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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

多層二分子膜を利用する無機化合物の組織化と次 元・構造制御に関する研究

一ノ瀬, 泉

https://doi.org/10.11501/3106977

出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(工学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

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(3)

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(4)

目次 頁

第1章 緒論

1 -1 序

1 -2 精密無機合成 (テンプレート合成)の現状 (1 )ゼオライト関連化合物

(2)層間化合物

(3)固体表面修飾ならびにゾル・ゲル法 (4)高分子化合物

(5 )逆ミセル・二分子膜

(6) BLM・単分子膜・LB膜

1 -3 固定化二分子膜を利用したこれまでの無機材料研究

}-4 問題提起と本論文の概要 参考文献

44 a斗A nhU 71 nxu nu

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1 1 1 1 1

第2章 二分子膜の分子設計と両親媒性化合物の合成

2-1 序 22

2-2 両親媒性化合物の分子設計 23

(1 )配位性二分子膜を用いた 金属錯体の二次元配列 23 (2)キャストフィルム層間への金属錯体の導入 23

(3)有機・ 無機界面の設計 24

(4)無機化合物の反応制御 25

(5)両親媒性化合物の分子設計 26

2-3 用いた化合物一覧 28

2-4 膜形成化合物の合成 30

(1 )ジチオオキザミド型両親媒性化合物の合成 30 (2)エチレンジアミン型両親媒性化合物の合成 32 (3)アゾベンゼン型両親媒性化合物の合成 33

(4)その他の両親媒性化合物 33

参考文献 34

(5)

第3章 自己組織性ジチオオキザミド-銅( n )配位高分子とその磁気特性

3-1 序 36

3-2 ジチオオキザミド誘導体の銅イオンとの錯化挙動と重合特性 37

(1 )長鎖アルキル 誘導体のクロロホルム中での重合特性 37 (2) GPC測定による分子量測定とESRスペクトル 39 (3)両親媒性ジチオオキザミドの水中での重合特性 41

3-3 キャストフィルムの構造解析と磁気特性 44

(1)キャストフィルムの多重層構造 44

(2 )キャストフィルムの磁気特性 46

(3)配位高分子 の重合様式 48

3-4 考察 49

参考文献 50

第4章 金属ノ\ライド錯体の配向固定化と 構造解析

4-1 序

4-2 金属ハライド錯体の層状固定化

(1)キャストフィルムの作成と銅ハライド錯体の導入

(2)反射X線回折、 DSC測定による多層二分子膜構造の評価 (3 )二分子膜一金属ハライド錯体のXPSスペクトル

4-3 金属ハライド錯体の構造解析

(1) ESRスペクトルによる配向評価と構造解析 (2) UY-YIS-NIRスペクトルによる構造解析 (3) 113Cd MAS-NMRスペクトルによる構造解析 (4) 多核NMR測定

(5)ラマンスペクトルによる構造解析 4-4 考察

参考文献

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(6)

第5章 CdS超微粒子の作成

5-1 序 82

5-2 エチレンジアミン型二分子膜 (1.) -CdX2 (X=Cl, Br)

複合フィルムの構造解析 83

(1) 反射X線回折、 DSC測定による多層二分子膜構造の評価 83

(2) XPSスペクトルによる錯体構造の評価 85

(3) 113Cd MAS-NMR測定による配位構造の解析 86

(4) 1. 2-CdC14、 1. -CdBr3複合フィルムの構造 88 5-3 1.2-CdC14複合フィルムを用いたCdS超微粒子の作成 89 5-4 1. -CdBr3複合フィルムを用いたCd-Br-S架橋クラスターの作成 92 5-5 二分子膜を鋳型とするCd-Sクラスターの作成 94 (1) 2C14GI uPhC6Da (豆) -CdCI2複合フィルム中でのクラスター形成 95 (2) 2C14GluPhC6PiOH (I) -CdCI2複合フィルム中でのクラスター形成 96

5-6 LB膜の層間を利用するCdS微粒子の作成 97

5-7 考察 98

参考文献 99

第6章 多核錯体の層状固定化 (1)

6-1 序 103

6-2 多核錯体の合成 105

(1) デカバナジン酸ナトリウム (Na6Vlø02B・18H2 0) の合成 105

(2) [CdlØ (SCH2CH20H) 16J4CI04の合成 105

6-3 デカパナジン酸 ([V1Ø028J6-) の層状固定化 105 6-4 デカカドミウム錯体 ([Cdlø (SCH2CH20H) 16J4+) の層状固定化 108

6-5 考察 111

参考文献 112

(7)

第7章 多核錯体の層状固定化(2)

7-1 序 11 4

7-2 多核錯体の合成 1 1 5

(1)オクタモリブデン酸アンモニウム((NH4)4Mo8026・5H20)の合成 115

7-3 オクタモリブデン酸([M08026J4-)の層状固定化 116 (1) j_ -Mo 8 026複合フィルムの作成と多重層構造の確認 116

(2) j_ -M08026複合フィルムの構造解析 118

7-4 混合原子価酸化モリブデン超薄膜の作成 1 21

(1) j_2-Mo8025複合フィルムの還元挙動 1 21

(2 )混合原子価酸化モリブデン超薄膜 1 25

7-5 リン酸型二分子膜を用いたオクタモリブデン酸の二次元固定化 129 (1) _g-M08026複合フィルムの作成と構造解析 129

(2) _g -M 0802 6複合フィルムの還元挙動 133

7-6 考察 134

参考文献 136

第8章 結論 8-1 総括

8-2 今後の展望 8-3 結言

参考文献

138 140 143 144

(8)

