• 検索結果がありません。

日本の金融政策は株価に反応するか

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本の金融政策は株価に反応するか"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

著者 北坂 真一

雑誌名 經濟學論叢

巻 61

号 2

ページ 223‑248

発行年 2009‑10‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012495

(2)

【論 説】

日本の金融政策は株価に反応するか

北 坂 真 一  

1 は じ め に

 近年の世界経済は,資産価格を中心とするバブル現象にたびたび苦しめら れてきた.具体的には,1980年代後半のわが国の株価・地価バブル,2000年 の世界的なITバブル,2007年の米国の住宅バブル,2008年の商品市況バブ ルなどである.

 こうした資産価格のバブルに対して,金融政策がどのように対応すべきか について,2つの対立する考え方がある.白川(2008)はこれを「FRBビュー」と,

「BISビュー」と呼んでいる.「FRBビュー」は米連邦準備理事会(FRB)関係 者から多く聞かれる考え方で,金融政策は事前にバブル発生に対応するので はなく,崩壊後に積極的な金融緩和で応じるべきだとする.他方,「BISビュー」

は国際決済銀行(BIS)関係者から多く聞かれる考え方で,金融政策は事前に バブルが発生しないように,予防的に対応する必要があるとする.

 このような金融政策と資産価格の関係については,これまでにも多くの議 論が行われてきた1).例えば,白塚(2001)やGilchrist and Leahy (2002)は,(1)

「異時点間生計費指数」(Alchian and Klein (1973))や「動学的均衡価格指数」(渋

* 本稿は,科学研究費補助金(課題番号13630033)の助成を受けた研究成果の一部であり,『財 政・金融当局のマクロ政策に関する実証的研究』(科学研究費補助金研究成果報告書)の一部に 基づいて書かれている.

1) 本稿では,金融政策が資産価格に反応するかどうか,すなわち資産価格から金融政策への経 路を問題とする.それとは反対に,金融政策が資産価格に影響を与えるかどうか,という研究 も多い.金融政策が株価に与える影響については,Sellin (2001)や北坂(2007)の展望論文,あ るいは北坂(2009)の実証分析を参照.

(3)

谷(1991))の考え方から分かるように,資産価格は家計の生涯効用を考えた 時に広い意味での物価指数に含まれることや経済の先行きに関する情報を含 むこと,また(2)資産価格の変動が需要に直接影響すること,そして(3)資産 価格がバランスシートを通じて金融システムと実体経済に影響し,特にその 下落時にはデフレに陥るリスクを含むこと,などを指摘している.その上で,

白塚(2001)は金融政策が持続的な物価の安定をはかるという観点から資産価 格が変動する背景を的確に分析し,予防的に対応する必要性を主張している.

 またBernanke and Gertler (2000)は,金融政策反応関数に株価を含むモデルで 日米についてシミュレーション分析を行い,金融政策が株価に反応すると経済全 体がかえって大きく変動することを指摘している.Gilchrist and Leahy (2002)もい くつかのモデルでシミュレーション分析を行い,金融政策に資産価格を含めるべき 強い理由を見出せなかったと述べている.しかし反対に,Cecchetti et al. (2000)は 中央銀行の政策ルールに株価を含めるべきだという積極的な証拠を見出している.

この分析に関して,Bernanke and Gertler (2001)はそのシミュレーション分析が本 来は直接観察できない株価バブルを既知と想定することの問題を指摘している.

 以上の研究は,金融政策において資産価格の変動を積極的に考慮すべきか どうか,という規範的な視点から行われていた.これに対して,現実に金融 当局が株価に反応しているかどうか,という実証分析も行われている.例えば,

Rigobon and Sack (2003)やBohn, Siklos and Werner (2003)は,日次データのよ うな短い周期のデータを使い,金融政策が株価に反応したかどうかを検証し ている.その結果,Rigobon and Sack (2003)は,実際に米国の金融政策が株価 に反応していること,すなわち株価の上昇に対して金融当局が金利を引き上 げることを指摘している.Bernanke and Gertler (2000)は,テイラー・ルール 型の金融政策反応関数に株価を加えたモデルを日米について推定し,先のシ ミュレーション分析に利用している.また,米国では「市場関係者は経験的 に株価が1割下がると,FRBが利下げに動くと見ている」という報道もある2)

2)『日本経済新聞』2008227日夕刊「ウォール街ラウンドアップ」の記述.

(4)

 わが国でも,金融政策反応関数の実証分析は数多く行われている.最近の いくつかに限っても,田中(1994),浅子(2000),地主・黒木・宮尾(2001), 細野・杉原・三平(2001)などを挙げることができる.田中(1994)は,コール・レー トを被説明変数として,GNP成長率,インフレ率,為替レート,経常収支な どを説明変数とする政策反応関数をマルコフ・スイッチング・モデルで計測 している.浅子(2000)は,金融政策のスタンス(緩和・中立・引締め)を示す 質的データを被説明変数として,GNP成長率,インフレ率,為替レート,経 常収支,国債残高などを説明変数とする政策反応関数を,可変パラメータモ デルで計測している.地主・黒木・宮尾(2001)は,Clarida, Gali, and Gertler (1998,

2000,以下ではCGGと省略する)と同様にテイラー・ルール型(Taylor (1993))の

政策反応関数に,為替レートを説明変数として加えたモデルをGMM(一般化 積率推定法)で推定している.細野・杉原・三平(2001)は,金融政策反応関 数を含む構造型VARモデルを推定し,金融政策のスタンスを計測している.

