メタファーを支えるイメージ拡張の単方向性
寺 西 隆 弘
1. はじめに
形式と事物の関係を一対一と捉えることは、我々が現実世界の事物を理解 していく上で極めて重要であり、実際一つの言語形式(特定の語や文)に一 つの事物を結び付けることにより、我々は現実世界の事物を意味付け、また 記憶に留めることができる。一方、言語形式と事物の関係を一対多数と捉え ている場合があることも事実である。言語形式は一つの対象しか示すことが できないのではなく、ある一定の範囲で複数の対象を示すことができる(池 上 2001、2005)。この場合、一つの言語形式はどのようにして複数の対象を 示すことができるのであろうか。
我々は、目の前の事物をそのまま受けとめるのとは別に、その事物を実際 には存在しない何か別のものやことと「見なす」ことにより、その事物を意 味付け理解する能力を持っている(Lakoff 1987、Lakoff and Johnson 1999、
2003、山梨 1988、2000、2004)。メタファー(隠喩)による「見なし」能力は、
一つの語や文が複数の概念と結び付くことを可能とし、それにより我々は必 要に応じて様々な概念を、語や文の数を増やすことなく獲得することができ る(Goatly 1997、2007、Knowles and Moon 2006、Kövecses 2002)。例えば、「まっ すぐ」という語は「彼女はまっすぐ家に帰った。」という表現おいては DIRECTという概念と、「彼はまっすぐな男だ。」という表現ではHONESTと いう概念と結び付いており、我々はこれらのメタファーを通して、新たな概 念の獲得に成功している。
メタファーでは、一つの言語形式に二つ以上の概念が結び付いている。そ こでは、言語形式側から見た一つの言語形式と複数の概念との結び付きと、
『言語文化』12-1:39−64ページ 2009.
同志社大学言語文化学会 ©寺西隆弘
概念側から見た一つの概念と一つの言語形式との結び付きが同時に成立して いる。メタファーにおける一つの言語形式と複数の概念との間の関係はどの ようなものであろうか。カテゴリー化との関連から、一つの言語形式を中心 として放射状に(一つの言語形式と)複数の概念が結び付いていると捉える 場合が多い(Croft and Cruse 2004、Ungerer and Schmid 2006)。また、一種類 の言語形式と異なる種類の概念の複数のペアが並列していると捉えることも 可能である。
メタファーにおける言語形式と概念の間の関係がどのようなものであれ、
複数の概念は概念間の何らかの類似性により連続性を保持していると考えら れる。この概念間の連続性は、写像つまりイメージの連続的な拡張に基づい ている。例えば「彼はまっすぐな男だ。」という表現は、直線のイメージか ら正直な男性のイメージへのいくつかの連続したイメージの拡張に支えられ ていると考えられる。本稿では、日英語母語話者を対象とした心理実験を中 心とした調査に基づき、イメージ拡張の連続性を確認し、イメージ拡張がど のようにメタファーを成立させているのかを議論していく。
2. 写像によるメタファーの成立
2.1. 言語形式と概念の関係
言語形式が現実世界の事物を分割しているという考え方に対し、言語形式 は現実世界の事物に付けられた名前であるという考え方がある。現実世界に おける事物及び(事物に対応する)概念は、言語形式とはもともと独立して 存在しており、言語形式はこれら事物や概念に付けられた名前であるという 考え方である。例えば、チョムスキーは生得的な概念には既に適当なラベル が付いており、ことばを学ぶことはそのラベルを見つけ出すことであるとし ている(1988: 191)。一方、言語形式と概念の関係を見出すのは人間であり、
言語形式と概念の関係は人間と環境とのやり取りの中から創出されるという 考え方がある。これは認知言語学における基本的な考え方であり、そこでは 言語形式と概念の関係は身体と環境の相互作用による経験的な基盤を基に成 立するとされている(Lakoff 1987、Langacker 1990、Rohrer 2007)。本稿では、
後者の考え方に基づきメタファーにおける言語形式と概念の関係を論じてい
く。
基本的な言語形式と概念の関係を図1に示す。ここではSTRAIGHTという 概念とそれに付けられた「まっすぐ」という語(名前)の関係(結び付き)
を両矢印で表している。STRAIGHTは普遍的な概念であり、特定のコンテク ストに基づくものではない。つまりSTRAIGHTは視覚的に捉えられた特定の まっすぐな道や直立した木と結び付いた(特定の)概念、あるいは手足や直 立した身体と結び付いた(特定の)概念ではなく、「まっすぐ」という語と 結び付く現実世界に存在するすべての事物と結び付いた(普遍的な)概念で ある。尚、厳密には、言語形式が概念に付けられた名前である場合は、