1-1 序

第1章 緒論

無機材料 は、 今日の先端科学技術のあらゆる場面で中心的役割を担 っている。 エ レクトロニクス産業におけるSi単結晶の 作成技術 、 高速光通信システムにおけるフ ァイバー加工技術などは、 既に我々が日常生活を営むための 必要不可欠な技術とな っている。 高温酸化物超伝導体の発 見1 )は、 多分野にわたる抜本的な技術革新を予 想させるものであり、 希土類含有ガラスのアップコンパージョン、 非線形光学材料 などは、 次世代の世界的情報ネットワークを担う重要な通信デ、パイスとして期待さ れている。 一方、 このような先端材料の多くが、 学問的には比較的早期に完成した と言われる古典的無機化学の上に成り立っていることも事実である。 実際、 これら は高混での溶融法に 基づいて作成 されており、 既知材料の高純度化や複合化ある い は微細加工技術を向 上させることで発展してきた。 今日の産業界における新素材開 発への強い 期待は、 従来の無機材料に関する研究がほぼ完了し、 特性 向上のための 技術 的・理論的限界が既に予測 されていることに由来している。 今後の無機材料研

究の目標が新しい物質群の探索であること 、 さらにこのためには構造設計と物性予 測が可能な新しい無機合成手法の開発が必要不可欠であることは明白であろう。

従来の混ぜて焼き堅めると いう固相系と 比較して、 気相・溶液系での無機合成は 近年著しい発展を見せている。 CVD法CChemical Vapor Deposition)は半導体デノ。

イスの製造に不可欠な薄膜形成プロセスに用いられており、 分子線エピタキシ一法 は基板作成時のリソグラフィ一法にかわる新し

い表面設計手法として期待されている2)。 最近 ではSTMを用いて原子一つ一 つをマニピュレ ートすることも可能 となってきた3 )。 図卜lに は気相から成長させた場合に得られる多種多様 な単結晶の例を示した45)。 一 種の芸術的な美 しさを有するこれらの幾何学的造形は、 気相系 ならではの精密無機合成の 可能性を示唆してい る。 一方、 溶液系での無機合成にもいくつかの 新し い手法が見 い出されている。 ブルーゲル法 は、 高い均一性を持った多くの光学材料を作成 するのための重要な製造プロセスのーっとなっ ているだけでなく 、 多くの徽密な複合材料を作

成する手法として用いられている6,7)。 また水 図トl気相から成長する結晶45) 熱合成は、 熱力学的に不安定な構造と組成を有 (上)Z r S2、 (下)L a 86

(9)

円/M

する複合金属酸化物の有力な 合成手段 として注目されている7)。 より 微細な 構造設 計が可能な気相・溶液系での無機合成は、 有機化学、 量子化学などの成果を取り入 れることで、 従来にはない特性を有する物質群と新しい応用面での展望を与えてい る8 - 1 Ø) 。 半導体超微粒子の量子サイズ効果11)や特異な非線形光学特性12), S iナノ メートル結品からの可視発光13\ 人工超格子構造を利用する量子化機能 素子14)な どはその例である。

著しく発展してき た気相・溶液系での無機材料合成も、 物質創造の観点から眺め ると いくつかの重要な問題点が指摘できる。 気相系は、 温度・圧力などの物理的ノA ラメーターを広範囲に設定することが可能であり、 超薄膜やヘテロ多層構造の作成 には好都合な 手法である。 しかしながら、 大がかりな 設備を用いる極限条件下(高真 空・極低湿など)での材料 作成のため、 高い生産 性が期待できず、 一般にバルク材料 には適していない。 また、 構造解析手段や原材料が限られていること、 薄膜 の面内 制御 が困難であることなど、 今後解決すべき問題点も多く存在する。 一方、 溶液系 は大量生産や有 機材料との複 合 化が容易であり、 無機銘体やイオン聞の反応性、 力 学的特性などを化学的に設計することが可能であるが、 精密な 構造制御が非常に困 難な状況にある。 有機材料の場 合、 既に1次元、 2次元、 3次元構造を作成する様 々な 手法が 開発されており、 分子レベルで配向や配列 制御することもある程度確立 されている15)。 しかしながら、 特に溶液系での無機合成では、 最近になって相レベ ルもしくは サイズ の制御が可能となってきた段階にあり、 著しく遅れていると言わ

ざるを得ない。 もちろん無機材料の多 様な 構成元素を自在に組み立てることができ れば、 ありとあらゆる特性や機能を開発することが 可能であるが、 このためには、

分子・原子レベルの究極的な精密構造制御手法を確立することが要求される。 また 従来の" bulk'down" 方式ではなく" a t om・up" 方式での構造設計を実現するために は、 無機化 合物の反応特性に関する詳細な理解とその制御手法の開発が必要である。

有機高分子材料あるいは生体 材料を無機材料と複合化することも将来の幅広い材料 設計のためには 重要である。 このためには湿式系でのソフト プロセスによる精密合 成手法を確立することが必要不可欠となる。

無機材料の原子レベルの組織化と高次構造制御を実現するための新しい方向とし て、 近年、 様々な秩序構造を鋳型とする精密無機合成(テンプレート合成)が活発 に 研究されている。 テンプレート合成は、 単にミクロ空間(ホスト)を無機材料の構造 鋳型として 利用するだけでなく、 構造媒体Cstructured media)中での固体形成に関 与する原子・イオンの数やそれらの拡散や反応性などを制御し、 ナノレベルの分子 構築技術を確立することを目的としているt Ø)。 実際、 ゼオラ イトの微空孔あるいは ラングミュア ・ ブロジェット膜の層間を反応場とする合成などは、 無機材料のサイ ズや次元を厳密に規制しながら周期的に配列することを可能にしているt6 t 7)。 層

(10)

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図ト2 Ni担持K4Nb6017光触媒と水の 完全分解18)

状複水酸化物であるK4Nb60t7・3H20の反 応性の異なる2種類の層間を利用してニ

Ca2 + H"CO� 2�""3 NH '" ' 3 寸' 寸' 喝'

ッケルや白金を担持し、 効率的な電荷分 図1-3バイオミネラリゼーションの 離と水の完全光分解を達成させた例もあ 模式図2Ø)

