Copyright© 2015, Japanese Society for FoodScience andTechnology doi : 10.3136/nskkk.62.484 http://www.jsfst.or.jp
報 文
わかめの加工による微量元素組成変動と産地判別の可能性
絵面智宏
1,國分敦子
1,阿部洋俊
1,濱田真子
1,加藤栄一
1,鈴木彌生子
2* 1理研ビタミン株式会社 品質保証本部 食品分析センター 2国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品分析研究領域The Effect of Processing on the Trace Element Composition of Wakame(Undaria pinnatifida)
:
Implications for Geographical Origin Analysis
Tomohiro Edura1, Atsuko Kokubun1, Hirotoshi Abe1, Manako Hamada1,
Eiichi Katou1andYaeko Suzuki2*
1Riken Vitamin Co., Ltd., 1-3-3, Aoyagi, Soka, Saitama 340-0002
2Analytical Science Division, National FoodResearch Institute, 2-1-12, Kannondai Tsukuba, Ibaraki 305-8642
We evaluatedthe effect of processing (i.e., boiling, salting, andwashing) on the trace element composition of wakame (Undaria pinnatifida), to accurately assess the geographical origin of wakame products on the market. The trace element composition (Mg, P, Ca, V, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Se, Cd, andBa) was significantly alteredby processing, likely due to (1) elimination and/or dilution of the elements during processing, (2) contamination from salts, and (3) decrease of wakame content per unit weight by salting. However, the Ba content of wakame was relatively resistant to the elimination andcontamination effects during processing, andthe effect of dissolution couldbe correctedby a simple calibration. These results suggest that Ba content can be employedas a reliable factor to distinguish the geographical origin of wakame, even after processing. Indeed, the Ba content in wakame and wakame products from China (25.6±5.7 ppm) is much greater than that from other sources (i.e., Sanriku: 8.6±1.9 ppm, Naruto: 10.9±2.3 ppm, andSouth Korea: 14.2±4.6 ppm), allowing for the discrimination of sources (i.e., China and others) of wakame and
wakame products by 90.0 % and95.9 %, respectively. (ReceivedFeb. 23, 2015 ; AcceptedJun. 17, 2015)
Keywords : raw-wakame, wakame product, seaweed, trace element analysis, geographical origin キーワード : 原藻わかめ,わかめ加工品,海藻,微量元素分析,産地判別 日本では,古くよりミネラルや食物繊維の供給源として わかめを食してきた.また,近年では,わかめペプチドの 血圧を安定させる効果1)や,めかぶから抽出したフコイダ ンのインフルエンザウイルスに対する抗体の生産促進2)な どが報告されており,わかめの健康効果に再び注目が集 まっている. わかめは原藻のまま食されることは少なく,収穫後速や かに何らかの加工を受けて,わかめ加工品となるのが一般 的である.その中で主要なものは,湯通し塩蔵わかめと, 湯通し塩蔵わかめを原料として製造される乾わかめであ る.