(受稿2015.12.10/受理2016.1.6)
1富山大学附属病院 感染症科
2富山大学附属病院 脳神経外科
intermedius はStreptococcus anginosusグループの 1 つ
として,脳や肝臓において膿瘍を形成しやすいことが指 摘されている3)。また,A. aphrophilusは,脳膿瘍や心 内膜炎などの原因菌として報告されているが,発育する にあたって栄養要求が厳しく,臨床検体からの分離例は 少ない4)。今回我々は,口腔内からの血行感染が疑われ はじめに脳膿瘍の原因菌の約86%は単一菌種であるが,口腔内 からの頭蓋内感染に限れば,複数菌を認めるものは約 47%と 高 率 と な る1)~2)。 今 回, 検 出 同 定 さ れ た
Streptococcus intermediusと Aggregatibacter aphrophilusは い ず れ も 口 腔 内 常 在 菌 で あ り,S.
症 例 報 告
健常者に発症したAggregatibacter aphrophilusと Streptococcus intermediusの複数菌感染による
脳膿瘍の 1 例
川筋仁史
1・東 祥嗣
1・宮嶋友希
1・松本かおる
1・河合暦美
1・山本修輔
2・ 富田隆浩
2・永井正一
2・黒田 敏
2・山本善裕
1A Case of Brain Abscess Caused by Aggregatibacter aphrophilus and Streptococcus intermedius in an Apparently Healthy Man
Hitoshi KAWASUJI1, Yoshitsugu HIGASHI1, Yuki MIYAJIMA1, Kaoru MATSUMOTO1, Koyomi KAWAGO1, Shusuke YAMAMOTO2, Takahiro TOMITA2, Shoichi NAGAI2, Satoshi KURODA2, Yoshihiro YAMAMOTO1
Department of Clinical Infectious Diseases, Toyama University Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, Toyama, Japan
Department of Neurosurgery, Toyama University Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, Toyama, Japan
要 旨
脳膿瘍は,近年死亡率や治癒率の改善を認めているものの,迅速な外科的処置に加え,原因微生物に 対して適切な抗菌薬投与が速やかに行われなければ予後の悪化を招く。今回我々は,42歳男性に発症し たAggregatibacter aphrophilusとStreptococcus intermediusの複数菌感染による脳膿瘍の 1 例を経験 した。生来健康であったが,入院時の歯科診察で多数の齲歯を認め,口腔内からの血行感染が疑われた。
外科的ドレナージ術が施行され,膿培養からS. intermediusが検出同定された。その 5 日後に同一検体 から,これまでに報告例が少ないA. aphrophilusが新たに分離同定された。脳膿瘍の予後不良因子の 1 つとして,複数の原因菌が挙げられており,本症例は適切な抗菌薬投与および外科的処置が速やかに行 われたことが予後改善の要因と考えられた。
Abstract
We report a case of brain abscess caused by Aggregatibacter aphrophilus and Streptococcus intermedius in a 42-year-old apparently healthy man. S. intermedius and A. aphrophilus were isolated by a general culture test using the abscess aspirate. Although few studies have reported cases of brain abscess caused by A. aphrophilus, recent studies using the 16s ribosomal sequence method have improved our understanding by microorganisms, particularly fastidious organisms. Poor prognostic factors include polymicrobial infections, age, consciousness, multiple brain abscesses, and ventricular rupture. In the present report, prompt initiation of appropriate antimicrobial therapy and the surgical procedure resulted in good outcomes.
