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CAN-DO リストとストラテジーリストを使った指導の効果に関する一考察

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1.はじめに

本論文の目的は,英語学習の場面に,学習者の能力・方略に関するリストを導入することの効果を 検証することである。取り上げるリストは(a)CAN-DOリスト(外国語を使って何ができるかとい う視点から外国語能力の諸項目を列挙したリスト)と(b)言語学習ストラテジーリスト(外国語学 習をより効果的に行うための方略リスト)である。いずれのリストについても種々のものが考案され ており,教育現場に導入されている。本論文では,本研究のために作成したそれぞれのリストを用い,

その効果を測定する。

CAN-DOリストの効果と言語学習ストラテジーのそれとを比較することの意味は次の通りである。

CAN-DOリストは学習の結果(product)に焦点を当てた測定手段である。学習者に対し,結果を意

識させることが,学習の効果に影響するかどうかを検討することには,意義があると考えられる。一 方言語学習ストラテジーとは,学習の過程(process)において使われるものであり,これを学習者 に提示することは,学習者に結果ではなく,過程を意識させることを意味する。本研究はproductに 対する意識とprocessに対する意識との効果の比較である。

文部科学省は,2013年『各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習 到達目標設定のための手引き』の中で,趣旨・目的の3番目に「教員と生徒が外国語学習の目標を 共有することである。」として,「『言語を用いて~ができるようになった』という達成感による学習 意欲(1)の更なる向上にもつながることが期待される。」(p. 4)と述べている。文部科学省はCAN-DO リストという形で学習到達目標を設定することで指導と評価を一体化し,四技能のバランスのとれた 学習指導,自主的な学習者の育成,生徒中心の活動を取り入れた言語活動を行うことで学習意欲の向 上を目指そうとしている。

CAN-DOリストを使った報告や研究が増える(岡崎,2014a,2014b,宮本,2013など)なかで,

CAN-DOリストを使った指導が,「動機づけ(2)につながっていない」との研究もある(米田,西村,

細川,2011,細川,西村,2012,小林,2016)。本論では,日頃の学習活動の中でCAN-DOリストを 意識させることと,言語学習ストラテジーを意識させることが,生徒の動機づけと英語力にどのよう な効果をもたらすかを調査した。

CAN-DO リストとストラテジーリストを使った 指導の効果に関する一考察

小 林 潤 子

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2.CAN-DO リスト

2.1 CEFR

2001年に公表されたCEFRとは“Common European Framework of Reference for Languages:

Learning, teaching, assessment”のことである。ヨーロッパで話されている様々な言語を使う能力を,

ある共通の枠組みのなかで記述するために考案された。欧州評議会の加盟国での言語教育シラバス,

カリキュラム,試験,教材などの質的向上のためのガイドラインを提供するものでもある。測定のた めに設定されたレベルは,A1~C2まで6段階あり,A1とA2は「基礎段階の言語使用者」B1とB2 は「自立した言語使用者」C1とC2は「熟達した言語使用者」のレベルとしている。

記述対象となる技能の項目は,①理解:聞くこと,読むことの2項目,②話すこと:やりとり,発 表の2項目,③書くこと1項目で,計5項目である。CAN-DOリストには,Can-Do Statements(以 下CDSと表記)が提示されており,これらのCDSは上記のレベルにより,また,上記の技能により,

分類されている。(吉島,奥,大橋,松山,2004)。

2.2 CEFR-J

欧州評議会で開発されたCEFRに準拠し,それを日本の英語教育の枠組みに適用したもので,2012 年3月に一般公開されたのがCEFR-J(投野,2013)である。策定にあたっては,日本人の英語学習 の実態,すなわち8割がCEFRのAレベル(投野,2013)という状況を踏まえて,Aレベルの大幅 な細分化が検討された。さらに,Pre-Aの必要性が指摘された。CEFR同様,CEFR-Jも指導にも評価 にも使えるようにという基本的な考え方で策定された。表1は,CEFRとCEFR-Jの間のレベルの対 応を示したものである。