る(図1 -2) 1 8, 1 9)。 生体内石灰化過程(バ

イオミネラリゼーション)は、 湿式系のテンプレート合成の最も良い手本となるであ ろう20-25)。 この場合、 リジンやアスパラギン酸を多く含むタンパク質がマトリッ クス中で規則配列することで金属イオンを選択的に濃縮すると同時に、 結晶核形成 の促進と結晶成長の制御を行なっている(図1-3)。 図1-4には、 うに類の束lJ針の断面 ならびに藻類中の石灰質組織の電子顕微鏡写真を示す。 生体内での無機組織は、 形

図ト4バイオミネラリゼーションの具体例23)

(左) うに類, Paracentrotus 1 ividus の刺針の切断面(x340) (右) 藻類, Erni1iania huxleyi中の球状石灰質(x 16000)

(11)

態が極めて種特異的 であり、 生体高分子と複合化することでその結晶性や化学的、

組織的、空間的なあ らゆる面での適切な規制を行っている。 このような有機組織体 による無機組織の厳密な構造制御が常混・常圧の条件下 で見事に達成されているこ とは驚異に値する。

合成二分子膜の水溶液から水を温和な条件で留去すると柔軟なフィルムが得られ る。 このフィルムは、 固定化二分子膜フィルムもしくはキャストフィルムと呼ばれ 10万層にも及ぶ秩序正しい多重層構造がそれぞれ独立して安定な二分子膜屑から構

成されている。 本論文では、このようなキャストフィルムの多重層構造を鋳型(テン プレート)とする無機材料の原子レベルの構造制御手法の確立を目指した。 具体的に は、 配位結 合、 共有結合、静電的相互作用などの様々な駆動力を用い て、キャスト フィルム中での金属錯体の規則正しい二次元配列を検討した。 次にこれらを基礎と して、配位高分子、 半導体超微粒子、 Cd-Br-S架橋クラスター、 混合原子価金属酸化 物超薄膜などの多くの無機材料の作成ならびに構造制御手法の開発を 行った。

本章では、次節において気相・溶液系での無機材料の精密合成に関するこれまで の研究を特にテンプレート合成の立場から総括し、自己組織性分子集合体を鋳型と する無機材料作成の意義ならびに問題点を明確にした後、二分子膜キャストフィル ムを利用する精密無機合成につ いて述べる。

1-2 精密無機合成(テンプレート合成)の現状

既に、有機・無機の多種多様な構造媒体を用いた様々な無機材料の精密合成(テン プレート合成)が検討されている。 また、無機構造を制御する方法にも、(1)原子・

イオンの拡散方向を制御する、(2)反応する原子の数をマトリックスを用いて規制す る、(3)国体表面を鋳型とする、(4)マトリックスの排除体積を利用する、(5)膜を介 したベクトル的な物質透過を利用する 等多くの手法が用いられている。 取り扱って いる無機材料も広範囲に渡っており、 合成上の目的も多種多様である。 本節では、

二分子膜キャストフィノレムを用いる無機材料の精密合成手法の位置づけを明確に す るた めに、現在盛んに研究されている気相・溶液系での無機精密合成を概観する。

ここでは、テンプレートの種類に着目し、 以下のように大きく6つに分類してまとめ た。

(1)ゼオライト関連化合物

ゼオライト関連化合物は、比較的大きな細孔窓(口径: 7.2 Å )が三次元網目状に連 結したY型ゼオライト、一次元の細長いトンネル構造(口径:5.6XIIÄ)を 有するセ

ピオライト等、様々な細孔構造を有するものが知られており、多くのテンプレート 合成に用い られている2610 またこれらのゼオライト関連化合物自身も、多くはテト

(12)

rhu

ラプロピルアンモニウム等の有機塩を鋳型として 合成されており、 テンプレート合 成の一部と考えられる。 ゼオライトは、 細孔内にイオン交換 可能な金属イオンを 有 し 、 また細孔内に含まれる結晶水を除くと様々な揮発性分子を取り込むことが可能 である。 これらを利用して、 大きさや構造が厳密に制御された多様な無機材料が作 成されている。 Ozinらは、 Y型ゼオライトの空孔に気相から金属カルボニル錯体、

M(CO)6,(M

=

Cr,Mo,W)、 を導入し、 熱分解もしくは光酸化することで種々の酸化状 態の金属酸化物クラスターを作り分けることに成功している27,28)0 Her ron、 Ya ng らは、 Cd2+をイオン交換したY型ゼオライトにH2Sガスを吹き付けることで、 Cd4S4 キューピッククラスターを作成している29,3Ø)。 また市川らは、 Y型ゼオライトの 細孔内にRh3+、 Pt2+をイオン交換し、 CO+ H2ガスを反応させることにより、 直径約 13 ÅのRh6(CO)16、 PtI2(CO)μクラスターをほぼ100 0/0の収率で 合成している31)。

同様にChoらは、 Rh3+を置換したY型ゼオライトからRh20""Rh50のメタルクラスター を作成している32)。 このような、 ゼオライトの細孔窓(7.2Â)より大きなクラスタ ーを 細孔内で作成する手法は、 " シップインボトル合成法" と呼ばれている。 ゼオ ライトの空孔を鋳型として用いると、 10 Å程度の無機クラスターを容易に作成でき るだけでなく、 単独で は不安定なクラスターを周期的に規則配列させることが可能

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図1-5ゼオライト関連化合物のテンプレート合成 (a) Y型ゼオライトに導入さ れた金属カルボニル錯体27)、 (b)単結晶ゼオライトの高分解能電子顕微鏡像33)、

(c) Cd4S4キューピッククラスター3Ø), (d) MCM-41の合成34)

(13)

となる。 このような物質では、 磁性や光学的特性などの物性物理学的に重要な現象 が現れつつあり、 今後も興味ある結果が見い出されるものと期待される3 3)。 一方、