 本稿では,これらの先行研究を参考に,わが国の金融政策が株価に反応し ていたかどうかを検討するために,次に述べるような政策反応関数の実証分 析を行う.まずベースとして,Bernanke and Gertler (2000),CGG,地主・黒木・

宮尾(2001)などと同様に,テイラー・ルール型の政策反応関数を考え,ここ に株価変動の項を説明変数に加える.ここで政策反応関数の説明変数に株価 を加えるアイデアは,Bernanke and Gertler (2000)と同様である.しかし,彼 らが単にその変化率を説明変数とするのに対して,本稿では株価の基調的な 変動を計測し,その基調的変動とそこから乖離した一時的な変動をそれぞれ 説明変数として考える.こうすることによって,中央銀行が株価の基調的な 変動から将来の物価動向などの情報を読み取って反応しているのか,それと も株式市場における一時的な動きに対して近視眼的(myopic)に反応している のかどうか,を検討できる.こうした特定化は,金融当局が株価バブルにど のように対応しているのかを知る手掛かりになる.

 第2に,Bernanke and Gertler (2000)では先験的に推定期間を分割しているが,

(5)

本稿では政策反応関数のパラメータ・シフトを考慮するために,GMMによ る固定パラメータの計測とともに,マルコフ・スイッチング・モデルによる 計測を行う.マルコフ・スイッチング・モデルでは,各レジームのパラメー タ値とともに,そのレジームが成立する確率も内生的に計算できるので,レ ジームのシフト,すなわち構造変化の時点を事前に仮定することなく計測で きる.しかも,その構造変化の回数は制限されない.

 本稿の構成は次の通りである.まず第2節では,テイラー・ルール型の政 策反応関数を中央銀行の最適化行動から導出し,反応関数のパラメータが複 数のパラメータの合成物であることを確認する.次に第3節では,CGGなど に従い,政策反応関数の計量モデルを提示する.第4節では,GMMによる 固定パラメータモデルの推定結果とマルコフ・スイッチング・モデルによる 可変パラメータモデルの推定結果を示し,その結果から日銀の金融政策につ いて考察する.最後に第5節で,本稿のまとめを述べる.

2 基本モデル

 まずここでは,Svensson (1997)やそれに従う地主・黒木・宮尾(2001),小 塚(2004)などを参考に,テイラー・ルール型の政策反応関数の導出過程を示 す3).もともとTaylor (1993)で示されたテイラー・ルールは,実証的な意味で の政策反応関数ではなく,金融政策の望ましい政策ルールを示している.本 稿ではその政策ルールを政策反応関数の分析に使うので,それがどういう意 味で望ましいのか,またそれがどの様な経済構造を想定しているのか,といっ たことを実証分析に先立って確認しておく.このことは,実証分析の結果を 解釈するためにも有益である.

 また以下で示すように,テイラー・ルール型の政策反応関数のパラメータ は,経済構造を表すモデルの複数のパラメータから構成される.したがって,

3) ここで示したSvensson (1997)以外にも,テイラー・ルールやそれに似た金融政策のルールを

中央銀行の最適化行動から導出した研究にBernanke and Woodford (1997)Ball (1999)がある.

(6)

その係数パラメータが容易に変動しうることや,それが変動する場合にどの 様な解釈が可能であるかを示すことにもなる.

 まず,中央銀行は次に示す異時点間にわたる動学的な損失関数を最小にす るように名目金利の流列を選択する,と考える.

    Et

τ=t

δτ−tLτ, yτ) (1)  

ここで,Ett期の情報集合に基づく期待値演算子,δは将来の損失を現在 値に直すために中央銀行が持つ主観的割引率,L(πt, yt)は中央銀行が持つt期 の損失関数である.

 中央銀行のt期の損失関数は,具体的に次のように書ける.

    Lt, yt)=1

2(πt−π)2+λy2t (2)  

ここで,πtはインフレ率,π はインフレ目標値,ytはGDPギャップ(=現実

のGDP−潜在GDP),λは中央銀行の政策目標における所得安定化の相対的ウ

エイトである.中央銀行は出来るだけ現実のインフレ率をその目標値に近づ け,GDPギャップをゼロにしたいという目標を持っている.しかもその目標 は,(1)式に示すように将来に向けて動学的(intertemporal)な目的関数として 設定される.

 一方,経済構造については,次のようなフィリップス曲線と動学的な総需 要関数を想定する.

    πt+1=πt+α1yt+εt+1 (3)  

    yt+1=β1yt−β2(it−πt)+ηt+1 (4)  

ここで,itは金融政策の操作変数であるt期の名目金利,εtt期の供給ショッ ク,ηtt期の需要ショックで,係数パラメータα1,β1,β2の符号はいずれ も正である.インフレ率は,現実のGDPが潜在GDPを上回ってGDPギャッ プが拡大すると加速する.また,GDP(所得水準)は,一定の潜在GDPのもとで,

実質金利が低下すると増加する.いずれも教科書的に登場するような,標準

(7)

的な設定である4)

 中央銀行は,(2)式,(3)式,(4)式のもとで目的関数(1)式を最小にするよ うに,操作変数である名目金利の流列,ij, j=t, t+1, …∞,を選択する.この 最適化問題を解くと,次の1階の条件を得る.

    πt+2|t=π+ct+1|t−π) (5)  

ここで,πt+2|tt期の情報に基づく2期後のインフレ予想値であり,係数c は中央銀行の政策目標における所得安定化の相対的ウエイトλ,フィリップ ス曲線の係数α1,中央銀行の主観的割引率δの合成パラメータである.具体 的に係数cは,λの増加関数で,α1の減少関数となる.また,0 ≤c 1を満 たし,λ=0の時にはc=0となることも示せる.このことは,損失関数にお いてGDPギャップが考慮されず,インフレのコントロールにのみ中央銀行の 関心があれば,2期後のインフレ予想値は目標値に一致することを意味する.

 さらに,名目金利を被説明変数とする政策反応関数を導出すると,次の関 係式を得る

    it=πtb1t−π)+b2yt (6)  

ここで,

    b1=1−c

β2α1,  b2=1−c+β1

β2 (7)  

である.この(7)式で示されるように,名目金利,あるいは実質金利(it−πt) は,インフレ目標値を上回る現在のインフレ率とGDPギャップの増加関数に なる.その反応係数は,元の構造型モデルの係数パラメータの合成物であり,

先に示した0 ≤c 1より,これらの係数b1b2がいずれも正の符号を持つこ とが示せる.

