酸素水素燃焼発電サイクルのエクセルギー解析
および性能解析
Exergy Analysis and Performance Analysis
on Oxygen-Hydrogen Combustion Power Generation System
武 塙 浩 太 郎
*・ 岡 崎 健
**・ 野 崎 智 洋
***Kotaro Takehana Ken Okazaki Tomohiro Nozaki (原稿受付日2021 年 5 月 7 日,受理日 2021 年 8 月 17 日) 1.緒言 我が国はエネルギー自給率が非常に低い水準のため,化 石燃料等の資源を他国に依存しておりエネルギーセキュリ ティ面で脆弱である.他方,パリ協定による温室効果ガス の規制強化により,CO2は産業や運輸等の業界でさらなる 排出量削減が求められている.とりわけ,火力発電所から のCO2排出量は多い.ガスタービンコンバインドサイクル
(Gas Turbine Combined Cycle: GTCC)のような既存の火力 発電システムでは,ガスタービン入口温度の高温化や圧力 比の改善による熱効率向上を図っており,燃料消費量の削 減,それに伴うCO2の排出量削減に取組んでいる1).現在 はガスタービン入口温度1700°C の開発が行われている. 化石燃料の一部を他の燃料に代替する発電システム,大 幅なCO2排出削減を可能にする電力オプションも求められ ている.水素は低炭素社会の実現に向けたエネルギー源と して中心的な役割を担うことが期待されており,CO2削減 効果が大きいと考えられている.水素の製造方法は,主に 再生可能エネルギー由来,化石燃料由来がある.再生可能 エネルギーでは,太陽光発電や風力発電の電力を用い,水 の電気分解により,CO2フリーで水素が製造できる.一方, 水素製造効率,製造コストや設備費等の経済性,大規模化 への対応の課題がある2) 3).化石燃料由来では,炭化水素を 燃料とした水蒸気改質が水素製造方法の主流となっている. 将来,未利用エネルギーである褐炭は水素製造における原 材料として期待されている.豪州には大量の褐炭が存在し
ており,現地でのCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
と組合わせることでCO2フリーの水素が安価で入手できる 4) 5) 6).褐炭由来の水素発電は,2030 年では石炭および LNG 火力発電より発電コストは割高になるが,再生可能エネル ギーによる発電と比べて安くなることが報告されている 5). 今後の水素製造コストの低減,褐炭の価格安定を踏まえる と,褐炭の利用は次世代の水素製造方法としての可能性を 秘めている 4).高効率水素利用技術の一つとして,グラー ツ工科大学の Jericha 教授により考案された酸素水素燃焼 を基盤とする発電サイクルがある 7).このサイクルは従来 の発電サイクルとはシステム構成が異なり,ガスタービン サイクルと蒸気タービンサイクルが統合されたセミクロー ズドサイクルで構成されている.特に酸素水素量論完全燃 焼下ではH2O を作動流体として構成でき,水素の特性を活 かした次世代発電システムとして期待されている.酸素水 素燃焼発電サイクルは,従来提案されている水素を燃料と した発電サイクルと比較して,発電端効率が優れていると 報告されている8) 9).Sanz らは,1500°C,40 bar のガスター ビン入口条件で熱力学的検討を行い,68.5%(LHV 基準) と高効率であること,さらに部分負荷の実現可能性を報告 した 7).山下らは,酸素水素燃焼発電サイクルの性能につ いて,1600°C 級のガスタービンコンバインドサイクルと同 等の性能を,1200°C 級の酸素水素燃焼発電サイクルで実現 Abstract
This paper presents thermodynamic analysis and exergy analysis in oxy-hydrogen cycle compared to gas turbine combined cycle (GTCC) with H2/Air combustion and GTCC with LNG/Air combustion, using thermal efficiency analysis software (EnergyWin®). First, the thermal efficiency for oxy-hydrogen cycle was clarified as functions of gas turbine inlet temperature and pressure. The overall thermal efficiency (LHV basis) of oxy-hydrogen cycle resulted in 2–11% points higher than that of GTCC with H2 or LNG. Exergy loss for combustor, which decreases by 2–4% points, is the most improved. One of the reasons is that setting up higher pressure ratio of compressor for oxy-hydrogen cycle enables to adapt to higher combustor inlet temperature. It indicates oxy-hydrogen cycle can achieve high thermal efficiency. On the other hand, the application limit of state quantity such as compressor outlet temperature for oxy-hydrogen cycle, because of the strict condition with current thermal power plant technology, was also clarified. The effect of high pressure turbine (called steam turbine 1 in this paper) inlet pressure is analyzed for oxy-hydrogen cycle. Furthermore, net thermal efficiency of oxy-hydrogen cycle considering oxygen production is also estimated to clarify its performance.
Key words : Hydrogen combustion, Oxy-hydrogen cycle, Combined cycle, Exergy analysis, Oxygen production technology
Corresponding author; Tomohiro Nozaki, E-mail: [email protected] * 東京工業大学工学院機械系 日本学術振興会 〒152-8550 東京都目黒区大岡山 2-12-1 ** 東京工業大学科学技術創成研究院 ***東京工業大学工学院機械系 **********
できることを報告した10).さらに,燃焼圧力や燃焼器入口 温度を高くとることにより燃焼のエクセルギー損失が低減 されるため,酸素水素燃焼発電サイクルは高効率であるこ とが示された11).壹岐らは,燃焼のエクセルギー損失以外 を低減することで高効率化を図った12).高効率発電として 期待されている酸素水素燃焼発電サイクルだが,LNG 火力 発電システム(空気LNG 燃焼 GTCC)に加え,2030 年ま での実用を目指し研究開発が進められている空気水素燃焼 (水素専焼)GTCC と比較した場合,どれぐらい高効率で あるかは必ずしも明らかになっていない.さらに高圧ター ビン(本稿では蒸気タービン1 と記載)または再生熱交換 器を超臨界圧まで条件を広げた場合に酸素水素燃焼発電サ イクルに及ぼす影響を明確にし,そのポテンシャルを把握 することは意義がある.