STRAIGHTから「まっすぐ」への関係が「まっすぐ」からSTRAIGHTへの関 係に先行するはずである。そこでは本来STRAIGHTから「まっすぐ」への関 係と、「まっすぐ」からSTRAIGHTへの関係が同時に成立しているとは言え ないが、ここでは、両方向の関係が同時に成立しているものとして議論を進 める。
図1 言語形式と概念の関係 図2 言語形式とイメージの関係
言語形式と概念の関係を考える場合、特定の語や表現を言語形式と捉える ことは容易であるが、概念をどのように捉えるかは議論を呼ぶところである。
認知言語学においては、概念をある種のイメージとして捉える見方がある。
概念は特定の心的イメージであり、そのイメージは脳内の特定の活動の繰り 返 し に よ り 固 定 化 さ れ る(Denis 2004、Hampton 1999、Love 2003、Rey
2004、Von Eckardt 1999)。ここで重要な点は、固定化されるという点である。
個々の心的イメージはコンテクストにより異なるであろうが、繰り返しの想 起により徐々に安定、固定化すると考えられる。
また、心的イメージは現実世界の事物に基づき構築されるが、現実世界の 事物はどのような過程を経て心的イメージへと変化するのであろうか。一般 に、現実世界に存在するある事物に対する認識の様々な様相は一つの心的イ メージに収斂すると考えられる(Evans and Green 2006: 6-8)。つまり心的イ メージとは、視覚を始めとして聴覚、味覚、嗅覚、触覚及び姿勢感覚などの 知覚を通し構築される内的イメージと捉えることができる。この内的イメー ジは、現実世界の事物そのものに比べると具体性に欠けるが、これは心的イ メージが事物を基に再構築されたものであり、簡素化されているためである
(Damasio 1994: 108)。本稿では、この心的イメージを概念として位置付け、
また単にイメージと呼ぶ。図2では直線のイメージとそれに結び付く「まっ すぐ」という語の関係(結び付き)を両矢印で表わしている。イメージを取 り囲む点線の四角枠はイメージの現れる「場」(脳内の特定の場所)を想定 したものである。直線のイメージはコンテクストによって様々であり、図2 では垂直線だが水平線、斜線の場合もあり得るし、また直線の長さ、太さ、
色等も多種多様であると考えられる。また図1と同様、ここでは直線のイメー ジから「まっすぐ」への関係と、「まっすぐ」から直線のイメージへの関係 が同時に成立しているものとして扱う。
2.2. 写像:イメージの拡張
メタファーとは本来、言語に関するものではなく概念に関するものであり、
過去の経験に基づいたある概念を利用して、別の概念を理解しようとするも のである(Lakoff 1993)。ここで概念をイメージに置き換えてみると、メタ ファーとは過去の経験に基づくイメージを用いて、別のイメージを理解しよ うとするものとなる。どのように過去のイメージを利用して、別のイメージ を理解するのであろうか。イメージには本来そのような機能が備わっている のであろうか。また、現在及び過去に知覚を通して形成されたイメージはま だ知覚したことのない新たなイメージをも形成することが可能である
(Damasio 1994: 96-98)のであれば、どのようにしてある既成のイメージが 新たなイメージを作るのであろうか。イメージを膨らませるという表現があ るが、イメージは膨張することにより別のイメージを作り出すのであろうか。
本稿では、このイメージ形成を具体的に説明する方策の一つとして、写像つ まりイメージの拡張を取り上げる。イメージの拡張とはある具体的なイメー ジが別の具体的なイメージへ拡張することに他ならない。通常、メタファー においては、ソース(起点となる領域)はより具体的な概念、ターゲット(目 標となる領域)はより抽象的な概念と捉えられている(Ungerer and Schmid 2006: 117-121)。しかしながら、イメージに関しては、ソース、ターゲット の両方が具体的なイメージとして話者の脳内に存在している。これはイメー ジが話者の経験的な基盤の上に成立しているためである。イメージ拡張とは 具体的なイメージの間の拡張であり、この具体的なイメージ間の拡張により 抽象的な概念の獲得が可能になる。図3では、左側にソースとなる直線(こ こでは垂直線だが水平線、斜線の場合もあり得る)のイメージとそれに付け られた「まっすぐ」という語が、右側にターゲットとなる女性が寄り道をせ ずに家に直接向かうイメージとそれにつけられた「彼女はまっすぐ家に帰っ た。」という表現があり、そして二つのイメージ間には拡張を表す矢印が示 されている。ソースとなる概念はSTRAIGHTであり、イメージは具体的な直 線である。一方、ターゲットとなる概念はDIRECTであり、イメージは女性
図3 メタファーにおけるイメージ拡張
が寄り道をせずに家に直接向かうという具体的なものである。このように、
ソースである具体的なイメージがターゲットである具体的なイメージへ拡張 することにより、メタファーは成立する。
イメージの拡張がメタファーを成立させているが、通常メタファーを理解、
