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ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究

川口卓郎 1. はじめに 近年、一般家庭にもシアタールームやリスニングルー ムが普及しつつある。このような小空間では低音が不 快に響くブーミングという音響障害が発生しやすい。し かし、一般的に用いられるグラスウールなどの多孔質 材で低音を吸音するには大きな背後空気層を設ける必 要があり、施工が大掛かりで壁も厚くなってしまう。そ こで、本研究室ではヘルムホルツ共鳴器に着目し、低 音を広帯域で吸音する薄型吸音構造について検討して いる。これまで、共鳴器の頸部を胴部内に延長すること で厚さを変えずに共鳴周波数を低域へ移せること1) 2∼ 3 個の共鳴器を連立させることで共鳴周波数を増や し吸音域を広域化できること2)を示し、それらを利用 した吸音構造を提案してきたが、周波数ごとの吸音率 の差や共鳴器の厚みに課題が残り実用化には至ってい ない。そこで本研究では、低音を広帯域で滑らかに吸 音する薄型吸音パネルの開発を目的として、まず、薄く した 2 連立共鳴器の第 2 共鳴器を 4 つに増やした共鳴 周波数の異なる 3 種類の共鳴器を組み合わせた、大き さ 921 mm×627 mm×27 mm のパネル (Panel A) を製 作した。このパネルの残響室法吸音率を測定した結果、 250∼ 500 Hz で吸音率 0.4 程度の性能となったが、形状 が複雑なため共鳴周波数の調節が難しく不均一な吸音 特性となってしまった。次に、形状を単純化し滑らかな 吸音特性とするため、頸部を胴部内に延長することで共 鳴周波数が 100∼ 630 Hz の 1/3 オクターブバンド系列 の値となるように調節した 9 種類の薄型単一共鳴器を 組み合わせた、大きさ 1149 mm× 584 mm × 25 mm の パネル (Panel B) を製作した。このパネルの残響室法吸 音率を測定した結果、250∼ 500 Hz で吸音率 0.2 ∼ 0.3 程度と性能が低下してしまった。 以上を踏まえて本梗概では、形状を単純化し滑らか な吸音特性としつつ吸音性能を向上させることを目的 として、新たなパネルの形状について検討する。 2. 吸音特性の解析方法 吸音特性の解析には時間領域差分法 (以下 FDTDM と表記)5)を用いた。図-1 に示すような音響管を模し た音場を想定し、“Sound Source” の位置で平面波を初 期音圧として与え、“Recieve Point”(16 点) における インパルス応答を左端に共鳴器を設置する場合としな い場合それぞれについて求め、そのエネルギー比から 垂直入射吸音率 α0を求めた。計算条件は解析周波数 を考慮し、空間離散幅 2 mm、時間離散幅 0.001 ms と し、無反射端には Adaptive PML 6)を設定した。ま た、多孔質材を設置する場合の吸音モデルは Rayleigh モデル7)を採用した。共鳴器内部には単位面積流れ抵 抗 56,960 N·s/m4の多孔質材 (密度 96 kg/m3のグラス ウールに相当、図中では省略) を設置した。 Adaptive PML Sound Source Receive Point

Helmholz Resonator 200 250 250 1600 2300 図-1 解析音場 3. 2 連立共鳴器を用いた薄型吸音パネル 3.1 パネル形状の検討方法 Panel A の結果から、共鳴周波数を調節し滑らかな 吸音特性とするには共鳴器の形状は単純であることが 望ましいが、Panel B の結果から、共鳴周波数が1つ である単一共鳴器を多数並べた場合、それぞれの吸音 率が平均化され値が小さくなってしまうことが推測さ れる。そのため本検討におけるパネルでは、形状は共 鳴周波数が 2 つである 2 連立共鳴器、共鳴器の種類は 2 つまでとして 125∼ 500 Hz を滑らかに吸音すること を目的とする。 3.2 第 2 共鳴器に必要な頸部長さ 既往の研究から、第 2 共鳴器の頸部長さが短いと共 鳴周波数が複数にならないことが推測される1)。そこ で、2 連立共鳴器が共鳴周波数を 2 つ確保するには第 2 共鳴器の頸部長さ l2はどの程度必要か検討するために、 図-2 に示すような大きさ 100 mm× 100 mm × 22 mm の 2 連立共鳴器の l2を 4 mm(Case 1)、108 mm(Case 2) とした場合の吸音特性を比較した。 結果を図-3 に示す。Case 1 の場合は共鳴周波数は 1 つ、Case 2 の場合は 2 つとなっている。なお、Case 2 の 2 つの共鳴周波数のうち、低域側が頸部の長い第 2 共鳴器によるものと考えられる。以上から、大きさ 100 mm× 100 mm × 22 mm の 2 連立共鳴器では、l2が 108 mm あれば 2 つの共鳴周波数が出現することが分 かった。 3.3 第 2 共鳴器頸部の幅 共鳴周波数を 125 Hz まで低域に移すためには l2を より長くする必要があるが、延長できる長さには限界 がある。そこで、可能な限り頸部を延長できるように するため、図-4 に示すように、Case 2 の 2 連立共鳴器 の第 2 共鳴器頸部の幅を 20 mm から 10 mm に狭くし た場合 (Case 3)、吸音特性がどのように変化するか調 べた。 結果を図-5 に示す。Case 3 では、低域側の共鳴周波 数における吸音率が Case 2 に比べて小さくなっている ものの、共鳴周波数は 2 つ出現しそれぞれの吸音率は 0.6 程度となっている。また、第 2 共鳴器の共鳴周波数 43-1