 また,元の構造型モデルのパラメータと対応させると,所得安定化の相対 的ウエイトλの上昇はいずれの反応係数も低下,フィリップス曲線の係数α1

4) 例えば,標準的なマクロ経済学のテキストである北坂(2003)の第12章を参照.そこでのイ

ンフレ供給曲線とインフレ需要曲線の議論において,実質マネーサプライを実質金利に置き換 えると,同様のモデルとなる.

(8)

の上昇はいずれの反応係数も上昇,総需要関数の調整係数 β1の上昇はGDP ギャップの係数の上昇,総需要関数の実質利子率の係数 β2の上昇はいずれの 反応係数も低下,をそれぞれもたらすことが分かる.

これらの関係をまとめると,第 1 表のようになる.

3 計量モデルとデータ

 前節ではSvensson (1997)などに従い,テイラー・ルール型の政策反応関数 を導出する理論的フレーム・ワークを紹介した.ここでは,実証分析で用い る定式化について述べる.

 テイラー・ルール型の政策反応関数を対象にした実証研究として,先に紹 介したCGGがある.ここではCGGに従い,前節で導出したのと同等のテイ ラー・ルール型政策反応関数の計量モデルについて説明する.CGGでは,次 のような政策反応関数を考える.

    it=α0+α1Ett+n]+α2yt (8)  

ここで,itは中央銀行の操作目標としての名目短期金利の最適値を表してい る.

 この(8)式を前節で導出した(6)式と比較すると,インフレ目標の項に関し インフレ目標の係数 b1 GDPギャップの係数b2 所得安定化の相対的ウエイト

λ上昇↑ 低下↓ 低下↓

フィリップス曲線の係数

α1上昇↑ 上昇↑ 上昇↑

総需要関数の調整係数

β1上昇↑ 影響なし 上昇↑

総需要関数の実質金利の係数

β2上昇↑ 低下↓ 低下↓

第 1 表 構造パラメータと反応係数の関係

(9)

て2つの違いがあることが分かる.1つは,インフレ目標値 π が消去されて いることである.これは,インフレ目標値π が一定であると仮定すれば,そ れが定数項αに吸収されるためである.もう1つは,目標値との比較が現在 のインフレ率πtではなく,将来の予測値Ett+n]になっていることである.

これは,最適な金融政策のルールは現在のインフレ率に基づくのではなく,

将来の期待インフレ率に基づくべきだ,といういくつかの先行研究に依って いる5).前節で引用したSvensson (1997)でも,政策ルールとして形式的に現 在のインフレ率がインフレ目標の項に現れるが,それは中央銀行が現在のイ ンフレ率を参考にするからではなく,現在のインフレ率が他の変数とともに 将来のインフレ率を予測するからだと説明されている.したがって,この点 で(8)式は(6)式をより一般的に表したものと見ることができる.

 さて,最適な政策ルールとしてのテイラー・ルールを,政策反応関数の実 証分析で用いるために,CGGでは実際の名目金利が中央銀行の操作目標とし ての最適値から乖離する可能性を,次のような部分調整モデルで定式化して いる.

    it=ρ(L)it−1+(1−ρ)it (9)  

ここで,ρ(L)=ρ1+ρ2L+ +ρnLn−1で,Lはラグ演算子,ρ≡ρ(1)であり,

0 ρ 1を仮定する.

 すなわち,中央銀行は現在の金利に最適な金利の(1−ρ)分だけを反映する ように調整する,と考える.もし調整係数ρが「0」に近ければ,調整は即 時的であり,現実の金利が常に最適に調整されることを意味する.反対に調 整係数ρが「1」に近ければ,最適値への調整はきわめて緩慢であり,中央 銀行が最適値の実現よりも金利のスムーズな動きに大きく配慮していること を意味する6)

5) 脚注3を参照.

6) 中央銀行が金利をスムーズに動かすことの理由としては,金利の予期できない変更が金融機 関に大きなキャピタル・ロスを発生させる可能性を避ける狙いがあると考えられる.例えば,

Goodfriend(1991)を参照.

(10)

 (9)式に(8)式を代入して整理すると,部分調整モデルを考慮した政策反応 関数は次のように書ける.

    it=ρ(L)it−1+(1−ρ) (α0+α1Ett+n]+α2yt) (10)  

 さて,本稿では以上のCGGの議論を参考に,次のような政策反応関数を基 本モデルとして推定する.部分調整モデルについて1次を仮定すると,次の 式を得る.

    it=ρit−1+(1−ρ) [γ01t+1−πt)+γ2yt]+εt (11)  

ここで,εtは確率的誤差項である.(10)式においてn=1を仮定し,予測値は 観測できないので,事後的に観察できる実現値に置き換える.また,ここで は長期の時系列データを用いるために,(11)式で示すようにインフレ率の目 標値πtを可変的に考える.

 さらに,本稿では当初の問題意識で述べたように,上の基本モデルに対し て新たな説明変数として,株価変数Stを加える.

    it=ρit−1+(1−ρ) [γ01t+1−πt)+γ2yt+γ3St]+εt (12)  

ここで,株価変数としてはBernanke and Gertler (2000)の用いた上昇率以外に も,株価の基調的な変動と一時的な変動を区別し,新たな説明変数を作る.

具体的には,次の3種類を考える.

  株価1:log (TOPIXt)−log (TOPIXt−1)

  株価2:log (TOPIXt)を2次トレンドに回帰した逐次残差

  株価3: 基調的変動の階差で、基調的変動はlog(TOPIXt)−[log(TOPIXt) を2次トレンドに回帰した逐次残差]で計算

TOPIXtは東証株価指数であり,「株価1」はBernanke and Gertler (2000)で用 いられたもので前期比伸び率に相当し,「株価2」は基調的変動からの乖離で ある一時的変動を表し,「株価3」は基調的変動である.