使用する場合、イメージの拡張を常時思い起こしているとは考え難い。通常 のメタファーの理解、使用では、ターゲット側のイメージ(図3では女性が 寄り道をせずに家に直接向かうイメージ)とそれに結び付いた言語形式(図 3では「彼女はまっすぐ家に帰った。」という表現)だけが取り上げられる。
これは、メタファーによるものではない通常のイメージとそれに結び付いた 言語形式(例えば直線のイメージと「まっすぐ」という語)の組み合わせの ように、メタファーにおいても一つのイメージに一つの言語形式が結び付い ている関係が存在することを示している。この関係は二つのイメージの間の イメージ拡張を基にしているということができるのであろうか。メタファー における言語形式とイメージの一対一の関係を考えるため、次セクションで はイメージ拡張の方向性と連続性について検討する。
2.3. イメージ拡張の方向性と連続性
図3で示されたイメージ拡張では、ソースとなる直線のイメージが、ター ゲットとなる女性が寄り道をせずに家に直接向かうイメージに拡張し、メタ ファーを成立させている。これはイメージ拡張の方向がソースからターゲッ トへ向かっていることを示している。一方、女性が寄り道をせずに家に直接 向かうイメージが元々どこから来たのかを考えると、女性が寄り道をせずに 家に直接向かうイメージは容易に直線のイメージへと繋がっていく。これは 女性が寄り道をせずに家に直接向かうイメージが直線のイメージへ縮小して いるとも捉えられる。また、これをソースからターゲットへの拡張の経路が 成立しているという前提の基に、ただターゲットからソースへイメージを辿 るという逆転現象が起っているだけであると考えることも可能である。
多くのメタファー研究では、二つの概念間の拡張に基づきメタファーが成 立しているとされている。STRAIGHTに関連した研究においても、例えば、
Cienki(1998)は “(to play) the straight-man [e.g. the partner in a comedy team
who sets up the joke so that the other partner can deliver the funny line]” という表 現は、STRAIGHTからSERIOUSへの二つの概念間の拡張に基づいていると している。拡張の詳しい分析においては、SERIOUSをORDERあるいは CONTROLからの拡張と想定しているが、主な拡張の経路はSTRAIGHTから SERIOUSへという二つの概念の間に限定したものである。しかしながら、
これら二つの概念の間だけの拡張で、“(to play) the straight-man” がメタファー として成立すると考えることには無理がある。具体性の高いソースから抽象 性 の 高 い タ ー ゲ ッ ト へ の 拡 張 で は、STRAIGHTか らORDERあ る い は CONTROLを仲介として、そこからSERIOUSへ拡張していると考える方がよ り自然である。イメージの拡張においても、ソースとターゲットとの間に両 者を仲介する何らかのイメージが存在すると考えられる。つまり、二つのイ メージ間の拡張の上に成立していると考えられるメタファーの中には、実際 には三つ以上のイメージの間の拡張に支えられているメタファーが存在し、
そこではイメージは連続的に拡張していると考えられる。次に、イメージが 二つ、三つ及び四つの場合のイメージ拡張の例を図に示す。
図4 イメージ拡張の例
図4では、イメージをA、B、C、Dで表わし、3種類のイメージ拡張を示 している。いずれの拡張においても、ターゲットとなるイメージ(1ではB、
2ではC、3ではD)の枠を太点線で示している。1は最も単純な拡張の例で あり、「彼女はまっすぐ家に帰った。」の場合が当てはまる(図3参照)。次 に “(to play) the straight-man” という表現の場合であるが、ソースであるイ
メージ(例えば直線のイメージ)とターゲットであるイメージ(例えばある 真面目な男性のイメージ)の間に何らかのイメージ(例えば何らかの秩序あ る制御されたイメージ)が存在していると考えられる。このように介在する イメージが一つの場合は2に相当するが、二つの場合(3に相当)あるいは それ以上のイメージが具体性の高いソースと抽象性の高いターゲットを仲介 している場合も考えられる。ソースとターゲットの間の類似性が高い場合は、
イメージの数は少なく、類似性が低い場合はイメージの数は多くなり、イメー ジは段階的に拡張せざるを得ない。
前セクションで考えられたメタファーの理解、使用における言語形式とイ メージの一対一の関係、つまりターゲット側の一つの言語形式と一つのイ メージの結び付きに基づく関係は、上述した連続的なイメージ拡張とどのよ うな関連があるのであろうか。また、連続的なイメージ拡張の中でターゲッ トとなるイメージの独立性をどのようにして高めているのであろうか。次セ クションでは、イメージ拡張の特性調査のために実施した心理実験について 述べる。尚、異なる言語においてイメージ拡張の経路が異なることが予想さ れるため、心理実験の対象は日本語と英語の母語話者とした。