最近Beckらは、 濃厚な界面活性斉IJの存在下で大きなカラム状 細孔を有するゼオライ ト(MCM-41)が作成されること、 またその細孔径は、 界面活性邦jの分子長を変化させ ることにより15'"'-'100 Åの範囲で制御可能なことを見出している34)。 また、 柳湾、

稲垣らは、 長鎖アルキルアンモニウムをイオン交換した層状シリケートを熱処理す ることで、 均一なメソ孔を持つシリカ多孔体を合成している35,36)。 長鎖アルキノレ アンモニウム塩のヘキサゴナル状分子集合構造を鋳型とするこれらのメソポーラス クリスタルの合成は、 無機合成に新しい方法論を与えるだけでなく、 多くの応用面 での展開が期待できょう。

(2)層間化合物

三次元網目状や一次元ト ンネル状の構造を有するゼオライトと同様に、 多くの層 状化合物も無機材料の二次元鋳型として利用 されている。 ケイ酸塩である粘土鉱物、

遷移金属二硫化物、 遷移金属酸化物、 リン 酸ジルコニウムなどはこれらの代表的な 例であり、 層間でのイオン交換や酸化還元反応を伴うインターカレーションを利用 した種々の物質設計が試みられている37)。 例えばCaoらは、 金属イオンを層間に包 接したアルキルリン 酸のジルコニウム塩(M2+ [Zr (03PCH2CH2C02 -) 2J, M = Zn, Cd,

P b)にH2Sガスを吹き付けることで半導体超微粒子を作成しており 38)、 Yoneyamaらは、

粘土層間にチタン アルコキシドを用いてT i 02ピラーを作成し、 アルコールの光還元 特性を検討している3910 またKimらは、 本来、 半導体的特性を有する層状複水酸化 物(K4-x Hx Nb6017・nH20)にPtやルテニウム錯体を組みこむことで光化学的な水素発生 に成功している4Ø)。 層状化合物のピラー化に関しては、 既に多くの研究が行なわれ ている。 Sprungらは、 粘土鉱物にフェニルトリクロロシラン処理を行うことで、 ま たLerfらは、 M003やTaS2に[A1 04 A 1 1 2 (0 H) 2 4 (H 2 0) 1 2 J 7 +や[Bi 6 (OH) 12J6+のような多 核錯体をイオン交換することで、 高い表面積を有する材料の作成やその細孔径制御 を行っている41 ,42)。 しかしながら、 これらの材料では構造評価が不十分な場合が 多く、 また物性が試料の状態に非常に敏感である点など、 今後解決すべき課題も多

し\43 )。 一方、 オングストロームオーダーの量子井戸構造とその光学的特性の見地か ら、 有機・ 無機複合型の層状半導体が多くの注目を集めている44)。 中でも金属ハラ イド錯体の長鎖アルキルアンモニウム塩((RNH 3)2MX4; M = Pb2+, Cd2+, etc.; X =

Cl-, Br-, r-)は、 二次元的に架橋したペロブスカイト構造が長鎖アルキノレ基によっ て隔てられた構造を有し、 層間に強く拘束された励起子吸収特性を示すことが知ら れている45)。 最近Calabreseらは、 (RNH3)2(MeNH3)n-l Pbnl3n+1組成の一連の層状ペ ロブスカイト化合物を合成し、 ヨウ化鉛ペロブスカイト層の厚みに依存して 励起子

(14)

吸収特性が連続的に変化することを見い出した46)。 このよう研究は、 湿式系での超 格子作成の先駆的な例であり、 今後の展開が期待される。

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図1-6層状化合物を用いるテンプレート合成 ( a)層状酸化物半導体を用いた 光化学的水素発生40)、 (b)層状化合物のピラー化42)、 (c) (Ct0H21NH3)2PbIo4 の構造モデル45)、 (d)二層型鉛ハライド化合物46)

(3)固体表面修飾ならびにゾル ・ ゲル法

固体表面構造を鋳型とする無機合成は、 気相系を除くと現時点ではそれほど多く 存在しない。 また、 ゾル ・ ゲル法に関しては、 先のゼオライト関連化合物の節で既 に述べた。 しかしながら、 特に湿式系での無機材料の構造設計もしくは複合化の観

点、からいくつかの特筆すべき研究があり、 これらにつ いて簡単に紹介する。

最近Malloukらは、 国体表面をデザインする多くの手法 を提案しており、 有機リン 酸化合物とジルコニウムとの強い結合力を利用し た交互積層型薄膜の作成47-49)あ るいはNi[Pt(CN)4Jなどのホフマン型平面シート状錯体の逐次積層膜の作成などを報 告している5Ø)。 同様に、 金とアルキルチオール5 t )もしくはアルミニウムとカルボ キシレート52)などの特異な結合を利用した表面修飾法53)も、 固体表面上で種々の

(15)

また、

無機材料同士を複合化する手法として頻繁に利用されるようになってきた5410 荷電した固体表面に反対の電荷を有する高分子電解質を交互に吸 最近Oecherらは、

このような表 着させることで多層高分子超薄膜を作成する手法を開発している55)。

面吸着を利用して無機超薄膜を作成する試みも数多く行われている5610

ゾル・ ゲ、ル法の中にも有機・ 無機複合あるいは高次構造設計の観点から新しい展 両末端にトリエトキシシリル基を持つジフェニル、

伊jえば、Sheaらlま、

開が見られる。

多孔性シリカの作成を行っ トリフェニル誘導体 などの様々な有機化合物を用いて、

テトラシアノフェニルメタンとCu+とを3次元的に 同様にHoskinsらは、

ており57)、

またPfennigらは、

約9Äの規則的 な空孔を有する材料を58)、

錯化させることにより、

K2PdCI4とK3Fe(CN)6問の架橋反応を利用する新しいタイプの無機高分子ハイドロゲ

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図1-7国体表面修飾やゾル ・ ゲル法における最近の研究