 実際に推定で使われたデータの出所などは,次のとおりである.

  it:コール・レート有担保翌日物金利(期末値).[出所:日本銀行ホームページ]

  πt:消費者物価上昇率(除く生鮮食品),ただし消費税の導入と引上げを調整.

(11)

   [出所:総務庁ホームページ]

  πt:πtの10年間の移動平均値.

  yt:log(Yt)を2次トレンドに回帰した逐次残差.

  Yt:実質国内総生産(季節調整済み,68SNA).[出所:内閣府ホームページ]

  TOPIXt:東証株価指数(期中平均値).[出所:日本銀行ホームページ]

 データ・セットの期間は,1971年第1四半期から2000年第4四半期まで である.日本銀行はテイラー・ルールが想定するように,2000年までコール・

レートという短期金利を操作目標変数としてきた.しかし,長引く景気の低 迷や緩やかなデフレに対して2001年3月から操作目標を日銀当座預金残高と する量的緩和政策が新たに採用された.したがって,2001年以降は金利を操 作変数とするテイラー・ルールの分析がそのまま応用できない.そこで本稿 では,分析の対象を2000年までとする.

 また,ラグ変数とリード変数(n=1を仮定)のために,推定期間はデータ・セッ ト全体よりも短くなる.なお厳密には,金融政策の操作変数としてコール・レー ト無担保翌日物が適当であるが,長期のデータを利用できないのでここでは 有担保のコール・レートを用いた.

 実際に推定で使われたデータの動きを見ておく.まず第 1 図には,金融政 策の操作変数であるコール・レートの推移が描かれている.これをみると,

第1次石油ショックの起こった1973年以降,第2次石油ショックの起こった 1980年以降,バブル経済末期の1990年以降の3つの時期に大きなコール・レー トの上昇が観察される.その後,1996年以降は低金利で推移し,1999年から 2000年にかけてはゼロ金利政策ということばに象徴されるようにコール・レー トが限りなくゼロに近づく状況がみられる.

 次に,説明変数であるインフレ率の推移をみる.それが,第 2 図に示され ている.ここではインフレ率として,「消費者物価上昇率(除く生鮮食品)」を 用いた.他にもインフレの指標はあるが,日本銀行は定期点検の対象として この「消費者物価上昇率(除く生鮮食品)」を「金融経済月報」に掲載しており,

(12)

第 1 図 コール・レート(翌日物)の推移 出所:日本銀行ホームページ

第 2 図 インフレ率と平均値の推移

注: インフレ率は「消費者物価指数(除く生鮮食品)」の前年同期比伸び率.なお,経済企画庁「物 価レポート'90」と「物価レポート'98」に従い,消費税の導入(19894月)と税率引 上げ(19974月)の影響を除くために892月〜901月は1.2%,97年2月〜98

1月は1.5%を控除している.

(13)

不規則な変動が含まれない基調的なコア・インフレ指標とみている(白川・門 間(2001)).ただし,ここでは消費税の導入と引上げを調整している.第2図 を見ると分かるように,10年間の移動平均値は1980年代に入ると大きく低 下している.本稿では,このような現実のインフレ率の低下でインフレ目標 値もあわせて低下した,とみなしている.

 第 3 図には,テイラー・ルールの2つ目の要因であるGDPギャップの動き が示されている.GDPギャップはインフレ目標値よりも敏感にその時々の景 気の状態などを反映すると考えるために,ここでは実質GDPの対数値を2次 までのトレンド項に回帰した逐次残差から求めた.その結果,図に示すよう に1970年代後半と1980年代半ばから1990年にかけて大きなプラスのGDP ギャップが計測され,反対に第1次石油ショックのあった1973年以後とバブ ル経済の崩壊した1990年代前半,および金融不安が顕著になった1990年代 後半に大きなマイナスのGDPギャップが計測されている.

第 3 図 GDPギャップ 注:GDPギャップの推計方法は本文を参照.

出所:内閣府「国民経済計算年報(68SNA)」

(14)

 最後に,基本モデルに付け加える株価の情報として,株価の一時的変動(「株 価2」)と基調的変動(「株価3」)の推移が第 4 図に描かれている.ここでは GDPギャップと同様に,基調的変動と一時的変動を東証株価指数の対数値を 2次までのトレンド項に回帰した逐次残差から求めた.第4図から分かるよ うに,株価の一時的変動は1970年代後半以降1990年までほぼ一貫してプラ スが続いている.しかし,1990年代に入ると大きくマイナスとなり,2000年 あたりにようやくゼロ前後に戻している.

4 実証分析と考察

4. 1 GMM による計測

 まず,通常の固定パラメータを想定した政策反応関数の推定結果をみる.

(10)式には将来の期待インフレ率が説明変数に現れるが,(11)式ではそれを1 期先(n=1)の実現値に置き換えた.このために合理的な予測誤差と確率的誤 差項の相関を考慮して,一致推定量を得るために先行研究と同様にGMM(一

第 4 図 株価とその基調的変動 注:基調的変動と一時的変動の計算方法は,本文を参照.

(15)

般化積率推定法)を用いる.その結果が,第 2 表に示されている.

 まずモデル1は,基本モデルとなるテイラー・ルール型の政策反応関数で ある.ここで,物価目標とGDPギャップのいずれの項もプラスで計測され,

標準誤差も小さく安定した推定結果と言える.

 ただし,ここに示された推定値は説明変数の係数推定値であり,部分調整 モデルを考慮すると,元の最適なコール・レートに対する長期の反応係数を 計算するためには各推定値を(1−ρ)で割る必要がある.そうして求めたのが,

標準誤差下の[ ]内に示した長期の係数である.

 この長期の係数をみると,物価目標の係数は「0.9」と,わずかに「1」を下回っ ている.左辺は名目金利であるから,このことは金融政策がインフレに対し て非安定的(destabilizing)であるか,せいぜい適応的(accommodative)である ことを意味している.すなわち,インフレに対してその上昇率以上に名目金 利を引き上げて,インフレを安定化させようとした形跡が見られないことに なる.