3. 日英語母語話者を対象とした調査
3.1. 直線のイメージに関連した連想テスト
心理実験に先立つ予備調査として記述式アンケートによる直線のイメージ に関連した連想テストを行った。日英語母語話者(日:22人(男性:9、女 性:13;平均年齢30.0歳)、英:22人(男性:8、女性:14;同33.1歳);20 歳以上の大学生及び高校卒業以上の社会人)を対象に、アンケート用紙に描 かれた垂直線と水平線(いずれも幅2mm長さ5cm)を見て何を思い起こす かをできるだけ多く挙げさせ、話者が直線のイメージからどのような語を連 想するかを調査した。
結果は、表1及び表2に示すように、垂直線、水平線とも(名詞及び性質、
状態を示す形容詞、副詞を含む)直接的な連想が多く見られるが、物の名称 の種類については日英語間に差が見られる。垂直線からの連想については、
表1に示すように、日本語は「棒」、「(数字の)1」、「まっすぐ」で、英語
は “straight”、“stick”、“line” で上位20%を占める。「まっすぐ」の三位に対し て “straight” は一位である点及び英語には名詞あるいは性質、状態を示す形 容詞、副詞(“straight”、“vertical”、“upright” 等)が多い点が注目される。間 接的連想と認められる連想は極めて少なく、「強い」(1例)、「正直」(1例)
及び “right”(1例)、“neat”(1例)等が観察される(その他及び others に含 まれる)だけである。水平線からの連想については、表2に示すように、日 本語は「棒」、「平ら」で、英語は “horizontal”、“flat” で上位20%を占める。
垂直線からの連想に比べると、連想される語の種類、順位に関して日英語間 の差は小さい。垂直線の場合と同様に、間接的と認められる連想は極めて少 なく、「安定」(2例)、「永遠」(1例)及び “constant”(2例)、“conservative”
(1例)等が観察される(その他及びothersに含まれる)だけである。
表1 垂直線から連想された語
表2 水平線から連想された語
3.2. イメージ作成テスト
次にSTRAIGHTに関連した表現についてのイメージ作成テストを行った。
日英語母語話者を対象に、調査用紙を使用し、下に示す2種類のメタファー 表現を単独(コンテクストなし)で提示し、各表現の使用の頻度(「全く使 用しない:0」から「よく使用する:4」までの5段階評価)及び意味を確 認(代表的な意味を一つ記述)後、表現から思い起こされるイメージを(概 ね一分間で)作成させた。イメージ作成後、インタビューにより意味とイメー ジの関係について聴取した。
①「彼女はまっすぐ家に帰った。」/“She came straight home.”
②「彼はまっすぐな男だ。」/“He is a straight man.”
結果、各表現の使用の頻度については、グラフ1から分かるように、①は 日英語ともに同じような水準(日:2.68、英:2.41)であり、使用頻度は高 いということができる。②については日本語の頻度が0.95と低いのに対し、
英語では1.77と倍近い数値を示している(t=2.45、p<0.05)が、①に比べる と使用頻度は日英語ともに低い。
2.68
①彼女はまっすぐ家に帰った
She came straight home ②彼はまっすぐな男だ
He is a straight man 4
3 3.5
2 2.5
1 1.5
0 0.5
2.41
0.95
1.77 日本語 英語
グラフ1 表現の使用頻度
次に、各表現の代表的な意味を表3に示す。①については日英語とも多少 の表現の差は観察されるものの、全話者が同じ意味を挙げている。②につい て、日本語話者に関しては「彼は正直な男だ。」、「彼は信用に足る男だ。」、「彼 は誠実な男だ。」等の意味を一まとめにすると、これらが86%を占め、その 他が14%になる。その他には、不明(?)の他、「彼は我慢強い男だ。」(1例)
という意味が見られる。英語話者に関しては、59%が “He is a heterosexual man.” 関連を、26%が “He is a conventional man.” 関連を、そして残り15%が その他を占める。“He is a heterosexual man.” 関連については表現に大きな差 は観察されないが、“He is a conventional man.” 関連については “He is a normal man.”、“He is an ordinary man.” 等の若干の表現の差が観察される。その他に は、不明(?)の他、“He is a dull man.”(1例)という意味が見られる。
表3 代表的な意味
次に各表現から思い起こされるイメージであるが、ここでは上記意味の確 認で大きな割合を占めた5種類の意味を挙げた話者が作成したイメージのみ を取り扱う(②で、不明(?)、「彼は我慢強い男だ。」及び “He is a dull man.”
