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進行は早く、2002年には15〜19歳の若年女性の約

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終章

有川碧・藤井吉祥・児島功和・渡辺大輔・

       乾彰夫・西村貴之・宮島基

1.本論のまとめ

 以上本論では、高校を卒業してからおよそ3年が経過 した彼ら彼女らの様子およびその経緯についてみてき た。今回対象となる39名について、ケースの重複も含 みつつ、高卒後に経てきた属性ごとに分けて分析を試み たのであるが、まずはそこで得られた知見についてふり 返っておきたい。

 こんにちの労働市場の変容のなかで、仕事への移行に おける不安定さを明確に示しているのが、いわゆる「ブ リーター」と呼ばれる者たちである。彼ら彼女らの様子 においてきわだっているのは、その経歴における複雑さ、

多様さであった。フリーターへと至る経緯もさまざまな がら、多くの者があいだに失業・無業をはさみつつ、い くつもの職場を短期間で渡り歩かねばならない状況に置 かれていた。その渡りをくり返すなかで、それなりの自 信のようなものを身につけつつある者もいるが、不安定 な生活であることに変わりはない。職場を辞めていく要 因は上司の働かされかたや労働条件の問題など、主に会       社側に起因しているのだが、彼ら彼女らはそれをみずか らの人間関係の問題として引き取ってしまっていた。ま た経済的困難をかかえる家庭が多いなか、就労の不安定 さが親子闘の葛藤をより複雑にしているケースも見受け られた。そして不安定な労働市場に個人として晒されつ づけている彼ら彼女らにとって、日々の生活をしのいで いくうえでやはり地元でのつながりは重要な機能をもっ ていたが、同時にその変容および弱さの部分もかいまみ えた。こうした状況下において、さまざまな展望を描く 彼ら彼女らではあるが、不安定さを抜け出す道筋は定か

でない。

 そして正規雇用就職というかたちでいったんは移行を 果たしたといえる者であっても、かならずしも困難をま ぬがれているわけではない。比較的安定的なかたちで働 きつづけることができている者がいる一方、心身を傷つ け離職を余儀なくされている者もおり、その働きかたの 差異がきわだっていた。それを分けている要素として大 きいのは、労働条件や研修体制および業務内容などの職 場環境、モデルの存在や愚痴なども話せる同僚関係など であった。それらが絡みあい彼ら彼女らの就労を規定し

つつ、辞めかたや将来展望にも影響を与えていた。そし て交友関係についてみると、職場に新たな関係を築きは じめている者もいるが、正規雇用就職者の場合でも、拠 りどころとする関係の多くは地元を中心に展開されてい た。さらにこの関係は、精神的安定にとどまらず、職を 提供するという側面もまた確認できた。なお彼ら彼女ら は総じて苦しい家計状況に置かれていたが、就職を契機 として新たな関係性を親とのあいだに築きつつあった。

こうした正社員の状況は、フリー一一ターに比べれば比較的 安定的な移行を遂げつつあるといえるものの、その働き かたにおける安定さの隔たりは大きく、かたわらには常 に離脱の回路が開かれているといえる。

 高卒後3年目の今回は、高校卒業後に専門学校・短期 大学(以下、「短大」)へと進学した者たちもまた、すで に進学先を卒業しているか、卒業を目前に控えている者 がほとんどであった。そのような彼ら彼女らの〈学校か ら仕事へ〉の移行過程を、特に専門学校・短大がそこに 与えた影響に注目しながらみていくと、その過程は全般 的に不安定化している様子が確認できた。学校の性質に かかわらず、多くの者が想定外の困難に直面していたが、

それは雇用の流動化や労働条件の悪化など、労働市場の 変容に由来するもの、および新たに大学へと進学するよ うになった層がかかえる、家庭の経済・文化資本などの 乏しさに由来するものなど、さまざまであった。しかし、

こうした移行の不安定化の現れかたは、それぞれの学校 がもつ職業への水路づけの強弱によって異なっていた。

たとえば専門性が高い職業に就くための学校に進学した 者は、悩みやトラブルをかかえつつも最終的にはそれら の職業に就職することが可能となっていたのに対し、職 業への水路づけの弱い学校に進学した者の場合、不安定 化は個々の若者がもつ資源、とりわけ家庭からの支援な どの違いによって生みだされる差の拡大となって現れて いた。今後も雇用の流動化が進行するならば、職業への 水路づけが強かった学校においてもまた、こうした移行 過程の個別化、および家庭的背景の影…響力の強まりが進 行していくだろう。

 そして四年制大学(以下、「四大」)に進学したケー スをみると、他の進路に比べ家庭階層が高い者が多かっ た点がまず確認された。そして四大の学校的特質とし て、自分なりの関心にもとついて活動する余地が大きい こと、および授業は学生みずから選びとり学んでいく過 程で自身の関心を深め、伸ばしていくという機能を果た していることなどがわかった。美術大学に進学した本田 は、活動の余地という四大の特性を活かしつつ、予備校 時代のネットワークをフル活用しながら知り合いを拡大

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し、美術にかかわる業界ともつながりを築いていきつつ あった。体育大学のケースからは、大学生活の中心となっ ている部活動がもつ職種限定的なトラッキングの強さが 明らかになった一方、新設学科のケースにおいてはモデ ルとなる先輩がいないことにより、卒業後の進路に不安 をかかえていた。そしてまた、彼ら彼女らにとって部活 動やサークルなどの活動がもつ意味についてみると、そ れは社会に出ていくにあたってのイニシエーション的な 経験となっているのではないか、という示唆が浮かびあ がった。またそこでのOBを通じて、卒業後の進路選択 にかんする情報を得てもいた。彼ら彼女らはまだ在学中 であり、今回の調査後に就職活動に突入していくものと 思われるが、これらの大学生活が就職活動や卒業後にど のような影響をもつのか、今後に注目したい。