 次に,株価変数を説明変数に含むモデルを考える.「異時点間生計費指数」

(Alchian and Klein (1973))や「動学的均衡価格指数」(渋谷(1991))によれば,

株価のような資産価格は将来の物価変動に関する重要な情報を持っている.

他方で,Meyer (2000)によるテイラー・ルールの解釈では,GDPギャップは インフレの先行指標と考えられている.またGoodhart (1999)は,現在のイン フレ率とGDPギャップの2つが将来のインフレを予測する重要な(コアとな る)変数であると解釈している.すなわち,Meyer (2000)もGoodhart (1999)も,

ともに金融政策は現在の景気に配慮しているのではなく,単に将来の物価動 向を知るために現在のGDPギャップを参考にしていると解釈される.

 こうした考え方に従えば,GDPギャップの代わりに,株価変数を政策反応 関数に入れることが考えられる.そこで,モデル2では,GDPギャップの変 わりに,株価の変化率に相当する「株価1」を説明変数とした.その結果は 第2表に示されるように,符号条件を満たすものの,標準誤差は大きく推定

(16)

第2表 GMMによる推定結果 (推定期間:1971年第3四半期〜2000年第3四半期) JpJGMM χ2212 4

モデルコールレート(-1)定数項物価目標GDPギャップ「株価」1「株価2」「株価3」J統計量 モデル10.8371 (0.0446)

0.0072 (0.0024) [0.0441]

0.1474 (0.0484) [0.9048]

0.1043 (0.0369) [0.6402]―――5.2021 (0.074) モデル20.9375 (0.03891)

0.0018 (0.0015) [0.0288]

0.0469 (0.0474) [0.7504]―0.0022 (0.0198) [0.0352]――5.8337 (0.054) モデル30.8697 (0.0282)

0.0041 (0.0013) [0.03146]

0.1695 (0.0414) [1.3008]――0.0034 (0.0022) [0.0260]

0.0532 (0.0154) [0.4082]

6.0605 (0.109) モデル40.8290 (0.0469)

0.0075 (0.0023) [0.0438]

0.1511 (0.0522) [0.8836]

0.1165 (0.0363) [0.6812]

0.0109 (0.0180) [0.0637]―7.3268 (0.062) モデル50.8102 (0.0392)

0.0079 (0.0023) [0.0416]

0.2052 (0.0436) [1.0811]

0.0834 (0.0355) [0.4394]―0.0029 (0.0024) [0.0152]

0.0301 (0.0146) [0.1585]

5.2339 (0.264) モデル60.8138 (0.0373)

0.0075 (0.0022) [0.0402]

0.2088 (0.0421) [1.1213]

0.0883 (0.0357) [0.4742]――0.0432 (0.0137) [0.2320]

4.7667 (0.190)

(17)

値は不安定である.

 そこで,株価変数をその一時的変動を示す「株価2」と,基調的変動を示す「株

価3」に分けて説明変数としたのが,モデル3である.これをみると,いく

つか興味深いことが分かる.まず第1に,株価変数はいずれもプラスの符号 で計測されるが,一時的変動を表す「株価2」は標準誤差が大きく,基調的 変動を表す「株価3」は標準誤差が小さく安定的な係数推定値を得ているこ とである.このことは,中央銀行は株価の一時的変動で金融政策を動かすこ とはないが,株価の基調的変動は金融政策において考慮されている可能性が 高いことを意味する.

 第2に,物価目標の係数推定値が大きくなり,長期の係数が「1.3」と「1」

を上回っていることである.この結果は,インフレに対する金融引き締め,

という通常の金融政策のスタンスを示す点で理解しやすい.第3に,モデル が正しいという帰無仮説を検定するJ統計量のp値が大きくなり,はっきり とモデルの妥当性を支持する方向に変化していることである.

 モデル3では,GDPギャップを除いて推定したが,モデル4とモデル5で はGDPギャップを残して,それぞれ株価変数を加えている.この結果は,モ デル2やモデル3と同様に,やはり一時的変動と基調的変動に分けて説明変 数とした方が結果は良好である.また,一時的変動は標準誤差が大きいもの の,基調的変動の標準誤差は小さく安定している.さらにいずれの推定でも,

GDPギャップの係数はプラスで符号条件を満たし標準誤差も小さい.した がって,GDPギャップの持つ情報を株価変数で置き換えることは出来ない.

 そこで最後に,モデル6では基本となるテイラー・ルール型の政策反応関 数に株価の基調的変動だけを説明変数に加えたモデルを推定した.その結果 はモデル5と大差なく,株価の一時的変動を表す「株価2」は独自の重要な 情報を持っていないことが示唆される結果となった.

 以上の結果をまとめると,次のようになる.通常のテイラー・ルール型の 政策反応関数に,株価の基調的変動を加えたモデルが有益である.この場合,

(18)

物価目標,GDPギャップ,株価変数が,それぞれコール・レートを操作変数 とする金融政策に影響する.符号はいずれもプラスで予想された通りであり,

長期のインフレ目標の係数は「1」を超え,名目金利の動きはインフレの上昇 を抑制するように動いている.潜在GDPを上回る現実のGDPの拡大や,株 価の基調的な上昇は金利を上昇させる.なお,J統計量によりモデルの妥当性 は統計的に支持される.

4. 2 マルコフ・スイッチング・モデルによる計測

 GMMでは,係数推定値が推定期間を通じて一定であることを前提とした.

その推定結果は総じて良好であったが,CGGをはじめ政策反応関数の実証分 析の多くは,推定期間を分割・変更することによって反応係数の変化を考察 している.実際のところ,Bernanke and Gertler (2000)では,わが国を対象に 1979年4月から1989年6月までと,1989年7月から1997年12月までとに 推定期間が分割されている.その結果,前半期間では株価上昇率の係数がマ イナスに計測され,後半期間では反対にプラスで計測されている.