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22 20 20 38 4 38 100 l 2=4mm 2 20 80 100 Case 1 22 20 20 16 4 20 4 36 100 2 20 20 60 100 l 2=108mm Case 2 図-2 l2の異なる 2 連立共鳴器 図-3 l2による吸音特性の違い が低域に移っているが、これは開孔面積が小さくなっ た影響と考えられる。以上から、2 連立共鳴器の第 2 共 鳴器頸部の幅を狭くした場合、吸音率は多少低下する ものの、共鳴周波数は 2 つ出現し、第 2 共鳴器の共鳴 周波数は低域に移ることが分かった。 3.4 第 2 共鳴器の頸部延長 3.3 では第 2 共鳴器の共鳴周波数が低域に移ったも のの、目標の 125 Hz には達していない。そこで、共鳴 周波数をさらに低域に移すため、図-6 に示すように、 Case 3 の l2を 212 mm まで延長した場合 (Case 4) の 吸音特性を調べ、Case 3 と比較した。 結果を図-7 に示す。低域側の共鳴周波数はほとんど 変化がない。これは、頸部延長によって胴部体積が減 少したためと考えられる。以上から、第 2 共鳴器の頸 部を延長しても胴部体積が減少してしまうため、共鳴 周波数は低域に移りにくいことが分かった。 22 20 10 20 16 4104 46 100 2 10 10 80 100 Case 3 図-4 第 2 共鳴器頸部の幅を狭くした形状 図-5 頸部の幅による吸音特性の変化 22 20 20 26 4104104 22 100 2 10 10 80 100 l 2=212mm Case 4 図-6 l2を延長した形状 図-7 l2の延長による吸音特性の変化 43-2

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22 20 20 50 4104104 68 170 2 10 10 80 100 Case 5 図-8 胴部体積を増加させた形状 図-9 胴部体積の増加による吸音特性の変化 3.5 胴部体積の増加 頸部延長だけでは胴部体積の不足により共鳴周波数 を低域に移すことができなかった。そこで、図-8 に示 すように、大きさが 100 mm×170 mm×22 mm となる よう胴部体積を増加させて共鳴周波数 125 Hz を狙った 共鳴器 (Case 5) の吸音特性を調べ Case 4 と比較した。 結果を図-8 に示す。Case 5 では低域側の共鳴周波数 は 125 Hz となり目標を達成している。また、同時に高 域側の共鳴周波数も 500 Hz 付近まで低くなり、目標周 波数の上限を達成している。以上から、胴部体積を増 加することで 2 つの共鳴周波数が低域へ移動し、目標 としていた周波数 125∼ 500 Hz の上限値と下限値を吸 音する性能を持たせることができた。 3.6 胴部体積や頸部長さによる共鳴周波数の調節 目標周波数 125 ∼ 500 Hz の上限値と下限値を達成 できたので、次に、共鳴周波数がその間となる 250 Hz 付近となるようにしたい。そこで、Case 5 の共鳴周波 数の低域側を高域へ、高域側を低域へ移すため、図-10 に示すように、第 1 共鳴器の胴部体積を増加させ、第 2 共鳴器の胴部体積を減少させた場合 (Case 6) と、胴 部体積と同時に l2を 108 mm に短くした場合 (Case 7) の 2 ケースの吸音特性を調べ、Case 5 と比較した。 結果を図-11 に示す。高域側の共鳴周波数は大きく 変化していないが、低域側は高域に移り、特に Case 7 では 250 Hz 付近で吸音率 0.6 以上となっている。以上 から、胴部体積や頸部長さを変化させることで低域側 の共鳴周波数を高域に移せることが分かり、Case 7 で は目標の 250 Hz 付近を吸音する性能を持たせることが できた。 22 20 20 98 4104104 20 170 2 10 10 80 100 Case 6 22 20 20 112 4104 20 170 2 10 10 80 100 l2=108mm Case 7 図-10 胴部体積や頸部長さを変化させた形状 図-11 胴部体積や頸部長さによる吸音特性の変化 3.7 薄型吸音パネルの製作 3.5 と 3.6 の結果を基に、Case 5 と Case 7 の共鳴 器を 12 個ずつ用いて図-12 に示すような薄型吸音パネ ル (Panel C) を設計した。パネル 1 枚の寸法は、縦横 が枠材を入れて 959 mm× 693 mm、厚さが表面材と裏 面材を入れて 25 mm となっている。なおパネル製作の 都合上、第 1 共鳴器の頸部を含む表面材の厚さを 2 mm から 2.5 mm へ、第 2 共鳴器の頸部を構成している仕 切りの厚さを 4 mm から 15 mm へ、また、仕切りに合 わせて胴部の横幅を 170 mm から 203 mm へ変更した。 製作したパネルを図-13 に示す。枠材や仕切りは木材、 表面材と裏面材は MDF を用い、各共鳴器の胴部には 吸音率向上を目的として多孔質材 (ポリウール8)) を胴 部体積の半分程度設置した。 3.8 薄型吸音パネルの残響室法吸音率 九州大学残響室9)において、Panel C の残響室法吸音 率を JIS A1409 に基づいて測定した。結果を FDTDM による垂直入射吸音率の計算値とともに図-14 に示す。 縦軸は左側が吸音率、右側がパネル 1 枚あたりの等価吸 音面積を表している。残響室法吸音率では 250∼ 500 Hz 43-3