WE-NET(World Energy Network)研究開発当時と比べ, 水素供給インフラや発電システムの需要は高まっているた め,将来の発電サイクルとして期待される酸素水素燃焼発 電サイクルの特徴を把握することは意義がある.本研究で は,熱効率およびエクセルギー解析を行い,空気LNG 燃焼 および空気水素燃焼GTCC と比較しながら,ガスタービン 入口温度(1400–1700°C)または圧力(2.0–5.0 MPa)をそれ ぞれ変化させた場合における酸素水素燃焼発電サイクルを 評価し,その優位性を明確にする.さらに酸素水素燃焼発 電サイクルのガスタービン入口圧力を固定しガスタービン 入口温度を変化させた場合において,高圧タービン(蒸気 タービン1)入口圧力を 5–35 MPa と超臨界圧まで条件を広 げて変化させたときに発電サイクルに及ぼす影響を把握す る.酸素製造動力を考慮した送電端効率も概算で示し,最 終的に酸素水素燃焼発電サイクルが高効率であることを明 確にする. 2. コンバインドサイクルおよび酸素水素燃焼発電サイ クルの概要
コ ンバ イン ドサ イク ル(Gas Turbine Combined Cycle:
GTCC)について,系統図概要と T-s 線図をそれぞれ図 1, 2 に示す.GTCC は,ガスタービンサイクル(ブレイトンサ イクル)と蒸気タービンサイクル(ランキンサイクル)が 排熱回収ボイラを介して複合したシステムである.図2 か ら,ガスタービンサイクルと蒸気タービンサイクルがそれ ぞれ独立したサイクルを構成していることがわかる. 酸素水素燃焼発電サイクル(Oxy-hydrogen cycle)は,ガ スタービンサイクルと蒸気タービンサイクルが統合された, セミクローズドサイクルになっているのが特徴である.燃 料がH2の場合,純酸素(水蒸気希釈)での量論完全燃焼下 では,ガスタービンサイクルと蒸気タービンサイクルの作 動流体がともにH2O のみになる.本サイクルの系統図概要 とT-s 線図をそれぞれ図 3, 4 に示す.ガスタービンから排 出された高温の蒸気(図3 の 2 番)は,再生熱交換器によ って熱エネルギーが回収される.再生熱交換器の途中で一 部の蒸気が分岐され(図3 中では節炭器と蒸発器の間で分 岐,図3 の 2’番),一方はガスタービンサイクル側の圧縮機 入口へ(図3 の 3 番),一方は蒸気タービンサイクル側の低 圧タービン(図3 の 6 番,ST2 と表記)入口へ流入する. 蒸気タービンサイクル側へ流入するH2O は(図 3 の 2’番), 低圧タービン(ST2)を通って復水器で液化され(図 3 の 8 番),ポンプで液相加圧した後(図3 の 9 番),節炭器,蒸 発器,加熱器を経て,高圧タービン(図3 の 11 番から 12 番,ST1 と表記),燃焼器入口へ流入する(図 3 の 5 番). ガスタービンサイクル側の圧縮機に流入するH2O は(図 3 の3 番),圧縮機出口で蒸気タービンサイクル側の H2O と 合流し(図3 の 4 番),燃焼器入口へ流入する(図 3 の 5 番).図4 をみると,ガスタービンサイクルと蒸気タービン サイクルは統合されており,GTCC(図 2)とサイクル構成 が本質的に異なる.酸素水素燃焼発電サイクルは作動流体 がH2O のみであることも踏まえると,酸素水素燃焼発電サ イクルで定義された高圧タービンと低圧タービンは, GTCC の高・低圧タービンと役割が異なっている.一方, 同じ名称を与えると説明が分かりづらくなってしまう.こ 図 1 ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)の 概要系統図 GT: CP: ST: ECO: EVA: SH: Gas Turbine Compressor Steam Turbine Economizer Evaporator Superheater CP GT ST Combustor Pump Air Condenser Fuel ECO EVA SH Power Exhaust gas 1400-1700C 3.3 MPa 500-700C 8-17 MPa 0.005 MPa 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 図 2 ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)の T-s 線図 0 400 800 1200 1600 2000 0 2 4 6 8 10 12 T em perat ur e [ C] Specific entropy [kJ/kgK] Thermal efficiency (LHV basis): 62% 1550C
3.3 MPa
600C 17 MPa
Gas turbine combined cycle with H2
33C 0.005 MPa 648C 0.1 MPa LHV : 150 MW Output : 92 MW 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12→13
の点を解決するため,本論文では酸素水素燃焼発電サイク ルの高圧タービンと低圧タービンの名称はそれぞれ蒸気タ ービン1(ST1),蒸気タービン 2(ST2)とする.GTCC で は蒸気タービン(ST)と呼ぶことにする. 3.解析について 3.1 解析方法・解析条件 本研究での解析において,一般財団法人電力中央研究所 が開発した熱効率解析汎用プログラム(EnergyWin®)を用 いた.EnergyWin®について,水・蒸気の物性値計算には IAPWS-IF97(10 MPa の圧力範囲では 2000°C,100 MPa で
は800°C まで適用可)13),そのほかの気体の物性値計算に
は,ガスタービンの燃焼ガス用の物性値計算式である
Matsunaga らの文献の式14)とNIST の Chemistry WebBook か
ら検索した式15)が組込まれており,燃焼器やガスタービン 等のコンポーネントを組合わせることで熱力学的な検討が 可能である.解析の条件を表1 に示す.解析条件は,主に WE-NET 研究開発当時の文献を中心に検討された数値を参 照に決定した.なお,参照した条件は1993-2002 年度の頃 に検討された数値のため,表1 には近年に報告された酸素 水素燃焼発電サイクルの解析条件も記載した.燃料はLNG またはH2とした.LNG は CH4純度100%,H2およびO2は 純度100%とした.また,燃料および O2は常温(15°C),燃 焼器入口圧力で供給されるとした.O2は深冷空気分離法の 過程で,液化酸素製造時に液相加圧することができ,高圧 の O2が製造できる.H2は液化水素として輸送・貯蔵し,最 終的に燃料として利用できる.すなわち,O2および H2は ともに液相加圧により高圧条件で供給でき,圧縮動力を低 減できる可能性があるため,燃焼器入口圧力で供給される 図 4 酸素水素燃焼発電サイクルの T-s 線図 0 400 800 1200 1600 2000 0 2 4 6 8 10 12 T empe ratur e [ C] Specific entropy [kJ/kgK]