の意味を挙げた話者の作成したイメージは取り扱わない)。下に示す5種類 の図は、実際に作成されたイメージのうち同種と判断されるイメージが5例
(23%)以上ある場合に、それらのイメージを基にして作成した代表的なイ メージである。
図5及び6は①から作成された日英語話者に共通するイメージである。図 5(日:11例(50%)、英:13例(59%))は、単純な水平方向の矢印である。
矢印の他、単に直線だけを描いたものも観察されたが、それらの多くは何ら かの方法(例えば図5にあるような黒丸)で出発点と到着点を示している。
図6(日:9例(41%)、英:6例(27%))は図5に比べると複雑なイメージ であり、出発点と到着点である家を、そしてその間を寄り道することなく最 短距離を進む女性の姿を描いている。実際に作成されたイメージの中には、
更に複雑なもの(地図形式)も見られたが、図6のようなイメージに共通す る点は、出発点から到着点への経路が直線ではないという点である。
図5 ①日本語/英語
図7 ②日本語
図6 ②日本語/英語
図7(15例(68%))は②から作成された日本語話者のイメージである。
直立した人のイメージであり、特に男性と判断される要素は見当たらない。
また、垂直線のみのイメージも一部(4例)観察された。
②から作成された英語話者のイメージは、二つの意味に対応して2種類の イメージが見られた。図8(5例(23%))はconventionalの意に、図9(10例
(45%))はheterosexualの意にそれぞれ対応する。図8は直立した男性のイメー ジであり、図7に比べ男性と判断される要素(図8では広い肩幅)が見られ、
実際英語話者が作成したイメージの中には、帽子を被り腕組みをした状態の 直立した男性のイメージ(1例)、スーツ姿で直立した男性のイメージ(1例)
が観察された。また、図7に比べ直立の程度が高い(図8では垂直に描かれ た手足から判断される)。図9は一組の男女ペアのイメージである。男性あ るいは女性と判断される要素(図9では男性の広い肩幅と女性の広い腰部)
は明確であり、実際英語話者が作成したイメージの中には、服装により男女 と判断できるもの(2例)が見られた。また、男女ペアのイメージの他に、
男性二人のペアに大きく×印を入れたもの(1例)も観察された。これは、
一般にイメージが否定を表現しにくいためと考えられる。また、図9のイメー ジには、図8の男性のイメージに見られる直立性が見られない。
図8 ②英語(conventional) 図9 ②英語(heterosexual)
次に、インタビューで確認されたイメージ作成の難易度について、①につ いては、全日英語話者が、イメージはすぐ思い浮かび、描き易かったとした。
②について、「彼は正直な男だ。」関連の意味を挙げた話者の多くが、意味は 分かるが正直を表すイメージは浮かび難い、あるいは正直を表すイメージは
(特定の)複雑な場面であり、単純なイメージではない、とした。英語話者 のうち、“He is a heterosexual man.” 関連の意味を挙げた話者の多くは、イメー ジは簡単に出てくるとしたが、“He is a conventional man.” 関連の意味を挙げ た話者の多くは、意味は分かるがconventionalを表すイメージは出難い、あ るいはconventionalを表すイメージは(特定の)複雑な場面であり、単純な イメージではない、とした。複雑な場面をイメージ化することが難しいのは、
一般に(静止)イメージが因果関係を表現しにくいためと考えられる。
最後に、意味とイメージの関係を聴取したが、聴取内容の約半数は意味の 説明であった。イメージとの関係説明という点では、抽象性の高いものから 抽象性の低いものへ、あるいは抽象的なものから具体的なものへの言い換え が多く観察された(表4参照(まっすぐ、直線及びstraight、lineについては「−」、
− で表示))。①については、日英語とも抽象的なものから具体的なもの への言い換え(「本筋から外れないで「まっすぐ」帰る。」、“The way with no change of direction is “straight”.” 等)が観察された。②について、日本語では 抽象性の高いものから抽象性の低いものへの言い換え(「正直さは変化のな い規則的なことと関係がある。」等)と抽象的なものから具体的なものへの 言い換え(「誠実な人は「まっすぐ」立っている。」等)が観察された。英語
(conventionalの意)では抽象性の高いものから抽象性の低いものへの言い換 え(“Ordinary people always behave in the same way, with no change.” 等)と抽 象的なものから具体的なものへの言い換え(“Something that is unchanging is
“straight”.” 等)が観察された。また、英語(heterosexualの意)では抽象性の 高いものから抽象性の低いものへの言い換え(“Heterosexual is quite normal, common.” 等)と抽象的なものから具体的なものへの言い換え(“Conventional people stand “straight”, go “straight”.” 等)が観察された。
次に、上記2種類のメタファー表現についてのイメージ作成テスト及びイ ンタビューの結果を下記にまとめる。
1)作成されたイメージの特徴:①については、日英語とも帰宅経路を単純 に表したイメージと複雑に表したイメージの2種類に大別される。複雑なイ メージの帰宅経路は直線ではない。②について日本語は、直立した人のイメー ジで、男性の特徴はない。英語はconventionalの意では、直立した男性のイメー ジであり、日本語に比べ直立の程度は高い。heterosexualの意では、男女のペ アのイメージであり、conventionalの意に比べ直立の程度は高くない。
2)イメージ作成の難易度:①については、日英語ともイメージは作成し易 い。②について、日本語は全般にイメージは作成し難い。英語はconventional の意では、イメージは作成し難いが、 heterosexualの意では作成し易い。