Key words: brain abscess, polymicrobial infections, Aggregatibacter aphrophilus, Streptococcus intermedius
高吸収,内部低吸収の孤立腫瘤性病変と周囲に低吸収域 が 認 められた。 また, 頭 部MRIではGd造 影 でring enhancementを伴う孤立腫瘤性病変が認められ,拡散強 た,S. intermediusと比較的まれなA. aphrophilusの複
数菌感染による脳膿瘍の 1 例を経験したので報告する。
症例:42歳,男性。
主訴:意識障害。
現病歴:生来健康であったが,運転中に意識消失をき たし交通事故を起こした。救急隊到着時に痙攣を認め,
近医に緊急搬送となった。到着時,痙攣発作は軽快して いた。発熱や炎症反応の上昇は認めなかったが,頭部造 影MRIで右前頭葉にring enhancementを伴う直径2.2 cm大の孤立腫瘤性病変が認められた。脳膿瘍が疑われ,
同日前医へ転院し,メロペネム( 2 g/回× 3 /日)の投 与と抗痙攣薬の投与を受けたのち,第 6 病日当院へ転院 となった。
既往歴:特記すべき事項なし。
生活歴:喫煙 10-20本/日×18年( 7 年前に禁煙),
飲酒 ビール350 ml /日。
入院時身体所見:身長 177 cm,体重 60.7 kg,意識清 明,体温 36.3 ℃,血圧 101/81 mmHg,脈拍 80回/分,
呼吸数 14回/分,SpO2 97%(室内気),口腔内衛生状態 不良(齲歯多数),左側舌尖部に痙攣時に生じたと思わ れる潰瘍あり,心音・呼吸音正常,外傷や皮疹なし。神 経学的所見正常。
入院時検査所見(Table 1 ):末梢血白血球数は基準 値内であったが,好中球分画74%と増加し,CRP 0.74 mg/dLと 軽 度 上 昇 を 認 めた。また,CK 3889 U/L,
AST 107 U/Lと筋逸脱酵素の上昇を認めた。抗核抗体 は陰性であり,CEAやCA19- 9 など腫瘍マーカーの上昇 は認めなかった。HbA 1 cは5.6%と基準値範囲内であり,
抗HIV抗体は陰性であった。
画像所見(Fig. 1 ):頭部造影CTでは右前頭葉に辺縁
Table 1 入院時血液検査所見
Fig. 1 入院時頭部造影CTおよび頭部造影MRI
A)頭部造影CTでは,右前頭葉に直径2.2 cm大の辺縁高吸 収,内部低吸収の孤立腫瘤性病変と周囲に低吸収域が認めら れた。
B)頭部造影MRIでは,同部位にGd造影T 1 強調画像でring enhancementを伴う孤立腫瘤性病変が認められた。
C)拡散強調画像において,孤立腫瘤性病変内部の高信号が 認められた。
D)FLAIRにおいて,孤立腫瘤性病変の周囲に浮腫と思われ る高信号域が認められた。
た。その後も再燃なく経過している。
なお,最終的なA. aphrophilusの同定は遺伝子検査に よ っ て 行 っ た。16S-rRNA 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 はA.
aphrophilusの基準株(CCUG3715,GenBank accession
number AY362906)のそれと99.8 %(1230/1233塩基対)一致したため,本菌種と同定した。
考 察
脳膿瘍は,HIV感染等の基礎疾患や免疫抑制薬の使用 症例の他,外科的処置や外傷,中耳炎,蜂巣炎,歯性感 染症等による直接的な脳周囲のバリア機能が破綻した症 例,感染心内膜炎等の全身性疾患を有する症例に多い5)。 しかしながら,Alanらは,頭蓋内感染症60症例のうち,
齲歯など口腔内病変が侵入門戸と考えられる症例の約 75%は基礎疾患を認めなかった。また,約60%は神経学 的症状に先行する歯科処置歴や明らかな口腔内病変によ る症状を認めなかったと報告している2)。Ewaldらは,
1 .菌血症をきたす他の感染源を認めない, 2 .同定さ れた原因微生物が口腔内常在菌である, 3 .臨床所見も しくは画像所見において歯性感染症や歯周病の存在を認 める,以上の 3 つを満たした場合に口腔内病変が侵入門 戸であると定義している6)。本症例においては,糖尿病 や悪性腫瘍,HIV感染や免疫抑制薬の使用歴は認められ ず,明らかな基礎疾患を認めなかった。また,入院後の 調画像で高信号,FLAIRにて周囲に浮腫と思われる高
信号域が認められた。
入院後経過(Fig. 2 ):入院当日(第 6 病日)の頭部 造影MRIでは,腫瘤性病変は直径2.5 cm大まで増大して いため,外科的ドレナージ術が施行された。膿瘍のグラ ム染色ではグラム陽性連鎖球菌(GPC)の貪食像を認め た。培養ではS. intermediusが分離されたため,第14病 日 にメロペネムからペニシリンG(2400万 単 位 持 続 静 注)へ変更した。しかしながら,第18病日に同一検体か らA. aphrophilusが 新 た に 分 離 同 定 さ れ た。A.