2.3 その他の CAN-DO リスト

CAN-DOリストは,その作成者の意図により,(1)自己の能力評価を目的としたものと(2)テス

トスコア解釈を目的としたものとに大まかに分類できる。(1)のリストは,特定のレベルの言語能 力が,CAN-DOリストのどのレベルにあたると認定されるべきかを示すものであり,また,(2)の リストは,TOEIC,TOEFLなどの検定試験の特定のスコアを取った学習者が,英語で何ができるか を示すものである。長沼(2008)は,(1)の目的のために策定されたCAN-DOリストを使うことが,

表1

CEFR A1 A2 B1 B2 C1 C2

CEFR-J Pre-A1 A1.1 A1.2 A1.3

A2.1

A2.2 B1.1

B1.2 B2.1

B2.2 C1 C2

(3)

学習を促進する動機づけとなりうるだろうとしている。また,それぞれの教室の文脈や学習目標に合 わせて,CDSの選択及び修正を行っていく必要があると述べている。また,利用意図を明確化して 開発することが必要だとしている。

(2)のテストスコア解釈を目的としたCDSとしては,2006年から英語検定協会が英語検定試験受 験のための指標として,英検独自のCAN-DOリストを示したという事例がある。その結果,英検の リストを活用した研究なども増えて,日本の教育現場の中でこうしたCDSが使用されることが多く なった。種々のテストスコアの解釈のためにCAN-DOリストが使われ,たとえば,GTEC(Global Test of English Communication)が,2000年よりリストを提示しており,TOEICやTOEIC Bridge,

TOEFL, ILTSでも,リストが指標として示されている。また,上記の目的の他に,教育プログラム

の難易度を学習者に示し,受講の指針を与える目的で,CAN-DOリストに言及しつつプログラム内 容が紹介されることもある。現に,2012年からは,NHKの英語の講座のレベルもCAN-DOリスト で提示され,受講する基準が示されている。

中学・高校・大学の英語教育におけるCDSの利用に焦点を当てると,その実情は次の通りである。

前述した2013年の文部科学省からの通達以前の取り組みを見ると,その多くにおいて,リストは自 己の能力評価を目的としたCDSとして利用されている。東京都千代田区立九段中等教育学校では,

中等学校として開校した当時から,英語科の教育方針をCAN-DOリストの形で提示して実践してい る。また,大学でも(清泉女子大学,愛知大学など),大学のカリキュラム改革や教授方法の統一の ためなどにCAN-DOリストが作成された。また,スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイス クール(Super English Language High School,省略形:SELHi,セルハイ)などの英語に特化した高 校(福岡県立香住丘高校,新潟県立村上中等教育学校,埼玉県立南稜高校など)は,四技能のバラン スの良い授業のために学校独自のCAN-DOリストを策定した(長沼,2008)。

2013年の文部科学省からの通達後,『各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の 形での学習到達目標策定のための手引き』(2013)が,全国の各学校に配布された。文部科学省は各 学校に手引きに乗っ取ってCAN-DOリストを作成することを求めている。筆者が調査を行った神奈 川県では,2014年3月までに各学校が教育委員会の示した雛形に沿ってCAN-DOリストを作成した。

同県では,実際には「リスト作成」の段階にとどまっており,そのリストを利用している学校は少 ない。2015年,本研究中に筆者が神奈川県内の高校の13名の英語教師に実施したアンケートの結果 は次の通りであった。すべての学校でCAN-DOリストを作成し,ほとんど(12名)の教師はリスト の英語学習に対する効果は期待できるとしているが,生徒に配布しているのは,3校のみ,また,そ れに基づいて指導し,リストを基に作成した目標が達成できている学校は2校のみであった。全国レ ベルでみると,2015年の全国的調査(『英語教育改善のための英語力調査事業(高等学校)報告書』)

によれば,学習到達目標を設定している学科(3)69.6%,達成状況を把握している学科30.7%,公表 している学科22.0%となっていて,その活用は十分にされているとは言えない状況である。

センター試験に代わる新しい試験が実施されようとしている中で,新しい試験で使われる四技能測

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定のための「基準」としてのCEFRの重要度は今後大きく変化していくことが予想される。文科省は,