3)意味とイメージの関係説明:①については、日英語とも抽象的なものか ら具体的なものへの言い換えが観察される。②について、日本語は抽象性の 高いものから抽象性の低いものへと抽象的なものから具体的なものへの2種 類の言い換えが観察される。英語は “conventional” の意、“heterosexual” の意 の両方で、抽象性の高いものから抽象性の低いものへと抽象的なものから具 体的なものへの2種類の言い換えが観察される。
表4 意味とイメージの関係説明に見られる言い換え
4. イメージ拡張の方向性
4.1. 単方向性
予備調査として行った連想テストは、垂直線、水平線のイメージからどの ような語が連想されるかというものであった。そこでは垂直線、水平線のイ メージから何らかのイメージが想起され、そのイメージに付けられた語が、
順次挙げられていったと考えられる。結果として、多種多様な語が確認され たが、これは調査の対象となった日英語話者の経験的基盤の多様性によるも のである。イメージ間の関係は形状的類似に基づくものが多く、従って連想 された語は日英語とも直接的連想に基づく語が多かった。また様々な種類の イメージ(例えば棒のイメージ、(数字の)1のイメージ)に付けられた語(例 えば「棒」、「1」)は当然異なっており、言語形式とイメージの組み合わせ は独立している。つまり、複数のイメージが何らかの要因により類似してい る場合でも、それらに付けられた言語形式が異なれば、言語形式とイメージ の組み合わせの独立性は高いということができる。
STRAIGHTに関連した表現についてのイメージ作成テストでは、2種類の メタファー表現を材料に言語形式とイメージの関係を調査した。図5から図 9で示したイメージは代表的なものであり、実際に作成されたイメージは細 部において様々な違いが観察された。これは、上記連想調査と同様、調査の 対象となった日英語話者の経験的基盤の多様性によるものである。また、イ メージ想起の難易度の差については、「彼はまっすぐな男だ。」・“He is a
straight man.” の両表現において、(表現の意味するところは分かるが)イメー
ジは浮かび難いという意見が多く聴取された。各話者はそれぞれ具体的なイ メージ(例えば、特定の正直な男性のイメージ)を持っていたと考えられる が、(先に述べた、一般にイメージが因果関係を表現しにくいという理由の他)
その特徴を絵にするという描画技術上の問題があったものと推測される。
インタビュー(意味とイメージの関係説明)時には、抽象性の高いものを 抽象性の低いものへ、抽象的なものを具体的なものへ言い換える傾向が頻繁 に観察された。これは、メタファーがイメージの連続的な拡張に支えられて いることを示している。例えば “He is a straight man.” というメタファー表現
(ここではconventionalの意)では、抽象性の高いものから抽象性の低いもの へ(“Ordinary people always behave in the same way, with no change.” 等)と抽 象 的 な も の か ら 具 体 的 な も の へ(“Something that is unchanging is
“straight”.” 等)の2種類の言い換えが観察された。これらの言い換えは、単
なる直線のイメージから不変化を表す直線(垂直線)のイメージへ、更に直 立する男性のイメージへの拡張が存在し、それらが “He is a straight man.” と いう表現を支えていることを示している。ここで重要なことは、イメージの 拡張は連続しているということであり、個々のイメージに “straight” という 語が何らかの形で結び付いているとすると、語と各イメージとの組み合わせ も連続して存在しているということである。この場合、個々の組み合わせの 独立性は低いと考えられる。
類似した複数のイメージに付けられた言語形式が異なる場合は、言語形式 とイメージの組み合わせの独立性は高い。一方、拡張に基づく複数のイメー ジに同一の言語形式が付けられている場合は、言語形式とイメージの組み合 わせの独立性は低い。拡張に基づく複数のイメージには連続性があり、それ らに同一の言語形式が付けられている場合、イメージの数が多くなればなる ほど、個々のイメージと言語形式の独立した関係を保つことは困難になると 考えるのが普通である。しかしながら、上記イメージ作成テストで観察され たように、特定の言語形式とイメージの組み合わせは、(コンテクストが提 示されていないにもかかわらず)ある範囲内で安定し、メタファーにおける 言語形式とイメージの独立した関係は確保されているということができる。
では、どのようにして独立した関係は確保されているのであろうか。ここで 重要と考えられるのがイメージ拡張の単方向性である。
図10は、心理実験の結果から想定される4種類のイメージ拡張をメタ ファー表現とともに(各イメージを語で表した上で)示している。いずれの 拡張においても、実験で確認できたイメージはターゲットである右端のイ メージであり、枠を太線で示してある。ソースである左端のイメージ及び2、 3、4のソースとターゲットを仲介しているイメージは、日英語話者による 意味とイメージとの関係説明に基づき推測したものである。イメージ拡張の 特性としてソースからターゲットへの方向性と連続性を挙げた(図4参照)
が、図10においても、4種類のイメージ拡張ともイメージの拡張方向は左か ら右への単方向である。一般に二つの事物AとBが単方向の関係を持ってい る場合、双方向の関係を持っている場合に比べAB間の拘束性は弱いと考え られる。これはイメージ拡張の場合にも当てはまり、このイメージ間の拘束 性の弱さは、イメージ拡張の経路構築において重要な役割を果たしている。
例えば2及び3では、直線のイメージが不変化・連続のイメージに拡張し、
次に不変化・連続のイメージが直立する男性のイメージへ拡張しているが、
2では「彼は正直な男だ。」という意味と、3では “He is a conventional man.”
