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KISHIDAIA, No.104, Mar タランチュラに 猛 毒 はない 池 田 博 明 2013 年 の 11 月 中 旬 のこと,テレビ 番 組 の 制 作 会 社 クリーク アンド リバー 社 のプロ デューサー, 宇 和 川 隆 氏 より 連 絡 があった. 危 険 な 毒

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KISHIDAIA

Bulletin of Tokyo Spider Study Group

No.104,Mar. 2014

─ 目 次 ─

池田博明:タランチュラに猛毒はない ... 1 貞元己良:じぇじぇ南三陸町のクモ採集 ……... 5 浅間 茂:自然観察会でのクモによる環境評価 ... 13 新海 明:オオジョロウグモの造網行動 ... 20 DRAGLINES 池田博明:ワイノジハエトリは岡山県でも採れていた ... 27 馬場友希・田中幸一:北海道で採集されたクモ ... 27 馬場友希・田中幸一:佐賀県で採集されたクモ ... 28 馬場友希・大澤剛士・安達瑞紀・宇佐美元気・茶園真理子: 福井県で採集されたクモ ... 28 馬場友希・田中幸一:鹿児島県で採集されたクモ ... 30 馬場友希・大澤剛士:神奈川県箱根町で採集されたクモIII ... 30 馬場友希・大澤剛士:広島県尾道市で採集されたクモ ... 31 馬場友希・大澤剛士:大分県玖珠郡で採集されたクモ ... 31 馬場友希・大澤剛士:高知県で採集されたクモ ... 31 馬場友希・大澤剛士:西表島・石垣島で採集されたクモ ... 32 須黒達巳:ワイノジハエトリの新たな採集記録 ... 32 馬場友希・大澤剛士・村上勇樹:小笠原諸島母島のクモ ... 35 新海 明:「ヨリメグモはConculus だった」って知ってましたか ... 36 笹岡文雄:福岡県福岡市におけるトタテグモ類 ... 37 笹岡文雄:伊豆諸島・新島における地中性クモ類 …... 38 谷川明男・大西裕史・児島直寿・関谷 駿: 口永良部島のクモ類採集記録 ……… 41 市川武明:小平市立中央公園のクモ ... 43 須黒達巳:沖永良部島で採集したクモ ... 47 谷川明男・八幡明彦・新海 明:東京蜘蛛談話会2013 年度合宿報告 宮城県南三陸町歌津周辺のクモ ... 50

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1 KISHIDAIA, No.104, Mar. 2014

タランチュラに猛毒はない

池 田 博 明

2013 年の 11 月中旬のこと,テレビ番組の制作会社クリーク・アンド・リバー社のプロ デューサー,宇和川隆氏より連絡があった.危険な毒蜘蛛の代名詞でもあるタランチュラが 実はそれほど強い毒性を持たない蜘蛛であるということが分かったので,関西テレビの「有 吉弘行のダレトク!?」という番組で取り上げたい,ついてはその裏付調査をしているとのこ とであった.その後,会社の制作補の高橋立志氏からも連絡があり,バラエティ番組で使う タランチュラの毒の解説や資料に関する質問を受けた. ここで言う「タランチュラ」とは,ペットショップなどでも売られている穴居性のオオツ チグモ科のクモのことであり,タランチュラ・コモリグモや,舞曲タランテラのもととなっ たヨーロッパのジュウサンボシゴケグモのことではない. 私はいわゆるタランチュラが危険な毒蜘蛛ではないことは,既に常識だと思っていたが, 質問を聞いてみると決してそうではないことが分かった.従来,クモの毒の強さは実際より も過大評価された傾向があるため,クモの毒を解説したときにも医学的な危険性に関しては, ほとんど記述しなかったのだが(池田2009),それでは一般のひとの関心には答えていな いのだった.ちょうどクモのヒトへの危険度に関する新しいレビューが出たこともあり

(Nentwig and Nentwig 2013),この機会に調べたことも含めて,タランチュラの毒性

について紹介しておきたい. 質問1:タランチュラ=オオツチグモに咬まれたら死ぬこともあるというのは間違いです か? 答え:はい.間違いです.ネントウィッヒらは2013 年の総説「ヒトを死に至らしめる可 能性のあるクモ毒」で,死亡例のあったクモ毒や危険だと誤解されているクモ毒を解説して います.そのなかで,「大形のオオツチグモは<タランチュラ>と呼ばれ,ハリウッド・イ メージでは,たいへん危険な生き物ですが,実際にはまったく異なります.例えばオースト ラリア産のオオツチグモに咬まれても局所的な痛みと発赤,傷の程度に応じた出血程度で, 重症にはなりません.ブラジルでの91 のクモ刺咬例でもオオツチグモの刺咬例は稀で(1% 以下),傷の痛みや発赤で治まります」とタランチュラの刺咬で重篤な症状に陥った例がほ とんどないことを紹介しています. 質問2:オオツチグモ科のクモは世界で何種類いますか. 答え:2013 年初めのハーツィッヒの総説には 939 種とありますが,年末のプラトニック の世界のクモ・カタログには950 種記載されています.南米大陸やアフリカ,東南アジア, 中国,オーストラリアと,旧ゴンドワナ大陸に当たる地域に分布しています. 質問 3:タランチュラのクモ毒を注射されたマウスが死ぬ実験を見たことがありますが, ヒトには害はないのでしょうか.

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2 答え:私も30 年ほど前にテレビでマウスが死ぬ実験映像を見たことがあります.報告例 によればオーストラリアでマウスに致死的な毒を持つ種類やイヌに致死的な毒を持つ種類 (Phlogiellus sp., Selenocosmia sp.)がいます.しかし,同じクモがヒトには致死性は無 く,全身症状もないことが報告されています(Ibister et al. 2003).大利・入交(1984) は「クモ刺咬症の症状 Severity of Arachnidism」を,Ⅰ無症状(symptomless),Ⅱ 軽 症(mild type),Ⅲ 中等症(moderate type),Ⅳ 重症(severe type)に分類していま

すが,この英語と同じ用語がオーストラリアで「痛みの症状 Severity of pain」分類に使わ れています.それによると,「激痛 Severe」が 4 例(刺咬部位は指 2 例,親指 1 例,つま 先1 例),「中程度の痛み Moderate」が 3 例(刺咬部位は指 2 例,足 1 例),「痛みな し Present」が 2 例でした.全身症状が見られたのは1例で,Phlogiellus に指を咬まれて 痕が残り24 時間発汗が見られた例で 6 時間の倦怠感がありました.他には全身症状の出た 例はありません.イヌが咬まれた7 例では,生後 6 ケ月の子犬も 4 年目の親犬も 30 分から 18 時間の間にすべて死亡しました(イヌの致死率は 100%です). 質問4:インドのある種類のタランチュラは危険だという話を聞きましたが,本当のとこ ろはどうなのでしょうか. 答え:大きく美しいのでペット愛好者の間でも人気のインディアン・オーナメンタル・ツ リー・スパイダーというインドの樹上性タランチュラでは,ペット飼育者が咬まれて重症化 した例が複数報告されています.この仲間はインドとスリランカに生息するポエキロテリア 属(Poecilotheria sp.)のタランチュラで,16 種が記載されています.P. regalis は体長 6 ~8cm,レッグ・スパンは 16cm と大形でメス成体の牙の長さは 10mm もあります.メス 親は飼育器内で8~12 年も生きるとか.レガリスは帝王を意味します. Fuchs et al. (2014)の症例報告では,午後 3 時ごろ救急車で運ばれてきたのは 45 歳の男 性,ペットとして飼育していたP.regalis メス(6 歳,体長 6cm)に捕食中に前夜午後 9 時 に右の人差し指を咬まれました.男性は4 属 9 頭のタランチュラを飼育しており,2 年前に ブラジリアン・ジャイアント・ホワイト・ニー・タランチュラAcanthoscurria geniculate に咬まれた経験がありました.このときはハチに刺されたときの焼けるような感覚だったそ うです. 病院に来たのは咬まれてから半日以上たっており,傷痕はやや発赤しているくらいで,ほ とんど見えませんでした.やや腫れていましたが局所痛はなかったそうです.咬まれた直後 の 2 時間以内には真っ赤になり,どっと汗をかいたそうです.これらの症状は短時間で収 まりました.咬まれた15 分後に手足から始まって腕と脚に拡がる重大な筋肉の痙攣が起こ りました.救急室で患者は全身の痙攣がぶり返して,胸の痛みも訴えました.クレアチン・ キナーゼは370U/L と増加しました(通常は 0~200U/L),ECG は正常でした.経口の ローラゼパムと静脈注射でミダゾラム2mgを処方されて,症状は治まり,胸の痛みも消え たそうです(結論ではベンゾジアゼピンを処方と記述).脚の痙攣も収まりました.5 時間 後,患者は帰宅できました.ただ,三週間ほど手の痙攣が完全になくなるまで,毎日二度マ グネシウムを飲まなければならなかったそうです. 男性を咬んだクモの方は怪我をした様子はなかったのですが,二か月後に突然死んだそう です. 文献によれば1989 年から 2013 年までの 24 年間に,ポエキロテリアに咬まれた記録は 26 例あり,飼育者がまさか自分のペットに咬まれるとは思わず,予想外の動きをしてしま ったとき,クモが意外に早く動いてあわてた飼育者が指を咬まれるという例が多いといいま

