太平洋センター
〒814-0001 福岡市早良区百道浜2丁目3-26福岡タワーセンタービル2F TEL 092-852-1155 FAX 092-845-3330 e-mail:[email protected]
受講者募集
お申し込み方法 さまざまな分野でグローバル化が進展し、国際的な都市間競争の
時代を迎えております。アジア太平洋地域の都市は、人を惹きつけ る個性や魅力を高め、都市としての活力を生み出していくことが求 められています。そのため、都市間競争とともに、有意義な共生を 図るネットワークづくりが重要な課題となっています。
設立10周年を迎えるアジア太平洋センターがこれまでに築いた ネットワークの中から日本、韓国、中国、東南アジアの研究者を招 いて、アジア太平洋地域の都市パワーの源泉を探り、新たな都市間 ネットワークや都市の魅力ある活性化について考えます。
テ ー マ:
日 時:
会 場:
グローバル時代のアジア都市の活性化と共生 平成14年8月28日 (水)13:00〜17:30
アクロス福岡国際会議場
(福岡市中央区天神1-1-1 アクロス福岡4F)第1部:基調講演
テ ー マ:「現代アジア都市と『ソフトパワー』」 講 師:青木 保 氏(政策研究大学院大学教授)
講演内容:中国・上海など現代の巨大都市が持つパワーは、軍事や 技術のハードパワーに対し、人を惹きつける文化的魅力 であるソフトパワーという言葉であらわされます。アジ ア都市の個性の発展のための方策を実例を踏まえながら お話ししていただきます。
テ ー マ:「グローバル時代の東南アジア都市」
講 師:スリチャイ・ワンゲーオ 氏(タイ)
(チュラロンコン大学政治学部社会開発研究センター所長)
講演内容:グローバル化の中で変容するアジア都市の現状について タイ・バンコクや東南アジアの実例を中心に紹介し、都 市の個性や魅力を作り出す発展のあり方についてお話し していただきます。
第2部:基調報告
テ ー マ:「アジアの交流拠点をめざす福岡市の都市戦略」
報 告 者:山崎広太郎 氏(福岡市長)
テ ー マ:「アジア太平洋センター活動報告―10年間の歩みと評価」
報 告 者:矢田俊文 氏(九州大学大学院経済学研究院長)
第3部:パネルディスカッション
コーディネーター
矢田俊文 氏(九州大学大学院経済学研究院長)
パネリスト
清家久美 氏(立命館アジア太平洋大学専任講師)
出口 敦 氏(九州大学大学院人間環境学研究院助教授)
尹 豪 氏(中国・吉林大学東北アジア研究院人口研究所長)
琴 性 根 氏(韓国・釜山発展研究院先任研究委員)
野田順康 氏(国連ハビタットアジア太平洋部長〈福岡事務所長〉)
アジア太平洋センター ホームページリニューアル
トップページ 資料情報ページ
イベント情報ページ
このたび、当センターのホームページ(http://www.apc.or.jp)
をリニューアルいたしました。
APC主催のワークショップ、講演会などのイベント情報、資料・
情報室の蔵書検索など、さまざまな情報を掲載しております。イベ ントの申し込みもオンラインでできますので、ぜひ、ご利用下さい。
[資料紹介]
ADB寄託図書館受け入れ資料紹介
インド特集
●平成14年4月〜6月までの寄託図書
●Asian Development Outlook 2002
●Capacity Building for Environmental Law in the Asian and Pacific Region
●Handbook for Integrating Poverty Impact Assessment
in the Economic Analysis of Projects
●Partners in Development
●Achieving the Twin Objectives of Efficiency and Equity:
Contracting Health Services in Cambodia
●Quarterly Economic Update Bangladesh
●Country Environmental Policy Integration Studies など
第1回
この「コラム」は、今号から4回にわたってシリーズで掲載す るものです。今年度は「インド特集」とし、インド、特にケーラ ラ州の社会、文化、生活事情などについて、長崎純心大学人文 学部助教授の小林勝氏に書いていただきます。