湯通し塩蔵わかめの製造法は,海水あるいは塩水で湯 通しした原藻わかめを冷却し,脱水後にわかめに対し 40 % の塩を添加し,からめ機でからめたものを塩蔵タンクで 1, 2 日程度塩蔵,その後脱水するというものである3).また, 乾わかめは,湯通し塩蔵わかめを脱塩と異物除去のために 洗浄し,目的の大きさに裁断し,脱水後,乾燥器で乾燥す るという工程で製造される4). わかめの主要産地は日本では三陸海域(岩手県および宮 城県)および鳴門海域(徳島県および兵庫県)であり,2 産 地で日本の生産量の約 85 % が生産されている3).中国では 渤海湾の遼寧省(大連周辺沿岸),韓国では西南部の海域(莞 島周辺)および東部の海域(釜山∼機張)が主要産地であ る. 財務省の貿易統計ⅰ)によれば,近年中国産わかめ,韓国 産わかめの輸入量が増加しており,特に安価な中国産わか めの輸入量が急増している.そうした状況を背景に,わか めの産地偽装が問題となっている.2008 年から 2014 年に かけて中国産わかめを国産わかめとして販売する問題が発 生し,従来の書類を中心としたトレースと合わせて科学的 な手法による産地判別技術の開発が求められている. わかめの産地判別分析法については,軽元素の安定同位 体比を用いた方法,微量元素組成を用いた方法などが報告 1〒340-0002 埼玉県草加市青柳 1-3-3,2〒305-8642 茨城県つくば市観音台 2-1-12 *連絡先(Corresponding author),[email protected]
されている5)∼9).軽元素の安定同位体比を用いた手法は加 工に強いことが特徴である.炭素・窒素といった元素は, 水溶性の高いミネラルとは異なり,骨格を形成する元素で あるため,加工過程による影響は少ないと予測される.鈴 木ら10)によると,骨格を形成する軽元素の安定同位体比に 注目することで,活鰻,白焼,蒲焼など加工度の異なるウ ナギを国産と輸入品に判別できる傾向が報告されている. わかめにおいても,湯通し塩蔵わかめ5),乾わかめ6)など加 工度の異なるわかめについて,鳴門産の窒素同位体比が高 いという特徴が報告されており,産地判別手法としての有 効性が示唆されている.しかし,現状ではわかめの主要産 地の中で鳴門産のみ判別が可能であり,他の産地は判別で きていない. 微量元素組成を用いたわかめの産地判別技術も報告され ている.わかめに含まれる微量元素組成の地域差により, 湯通し塩蔵わかめの産地を三陸,鳴門,中国,韓国に判別 できる可能性が示唆されている7)∼9).しかし,微量元素組成 を用いた手法は,加工により影響を受けやすいという特徴 がある.一般的に,ミネラルは水溶性が高いため,加工工 程で流出・流入する可能性が高い.例えばタケノコの水煮 についての検証では,水煮,リパックなどの加工が行われ ることにより無機元素成分が流出し,産地による差が出な かったという報告がある11).わかめにおいても湯通し塩蔵 わかめの無機陰イオン組成をもとに構築した判別関数を直 接乾わかめに適応した場合,誤判別率が高くなることが報 告されている12).また関本ら13)によると浸漬処理により湯 通し塩蔵わかめの I,Na,K,Mg,Ca,P の元素濃度が減 少することが報告されている. 前記の様に湯通し塩蔵わかめと乾わかめは複数の加工を 経て製造される.そのため,加工により微量元素組成が変 動している可能性がある.例えばわかめの湯通し塩蔵加工 では,塩蔵に使用する塩の種類により微量元素組成が変動 し,同じ産地のわかめを原料としていても異なる産地と判 別される懸念がある.また,乾わかめの製造工程では,洗 浄による元素の流出・流入が予想される.そのため,微量 元素組成を用いてわかめ加工品の産地判別を行うために は,各種加工における元素組成の変動を確認する必要があ る.また,各種加工による変動が小さい元素を発見するこ とができれば,加工度の異なるわかめに対しても有効な判 別式を構築できる可能性があると考えた. そこで本研究では,加工度の異なるわかめ加工品に共通 して使用可能な産地判別技術を開発することを目的に,加 工工程による微量元素組成の変動を検証した.原藻わかめ の湯通し塩蔵処理,湯通し塩蔵わかめを他産地の塩で付け 替える再塩蔵処理,湯通し塩蔵わかめを超純水で浸漬・洗 浄する水洗浄処理をおこない,加工による 12 元素組成 (Mg, P, Ca, V, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Sr, Cd, Ba)の変動確認を おこなった.更に,異なる加工度のわかめに対して有効な 判別式の構築のため,固形分を補正して加工塩の影響を除 いた状態での判別式を検証した. 実 験 方 法 1. 試 料 (1)わかめ試料 加工による微量元素組成の変動確認用の原藻わかめ 8 検 体と,湯通し塩蔵わかめ 52 検体を養殖場に隣接する中国 の加工場から収集した.取集した湯通し塩蔵わかめから湯 通し塩蔵処理(無処理)用に 8 検体,再塩蔵処理用に 40 検 体,水洗浄用に 4 検体サンプリングした.原藻わかめは養 殖場で収穫されたわかめが加工場に届いた時点でサンプリ ングし,湯通し塩蔵わかめは,原藻わかめの湯通し,冷却, 脱水,塩蔵の工程が終了した時点で塩漬タンクからサンプ リングした.1 検体の大きさは,原藻わかめ,塩蔵わかめ ともに約 100 cm だった. 産地判別分析検証用のわかめは主要産地から収穫時期で ある 2 月から 4 月にかけて 4 産地それぞれの加工場から収 集した.