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3 す.ヒトの死亡例はありません.症例は筋肉の痙攣がなかった42%と,痙攣があった 58% に分けられます. 痙攣のない例での症状は,局所の腫脹(50%),発赤(50%),中程度の痛み(73%), さらに痒みや焼けるような感覚,悪心,発汗,膝・指・首・肩の硬直,胸のこわばり,呼吸 の重さなど.1~4 時間で症状は消えます. 痙攣のある例の症状は,局所の腫脹(60%),発赤(53%),激痛(87%),焼けるよ うな感覚,発熱,筋肉痛,呼吸の重さ,動悸,短時間の意識喪失.痙攣が始まるのは咬まれ て平均10 時間後.症状が治まるのは平均 7.6 日後(レンジは 1~14 日間).筋肉の痙攣 は全身が5 例,体の主要部分が 4 例,腕または脚が 4 例でした. 咬まれたものの,毒液が注入されなかった場合を「ドライ・バイトdry bite」と言います. クモ毒素データベースには916 種類の毒素が登録されており,そのうちの 201 種類はオオ ツチグモのもの(1618 報文中,275 報がオオツチグモ)ですが,ポエキロテリア属の毒素 化合物はありません.この仲間の毒液は他の大形種より量が多いので,それが重症化の原因 になっているのかもしれません.ポエキロテリア属のクモは普通はおとなしくて,すぐに隠 れます.恐怖を感じたクモは前脚を上げて威嚇姿勢を取りますが,咬むこともなく逃げ足の 速いクモです. 旧世界のタランチュラ刺咬症例を検討した専門家(Ahmed et al. 2009)は,タランチュ ラのうち二,三の属はヒトへの毒性が強い種がいる,樹上性の種類の方が毒性は強い傾向が あるが餌を早く麻痺させる目的のためだろう,アメリカのタランチュラはアジアやアフリカ の種類よりも毒性が弱いと結論しています. 質問5:毛を飛ばして失明したという話を聞きましたが,本当でしょうか. 答え:クモが腹部の毛を飛ばした例はありますが,失明はしていません.ペット飼育者が タランチュラに顔を接近させた後に眼に異常を感じた例で,眼科医が調べてみると,クモの 飛ばした体毛が角膜を傷つけていました.防衛のための威嚇行動としてタランチュラが毛を 飛ばす例があり,ときどき被害例が報告されています(例えばBlaikie et al. 1997).最 近の例はウェブ上やYou tube にも投稿されていました.チリアン・ローズ・タランチュラ やメキシカン・レッド・ニー・タランチュラでの被害例があります. 質問6:タランチュラに咬まれた傷の写真などありませんか. 答え:軽症が多いということで,わざわざ傷を写真に撮るケースも少ないと思いますが, ウェブで検索して調べてみますと,中指(たぶん)の腹を咬まれた症例の傷口の白黒写真が ありました(Ibister et al., 2003). 質問7:タランチュラの毒液の成分を教えて下さい.

答え:専門的になりすぎますので,最新の総説(Herzig and King, 2013)を参考にして

下さい.タランチュラの毒素成分は毒液を多量に得られることや,クモ自体の飼育が容易で 長命なことから,もっとも良く研究されており,その種類も作用も多様であることが知られ ています. 参考文献 池田博明2009.クモの毒を科学する.Biophilia,5:1–5. 大利昌久・入交敏勝1984.クモ刺咬症の診断と治療.In:現代皮膚科学大系・第8巻動物性皮膚 症・体内寄生性皮膚症,Pp.211–220. 中山書店.

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Ahmed, N., M. Pinkham and D. A. Warrell 2009. Symptom in search of a toxin: muscle spasms following bites by Old World tarantula spiders (Lampropelma nigerrimum,

Pterinochilus murinus, Poecilotheria regalis) with review. QJM, 102: 851–857.

Blaikie, A., J. Ellis, R. Sanders and C. J. MacEwen 1997. Eye disease associated with handling pet tarantulas: three case report. BMJ, 314: 1524–1525.

Fuchs, J., M. von Dechend, R. Mordasini, A. Ceschi and W. Nentwig 2014. A verified bite and a review of the literature confirm Indian ornamental tree spiders (Poecilotheria species) as underestimated theraphosids of medical importance. Toxicon, 77: 73–77.

Herzig, V., G. F. King 2013. The neurotoxic mode of the action of venoms from the spider Theraphosidae. In: Nentwig, W. (Ed.) Spider Ecophysiology. Pp.203–215. Springer, Berlin.

Isbister, G.K., J. E. Seymour, M. R. Gray and J. Raven 2003. Bites by spiders of the family Theraphosidae in humans and canines. Toxicon, 41: 519–524.

Nentwig, W., Kuhn-Nentwig, L. 2013. Spider venoms potentially lethal to humans. In: Nentwig, W. (Ed.) Spider Ecophysiology. Pp.253–264. Springer, Berlin.

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5 KISHIDAIA, No.104, Mar. 2014

じぇじぇ南三陸町のクモ採集

貞 元 己 良

はじめに 恒例2013 年,東京クモ談話会の合宿は 7 月 19 日金曜日から 7 月 21 日日曜日までの日 程で,宮城県本吉郡南三陸町歌津町で行われた.例の如く,これは合宿報告ではなく私の合 宿感想文である. 今回,合宿の場所は 2 年前に大地震に見舞われ大津波によって街ごと壊滅した地域の一 部で,傷跡も生々しく目に見える復興も殆ど進んでいない場所であった.原発のある福島県 の一定地域ほどマスコミ等に注目されない分,復興支援が遅れている感は歪めなかった. 当初5 月 19 日に埼玉県日高市高麗本郷町の日和田山で行われている今年度の東京クモ談 話会観察採集会に参加した時,合宿に参加したいと意思表示する工藤泰恵氏から「貞元さん は合宿に行きますか?」と問われ,被災地でのクモ採集合宿に正直全く気が乗らなかった私 は「7 月 21 日は参議院選挙の投票日です.投票所の警戒とか選挙違反の取り締まりなど, けっこう仕事が忙しいので今年の合宿はパスします.」と答えた.昨年暮れの東京クモ談話 会例会の時から一部会員の「来年の合宿は東北の被災地で行いたい.」との話を聞いており, 「なんで,そんな所で…!」という気持ちが強かった. 合宿の日が選挙投票日と重なり,同時にその日が自分の週休日と重なったことから勤務の 都合上,当然出勤日に振り返られると判断できたので,今回の合宿には都合良く参加できな い理由が出来ていた.毎年の事ながら,夏休みを取るとき職場の出勤人員の調整で幹部順と か先輩順とか若い人が先にとか色々意見が交錯する.今年は担当の上司が,休みを希望者か ら募り「話し合いで調整する」と建設的な方法で決める事になっていたハズなのに,私が希 望日を述べたところ「その日は希望者で埋まっております.」と言われ「話が違う.」と大 喧嘩になり,売り言葉に買い言葉から「そんなこと言うなら,選挙投票日前後に休みを入れ るぞ.」と口喧嘩した上司に暴言を吐いたところ「誰もその辺は休みを入れていないので, 一人ぐらい居なくても勤務に支障が出ませんので休んで下さい.」と言い返され,唖然とす る間もなく合宿参加が可能となってしまった.こんな理由で,今年の合宿に参加することと なってしまった. さっそく合宿幹事の新海 明氏に合宿参加の意思を手紙で送り,その後の返送便でレンタ カーも借りて来るように言われた.今回の合宿の担当者は例の如く谷川明男氏・八幡明彦 氏・新海 明氏の三老人であるが,特に八幡氏はこの被災地との繋がりが強く,理由は聞い ていないが,この町に骨を埋める覚悟で復興支援活動を行っている.と聞いた. 1 日目 7 月 19 日金曜日は,東北新幹線の仙台駅から二つ先の「くりこま高原駅」改札前に午後 3 時 05 分に集合であった.