 そして対象者のうちには、結婚という進路を選択した 者、およびこれから結婚を予定している者がいる。彼ら 彼女らと同時に、強く結婚願望を抱いている者の様子を 検討したなかで確認されたのは、まず親元を離れての新 たな家族形成の可否は、経済的な安定性に大きく左右さ れるということであった。仕事への移行が困難化しつつ あるなか、経済的に不安定な状況を強いられている若者 たちは、結婚してふたり暮らしを望みつつもそれはなか なか実現しづらい状況となっていた。しかしそんななか でも、家族からの経済的支援がある場合や家族・友人・

同僚など周囲の者からふたりの交際が受け入れられてい る場合、結婚が具体的に構想される傾向もみられた。そ してもうひとつ確認されたのは、上述のように経済的に 不安定な場合には結婚一ふたり暮らしは難しいにもかか わらず、とりわけ不安定な状況に置かれているフリー ター女性に、結婚願望を強く抱く傾向がみられたことで あった。そこには「女は家事・育児」というジェンダー 観の影響が示唆されるとともに、不安定な状況から抜け だしたいという彼女らの思い、そして生活のしんどさか ら解放された憧れの像としての主婦などがうかがえる。

現時点での既婚者はまだ1名にすぎないが、すでに具体 的な予定となっている者も含め、今後は徐々に増えてい

くだろう。

にみられるように、最初は進路の差として表れていた資 本の差は、高校卒業後3年間の月日を経るなかで、直面 する困難の差として露骨に表れていた。より資本の多い 者は現在および将来における安定性につながるような豊 かな経験を確保できている一方で、資本に乏しい者は困 難が重層的に折り重なり、不安定な状況を余儀なくされ ているのである。また今回の分析においては、同じ進路 内部においてもケースごとの安定さの隔たりがよりきわ だってきていることがわかった。その背景には上記進路 分岐と同様の問題が存在してはいるものの、それぞれが 置かれた状況は多様化・細分化され、構造はみえにくい ものとなっている。そうした個別化された状況下で露呈 する彼ら彼女らの隔たりの様相が、高卒後の3年間のう ちで明るみにされてきているのである。

 しかし3年という期間は、社会生活のほんの入り口近 くにすぎない。さらにまだ在学中であり、仕事への移行 の入り口に至っていない者も多い。在学者も含めすでに 多様な様相をみせている彼ら彼女らであるが、さらに今 後どのようになっていくのかについての把握は、社会全 体のありかたともかかわって重要である。追跡調査にお ける今後の課題としたい。

 このようなおおまかなまとめをふまえ、次節以降では 属性ごとの分析では論じきれなかった部分について、い くつかの論点に絞って若干の考察を展開する。まず2節 では、これまでのところでみえてきた〈学校から仕事へ〉

の移行における分岐をまとめる。次に3節では、彼ら彼 女らの移行、および生活を強く規定している社会構造に ついて、社会階層とジェンダーの視角から浮き彫りにす る。それに対し4節では、変容する社会のなかで生きぬ いている主体の側の様相をみていく。まずは構造的問題 とも密接に絡みつつ存在する、若者たちをとりまくネッ トワークと社会関係資本についておさえる。そして実際 に彼ら彼女らの形成しているネットワークについて確認 するとともに、一部においてみえてきている、困難およ び個別化への抵抗の萌芽について示す。最後に5節では、

仕事への移行における重要な問題、および就労支援にお ける課題として浮上する資格の問題について指摘する。

 以上のような分析結果をまとめれば、以下のようにな ろう。まず前回までの分析で明らかにされているように、

それぞれの進路の違いについては、個々人が拠りどころ とできる資源、とりわけ家庭の経済・文化資本が大きく 作用していた。しかしその進路の違いは、たんに異なる 経験を経るということだけではない。たとえば専門学校 経由の正規雇用就職者と高卒就職者における職場の差異

2.〈学校から仕事へ〉の移行における分岐

 高校を卒業し3年が経過した彼ら彼女らのうち、およ そ半数超の者がすでに学校を卒業し、社会生活を始めつ つある。その状況自体はさまざまながら、すでに仕事へ の移行過程の変容、とりわけ困難さが多くのケースから うかがえる。しかしその変容は、彼ら彼女ら全体にたい

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して一様に現れているわけではないこともまた、浮かび あがってきつつある。

 なお日本より一足早くこうした変容が起きていたヨー ロッパでは、すでに一定の研究蓄積がある。そのなかで みいだされてきた若者たちの状況は、従来型の「標準」

が解体しつつあるなかで、移行における選択が個々入 に委ねられ、その結果をみずから引き受けねばならなく なってきているというものである1。こうした新たに登 場した移行スタイルを、デュボワレイモンドは「選択的 人生経路(choice biography)」と名づけ、従来の「標準 的人生経路(normal biography)」と区別している2。し かし、そうした移行経路の「個人化」は、かならずしも すべての若者たちに均等に現れているわけではない。た とえばファーロングらがおこなった西スコットランドの 若者たちの移行過程追跡調査によれば、若者たちの移行 経路は学校から安定した雇用へと比較的スムーズに進む

「線型移行モデル(linear transition)」と、途中に何度も の失業や進路変更などを経験する「非線形移行モデル

(non−linear transition)」とに二分されており、しかも「非 線形モデル」に当てはまるのは、低階層・低学歴など社 会的に不利な状態に置かれている若者たちに多くみられ る3。そうしたなかで、従来の「標準的人生経路」から 外れた若者たちを、恵まれた条件のもと起業などみずか ら選択的に移行過程を切り開こうとしている若者たちの