原藻わかめは,三陸産 34 検体,鳴門産 66 検体, 中国産 36 検体,韓国産 39 検体,湯通し塩蔵わかめは,三 陸産 40 検体,鳴門産 80 検体,中国産 52 検体,韓国産 36 検体を加工場から収集した.収集した湯通し塩蔵わかめか ら湯通し塩蔵処理(無処理)用に三陸産 30 検体,鳴門産 60 検体,中国産 39 検体,韓国産 27 検体,水洗浄処理用に三 陸産 10 検体,鳴門産 20 検体,中国産 13 検体,韓国産 9 検 体をサンプリングした. (2)加工塩試料 湯通し塩蔵処理に使用した塩 A を中国の加工場から収 集した.再塩蔵処理に使用した塩 5 種は,塩 B を三陸,塩 C, D を鳴門,塩 E,F を韓国の加工場から,実際の塩蔵工 程に使用されるものを収集した. 2. 再塩蔵処理 塩蔵に使用する塩の影響を評価するため,湯通し塩蔵わ かめに対して再塩蔵処理をおこなった.再塩蔵処理は長谷 川ら14)の方法を参考にして以下の手順でおこなった.再塩 蔵用塩を用いて洗浄用 3.5 w/w% 塩水を作製した.湯通し 塩蔵わかめ約 40 g をポリエチレン製のカップに秤量後,5 倍量の 3.5 w/w% 塩水を加えて樹脂製の薬さじで 1 分間ゆ るやかに撹拌し,加工塩を洗浄した.この洗浄操作を計 2 回繰り返し,洗浄後プラスチック笊上で 15 秒水切りした. その後,塩蔵わかめの重量に対して 40 % の再塩蔵用塩を 添加して均一にまぶし,チャック付ポリ袋で 24 時間冷蔵 保存した. 3. 水洗浄処理 水洗浄による微量元素組成の変動を検証するため,通常 の製造工程とは異なり,超純水や樹脂製の容器を使用して 水洗浄処理をおこなった.水洗浄処理の方法は諸橋ら15)の 方法を参考にして以下の手順で行った.湯通し塩蔵わかめ
をポリエチレン製のカップに採った後,10 倍量の超純水を 加えて浸漬し,5 分間静置した.わかめを取り出した後, 樹脂製のまな板上に広げ,ポリエステル製の洗浄瓶に入っ た超純水を約 100 mL かけ流し,洗浄した. 4. 無機成分の定量 (1)試 薬 試料の分解には有害金属測定用硝酸(シグマアルドリッ チ製)を使用した.ICP/MS による定量に用いた検量線用 標準液は混合標準液 XSTC-331(SPEX 製)と単元素標準 溶液 Mg,Ca,Sr,P(関東化学製)を 5 % 硝酸で希釈し使 用した.内標準元素として,500 ppb に調整した In(関東 化学製)をオンラインで添加した. (2)試料の調製 主食部であるワカメの葉体部分を分析対象とした.わか め試料はセラミックス製の包丁を用いて中助部を除いた 後,細かく刻み,原藻わかめ約 100 g,湯通し塩蔵わかめ約 50 g を定温乾燥機(ヤマト科学,DK400)にて 105℃で 10 時間乾燥させた.湯通し塩蔵わかめについては,荒目(5 メッシュ程度)のプラスチック製のふるいを用いて,塩分 を除去した.セラミックス製のミルを用いて微粉状になる まで粉砕したものを乾燥粉砕試料とした.再塩蔵使用塩は 1.5 g に 5 % 硝酸を加えて 50 mL に希釈し分析用試料溶液 とした. (3)試料溶液の調製 乾燥粉砕試料を 0.5 g 直接テフロン製の分解容器に採り, 硝酸 8 mL を添加した.容器をマイクロウェブ分解装置 (マイルストーンゼネラル,ETHOS TC)に取り付け,50℃ まで昇温(2 分),30℃まで冷却(3 分),210℃まで昇温(15 分),190℃まで冷却(1 分),210℃まで昇温(4 分),210℃ を保持(40 分)の加熱分解プログラムで分解をおこなった ものを分析用試料溶液とした. (4)ICP/MS による測定
分析用試料溶液の 12 元素(Mg, P, Ca, V, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Sr, Cd, Ba)の測定には誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS, Agilent7700)を用いた.測定は In を内標準とし た内標準法でおこなった.12 元素については,添加回収試 験により分析の妥当性を評価した.検出限界については, ブランク試験測定値の標準偏差の 3 倍とした.定量におい ては,環境組成標準物質としてひじき粉末(独立行政法人 産業技術総合研究所,7405-a)を使用し真度確認をおこなっ た.8 週間にわたる 12 測定において,測定値の平均値およ び標準偏差から,測定値と認証値の差と拡張不確かさを算 出した結果,測定結果と認証値の差は 95 % 信頼区間で有 意差がないことを確認した. 5. 塩分の測定(フォルファルト法) わかめ粉末 0.5 g を 200 mL 三角フラスコに採取し,0.1 mol/L-硝酸銀水溶液を 30 mL, 13 mol/L-濃硝酸を 20 mL 加え,沸騰水中で 30 分間加温した.放冷した後,鉄ミョウ バン指示薬を 5 mL 加え,0.1 mol/L-チオシアン酸カリウ ムで滴定し,Cl を定量.その後,計算で NaCl 量に換算し た. 6. 統計処理 線形判別分析は株式会社エスミの EXCEL 多変量解析 Ver. 6.0 を用いて解析をおこなった.Leave-one-out cross validation 法を用いて,判別モデルの検証を行った.