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6 当日,私は朝から暇だったので平日でもあることから自宅近くの総武線快速で津田沼駅か ら一番電車に乗り,東京駅で早朝二番目発の東北新幹線に乗り込んで目的地を目指した.く りこま高原駅に着いたのは午前10 時 15 分ころで降りる客もまばらであった.さっそく駅 舎のロータリー先に建つトヨタ・レンタリースへ赴き,予約したレンタカーを借りた.事前 に今回の合宿参加人数が20 名程で 4 台の車に分乗する,と聞いていたので,レンタカーの 普通サイズの一番小さいタイプの車両では荷物を抱えた 5 人が乗るのは大変厳しいと勝手 に判断し,ランク上の車両を用意してもらっていた.結果的に私が借りた車に乗ったのは合 宿参加中で一番小柄な工藤泰恵氏・泉宏子氏・水山栄子氏のおばさん会員達で内装の広い車 を借りた意味が無かったが,おばさん達には快適に過ごせたであろう. 車を借りた私は,さっそくカーナビを「くりこま高原山頂」にセットし案内されるまま車 を進め,クモが採集できそうな地点を幾つか目で追い記憶に焼き付けながら山頂を目指した. 下界は快晴であったが高度が上がっていくほど霧か発生し,高原山頂の駐車場に車を停めた 頃は雲の中で視界 1 メートル程度であった.途中のコンビニで買った弁当を車内で食べ, 視界が開けるのを待った.30 分ほどで若干雲も切れてきたように見えたので高原を巡るル ートの一つを選択し脚力の許す限り歩き,他の登山者の目を盗みながらハンドソーティング でクモの採集を行った.高原のクモを採集するには時期が早すぎたと感じるとともに,場所 の選定も間違えたような後悔も感じながら約 2 時間の採集活動を終え,霧雨の降る「くり こま高原」を後にした.採集品はハラビロアシナガグモの♂,オオツリガネヒメグモの♀, キンヨウグモ幼体,カバキコマチグモ幼体,ムツボシオニグモ幼体,ナミハグモ sp 幼体, そしてボディ真っ黒パルプ真っ黒で顕微鏡のライトでも判別不可能なコモリグモsp の♂の 7 種であった. 午後 2 時半頃にくりこま高原駅に着いた私は,日差しが強かったので車を駅舎の日陰部 分に駐車し駅舎の中にある土産売店で会社と自宅用にお土産用の菓子を買い,まとめて発送 し集合時間までの時間を潰した.その後,時間に集合した私たちは改札前で乗る車の割り振 りを新海 明氏が行い,谷川氏が宿への道路地図をドライバー担当者に渡し,各々で借りた 車のナビに行き先を設定し,合宿中の宿となる「漁師民宿やすらぎ」へ向けそれぞれ勝手に 車を走らせ現地集合とした. くりこま高原は異常な快晴で日差しが痛いほどであったが,南三陸町へ向かうまでの約1 時間30 分の間に天気が急変し「雨」となり気温も相当に下がり風景も一変して全く別の世 界へワープしてきてしまった感じであった.被災した街の様子を見て初めて「何をしにきた のか」目的を失う感覚が心を支配して行くようであった.カーナビも最終目的地を失い,勝 手に案内表示を終了してしまったので途方に暮れるも,出発地「くりこま高原駅」で散会す る時に谷川氏から頂いた現道路の略図を参考に,原色の色を失った街の目標物のない路地を 感覚だけで走り,津波でアスファルトも剥がれた道を進んで欄干も無くなった形ばかりの橋 を渡って,そして海岸線の遙か小高い丘の上に建つ,唯一軒だけ被災を免れた「民宿」を発 見した.私の車が一番乗りであったが,他の車がこの場所を発見できるか心配になり暫く宿 の丘の上から下を見ていたが,急な坂道を順次車が上ってくるのが見えたので,ひとまず安 心した. 宿の玄関を入ると上がりの右隅に居た宿の主人様の人が,暗い声で「いらっしゃいませ.」 言うので,よく顔を見ぬまま「あー,お世話になります.」と声高に元気に答えたところ, 「お久しぶりです.」と更に声のトーンを下げて宿の主人が言うので,知り合いは居ないハ ズと思いつつよく見たところ,顎には長い白髪混じりのヒゲ,作務衣をまとい額にはモスグ

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7 リーンのヘッドバンド姿,ちょっと汚い風貌で背景の木製下駄箱に同化しそうな雰囲気の八 幡明彦氏であった.正に被災地を身体全体で表現している様であった. 気を取り直し宿に荷物を置き,夕食までの時間を利用して宿の周囲を散策兼採集に出てみ る.宿の庭で針葉樹の葉陰でフタオイソウロウグモがオナガグモの卵のうに取り付いている 姿が見えたので,近くで大きなカメラを抱えていた浅間茂氏に「おもしろいのが見られます よ.フタオがオナガの卵のうを食べているところです.」と言ったところ,浅間氏は「あっ, 本当だ.おもしろい写真が撮れる.」と言いながら夢中で写真を撮っていた.しかし,これ は後で全然おもしろい話では無くなった.夕食後の雑談の中で,誰かに「面白いクモ居た?」 と質問された時,私が「宿の庭でフタオイソウロウがオナガの卵のうを食べていました.」 と話したところ,浅間氏がいきなり会話に割って入り「それは嘘です.たまたま,一緒に居 ただけです.」と完全否定.周りの人たちは,私がどう反論するか興味津々という雰囲気に なって,ただ呆然とする私に,ちょっと間をおいて池田博明氏が「それ,よく見ます.野外 でのイソウロウグモ類は他のクモの卵のうを食べます.」と助け船を出してくれた.すると 浅間氏は苦笑いしながら「私は,貞元さんが冗談を言っているのだと思いました.」と釈明 していた.浅間氏にとって,素人研究者が大きい顔をしないでもらいたいと,いうところな のであろうか.言動には注意したいと肝に銘じた一幕であった. 夜間観察は第 1 日目にして風雨が強く,新海明主席幹事も外の様子を見て躊躇している 様子が見て取れたので,「何時に出ますか.」と当然出るでしょうという態度を示したとこ ろ,腹決めたらしく 7 時に宿出発.私の車に乗る予定のおばさん達は,雨なので体調を考 慮して「キャンセルします.」であった.行った場所は車で約10 分山側へ入った歌津町字 中在(なかざい)で,海岸線から2~3 キロ離れた津波の最終到達地点と説明を受けた.国 道から脇道に逸れた農道の開けた場所に車を置き,八幡氏から場所の説明を受け「10 時ま で行いましょう.」と言う新海幹事の言葉に,池田氏が「雨風が強いので,9 時までにしま しょう.」との提案に新海氏は私をチラっと見ながら同意を求めるので,小声で「えっ, 10 時がいい.」と言ったものの採用されず,午後 9 時までと決まり散開した. 珍しいクモとしてはキシダグモ系のハシリグモで,こげ茶色の体の腹部両脇に白い筋が一 本入る個体で,以前八幡氏が何処かで発表していたクモと同一のものを採集した.後で宿に 帰ってクモ合わせのとき,私が採ったのも大きかったが八幡氏は更に一回り大きい個体を採 集していた.谷川氏をもってしても種名は不明.また,当夜に気づいたことだが夜間観察で 見たオニグモはヤエンオニグモと間違うほど下方に大きな円網を張る個体が多く,街に人家 等の人工構造物が少ないことから山の林縁部に多く造網し,総ての個体において腹部背面中 央部に一本の緑色のたて筋が入っていた.谷川氏の見解は地理的変異でしょうとのことだっ たが,確認のため成体の♂♀をサンプルとして採集してきたが既存のオニグモと同定できた ので,納得した. オニグモの円網の中からミヤシタイソウロウグモが同居していたので採集してきたが,宿 に帰りクモ合わせのとき浅間氏から「是非,見たい.」と言われ多数のクモでグチャグチャ の標本ビンの中からこれを見つけることができず,翌日の観察会で野外に居るのを見せる, と約束させられ納得してもらった.(本当に採集したのか疑っている様子) 宿は宿泊客が私達だけの貸切りのハズだったが,夜間観察から帰ってくると他に宿泊客が 居るので「騒がないで欲しい」と要望を受け,クモあわせの後の宴会も早々に切り上げ就寝 となった.

