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児童養護施設入所前及び現在の生活状況が児童の心理・行動適応に及ぼす影響 [ PDF

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児童養護施設入所前及び現在の生活状況が児童の心理・行動適応に及ぼす影響

キーワード:児童養護施設 被虐待経験 被害経験 心理・行動適応 人間共生システム専攻 臨床心理学指導・研究コース 丸山 沙紀 Ⅰ.問題と目的 近年,日本は,里親やファミリーホームの推進,児童 養護施設の小規模化がなされてきた(林,2015)。しかし, 日本の社会的養護の中心は,施設養護なのが現実である (厚生労働省,2015)。このような状況を踏まえて,上鹿 渡(2012)は,「子どもの今」を考えると,施設養護の中で の最善の利益の実現も重要な課題であると指摘している。 施設養護の1 つに,児童養護施設がある。児童養護施 設で生活する子どもの一部には,専門的心理的援助が必 要な児童もいるため,児童養護施設は従来の養護の役割 だけでなく,治療的な役割も担う必要があるが,子ども の対応に苦慮しているのが現状であり,心理的側面から 子どもを捉える必要があるとされている(田中ら,2005)。 これまでの先行研究では,児童養護施設入所児童には, 様々な行動や心理状態が見られることが示されてきた (森田,1989;大西ら,1994;西澤,2000;宮地ら,2014)。 しかしながら,それが何に影響されているのかに関する 検討は不十分であり,今後知見を積み上げていく必要が あると考えられる。そこで,本研究では,施設入所前お よび現在の生活状況という視点から,児童の心理・行動 適応にどのような影響を及ぼすのか検討することとする。 施設入所前の生活環境について,中でも,被虐待経験 に着目した研究が多く見られる。堤ら(1996)は,被虐待 経験と不適応行動との関連を検討し,虐待のタイプにか かわらず,複合的な虐待を経験した子どもは,様々な不 適応行動の出現頻度が有意に多いこと,いずれか1 つの 虐待を経験した子どもは,その虐待のタイプによって, 見られる不適応行動が異なることを示した。その他,虐 待の種別ごとで見られる心理・行動適応について言及し た研究も多数見られる。しかし,虐待の種別ごとの検討 に関して,先行研究では,研究者の長年の経験から培わ れた知見や事例を通しての知見であるものも多く,それ 自体,意義深いものではあるが,より客観的な指標を用 いて実証的に検討する必要もあると考えられる。また, 坪井(2005)は,今後の課題として,虐待の内容だけでは なく,虐待の程度や重複などの問題を考慮する必要性を 挙げている。したがって,本研究においては,被虐待経 験の有無だけではなく,種別ごとの検討や重複について の検討を実証的に行うことが重要であると考えられる。 一方,現在の生活状況について,先行研究では,施設 内暴力などの問題に焦点を当てた研究が多くなされてい る。そもそも,田嶌(2011)は,子どもたちに必要な養育 の基礎は「安心・安全」であり,「安心・安全な生活の実 現」は,最優先に取り組まれるべき課題であるとしてい る。そこで注目されたのが,児童養護施設内での暴力問 題である。児童養護施設入所児童にとって,「安心・安全」 であることが心のケアや問題行動の解決,健全な成長に は必要であり,その安心・安全を確保するためには,暴 力問題などをはじめとした実際に子どもたちの間で起こ っている現在の生活状況を見直す必要があると考えられ る。ここで,なぜ現在の生活状況を考慮する必要がある のかについて,田嶌(2011)は,児童養護施設入所児童の 様々な問題行動や気になる兆候は,子ども間暴力などの その子が現在置かれている状況への反応である可能性に ついて言及している。つまり,児童の心理・行動適応が, 児童養護施設入所前の生活状況だけではなく,現在の生 活状況に反応して起こるという視点を持つことは重要で あると言える。よって,本研究では,現在の生活状況に ついて,子ども間での被害経験に焦点を当てることが重 要であると考えられる。 以上より,本研究では,児童養護施設入所前および現 在の生活状況が児童の心理・行動適応に及ぼす影響につ いて検討することを目的とする。その際,入所前の生活 状況として被虐待経験,現在の生活状況として子ども間 での被害経験に焦点を当てて検討する。なお,児童の心 理・行動適応に関して,児童自身から見た心理適応に加 え,施設職員から見た児童の特徴を明らかにする。 Ⅱ.方法 調査対象:A 児童養護施設に入所中の 7 歳~18 歳の児童 23 名(男児 13 名,女児 10 名,平均年齢 12.35 歳,SD = 2.92)。対象児童の担当職員に調査を依頼した。 A 児童養護施設について,設置形態は小規模グループ ケアであり,地域小規模児童養護施設を併設している。 調査時期:X 年 9 月中旬~11 月(②・④は 6 月~7 月) 調査手続き:質問紙調査法および半構造化面接法