「選択的人生経路」と、困難をかかえて「標準」から排 除される「危機的人生経路(risk biography)」に分ける 捉えかたが登場している4。

 ここでは、こうしたヨーロッパにおける先行研究にな らいながら、すでに学校を離れた若者たちの移行過程を、

「標準的人生経路」「選択的人生経路」「危機的人生経路」

の三つに類型化してまず整理してみたい。

マイナーではあるが従来から存在してきた過程であると いえよう。近年は正規雇用求人の大幅な縮小にともな い、狭き門と化している高卒新規学卒採用であるが、そ れは解体しきってしまったわけではない。そのルートを 経て職に就いている者たちはすでに3年目をむかえてお り、職場への慣れをそれなりに感じさせる様子がうかが える。さらに専門学校進学・卒業を経て働きはじめてい る者は、学校で得た資格や技術をもとにした職業文化の なかで、将来をみすえながら働くことが可能となってい る。また、同じ職場で働きつづけているわけではないも のの、地域における小零細企業間の転職を経て働いてい る者もいる。彼らもまた仕事における目標や職場を渡っ ていく働きかたのモデルを得ているなど、それなりの定 着をみせている。いずれにせよ、継続的に働きつづける 

ことが可能となっているという意味で、安定的な移行を 果たしているといえるであろう。

 しかしまた、それぞれが働いている職場の環境に目を やれば、その整備具合の差は著しい。入職時の研修や教 育指導などがきちんと確保され、徐々に業務に慣れてい くことが可能な職場に就けている者がいる一方、ごく基 本的な労働条件すら守られていないなかで働かされてい る者もいる。その結果、心身を傷つけるほどまでの負荷・

ストレスを負わされ、離職に追い込まれていった者もい る(③参照)。若年労働市場が大きく変容しているなか、

正社員であっても働きつづけることが困難な状況となり つつあるのである。なおケ ス数こそ少ないものの、A 高校卒業生と専門学校卒業生が就いた職場は、相対的に 整った環境であった、という点にも注意が必要である。

そこからは正社員内部における階層化の様相が示唆され るが、今後四大卒業生などが新たに加わってくるなかで、

再検討すべき課題である。

1)三つの分岐

①比較的安定した「標準的人生経路」をたどりつつある 者たち:大野千冬(A高校;以下「A」)・手塚豊(B高校;

以下「B」)・太田晋平(B)・内田玲奈(B)・小谷恭介

(B)・上原孝雄(B)・深川陽一郎(B)・小林俊介(B)・

石津和義(B)

 まず、学校を終えるとともに正規雇用の職に就き、現 在も就労を続けている者たちがいる(主に第2章)。そ のうち上原と石津を除くすべてのケースは、少なくとも 初職は高校および専門学校からの紹介であり、とりわけ 日本においては高度経済成長以降定着し、なかば「標準 化」していた従来型の移行過程である。なお、家業を継 ぐというかたちで社員となった石津の移行形態もまた、

②みずから「標準」からズピンアウトして「選択的人生 経路」をたどりつつある者:黒川武志(A)

 一方、従来型の安定にとどまらない移行へとみずから むかっている者もいる。それは正規雇用で働きつづける かたわら、起業に乗り出している黒川である(第2章3 節)。その起業および経営という面で彼は被雇用者では なく、対象者のうちでもきわめて特異なケースであるが、

それは家庭の豊富な経済・文化資本や社会関係資本をも とにしており、彼はそれを余すことなく活用し、発展さ せている5。

 第2章でみたように、彼は父親のつてで自動車の塗装 会社に就職しているが、彼にとってそれはあくまで不安 定さをカバーするための「保険」にすぎない。バンドで

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当てる、というビジョンももちつつ、エンブレム制作か らイベント企画、居酒屋設立と展望は大きい。そもそも の出発は、祖父がやっていたエンブレム制作の事業を引 き継ぎ有限会社化したところにあるが、現在の活動はそ の事業のみにとどまっていない。エンブレムのみではた いした売り上げにならないからど、会社の別事業として イベント企画も始めており、今回はそこでの活動がきわ だっていた。

 彼は仕事先の社長や友人の知り合いなどから経営のノ ウハウを学びつつ、寝る間も惜しんで新たな人脈を次々 に開拓し、資本の幅を広げている。そこには、すでにあ る資源をもとに新たな資源を獲得し、それをしだいに膨 らましていく、という過程がすでに一定のサイクルを生 みだしている様子がうかがえる。こうした過程から彼が 獲得している人脈は、ホール経営者、大手飲料メーカー 関係者、ダンサー、クラブDJなどなど、きわめて多岐 にわたる。「金を生むのが人間(関係)」という彼の言葉 は象徴的である。

 ちなみに自動車塗装の仕事は、技術を習得し終えたと いうことでもうすぐ辞める予定だという。「金なんてど うにでもなる」と言い放ち、非常に不安定な道を独自に 進みつつある彼であるが、彼なりの現実的な判断をくだ

しつつ、先をみすえてもいる。そんな彼が今後どのよう な経緯をたどっていくことになるのか、見逃せないケー     スであるといえる。

③移行に困難をかかえ「危機的人生経路」をたどりつつ ある者たち:浜野美帆(B)・下川彩乃(B)・西澤菜穂 子(B)・庄山真紀(B)・吉川綾(B)・竹内奈央(B)・

若林理恵(B)・宮本哲史(B)・田辺薫(A)・相良健(B)・

岡本祥子(A)・岸田さやか(B)・堀実香(A)6  みずから安定的な移行を抜け出している黒川とは対照 的に、安定さを求めつつも移行に困難をかかえている者 たちがいる。それは第1章でみた、「フリーター」とカ テゴライズされる若者たちとおおむね一致しているが、