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8 2 日目 朝,4 時半に起床.部屋は四人のたこ部屋だったが出入りに支障がないように扉前に陣取 っていたので,とりあえずトイレに立ち,そのまま部屋に戻ることなく玄関から外に出てベ ンチに腰掛けて思案に暮れていた.空模様は時折小雨が降っては止み降っては止む状況で気 温も低く体感温度15℃前後と思われた.宿が丘の上に建っていたことから下の街が見下ろ せたが,漁村である痕跡は海に浮かぶ僅かな漁船と遠くに見える仮設の市場だけで人家は皆 無だった.そんな被災地を「クモの採集」と称して歩けますか.結局,着替えもせず半ズボ ン半袖シャツ姿でガタガタ震え,朝食時間と呼ばれるまで呆然と消失した街を見下ろしなが ら時を過ごしてしまった. 朝食終了後,午前8 時に全員が着替え一端宿の前に集合.約 1 時間,宿の女将さんから 被災の体験談を拝聴する.体験談終了後,私の前に立っていた工藤さんが涙目で振り返り「私 たち,のう天気にクモの採集なんてしていてもいいのでしょうか.」と問い掛けてきた.私 も「だから…」と言い掛けて言葉に詰まり,…難しい問題であった.街には揃いのチョッキ を着たボランティア活動の方々による復興支援活動が盛んに行われていた.私たち20 名の 集団は復興支援活動とは無縁であった. 午前中,天気は回復し一点快晴となった.私たち 4 台の車は連なって本日最初の観察地 である八幡明彦氏の住居のある人里離れた谷地に向かった.通称,正確には名前が無いが八 幡氏が土地の所有者から許可をもらってテント小屋を建てているので,「さえずりの谷」と 勝手に呼んでいるらしい. この谷ではヤマオニグモとチュウガタコガネグモが沢山見られた.幾つかのヤマオニグモ の円網の中にミヤシタイソウロウグモが居たので標本ビンには漬けず生きたまま管ビンに 入れ浅間氏に見せようと思っていたところ,既に別の研究者によって生息場所を教わり「写 真を何枚も撮った.」と自慢するので,自分の採集したミヤシタイソウロウは多数のクモで グチャグチャの標本ビンの中に入れた.その後,浅間氏が撮影したミヤシタイソウロウグモ を私に「特別」に見せる.と言うのでカメラの裏側のデジタル画像を見せてもらったところ, 自慢げに「これだ!」という画像は全く違うもので,(また人を陥れようとするのか)と思 いつつ,「浅間さん,これミヤシタイソウロウじゃなくてフタオイソウロウっぽい.」と申 し向けると,何だ!コイツという顔で「そんなはずは無い,他にも卵のう付きも有るから見 せてあげる.」と言って次の画像を開くとゴミが周囲に点在する卵のうと一緒に映った同一 のクモが撮影されていた.卵のうに付着したゴミの状況から,クモは明らかにツノナガイソ ウロウグモであった.しかし,浅間氏は私の同定を全く信用しないので近くに居た池田博明 氏に一緒に画像を見て頂き,池田氏の助言によりツノナガイソウロウグモと確定した. 昼食は一端街の外れの広場で仕出し弁当店からの配達を待ち,町に戻り仮設商店街で飲み 物を購入しトイレも借りた後,午後の採集観察地である田束山(たつがねさん)登山道の一 つで「行者の道」に入ったところで食事となった.車を止めた場所にトイレは有るものの座 る場所が無く皆は土の山道に座り込んでいたが,都会派の私は地面から一段でも高い場所を 求め歩き回り,切り株を見つけ腰掛けて食事を摂った. 行者の道は田束山へ至る途中に「クモ滝」という滝があるそうで,八幡氏が勝手に付けた 名前と疑われていたが断じて違うと釈明していた.午後の観察会が始まって直ぐ山の斜面林 の間で,造網していたヤマオニグモの網の中にミヤシタイソウロウグモが居たので直ぐ後ろ に居た浅間氏にクモを指差し,「ミヤシタイソウロウグモです.」と教えた.(信用するか 否かはあなた次第です.)

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9 採集の場所は,左が斜面林で右に小さな川が暫く続き川を渡る橋の先は,川から離れ杉林 内を通り左に大きくカーブして又橋を越えクモ滝に続く道が有るようであったが,杉林内か ら先は道が急な登坂だったので体力の限界を感じ,皆が最終的にクモ滝へ行くのであれば採 れるクモも決まってくると思われたので,私は一気に下へ降り車を停め食事をした場所より も下に行き,川幅の広がった河川敷を中心にビーティングで無差別大量採集に臨んだ.特筆 する採集品としてはクロササヒメグモ♀,コアカクロミジングモ♀,ヒメヨツボシサラグモ ♀,クロナンキングモ♀,チシマカニグモ♀,ツルサキフクログモ♀などであった.久々に 時間と場所を忘れ,体力の限界に挑戦した採集活動を行い大いに満足した. 午後 4 時頃,一端宿に戻った私たちは自由行動となった.何人かは何処かへ出かけたよ うであったが,私は街に戻り現実の社会に戻された感が強く,出歩く気分になれず,宿の広 間で宿の主人と夕食の声が掛かるまで色々雑談をして時間を潰してしまった. 2 日目夜間観察 夜の帳が下りた午後7 時,ほぼ全員が照明器具を持って民宿の前に集合していた.本日 2 日目から参加予定の中西亜耶氏(最近結婚された)が,近くまで来ていると連絡を受けた谷 川氏がレンタカーを飛ばして迎えに行っていたので誰言う事なく皆これを待っていた.予定 では昼過ぎに合流するハズであったが交通機関の乱れから到着が遅れたそうである.午後7 時半を過ぎた頃,宿の明かりを目指して暗い街を走ってくる車が到着,宿の庭で待っていた 全員が拍手と歓声で出迎え,中西氏の到着を喜んだ.若い娘が一人,よくここまで来た,と いう想いであった.未だ食事をしていないという中西氏を谷川氏が宿に招き入れ,外に出て いた私たちは新海明主席幹事引率により夜間観察会を開始した. 観察会の場所は宿の裏手に宿を囲むように望める遊歩道があり,道程の半分は宿の所有す る農地で開けた見晴らしの良い山道で,あとの半分は防風林の如く原野と植林の混じった山 道であった.普通に歩くと15 分も有れば一周して来られる距離であった. 私は意識的に最後に登り,昼間中晴れていたことから草むらに膝を着くことが出来たので ハンドソーティングテクを駆使し,一匹一種も逃すまいと真剣に採集に取り組んだ.この場 所は津波の被害を受けておらず最も安定した環境だったので,思わぬ逸品が採集できる可能 性が一番高いと感じていた.しかし,私の様な考え方をする人は他にも居る.長野県の珍品 クモ採り名人(職人)の藤澤庸介氏も,ふと顔を上げた先で同じような事をしていたのには 驚いた.また,少し離れていたがハエトリグモ専門の池田博明氏の後ろ姿も見た様な気がす る.約 2 時間の夜間観察時間も道程の半分で費やしていまい,残りは後ろ髪を引かれる想 いで後押さえの谷川氏に無言のプレッシャーを掛けられつつ,後半の林内は殆ど駆け足状態 で通り過ぎるだけだった.採集品で特筆するものとして,ヨモギフクログモ♂と♀,ハイイ ロヒメグモ♀などがある.ハイイロヒメグモは♂のみを採集していた藤澤氏に差し上げた. 観察会終了後,広間に集まりクモ合わせ宴会となったが,クモ合わせの時に又しても信じ られないことが起きた.クモ合わせでは池田博明氏が実体顕微鏡を持参してくれていたが, 若手女子研究者の輿石氏が採集したカニグモの標本を私が同定していて,「このカニグモは 研究者によって和名の呼び名が違うのがヒントです.昔はシナカニグモとされていました.」 と回答し,チュウカカニグモ若しくはカラカニグモと答えを導いて盛り上がっていたところ, 突然,浅間氏が「私ね,福島で変なチュウカカニグモを採りました.背面模様はチュウカだ が外雌器が違う.今回,誰かに見てもらおうと思って持ってきました.是非,貞元さんに同 定してもらいたい.」と名指しして,席を立った.私は正直に申し上げて「えー!私の同定