Thermal efficiency (LHV basis): 70% 1550C 5.0 MPa 650C 14 MPa 695C 0.1 MPa 121C 0.005 MPa Oxy-hydrogen cycle 1 2 2', 6 3 10' 10 7 8→9 11 4 12 LHV : 150 MW Output : 105 MW 5 表 1 酸素水素燃焼発電サイクルおよびGTCC の解析条件
Reference This work Reference 7) Reference 8) Reference 9) Reference 10)
Capacity 100 MW Oxy-hydrogen cycle: 200 MW GTCC: 500 MW Oxy-hydrogen cycle: 50 MW Oxy-hydrogen cycle:500 MW GTCC: 1000 MW Oxy-hydrogen cycle:300 MW Compressor isentropic efficiency 89% 88% 88% 90% 87%
Gas turbine isentropic
efficiency 92% 92% 90% 90% 87% Steam turbine or Steam turbine 1 isentropic efficiency 84% 90% 83−93% 90% 87% Steam turbine 2 isentropic efficiency 89% 90% 83−93% 90% 87% Mechanical efficiency 99% 99.6% 99% 99% 98.9% Generator efficiency 99.5% 98.5% 98.5% 99% 98.0% Pump isentropic efficiency 100% 70% - 90% - Heat exchanger pressure loss Gas phase: 5.0 kPa Liquid phase: 50 kPa Hot side: 2.5% (3 kPa) Cold side: 3.15% (600 kPa) Hot side: 3−5% Cold side: 1% (350 kPa)
4.3% Hot side: 10 kPa
Cold side: 300 kPa
Combustor pressure loss 0.10 MPa 0.17 MPa 5% (0.2 MPa) 5% (0.25 MPa) 100 kPa
図 3 酸素水素燃焼発電サイクルの概要系統図 H2 O2 ST1 CP GT ST2 Combustor Pump Drain Condenser Power 1400-1700C 2.0-5.0 MPa SH EVA ECO 650C 5-35 MPa Approx. 700C 0.005 MPa 1 2 2’ 6 3 4 5 12 11 10’ 10 9 8 7 GT: CP: ST: ECO: EVA: SH: Gas Turbine Compressor Steam Turbine Economizer Evaporator Superheater
とした.酸素水素燃焼発電サイクルは,表1 に示した文献 を参照し,発電出力は約100 MW として解析した.また, ガスタービンサイクル(図3 の赤点線)の作動流体は常に 過熱蒸気となるようにした.蒸気タービン1(ST1)につい て,入口温度(図3 の 11 番)は 650°C と設定し,それを踏 まえてガスタービン出口温度(図3 の 2 番)は約 700°C と した.本解析では発電サイクルの基本特性を把握するため, 酸素水素量論完全燃焼を仮定し,燃焼後の不凝縮ガスであ るH2およびO2の分圧はゼロと仮定した.ガスタービン入 口温度は1400°C,1550°C,1700°C と設定した.1700°C は, 次世代火力発電に係る技術ロードマップ 1)で言及されてい る火力発電システムを参照し設定した.一方,ガスタービ ン入口温度1700°C では,圧縮機出口において最高 896°C に なった(付録図A に示した条件では圧縮機出口温度 834°C). この結果に基づき,各流路で700°C を超えないようガスタ ービン入口温度を下げ,その結果 1400°C で解析すること とした.700°C に設定した根拠は,現在検討が進められて いる700°C 級先進超々臨界圧ボイラ16)の技術を,将来適用 できるとの仮定に基づいている.さらに,1400°C,1700°C の中間値である1550°C を解析条件に加えた.1550°C では, 圧縮機出口温度は723–779°C である. 空気LNG 燃焼および空気水素燃焼 GTCC(図 1)につい て,次世代火力発電に係る技術ロードマップを参照し,ガ スタービンおよび圧縮機の圧力比をそれぞれ28,34 とした 1).これより,ガスタービン入口温度1400°C,1550°C,1700°C では,ガスタービン出口温度はそれぞれ 559–565°C,648– 655°C,738–746°C と算出された.この結果と酸素水素燃焼 発電サイクルのガスタービン出口と蒸気タービン1 入口の 温度差が約 50°C であることを踏まえ,ガスタービン入口 温度1400°C,1550°C,1700°C のとき,蒸気タービン 1 入 口温度はそれぞれ 500°C,600°C,700°C とした.さらに, ガスタービン入口温度1400°C のとき蒸気タービン 1 入口 圧力8 MPa とし,ガスタービン入口温度 1550°C,1700°C の とき蒸気タービン1 入口圧力 17 MPa1)とした.これは,復 水器入口におけるH2O の乾き度 0.9 としたためである.復 水器入口圧力は5.0 kPa とした. 酸素水素燃焼発電サイクルでは再熱・再生は考慮せず, 蒸気タービン1(ST1)を単段として解析した.GTCC(図 1)は高圧,中圧,低圧タービンをまとめて単段の蒸気ター ビン(ST)とし,再熱サイクルを考慮していない.ガスタ ービン翼の冷却について,酸素水素燃焼発電サイクルでは 空気ではなく水蒸気で冷却することになるが,冷却用の空 気を単に水蒸気に変更するだけでは解析が困難である.そ こで,本研究では不確定な要素を排除して解析するため, 冷却を考慮しなくてもタービンの耐熱性に問題がないと仮 定して解析した.比較対象である空気 LNG 燃焼および空 気水素燃焼GTCC もタービン冷却を考慮しないで解析した. 解析した発電サイクルの詳細系統図は付録をご参照頂きた い(付録中の図A,B にそれぞれ酸素水素燃焼発電サイク ルと空気LNG 燃焼 GTCC の系統図の一例を示す). 3.2 熱効率解析とエクセルギー解析 熱効率解析汎用プログラム(EnergyWin®)では,発電出 力や熱効率は自動で算出されるが,本研究での熱効率の定 義を式(1)に示す. 𝜂th (%) = POutput Qin ×100 = ∑(𝑃T 𝜂m 𝜂gen) - 𝜂 𝑃C m 𝜂gen Qin ×100 (1) ηthは熱効率,POutputは発電出力,Qinは燃料投入熱量(高 位発熱量または低位発熱量),PTはタービン出力,PCは圧 縮機の動力,ηmは機械効率,ηgenは発電機効率を表す.本 研究では,Qinは低位発熱量として解析した. エクセルギーは,系が外界と平衡に達するまでなす最大 仕事を表している.エクセルギーの定義について,式(2) に示す. (2) e は比エクセルギー,h は比エンタルピー,T は温度,s は比エントロピー,添え字0 は基準条件(15°C,0.1013 MPa) を表す.式(2)は作動流体の温度と圧力で決まり,物理エ クセルギーと定義される.燃料のエクセルギーは化学エク セルギーと定義される.表2 に CH4とH2の高位発熱量, 低位発熱量,エクセルギーをそれぞれ示す17).エクセルギ ー解析は,エクセルギー損失を最小化する方策を見つける ことで各構成機器の損失を低減させ,システム全体の改善 や最適化に役立つ.そのため,燃焼器や熱交換器など各要 素において不可逆的に失われる有効仕事の損失を見積もる ことができる.本解析での発電サイクルのエクセルギー効 率,エクセルギー損失,エクセルギー損失の割合をそれぞ れ式(3‐5)と定義する. e = ( h - h0 ) - T0 ( s - s0 ) 表 2 CH4およびH2における高位発熱量,低位発熱量 およびエクセルギー 17) Fuel LNG (CH4 : 100%) H2 Higher heating value