ナンブーディリ・ブラーフマンの姉弟。
ミッション・スクールとその付属の幼稚園に通う。
中国・モンゴル共同経済開発地域
●お勧めの一冊
Strategic Development Outline for Economic Cooperation Between the People's Republic of China and Mongolia
〈概要〉
中華人民共和国とモンゴルは、4,676kmの国境を共 有する。1989年以降両国は、社会、経済、環境問題に
おいて、より密接な関係の構築に力を入れてきた。特にモンゴル東部
(ヘンティー県、ドルノド県、スフバートル県)と、中国内蒙古自治区の興安 盟における共同経済開発に関しては、インフラストラクチャーを中心とした 具体的なプロジェクトが組まれている。第1次産業部門の開発、豊かな鉱床 の活用、観光産業の拡大がそのプロジェクトの三本柱となっているが、いず れもインフラの建設が不可欠である。
現在、チョイバルサン(モンゴル・ドルノド県)と阿爾山(中国・内蒙古自 治区)を結ぶ鉄道建設が計画されている。これが実現されれば、既存の鉄道 により図們江(豆満江)へのルートが確保され、またアジアと欧州を結ぶ、高 速のトランジットルートが確立する。また、チョイバルサン空港を初めとす る航路の整備も注目されている。
本書は、両地域における開発と環境への影響に関する調査報告書である。
《インド・ケーララ州の教育について》
ケーララは、インドでは例外的な教 育水準の高さを誇る州として知られて いる。識字率はほぼ 100%。それも、
自分の名前の読み書きがなんとか出来 るといった例までカウントして下駄を 履かせた数値ではない。炎天下、大き な岩から鉄道線路用のバラストをハン マーひとつで黙々と割り出している労 働者が、つかのまの休憩時に木陰でマ ラヤーラム語の新聞に見入っている。
客待ちをするオートリキシャの運転手も、
宝くじを売り歩いて疲れた障害者も、
そこここで新聞を読んでいる。ケーラ ラ州では珍しくもない風景である。
これまで共産党を中心とした左派勢 力が頻繁に州政権を担っていることに ついても、またカースト間、宗教間の 紛争が比較的少ないことについても、
こうした教育水準の高さがその背景と してあると指摘される。ただし、左派 政権と結びついた労働運動が人件費の 高コスト化につながり、他の州や海外
との競争に負け、農工業の空洞化を招 いており、高学歴社会にもかかわらず 他の州よりもむしろ失業率は高く、他 州や湾岸諸国への出稼ぎに出る人々の 数は多い。誰彼の職探しは、家族・親族、
友人関係などのあいだでのもっとも頻 繁にして重大な話題となっている。
就職難のなかで学歴志向はより強まり、
受験競争は相当に加熱している。ナン ブーディリ・ブラーフマン(注)やナーヤ ルのような高カーストの大学受験生に とっては、イーラワーやプラヤのよう な低カーストに対して優先的に留保さ れた入学枠が重くのしかかることにも なる。だから子どもの通う学校に対す る親の目はシビアなものとならざるを 得ない。特に公立の初等中等学校はど こにいっても最近いたって評判が悪い。
教師たちがストライキばかりやってい るとか、教師自身の学力や教育への熱 意が十分でないなど、さまざまな悪評 を聞く。しかし、もっと問題とされて いるのは、ほとんどの公立学校が現地 語であるマラヤーラム語によるカリキ ュラムであるという点である。高等教 育や専門職において、ますます英語は 決定的な意味をもつようになり、それ 故に初等教育から English medium で という志向は強くなっているのである。
少しでも経済的に余裕のある家では、
子どもを私立の学校に入れようとする。
その多くは古くからケーララに在住す るシリアンクリスチャンたちの教会付 属学校あるいは欧米のミッション・ス クールである。公立よりもはるかに整 った教育条件と、そしてなによりも英 語によるカリキュラムを採用している 点が魅力となっている。熱心なヒンド ゥー教徒であったり、なかにはヒンド ゥー民族主義者であったりする人たち までが、自分の子どもをすすんでミッ ション・スクールに通わせている。大 学院生や大企業のエンジニアでありな がら、マラヤーラム文字をきちんと綴 れない若者たちにも出会う。英語さえ できれば不自由はないという。グロー バル化への積極的な適応というべきな のか、それとも再植民地化への帰結と いうべきなのか。