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(b)半導体微粒子による固体表面修飾52\

- ゲ、ル法による有機/無機ネットワークの作成57) シート状錯体の多層膜5Ø)、

(4)高分子化合物

もしくは金属や半導体微粒子を作成する 触媒等の担体として、

高分子化合物は、

特に配位性基やニトリル等の 金属微粒子の表面と強く結合して凝集を防ぐことか 場合のマトリックスとして広範囲に利用されている。

極性基を側鎖に持つ高分子は、

(16)

-

9

-

ら頻繁に用いられている。 例えばLyonsらは、 ポリ(2-ヒゃニルピリジン)と銅ホルムア ルデヒドの高分子銘体を熱分解することにより、 直径約35 ÅのCu超微粒子を作成し ている60)。 また戸嶋らは、 ポリ(Nーピニルー2ーピロリドン)を保護ポリマーとして金 属塩化物錯体をアルコール還元することにより、 AuやPtのクラスターを作成してい る61 )。 金属クラスターや化合物半導体などのドメイン構造をブロックポリマーの層 分隊特性を利用してある程度制御することも可能となってきた62 ,63)。 高分子マ ト リックスは、 原子やイオンの拡散や微粒子の凝集を単に抑制しているだけでなく、

無機材料の結品構造の鋳型として働く場合もある。 実際、 Bianconiらは、 ポリエチ レンオキサイド中に分散させた塩化カドミウムとS(Si (CI-I3)3)2から 岩庖型CdS粒子が 形成されることを報告している64)。 このような結晶形態は通常高圧下でのみ形成さ れる。 従って、 CdS粒子の成長過程にポリ

エチレンオキサイドが大きな影響を与え ていることは明らかである65)。

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図1-8高分子化合物を用いたテンプレート合成 (a) ポリエチレンオキサイド 中で形成された岩塩型CdS微粒子65 )、 (b)フェリチンコアを用いたナノ微粒子 合成70) 、 (c)多孔質高分子膜の構造とAuマ イクロチューブ71

72)

生体高分子を用いた無機材料のテンプレート合成も盛んに研究されるようになっ てきた。 Dameronらは、 ある種のイース ト菌の解毒作用を利用して20 Å程度のペプ

(17)

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チドコートCdS微粒子を作成している66,67)。 一般に細胞内では、 有害な重金属イオ ンの濃度が高い場合にγーグルタミン酸やシステイ ンを多く含むタンパク質が合成さ れ、 これらが重金属を選択的に濃縮すると同時に無筈な無機固体として排出する機 構が存在する68,69)。 このような重金属の解毒作用を利用する無機合成は、 単に微 粒子作成の手法に留まらず、 バイオミネラリゼーションの機械を分子論的に解明す るためにも重要であろう。 タンパク質の分子集合体(フェリチン)を利用する超微粒 子の作成は、 Mannらによって報告されている22.7 Ø)。 フェリチンは、 24個のタンノー。

ク質が集合して8"'9 nmの空孔を形成し、 内部に約5 nm の酸化鉄微粒子を含んだ超分 子構造を有する。 これらをH2Sガスに曝すこと、 あるいは内部の酸化鉄微粒子を取り 除いたアポタンパク質に異なる金属イオンを取り込ませることで、 Fe2 S3、 Mn203、

Fe304などの超微粒子の作成が可能である。 また、 高分子やアルミナの多孔質フィル ムは30 nmから1 0μm の範囲の多様な細孔径を有し、 これらをテ ンプレートとして様

々なサイズのマイクロチューブが作成されている71 ,72)。

(5)逆ミセル ・ 二分子膜

溶液中での 有機分子集合体は、 微粒子作成あるいはバイオミネラリゼーションモ デルの観点から既に多くの研究が行なわれている73)。 逆ミセル中では、 反応原子の 数を制限することで無機固体のサイズを制御することが可能であり74\ これらを利 用してCdS超微粒子74\ メタルクラスター75)などの合成 が行われている。 一方、 二 分子膜などの発達した分子集合体では、 二次元的な荷電表面を利用した無機固体の

析出、 あるいは膜を経由した物質透過を利用することにより76)、 新しい無機材料の 合成 ルートが開発されている。 特に後者では、 二分子膜の内側と外倶1)に異なる微粒 子を作成することができ、 機能性有機分子を取り込ませることにより、 膜を介した 光電子移動システム などを作成 することが可能である77 )。 さらに近年、 水中での脂 質二分子膜の多様な会合形態(ロッド状、 板状、 ひも状会合体等)とその表面での加 速された結品成長を利用した無機材料の形態 制御の研究も多く試みられるようにな ってきた78,79 )。 これらの研究は、 バイオミネラリゼーションのモデル研究として だけでなく、 界面を利用したクルスタルエンジニアリングの手法として広く展開し ようとしている88-8410

逆ミセルや二分子膜中で作成された超微粒子は、 それ自身で安定に存在できず、

脂質分子を取り除くと凝集を起こしやすい。 一方Steigerwaldらは、 逆ミセル中で作 成したCdSe超微粒子(豆50 Å)の表面をトリメチルシリルセレンでキヤツピングする ことで有機溶媒に可溶かつ安定な分子性クラスタ一種として単離することに成功し ている8510 またKortanらは、 逆ミセル中で作成したZ nS粒子の表面にCdSe 層を析出 させた後、 チオフェノールでキヤツピングすることで、 コア ・ シェル構造を持つ微

(18)

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図ト9逆ミセル、 二分子膜を用いたテンプレート合成 (a)二分子膜を介した光 電子移動システム77)、 (b) キャップドCdSeクラスター85), (c)ロツド状会合体

表面での様々な無機物の析出79)

粒子の作成に成功している86)。 微粒子 の成長を表面キャッピングによって停止させ る手法は、 半導体超微粒子の容易な粒径制御手法として近年幅広く用いられるよう になってきた87-89)。 しかしながら、 これ らのチオールキャップされ た半導体超微 粒子は、 有機溶媒中で容易に光開裂し、 ジスルフィドを形成しながら凝集、 沈澱す るという欠点、も指摘されている90 )。