[MJ/kg] 55.5 142
Lower heating value
[MJ/kg] 50.0 120
(3) (4) (5) ηEはエクセルギー効率,EFuelは燃料の化学エクセルギー, ELossはエクセルギー損失,Einはある系に流入する作動流体 の物理エクセルギー,Eoutはある系から流出する作動流体 の物理エクセルギー,ηE Lossはエクセルギー損失の割合を表 す.EnergyWin®の解析結果から各要素に流出入する状態量 を取得し,その結果を式(3‐5)に代入することで各構成 機器のエクセルギー損失を見積もった. 4. GTCC 発電技術と比較した酸素水素燃焼発電サイクル の優位性 初めに,酸素水素燃焼発電サイクル(Oxy-hydrogen cycle と表記)の性能を把握するため,空気LNG 燃焼 GTCC,空 気水素燃焼GTCC と比較しながら,熱効率に対するガスタ ービン入口温度・圧力の依存性を明確にする.酸素水素燃 焼発電サイクルのガスタービン入口圧力 2.0–5.0 MPa およ び,空気LNG 燃焼 GTCC,空気水素燃焼 GTCC のガスタ ービン入口圧力3.3 MPa におけるガスタービン入口温度と 熱効率の関係を図5(図 1 の 3 番の温度,図 3 の 1 番の温 度・圧力を変化),そのときの発電システムにおける代表的 なパラメータを表3 に示す.ただし,酸素水素燃焼発電サ イクルの蒸気タービン1(ST1)入口圧力は 14 MPa 固定と し8) 10),ガスタービン出口温度が約700°C になるようガス タービン出口圧力を設定した.酸素水素燃焼発電サイクル は,空気LNG 燃焼および空気水素燃焼 GTCC と比べて, 熱効率が 2−11 ポイント高くなり,ガスタービン入口条件 1700°C , 5.0 MPa で は 最 大 熱 効 率 71.0% に 達 し た (EnergyWin®で解析した系統図を付録中の図 A に示す). 酸素水素燃焼発電サイクルにおいて,ガスタービン出口温 度は約700°C,ガスタービンサイクル(図 3 の赤点線)で η E (%) = POutput 𝐸Fuel ×100
ELoss = EFuel+ Ein - Eout
ηE Loss (%) = ELoss EFuel ×100 図 5 酸素水素燃焼発電サイクルのガスタービン入口 圧力2.0–5.0 MPa,空気 LNG 燃焼 GTCC,空気水 素燃焼GTCC のガスタービン入口圧力 3.3 MPa におけるガスタービン入口温度と熱効率の関係 50 55 60 65 70 75 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 The rm al ef fic ie nc y (LHV basis) [%]
Gas turbine inlet temperature [C]
Oxy-hydrogen cycle (Reference 11) ) Oxy-hydrogen cycle (Reference 7) ) GTCC (Reference 17) 18) ) GTCC (Reference 1) 19) ) This work
Oxy-hydrogen cycle
GTCC (H2)
Gas turbine inlet pressure:5.0 MPa
2.0 MPa 3.3 MPa GTCC (LNG) 3.3 MPa 11) 7) 18) 19) 1) 20) 表 3 酸素水素燃焼発電サイクルのガスタービン入口圧力 2.0–5.0 MPa,空気 LNG 燃焼 GTCC,空気水素燃焼 GTCC の ガスタービン入口圧力3.3 MPa における代表的なパラメータおよび算出結果 Oxy-hydrogen cycle GTCC (H2 or LNG)
ST1 inlet pressure MPa 14
ST1 inlet temperature °C 650
ST inlet pressure MPa 17 17 8
ST inlet temperature °C 700 600 500
Gas turbine inlet
pressure MPa 5.0 3.3 2.0 3.3 3.3 3.3
Gas turbine inlet
temperature °C 1700 1550 1400 1700 1550 1400 1700 1550 1400 1700 1550 1400 Combustor inlet temperature °C 720 650 600 720 650 600 720 650 600 548 548 548 Compressor outlet temperature °C 834 726 649 861 751 672 896 779 697 548 548 548 Pressure ratio of compressor - 119 58 30 147 64 32 233 81 35 34 34 34
Pressure ratio of gas
turbine - 86 49 27 86 49 27 83 49 27 28 28 28
ST2 inlet temperature °C 429 430 434 426 431 437 422 428 437
ST2 inlet pressure MPa 0.05 0.09 0.18 0.03 0.06 0.11 0.01 0.03 0.07
Pressure ratio of ST2 - 9.6 19 35 5.6 12 23 2.8 6.2 13
Condenser inlet
pressure MPa 0.005