(注):ナンブーディリ・ブラーフマン、ナーヤル、
イーラワー、プラヤはカースト制度の身分の呼称 スフバートル県
ヘンティー県
ドルノド県
図 們 江︵ 豆 満 江
︶河 口
〈プロフィール〉
1960年東京生まれ。総合研究大学院大 学文化科学研究科比較文化学専攻博士 後期課程(国立民族学博物館内併設)単 位取得。社会人類学専攻。現在、長崎 純心大学人文学部比較文化学科助教授。
小林 勝
(こばやし まさる)
[APCネットワーク寄稿]
中国雲南省は、少数民族の里と呼ばれ、経済的に立ち遅れていた 内陸部を対象とした「西部大開発」が政府主導のもとで推進されてい ます。アジア太平洋センターではこの地域を対象とする自主研究7 Aプロジェクト「中国における『西部大開発』の戦略と実態―雲南省の 事例を中心に―」を平成13年度から実施しています。アジア太平洋 センターの同地域でのネットワークを活かした協力により、福岡市 博物館で7月23日から「民族周遊―標高2700m雲南のくらし―」が 開催されます。そこで博物館の福間学芸係長に調査先の雲南省につ いて書いていただきました。
かつてはどこにでもあった囲炉裏。「いろり」という言葉に、ゆっ たりとした時間、ほのぼのとした暖かさなどを覚える人は多い。に もかかわらず、わたしたちにとっては、それはすでに身の丈を越え た昔話の世界でしかない。そんな囲炉裏が、今もくらしに生きてい るところがある。中国雲南省である。
●寄稿について
母なる「濾沽湖」と女神の住まう「獅子山」右側はもう四川省
福間 裕爾
(福岡市博物館 学芸係長)「炉端閑話」
旧正月の装いをした高い敷居の入り口 今年2月、福岡市博物館はアジア大平洋センターと共同で、体験 学習室資料調査のためにその地を訪れた。雲南省北部で四川省との 境にある落水村・温泉村、モソ人と呼ばれる少数民族の村々である。
海抜2700㍍、夜空の星でさえ映える母なる湖「濾沽湖」に面して人々 のくらしがある。囲炉裏は、板葺き屋根ログハウス風民家の居間に あった。上座に「火の神」が鎮座し、炉を囲んで人々が座る。そこは、
祈り・儀式の場であると同時に、煮炊き・食事の場であり、人々が 語らう、いわゆる団欒の場でもある。
居間に入る木戸の敷居はやたらと高い。出入りするのに、踏み台 がいるくらいだ。温泉村の炉端でおもしろい話を聞いた。ここでは、
人は死後、霊魂となって、最終的には囲炉裏の「火の神」の祭壇にや ってきて先祖となる。ところが、ちゃんとした供養を経なかった死 者は悪霊となり災いをなす、というのである。その姿は、まさにキ ョンシーなのだ。トントンと両足揃えて飛び迫る姿は香港映画でお なじみ。硬直のため足が曲がらない、だから、この高い敷居を越え
られない、というのだ。囲炉裏端はどこよりも安全で、母の胎内の ように安心な場というわけだ。
年も押し詰まったある夜―といっても旧暦でのことだが―、落水 村の囲炉裏をモソ人・漢族、そして日本人が囲んでいた。スリマ(ど ぶろく)を酌み交わしながら、揺らめく明かりのなかで、話がはず んでいた。
華やかな結婚式に憧 れたモソの娘がいう「私 も結婚式が挙げたい」と
―モソの人々は「走婚」
と呼ばれる「妻問い婚」
をする。男性が意中の 女性の家に夜ごと通う のだ。だから、この村 に は 結 婚 式 が な い ― 、 すると漢族の男性が「あ んたはもう結婚してる じゃないか」と応える。「そ れでも…」と娘は結婚式 にこだわった。「この村 を出るしかないね」とみ なが声を揃えて言い放 つ 。 ひ と と き の 静 寂 。 モソの娘「やっぱりこの 村がいい」と。そして一 同笑い…………。
こんなリズムで悲喜交々の話が進む。まさに、わたしたちが忘れ 去ろうとしている「一家団欒」である。
まだまだ話は続くのですが、あとは8月3日のお楽しみ!としまし ょう。福岡市博物館の体験学習室では、7月23日から9月23日まで、
雲南省で収集してきた資料を公開します。来て、見て、触れて、そ して感じていただきたい。あっ、民族衣装の試着もできますのでカ メラも忘れずに!
囲炉裏端 正面が「火の神」の祭壇
●博物館の催し案内
■体験学習室新着資料公開
「民族周遊
―標高2700m雲南のくらし―」
●7月23日(火)〜9月23日(月・祝)
博物館2階の体験学習室で、雲南で集めてきた資料を初公開!