実験結果および考察 1. 加工による微量元素組成の変動確認
(1)湯通し塩蔵処理
製造ライン上から収集した原藻わかめ,湯通し塩蔵わか めの 12 元素(Mg, P, Ca, V, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Sr, Cd, Ba) 組成と,原藻わかめを 100 とした元素の残存率(%)を表 1 に示した.湯通し塩蔵処理をしたわかめでは元素濃度が低 下する傾向がみられた.特に Rb の減少が著しく,残存率 は 20 % 以下だった.一方 Fe の濃度は著しく増加した. Fe が増加した理由は加工に使用する機材によるものと考 えられる.加工による Fe の増加はひじきにおいても同様 の報告がある16). Average σ Average Ca(mg/kg) Mg(mg/kg) 表 1 中国で収穫された原藻わかめと,中国の同一加工場で加工された湯通し塩蔵わかめの 12 元素組成の平均値と 標準偏差および湯通し塩蔵処理による元素残存率(%) (63) (37) 残存率(%) 5 610 1 190 4 330 塩蔵(n=8) 8 910 2 940 11 600 原藻(n=8) σ Average σ Average Rb(mg/kg) Zn(mg/kg) 原藻(n=8) σ Average σ Average σ Average σ Average 22.4 788 2 290 79 783 4.4 17.1 5 52 7 33 Mn(mg/kg) 438 0.2 3.3 2 24 5 23 塩蔵(n=8) 3.4 9.6 128 191 10.7 61 σ Average σ (47) (70) 残存率(%) 2.3 14.6 397 1 170 60 (89) 231 (65) (51) (56) (19) Cd(µg/kg) P(mg/kg) Average σ Average σ Average σ Fe(mg/kg) V(µg/kg) 422 840 3 100 670 144 2.7 438 450 7 330 2 230 (167) (96) (42) 241 5.2 Ba(mg/kg) Sr(mg/kg) As(mg/kg)
湯通し塩蔵処理に用いた塩の影響を評価するために,湯 通し塩蔵加工に使用した塩の微量元素組成を分析した(表 2 の塩 A).塩からは測定対象とした 12 元素のうち,As, Cdを除く 10 元素が検出されたが,原藻わかめや湯通し塩 蔵わかめに比べると濃度が低いことが分かった.そのた め,湯通し塩蔵処理による元素濃度の低下は,(ⅰ)湯通し 塩蔵作業による元素の流出(ⅱ)元素濃度の低い加工塩の 添加による測定試料の単位重量あたりのワカメ量の低下の 2 つが主な要因と考えられた. (2)再塩蔵処理 5 種の塩を使用し再塩蔵処理をおこなったわかめの 12 元素組成と,湯通し塩蔵わかめを 100 とした時の元素の残 存率について表 3 に示す.再塩蔵処理をおこなったわかめ では,湯通し塩蔵わかめと比較してすべての元素濃度が減 少した.古市ら17)は塩漬け梅干しの加工において,使用し た塩のミネラル組成が梅干しに反映されたことを報告して いる.本研究においても,再塩蔵処理をおこなったわかめ において,一部の元素では,加工に使用する塩の元素組成 が反映されることが明らかとなった.再塩蔵処理に用いた 塩の 12 元素組成を表 2 に示した(表 2 の塩 B-F).例えば Mg,Mn,Rb では表 2 に示した再塩蔵に使用した加工塩の 濃度差が再塩蔵わかめに反映されていた.ただし,加工塩 に含まれるほとんどの元素は,わかめに含まれる元素より はるかに濃度が低いため,使用する加工塩の種類による元 素組成の変動は小さかった.以上より,加工塩の種類によ る影響は小さいことがわかった. (3)水洗浄処理 湯通し塩蔵わかめを水洗浄処理したわかめの 12 元素組 成と湯通し塩蔵わかめを 100 とした時の元素の残存率につ いて表 4 に示す.水洗浄処理したわかめでは,Zn,Cd,Ba, As,Sr,P,Ca で濃度が上昇し,特に Zn,Cd,Ba,As, Sr では残存率が 180 %-221 % であり,濃度の上昇が著し かった.元素濃度が上昇した理由は,わかめに対して元素 濃度の低い加工塩が洗浄により除去されたためと考えられ る.その他の元素は減少する傾向が見られ,特に Rb では 残存率が 27 % であり,濃度の減少が著しかった. (4)固形分補正をおこなった場合の微量元素組成の変動 ここまでの検証では(ⅰ)加工による微量元素の流出・ 流入(ⅱ)加工塩由来の元素の増加(ⅲ)塩の添加による ワカメの相対重量の低下の 3 つを総合した元素組成の変動 を確認してきた.