(6)BLM.単分子膜・LB膜

BLM(black 1 ipid membrane)は、 先の二分子膜と同様な脂質分子の2次元的な分子 集合体であるが、 二種類の水溶液が一枚の分子膜 で仕切られた構造を持つため、 無 機材料の分子膜表面での析出挙動の研究に古くから用いられてきた73)0 BLMを介し た物質透過と電気化学的手法を組み合わせること で、 既に多様な無機材料(Fe304,

PbS, Cu等)の作成が行なわれており、 これらの超微粒子状態での電気化学的、 光化 学的、 分光学的特性が詳細に研究されている91- 94)。 有機分子集合体の表面を利用 するテンプレート合成では、 気/液単分子膜やLangmuir-Blodgett膜(LB膜)を用いた 多くの研究がある。 例えばHeywood らは、 スルフォン酸長鎖アルキル誘導体の単分子 膜が気/液界面でのBaSOAの結晶化と配向制御に有効であることを報告しており95)、

(19)

-

1 2

-

配位性単分子膜が気/液界面でのCdS微粒子形成の制御に利用できることを

Y iらは、

アラキジン酸単分子膜を用いPbS結 晶をピ タ またZhaoらは、

報告している9610

同様な手法を用いる気/液界団での無 る97)。

キシ ャル成させことに成功して

国内外の係々な研究グループからの報告が見られる98- 1 03)。

機合成に関しては、

気/液単分子膜を固体基板上に移し取ることで積み重ねられたLB膜は、 2次元の

原子やイオンの拡散を面内方向に限定させることが可能であ 異方的な空間を有し、

GrieserらはCdSやIIgSの Scoberg、

Zylberajch、

Smotkin、

このことを利用して、

ステアリン酸カドミウムのLB 一方森口らは、

超微粒子作成を行っている104-107)。

さらにCdC12水溶液に浸したのち再び 膜をH2Sガスに曝すことでCdS微粒子を作成し、

操作 CdS粒子が段階的に成長することを見出している。

H2Sガスに曝すことで、

また、 最近 を逐次繰り返すことでCdS超薄膜を作成することも可能である1ø 8,109)

アラキジン酸カドミウムのLB膜にHIガスを吹き込むことで高度に配向し

P i k eらは、

たCdI2結品が得られることを報告している11 Ø)。

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BLM表面に形成され

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LB膜を用いたテンプレート合成 単分子膜、

図ト10 BLM、

気/液単分子膜を用いた半導体超微粒子の作成1ØØ)、

Langmui r-Bl odgett膜層間でのCdS薄膜の逐次合成1ø 8)

、IJJ ・-hu rrt、、

たFe304超微粒子93)、

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(20)

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}-3 固定化二分子膜を利用したこれまでの無機材料研究

固定化二分子膜中での2次元的な分子配列構造を利用した金属銘体の組織化に関 する研究は、 合成二分子膜研究の比較的初期の段階から活発に行われてきた。 既に、

サイクラム、 ß-ジケトン、 ジベンゾイルメタン等の配位性基を有する多くの両親 媒性化合物が合成されており、 それらの二分子膜状態での分子集合併造と錯化能に 関する詳細な研究が行 なわれている 1 1 1 -1 1 4)。 また、 固定化二分子膜の層間にプロ トポルフィリンなどの種々の水溶性金属錯体を特定の傾きを持って配向させること

も可能となっている1 1 5-11 710

固定化二分子膜(キャストフィルム)は、 二分子膜がフィルム面に平行に数万層積 み重なった構造を有し、 無機材料の2次元分子鋳型として利用することが可能であ る。 実際、 坂田らは、 メチルトリメト キシシランを含んだカチオン性二分子膜の水 溶液からキャストフィルムを作成し、 これをアノレカリ処理することで約20 Åの厚み のシロキサン超薄膜を作成している 1 18)。 また岡田らは、 FeC12やFeC hを含んだキ ャストフィルムをアルカリ処理することで、 層間で規則的に配向したマグネタイ ト を作成することに成功している 1 1 910 さらに堤らは、 80 Å の酸化セリウム粒子とア

ヱオン性二分子膜との混合水溶液からキャストフィルムを作成し、 これを3000Cで数 時間焼成することで、 規則的に積み重なったアルミナ多層膜を作成することに成功 している12ø , 1 21 )。 これらの研究は、 二分子膜水溶液と同時にキャストするという 簡単な操作で、 キャストフィルム層間に様々な無機材料の前駆体をかなり規則的に 固定化できることを示している。 このような2次元配列化は、 二分子膜が自己組織 的な分子集合体であり、 分子膜一層で独立して安定な膜構造を形成していることに

CH3(CH2

図1-11配位性二分子膜の分子 構造

(21)

-14-

由来している。

一方、 前述した配位性二分子膜を用いた無機合成も検討されている。 著者ならび に君塚らは、 サイクラム-Cd2+銘体を親水部と して持つ二分子膜のキャストフィルム を作成し、 これを112Sガスに曝すことで量子サイズ領域(直径:30.-.,..,50 Á)のCdS超微

粒子の作成を行っているt 22)。 この場合 、 二分子脱疎水部の分子構造やキャストフ ィルムの物理化 学的状態(ゲ、ル-液晶相転移等)を用いて形成されるCdSクラスターの

粒径を制御することが可能である。

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図ト12固定化二分子膜を用いた無機超薄膜の作成 (a)シロキサン超薄膜118)、

(b) 多層状Ce02フィルムの断面t 2 ø )

1-4 問題提起と本論文の概要

前節までに述べたように、 無機材料の精密合成を目的とする様々なテンプレート 合成が検討されており、 既に多くの重要な成果が得ら れている。 しかしながら、 無 機材料の組織化と新物質創造の観点から 個々の研究例を眺める と、 それぞれの構造 媒体(structured media)に対していくつかの問題点が指摘できる。