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25 959 693 20 20 図-12 Panel C の形状 図-13 製作した Pabel C 図-14 薄型吸音パネルの吸音特性 図-15 残響室法吸音率の比較 において吸音率 0.3∼ 0.4 となっている。また、FDTDM による計算値に比べ 250∼ 4, 000 Hz において吸音率が 0.2 程度上昇している。これは、FDTDM では再現でき ていない開孔部における摩擦エネルギーと、胴部内に設 置した多孔質材によるものと推測される。なお、125 Hz の測定結果は測定に用いた残響室の室容積が JIS の規 格を満たしていないことから参考値とする。 3.9 Panel C と他のパネルとの性能比較

Panel C の残響室法吸音率を Panel A と Panel B、市 販されている既存のパネル (Panel Y) と比較した結果 を図-15 に示す。Panel A と比べると 250 Hz では吸音 率が 0.1 程度低くなっているものの、500 ∼ 4, 000 Hz では全体的に吸音率が向上している。Panel B と比較 すると全周波数において吸音率が向上している。Panel Y と比較すると 1, 000∼ 2, 000 Hz では吸音率が 0.1 程 度低くなっているものの、目標としていた周波数のう ち 250∼ 500 Hz においては上回っている。 4. まとめ 小空間に適用する薄型吸音構造の開発を目指して、 形状は単純ながらも低音域を滑らかに吸音する薄型吸 音パネルについて検討した。その結果、共鳴周波数が 125 ∼ 500 Hz である 2 種類の 2 連立共鳴器を並べる ことで 250 ∼ 500 Hz における吸音率が 0.3 ∼ 0.4 と なる薄型吸音パネル (Panel C) を実現した。このパネ ルは、Panel A よりも形状が単純でありながら性能は 250 Hz 以外では上回り、Panel B と比べると全周波数 において吸音率が向上している。また、市販されてい る既存のパネル (Panel Y) と比べると厚さは 3 mm 薄 くなり、吸音性能は滑らかさでは劣るものの低周波数 の 250∼ 500 Hz においては上回る結果となった。以上 から、小空間に適用する薄型吸音構造として、既存の ものと比べ低音域における性能が向上した薄型吸音パ ネルの開発を行うことができた。今後の課題としては、 小空間におけるブーミングを解消する効果があるか検 証を行う必要がある。 参考文献 1) 金子芳人, 川上徹晃, 川口卓郎, 藤本一寿: ヘルムホルツ共鳴器 の頸部延長による低音域用薄型吸音構造, 九州大学大学院人間 環境学研究院紀要 第 24 号, pp.73–77, 2013 年 7 月 2) 川上徹晃, 川口卓郎, 藤本一壽: 共鳴器の多段化と共鳴器内部 への多孔質材の設置, 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 第 26 号, pp.55–63, 2014 年 7 月 3) 坂本慎一, 橘秀樹: 差分法による 2 次元音場の過渡応答の数 値計算, 日本建築学会講演梗概集 (環境工学), pp.1757–1758, 1994 年 9 月 4) 坂本慎一: 音波の進行方向に適応した PML 無反射境界, 日本 音響学会研究発表会講演論文集 (秋), pp.909–910, 2005 年 9 月

5) John William Strutt, Baron Rayleigh: Theory of Sound, Vol.II, The Macmillan Company, 1929

6) 藤本一壽, 穴井謙, 古賀新一: ポリエステル不織布を用いた吸 音材の開発, 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 第 9 号, pp.67–74, 2006 年 1 月 7) 加来哲彦, 藤本一寿, 坂田展甫: 吊り下げ板による残響室の拡 散性能改善に関する検討, 日本建築学会中国・九州支部研究報 告 第 5 号, pp.93–96, 1981 年 3 月 43-4

参照

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