学卒時にはさまざまな事情から正規雇用に就けなかった 者、および正規雇用就職や進学をしたのちにそこから離 脱した者などが含まれている。一見してわかるように、

この区分に属する者は圧倒的に女性に偏っており、構造 的・社会的なジェンダーバイアスの反映がみてとれる(本 章3節参照)。

 実際の働きかたとしては、多くの者が非正規就労・失 業・無業を行き来せざるをえない状況に立たされており、

自分でも覚えきれないほどに多くの職を渡っている者も いる。さらに働ける日時・時間や給与の低さから、二つ

三つの仕事を掛け持ちしている場合も多く、非常に不安 定な生活となっている。職場を転々とする要因として、

その時々の個々人の事情による場合もあるが、それ以上 に就労環境のきつさ、廃業など職場の問題が大きい。そ していったんフリーターとなった12名7のうち、のち に正規雇用の職に就けた者は1名のみ、また資金を貯め てフルタイムの教育機関に属した者はいない(週1回の 養成所に通っている(た)者2名のみ)など、不安定な 生活からはなかなか抜けられないことがわかる。

 またたんに移行の不安定さの問題だけでなく、家庭の 経済的困難や家族との関係のこじれ、仕事に付随する 危険性など、乏しい資源のなかで困難が重層的に彼ら彼 女らを追い詰めており、若者がこうむる社会的困難が集 中的に現れてしまっている。そんな状況下でなんとか彼 女ら8を精神的に支えているのが、高校在学時にサブカ ルチャーを介して形成されていた友人関係を原型とする

「地元ネットワーク」である。在学時、および卒業直後 に比べ、そのネットワークの内実は若干の変容を示しつ つあるものの、彼女らにとってその意義は今でも少なく ない。とりわけ職場を点々とすることを余儀なくされ、

じっくりむきあう関係をもてない彼女らにとって、地元 の友人との関係が貴重な「定着できる場」9なのである。

そこでの友人とのかかわりから彼女らは、「ひとりじゃ ない」という感覚を保ちながら、日々を生きぬいている。

2)分岐から浮かぶもの一「個別化」と構造的制約、「構 造化ざれた個人化」

 こうした彼ら彼女らの移行の様子からわかるのは、た んに仕事をしている/していない、という二分だけでは 捉えきれない状況に若者たちが置かれている、というこ とである。その仕事自体のなかみもまた問われるべき重 要な問題1生をはらんでいるのであるが、それと不可分に 生じている移行の問題として、ある一時点では仕事に就 き、仕事への移行を果たしているかにみえていても、次 の時点では失業状態に置かれている、というような流動 的な過程が生じてしまっているのである。もちろんこれ までにもそういった遍歴は存在していたであろうが、こ んにち急速に進んでいる労働力の非正規化により、いっ そう多くの者が移行の不安定さのなかに置かれてくるよ うになってきているのである。

 それと連動して起こってくる問題として、「個別化」

がある。同じような境遇に置かれた者どうしであって も、かたや仕事に就いており、一方では失業状態にあ る、ということが常態化すると、その違いをもたらして いるのは境遇、すなわち社会構造的な問題であるより

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も、個々人の問題だとされるのである。それは社会的風 潮もともないながら、「自分がぐうたらだから」(浜野)

などと彼ら彼女ら自身の認識にも強く影響をおよぼして いる。しかしそれぞれのケースを経年的に追っていくな かで浮かんできているのは、やはり各自の生活を強く規 定している家庭階層やジェンダーなど構造的な要因であ り、個々人の努力などでは容易に解決しがたい問題であ る。それらの規定によりもたらされているものこそが移 行の不安定さであるのだが、不安定であるがゆえに実際 の現象としては個々人多様なものとならざるをえない。

すなわち、若者たちがこんにち仕事への移行過程におい て直面しているのは、「構造化された個人化(structured individualisation)10」とも称されるように、諸々の構造 的制約を受けながらもそれが省みられることなく、制約 の結果を個々人で引き受けていくことを強要されてしま う社会状況なのである。

 以上、本調査における分岐の様相をみてきたが、それ はヨーロッパにおける先行研究で指摘されていた状況を おおむね踏襲しているということができるだろう。上述 のようにさまざまな要因が複合的に彼ら彼女らを規定し ていたのであるが、なかでも強かったのは、②と①③を 隔てている家庭階層の明確な差異、①と③とのあいだに きわだっているジェンダーバイアスであった。しかしま た、現時点で社会生活を営んでいるという点には、すで に高卒進路の段階における制約が働いているという側面 もある。ゆえに次節では在学者も含め、上記二点におけ る社会構造的制約についてみていきたい。

3.社会構造のもつ制約

 ここではまず、彼ら彼女らの移行過程を左右している、

社会構造のもつ制約的な影響についてみてみたい。社会 構造は、若者たち自身がそのことにどれだけ自覚的であ るか否かにかかわらず、大きな影響を与えている。一人 ひとりの若者が、選択の余地なくいわば生まれながらに もっている、不平等な社会構造的な条件としては、社会 階層・ジェンダー・エスニシティ・生まれ育った地域な どさまざまなものがある。ここでは、これまでの調査で 特に顕著な影響が認められた社会階層とジェンダーにつ いてとりあげたい。

