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正倉院宝飾鏡の鳳凰文様について : 定性分析から の観点

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正倉院宝飾鏡の鳳凰文様について : 定性分析から の観点

著者 安藤 真理子

雑誌名 文化情報学

巻 7

号 2

ページ 21‑23

発行年 2012‑03‑31

権利 同志社大学文化情報学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013124

(2)

1. 1 はじめに―日本文化の文様―

 私達の身の回りには文様が溢れている。文様は 装飾の意味合いが強いが、単なるデザインではな い。その中には思想や民俗性、その時代や地域の 世情および文化交流などの情報も含まれている。

正倉院の文様がその典型で、ローマ等の西方から 唐の都・長安を繋ぐシルクロードを経て日本へと 渡来し、日本独自の意味合いや好みが付加されて 今日まで至っている。日本文化は融合された文化 と言われるが、その意味で正倉院の文様はそれを 具体的に示すものと言える。

1. 2 文様分析の研究法

 正倉院宝物の多岐かつ詳細な研究を試みた研究 者の一人が林良一氏である。林氏は「唐朝の国都 長安がシルクロードの終着駅であるとすれば、正 倉院はそうした貴重な荷物を満載したままの貨車 を入れた車庫であるといってよいだろう」とし、

国際色豊かな多種多様の文様を幾何文、自然現象 文、実在動物文、空想的動物文、実在植物文、空 想的植物文に分け、その分類を基に用いて樹下動 物文と人物文、狩猟文の分析をおこない、西方で の元来の意味と様式がいかに変容し中国化して いったのかを明らかにした。

 しかし、このように分類研究されてきた正倉院 の文様ではあるが、表現が異なるにもかかわらず ひとつにまとめて分類されている文様があるのも また事実であり、その一例が鳳凰文様である。

 鳳凰とは古代中国において麟、亀、竜とともに 四瑞として尊ばれた想像上の霊鳥である。鳳凰の 形態は、前は麟、後ろは鹿、頸は蛇、尾は魚、背

は亀、頷は燕、嘴は鶏に似て羽には五色の紋があ ると定義される。しかし、実際の文様表現として は鶏冠があり、首長で体に対して長く尾羽を有す る足長の大型鳥で表されることが多い。また吉祥 を表す仙人を背に乗せていたり、綬や草木花を咥 えていることもある。

 鳳凰文様について今回分析対象とした正倉院宝 飾鏡9面の各鳳凰表現を見ていくと、尾羽の表現 に4点、鶏冠に2点、胸毛の表現に2点、付属 表現に1点の違いが見られることがわかった。

 尾羽の違いには①尾羽が上方に跳ね上がった状 態で表現されているものとそうでないもの②尾羽 根本の羽の枝分かれの有無③尾羽の下の羽の有無

④尾羽の羽の動きを渦巻き状に表現しているもの としていないものが存在した。

 鶏冠については①鶏冠の有無②鶏冠が豆冠であ るものとないものがあった。

 胸毛については①胸毛表現の有無②胸毛を直線 で表現しているものと曲線で表現しているものと が見られた。

 最後の付属表現であるが①吉祥を表す綬や草木 花を咥えているものと何も咥えていないものが見 受けられた。

 このようにひと口で「鳳凰」文様と言われてい るものも詳細に検討すれば様々な違いがあり、そ Journal of Culture and Information Science, 7(2), 21-23, (March 2012)

資料紹介

正倉院宝飾鏡の鳳凰文様について

-定性分析からの観点-

安藤真理子

吉岡幸雄 1996 年『日本の文様図典』紫紅社より転載

(3)

22 Journal of Culture and Information Science March 2012

れぞれが異なった文化に基づいている可能性、あ るいは元の文様からの変化があったと推測でき る。

 そこで、この問題を明らかにするために複数の データの特徴や類似性について分析する手法の一 つである数量化Ⅲ類を用いて検証をおこなった。

なお、今回の分析に使用した鳳凰はほぼ同じ形態 をとる北倉第2号鏡、北倉第3号鏡、北倉第12 号鏡と南倉第1号鏡、南倉第3号鏡、南倉第7号鏡、

南倉第9号鏡、南倉第11号鏡、南倉第13号鏡 である。また、同じ鏡であるにもかかわらず、ほ ぼ同じ形態でも視覚的に分かる違いがある鳳凰表 現や鳳凰になりうる可能性があるものについては 南第1号鏡−1のように番号をつけて同鏡の中で も区別した。このようにした理由として、一つの 鏡の中にも異なる表現の鳳凰文様が存在すること は鳳凰表現に変化があったことを顕著に示してい るのではないかと考えたからである。さらに、同 じ鏡でも表現が異なる為に同じ鏡であっても違う グループに分類されれば、その鏡の表現のルーツ や他の鏡の表現との繋がりを見つけられるのでは ないかと期待したからである。