ゼオライトや層状化合物などの無機系の構造媒体は、 無機化合物本来の剛直性に 基づいた厳密な構造規制が可能であり、 物理化学的に非常に安定であること、 有機 物から金属まで幅広い材料 との複合化が可能なことから、 将来的には多くの有望な 物質系を生ずる 可能性を秘めている。 反面、 単結晶や配向薄膜の作成技術の開発が 遅れており、 ミクロ な構造特性をマクロな材料物性へ直接変換することが現時点、で は期待できない。 また、 利用できる構造媒体の数に限りがあること、 複数個の材料 の組織化や高次構造を制御する手法が見あたらないな ど今後解決すべき問題も多い。

一方、 有機分子集合体を構造媒体とする無機合成は、 分子設計が容易であること、

(22)

-15-

多様な分子集合構造を利用できること、 薄膜化や高次構造制御の手法がある程度確 立されていることなど、 無機系の構造媒体にはない多くの特長を有する。 また特 に 溶液系では、 分子集合体のサイズがナノメーターからマイクロメーターの範囲に渡 っており、 様々な無機材料の前駆体(イオン、 金属錯体、 クラスター、 無機高分子) との組合せが可能なことは非常に魅力的である。 もちろん、 無機の構造媒体と比較 して化学的 ・ 力学的安定性が低いことは明らかで、ある。 しかしながら、 温和な条件 下での精密無機合成手法を確立することは、 優れた有機/無機複合システムを開発 するための必須条件と考えられる。 おそらく有機分子集合体を用いるテンプレート 合成での最大の問題点は、 分子集合構造の唆昧さと有機・ 無機界面の構造に関する 知見の少なさであろう。 これらに関しては、 気/液単分子膜や固体表面を用いた限 られた研究例が報告されているに過ぎず、 今後の重要な課題と考えられる。

固定化二分子膜フィルムの構造媒体としての有用性は、 超微粒子や無機超薄膜の 作成からも既に実証済みである。 しかしながら、 これまでの研究では、 単に分子や イオンの拡散方向や無機反応に関与する原子数を限定するという方法論を用いてお り、 無機材料にサイズや形態以上の構造制御を行うことができなかった。 このこと は、 有機分子集合体を利用する精密無機合成に共通した問題であり、 新しい物質系 を創造する上での決定的な障害となっている。 固定化二分子膜フィルムの独自性は、

単に分子膜一層で独立した2次元の" 仕切り" を提供するだけでなく、 平面構造が 保証されていることにより特定の表面構造を設計できることにある。 無機固体形成 では、 成長表面での反応制御が非常に重要となるが、 これが有機・ 無機界面の設計 により実現可能なことは、 先に述べたバイオミネラリゼーションの機構からも明ら かで、あろう。 即ち、 分子膜表面を用いた無機イオンの選択的濃縮や無機国体形成過 程における反応性の 制御が実現されることで、 初めて原子レベルの精密無機合成が 可能となる。 さらに、 無機固体と有機膜表面とを分子レベルで対応づけることが可 能となれば、 優れた有機/無機複合材料の作成に新しい設計指針を与えるだけでな く、 有機分子集合体を用いる広範囲なテンプレート合成に大きく貢献するものと考 えられる。

本論文は、 これらの問題点をうけて、 次に挙げる事項の達成を主な目的とした。

①二 分子膜キャストフィルム中に金属錯体を精密に配列させる手法を開発し、 それ らの構造評価を行うこと。 また導入された金属錯体の配位構造や反応性を二分子 膜の表面構造を用いて制御すること。

②キャストフィルム中に導入された個々の金属錯体を架橋重合させ 原子レベルで 次元制御させた無機高分子を作成すること。 また無機・ 有機界面が分子的に対応

(23)

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づけられた新たな低次元無機固体を作成すること。

③低次元無機国体の物理化学的特性を個々の金属問相互作用から分子論的に解明す ること。 またこれらの特性を制御する手法を開発すること。

④有機・ 無機複合化による優れた機能システムを開発すること。

本論文は8章 より構成されて いる。 以下に本章(第l章)を除いた各竿の概要を述べ る。

第2章

分子膜の高 い配列秩序性を無機化合物へ反映させ、 無機材料の構造や反応性を 制御するための木研究の基本的な戦略について述べる。 またこのために必要とな る 分子膜の特性や両親媒性化合物の分子設計につい て述べ 、 具体的な合成仔IJを述

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第3章

金属集積化の手法として架橋型配位子(ジチオオキザミド)を有する両親媒性化 合物の金属イオンとの錯化ならびに配位高分子の形成挙動について述べる。 また 金属間相互作用としてこの配位高分子の磁気特性に注目し、 構造秩序性と関連づ けて評価する。

第4章

二分子膜キャストフィルム中に金属錯体を高秩序に配列させる新しい手法とし て、 金属ハライド錯体のイオン交換法とco-cast法に関して述べる。 さらに二分子 膜層聞に配列された金属錯体の構造の分光学的な評価法に関して述べる。 イオン 交換法ならびに本章で述べら れる錯体の構造解析手法は、 後のキャストフィルム 層間での無機薄膜材料の構造評価の基礎となる。

第5章

前章で述べ たキャストフィルム層間に配列した 金属ハライド錯体を半導体超微 粒子(CdS)の作成に応用した結果について論じる。 ここでは、 特にカドミウムハラ イド錯体の二分子膜層間での配列状態とそれらのH2Sガスとの反応性を関連づけて 論ずる。

第6章

キャストフィルム層間へのイオン交換法による金属錯体の配列手法をより大き な多核錯体([V1 0028J6-, [Cd1 ø (SCH2CH20H) 16J4 +)へと拡張し、 二分子膜/無機ク ラスターの交互多重層構造を作成した結果について論ずる。

第7章

オクタモリブデン酸イオン(MOS0264-)をカチオン性二分子膜の層間に高密度に

(24)