 そこで本稿では,このようにパラメータが変化する可能性を,マルコフ・

スイッチング・モデルを使って計測する.パラメータの変化を計測するマル コフ・スイッチング・モデルは,Hamilton (1988, 1989, 1990)で提案され,その 後Krolzig (1998)でVARモデルに拡張され,Kim and Nelson (1999)で状態空間 モデルに拡張されている.

 マルコフ・スイッチング・モデルによるレジーム・シフト(あるいはパラメー タの変化)の計測では,カルマン・フィルター・モデルのように毎期ごとにめ まぐるしくパラメータが変化することはなく,レジームが限定できるために その経済的解釈が容易である.また,多くの実証分析で用いられる構造変化 の検定と期間分割による推定という手順とは異なり,時点ごとに各レジーム の成立する確率も計測できるので,より柔軟に経済構造の変化を考察できる.

ただし,GMMで考慮されたような予測値を実現値に置き換えるために発生

(19)

する撹乱項との相関はここで考慮されておらず,推定値の統計的性質や厳密 な仮説検定には問題が残されている.

 以下では,GMMの推定でその妥当性が支持された第2表のモデル6,すな わちテイラー・ルール型の政策反応関数に株価の基調的変動(「株価3」)を加 えたモデルを推定する.また,マルコフ・スイッチング・モデルで予め指定 するレジームの数は,その経済的解釈が容易であるように「2」を仮定する.

その計測結果が,第 3 表にまとめられている7)

 ここでレジームの数は「2」を仮定しているので,2種類の係数推定値が計 測される.いずれの場合も,係数の符号はプラスであり,予想どおりの結果 である.レジーム1の場合,コール・レートの1期ラグの係数,すなわち調 整係数が「0.93」と「1」に近く,金利の調整が緩慢に行われることを示して いる.また,GDPギャップの標準誤差は大きいが,物価目標と株価の基調的 変動(「株価3」)の標準誤差は小さい.物価目標の長期の係数は「1.4」と「1」

を超えている.これに対して,レジーム2の場合,コール・レートの1期ラ グの係数は「0.60」と小さく,レジーム1に比較すると金利の最適水準への 調整が速いことを示している.またレジーム1とは反対に,GDPギャップの 標準誤差が比較的小さいのに対して,株価の基調的変動の標準誤差は大きい.

物価目標の長期の係数は「0.98」と「1」に近く,インフレに対して金利はあ くまで受動的に変化している.

 こうした2つのレジームを比較すると,レジーム1では金融政策が現在の 物価と株価の基調的変動に反応しており,そこでは現在と将来の物価動向に 重点を置いて緩慢に金利の調整が行われたことが推測できる.またレジーム 2では,物価動向よりもその時のGDPギャップを縮小するように,比較的ス ピードの速い金利の調整が行われたことが推測できる.

 しかしより厳密には,政策反応係数は第2節で見たように,中央銀行の政

7) マルコフ・スイッチング・モデルの計算は,Krolzig (1998)が作成したOx (Doornik(2001)) よるプログラムで行った.

(20)

[パラメータ推定値]

注: 推定値下の( )内は標準誤差,[ ]内は長期の係数.推定期間は1971年第3四半期〜2000 年第3四半期.

[推移確率]

レジーム1 レジーム2

レジーム1 0.9036 0.0964

レジーム2 0.2506 0.7494

[各レジームの期間]

標本数 確率 平均継続期間

レジーム1 83.6 0.7221 10.37

レジーム2 33.4 0.2779 3.99

レジーム コール・レート(-1) 定数項 物価目標 GDPギャップ 「株価3」 標準偏差

レジーム1 0.9318

(0.0220)

0.0025

(0.0012)

[0.0366]

0.1003

(0.0253)

[1.4706]

0.0393

(0.0212)

[0.5762]

0.0312

(0.0128)

[0.4574] 0.00326

レジーム2 0.6080

(0.0959)

0.0233

(0.0073)

[0.0594]

0.3864

(0.0783)

[0.9857]

0.3158

(0.1188)

[0.8056]

0.0264

(0.0479)

[0.0673] 0.00989

策スタンスとともに他のパラメータの影響を受ける.具体的に第2節では,

テイラー・ルール型政策反応関数の係数と構造パラメータの関係を考察し た.そこでの結果は,構造パラメータの変化は総需要関数の調整係数 β1の 場合を除いて,両方の反応係数を同じ方向へ変化させた.第3表の結果を見 ると,レジーム1とレジーム2で長期係数の変化は2つの反応係数で異なっ ている.すなわち,レジーム2はレジーム1と比較して物価目標の係数は小 さく,GDPギャップの係数は大きい.このことは,反応係数の変化が1つの 構造パラメータの変化によるものではないことを示唆している.したがって,

本当にレジーム2がレジーム1よりも中央銀行が足元の景気に配慮した結果 第 3 表 マルコフ・スイッチング・モデルによる推定結果

(21)

かどうかは不明であるが,少なくともそうした可能性を排除するものではな く,消極的に支持していると理解できる.

 次に,マルコフ・スイッチング・モデルで計測されたそれぞれのレジーム の推移確率をみると,レジーム1がそのままレジーム1で継続する確率は「0.9」

と大きく,レジーム1からレジーム2に変化する確率は「0.09」,レジーム2 がレジーム2で継続する確率は「0.7」,レジーム2からレジーム1に変化す る確率は「0.25」である.この推移確率から,レジーム1の継続が一般的であり,

いったんレジーム2にシフトしてもその状態はそれほど長くは続かず,レジー ム1に戻る確率が比較的高いことが分かる.

 また各レジームの期間をみると,推移確率の結果から推測できるように,

レジーム1の方が長く全標本期間のうち7割以上を占め,平均継続期間は四 半期単位でおよそ10期(すなわち2年半)となっている.これに対して,レジー ム2は全標本期間のうち3割以下で,平均継続期間はおよそ4四半期(1年)

に過ぎない.すなわち,多くの期間において,金融政策は現在と将来の物価 動向に重点を置いて緩慢な金利の調整を行っていることが示唆されている.