CEFRと他の外部試験とのスコアの対照表を発表し,外部試験のスコアがCAN-DOリスト上でどの レベルとなるかを示している。英語力の評価がCEFRを中心とした形で相互参照される状況が出現 する可能性がある(文科省,2017)。この意味でCAN-DOリストを使った学習到達目標の重要性は増 してくるものと思われる。

2.4 CAN-DO リストを使った研究・調査

ここでは,CAN-DOリストと動機づけや英語力との関係を調べた研究・調査を幾つか示し,

CAN-DOリストの効果について今までにどのような検討がなされているかを紹介する。

名古屋工業大学では,個々の言語教育カリキュラムの目標を明確化する方法の例として,(a)工科 系大学の英語教員が作成したCAN-DOリスト21問(以下M-CDSと表記)と(b)TOEICと(c)大 学独自のカリキュラム直結型の統一テストの結果の3つを比較分析して,(a)のM-CDSの妥当性を 検証した(小山,2007)。M-CDSとTOEICとにはある程度の相関(0.33)があったが,M-CDSと統 一テストとの相関は高くなかった(0.22)。この結果から,2つの問題が浮上したとされた。第一に,

M-CDSがカリキュラムに基づいた統一テストとさほど相関しないということは,M-CDSとカリキュ

ラムとの整合性が不足している,ということを意味する。すなわち,カリキュラムに基づく教育の 効果測定のためにはM-CDSの妥当性を高めなくてはならない,ということである。第二に,M-CDS が扱う話題や機能のなかには,学習者たちが経験したことがないコミュニケーション上の具体的な事 項がある,という問題がある。そこで,小山は,経験のないものに関して(学習者が)想像で回答し ている場合,調査結果は適切に言語能力を反映していない可能性があると考察している。

宮本(2013)は,222名の高校生の英語運用能力と自己評価との関係を調べ,今後の自校版CDS 作成への考察を行った。(1)英語運用能力テストと,CAN-DOアンケートによって得られる自己評 価の得点(以下CAN-DO得点と表記)との間にどのような関係があるか,(2)上記(1)で得られた 結果に基づき,今後どのように指導を行って自校版CDSを作成するか,の2点である。具体的には,

宮本は,GTEC for StudentsとCAN-DOアンケート(学習に関する項目と具体的場面でのコミュニ ケーションに関する項目とを含む)を実施し分析した。その結果,学習面でのCAN-DO得点は,能 力群の主効果については有意であったが,コミュニケーション面でのCAN-DO得点については同様 な主効果は見られなかった。このことの意味は,GTEC for Studentsで良い点が取れても,現実的な コミュニケーションの揚面で英語が使えると生徒が感じているとは限らないということである。ま た,GTEC for Studentsなどで点を取れる上位の生徒の方が自己の能力を過小評価し,点が取れてい ない生徒が逆に過大評価する傾向があるとしている。学習者の関心事が大学入試であることを考える と,この傾向には,何らかの対応が必要である。例えば,学習者のセンター試験の得点を伸ばすため には,学習者が具体的に何ができてどのような力を伸ばしていかなければならないのかをさぐり,そ の能力を「教室内CDS」に落とし込む必要があると述べている。

(5)

岡崎(2014a)は,2年に渡って,県立学校の研究拠点高校4校生徒954人のCAN-DOリストを 使った実践を報告している。(1)CDSに基づいて行われた授業に対する生徒の意識はどのように変 化したか?(2)CDSに基づいて行われた授業によって自律的学習者に必要な能力が身についたか?