1)社会階層

 私たちはこれまでのインタビュー調査でも、社会階 層的な要因が若者の移行過程に与える影響について明 らかにしてきた11。まずはこの視点から、1回目調査と

2回目調査の結果を簡潔に確認しておきたい。A高校で は四大・短大への進学希望者が最も多く、専門学校も含 めるとほとんどの者が進学希望であり、就職を希望する 者やフリーター予定の者は少なかった。一方、B高校で はフリーターを含む進路未定者が最も多く、進学する者 は少なかった。この理由をたんに両校の入学難易度の違 い、すなわち生徒の偏差値の高低にのみ求めることはで きない。選択を可能にする条件を考えたとき、両校の生 徒には大きな違いがみられたのである。まず、家庭の文 化的条件にとって重要な要素である親の学歴に違いがみ いだせた。A高校の生徒の親には大卒も多く、 B高校の 生徒の親よりも高学歴者が多い傾向を示していた。また 1回目調査時にインタビューに応じてくれたB高校の生

徒50名中約半数の23名が、ひとり親(特に母子家庭

が多い)もしくは両親がいないという家庭であり、家計 の苦しさが進学という選択を困難にしたケースがA高校 と比べて多くみられたのである。とりわけ高校卒業時に 進学できるか否かに重要な役割を果たしていたのは経済 資本であり、いわば「むき出しの家庭の経済力の差12」

がどのような移行過程を歩むのかに作用していたのであ る。端的に述べるならば、高卒労働市場が縮小すること で正規雇用就職が困難となる状況において、進学した者 には家計の安定している相対的に階層が高い者が多く、

フリーターになった者には相対的に低い階層の者が多い 傾向にあったのである。

 今回の調査でも、社会階層的な要因の大きさを確認す ることができた。最初に、「やりたいこと」に与える影 響についてみていく。黒川は高い経済・文化資本を受け 継いでいるが、今回の調査時に彼が中心になっておこ なっている活動(エンブレム制作会社の経営と関連業務 であるイベント活動、バンド活動)をみるかぎり、その 資本はさらに増加しており、新たな活動のために用いら れていた(第2章3節)。同じように高い経済・文化資 本をもつ本田も、美術関係の仕事に就くという子どもの

ころからの夢に着実に近づいている(第2章3節)。ま た二人は豊かな社会関係資本をもっており、こうしたい

くつもの資本の豊かさが二人の活動の順調さを支えてい た13。しかしながらこのような若者がいる一方で、竹内 は中学時代からの夢である声優になるために俳優・声優 養成所に通っているが、学費の捻出と生活費を得るため に複数のアルバイトを掛け持ちしており(彼女はひとり 暮らしをしているが、実家からの経済的支援はない)、

思うように活動に集中できない状況にある(第1章2

節)。3人は同じように「やりたいこと」を明確にもち、

目標にむかって活動している。だが、資本をどれだけもっ

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ているかがそれぞれの活動に影響を与えており、2回目 調査時と比較してもその影響は鮮明に出ているように思 われた14。

 次にカテゴリー別にみたとき、社会階層的な要因が鮮 明に出ているように思われるのが、フリーター11名と

四大進学者10名である(第1・4章)。出身高校の構 成をみてみると、フリーター11名のうち9名がB高校 出身者であり、四大進学者10名のうち9名がA高校出

身者となっている。先述したように、この構成の違いは、

「高校入学時のr学力』を通した両校生徒の家庭の間に 生じている階層的格差の表れ15」と解釈することができ るだろう。家庭の経済的状況も大きく異なっている。四 大に子どもを進学させることができるということは、最 低でも4年という長期にわたる学費を捻出する見通しが 立つことを意味している。四大進学者の中に自分で働い て得ている(得た)収入で学費を捻出している者はいな い。学費は親が全面的に負担しているか、奨学金も借り ながら負担しているかのどちらかしかない。下田は四大 進学後に「稼ぎ手」であった父親を病気で亡くしている が、そのことで在学しつづけることが難しくなったわけ ではなかった。四大進学者の中にはアルバイトをおこ なっている者もいるが、そこでの収入は基本的に社交生 活に使われている。これらのことは、四大進学者の家庭 の経済的状況が相対的に高い水準で安定していることを 示しているといえるだろう。一方、フリーター11名の うち約半数の6名の家庭が母子家庭であり、その中には 過去に生活保護を受給していた世帯が1組、今回の調査 時にも受給していた世帯が1組含まれている。こうした 厳しい家計状況のなか、フリーターの中には家計への繰

り入れをおこなっているか、過去におこなっていた者も 多い。浜野は母子家庭で母親が病気がちで働けないため 家計は大変に厳しい状況であるが、彼女は正社員を辞め てフリーターになってからも収入の全額(「10万円はあ たりまえ」という金額)を家計負担に充てている。庄山 は高校在学時からアルバイト収入を家計負担にまわして いたが、母親の交通事故後にはその額を増やしている。

このように四大進学者と異なって、フリーターの収入は 彼ら彼女らの社交生活に使われているだけでなく、家計 負担にまわされているケースも多く、一家の「稼ぎ手」

としてのフリーターといった像が浮かんでくる。

 経済的状況以外では、家族の学歴にも違いがみいだ せる。四大進学者の父親学歴はすべてわかっているが、

10名のうち6名の父親(金山、山口、本田、川辺、窪田、

下田)が中退した2名を含めて大学教育を経験しており 最も高い割合となっている。また桑田の姉はかつて大学

院の研究員、本田の兄は有名私立大学文学部学生で大学 院への進学を希望、川辺の姉は私立大学理系の大学院生 である。以上のことからわかるように、四大進学者の家 族には高学歴者が多いという特徴がある。これに対して フリーターの場合、確認できているだけではA高校出身 の田辺の母親のみが大卒である。四大進学者の家族には みられなかった、父親と母親の二人とも、もしくはその