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10 なんか全然信用していないのに,何で私に…」という思いが強かった.暫くして戻ってきた 浅間氏は「これです.」と言いながら自分で実体顕微鏡の下に標本を置き,「貞元さん,早 く見てください.」と急かした.私は,仕方なくレンズを覗き(あー!またこの人,私を陥 れようとしている.)と感じ,傍らにいた池田博明氏に「私,これ普通のカニグモに見えま す.池田さん,お願いします.」と小声で助けを求めた.池田氏は私の求めにハイハイと頷 き,レンズを覗き込んで一言「これ,普通のヤミイロカニグモです.チュウカカニグモでは ありません.」と一喝してくれた.しかし,浅間氏は全く動じず平然と「あっ,間違えまし た.こっちです.」と言いながらポケットからもう 1 本の標本ビンを出し,中身をシャー レに開けて「貞元さん,見てください.」と申し向けてきた.流石の私も怒りが込み上げて きたが,ここは冷静に,冷静に.一呼吸おいて,若手女子研究者の輿石氏に「なんだと思う.」 とレンズを覗き込む様に促した.彼女は暫く覗き込んで「私…これチュウカカニグモだと思 います.私が採集したカニグモと同じだと思います.」と述べた.その回答を聞いて,どれ どれとレンズを覗いた池田氏が「間違いなく,チュウカカニグモです.産卵間近で腹がパン パンに膨れているので外雌器も間延びしたように見えますが,間違い有りません.」と断言 した.その後,私もレンズを覗き「私もチュウカカニグモと思います.」と,のう天気に述 べたが,浅間氏は「なんだ,他人の尻馬に乗っているだけで自分の意見ではないだろう.」 と言わんばかりの顔つきになっていたのは,私の気のせいだろうか. その後の宴会の途中で,風呂の入浴時間が12 時までと決められており湯船と洗い場も一 人しか入れない民宿の風呂だったことから私は,「風呂入ります.」と断りを入れて風呂に 入って一日の疲れを洗い流して出てきたが長風呂過ぎたのか既に宴会は終わっており,皆自 室へ引き上げた後だった.「えっ,もう終わりなの….」正直,正拍子抜けの感は歪めなか った. 3 日目 朝 5 時起床.昨夜行けなかった宿の裏山の後半部分に足を踏み入れよう考えていたが, 天気は変わり小雨がぱらつく空模様であった.服を濡らしたくない思いから半ズボン半袖シ ャツ姿に宿の下駄を借りて裏山に反対側から登ったが,ヤブ蚊の猛攻に会い遭えなくギブア ップ.それでもヨツボシワシグモの♀を確認した. 朝食終了後,天気は回復.一足先に東京へ帰るという新海 明幹事を全員で見送り,午前 9 時に宿を出発.一路,南三陸鉄道の歌津駅舎跡の駅前ロータリー跡に設置された仮設商店 (福幸商店街と命名せれていた)でお土産を買い,形ばかりの復興支援を企画するも事前情 報にミスがあり午前10 時開店であったため,一軒も開店しておらず.かろうじて開店準備 で来ていた食料品店舗の方に店を開けて頂き,飲み物だけを購入する.この場所で昼食用の 弁当を各自に配布し,それぞれ割り当てられた車に積み込み,合宿最後の観察地「田束山山 頂」へ向け出発した. 田束山は,標高512 メートルの山で採集観察は頂上から約 50m直下にある計仙麻大嶋神 社(読み方不明,地図帳から引用)の見晴らし駐車場に車を停め,昼食までの約 2 時間ク モ採集タイムとなった.この日は日差しが非常に強く,足も自ずと日陰を求め藪の中に入る 傾向が強かった.頂上に至る道路は最近整備されたらしく土留めに貼り付けられた芝も真新 しい状態であった.その斜面を見ていると一定の間隔を置いて直径約 10cm の水抜き用パ イプが設置されていたので,懐中電灯でプラスチック製土管の中を照らしたところ約60cm 奥に足の長いヒメグモが数頭見えた.右手に蓋を外したアルコールの入ったビンを持ち,目

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11 標を定め,土管の奥いっぱいに腕を伸ばし差し入れて天井を滑らせるように手前に引いてき た.すると見事なホラヒメグモsp が♂1♀2 成体で,ビンの中に入っていた.このホラヒ メグモは雄のパルプの構造がクリコホラヒメグモに似ていたが地理的隔離の強いクモなの で,慎重に判断し谷川氏に後日,同定依頼のため送付したところ「新種の可能性が高い.」 との回答であったので,標本は預けることにした.他には,道路脇の草原に地表面すれすれ に張られていた棚状の網があり,大きそうな個体を選んで採集したが,北の傾向であるイナ ヅマクサグモで♂亜成体♀幼体であった.若手研究者の輿石氏は,採集したイナヅマクサグ モが「採集の際に逃げ込んだ逃げ道は,明らかに地面を掘って窪地を造っていた.」と観察 したようで,今後の研究のヒントを得たらしい. 昼食は,車で山の頂上まで上がり屋根のあるベンチで摂った.その後,集合写真を撮り, 帰りの電車が「くりこま高原駅」午後2 時 50 分発であったため,時間の余裕を持って午後 0 時 30 分には山頂を出発し一路,東北新幹線の駅を目指して激走した. 午後 2 時前に「くりこま高原駅」に着いた私は同乗者の工藤氏・泉氏・水山氏と別れ, 実は帰りの電車も約1 時間遅れの新幹線を予約していた.それは,事前の調べで「伊豆沼」 が近くに有ることを知り,以前谷川氏らがハリゲコモリグモ類の研究をした場所と確信は持 てなかったが地名が同じだったと記憶していたので,レンタカーを返した後に歩いて行って みようと思っていた.合宿中に谷川氏本人に聞いたところ,「確かに懐かしい,想い出の地 です.」と述べられていた.若手研究者の輿石氏も合宿初日に「くりこま高原駅に早く着い てしまったので,歩いて行ってきましたが 2 時間かかりました.」と述べていたのを聞い ていたので,くりこま高原駅でレンタカーを返さず,そのままナビを「伊豆沼」にセットし て目的地を目指した.「伊豆沼」にはバイパス道路が新しく整備されナビ通りではなかった 為,進路を迷い20 分程掛かって着いた. 「伊豆沼」は驚愕するほどに広大で,渡り鳥の観察をする場所であることを案内表示で知 った.サンクチャリーの駐車場に車を入れ,施設の屋上に上がって伊豆沼を見渡し「いった い何処で谷川さんは,コモリグモを採集したのだろう.」と独り言を言っていた.そこで車 に戻り,ナビの地図を拡大して人の居ないような場所,人が来ないような場所,水辺から離 れた緑地帯など総合的に勘で判断し,湖の反対側の一カ所にナビを設定した.約20 後,あ と少しのところでハンドルを左に大きく切ったところ,車内で固形物がゴロゴロ転がる音を 聞いた.一端,目的地付近で車を停め,車内を検索したところ,カバーに入った誰かのデジ カメを発見してしまった.私は迷った.以前にも合宿で私がレンタカーを借りて返納すると き,車内にあった忘れ物としてハンカチとかペットボトルカバー等があり,後日車に乗った 会員に聞いても「知らない.」と言われる始末.しかし,いま持って行けば確実に返せるが, 「伊豆沼」のクモは断念しなければならない.究極の選択.仕方なし,と思案に暮れていた が「くりこま高原駅」に向け車は走り出していた.激走の甲斐あって新幹線の発車時間の約 10 分前に駅に着いたが,おばさん達の携帯番号を知らなかったので改札口に行き駅員に事 情を説明し中に入れて頂き,ホーム上を探すも見当たらず.ホームにいた駅員さんに声を掛 けると「1 階の改札前にある待合室に居ることが多い.」と情報を得たので,行き違いにな らぬ事を願いつつ「待合室」に走り込んだ.おばさん達 3 人はベンチに腰掛け歓談に夢中 であったが,私の顔を見るなり唖然とした表情に変わり,「これ,忘れ物です.」と差し出 すデジカメに水山氏が反応し,何事もなかったような落ち着きで,「あっ,私のだわ.」と 特に探していたという様子もなく・・・・一件落着.