 最後に,実際の標本期間に対応して計算された各レジームの確率が,第 5 図に描かれている.これをみると,レジーム1を基本にすると,一時的にレジー ム2が成立した時期が1980年以降に4回あることが分かる.すなわち,1980 年前後,1986年,1991年,1994年である.これらの期間は,それぞれ1980 年前後は第2次石油危機,1986年はプラザ合意後の円高局面,1991年は株価・

地価の下落開始,1994年は1990年代に入って初めての景気回復局面である.

 1990年代の2回をもう少しくわしくみておこう.第3図からも分かるよう に,GDPギャップは1990年をピークに低下に転じている.株価の低下も実 際には大きいが,過去の趨勢から計算される基調的変動はこの時期低下して おらず,1991年からの株価下落が一時的変動とみなされた場合,この時期の 金利引下げは足元の景気に大きく配慮したものと解釈できる.バブル崩壊後 の金融緩和については対応の遅れが指摘されることがあるが,金融政策の基

(22)

本的なスタンスがレジーム1の示すような物価動向を中心にしたものである ことを前提にすると,この時期の金融緩和は当局としてはレジームを変更す るほどの決断だったと解釈できる.

 また,1994年にはコール・レートの低下が一時期下げ止まったが,これも 1990年代に入って初めての景気回復局面を迎えたためと理解できる.実際,

第3図からも分かるようにGDPギャップの悪化はこの時期に停止している.

すなわち,当局からみれば1991年以降の金利引下げは景気に配慮した特別な レジームであったので,景気が回復局面に入ったことを確認して金融緩和を 中断した,とみることが出来る.

 以上のマルコフ・スイッチング・モデルによる推定結果をまとめると,わ が国の金融政策はテイラー・ルールが示すように常に足元の物価動向と景気 に配慮して運営されたのではなく,基本は現在の物価と株価の基調的変動,

あるいは現在と将来の物価動向を考慮して運営され,特別な時にだけその時 第 5 図 マルコフ・スイッチング・モデルによる各レジームの推移

(23)

の景気動向が配慮されたのではないか,と推測できる.

5 ま と め

 本稿では,わが国を対象にテイラー・ルール型の金融政策反応関数を推定 し,金融政策のスタンスについて実証的に検討した.その方法論上の特徴を 挙げると,次の2点になる.第1は,テイラー・ルール型の政策反応関数に 株価変数を加えたモデルを分析したことである.しかも,株価変数をその表 面的な動きだけでなく,一時的変動と基調的変動に分けて考慮した.第2は,

GMMによる固定係数による推定とともに,マルコフ・スイッチング・モデ ルを応用したレジーム・シフトを考慮した推定も試みたことである.

 この結果,次のような点が明らかになった.

 (1)GMMによる固定係数を前提とした分析では,通常のテイラー・ルー ル型の政策反応関数に,株価の基調的変動を加えたモデルが有益であること が示された.株価の一時的変動は,金融政策に顕著な影響を及ぼさない可能 性が高く,長期のインフレ目標の係数は「1」を超え,名目金利の動きはイン フレの上昇を抑制するように動いている.また,潜在GDPを上回る現実の GDPの拡大や,株価の基調的な上昇は金利を上昇させる.

 (2)マルコフ・スイッチング・モデルによるレジーム・シフトを考慮した 分析では,わが国の金融政策はオリジナルなテイラー・ルールが示すように 常に足元の物価動向と景気に配慮して運営されたのではなく,現在の物価と 株価の基調的変動,あるいは現在と将来の物価動向を考慮した運営が基本で あり,特別な時にだけその時の景気が考慮されたのではないか,ということ が示された.

 ここでの実証分析の結果は,わが国の金融政策を考える上で非常に興味深

(24)

い.やはりわが国の金融政策は,物価重視であり,あわせて株価の基調的変 動も考慮されたことが示された.このことは,金融当局が株価という資産価 格の変動をまったく配慮しないわけではないが,景気に影響するような資産 価格の一時的変動にはそれほど敏感に対応しないことを示唆している.

 しかし,残された課題もある.方法論的には,マルコフ・スイッチング・モ デルによる推定では,推定値の統計的性質や仮説検定について改善の余地が残 されている.また,反応係数の変化については,厳密にどのような要因によっ てその変化がもたらされたのかモデルに明示されておらず,1つの可能性が指 摘されたに過ぎない.これらの点について,よりいっそうの検討が必要であろう.

【参考文献】

Alchian, Armen A. and Benjamin Klein, (1973), “On A Correct Measure of Inflation,” Journal of Money, Credit, and Banking, 5-1, pp.173-191.

Ball, Laurence, (1999) “Effective Rules for Monetary Policy,” International Finance, 2-1, pp.63-83.

Bernanke, Ben S., and Mark Gertler, (2000) Monetary Policy and Asset Price Volatility,”

NBER Working Paper, 7559, pp.1-74.

Bernanke, Ben S., and Mark Gertler, (2001) Should Central Banks Respond to Movements in Asset Prices? ” American Economic Reviews, 91-2, pp.253-257.

Bernanke, Ben and Michael Woodford, (1997) Inflation Forecast and Monetary Policy,” Journal of Money, Credit, and Banking, 29-4, pp.653-686.

Bohl, Martin T., Pierre L. Siklos and Thomas Werner, (2003) Do Central Banks React to the Stock Market? The Case of the Bundesbank,” mimeo (Deutsche Bundesbank).

Cecchetti, Stephen, Hans Genberg, John Lipsky and Sushil Wadhwani, (2000) Asset Prices and Central Bank Policy, Centre for Economic Policy Research.

Clarida, Richard, Jordi Gali and Mark Gertler, (1998) Monetary Policy Rules in Practice:

Some International Evidence,” European Economic Review, 42, pp.1033-1067.

(25)

Clarida, Richard, Jordi Gali and Mark Gertler, (2000) Monetary Policy Rules and Macroeconomic Stability: Evidence and Some Theory,” Quarterly Journal of Economics,115-1,pp.147-180.