その結果,湯通し塩蔵処理,再塩蔵処理, 水洗浄処理のいずれの加工でも 12 元素組成が変動してい た.(ⅱ)と(ⅲ)については塩による影響であるため,各 種加工わかめの塩分濃度を測定し,加工塩由来の元素量を 差し引くことで,わかめ固形分中の元素濃度変動を確認す ることができると考えた.そこで,本研究では以下の手順 でわかめ固形分補正をおこなった.まずは,各種わかめ試 料の乾燥重量を 100 % とし,測定塩分を差し引くことで (100 %-食塩含有量 %),わかめ固形分(質量 %)を算出し た.続いて原藻わかめの固形分を各種加工わかめの固形分 で除して補正係数を求めた.最後に各種加工わかめから加 工塩由来の元素を除去後,補正係数を乗じた. 各種加工わかめの塩分を確認するため,フォルファルト 法により塩分を測定した結果を表 5 に示した.原藻わか め,湯通し塩蔵わかめ,再塩蔵わかめ,水洗浄わかめでは それぞれ塩分値が異なっていた. 固形分補正した場合の元素の残存率を図 1 に示した.固 形分を補正した場合の,原藻わかめからの元素濃度変動率 は湯通し塩蔵処理では Ca<Sr<Ba<Cd<Mn<As, Zn<P <Mg<V<Rb<Fe 再塩蔵処理では Fe<Ba<Mn<As< Average σ Average Ca(mg/kg) 343 Mg(mg/kg) 塩 E(n=3) 表 2 湯通し塩蔵処理および再塩蔵処理使用塩の 12 元素組成の平均値と標準偏差 704 0.2 181 塩 F(n=3) 617 0.1 187 塩 B(n=3) 1 360 0.2 2 040 塩 A(n=3) σ Average σ Average 28 899 0.3 2.5 Rb(mg/kg) 22 Zn(mg/kg) 塩 A(n=3) σ Average σ Average σ Average σ Average 0.1 2.7 22 1 180 塩 D(n=3) 1.0 5.3 0.02 0.08 2.6 26 0.3 N.D 1.2 50.6 0.01 0.17 N.D 0.03 0.3 Mn(mg/kg) 塩 C(n=3) 0.5 2.5 0.01 0.05 0.8 27 10 746 34.4 0.00 0.03 N.D 0.03 0.1 塩 B(n=3) 0.02 0.41 0.8 0.4 4.28 0.1 9 σ Average σ 609 N.D 0.00 0.2 塩 F(n=3) 0.05 0.2 N.D 1.0 551 0.3 0.7 0.75 0.2 2.8 1.0 0.04 0.3 N.D 0.4 33.3 0.00 0.03 0.2 塩 E(n=3) 0.8 3.4 0.01 0.05 0.4 26 30 Cd(µg/kg) 0.10 0.2 N.D 2.6 69.2 0.01 0.04 N.D 0.13 0.1 10.6 0.01 0.52 N.D 0.04 0.1 塩 D(n=3) 0.04 P(mg/kg) 0.2 塩 C(n=3) 0.04 0.2 N.D 0.60 Average σ Average σ Average σ N.D Fe(mg/kg) V(µg/kg) 25 31 2.4 7 0.01 7.4 0.04 39 53 2.7 33 N.D 4.4 0.02 25 20 2.5 4 0.1 5.8 4.1 0.02 Ba(mg/kg) Sr(mg/kg) 0.06 As(mg/kg) 0.2
Cd<P<Zn<Sr<V<Ca<Mg<Rb 水洗浄処理で Cd<Sr <Ca, Ba, As<Fe, Zn<Mn<P<V<Mg<Rb の順に大き かった.この結果より,微量元素組成は固形分補正をおこ なった場合でも加工により大きく影響を受けていることが 明らかとなった.ただし,変動の大きさは一律ではなく, Ba ではいずれの処理においても変動率が 20 % 以下であっ たことから,Ba は加工により影響を受けにくい元素であ ることが分かった.関本ら18)はわかめを水戻しした際に, カルシウムなどの 2 価の陽イオンに対してナトリウムのよ うな 1 価の陽イオンの流出が大きく,その原因を海藻中の ミネラル類の電荷状態であると推測している.本研究でも 一価の陽イオンである Rb がいずれの処理でも最も減少し ており,同様の結果だった.Haug19)20)らは 2 価の陽イオン とアルギン酸の親和性は元素の種類により異なると報告し て い る.