は常に過熱蒸気となる条件のもと,ガスタービン入口温度 (ガスタービン入口圧力は固定)を増加させるとガスター ビン出口圧力は低下するため,熱交換器の圧力損失の影響 が大きくなる.これより,ST2 の圧力比が小さくなり,ST2 動力が減少する.酸素水素燃焼発電サイクルのガスタービ ン入口圧力 2.0 MPa において,ガスタービン入口温度を 1550°C から 1700°C まで増加させたにもかかわらず,熱効 率は0.5 ポイント減少した.これは,熱交換器の圧力損失 によるST2 の圧力比低下の影響が大きいと考えられる.空 気燃焼GTCC について,燃料を LNG から H2に置き換えた 場合,熱効率は増加した.燃料がH2の場合,燃焼ガスに含 まれるH2O の体積比増加より,燃焼ガスの比熱比が大きく なる(標準状態で比較すると比熱比は約 0.001 増加)こと に起因するが,熱効率の増加は約1 ポイントにとどまる. 解析結果の妥当性を示すため,図5 には他文献と比較した データも記載した.文献参照したデータの代表的な条件お よび熱効率は表4 に示した通りである.1500°C 級 GTCC の 実機データ18) 19)と本解析は条件が異なるため直接比較でき ないが,結果は大きく逸脱しなかった.本解析では,空気 LNG 燃焼 GTCC は再熱サイクルとタービン抽気による給 水加熱は考慮せず,排熱回収ボイラの最適化(ピンチ解析) も行っていない.そのため,冷却を考慮していないにもか かわらず,空気LNG 燃焼 GTCC の解析結果と実プラント の熱効率に顕著な差が出なかったと考えられる.現在開発 中である1700°C 級 GTCC では熱効率 64% 1) 20)が見込まれ ているが,本研究での空気LNG 燃焼 GTCC の解析では 63% となり,1 ポイント低い結果が得られた.本解析での再熱 を考慮していない点を踏まえれば,解析結果は妥当である. 酸素水素燃焼発電サイクルは実機データとの比較ができな いため,他文献で解析された結果を示したが,結果に大き な違いはない.以上より,本研究の解析結果は妥当である ことを確認した. 次にガスタービン入口温度 1550°C において,ガスター ビン入口圧力2.0–5.0 MPa における酸素水素燃焼発電サイ クル,ガスタービン入口圧力3.3 MPa における空気 LNG 燃 焼GTCC,空気水素燃焼 GTCC の出力およびエクセルギー 効率を図6 に示す.出力はガスタービン,ST1,ST2,ST, 圧縮機の動力をそれぞれ示している.酸素水素燃焼発電サ イクルの全タービン総和(ガスタービン,ST1,ST2)は, 空気燃焼GTCC の全タービン総和(ガスタービン,ST)と 大きな差はない(動力差5−6 MW).一方,空気燃焼 GTCC と比べて,酸素水素燃焼発電サイクルの圧縮機の動力は 13−20 MW 小さくなった.酸素水素燃焼発電サイクルは, 再生熱交換器の途中でH2O の一部が分岐され,ST2,復水 器を経て飽和水に凝縮される.この飽和水はポンプで液相 加圧されるため,圧縮動力が小さくなる.つまり,ブレイ トンサイクル側での圧縮動力差の影響が大きいため,酸素 水素燃焼発電サイクルは空気燃焼GTCC より高効率になる. ガスタービン入口温度 1550°C における酸素水素燃焼発 表 4 参考文献による酸素水素燃焼発電サイクルおよび空気LNG 燃焼 GTCC の代表的なデータ
Oxy-hydrogen cycle GTCC with LNG/Air combustion
Reference 11) Reference 7) Reference 18) 19) Reference 1) 20)
Gas turbine
inlet temperature 1200°C 1500°C 1500°C 1700°C
Gas turbine
inlet pressure 5 MPa 4 MPa Less than 2.1MPa 2.5–3.5 MPa
Steam turbine 1
inlet temperature 650°C 580°C
Steam turbine 1
inlet pressure 14 MPa 17 MPa
Steam turbine
inlet temperature 565°C 650–700°C
Steam turbine
inlet pressure 13 MPa 17 MPa
Thermal efficiency 63.8% (LHV basis) 68.5% (LHV basis) 53% (HHV basis) 59% (LHV basis) 64% (LHV basis) 57% (HHV basis)
図 6 ガスタービン入口温度 1550°C における酸素水素 燃焼発電サイクル,空気LNG 燃焼 GTCC,空気水 素燃焼GTCC のそれぞれの出力およびエクセルギ ー効率 -80 -40 0 40 80 120 160 200
2.0 MPa 3.3 MPa 5.0 MPa 3.3 MPa
(H2) 3.3 MPa (LNG) Output [M W ]
Gas tubine inlet pressure
Gas turbine Steam turbine 1 Steam turbine 2 Steam turbine Compressor
Gas turbine inlet temp. : 1550C
Oxy-hydrogen cycle GTCC Exergy effi. 67% 70% 71% 63% 59% (H2)
電サイクル,空気LNG 燃焼 GTCC,空気水素燃焼 GTCC の それぞれのエクセルギー損失の内訳を図7 に示す.表 5 に は,図7 に示しているエクセルギー損失に加え,エクセル ギー損失の割合の数値,エクセルギー効率も示している. 燃焼器におけるエクセルギー損失は全損失の中で最も大き な影響を及ぼしていることがわかる.酸素水素燃焼発電サ イクルは,空気LNG 燃焼 GTCC および空気水素燃焼 GTCC と比べて燃焼器におけるエクセルギー損失は2−4 ポイント 低くなった.空気燃焼GTCC について,燃料を LNG から H2に置き換えると燃焼器におけるエクセルギー損失は2 ポ イント低減した.ただし,これは H2のエクセルギー率が CH4と比べて小さいためであり,H2に置き換えても燃焼器 におけるエクセルギー損失が低減するわけではない.ガス タービン入口圧力3.3 MPa において,燃焼器におけるエク セルギー損失は酸素水素燃焼発電サイクルが空気水素燃焼 GTCC よりも 2 ポイント低減しており,エクセルギー損失 の総和は3 ポイント低減している.燃焼器におけるエクセ ルギー損失が低減する一つ目の理由として,燃焼生成物と 作動流体が同一物質であるため,混合によるエクセルギー 損失が小さくなった11).表5 に示した,ガスタービン入口 条件1550°C,3.3 MPa における場合を例に説明する.酸素 水素燃焼における燃焼器でのエクセルギー損失は,空気水 素燃焼および空気LNG 燃焼と比較して 4−7 MW(2−4 ポイ ント)低下した.これは,酸素水素燃焼の燃焼生成物H2O と,燃焼器に再循環されるH2O が同じ物質だからである. これは酸素水素燃焼の特徴であり,熱効率向上にも貢献す る.空気水素燃焼および空気LNG 燃焼では,燃焼器へ流入 する空気と燃焼生成物が異なる物質であるため混合による エクセルギー損失が大きくなる.二つ目の理由は,酸素水 素燃焼発電サイクルは圧縮機の圧力比を高く設定できるた め,燃焼器入口温度を高く設定することができる.これら の理由より燃焼器におけるエクセルギー損失が低減し,エ クセルギー効率および熱効率はより高効率になった.次に 酸素水素燃焼発電サイクルについて,ガスタービン入口圧 力(燃焼圧力)を高くすることでエクセルギー損失の総和 は最大2.2 ポイント低減した.一つ目の要因は,燃焼器手 前での蒸気の混合のエクセルギー損失が最大0.3 ポイント 低減したことである.ガスタービン入口圧力の増加に伴い, 図 7 ガスタービン入口温度 1550°C における酸素水素燃 焼発電サイクル,空気LNG 燃焼 GTCC,空気水素 燃焼GTCC のそれぞれのエクセルギー損失の内訳 0 10 20 30 40 50 60 70
2.0 MPa 3.3 MPa 5.0 MPa 3.3 MPa (H2) 3.3 MPa (LNG) Exer g y lo ss f o r each co m p o n en t [MW ]
Gas turbine inlet pressure