(3)CDS 形式による学習到達目標は技能別にどの程度達成されていたと生徒は感じているのか? 以 上の3点を研究課題として,アンケートを実施して分析した。最初の1年間の教育の前後を比較した 調査結果を見ると,授業全体への満足度および英語力の伸長についての満足度は良好であり,英語学 習への意欲は顕著な伸びを見せ,英語で行われる授業の理解度には著しい伸びがあった。しかしなが ら,生徒はCDS に基づいて授業が実施されていることを意識していないことがわかった。CDS 設定 によって自己目標設定力や自己評価能力の伸びが期待されたが,1年間終了の時点で生徒はそれらの 能力をまだ十分に身につけていなかったと報告している。

岡崎(2014b)は,2年目には,アンケート11項目で「授業への満足度」,「英語による授業理解度 と慣れ」,「英語使用有能感」,「学習への意欲向上」,「技能別到達度」,「自律的学習者の養成」などに ついて調査した。ほとんどの学校で「自己目標設定能力」「CDS による内省力」の低さがみられ,そ のことは自律的学習者の資質としての能力が十分身についていないことを示したと考えられた。 た だ,CDS は長期の目標のため,日々の授業の目標設定にうまく合致しないこともある。CDSをその 日の授業の目標に合致させ,日々の授業に落とし込む工夫と実践が今後ますます必要となると報告し ている。

米田,西村,細川(2011)は,日本人大学生114名を対象として,CAN-DOリスト使用の効果,

動機づけ,英語力などに関する実験を行なっている。2011年4月と8月に英語の学力テストと動機 アンケートを行った。調査項目は① 学力と動機づけの関係,② 学力と自己評価の関係,③ 学力と向 上心の関係,④CAN-DOリスト使用の有無と動機づけ・学力の向上との関係,の4点である。調査 の結果,次のことが分かった。(1)英語力が高い学習者と低い学習者を比べたところ,動機づけに ついての有意差はなく,動機得点の変化量については英語力と有意な相関はなかった。(2)TOEIC Bridge の点数とCDSによる自己評価との間にはCEFR A1からB1までには正の相関(0.32~0.47)

があった。(3)TOEIC Bridge の点数が高い学習者ほど,将来英語が出来るようになりたい,英語を 使いたい,といった希望が強かった。(4)CAN-DOリストの使用と非使用とを比べると,動機づけ への影響に関して差がなく,学力が低い学習者についてのみ,CAN-DOリスト使用が英語力向上に つながった。今後の有効な活用方法を見極めるための継続した実践的研究が必要であるとまとめて いる。

小林(2016)は,CAN-DOリストに基づく指導の回数を増やすと(a)CAN-DOリストを使った自 己評価,(b)動機づけ,(c)英語力の三者にどのような違いが起きるのか,を検証した。すなわち

(1)CAN-DOリストを提示しながら行った授業の回数,(2)学習者の動機づけ,(3)学習者の英語 力の三者の比較をした。さらに調査期間の前後に,CAN-DOリスト使用に関する意識調査を行った。

CAN-DOリストに基づく指導の回数を多くした実験群のクラスと前後の調査の時のみに回答した統

(6)

制群のクラスを比較したところ,動機づけの変化・英語力の変化の両方において,実験群と統制群 の2クラスの間に有意な差はなかった。しかし,リストを意識させた指導を多く行った場合,学習者 がリストの自己評価を高くつけるようになった。また,実験群で動機づけについても大きな低下が起 こっていないことから,CAN-DOリストの使用が動機づけの維持につながっている可能性があると している。また意識調査の結果をみると,「CAN-DOリストを意識して学習すると,英語の力を伸ば すことができる。」という質問項目に対する肯定的な反応が,調査はじめの時点から終わりの時点に かけて,有意傾向のある伸びを示した。

以上の文献の内容は次のようにまとめることができる。(1)CAN-DOリストを使って学習者が示 した自己評価と学習者の英語力とが合致しない場合があり,その理由としては,CAN-DOリストと 授業での指導内容との整合性が不十分であることが考えられる。(2)CAN-DOリストを使うことに よって,どのような指標(動機づけ・自己評価・英語力)が伸びるかは,研究によって結果が異なり,

明らかではない。

3.言語学習ストラテジー

次に,言語学習スラトテジーに関して,いくつかの先行研究を紹介する。言語学習ストラテジーと は,「言語習得を促進するため,情報を理解したり,記憶したりする際に用いる思考プロセスを指す」