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2 調査内容:質問紙の構成および内容はTable.1 に表記 倫理的配慮:事前にA 児童養護施設の施設長および主事 に対して研究の説明文書を提示しながら十分な説明を実 施した上で,承諾を得た。なお,本研究は,調査後にフ ォローアップを行う予定である。 Ⅲ.結果と考察 1.尺度の検討 1-1.横断的症状尺度の検討 横断的症状尺度について,「精神病症状」や「反復思考 と行動」に該当する児童はいないことが示されたため, これ以降の分析では除外することとした。さらに,「不安」 に関する項目について,3 つの質問項目で構成されてい たため,「不安」項目としての内的一貫性を検討した。信 頼性分析を行ったところ,α= .90 と十分な信頼性が確認 されたため,3 つの質問項目の平均値を以って「不安」 の項目とした。以上より,本研究では,「自傷」,「身体症 状」,「怒り」,「躁状態」,「不安」に関する計5 項目が抽 出された(Table.3)。 1-2.DSRS-C の検討 因子構造と信頼性を確認した。佐藤・新井(2003)によ って先行研究の概観を通して報告された1 因子モデル,2 因子モデル,3 因子モデル,4 因子モデルについて,それ ぞれ信頼性分析を行った結果,α係数が最も高かったの は,1 因子モデルであり,1 項目を除いてα= .73 と,十 分な信頼性が確認された(Table.4)。よって,本研究では, DSRS-C を 1 因子構造として採用することとした。しか しながら,因子構造の妥当性については,今後対象児童 を増やすなどして検討していく必要がある。 1-3.Vineland-Ⅱの検討 Vineland-Ⅱにおける年齢帯ごとの換算表に従い,適応 行動に関して,対象児童ごとに,まず「対人関係」,「遊 びと余暇」,「コーピングスキル」の下位領域得点を算出 した。次に「社会性」の領域得点を算出した。不適応行 動に関しては,「内在化問題」,「外在化問題」の下位尺度 得点と「不適応行動」の尺度得点を算出した。これ以降 の分析は,それぞれ算出された得点を用いて行う。 2.入所前の生活状況が心理・行動適応に及ぼす影響 2-1.被虐待経験の有無が心理・行動適応に及ぼす影響 被虐待経験の有無を独立変数,横断的症状尺度, DSRS-C,Vineland-Ⅱの下位尺度得点を従属変数とする 対応なしのt検定(両側検定)を虐待種別ごとに行った。 その結果,ネグレクトされた経験がある児童は,自傷 や抑うつの得点が有意に高いこと(自傷…t(14) = 2.32,p < .05,抑うつ…t(21) = 2.32,p < .05),対人関係得点が 有意に低いこと(t(21) = 3.26,p < .01)が示された (Figure.1~Figure.3)。 被身体的虐待,被心理的虐待の経験においては,どの 心理・行動適応についても有意な差は見られなかった。 Table.1 質問紙の構成および内容 ①児童票 年齢,性別,虐待の有無と種別(身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト), 家族構成(離婚歴,きょうだいの有無),養育者の精神疾患や知的障害の有無, 生活保護の有無,乳児院歴,過去5年間のうちに取った知能検査のIQ ②被害感尺度 「暴力」,「暴言」,「物盗り」,「物の勝手な使用」,「使い走り」,「仲間はずれ」, 「脅し」,「強制」の計8項目を独自で作成した(Table.2)。3件法。 担当職員が個別で対象児童に各質問項目を聞き取る形で回答を求めた。 ③横断的症状尺度 「精神病症状」,「反復思考と行動」,「身体症状」,「怒り」,「躁状態」,「不安」 に関する計12項目。5件法。+Vineland-Ⅱの「自傷」に関する1項目。3件法。 ④バールソン自己記入式抑うつ評価尺度(以下,DSRS-C) 村田ら(1996)を用いた。倫理的配慮から,2項目を除き,全16項目。3件法。 担当職員が個別で対象児童に各質問項目を聞き取る形で回答を求めた。 ⑤日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度(以下,Vineland-Ⅱ) 適応行動尺度のうち,「社会性」領域に焦点化。 その下位領域である「対人関係」,「遊びと余暇」,「コーピングスキル」から, Vineland-Ⅱの実施方法に従って回答を求めた。4件法。 不適応行動尺度のうち,「内在化問題」,「外在化問題」,「その他」。3件法。 暴言 1.A児童養護施設のなかまから,蹴ったり叩いたりされたことがありますか? 暴力 2.A児童養護施設のなかまから,乱暴なことばを言われたことがありますか? 物盗り 3.A児童養護施設のなかまから,自分の物をとられたことがありますか? 物の勝手な使用 4.A児童養護施設のなかまから,自分の物を勝手に使われたことがありますか? 使い走り 5.A児童養護施設のなかまから,使い走りに行かされたことがありますか? 仲間はずれ 6.A児童養護施設で,なかまはずれにされたことがありますか? 脅し 7.A児童養護施設のなかまから,脅されたり,怖い思いをさせられたことがありますか? 強制 8.A児童養護施設のなかまから,無理矢理なにかをさせられたことがありますか? Table.2 被害感尺度の質問項目 自傷 7.