Mixing loss
Condenser loss
Steam turine loss
Steam turbine 2 loss
Steam turbine 1 loss
Compressor loss
Gas turbine loss
Heat exchanger loss
Combustor loss Oxy-hydrogen
cycle
GTCC
Gas turbine inlet temp. : 1550C
(H2)
表 5 ガスタービン入口温度 1550°C における酸素水素燃焼発電サイクル,空気 LNG 燃焼 GTCC,空気水素燃焼 GTCC のそれぞれのエクセルギー損失,エクセルギー損失の割合の数値,エクセルギー効率
Oxy-hydrogen cycle GTCC (H2) GTCC (LNG)
Gas turbine inlet pressure MPa 5.0 3.3 2.0 3.3
Combustor loss MW % 31 21 31 21 31 21 35 23 38 25
Heat exchanger loss MW % 6.0 4.1 6.7 4.5 7.9 5.3 5.6 3.8 6.1 4.0
Gas turbine loss MW % 3.5 2.3 3.5 2.4 3.5 2.4 3.7 2.5 3.7 2.4
Compressor loss MW % 1.4 0.9 1.4 0.9 1.4 1.0 2.4 1.6 2.4 1.6
Steam turbine 1 loss MW % 0.3 0.2 0.5 0.3 0.7 0.5
Steam turbine 2 loss MW % 1.6 1.1 1.2 0.8 0.9 0.6
Steam turbine loss MW % 4.4 3.0 4.4 2.9
Condenser loss MW % 3.8 2.6 4.4 3.0 5.5 3.7 1.9 1.3 1.9 1.3
Mixing loss MW % 0.2 0.2 0.4 0.3 0.8 0.5
Total loss MW % 48 33 49 33 52 35 53 36 57 37
ST1 入口圧力 14 MPa で固定のため ST1 の圧力比が低くな り,ST1 出口温度は高くなる.これより,圧縮機出口(図 3 の 4 番)の蒸気と ST1 出口(図 3 の 12 番)の蒸気の温度 差が小さくなるため,燃焼器手前(図3 の 5 番)での蒸気 混合(熱交換)のエクセルギー損失が小さくなる.二つ目 は,復水器におけるエクセルギー損失が最大 1.1 ポイント 低減したことである.ガスタービン入口圧力が増加するこ とで,ガスタービンサイクル側の再生熱交換器の圧力も増 加する.これに伴いST2 の圧力比も増加し,復水器入口温 度が低下する.以上から,復水器入口の蒸気と冷却水の温 度差が約190°C から約 100°C へと小さくなるため,エクセ ルギー損失が低減した.三つ目は,再生熱交換器における エクセルギー損失が最大1.2 ポイント低減したことである. ガスタービン入口圧力5.0 MPa におけるガスタービン出口 圧力は0.10 MPa に対して,ガスタービン入口圧力 2.0 MPa におけるガスタービン出口圧力は0.041 MPa となり,エク セルギーの基準条件 0.1013 MPa に対する圧力差の影響よ り,低減したと考えられる. 本章では空気LNG 燃焼および空気水素燃焼 GTCC と比 較しながら,ガスタービン入口温度または圧力をそれぞれ 変化させた場合における酸素水素燃焼発電サイクルを評価 し,高効率であることが示された. 最後に,本解析では各流路での温度が 700°C 以上になら ない条件で解析した.その結果,節炭器,蒸発器,過熱器 等,大部分の流路では 700°C 以下となり,条件を満たす結 果となった.一方,ガスタービン入口温度 1700°C における 燃焼器入口温度の設定条件は,サイクル計算の都合上, 700°C 以上となる条件の設定となった(表 3 参照,付録中 の図 A では 720°C).またガスタービン入口温度 1550°C, 1700°C では,圧縮機出口温度が 700°C 以上(表 3 参照)と なり,現状の火力プラント技術では条件が厳しい流路箇所 も明らかになった.これより,燃焼器,タービン,圧縮機 の耐熱性の適用限界を考慮したシステム解析,冷却過程を 考慮した解析は今後の検討課題である. 5. 酸素水素燃焼発電サイクルにおける蒸気タービン 1(ST1)入口圧力の影響 次に,酸素水素燃焼発電サイクルを対象に,ST1 入口圧 力の依存性を検討する.酸素水素燃焼発電サイクルは作動 流体が ST1 流出後に燃焼器を経てガスタービンへ流入し, その後ST2 または圧縮機へと流入する.すなわち,ST1 の パラメータ設定は,ST2 とはパラメータ設定を切り離して 考えることができ,これは酸素水素燃焼発電サイクルの特 徴でもある.ST1 入口圧力を変化させることで,発電サイ クルへの影響や熱効率向上の効果を明確にすることは,発 電サイクルの性能を把握する上で意義がある.以上より, 酸素水素燃焼発電サイクルにおいてST1 入口圧力をパラメ ータとして超臨界圧まで変化させ,熱効率解析を実施した. 酸素水素燃焼発電サイクルにおいて,ST1 入口圧力を 5– 35 MPa まで変化させたときの熱効率解析結果を図 8(図 3 の11 番の圧力を変化)に示す.ただし,ガスタービン入口 圧力5.0 MPa,ST1 入口温度 650°C で固定,ガスタービン 出口温度は約700°C になるようガスタービン出口圧力を設 定した.表6 に各発電システムのパラメータ,熱効率,エ クセルギー効率,再生熱交換器におけるエクセルギー損失 をそれぞれ示す.図8 と表 6 より,ST1 入口圧力を最大 35 MPa まで増加させた場合,ガスタービン入口温度 1400°C, 1550°C,1700°C における熱効率の増加傾向は似た結果とな り,熱効率およびエクセルギー効率は0.9–2.1 ポイント増加 した.酸素水素燃焼発電サイクルの各ガスタービン入口温 度において,ST1 入口圧力が増加すると,再生熱交換器に おけるエクセルギー損失は 2.5−3.2 ポイント低減した.こ れは,ST1 入口圧力が超臨界圧(22.1 MPa)を超えると,湿 り飽和蒸気の過程がなくなるためである.以上から,再生 熱交換器におけるエクセルギー損失の低減が,熱効率およ びエクセルギー効率の増加に大きな影響を及ぼしているこ とを明らかにした.ST1 入口圧力について 25 MPa まで増 加させると,熱効率0.8–1.9 ポイント増加するが,25 MPa から35 MPa までの増加では,0.1–0.2 ポイントの増加にと どまる.すなわち,ガスタービン入口温度に関わらず,ST1 入口圧力を超臨界圧まで増加させることは熱効率向上に大 きな影響があるが,超臨界圧以上でのST1 入口圧力増加は 熱効率向上に及ぼす影響は小さい. 図9 に,各ガスタービン入口温度における ST1 入口圧力 を変化させた場合の出力およびエクセルギー効率を示す. 出力はガスタービン,ST1,ST2,圧縮機の動力をそれぞれ 示している.ST1 入口圧力が増加するとガスタービン動力 図 8 ST1 入口圧力を 5–35 MPa まで変化させたとき の酸素水素燃焼発電サイクルの熱効率 66 67 68 69 70 71 72 73 0 10 20 30 40 The rm al ef fic ie nc y (LHV basis) [%]