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12 「伊豆沼」へ,とって返す時間はあるが,採集している時間がない.また一つ宿題を抱え た気持ちで,駅近くのスーパーマーケットの駐車場に車を入れ時間を潰して,私の合宿は終 わった. おわりに 南三陸町は2005 年,旧志津川町と旧歌津町が合併し人口も 1 万 7 千余名であったが, 東日本大震災により死者・行方不明者839 名の尊い命が奪われ,鉄道や幹線道路も失われ, 現在も人が住む環境ではない街並であった.私たちが宿泊した民宿は唯一海岸線上ありなが ら小高い丘の上に建っていたため津波被害は免れたものの近隣住民の避難所となり,多くの 命を救ったという話を聞いた. 八幡氏は,市民災害救援センターのボランティアとして歌津町に入り,その後同センター の支援活動が終了した後も一人残り,地元民が提供してくれた休耕田でテント生活.その地 を「さえずりの谷」と名付け,地元子供達のための自然学校「天狗の山学校」を主宰してい るそうである.氏名も八幡明彦ではなく蜘瀧仙人(くもたきのりと)と名乗っており,合宿 中に宿の主人と 2 人で雑談をしているとき宿の主人は「八幡」と言う名前を知らず,八幡 氏への話題は全く話が噛み合わなかった.後になって「山の先生」とか「仙人」・「スパイ バー」と言えば「八幡氏」を指す,地元では有名人であることを知った.ちなみに今回の合 宿参加男性陣で一番若いのは,自称「仙人」の八幡氏49 歳であった.東京クモ談話会の合 宿参加人員の平均年齢は年々上がり,現在50 歳は確実に超えている. 私は「クモの研究をしている.」と周囲には言っているが,実は学者ではないし研究者と して数多くの論文を発表している訳でもない.ましてクモの研究が生活の一部になっている 事はなく,私生活を犠牲にしない,むしろ趣味の延長線上でしかない.八幡氏のように家族 や自身の生活が有りながら,総てを投げ捨てて街のため人のため自分の人生そのものも掛け て真剣に復興支援を頑張っている方の横で,のう天気にクモの採集をしている自分がとても 滑稽に見えて恥ずかしい.合宿は,この場所で採集活動をしなければいけない,と義務感を 感じる場所ではなかった.少なくとも後50 年後か 100 年後に津波の痕跡も認められなくな り,人々の意識の中に「復興の街」から「平和な街」に変わって久しくなった頃,大きな顔 をして採集活動を行いたい場所である.と思うのが,私の正直な感想であった.八幡氏自身 もこの地で「クモの研究」はしておらず,私たちと行動をともにすることによって久々に網 とビンを手に取った,と聞いた.民宿のご主人や女将さんは二代目若夫婦とお孫さん達に囲 まれ「家族に亡くなった者が居なかったことが幸いだった.」と話されていたのが印象に残 ったが,クモの合宿を別の目的,今回は復興支援と称して「街に対する理解と少しばかりの 支援活動」だったと思うが,タイアップさせる事は避けて頂きたい.「何か違う.」と心に 引っかかるモノを感じてしまった.一言で言えば「じぇじぇじぇ.」である. 不謹慎に感じた方が,おられましたら謝ります. 最後になりましたが,今回の合宿も新海明氏,谷川明男氏らが中心となって場所を選定し, 気持ちよく採集活動に専念できる環境作りに努められました事に,深く感謝申し上げます.

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13 KISHIDAIA, No.104, Mar. 2014

自然観察会でのクモによる環境評価

浅 間 茂

はじめに 生物の種類数が多いことは,一般にその自然環境が豊かであることを示す.しかし,その 地域に何種類のクモが生息しているかを調べるとしても,調査場所の調査方法・調査時期・ 調査担当者・調査人数・調査回数によって結果は異なってしまう. 筆者は環境を知るひとつの方法として,長年に渡って,千葉県内の木のワラ巻きに取り組 んできた.下草が生えていない場所では,隠れ場所がなくクモの多くの種類と個体数が,越 冬場所としてワラ巻きを利用する.下草が生えており,環境が多様な場所では越冬場所が他 に多くあり,下草の生えていない場所に比べて,ワラ巻き内のクモの種類数・個体数が少な かったりする.冬季における木のワラ巻きは,クモの越冬状況を知る方法として,また普段 採集できないクモの越冬場所を利用した採集方法としては,活用できる.しかし,ワラ巻き のクモの採集方法は,採集された種類により,その場所の自然環境を知ることには少しは役 立つかも知れないが,それだけでは環境を判定することは難しい. 環境別クモ相については,池田博明・谷川明男(1996)・浅間茂(1997),クモの指標種と しての有用性については新海栄一(1998)・八幡明彦(2005)の報告がある.新海栄一氏は, クモの環境指標種を4 段階に分けて報告している. 生物で自然環境を判定する方法として,環境省が実施している水生生物による水質の判断 や,採集した土壌動物から環境を知る方法(青木淳一1985)などがよく知られている. 本稿では一般の観察会で,クモの観察だけでなく,観察したクモの種類数による環境評価 により,生物が生息する環境を考え,生物の多様性を評価する尺度を紹介する. 方 法 今まで筆者が実施してきたクモの観察会では,25 から 35 種類くらいの種類数が観察で きた.一人で一時間にどのくらいの種類数が採集できるか,スィーピング法とハンドソーテ ィング法で,千葉県の柏市にある「こんぶくろ池」で実施した.結果を次に示す. 調査日・採集時間:2010 年 10 月 14 日 15 時 30 分~16 時 30 分 方法:スィーピング法とハンドソーティング法で採集し,75 %アルコールの中に入れ, 持ち帰り実体顕微鏡で同定した. 採集クモ目録 (F:雌成体,M:雄成体,f:雌亜成体,m:雄亜成体,y:幼体) Pholcidae ユウレイグモ科

1. Pholcus crypticolens Bösenberg & Strand ユウレイグモ y ──────────

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Uloboridae ウズグモ科

2. Hyptiotes affinis Bösenberg & Strand オウギグモ F

Theridiidae ヒメグモ科

3. Argyrodes bonadea (Karsch) シロカネイソウロウグモ my

4. Ariamnes cylindrogaster (Simon) オナガグモ m

5. Dipoena punctisparsa Yaginuma シモフリミジングモ F

6. Neospintharus fur (Bösenberg & Strand) フタオイソウロウグモ y 7. Parasteatoda tepidariorum (C.L.Koch) オオヒメグモ y

8. Rhomphaea sagana (Dönitz & Strand) ヤリグモ Fy

Tetragnathidae アシナガグモ科

9. Leucauge celebesiana (Walckenaer) オオシロカネグモ F

10. Leucauge subgemmea Bösenberg & Strand キララシロカネグモ F Nephilidae ジョロウグモ科

11. Nephila clavata L.Koch ジョロウグモ M

Araneidae コガネグモ科

12. Araneus ventricosus (L.Koch) オニグモ y

13. Argiope amoena L.Koch コガネグモ y

14. Argiope bruennichi (Scopoli) ナガコガネグモ F

15. Argiope minuta Karsch コガタコガネグモ F

16. Cyclosa octotuberculata Karsch ゴミグモ y

17. Cyclosa sedeculata Karsch ヨツデゴミグモ Fm

18. Neoscona adianta (Walckenaer) ドヨウオニグモ FM

19. Neoscona punctigera (Doleschall) コゲチャオニグモ y

Lycosidae コモリグモ科

20. Pardosa astrigera L.Koch ウヅキコモリグモ y

Pisauridae キシダグモ科

21. Dolomedes sulfureus L.Koch イオウイロハシリグモ y

Oxyopidae ササグモ科

22. Oxyopes sertatus L.Koch ササグモ y

Agelenidae タナグモ科

23. Allagelena opulenta (L.Koch) コクサグモ F

Clubionidae フクログモ科

24. Clubiona sp. フクログモの一種 y

Philodromidae エビグモ科

25. Philodromus subaureolus Bösenberg & Strand アサヒエビグモ y

26. Tibellus japonicas Efimik シャコグモ Ff

Thomisidae カニグモ科 27. Diaea subdola O.P.-Cambridge コハナグモ

28. Ebrechtella tricuspidata (Fabricius) ハナグモ FM

29. Oxytate striatipes L.Koch ワカバグモ m

30. Tmarus rimosus Paik セマルトラフカニグモ y

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15 Salticidae ハエトリグモ科

32. Evarcha albaria (L.Koch) マミジロハエトリ FM

33. Helicius cylindratus (Karsch) コジャバラハエトリ F

34. Marpissa milleri (Peckham & Peckham) オオハエトリ F 35. Myrmarachne inermichelis Bösenberg & Strand ヤサアリグモ y 36. Phintella abnormis (Bösenberg&Strand) チャイロアサヒハエトリ y

37. Phintella linea (Karsch) メガネアサヒハエトリ FM

こんぶくろ池は,柏の北西部の工業地域と公園に隣接した位置にある.浅い地下水位がそ のまま台地上に湧水となっている.面積は18.5 ヘクタールと狭いが,ズミ・ヌマガヤ・ク ロツバラなど貴重な植物が見られ,良好な自然状態が保たれている場所である.近くには柏 の葉公園・国立ガンセンター・東京大学などがある. 今までのクモの観察会の経験と,このこんぶくろ池の結果から,次のような合計点数で, 環境評価ができるような配布資料(図1)を作成した. 点数 クモは一種類一点です.ただ次のクモはボーナス点がつきます. 5 点 コガネグモ(大きな円網を張り,環境の良い草原に生息) 3 点 トリノフンダマシ類(山地性のクモであるが,林縁に生息.オオトリノフンダマシ・ トリノフンダマシ・シロオビトリノフンダマシなど) クモによる環境評価 A(0~7 点) 植物の生えている面積が少なく,建物に依存するクモが生息している B(8~15 点) 市街地であるが,地面はコンクリートだけでなく,草が生えている. C(16~23 点) 建物の隙間に樹木が見られ,草が生えている.都市の中の公園. D(24~31 点) 水辺など湿地があり,環境に多様性が見られる.多様性のある公園. E(32 点以上) 林・草地・水辺があり,良い自然環境を保っている.自然公園. 結 果 作成した図1 の配布資料を使い,自然環境を評価するクモの観察会を,二回実施した.