(尾関,2010,p. 159)。Oxford(1990)は言語学習ストラテジーの特徴を直接的(記憶・認知・補 償)と間接的(メタ認知・情意・社会的)に分類した。多くの研究ではOxford(1990)のStrategy Inventory for Language Learning(SILL)などのアンケートを使用した調査が行われている。言語学 習ストラテジーについては,習熟度との関係を調べたもの(Cohen, 1998, Oxford, 1996など)や動機 づけとの関連を調べたもの(Chamot, 1999, Oxford & Nyikos, 1989)など多くの研究がある。

Hiromori(2004)は,111名の高校生を対象として,2003年4月と6月の2回,言語学習ストラテ ジーと動機づけを調査した。使用したのは,自己決定理論による動機づけのアンケート20項目と,

Oxford(1990)などから独自にまとめた20項目の言語学習ストラテジーのアンケートである。評価 は5段階で行わせた。この調査から,動機づけが高い程言語学習ストラテジーを多く使っているとい う結果が得られた。また,言語学習ストラテジーの使用に気づいているレベルが高い程,動機づけが 高いことも明らかになった。Hiromoriは,自分の学習についてどのような学習が適切かを判断でき るメタ認知の能力が大切であると述べている。言語学習ストラテジーの指導が動機づけを高める可能 性も指摘している。さらに,ストラテジー使用には訓練が必要であることも述べている。

小林(2013)は,言語学習ストラテジーの指導が動機づけを高めるかについて高校での調査をして おり,言語学習ストラテジーを活かし,学習の動機づけ向上をねらった活動を行えば,実際に動機づ けの維持・向上につながるのか,という点を研究課題とした。動機づけアンケートと言語学習ストラ テジーに関するアンケートを実験の前後に実施し,学習成績・実力テストの結果とあわせて検証し た。その結果,英語力の高い学習者は,内発的な調整の自己評価が高いという有意傾向が見られた。

(7)

言語学習ストラテジー使用と動機づけとの相関や,一部の言語学習ストラテジー使用と成績との相関 が見られ,特定の言語学習ストラテジーを指導することによって,ストラテジーを意識的に使用する 率が高まるということが示唆された。また,記述式アンケートでは,言語学習ストラテジーの使用に 関して,積極的・好意的な回答をしている学習者が多く,言語学習ストラテジーを指導する意味や必 要性が認められた。

以上の先行研究を見ると,学習者のストラテジー使用と英語力,及び,学習者のストラテジー使用 と動機づけの間にある程度の関係がある可能性が示唆されている。

4.調査の内容

4.1 リサーチクエスチョン

リサーチクエスチョンは,(1)ストラテジー指導(ストラテジーの存在を教え,アンケートにより 意識を向けさせる)が,学習者の動機と英語力に影響するか?(2)CAN-DO指導(英語力のさまざ まの能力の存在を教え,アンケートにより意識を向けさせる)が,学習者の動機と英語力に影響する か? の2つである。

4.2 被験者

中堅の公立高校3年生2クラスを被験者とした。前期末定期試験では,分散が等しくないと仮定し た2標本によるt検定で2つのクラスに有意差はなかった(T(77)=-1.41, p<0.16)。両方の群共に,

ほぼ半数の学習者は入試に英語を必要として学習しているが,一般入試よりは推薦入試やAO入試な どでの進学を希望している学習者が多い。同校で例年行っている調査によれば,英語への興味に関し ては,70%の生徒は興味を持っているが,ほぼ半数の学習者は,英語の学習があまり好きではない状 況である。この英語学習者集団は,中堅の高校の典型的な集団と言える。

4.3 実験内容

両群におけるトリートメントは以下の通りである。一方のクラス(19名)では,四技能の CAN-DOリストを用い(以下CAN-DO群と表記),他方のクラス(12名)では,言語学習ストラテジー のリストを用い(以下ストラテジー群と表記),それぞれのリストの項目を学習者自身がどの程度で きるかについてのアンケートに答える形で,学習者に学習時の自分の意識や行動を自己評価させた。