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導入し、 原子数個分の厚みの金属酸化物超薄膜を作成した結果について述べる。

一方、 リン酸型二分子膜 のキャストフィルム層間でのリン酸とモリブデン 酸との 共有結合形成を駆動力とする酸化物クラスターの導入も行い、 生じる酸化物超薄 膜について比較検討する。 さらにこれらの複合フィルムを化学的に還元して作成 した混合原子価金属酸化物超薄膜の構造 ・ 物性に関して論ずる。

第8章

本研究で得られた結果を総括し、 全般にわたる考察をおこなう。 さらに、 本論 文の成果を基礎として現在活発に展開されている研究を紹介し、 今後の可能性に ついて考察 する。

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(29)

円〆臼円〆'U

第2章 二分子膜の分子設計と両親媒性化合物の合成

2-1 序

固定化二分子膜フィルム(キャストフィルム)は、 個々の二分子膜層によって構成 される巨視的な多重層構造がフィルム面と平行に形成されている1 ,2)。 分子の厚み の秩序正しい平面構造がフィルム全体に渡って保障されていることは、 キャストフ ィルムの二次元鋳型としての最大の特徴であり、 構成分子の分子設計により分子配 列パターンや表面(層間)構造を自在に設計することを可能にしている。 本論文では、

このような キャストフィルムの分子鋳型としての特徴を最大限に利用し、 粕密な無 機合成、 即ち、 無機材料の構造や反応性を原子レベルで制御すること目指した。

緒言でも述べたように、 これらの目的を達成するためには、 (1 )キャストフィルム 中へ金属錯体を高密度に導入し、 それらの配向や配列を制御すること、 (2)層間での 無機錯体の構造や反応性を制御すること、 (3)個々の金属錯体を縮合あるいは架橋重 合し、 次元制御された無機高分子あるいは低次元無機固体を作成すること などの諸 問題を解決する必要がある。 もちろん、 このようなマトリックス機能を同時に満た すような二分子膜化合物の設計は、 現時点では非常に困難であり、 またキャストフ ィルム中で作成される無機固体の種類(金属酸化物、 金属ハライド、 金属カルコゲナ

イト等)によっても全く異なってくると考えられる。 このため本章では、 キャストフ ィルムの分子鋳型としてのマトリックス機能を分割し、 個々の目的に応じた二分子 膜の分子設計について考察する。 即ち、 金属錯体の精密な導入、 有機 ・ 無機界面の 設計、 無機化合物の反応制御を行うためにそれぞれ必要となるマトリックスの構造 要素を個別に議論し、 無機固体と有機分子膜表面とを分子的に対応づけるためのキ ャストフィルムの特性や構成分子の分子構造につい て考察する。 最後に本論文で用 いた化合物の分子構造を示し、 具体的な合成例を述べる。

Metal Halide +

、六

Metal

Chalcogenide

Metal Oxide

図2 -1二分子膜のキャストフィルム層聞を鋳型とする無機材料合成

(30)

円《unJ'U

2-2 両親媒性化合物の分子設計

( 1 )配位性二分子膜を用いた金属銘体の二次元配列

キャストフィルム中での金属錯体の二次元配列に関しては、 既に多くの研究が行 なわれている3<1 )。 中でも配位性二分子膜を用いた金属錯体集積化に関しては、 様 々な膜形成化合物を用いて詳細な研究が行なわれてきた。 例えば、 大環状ポリアご

ンであるサイクラム配位子あるいは3ージケトン型配位子を親水部に持つ化合物は、

水分散状態で金属イオンと錯化し、 安定な二分子膜会合体を形成することが知られ ている5,6)。 また、 疎水部にジベンゾイルメタン、 サリチリデンアニリン等の剛直 な配位子を有する両親媒性化合物は、 その金属錯体が密に充填した二分子膜を形成 できる7,8)。 これらの膜錯体の 水溶液からキャストフィルムを形成すると、 対応す る金属錯体の二次元配列化が可能となり、 それ自身、 無機材料合成の前駆体として 利用することができる9 )。 本論文では、 これまでの配位性二分子膜を用いる金属錯 体集積化の手法をさらに拡張することで、 金属錯体のキャストフィルム中への高密 度な導入とそれらの精密な二次元配列化を検討した。 一方、 従来の膜錯体の研究で は、 両親媒性化合物の構成要素として金属錯体が導入されており、 いずれも分子性 錯体に限られていた。 本論文では、 架橋性配位子を有する両親媒性化合物を新たに 合成し、 配位高分子の二次元配列化も検討した。 第3章でこれを論ずる。

(2)キャストフィルム層間への金属錯体の導入

二分子膜のキャストフィルム層聞に金属錯体を導入する手段として、 共分散法(も しくは co-cast法)が挙げられる。 この方法は、 金属錯体と二分子膜との混合水溶液 からキャストフィノレムを作成することで、 その層聞に金属銘体を配列させる手法で あり、 既に様々な無機超薄膜の作成に 用いられている1ø , 11)。 共分散法では、 金属 錯体がキャストフィルム層間でランダムに分布し、 厳密に配列制御された金属錯体 の層状固定化法としては期待できない。 また、 二分子膜と金属錯体の組み合せによ っては、 キャストフィルム形成時に沈澱やゲル化が生じ易い。 しかしながら、 導入 操作が非常に簡便であること、 金属錯体の導入量を規制できること、 また複数穫の 金属錯体を任意の比率で導入できることなどの多くの特長を有する。 本論文では、

二分子膜表面を化学的に修飾し、 キャストフィルム層間に固定化される無機銘体と の聞に特定の相互作用を生じさせることで、 co-cast法による金属錯体の精密な配向 固定化を検討した。

キャストフィルム層間に金属錯体を高濃度に導入させる新 しい手法として、 本論 文では様々な浸漬法の検討を行った。 中でもイオン交換法は、 電荷を持つ多くの金 属錯体へ応用され、 本論文での最も重要な手法となっている。 具体的には、 事前に

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