一回目は,千葉県のNEC 我孫子事業所で実施した.NEC は「NEC グループ環境経営行

動計画」の柱の一つに「生物多様性保全の貢献」を掲げている.その活動の一環として社員 とその家族を対象に,クモの観察会を2012 年 8 月 19 日に実施し,約 50 名の家族が参加 した. NEC の我孫子事業所内の敷地は,面積が広く,池や森林などが残されており,環境省絶 滅危惧種に指定されているオオモノサシトンボが生息している池もある.池周辺を中心とし た40 分の採集活動で 32 種類のクモが採集された.捕まえ確認した後は,クモをその場に 放した.確認した種は次の通りである.

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17 2012 年 8 月 19 日 NEC(我孫子) クモ観察会採集確認リスト ユウレイグモ科 1. ユウレイグモ(幼体) ウズグモ科 2. カタハリウズグモ(雌成体) ヤチグモ科 3. ヤチグモ属の一種 (Coelotes sp.)(幼体) タナグモ科 4. コクサグモ(雄亜成体・幼体) コモリグモ科 5. カイゾクコモリグモ属の一種(Pirata sp.)(幼体) ヒメグモ科 6. ニホンヒメグモ(雌成体) 7. オオヒメグモ(幼体) 8. オナガグモ(幼体) 9. ムラクモヒシガタグモ(雌成体) 10. シロカネイソウロウグモ(雌成体・雄成体) 11 シモフリミジングモ(雌成体) サラグモ科 12. コサラグモの一種(幼体) アシナガグモ科 13. アシナガグモ(雌成体・幼体) 14.トガリアシナガグモ(幼体) 15. キララシロカネグモ(幼体) 16. ウロコアシナガグモ(幼体) ジョロウグモ科 17. ジョロウグモ(幼体) コガネグモ科 18. ナガコガネグモ(雄成体・雌亜成体・幼体) 19. コガタコガネグモ(雌亜成体) 20. ゴミグモ(幼体) 21. ヨツデゴミグモ(幼体) 22. ナカムラオニグモ(雌成体・雄成体) 23. サツマノミダマシ(雌成体) 24. ワキグロサツマノミダマシ(雄亜成体) カニグモ科 25. ハナグモ(幼体) 26. アズチグモ(雌成体) 27. キハダカニグモ(幼体) フクログモ科 28. フクログモ属の一種(Clubiona sp.)(幼体) ハエトリグモ科 29. イナズマハエトリ(雌成体) 30. メスジロハエトリ(雄成体・雌亜成体・幼体) 31. ヨダンハエトリ(幼体) 32. アリグモ(幼体) *取り逃がしたので採集されず目録にはないが,良好な草原を示す環境指標生物となるコ ガネグモも目撃されている. 二回目は,千葉県自然観察指導員協議会の東葛地区の研修会として,先に述べた柏市のこ んぶくろ池で「クモから環境を知る」というテーマで,2012 年 9 月 27 日に観察会を実施 した.30 名の参加者は,自然観察指導員として活躍している自然に対してベテランの人た ちであり,一時間ほど一緒に歩いてクモ探しをした.見つけたクモは採集し,最後のまとめ の所で観察した後は,見つけた場所に放した.確認したクモは37 種類である. 2012 年 9 月 27 日 こんぶくろ池 クモ観察会採集確認リスト ユウレイグモ科 1. ユウレイグモ(幼体) ウズグモ科 2. オウギグモ(幼体) 3. マネキグモ(幼体) 4. カタハリウズグモ(幼体) 5. ウズグモ(幼体) ヒメグモ科 6. ニホンヒメグモ(雌成体) 7. チリイソウロウグモ(雌成体・卵嚢) 8. オナガグモ(幼体) 9. ムナボシヒメグモ(幼体) 10. フタオイソウロウグモ(雌成体・卵嚢) 11. オオヒメグモ(幼体) 12. ヤリグモ(雌成体・卵嚢) アシナガグモ科 13. オオシロカネグモ(雌成体) 14. コシロカネグモ(雌成体・幼体)

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18 15. キララシロカネグモ(雌成体) 16. アシナガグモ(幼体) ジョロウグモ科 17. ジョロウグモ(雄成体・雌成体) コガネグモ科 18. ハツリグモ(幼体) 19. ナガコガネグモ(雌成体) 20. コガタコガネグモ(雌成体) 21. ヤマトカナエグモ(卵嚢) 22. ゴミグモ(幼体) 23. ヨツデゴミグモ(雄成体・雌成体・幼体) 24. サガオニグモ(幼体) 25. オオトリノフンダマシ(雌成体) コモリグモ科 26. ウヅキコモリグモ(雌成体) 27. イモコモリグモ(成体) キシダグモ科 28. イオウイロハシリグモ(雌成体) タナグモ科 29. コクサグモ(雄成体・雌成体) ツチフクログモ科 30. コマチグモの一種(幼体) エビグモ科 31. シャコグモ(幼体) カニグモ科 32. ハナグモ(雄成体・雌成体) 33. ヤミイロカニグモの一種(幼体) ハエトリグモ科 34. マミジロハエトリ(雄成体) 35. チャイロアサヒハエトリ(幼体) 36. デーニッツハエトリ(幼体) 37. オオハエトリ(雌成体・幼体) NEC の我孫子事業所では合計 32 点,こんぶくろ池ではボーナス点のオオトリノフンダ マシが3 点で 39 点になり,いずれも環境ランク E を示した.NEC ではコガネグモを加え ると37 点になる.いずれの場所も林・草地・水辺があり,良い自然環境を保っている場所 である. まとめ 環境が多様であれば,多くの種類の生物の生息が見られる.クモの観察会でも,クモを通 して環境を考える方法のひとつとして,この評価を考案した.特に子供たちが多い観察会で は,各自がクモを生きたまま採集することが,積極的に観察会に参加する成功の秘訣である. ただそこで名前だけでなく,環境評価と結びつけると,クモが生息する環境に目を向けるき っかけになる.またこの環境の評価は,観察会で指導者が,クモにそう詳しくなくても,種 類数で環境を知る観察会が実施できる.ボーナス点は観察会であるという理由で,ある意味 で遊びの面も含んでいる.いずれも分かりやすいクモであるし,環境の関わりを考えるクモ として,コガネグモとトリノフンダマシ類を取り入れた. 観察会でのテーマのひとつとして,クモによる環境評価を今後とも取り入れていきたい. また各地で実施していただければ,改善点がいくつか出てくると思われる.今回の実施場所 は,いずれも環境が良好に保たれている場所であるが,39 点と 37 点(コガネグモを含める と)の点数は 32 点を大きく超えるため,評価点数をやや高くし,今後は次のように変更した ものを,実施していく予定である. 環境評価は,評価の高いものをA としたこと,及び評価点の変更である. 点数 クモは一種類一点です.ただ次のクモはボーナス点がつきます. 5 点 コガネグモ(大きな円網を張り,環境の良い草原に生息) 3 点 トリノフンダマシ類(里山に見られるクモであり,林縁に生息.オオトリノフンダマ シ・トリノフンダマシ・シロオビトリノフンダマシなど)

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19 クモによる環境評価 A(36 点以上) 林・草地・水辺があり,良い自然環境を保っている.自然公園. B(26~35 点) 水辺など湿地があり,環境に多様性が見られる.多様性のある公園 C(16~25 点) 建物の隙間に樹木が見られ,草が生えている.都市の中の公園 D( 8~15 点) 市街地であるが,地面はコンクリートだけでなく,草が生えている E( 0~ 7 点) 植物の生えている面積が少なく,建物に依存するクモが生息している 参考文献 青木淳一 1985. 土壌動物. In: 指標生物, 思索社. Pp. 252–257. 浅間茂 1997. 湾岸都市千葉市のクモ類. In: 湾岸都市の生態系と自然保護, 信山社サイテク. Pp. 853–877. 池田博明・谷川明男 1996. 真正くも類. In: 大和市史 8(上)別編自然, Pp248–258, 313–317, 348–352, 419–425. 新海栄一 1998. クモ類による環境の評価. Kishidaia, 74:33–100. 八幡明彦 2005. クモのいる自然環境を守るとはどういうことか. Acta Arachnologica, 4: 147–153.