2016年10月から11月にかけて,週4時間の授業の中で,10回程度,特に意識させたい項目を明示 的に提示して指導を続けた。これに先立ち,2016年4月からCAN-DO群にはCAN-DOリストの説明 を,ストラテジー群には言語学習ストラテジーリストの説明をそれぞれおこなっていたので,実験開 始時点では,学習者達はリストに関する知識はすでに持っていたが,リストを使った指導は受けてい ない。

事前・事後テストとして,自己決定理論に基づく動機づけのアンケートとTOEIC Bridge縮小版

(8)

を用いた。11月末に事後テストとしてそれぞれの群に自己評価と動機づけのアンケートとTOEIC

Bridge縮小版を実施して,動機づけと英語力の比較・分析を行った。

4.4 CAN-DO リストと言語学習ストラテジーチェックリスト

CAN-DOリストについては,日本英語検定試験のリストを参考にして作成した。被験者には授業

中にCAN-DOリストに注意を向けさせるために項目を少なくして提示した。四技能のうち各技能に

ついて5項目を立て,合計20項目(例えば,<読む>については「単語が分かっていれば,物語やエッ セイなどを読むことができる」,<聞く>については,「日本人の先生が読んだ英文は聞き取ることが できる」,<話す>については,「挨拶程度の簡単な英語を話すことができる」,<書く>については,

「自分の日常のことについては日記などを書くことができる」など)を自己評価させた。それぞれの 項目において「できる」と「できない」を両極とする4件法のリッカート尺度を用いた。

言語学習ストラテジーチェックリストについては, Oxford(1990)を参考に記憶ストラテジー・ 認 知ストラテジー・補償ストラテジー・メタ認知ストラテジー・社会ストラテジー・情意ストラテジー からそれぞれ2項目を選び,合計12項目(例えば,「以前に学んだ内容と関連付けることができた」,

「周りの人と協力して学ぼうとすることができた」など)を自己評価させた。それぞれの項目におい て小林(2013)の方式を踏襲し「よくできる」と「できない」を両極とする5件法のリッカート尺度 を用いた。

4.5 動機づけアンケートと TOEIC Bridge 縮小版

動機づけのアンケートは,Ryan とDeci(2000)の自己決定理論から,廣森(2006)が作成したも のを参考に作成し使用した。各調整(内発的調整:例 学習そのものが楽しい,同一視的調整:例  行動を個人的に重要なものと思っている,取り入れ的調整:例 学習しないと不安になるので取り組 んでいる,外的調整:例 進学などに必要なので仕方なく取り組んでいる,無動機:例 動機づけが ない)に5つの項目があり,合計25項目を自己評価させた。「強くそう思う」と「全くそう思わない」

を両極とする6件法のリッカート尺度を用いた。

学習者の英語力を測定するために,TOEIC Bridgeから40分程度で実施できる縮小版を著者が作成 した。Listening問題22問,Reading問題20問である。

5.結果

2群における異なったトリートメントが,動機づけに与えた影響は次のとおりである。動機づけの 自己評価を行ったところ,ストラテジー群では有意差のある伸びはなかった。CAN-DO群では,取 り入れ的調整(t(18)=-0.1.9, p<0.08)・外的調整(t(18)=-2, p<0.07)で有意傾向のある伸びが あった。

TOEIC Bridgeの結果をみるとストラテジー群では,有意差のある伸びはなく(t(11)=-0.7,

(9)

p<0.49),CAN-DO群には有意差のある伸びが見られた(t(18)=-4.8, p<0.00)。

以上の結果をまとめると次の通りである。

1)ストラテジー指導が,学習者の動機と英語力に影響するか?

動機づけに対する影響は弱く,英語テストの英語力への影響もみられなかった。

2)CAN-DO指導が,学習者の動機と英語力に影響するか?