aphrophilusのペニシリンGへの感受性は良好であった
ため投与を継続した。入院中に施行した胸腹部造影CT では他臓器の膿瘍形成,腫瘤性病変は認めず,経胸壁心 エコーにおいても疣贅は認められなかった。多数の齲歯 を認めており,また,原因菌は口腔内常在菌であること から,口腔内からの血行感染が疑われた。第24病日ペニ シリンGによる静脈炎を引き起こし,アンピシリン( 2 g/回× 4 /日)に変更した。その後は有害事象なく良好 に経過し,第34病日頭部造影MRIで嚢胞の縮小および浮 腫 の 軽 減 を 認 めたため,アモキシシリン(500 mg/回 4 g/日)に変更した。症状および画像所見の改善を認 めたため,第45病日軽快退院とした。退院後は外来で加 療を継続し,血液検査所見と画像所見の更なる改善を認 め,抗菌薬投与から第63病日に抗菌薬療法を終了としFig. 2 入院後経過
MEPM:メロペネム,PCG:ペニシリンG,ABPC:アンピシリン,AMPC:アモキシシリン
れば,51症例中 5 例に培養もしくは遺伝子学的検査でA.
aphrophilusが検出同定された。さらに,51症例中11例
からはS. intermediusが検出同定され,培養で複数菌感 染 を 認 め た 5 例 の う ち 2 例 がS. intermediusとA.aphrophilusによる複数菌感染の症例であった
7)。さら に,Kommedalらによる次世代シークエンシングを用い て解析した頭蓋内膿瘍52症例の前方視的検討によれば,複数菌S. intermedius,A. aphrophilus,Fusobacterium
nucleatumのいずれかの組み合わせが,複数菌感染を認
めた全症例で検出同定された14)。口腔内常在菌であるS.intermedius,A. aphrophilus,F. nucleatumは 栄 養 要
求性が高く,培養での分離同定が比較的困難であるた め,これまで報告されてきた脳膿瘍症例においては原因 菌として分離同定されず,見逃されてきた可能性は否定 できない。脳膿瘍は,近年死亡率や治癒率の改善を認めているも のの,迅速な外科的処置に加え,原因微生物に対して適 切な抗菌薬投与が速やかに行われなければ予後の悪化を 招く。MRI等の画像検査技術の進歩によって,脳膿瘍の 迅速な炎症の評価は可能となったが,適切な抗菌薬投与 のためには,速やかな外科的処置の施行と膿瘍の培養に よる原因微生物の分離同定,それに基づく感染経路の同 定が不可欠である。口腔内病変が侵入門戸として疑われ た場合,高率に複数菌感染をきたす。多くの口腔内常在 菌は栄養要求性が高く,一般的に用いられる培養法では 容易に同定されうるに十分な菌の増殖が得られない可能 性が高い。そのため,複数菌感染が見逃されやすく,分 離されたとしても検出同定までに多くの時間を要する。
脳膿瘍の予後不良因子として,年齢,意識レベル,多発 性脳膿瘍,脳室穿破などの他,複数の原因菌が挙げられ ており8),口腔内病変が侵入門戸と疑われる場合は注意 が必要と考えられる。
本症例では,膿瘍のグラム染色でグラム陽性連鎖球菌 の貪食像のみを検出したが,口腔内からの血行感染が疑 わ れ, 複 数 菌 感 染 に よ る 可 能 性 を 考 慮 し,S.