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KISHIDAIA, No.104, Mar. 2014

オオジョロウグモの造網行動

新 海 明

オオジョロウグモNephila pilipes の網構造に関しては,幼体時に特異な円錐状の迷網を 張ること.成体では顕著な三重網構造が見られないことや,タテ糸の「分枝」は見られるが 「二分割糸」はみられないことなどについて,かつて報告したことがある(新海 1985). しかし,その造網過程についての詳細な記録は現在までなかった.私は2004 年 6 月にオオ ジョログモを自宅で飼育し,その造網の全過程をほぼ記録することができたので報告する. 方 法 造網過程は,2004 年 6 月 19 日の早朝に八王子市大塚にある自宅の部屋(5 畳)に放し 飼いにしていたオオジョロウグモで観察した. このオオジョロウグモは同年6 月 15 日に沖縄県久米島にて谷川明男さんが採集したメス 個体で,体長は23mm だった.飼育中,餌は 1~2 日おきに屋外から採集してきた甲虫や 蛾を与えた.また,適宜「霧吹き」で水分を補給した. 観察にあたっては,特に造網初期のワく糸と「T 構造(新海 1996)」の有無やタテ糸・ 足場糸・ヨコ糸の張り方を中心に,それらの行動を記録した. 造網の開始と終了の時刻は正確には記録できなかったが,造網の初期過程と気付いて記録 を取り始めた時刻は午前6 時 30 分で,午前 8 時 30 分ころには造網を終了した. 結 果 (1)ワク糸と基礎タテ糸の作成 造網行動を確認したのは午前6 時 30 分で,オオジョロウグモはすでに数本の糸を張って おり,糸の一端から吊り下がっていた.すでに張られていたこれらの糸を基礎タテ糸と名付 けて,時計まわりに①~④と番号を付した(図1-1).ここから左下方に 1 本ワク糸 a を 張り渡した.そして,このワク糸a を戻るときに a から①を経由して基礎タテ糸⑤を張っ た(図1-2).次に,オオジョロウグモは右側の基礎タテ糸④を伝って外方向に歩き糸を 固定したあとで反転して,再び基礎タテ糸④をこしき方向へ戻り,基礎タテ糸②と③を歩き ながらワク糸bを作成した(図1-3). クモは再び基礎タテ糸④を伝い,ここからこしき部を経て基礎タテ糸⑤へとトラバースす る時に,T 構造となる基礎タテ糸⑥とワク糸 c を作成した(図 1-4).T 構造とは,基礎 タテ糸⑥とワク糸c が T 字型(図 1-4 では逆 T になっている)になることから名付けたも のである.さらに,基礎タテ糸①からこしき部を経て基礎タテ糸②へとトラバースして,2 ────────── 〒192-0352 八王子市大塚 274-29-603

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21 箇所目のT構造となる基礎タテ糸⑦とワク糸d を作った(図 1-5).同様に,基礎タテ糸 ②から基礎タテ糸④へとトラバースして 3 つ目のT構造の基礎タテ糸⑧とワク糸b’を作 成した.この時に,それ以前に張ってあったワク糸bを壊した(図1-6). ここまでが,ワク糸と基礎タテ糸の作成過程であり,時刻は午前6 時 55 分だった.この 時点でワク糸は4 本(a~d),基礎タテ糸は 8 本(①~⑧)張られていた.ただし,その 後の構造を見ると基礎タテ糸③はワク糸の一部とみなした方がよいかも知れない(図1-6). (2)タテ糸と足場糸の作成 オオジョロウグモは引き続きタテ糸を付け加え続けた.ただし,ここからのタテ糸は今ま 図1.ワク糸と基礎タテ糸の作成の過程.

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22 での基礎タテ糸の作り方とほとんどの場合で異なっていた. クモはまず,こしき部から基礎タテ糸5 を伝いながらワク糸 a まで移動した(図 2).こ の時に糸疣から引き出してきた糸がタテ糸⑨となり,これをワク糸の一点アに固定した.そ して,ワク糸上を少し右下にずれ,ここに糸を固定した(イ).さらに,今引いてきたタテ 糸⑨を伝いながらこしき部へと戻った.この時にイ点より再びタテ糸⑩が張られていった. この時に張られたタテ糸⑨と⑩をタテ糸セット 1 とする.これが,ジョロウグモ属で知ら れた「分枝」(新海1982)と呼ばれる構造で,こしき部からワク糸,そして再びこしき部 へと戻る1 過程で,タテ糸を 2 本ずつ作成するものである. 次に左上方にY構造(Foelix 1982)とか二次ワク糸(吉倉 1987)と呼ばれるワク糸と タテ糸からなる構造を作成した.詳細に述べると,クモはまず基礎タテ糸①をたどり,ワク 図2.分枝の作成の過程. 図3.分枝と足場糸の作成の過程.

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23 方向のウ点にこしき部からひいてきた糸を固定した.これがタテ糸⑪となる.そこから,糸 を引き出しながらタテ糸①を伝ってこしき方向へ戻る際に,こしきから引いてきたタテ糸⑪ のエ点にこの糸を一度固定し,そこから再び糸を引きながらこしき経由でタテ糸⑤からワク 糸a へ行った.そして,ワク糸 a 上のオ点に引いてきた糸をつけた.この造網過程も基本 的に T 構造の作成のそれと同じだった.次にオ点からカ点まで移動し,ここからタテ糸⑪ を伝いながらタテ糸⑫を張ってこしきへ戻った.このとき出来たタテ糸⑪と⑫がタテ糸セッ ト2 となる(図 2).つづいて,クモはそのほぼ反対方向にタテ糸セット 3 を作成した(図 2)(以下,「タテ糸セット」を略す).そして,図 3 に示すように 4 から 10 までを張っ た後に足場糸の作成を始めた.クモは10 を張った後で,こしき部に戻ると反時計まわりに 回転しながらタテ糸に足場糸を固定しながら,こしき部を一周して 8 の付近で回転の方向 を時計まわりに変えた.そして,2 と 7 の間で止まりここから 11 を作成した.このように して,足場糸をこしき部からワク糸方向に螺旋状に取り付けていったが,このときにすでに 張られていたタテ糸の間隔が大きく開いていると,そこにタテ糸のセット(分枝)を付け加 えていった.23 までのタテ糸セットが取り付けられた段階で時刻は午前 7 時 14 分だった (図3).その後,足場糸だけ 4 周張り(これは周回せずに「振り子」状運動によって作成 された),午前7 時 19 分に足場糸の取り付けを終了した.この時点でのタテ糸の総数はワ ク部で63 本だった. そして,15 秒ほどここで止まり,ワク糸方向へ腹部をずらしヨコ糸の作成を開始した. ジョロウグモの網で観察されたタテ糸の「二分割糸」(新海1982)はオオジョロウグモの 網では観察できなかった. (3)ヨコ糸の作成 ヨコ糸の作成は普通の円網やジョロウグモの場合と同じで,外ワク側から内側に向かって 張られていった.最初の 6 周目までのヨコ糸は螺旋状とならず,振り子状運動によって網 面上を左右に動きながら張った.そして,その後は螺旋状にヨコ糸を取り付けていった. ヨコ糸作成のときの歩脚の使い方を以下に詳述する(図4).クモが左より右方向にヨコ 糸を取り付けていく場合に,右1~3 脚(図 4 ではクモの腹面から見ているため左側となる) はタテ糸や足場糸にかけて体をささえていた.右 4 脚は糸疣よりヨコ糸を引き出すのに用 図4.ヨコ糸作成時の各脚の使い方(腹面から見たようす).

図 1.  配布資料
図 .  ワイノジハエトリ Marpissa mashibarai Baba 2013  (東京都江戸川区葛西臨海公園産) .

参照

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