本 研 究 で 測 定 し た 元 素 の み 抜 粋 す る と,L. digitata 由来のマンヌロン酸リッチなものでは Cd>Ba> Average σ Average Ca(mg/kg) 946 Mg(mg/kg) (a) 塩 E 再塩蔵(n=8) 表 3 中国の同一加工場で加工された湯通し塩蔵わかめの再塩蔵処理前後における 12 元素組成の平均値と標準偏差 (a)および元素残存率(%)(b) 2 390 890 977 塩 F 再塩蔵(n=8) 2 670 990 987 塩 B 再塩蔵(n=8) 5 610 1 190 4 330 塩蔵(n=8)* σ Average σ Average 500 2 510 860 1 960 Rb(mg/kg) 280 Zn(mg/kg) (a) 塩蔵(n=8)* σ Average σ Average σ Average σ Average 920 2 130 300 1 450 塩 D 再塩蔵(n=8) 23 53 2.0 3.0 38 113 14.6 397 1 170 60 438 0.2 3.3 2 24 5 23 Mn(mg/kg) *塩 A を使用した湯通し塩蔵わかめ(コントロール) 塩 C 再塩蔵(n=8) 31 62 2.8 3.8 73 141 610 2 560 263 0.0 0.2 2 16 3 19 塩 B 再塩蔵(n=8) 2.3 4.2 18 231 9.6 128 210 σ Average σ 1 130 16 5 19 塩 F 再塩蔵(n=8) 3.0 11.9 221 673 37 2 240 770 60 4.6 39 2 090 30 1.6 9.6 215 728 40 226 0.0 0.2 3 19 塩 E 再塩蔵(n=8) 17 55 2.2 3.6 32 118 330 Cd(µg/kg) 2.6 11.1 138 659 43 263 0.0 0.2 2 15 2 66 238 0.1 0.4 5 16 6 18 塩 D 再塩蔵(n=8) 3 P(mg/kg) 19 塩 C 再塩蔵(n=8) 4.0 11.4 286 729 0.5 Average σ Average σ Average σ 5 19 Fe(mg/kg) V(µg/kg) 119 550 2 270 340 0.0 241 5.2 422 840 3 100 670 760 76 2.4 129 530 2 220 300 27 209 55 2.3 Ba(mg/kg) Sr(mg/kg) 2.1 As(mg/kg) 10.3 167 V Ca P Mg (b) 塩蔵(%) Ba Cd Sr Rb As Zn Fe Mn (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (85) (23) (44) (28) (48) (73) (23) 塩 B 再塩蔵(%) (100) (43) (72) (23) 塩 F 再塩蔵(%) (82) (58) (60) (7) (67) (65) (62) (52) (7) (65) (84) (32) (48) (31) (22) 塩 E 再塩蔵(%) (63) (45) (27) (31) (22) (85) (64) (7) (60) (57) (76) (65) (78) (26) (40) (33) (46) (69) (34) 塩 D 再塩蔵(%) (67) (26) 塩 C 再塩蔵(%) (78) (63) (54) (13) (37) (28) (40) (23) (84) (77) (15) (48) (65) (71) Average σ Average Ca(mg/kg) Mg(mg/kg) 表 4 中国の同一加工場で加工された湯通し塩蔵わかめの水洗浄前後における 12 元素組成の平均値と標準偏差 および元素残存率(%) (144) (78) 残存率(%) 8 100 1 120 3 360 水洗浄(n=4) 5 610 1 190 4 330 塩蔵(n=8) σ Average σ Average Rb(mg/kg) Zn(mg/kg) 塩蔵(n=8) σ Average σ Average σ Average σ Average 14.6 397 1 170 60 438 0.2 3.3 2 24 5 23 Mn(mg/kg) 787 0.1 0.9 8 46 17 50 水洗浄(n=4) 2.3 7.5 40 231 9.6 128 σ Average σ (192) (221) 残存率(%) 3.5 30.3 910 2 520 120 (79) 107 (207) (216) (180) (27) Cd(µg/kg) P(mg/kg) Average σ Average σ Average σ Fe(mg/kg) V(µg/kg) 207 1 610 4 710 590 241 5.2 422 840 3 100 670 (43) (49) (152) 103 4.3 Ba(mg/kg) Sr(mg/kg) As(mg/kg)