という意味と結び付いている。また、心理実験でのメタファー表現の意味の 確認時、「彼はまっすぐな男だ。」という表現に「彼は我慢強い。」(1例)と いう意味が、“He is a straight man.” という表現に “He is a dull man.”(1例)
という意味が観察された。これらの例からも分かるように、イメージ拡張の 単方向性がもたらすイメージ間の拘束性の弱さは、イメージ拡張の経路を限 定することなく、様々な経路を構築することを可能にしている。
4.2. 単方向性によるイメージの埋没
図10では、右端の太線枠で示したイメージが各メタファー表現と結び付い ていることを表している。1の場合、ソースとターゲットの間にイメージは
図10 イメージ拡張の単方向性
存在しないが、2、3、4の場合は、ソースとターゲットを仲介するイメー ジが存在する。しかしながら、これらの場合でも各表現と結び付いているの はターゲットとなるイメージである。ソース、ターゲット間に介在するイメー ジは、日英語話者の説明によりその存在が判明したものであり、話者がメタ ファーを通常理解、使用する場合に必ず思い浮かべているとは考え難い。介 在するイメージはソースからターゲットへの拡張においてイメージを仲介す るという重要な役目を担っているはずであるが、その存在は明らかではない。
例えば3では、CONVENTIONALを体現した直立した男性のイメージがター ゲットであり、ソース、ターゲット間に介在すると考えられる不変化・連続 のイメージは確かなものではない。しかしながら、この不変化・連続のイメー ジは “They won eight straight games.” という表現が存在することから、ター ゲットとして存在することは可能であり、よってソース、ターゲット間に介 在するイメージとして存在する可能性も十分考えられる。同様に4では、
HETEROSEXUALを体現した男女のペアのイメージがターゲットであり、不 変化・連続のイメージ及び普通・平凡のイメージは確かなものではない。し かしながら、普通・非凡のイメージには “He is a straight man.” という表現
(conventionalの意)が結び付くように普通・平凡のイメージはターゲットと して存在し、更に上述したように不変化・連続のイメージもターゲットとし て存在する。このように、ターゲットとして存在するイメージが介在するイ メージとして存在する可能性は高い。では、なぜソース、ターゲット間に介 在するイメージの存在ははっきりしないのであろうか。
メタファー表現の通常の理解、使用においては、ソース、ターゲット間に 介在するイメージは拡張の経路に埋没しているものと考えられる。必要に応 じて掘り起こすことができる場合は多いが、通常は拡張の経路上に現れない。
この現象はイメージ拡張の単方向性に要因があると考えられる。イメージ拡 張の方向は全体的にソースからターゲットへ向かっており、介在するイメー ジが抜け落ちても方向に変化はない。また単方向性がもたらすイメージ間の 拘束性の弱さも、イメージが抜け落ちる一因と考えられる。イメージ拡張の 単方向性はソース、ターゲット間に介在するイメージを埋没させ、ターゲッ トとなるイメージだけを際立たせる。連続したイメージ拡張の中で、独立性
が最も高いのはターゲットとなるイメージである。ここに、ターゲットとな るイメージとそれに結び付けられた表現の独立した関係が確保される。言い 換えれば、メタファーにおける言語形式とイメージの関係は、イメージ拡張 の単方向性によりターゲットのイメージだけが際立たされ、特定のメタ ファー表現との組み合わせを成立させることにより確保される、ということ ができる。
4.3. イメージ拡張の逆転現象
イメージ拡張の単方向性は、言語形式とイメージの関係確保において重要 な役割を果たしている。この考察の根拠の一つがインタビューで観察された 様々な言い換えであったが、ここではこの言い換えに見られるイメージの逆 転現象について考える。
意味とイメージの関係を問うインタビューでは、抽象性の高いものから抽 象性の低いものへの言い換えや抽象的なものから具体的なものへの言い換え が多数観察された。例えば “He is a straight man.” という表現(ここでは conventionalの意)では、抽象性の高いものから抽象性の低いものへ(“Ordinary people always behave in the same way, with no change.” 等)と抽象的なものから 具体的なものへ(“Something that is unchanging is “straight”.” 等)の2種類の 言い換えが観察された。表面的にはターゲットからソースへの拡張の方向と は逆の方向に、イメージが縮小しているような印象を受ける。また、実際の インタビューでは言い換えの方法は様々であり、多数意見を集約したインタ ビューの結果には含まれない種類の言い換えも観察された。その中には、 “He is a straight man.” というメタファー表現(conventionalの意)で、“A normal man is “straight.”(1例)” という抽象性の高いものから具体性の高いものへ の言い換えが観察された。この言い換えでは、ターゲットである直立する男 性のイメージは一気にソースである直線のイメージに遡っている。このよう な少数の言い換えを含め、考えられる言い換えのパターンを挙げてみると次 のようなイメージ拡張の逆転パターンが見出される。