Steam turbine 1 inlet pressure [MPa] Supercritical pressure Gas turbine inlet temp.: 1700C 1550C 1400C
Gas turbine inlet pressure: 5.0 MPa
は減少するが,ST1 動力がその減少分をおおよそ補ってい ることがわかる.さらにST2 動力は増加した.これは再生 熱交換器部分において,ST1 入口圧力が超臨界圧まで増加 するほど蒸発器での熱交換量が小さくなるため,高温側(ブ レイトンサイクル側)の蒸発器出口温度(ST2 入口温度) が高くなり,動力が増加するためである.すなわち,ST1 入 口圧力の増加より,ST1 動力はガスタービン動力を補い, さらにST2 動力増加にも貢献する. 4 章の結果も踏まえて,ST1 入口圧力の増加は,ガスター ビン入口温度および圧力の増加と比べると熱効率向上のパ ラメータとして効果は小さい.一方,ST1 入口圧力が超臨 界圧まで増加すると,熱効率向上の効果はある.超臨界圧 以上でのST1 入口圧力増加では,熱効率向上に及ぼす影響 は小さい.またST1 入口圧力の増加より,ST1 動力はガス タービン動力を補い,さらにST2 動力増加にも貢献するこ とを明らかにした. 6. 酸素水素燃焼発電サイクルにおける酸素製造動力を 考慮した場合の送電端効率の概算結果 酸素水素燃焼発電サイクルにおける酸素製造動力は送 電端効率に大きな影響を及ぼすため,酸素製造動力も考慮 する必要がある.本章では,深冷空気分離法,圧力スイン グ吸着法,高温酸素分離膜法における酸素製造動力を考慮 した場合について,文献調査より送電端効率の概算を示す. 深冷空気分離法(Cryogenic Air Separation: CAS)は,空気を -170ºC 程度の極低温で液化し,蒸留によって酸素,窒素, アルゴンを分離する方法である.また既存の技術では大容 量で製造できる.圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption: PSA)は,ゼオライトのような吸着剤を用いて, 圧力を変動させ窒素を吸着除去し,酸素を濃縮する技術で ある.高温酸素分離膜法(High Temperature Oxygen Transport Membrane Method: OTM)は,次世代の大型酸素製造法とし て期待されている.高酸素分圧側と低酸素分圧側の酸素分 圧差により,高酸素分圧側で酸素は自発的にイオン化する. その後セラミックス膜を通って低酸素分圧側へ移動し,脱 イオン化により純酸素が生成される.それぞれの酸素製造 法の酸素純度,製造動力,酸素発生量,長点,欠点をまと めたものを表7 に示す21) 22).ここでは,酸素水素燃焼発電 サイクルの解析結果で得られた発電端効率から,文献調査 に基づいた酸素製造動力(表7 に示した値参照)を差し引 いて送電端効率を算出した.本研究ではO2純度100%で量 論完全燃焼を対象としたため,O2純度による不凝縮ガスが 発電サイクルや発電効率に及ぼす影響は考慮していない. 図 9 各ガスタービン入口温度における ST1 入口圧力を 変化させた場合の酸素水素燃焼発電サイクルの出 力およびエクセルギー効率 -60 -30 0 30 60 90 120 150 180 Output [M W ]
Steam turbine 1 inlet pressure [MPa]
Compressor Steam tubine 2 Steam tubine 1 Gas turbine
5 14 25 35 5 14 25 35 5 14 25 35 1550C
1700C 1400C
Gas turbine inlet temperature
Exergy effi. 71% 72% 72% 72% 70% 71% 71% 71% 67% 69% 69% 69% 表 6 各ガスタービン入口温度における ST1 入口圧力を変化させた場合の酸素水素燃焼発電サイクルのパラメータ, 熱効率,エクセルギー効率,再生熱交換器におけるエクセルギー損失
Gas turbine inlet
pressure MPa 5.0
ST1 inlet temperature °C 650
Gas turbine inlet
temperature °C 1700 1550 1400
ST1 inlet pressure MPa 5.1 14 25 35 5.1 14 25 35 5.1 14 25 35
Combustor inlet
temperature °C 770 720 695 670 700 650 625 600 650 600 575 550
Pressure ratio of
compressor - 119 58 30
Pressure ratio of gas
turbine - 86 49 27
ST2 inlet temperature °C 352 429 481 477 355 430 482 477 363 434 484 479
ST2 inlet pressure MPa 0.05 0.09 0.18
Thermal efficiency
(LHV basis) % 70.3 71.0 71.1 71.2 68.8 69.9 70.1 70.2 66.3 67.7 68.2 68.4
Exergy efficiency % 71.4 72.1 72.2 72.3 69.8 70.9 71.2 71.3 67.3 68.8 69.3 69.4
また,O2は高圧条件で燃焼器に供給されるとしたため,O2 の圧縮動力は考慮しなかった. ガスタービン入口温度および圧力がそれぞれ1550ºC,3.3 MPa の場合の酸素水素燃焼発電サイクルの熱効率および酸 素製造動力を考慮した送電端効率と空気水素燃焼GTCC の 熱効率を図10 に示す.ここでの酸素水素燃焼発電サイクル および空気水素燃焼GTCC は,表 3 に示したガスタービン 入口温度,圧力がそれぞれ1550ºC,3.3 MPa のときの解析 結果を参照した.酸素製造動力を考慮すると,酸素水素燃 焼発電サイクルの熱効率は4−6 ポイント低下した.酸素水 素燃焼発電サイクルの送電端効率は,空気水素燃焼GTCC の熱効率と比べて1−3 ポイント高くなった.酸素水素燃焼 発電サイクルの発電端効率自体は空気水素燃焼GTCC より 高いが,酸素製造動力を含めた送電端効率では同程度にな る可能性が高い.一方,発電サイトでのCO2の排出がなく, また空気での燃焼でもないことから,高純度の酸素による 燃焼ではNOxの発生も低減できる可能性がある.また,酸 素水素燃焼の点では技術的な課題はあるものの,NOxの影 響を考慮せずにタービン入口温度(燃焼温度)を高く設定 できる利点もある.そのため,次世代の発電技術として大 きな利点を有している. 酸素製造が酸素水素燃焼発電サイクルに及ぼす影響に ついて考える.本論文ではO2純度100%と仮定しているた め,発電端効率,送電端効率における発電サイクルの基本 特性はともに同じ結果になる.以上を踏まえ,考察する. 深冷空気分離法は液化O2の製造が可能なため,液相加圧よ り酸素の昇圧動力を低減できる可能性がある.また,液化 H2を冷熱として利用することで,酸素水素燃焼発電サイク ルの送電端効率がさらに改善される可能性がある10).一方, 実際にはO2純度の影響も考慮しなければならない.深冷空 気分離法では O2純度が上がると製造動力が増加するのが 欠点である.O2純度が低いと不凝縮ガス(窒素やアルゴン) が燃焼ガスに混在し,復水器の性能低下等,発電サイクル の性能に悪影響を及ぼす可能性がある.残存ガスを取り除 くための脱気装置も必要になり,今後は脱気動力も考慮し なければならない.これより,酸素製造動力,O2純度が発 電サイクルや発電効率に及ぼす影響を考慮した詳細な解析 は今後の重要な検討課題である. 7. 結言 本研究では酸素水素燃焼発電サイクル,空気 LNG 燃焼 GTCC,空気水素燃焼 GTCC の熱効率解析およびエクセル ギー解析を行い,下記の知見が得られた. 図 10 ガスタービン入口温度および圧力がそれぞれ 1550ºC,3.3 MPa の場合の酸素水素燃焼発電サイ クルの熱効率および酸素製造動力を考慮した送 電端効率と空気水素燃焼GTCC の熱効率 60 65 70 75 The rm al ef fic ie nc y (LHV basis) [%]