どちらかが中卒というケースもあった。

 以上、社会階層的な要因という視点から、最初に1 回目と2回目の調査結果を概観した。次に今回の調査 結果から、「やりたいこと」に与える影響をみるため黒 川、本田、竹内のケースをとりあげ、最後にカテゴリー として違いが鮮明なフリーターと四大進学者を比較検討 した。たしかに2回目調査と比較すると、それぞれの ケースの軌道はより複雑さを増している。しかしながら これまでの調査結果と同様に今回も、誰が安定的な層と して析出されているのか、誰が不安定的な層として析出 されているのかを明らかにしてみると、若者がどの社会 階層に属しているのかによって大きく規定されているこ とがわかった。もっとも四大進学者が卒業後にも安定的 なトラックを歩むかどうかは、調査時が卒業前というこ ともあって今の段階でたしかなことはいえない。正社員 となった者やフリーターになった者に比べて階層的にも 近い専門学校・短大進学者の中にも、たとえば神崎のよ うに就職が決定しながら辞退するといった「揺らぎ」を みせている者もおり(第3章2節)、四大進学者にも今 後そうした不安定さが浮上してくる可能性がある。また 母子家庭で経済的にも厳しい状況の家庭であっても、小 林や深川のように専門学校で公的職業資格を取得し、現 在は正規雇用で就職して比較的安定したトラックを歩ん でいる者もいる(第2・3章)。以上の点から考えると、

社会階層的な要因のみが若者の移行過程の(不)安定 性を規定しているとは現時点ではいえないように思われ る。しかしながら就業、失業、無業をくり返すという不 安定な状況に「滞留」しているフリーターには、相対的 に階層の低い者が多いこともまたたしかなのである。こ の意味で、卒業後に四大進学者がどのような雇用形態で あれ働きはじめたとき、どのように彼ら彼女らがそうし た環境に「適応」し、あるいは「抵抗」していくのかを 詳細に検討することで、相対的に低い階層にある若者た ちの働きかたとの違いを比較することが可能になるだろ う。今後も社会階層的な要因が若者の移行過程に与える 影響を追っていきたい。

(7)

2)ジエンダー

 もうひとつの大きな社会構造的な制約要因として、

ジェンダーの問題がある。私たちの調査では、これまで もジェンダー的な制約が彼ら彼女らの移行においてみら れたことを指摘してきた。2回目調査ではフリーターに 女性が多く、大学進学者に男性が多いという傾向をみた。

その背景には、若年層の求人の縮小にともなって、正規 雇用率の減少、パート・アルバイト雇用率の増加と、そ の格差の拡大があった6特に東京における女性ではその

進行は早く、2002年には15〜19歳の若年女性の約

9割がパート・アルバイトという雇用形態であった16。

本調査においてもそれと同じ傾向をみいだせる。今回ブ リーターで分類した11名のうち、男性は宮本のみで、

他の10名は女性である(第1章)。また、一度離職し たのちに正規雇用に移行できた者は小谷、上原、相良の 3名で、いずれも男性である(第2章)。西澤、浜野、

下川の女性3名は、正規雇用で入った会社を離職後、ブ リーターを続けている(第1・2章)。フリーターの田 辺薫は医療事務資格を取得し、それを活かした正規雇用 での職を探しにハローワークへ足を運んだが、そこで職 を得ることはできなかった(第1章)。このように女性 が正規雇用に移行できずにフリーターとして滞留する背 景には、前述のようなジェンダー・一格差をともなった労働 市場の変容(特に若年層における)があるこ,とが考えら

れる。

 下川も離職後、ハローワークで仕事を探すがみつから なかった。彼女は「みんな資格が必要らしくて、ないで すね。あとは年、男女って決められているんですよ」と いう。男女雇用機会均等法の1999年改正によって募集・

採用などにおいて男女の区別を設けることが原則として 禁止されたため、実際に男女を区別した求人があったの かは不確実であるが17、彼女がハローワークでの求人を このように把握していたことは重要な事実である。ま た彼女は面接の際の差別的な体験も次のように話してい・

る。「(面接に落ちると)へこみますよ。なんでいけない んだろうって。言葉づかいが悪かったのかなとか、それ

とも格好が悪かったのかなとか。それか顔? あります よ。(面接官が)男の人だと特にありますよ。面接いく とかならず顔みますよ。顔みて、足みて、全部みるんで すよ」。このように、彼女たちが職を得られないのは求 人数の減少などの労働市場の変容だけではなく、女性に たいする差別的対応が現在でも温存されているためだと 捉えられる。

 また一方で、キャバクラなどの水商売などの仕事が女 性に開かれている。しかしこの仕事は、時間給にすれば

高給であるが、いずれも非正規雇用で、その労働条件も 整備されておらず(もしくは違法である場合もある)、

労働者である女性が「使い捨て」られてしまう現状にあ る。庄山や西澤は経済的理由からこの業種に就き、心身 を酷使しながら、ここから抜け出したくてもなかなか抜 け出せない状況にいた(第1章)。

 このように、正規雇用での就職先がなかなかみつから ず、フリーターとして滞留している彼女らの中には、仕 事先でさまざまな困難に直面することで、正規雇用での 就職や声優などの夢を少しずつあきらめ、かわりに専業 主婦への願望を強める者もいた(第1・5章)。専業主 婦という道が彼女らが直面している困難さから抜け出す

(抜け出せると考えている)道のひとつとして捉えられ ている18。

 この専業主婦への道や非正規雇用での就職は労働市場 の問題だけから導き出されるものではない。若林が通っ ていた短大では、「女性らしさを求める」生活指導が厳

しくおこなわれているように(第3章4節)、伝統的な 良妻賢母教育のような教養教育に重きをおいている短大 のカリキュラムが、彼女たちのライフコース選択に大き

く影響していることも考えられる19。

 さらに、親の意識もかかわってくる。若林は母親に「玉 の輿」に乗ることを常に勧められていた20。下川の父親 は、3回目調査の翌年にむかえる定年退職後に、北関東 にある故郷に家族で引っ越し、そこで「農家の嫁にした い」「結婚して子どもを産めばいい」という希望をもっ ていたため、下川が仕事がなく家にいることを許容して いた(第1章2節)。