Doornik, Jurgen A., (2001) Ox: An Object-Oriented Matrix Language (4th edition), London:

Timberlake Consultants Press.

Gilchrist, Simon and John V. Leahy, (2002) Monetary Policy and Asset Prices,” Journal of Monetary Economics, 49, pp.75-97.

Goodfriend, Marvin, (1991) Interest Rates and the Conduct of Monetary Policy,” Carnegie- Rochester Conference Series on Public Policy, 34, pp.7-30.

Goodhart, Charles A.E., (1999) Central Bankers and Uncertainty,” Proceedings of the British Academy, 101, pp.229-271.

Hamilton, James, (1988) Rational Expectations Econometric Analysis of Changes in Regime: An Investigation of the Term Structure of Interest Rates,” Journal of Economic Dynamics and Control, 12, pp.385-423.

Hamilton, James, (1989) A New Approach to the Economic Analysis of Nonstationary Time Series and the Business Cycle,” Econometrica, 57, pp.357-384.

Hamilton, James, (1990) Analysis of Time Series Subject to Changes in Regime,” Journal of Econometrics, 45, pp.39-70.

Kim, Chang-Jin and Charles R. Nelson, (1999) State-Space Models With Regime Switching:

Classical and Gibbs-Sampling Approaches with Applications, MIT Press.

Krolzig, Hans-Martin, (1998) Econometrics Modelling of Markov-Switching Vector Autoregressions using MSVAR for Ox,” http://www.economics.ox.ac.uk/research/hendry/

krolzig/.

Meyer, Laurence, (2000) Structural Change and Monetary Policy,” http://www.bog.frb.fed.us/

boarddocs/speeches/2000/20000303.htm.

Rigobon, Roberto and Brian Sack, (2003) Measuring the Reaction of Monetary Policy to the Stock Market,” Quarterly Journal of Economics, 118, pp.639–669.

Sellin, Peter, (2001) Monetary Policy and the Stock Market: Theory and Empirical Evidence,” Journal of Economic Surveys, 15-4, pp.491-541.

(26)

Svensson, Lars E.O., (1997) Inflation Forecast Targeting: Implementing and Monitoring Inflation Targets,” European Economic Review, 41, pp.1111-1146.

Taylor, John B., (1993) Discretion versus Policy Rules in Practice,” Carnegie-Rochester Conference Series on Public Policy, 39, pp.195-214.

浅子和美,(2000)『マクロ安定化政策と日本経済』岩波書店.

北坂真一,(2003)『マクロ経済学・ベーシック』有斐閣.

北坂真一,(2007)「金融政策が株価に与える影響―いくつかの論文の考察―」『経

済学論叢』(同志社大学)第59巻第3号,pp.81-109.

北坂真一,(2009)「金融政策と株式収益率―インパルス反応による分析―」『経済

学論叢』(同志社大学)第61巻第1号.

小塚匡文,(2004)「日本の政策反応関数―共和分分析に基づく再検証―」『金融経

済研究』第21号,pp.112-132.

地主敏樹,(2000)「1980年代後半以後の日本の金融政策―テイラー・ルール型政策

反応関数による検証―」『国民経済雑誌』(神戸大学)第181巻1号,pp.79-103.

地主敏樹・黒木祥弘・宮尾龍蔵,(2001)「1980年代後半以後の日本の金融政策―政 策対応の遅れとその理由―」三木谷良一・アダム・S.ポーゼン編『日本の金融 危機』東洋経済新報社,第5章,pp.115-156.

渋谷浩,(1991)「動学的均衡価格指数の理論と応用―資産価格とインフレーション―」

『金融研究』(日本銀行)第10巻第4号,pp.27-40.

白川方明,(2008)『現代の金融政策―理論と実際―』日本経済新聞社.

白川方明・門間一夫,(2001)「物価の安定を巡る論点整理」『日本銀行調査月報』2001 年10月号,pp.65-121.

白塚重典,(2001)「資産価格と物価―バブル生成から崩壊にかけての経験を踏まえて―」

『金融研究』(日本銀行)第20巻第1号,pp.289-316.

田中敦,(1994)「金融政策の反応関数」『経済学論究』(関西学院大学)第48巻第3号,

pp.161-177.

細野薫・杉原茂・三平剛,(2001)『金融政策の有効性と限界』東洋経済新報社.

(きたさか しんいち・同志社大学経済学部)

(27)

The Doshisha University Economic Review Vol.61 No.2 Abstract

Shin-ichi KITASAKA, Does the Bank of Japan React to Stock Prices ?

  In this paper, we investigate the relationship between stock prices and short- term interest rates in Japan. We estimate some monetary policy reaction functions, including Japanese stock prices. The evidence is consistent with the hypothesis that the Bank of Japan has been systematically reacting to the fundamental fluctuations of the stock prices.

参照

関連したドキュメント

Note that most of works on MVIs are traditionally de- voted to the case where G possesses certain strict (strong) monotonicity properties, which enable one to present various

Note that most of works on MVIs are traditionally de- voted to the case where G possesses certain strict (strong) monotonicity properties, which enable one to present various

Moreover, it is important to note that the spinodal decomposition and the subsequent coarsening process are not only accelerated by temperature (as, in general, diffusion always is)

Is it possible to obtain similar results as in [COP] and in the present paper concerning John disks that are not necessarily

対応者: Vikas Jha 役職 Director, Governance and Policy Advocacy Sam Kapoor 役職 Manager, Partnerships and External Relations 概要. スタッフは

(4S) Package ID Vendor ID and packing list number (K) Transit ID Customer's purchase order number (P) Customer Prod ID Customer Part Number. (1P)

Changes in the Designated Security Plan Article 5 If the owner of the designated Japanese vessel certified as set forth under paragraph 1 of the preceding Article hereinafter

入学願書✔票に記載のある金融機関の本・支店から振り込む場合は手数料は不要です。その他の金融機