Oxy-hydrogen cycle with HGTCC
2 CAS OTM PSA Thermal efficiency Thermal efficiency Net thermal efficiency
Gas turbine inlet condition : 1550C, 3.3 MPa 表 7 酸素製造技術 21) 22)
Method Cryogenic Air Separation
(CAS)
Pressure Swing Adsorption (PSA)
High Temperature Oxygen Transport Membrane (OTM)
O2 purity 85−99.9 mol% 90−95 mol% ca. 99.9 mol%
Production energy 930 kJ/kg (Purity of 99.6 mol%) 860 kJ/kg (Purity of 93.0 mol%) 580 kJ/kg (Purity of 99.9 mol%) Amount of O2 production 171,000 kg/h 11,400 kg/h 7,100 kg/h (143,000 kg/h in the future) Advantage
Possible to produce a large amount of O2
Possible to generate both liquified and gaseous O2
Improvement of process by utilizing liquified H2 as low-temperature heat reservoir in oxy-hydrogen cycle
Possible to co-produce N2 or Ar
Simple process to design Quick to produce Easy to install and start-up
High O2 purity at low production energy
Simple process to design
Possible to utilize exhaust air at high temperature and pressure (800– 900ºC and 1.4–2.0 MPa) effectively in IGCC
Disadvantage
Larger production energy for O2 purity of over 98 mol%
Requirement of large site Long start-up and shutdown
Limited scalability Low O2 purity
Impossible to co-produce N2 or Ar
Difficult to produce a large amount of O2 in the circumstances
Difficult to utilize exhaust air at high temperature and pressure effectively in oxy-hydrogen cycle
酸素水素燃焼発電サイクルは,空気 LNG 燃焼 GTCC お よび空気水素燃焼GTCC と比べて,熱効率は 2–11 ポイ ント高くなった.これは,酸素水素燃焼発電サイクルに おけるブレイトンサイクル側での圧縮動力が空気燃焼 GTCC と比べて小さくなるためである.また,燃焼器に おけるエクセルギー損失低減の影響が大きいためであ る.これは,圧縮機の圧力比を高くすることができ,そ れに伴い燃焼器入口温度を高く設定できることに起因 する.空気燃焼GTCC では,燃料を LNG から H2に置 き換えると,燃焼ガスのH2O の体積比増加により,燃 焼ガスの比熱比が高くなり,熱効率は増加するが,約1 ポイントの増加にとどまる. 酸素水素燃焼発電サイクルにおいて,蒸気タービン 1 入 口圧力を最大35 MPa まで増加させると,熱効率は 0.9– 2.1 ポイント高くなった.超臨界圧にすることで湿り飽 和蒸気の過程がなくなり,再生熱交換器におけるエク セルギー損失低減の影響が大きいため,熱効率および エクセルギー効率は増加した. 酸素水素燃焼発電サイクルにおいて,ガスタービン入 口温度および圧力の増加は,熱効率向上のパラメータ として影響が大きい.一方,ST1 入口圧力が超臨界圧ま で増加すると,熱効率向上の効果はある.超臨界圧以上 での ST1 入口圧力増加では,熱効率向上に及ぼす影響 は小さい.また,ST1 入口圧力の増加より,ST1 動力は ガスタービン動力を補い,さらにST2 動力増加にも貢 献することを明らかにした. 酸素製造動力を考慮すると,酸素水素燃焼発電サイク ルの送電端効率は発電端効率と比べて 4–6 ポイント低 下した.酸素水素燃焼発電サイクルは,酸素製造動力を 含めた送電端効率では,空気水素燃焼 GTCC と同程度 の発電効率になる可能性が高い.一方,発電サイトでは CO2排出はない.また空気による燃焼ではないことから, 高純度の酸素による燃焼ではNOxの発生も低減できる 可能性がある.そのため,次世代の発電技術として大き な利点を有している. 本研究では,酸素水素量論完全燃焼を仮定した.本来は, 不凝縮ガスの影響を考慮しなければならないが,その影響 は複雑で二つの課題がある.一つ目は酸素と水素が当量比 1においても完全燃焼できない可能性があること,二つ目 は純度 100%での酸素製造を適用できないことである.前 者については,酸素水素燃焼に関する実験,シミュレーシ ョン研究など文献調査を中心に検討を進めている.後者に ついては,当量比は燃焼特性だけでなく,酸素製造動力, 凝縮器性能,脱気動力,NOx排出挙動にも相互に影響を及 ぼし発電システムの性能を左右する.この課題については, 本稿で得られた結果に基づき,独立の課題として現在シス テム解析を進めている. 謝辞 本研究は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総 合開発機構(NEDO)の支援により行われた. 参考文献 1) NEDO;高効率・環境にもやさしい次世代火力発電, Focus NEDO, 62 (2016), pp.4–11.
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