Sr>Ca>Zn, Mn>Mg であり,L. hyperborea stipes 由来の グルクロン酸リッチなものでは Ba>Sr>Cd>Ca>Zn, Mn >Mg であった.本研究の水洗浄処理後の 2 価陽イオンの 変動率は Cd<Sr<Ca, Ba<Zn<Mn<Mg であり,類似し た傾向だった.そのため,水洗浄による 2 価陽イオンの流 出しやすさの原因の一つとして,アルギン酸との親和性が 示唆された.また,一度湯通し塩蔵処理を受けたわかめは 超純水で洗浄しても,原藻わかめの微量元素組成から大き く変動していた.そのため,わかめの加工による微量元素 組成の変動は,単純に加工塩の増加のみが原因ではなく, 湯通し,塩蔵,水洗浄などの加工による元素の流出・流入 の影響を受けていることが明らかとなった. 2. 産地判別分析の検証 (1)4 産地わかめの加工による Ba 濃度の変動 諸橋ら15)の報告では,湯通し塩蔵わかめにおいて,Mn, Ba 濃度をもとにした判別関数により,日本産と中国産の 判別が報告されている.しかし,本研究結果から,Mn に ついては,加工工程による変動が見られたことから,加工 度の異なるわかめに有効な判別式構築のため,これまでの 検証で加工による変動が小さいことが明らかになった Ba に注目して産地判別分析の検証をおこなった.4 産地(三 陸産,鳴門産,中国産,韓国産)の原藻わかめ,湯通し塩 蔵わかめ,水洗浄わかめの Ba 濃度を測定した結果を表 6 に示した.中国産わかめにおいては,いずれの加工度でも 他の産地よりも Ba 濃度が高い傾向がみられた.門脇ら8) は中国産の湯通し塩蔵わかめが国産よりも有意に Ba 濃度 が高いことを報告しており,今回の結果と一致していた. 測定塩分値をもとにして固形分補正をおこなった場合の Ba 濃度を表 6 に示した.固形分補正を行うことで,加工 度による値の差は小さくなり,産地間差は維持される傾向 だった.固形分補正した場合の Ba の残存率を個体ごとに 計算し,平均すると,塩蔵処理では,三陸産は 100 %,鳴門 産は 90 %,中国産は 114 %,韓国産は 93 %,水洗浄処理で は,三陸産は 89 %,鳴門産は 95 %,中国産は 113 %,韓国 産は 97 % であり,いずれにおいても 4 産地全てで 20 % 以 下だった.さらに,中国産の Ba 濃度は 25.6±5.7(平均値 ±標準偏差)ppm であり,その他の地域(三陸産:8.6±1.9 ppm,鳴門産:10.9±2.3 ppm,韓国産:14.2±4.6 ppm)よ りも有意に高い傾向が得られた.よって,加工度の異なる ワカメ加工品においても,固形分補正をすることで,産地 間差を比較可能であることが示唆された. (2)Ba を用いた原藻わかめ・湯通し塩蔵わかめ・水洗 浄わかめの産地判別 上記の結果をもとに,固形分を補正した 4 産地の湯通し 塩蔵わかめの Ba 濃度を用いて線形判別分析をおこない, 中国産とその他産(三陸,鳴門,韓国)についての判別式 σ Average 塩分(%) 表 5 中国で収穫された原藻わかめと,中国の同一加工場で 加工された湯通し塩蔵わかめの各種処理後の塩分の平 均値(%)と標準偏差 塩 C 再塩蔵(n=3) 2.1 66.4 塩 B 再塩蔵(n=3) 0.8 51.6 塩蔵(n=4) 5.0 16.4 原藻(n=4) 塩 F 再塩蔵(n=3) 3.7 63.2 塩 E 再塩蔵(n=3) 5.4 62.0 塩 D 再塩蔵(n=3) 4.0 64.0 1.2 6.4 水洗浄(n=4) 2.9 63.4 (原藻 n=8,湯通し塩蔵 n=8,水洗浄 n=4,再塩蔵 n=40) 図 1 中国で収穫された原藻わかめと,中国の同一加工場で加工された湯通し塩蔵わかめの 各種処理工程における固形分補正後の 12 元素残存率の平均値±標準偏差