 このように、女性が正規雇用での就職を得られずに、

非正規雇用であるフリーターとして滞留するに至る要因 として、労働市場の変容とともに学校の性格や親のジェ ンダー意識があり、それらが深く絡みあうなかで本人の 意識が形成されていると捉えることができる。元日本経 済新聞社編集局編集委員の鹿嶋敬は「女性の場合、どこ かでシンデレラ願望、すなわち王子様(夫)が幸せにし てくれるという他力本願から抜け出せないでいるのでは ないか。女性も自分の力で立つくらいの、自立の気構え が必要である」21と述べるが、これまでみてきたことか らもわかるとおり、彼女たちの「自立の気構え」の欠如 が現状を形成しているのではないのである。

 一方、男性では、すでに結婚生活をしている堀の夫も、

岸田との結婚を目前に控えた相良も、フリータ・…一の彼女 と将来的に結婚を考えている小林も、現時点では正規雇 用で働いている。堀の夫は結婚後アルバイトよりも収 入の多い仕事へ正規雇用として転職した。相良もフリー

(8)

ターから正規雇用の仕事へ移行したうえ、一度その仕事 を辞めたくなったとき、結婚を示唆した岸田の発言によ り離職を思いとどまっていた。しかしいずれも収入は低 く、親からの支援を受けながら生活している。小林も収 入が低いため、貯金を目的とし、すぐの結婚を思いとど まっている(第5章)。このように、女性の専業主婦願 望とは対照的に、男性は結婚後の家計を支えなければな らないという意識を一定もっているものと考えられる。

また、それを、女性よりも男性に有利な労働市場が後押 ししているとも考えられよう22。

 しかし、前述のとおり、彼らの収入は二人分(とさら には子ども)の生活費をまかなえる金額にはおよんでい ない。2回目調査時に「結婚して二人の稼ぎを合わせる と何とかなる」という「第二標準」23にすら達していな かった岸田(当時もフリーター)と相良(当時は失業中)

であったが、本調査時では相良が正規雇用で就職してい たにもかかわらず、やはり「第二標準」には達していな い状況であった。専業主婦への願望を強めていた浜野や 庄山らも、彼女らのネットワークのなかでは二人分の生 活費をまかなえるほどの収入のある男性とは出会えてお らず彼女らが専業主婦という道を選ぶことによって、現 在直面している困難さから抜け出せるという保障はない。

 男女雇用機会均等法の一部改正により2007年4月か らは女性にたいする差別の禁止だけではなく、男性への 差別も含めた、性別による差別が禁止される。一方で、

労働者派遣法の2004年一部改正により、今後も正規雇 用率と非正規雇用率の格差がジェンダー差を維持しなが らより拡大していくことも予想される。さらには男女共 同参画基本法や同条例にたいする反動によって従来の性 別役割分業的な「規範意識」が強調されることも考えら れる24。それに対して、長時間就業などの「男性モデル」

を問い直す、「ワークシェアリング」や「ワークライフ バランス」などの議論もある25。このように「人権と規 制緩和の綱引き」26がおこなわれているなかで、彼ら彼 女らがどのように仕事をしていくのか、追っていきたい。

4.困難な若者たちの「いま」を支えるもの

よってなのかを探るなかから、その可能性にかすかにで もつながりうるものを抽出してみたい。このような問題 意識から、ここでは、彼ら彼女らがとりむすぶ主に私的 なネットワークと、職場などでの不当な扱われかたへの

「異議申し立て」について検討したい。

 ネットワークについては、すでに1年目調査でも注

目したB高校出身の女性たちがつくる「地元ネットワー ク」に加え、今回はさらに、多くの若者たちが、自分の もつさまざまな関係を、精神的な拠りどころや情報源な どとして活用していることがみえてきた。これは、いっ たん学校を離れた若者たちのなかに、ハローワークや労 働組合など、従来からの制度化された機関・組織がほと んど登場していないか、登場してもあまり頼りになるも のとは意識されていないこととは対照的である。ではこ のようなネットワークは彼ら彼女らにとって、どのよう な役割や制約となって現れているのか。そのことについ て、社会関係資本(Social Capital)とも絡めて検討して みたい。

  また「異議申し立て」とは、若者たちが自分の置かれ ている状況や扱われかたの「不当さ」について、どのよ うにして異を唱えようとしているのかである。こんにち の個別化した状況と「自己責任」イデオロギーのもとで、

すでにみたように多くの若者たちが、直面する多くの困 難を「自分のせい」と受けとめ、あるいは「世の中はこ んなもの」とあきらめがちであった。特に就職後1年 を経ずに離職した若者たちの中には、「不当」な状況に 抗議することもなく我慢することで自分を追いつめ、身 も心も傷ついて辞めていった者たちが多くみられた。し かし卒業3年目の今回は、わずかながらとはいえ、それ への「異議申し立て」をおこなう者たちがみられた。こ  うした「異議申し立て」はまだ実際に現状を変革するま

でには至っていない。けれども困難を「自分のせい」と あきらめることなく、異議を申し立てるということは、

の彼ら彼女らの人間的尊厳ともいえることがらである。そ  こでここでは、そのような「異議申し立て」がいかにし て可能になったのかをいくつかのケースから掘り下げて

みたい。

 だがこうした社会構造がもたらす制約のなかで、一人 ひとりの若者はなんとか必死に生きている。それでは彼 ら彼女らには、こうした制約に抗するどのような手段と 可能性があるのだろうか。すでにみてきたように、彼ら 彼女らの多くが直面している状況は容易に明るい見通し がみえてくるようなものではない。しかしそれでも、彼 ら彼女らがなんとかがんばって生きられているのは何に