図11は、3種類のイメージ拡張において想定される逆転現象のパターンを 示している。1では逆転のパターンはターゲットであるBからソースである
Aへの一つの経路しか存在しない。2では、先ずターゲットであるCからター
ゲットとソースを仲介するBへと、BからソースであるAへの二つの経路があ る。これらはイメージ拡張を一段階遡る経路であるが、CからAへの経路は 二段階遡る経路である。これは、上述した “He is a straight man.”(conventional の意)で観察された “A normal man is “straight”.” という抽象性の高いものか ら具体性の高いものへの言い換えに見られるものである。3では、イメージ 拡張を一段階遡る経路が三つ、二段階遡る経路が二つ、そしてターゲットか らソースへ一気に三段階遡る経路が一つ想定される。3に当てはまる “He is a straight man.”(heterosexualの意)で観察された抽象的なものから具体的な ものへの言い換えの中では、CからA(“Conventional people stand “straight”, go “straight”.”)またBからA(“Something monotonous is “straight”.”)と考えら れるものが実際に観察された。
一般にBからAへの逆転現象が存在する場合は、その現象の元となるAか らBへの現象が存在する。イメージ拡張におけるイメージの逆転現象も元々 のソースからターゲットへの連続的な拡張に基づいたものである。ここで重 要な点は、ソースであるイメージからターゲットであるイメージへの経路を
図11 イメージ拡張の逆転パターン
遡るということは、ターゲットであるイメージを基にソースであるイメージ との類似点を見出すということではない、という点である。メタファーにお いて、イメージ間の類似性はよりソース側のイメージを基準にしている。イ メージ拡張の経路を遡るという作業は、ソース側のイメージを基に、ソース 側からターゲット側への拡張を繰り返し、ターゲット側のイメージとの類似 点を再度見出し、再確認するために行われる。よってイメージの逆転現象を、
イメージの(拡張の反対である)縮小と捉えるのではなく、イメージ再拡張 のための一種のプライミング(ターゲットからソースへの流れが先行刺激と なり再拡張をもたらす)と捉える方が妥当であろう。
イメージ間の類似性を再度見出し、イメージを再拡張させるためのプライ ミングは、通常のメタファーの理解、使用時にはほとんど行われていないと 考えられる。上記心理実験等で、意識的に特定のメタファー表現に関する分 析を求められる場合を除けば、労力をかけてイメージ拡張の経路を遡ること は少ない。埋没しているイメージを掘り起こす作業は何らかの精神的労力を 要すると考えられる。一方、新たなメタファーの獲得時、つまり新たなメタ ファー拡張の経路を構築する場合には、イメージを再拡張し、拡張経路の確 認、強化を行う必要がある。この場合に拡張経路が確実に構築されないと、
ターゲットとなるイメージと言語形式とを結び付けることは難しい。メタ ファーにおける言語形式とイメージの独立した関係を確保するためには、メ タファー獲得時に必要な精神的労力をかけ拡張を繰り返し、イメージ拡張の 経路を確実に構築することが重要である。
5. おわりに
メタファーは、写像つまりソースからターゲットへの連続的な(経験的基 盤に基づいた具体的な)イメージの拡張に基づき成立している。イメージ拡 張の特性である単方向性は、拡張するイメージ間の拘束性を弱め、通常のメ タファーの理解、使用には不要な(ソース、ターゲットの間に介在する)イ メージを埋没させる。これによりターゲットである一つのイメージだけが際 立ち、この一つのイメージが特定の一つの言語形式と結び付く。この言語形 式とイメージの組み合わせの高い独立性により、メタファーにおける言語形
式とイメージの強い結び付きは確保されている。
メタファーにおいては、言語形式側から見た一つの言語形式と複数のイ メージとの結び付きと、イメージ側から見た一つのイメージと一つの言語形 式との結び付きが同時に成立している。言い換えれば、事物側から見た一つ の事物とその事物に付けられた一つの言語形式は一対一の関係と捉えること ができるが、言語形式側から見ると、一つの言語形式と結び付く可能性のあ る事物が必ずしも一つであるとは限らない。一つの言語形式が二つ以上の事 物と結び付く関係は類似性に基づくメタファーの他、隣接性に基づくメトニ ミー、包含関係に基づくシネクドキー等にも見られる。このように多様な「見 なし」能力が、目の前には存在しない事物を意味付け、またより少ない言語 形式でより多くの事物を理解し、記憶することを可能にしている。我々人間 は、ある場合は言語形式と事物との間の関係の重みを同じにし、言語形式と 事物の一対一の関係を作り、また別の場合は重みを変え、一対多数の関係を 作ることにより効率的に現実世界を把握していると考えられる。
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