を作成した(式 1).この式はわかめ試料の固形分を補正し た Ba 濃度を代入し,得られた得点が正の値ならその他産 に,負の値なら中国産と判別する. Y=−0.787[Ba]+14.784 (式 1) 得られた判別式に,固形分を補正した 4 産地の原藻わか め,湯通し塩蔵わかめ,水洗浄わかめの Ba 濃度を代入し て得られた判別得点のヒストグラムを図 2 に示した.判別 モデルを検証した結果,中国産で 90.0 %(88 検体中),その 他産で 95.9 %(295 検体中)だった.諸橋ら15)によると,湯 通し塩蔵わかめの Mn,Ba 濃度をもとにした判別関数によ る判別関数構築用試料の正答率は日本産で 99 %,中国産で 96 % だった.本研究の結果では,正答率が若干低かった が,湯通し塩蔵わかめのデータを用いて原藻わかめと水洗 浄わかめも同様に判別できる傾向がみられており,加工度 に関わらず使用可能な判別式の可能性が見出された.以上 より,本研究では加工による変動の小さい Ba のみを用い て判別分析をおこなうことで,加工度の異なるわかめを中 国産とその他産に判別できる傾向がみられた. 本研究では,再塩蔵における微量元素組成の変動確認は, 中国産のわかめのみで検証している.また,水洗浄処理は 超純水や樹脂製の容器を使用した検証である.実際の製造 ラインでは,湯通し塩蔵わかめの洗浄に海水や塩水を使用 している.また,加工工程において様々な金属製の機材と の接触があるため,実際の乾わかめ製造工程における微量 元素組成の変動を検証する必要がある.これらの課題はあ るが,加工工程を検証することで,加工の影響を受けにく い微量元素が見つかる可能性が示唆されたことから,加工 品の産地判別への応用が期待される.さらに,加工による 変動の小さい軽元素の安定同位体比等と組み合わせて判別 式を作成することで,判別の正確さを向上させる可能性も 期待される. 要 約 加工によるわかめの微量元素組成の変動を確認するた め,湯通し塩蔵処理,再塩蔵処理,水洗浄処理をおこなっ たわかめの 12 元素(Mg, P, Ca, V, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Sr, Cd, Ba)の含量を測定した.湯通し塩蔵処理では Fe 濃度が上 昇し,その他の元素は減少した.再塩蔵処理では加工に使 用した塩の元素組成がわかめに反映されることが確認でき 図 2 固形分補正後の Ba 濃度を用いた線形判別による原藻わかめ,湯通し塩蔵わかめ,水洗浄わかめの判別得点ヒストグラム 原藻 補正前 表 6 固形分補正前と補正後の 4 産地(三陸,鳴門,中国,韓国)の原藻わかめ,湯通し塩蔵わかめ,水洗浄わかめ の Ba 濃度平均値と標準偏差 補正後 補正後 補正後 σ Average σ Average 塩蔵 Ba(mg/kg) 三陸(n=34) σ Average σ σ Average σ 3.9 23.7 中国(n=36) 16.6 12.6 9.1 Average 補正前 水洗浄 7.3 5.5 4.7 Average 補正前 7.9 1.4 三陸(n=10) 2.0 8.7 1.1 三陸(n=30) 1.9 8.8 1.9 8.8 5.1 31.1 中国(n=13) 6.8 26.9 3.6 14.4 中国(n=39) 4.0 23.7 10.3 1.2 鳴門(n=60) 2.1 11.4 2.1 11.4 鳴門(n=66) 1.2 4.4 26.8 14.7 4.5 14.7 韓国(n=39) 2.4 10.9 2.8 鳴門(n=20) 2.3 3.9 14.3 4.5 韓国(n=9) 4.8 13.6 2.6 韓国(n=27) 4.5
たが,その影響は小さかった.水洗浄処理では,わかめに 対して元素濃度が低い加工塩が洗い流された影響で Zn, Cd,Ba,As,Sr の濃度が著しく上昇した.水洗浄わかめ の微量元素組成は,原藻わかめから大きく変動しており, 微量元素組成の変動の原因が加工塩の混合のみではないこ とが示された. 加工塩の影響を除くため,固形分の補正をおこなった場 合でもわかめは加工により微量元素組成が変動していた. ただし,変動の大きさは元素により異なり,Ba はいずれの 加工においても変動率が 20 % 以下であった.加工による 変動の小さい Ba を用いて原藻わかめ,湯通し塩蔵わかめ, 水洗浄わかめに共通で使用可能な判別関数を構築し,有効 性を確認したところ,正答率は中国産で 90.0 %(88 検体 中),その他産で 95.9 %(295 検体中)であり,加工度の異 なるわかめに対して有効な判別式の可能性が見出された. 本研究を行うにあたり,試料収集へのご協力・貴重なご 意見を頂いた理研食品株式会社・理研食品(大連)有限公 司に感謝する. 文 献 1) 梶本修身,仲野隆久,加原 卓,梶本佳孝,高橋丈生,わか めペプチド含有ゼリー状食品の軽症高血圧者に対する降圧 作用,健康・栄養食品研究,5,67-81 (2002).
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引用 URL
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