1)ネットワークと社会関係資本

 若者の移行過程の変容と支援のありかたを探る議論に おいて、近年、ネットワークと社会関係資本の概念が 注目されている。たとえばヨーロッパの移行研究ではイ ギリス・マンチェスターの困難層の若者たちの移行過程 を対象としたラフォら27、ドイツにおける困難層の若者 たちの移行過程とその支援組織のとりくみを対象とし

(9)

たワルツァーらEGRIS(European Group for lntegrated Research)グループの調査研究28が、それぞれ若者た ちのもつネットワークと社会関係資本に注目している。

支援政策をめぐっては、イギリス労働党政府の社会的抱 摂(Social lnclusion)政策において社会関係資本はキー コンセプトになっている29。日本でも、大阪における困 難層の若者たちの移行過程を対象とした西田ら部落解 放・人権研究所の調査研究30が、コミュニティのもつ 社会関係資本に着目した検討をおこなっている。また ネットワークに注目したものでは、労働政策研究・研修 機構が実施した「移行の危機にある若者」調査をもとに

した沖田、堀の分析・研究31などがある。

ネットワークや社会関係資本への着目は、「個人化」と 特徴づけられるこんにちの移行過程変容とむすびついて いる。すなわち、従来の標準化された移行過程が解体・

変容し、これまでの移行過程を支えていた学校や職業紹 介機関など制度化された移行支援の影響力が低下したも とで、個別化・多様化した移行過程を若者たちはいかな る手段を利用し、また支えられながら乗り切ろうとして いるのか、そこに従来のような制度に替わるどのような 支援方策が必要とされているのかという問いに答える手 がかりとして、これらの概念が用いられているのである。

たとえばラフォらは、移行過程の個人化のもとで、若 者たちのもつ社会関係資本そのものも、従来のように階 級・ジェンダー・エスニシティなど社会グループごとに 共有されるものから、同じ社会グループ内でも異なる関 係をもつようになったり、あるいは同じ関係の意味が一 人ひとり異なるようになってきているとして、「個人化 された社会関係資本システム(individualized system of social capital)」という概念を提起している。

 制度化された支援の影響力の低下にともない、一人ひ とりが私的にもつさまざまな関係とそこから得られるも のが、彼ら彼女らの移行過程においてより重要な意味を もつようになっていることは、私たちの調査からも明瞭 に浮かびあがっている。その意味で、ネットワークや社 会関係資本という概念は、私たちの捉えた若者たちの現 実を分析するうえでも、有力な装置である。しかしデー タを検討するにあたり、ネットワークおよび社会関係資 本という概念について、若干の整理をしておく必要があ る。それは、ボールも指摘するように32、社会関係資本 という概念自体が多様な起源と含意があることに加え、

私たちの捉えている現実、とりわけ「地元ネットワーク」33 というかたちで切り取った彼女らにとっての関係性の意 味が、社会関係資本という概念にはたして抱摂できうる かという問題があるからである。

①社会関係資本という概念とその有効性

 ボールによれば、社会関係資本という概念には、大 きく三つの起源とそれぞれやや異なる含意がある。第 一はコールマンのものである34。高校中退率とそれぞれ の生徒のもつ社会関係資本との相関関係をとおしてコー ルマンの提起したそれは、大きくは二つの関係様式に焦 点づけられている。一つは家族、すなわち両親が揃って いるか、共働きか否か、両親の教育期待など、両親と子 どもとのあいだの関係性である。もう一つは、頻繁な転 居をくり返しコミュニティと切れていないかや教会への 参加など、家族とコミュニティとのあいだの関係性であ る。両親が揃い、教育期待も高く、子どもと一緒にいる 時間が十分に確保され、かつ子どもにたいする教育観や モラルなどを十分に共有するコミュニティとのあいだに その家族がしっかりとした関係をもっているか否かが、

中退率や学業達成、少年犯罪などに大きく影響するとい うのが、コールマンの提起する社会関係資本の意味であ る35。コールマンはそのなかで、個人や家族がもつ関係 性が社会関係資本として機能する条件として、互酬が期 待できる信頼、必要な情報のやりとりがおこなえる情報 チャンネル、そして好ましくない行為を抑制する規範と 制裁という三つを挙げている。

 第二はパットナムのものである36。パットナムは、

70年代に発足したイタリアの地方政府の定着過程を継 続調査するなかで、北部と南部とのあいだにその定着度・

パフォーマンスなどに大きな差がみられることを、それ ぞれの地域コミュニティに歴史的に蓄積されてきた社会 関係資本の違いによって説明している。北部では、さま ざまな自発的市民組織が歴史的に形成・蓄積されてきた ことで、人びとのあいだに横のネットワークが多様に広 がっており、それが地方政府の民主主義的な効率性を高 めている。それに対して南部では、伝統的に家族を中心 とした縦の狭いネットワークしか発達しておらず、それ が南部の地方政府の民主主義と効率性の成長をはばんで いる。パットナムはそこで、社会関係資本の主たる構成 要素として、市民相互のあいだに形成されている社会的 信頼、その信頼を支えるコミュニティに共有された互酬 性の規範、そしてコミュニティの中に多様に広がり市民 的積極参加を促すネットワークを挙げている。

 第三はブルデュのものである37。ブルデュによれば社 会関係資本とは、相互に知り合い認め合っている持続的      、

な関係からなるネットワークやグループとむすびついた 現実的または潜在的な資源である。それはネットワーク に加わるメンバーに、そのネットワークが共有する資本 を後ろ盾にすることで、ある種の信用を提供する。個々

参照

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