intermediusが検出された時点で検査を終了せず,培養
を継続することにより,A. aphrophilusを分離すること ができた。発育速度の異なる菌による複数菌感染では,培養同定検査において発育速度の遅い菌を見逃す危険性 があり,原因微生物の同定と並行して,感染経路および 感染源の検索を行い,口腔内からの感染が疑われる脳膿 瘍の場合は特に,複数菌感染を考慮する必要がある。
結 語
健常者に発症したS. intermediusとA. aphrophilusの 複数菌感染による脳膿瘍の症例を経験した。口腔内から の感染が疑われる場合,高率に複数菌感染をきたし,予 後を悪化させる可能性があるため,複数菌感染を考慮し た検査および治療が必要と考えられた。
歯科診察において,多数の齲歯と両側下顎第一臼歯に残 根と根尖病巣を認めるも重度の炎症所見ではなく,痙攣 発作で発症する以前に齲歯による症状や,先行する歯科 処置歴を認めなかった。しかしながら,Ewaldらの定義 を満たしたため,口腔内病変が侵入門戸であると判断し た。
Brouwerらがまとめた脳膿瘍9699例の検討では,局所 培養が提出された脳膿瘍症例の約68%が培養陽性,約 86%は単一菌種であった1)。しかしながら,Alanらは,
口腔内からの頭蓋内感染の場合,約47%が複数菌感染で あると報告している2)。また,Al Masalmaらは,外科的 処置により採取された膿瘍検体に対して,PCRを用いた 遺伝子クローニングとシーケンス解析による遺伝子学的 検査を施行した場合,約41%で複数の菌が検出される が,口腔内病変が侵入門戸と考えられる症例においては 約75%で複数菌感染を認めると報告している7)。 Streptococcus属は細菌性脳膿瘍患者から約70%の頻 度 で 分 離 され,約30-60%が 複 数 菌 感 染 である9)-10)。 Prevella属,Peptostreptococcus属,Staphylococcus属,
Fusobacterium属 等 とともに 複 数 菌 感 染 をきたしやす く7),本 症 例 でもS. intermedius,A. aphrophilusの 複 数 菌 感 染 であった。S. intermediusは,Streptococcus
anginosusとStreptococcus constellatusとともに,口 腔
内 に 常 在 す るoral StreptococciのStreptococcus anginosusグループの 1 つであり,他のoral Streptococci
とは異なり毒性が強く,脳や肝臓において膿瘍を形成し やすいことが 指 摘 されている3)。S. intermediusによる 感染症は,糖尿病や肝硬変,悪性腫瘍などの基礎疾患を 有する症例が大部分を占めており,健常者の報告例は少 ない10)。A. aphrophilusは,パスツレラ科に属する通性嫌気性 グラム陰性桿菌であり4),ヒトの上気道・口腔内に常在 し,病原性は低く頻度は少ないが11),脳膿瘍や感染性心 内膜炎,中耳炎,副鼻腔炎,肺炎,創部感染,膿胸,化 膿性椎体炎,硬膜外膿瘍,菌血症の原因菌として知られ ている。Huangらの報告では,A. aphrophilusによる侵 襲的な感染症例の約40%に最近の歯科治療歴があったこ とから,歯科治療がリスク因子とされている15)。本症例 では歯科治療歴はなかったが,齲歯が多く,口腔内の衛 生状態が不良であったことが,感染のリスクになったと 考えられる。これまでの報告では,A. aphrophilusによ る脳膿瘍は,主に小児での症例であり,そのうち 6 -50%
はチアノーゼ性先天性心疾患を有していた。一方で,成 人 の 場 合 は 数 例 のみの 報 告 に 限 られている15)。A.
aphrophilusは発育するにあたって栄養要求が厳しく,
臨床検体からの分離例が少ない4)。そのため,菌種まで 同定可能であった頭蓋内感染症例のうち,培養で検出同 定 された 菌 の 約 2 - 7 %を 占 めるのみであった12)。しか し,近年報告された脳膿瘍のメタゲノム解析の結果によ
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利益相反自己申告:申告すべきことなし
文 献
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