1. 3 分析結果・考察

 分析結果の図より、北倉第3号鏡の鳳凰表現が 今回の鳳凰表現分類の平均となることが分かる。

その特徴をまとめれば「尾が上方に跳ね上がり、

尾羽の根本からの枝分かれがあり、尾羽の渦巻き 表現を有して尾羽の下に羽が別にある。鶏冠があ り、その鶏冠は豆冠で、胸毛表現があって直線で 表現されている上に付属品も有している」となる。

これに近いのが、北倉第12号鏡、南倉第13号

鏡−2、南倉第1号鏡−2であり、この鏡群をA

群とした。このA群と対象的と言えるのがB群

の北倉第2号鏡の2種類の鳳凰表現である。

 この北倉第2号鏡の2種類の鳳凰の特徴は尾 羽根本からの羽の枝分かれが無く、鶏冠表現を有 し、胸毛表現はあるものの吉祥を表す付属表現が 見られないことである。そして、この2種類の鳳 凰の尾羽の表現は繊細である。

 次にC群とした鏡群は南倉第3号鏡-3と南倉 第7号鏡の表現である。この2つの鳳凰表現は 特に鶏冠がないことと胸毛表現が無いことが特徴 である。

 図の中でも特に目をひく鏡が南倉第9号鏡−1 である。この南倉第9号鏡−1は鳳凰表現を調べ る上で鳳凰との違いを見るために今回意図的に分 析対象に入れた鶏表現である。その特徴は鶏冠を 有する頭が体長に対して小さいうえに体全体に直 線で表現された毛を有して垂れ下がった尾羽で表 現されることである。この鶏表現が他の鏡から離 れた表現であるということは、鳳凰表現が違う意 図をもって作られていたことがわかる。

 以上の結果を踏まえると、北倉第3号鏡が今 回の正倉院宝飾鏡の鳳凰表現の平均となり、これ に対してA群の鳳凰表現は根本から枝分かれし て毛の動きが渦巻き状態に表された尾羽が跳ね上 がった状態で、豆冠の鶏冠を有し、胸毛表現があ る鳳凰表現であり、B群は北倉第2号鏡の尾羽根 本からの羽の枝分かれが無く、鶏冠表現を有し、

胸毛表現はあるものの吉祥を表す付属表現が見ら れない2種類の鳳凰表現であった。そしてC群 は鶏冠と胸毛表現がない鳳凰表現であった。

正倉院宝飾鏡の鳳凰文様分析データ

数量化Ⅲ類・バイプロット図

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23 正倉院宝飾鏡の鳳凰文様について

Vol. 7 No.2

 「鶏とは異なる」と意識され、今回の鳳凰表現 の平均となった北倉第3号鏡の鳳凰表現を参考に することは、多様な鳳凰表現がどのように系統に 分かれ派生して各地で様々に異なる鳳凰表現がど のように生み出されたかの推定において有効であ る。

1. 4 おわりに

 分類分析は様々な角度から行えるものなので、

より細かく分析することで今まで言及されていな い文様の特定や文様の再確認・再検討、複雑な文 様の構成解明や曖昧であったものが確かなものへ と変わり幅広い活用が期待できる。そしてその結 果を各時代に残る文様と照らし合わせることで、

消えていった文様や変化・展開していった文様が

「何故消えたのか」「何故変化する必要があったの か」を文様の精確な意味から考え、その当時の遺 物や文献史料を組み合わせて考察することで、そ の時代の情勢や意識をより明確にできる可能性を 持っている。今回の鳳凰の分析は大まかな形状分 類分析なので、これからの課題は羽や鶏冠などの 各形状コンテンツの中でも比重をつけていくこと で更なる細かい文様分析を行い、文様を詳細に追 求していくことである。

参照

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