民族衣装の試着もできます。
■体験学習室資料調査報告
「雲南省の民族とくらし」
●8月3日(土)午後2時から
雲南を訪ねた学芸員が、その体験談をビデオや写真をまじえて紹介。
福岡市博物館ホームページ
http://museum.city.fukuoka.jp/ TEL 092-845-5011(代)
旧正月元旦、炉端で行われる成人式 初めて民族衣装を身につける
(写真撮影/太田暁子)
福岡市総合●
図書館 RKB● TNC●
西新駅 福岡市営地下鉄
藤崎駅
●マリゾン
福岡ドーム ホテルシーホーク
福岡都市高速
●福岡市 博物館
●早良消防署 福岡タワー 南口バス停
西鉄バス アジア太平洋センター
(福岡タワー内)
編 集 後 記
●[アゴラ]は再生紙を使用しています。●[Agora]とは古代ギリシャの集会所、広場を意味する言葉です。
E-mail [email protected] 財団法人アジア太平洋センター
発 行 日/2002年7月31日
編集・発行/財団法人アジア太平洋センター 〒814-0001
福岡市早良区百道浜2丁目3番26号 福岡タワーセンタービル2階
TEL092-852-1155 FAX092-845-3330 編 集 協 力/(株)アルコス
印 刷/白木メディア(株)
ニューズレター
Vol.11 No.37
古紙配合率100%再生紙を使用
資料・情報室から
★アジア太平洋センター(APC)賛助会員募集中★
2002年6月、世界中が熱狂したサッカーのワールドカップ。21世紀最初の大会を、世界30カ国の代 表チームを迎えて、アジアで初めてそして、日本と韓国の初の共同開催。各国のキャンプ地となった 市町村では、住民とチームとの様々な交流が行われ、大会では日本だけでなく、各チームへの応援も 盛り上がっていました。日本チームがベスト16、韓国は4位と大健闘、次のドイツ大会では、そのま た上へと、さらに夢がふくらみます。同時期に福岡市ではロボカップが開催され、多くの入場者が二 足歩行などのさまざまなロボットが戦うサッカーに見入っていました。2050年には、ワールドカッ プチャンピオンと二足歩行ロボットのサッカー競技を行う、という目標にむかって、さらなる技術開 発が進められています。人間、ロボットお互いに切磋琢磨して大きな夢をかなえたいものです。〈O〉
■表紙
チャン・ルーン《水の中》
1993/ベトナム 福岡アジア美術館所蔵 ベトナム現代美術界を牽引するアーティスト。本作品は、
ベトナム戦争中子供だった作家が、疎開先の田舎でみ た水棲動物を素材とした抽象画であり、色彩と形態の 洗練した調和が見どころである。作家は、田園や小川 に棲息する小さな生き物たちに、生命の不思議さと優 しさ、尊さを感じとったという。
◆年会費(毎年度継続して納入いただきます)
個人:1口 3,000円 法人:1口 30,000円
●賛助会員の特典
○センターが発行しているニューズレター「アゴラ」やニ ュースレポート「中国動向」・「韓国動向」、研究誌「APC アジア太平洋研究」等の刊行物をお送りいたします。
○センター主催の講演会、ワークショップ等にご案内いた します。有料のものは受講料が割引になります。
当センターの事業・趣旨に賛同し、アジア太平洋地域の知 的交流や国際理解を深めるためのAPCの活動を応援していた だける賛助会員の方を募集しています。会員には様々な特典 を用意しています。
今回新たにご入会いただいた会員の皆様をご紹介いたします。
ご入会誠にありがとうございます。
当センターでは、平成13年度に受け入れた図書資料1,196冊、ADB寄託資料(図書)238冊、
新聞・雑誌・ADB寄託資料(レポート)317タイトルの書誌情報をまとめた「図書目録(2001)」
を発行しました。
掲載されている書誌情報は、言語別、国・地域別に区分した上で、資料・情報室が採用し ている日本十進分類法(NDC)に従って配列しておりますので、関心のある国々や読みたいテ ーマに沿って資料を探すことが出来ます。
「図書目録」をご希望の方は、当センター資料・情報室までお問い合わせ下さい。
なお、アジア太平洋センターのホームページ上でも蔵書検索が出来ます。図書については 貸出も出来ますので、お気軽にご利用下さい。
アジア太平洋センター ホームページ http://www.apc.or.jp
■図書目録(2001)の発行
●賛助会新規加入会員
●継続会員の方へ
(五十音順・敬称略)
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