動機づけに対するある程度の影響があり,英語テストの英語力に対してはプラスの影響が あった。

6.考察

上記結果の原因として2つのことが考えられる。第一に,結果を問題にするCAN-DOリストと過 程を問題にするストラテジーリストとの間の本質的な違いがこの結果を生んだ可能性がある。Hyland

(1994)は,学習者間で得意とする学習方法や好きな学習環境に差がある可能性があるとしている。

すなわち,生徒たちの間にはもともと学習スタイルにおける個人差があり,ストラテジーリストを提 示された場合それが全員に対して説得力を持つとは限らない。このため,示されたストラテジーのリ ストを自分の英語学習に関連付けられない生徒もいると思われる。これに対し,CAN-DOリストの 項目は目標とすべき結果であるので,ストラテジーリストの場合ほどは個人差の問題は生じないはず である。

第二に言語学習ストラテジーの自己評価よりCAN-DOの自己評価の項目の方が分かりやすく自己 評価がしやすい,という可能性がある(4)。言語学習ストラテジーが上手く使用できるようになるた めにはトレーニングが必要であるとの指摘があり(Oxford & Nyidos, 1989, Hiromori, 2011),もしそ の通りだとすると,今回はそのようなトレーニングが十分でなかったことも考えられる。

7.教育的示唆とリミテーション

本研究の教育的示唆として,2点を挙げることができる。

第一に,本研究の結果に立脚すれば,高校生の学習者に対する英語指導において,時間的制約が大 きい場合は,学習方法を示すストラテジー指導よりも到達目標を示すCAN-DOリストの項目に意識 を向けさせる指導のほうを優先すべきであるということになる。

第二に,言語学習ストラテジー指導を行う場合は,指導の対象となる個々の学習者,あるいは指導 の対象となる学習者集団が持っている要因を十分考慮し,指導の際に与えるストラテジーの項目が学 習者の学習を本当に促進するのかどうか吟味する必要がある,ということも示唆されているように思 われる。

ただ,本研究に関して,少なくとも次のリミテーションが考えられる。最大の問題は,使用したリ ストの項目が異なっていたら,別の結果がでていたかもしれない,ということである。今回は限られ た授業時間の中で,限られた数の項目を使用したが,学習者の指向や学習スタイルにより合致した項

(10)

目を使えば,結果が異なっていた可能性がある。また,ほぼ9ヶ月に渡る実験で被験者の欠席などに より最終的に使えるデータの数がとても少なくなってしまった。さらに,被験者の高校の行事などの 関係でTOEIC Bridgeを行った時期が両群で異なった。

しかしながら,この研究により,CAN-DOリストや言語学習ストラテジー使用の自己評価が動機 づけや成績向上と繋がりがある可能性が示唆された。特にストラテジーのリストに比べて,今回成 果がより大きかったCAN-DOリストはより掘り下げた研究に値すると思われる。文献の中で東城

(2010)は「国際的に通用するコミュニケーション力が学習者一人一人にとって『個人的』に意味を なすものにするために,学習者が自分の言語能力を自己評価できるような客観的で具体的な指標を示 すことは効果的だ。」(p. 6)と指摘している。学習者が自分の学習の現状に鑑み,CDSに基づいて目 標を持って授業に臨むことによって,自己目標設定力が付くと岡崎(2014)は,述べている。今後,

特に,CAN-DOリストに具体的な英語運用能力を緻密に結び付け,リストを授業の計画のなかにき ちんと位置付けることにより,学習者の動機をさらに高めることができるのではないかと考えられ,

この面でこの研究が有益と思われる。

注⑴および ⑵ 本論の中で「学習意欲」「動機づけ」が近似の意味で使用してあるが,本論では,速水(1987,

p. 15),桜井(1997,p. 3)を参考にして使用した。引用文献に関しては著者の原文を極力尊重してある。

 ⑶ 原文のまま。普通科,総合学科などの「学科」を指す。

 ⑷

2017

3

月に,本実験に参加していない学習者

24

名を対象として言語学習ストラテジーのリストと

CAN-DO

リストについての調査を行った。すなわち,

9

名に言語学習ストラテジーのリストを示し,

15

名には,

CAN-DO

リストを示し,それぞれのグループに対してそのリストが自分の学習に役に立つかどうかなどの記

述をさせた。その結果,CAN-DOリストの方が目標としやすく評価しやすいとの記述が

73%を占め,ストラ

テジーに関しては,うまく活用することが難しいとの回答が

55%を占めた。

引用文献

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参照

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