自分を傷つけるような行動をしていましたか?   (例えば,頭をぶつける,自分を叩く,噛む,皮膚をかきむしる,など)* 身体症状 8.健康や病気になる心配について話していましたか? 怒り 9.普段に比べて,いらいらしていたり悩まされているように見えましたか? 躁状態 10.普段に比べ,睡眠時間が短くなっているものの,まだ十分元気に見えますか? 11.くよくよしている,不安を感じている,または怯えていると言っていましたか? 12.物事を心配せずにはいられなくなっている様子ですか? 13.本当はしたいことやすべきことが,自分をいらいらさせるので,やれなくなっていると言っていまし    たか?  ※*はVineland-Ⅱに含まれる自傷に関する項目を示す。 不安 (α = .90) Table.3 横断的症状尺度の質問項目および信頼性分析の結果 Table.4 DSRS-Cの信頼性分析の結果 DSRS-C (α = .73) 1.楽しみにしていることがたくさんありましたか? 2.とてもよく眠れていたでしょうか? 3.いつも泣きたいような気がしていましたか?(R) 4.遊びに出かけるのは好きでしたか? 5.逃げ出したいような気になりましたか?(R) 6.おなかが痛くなることがよくありましたか?(R) 7.元気いっぱいでしたか? 8.食事が楽しかったでしょうか? 9.もし,いじめられても自分で「やめて!」と言えたでしょうか? 10.やろうと思ったことが,うまくできましたか? 11.いつものように何をしても楽しかったですか? 12.怖い夢を見ましたか?(R) 13.ひとりぼっちのような気がしましたか?(R) 14.もし落ち込んでいても,すぐに元気になれたでしょうか? 15.とても悲しい気持ちになりましたか?(R)   ※(R)は逆転項目を示す。

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3 このことから,児童の心理・行動適応にはネグレクト による影響が大きいことが示唆された。ネグレクトは, 親からの関わりの拒否や怠慢という点で,他の虐待と違 いが見られる(森田,2007)。ネグレクトされた経験があ る児童は,それまでの不適切な養育環境ゆえに,親から 十分に受容された経験が乏しく,情緒的な関わりも失わ れているため,自己コントロールの難しさ(梶山,2000) や対人関係の希薄さ(堤ら,1996)が窺われ,それが自傷 や抑うつ,上手な対人関係の築けなさに繋がっているも のと考えられる。ネグレクトされた経験が,他者への関 心の乏しさや対人関係の希薄さといった側面での難しさ に影響を及ぼすということは,注目すべき結果であると 考えられる。森田(2007)は,ネグレクトされた経験があ る児童が,早いうちに彼らに興味を示し,関わりをもと うとする対象に出会えることは,重要な要素になると述 べている。言い換えれば,関わり手は,ネグレクトされ た経験がある児童に対して,興味を持って関わろうとす る態度をもつことが支援として有効であると言えよう。 また,こういった関わりは,ネグレクトされた経験があ る児童に対してだけではなく,普段から集団生活を余儀 なくされ,自分1 人のためだけに関わってもらえる時間 が現実的に確保されにくい児童養護施設に入所する全て の児童に対しても有効であると考えられる。 2-2.被虐待経験の重複が心理・行動適応に及ぼす影響 被虐待経験として,身体的虐待・心理的虐待・ネグレ クトのいずれも経験がない児童を『無』群,いずれか 1 つある児童を『1 つ』群,いずれか 2 つある児童を『2 つ』群,3 つとも経験がある児童を『3 つ』群と群分けし た。その上で,被虐待経験の重複を独立変数,横断的症 状尺度,DSRS-C,Vineland-Ⅱの下位尺度得点を従属変 数とする被験者間1 要因分散分析を行った。 その結果,「不安」について,主効果が有意であった (F(3,19) = 4.14,p < .05)。Bonferroni 法による多重比較 を行ったところ,3 つともの被虐待経験がある児童は, いずれか1 つの被虐待経験がある児童と比較して,不安 の得点が有意に高いことが示された(p < .05)(Figure.4)。 その他の心理・行動適応については,有意な差は見 られなかった。 このことから,より複数の虐待を経験することが, 児童の心理・行動適応に影響を及ぼす可能性が示唆さ れた。しかし,一方で,児童の心理・行動適応への影 響を被虐待経験のみで捉えることの限界も窺われ,そ の他の視点で心理・行動適応を捉える必要もあると考 えられる。 3.現在の生活状況が心理・行動適応に及ぼす影響 3-1.子ども間の被害経験の有無が心理・行動適応に及ぼす影響 被害感尺度を構成する全8 項目について,項目ごとに, 「2:たくさんある」または「1:少しある」を回答した 児童を,その項目の『有』群,「0:ない」を回答した児 童を『無』群と群分けした。その後,『有』群に5 名以上 いる項目(N ≧5)を抽出したところ,「暴力」,「暴言」,「物 盗り」,「使い走り」の計4 項目が抽出された。そこで, 上記4 項目の被害経験の有無を独立変数,横断的症状尺 度,DSRS-C,Vineland-Ⅱの下位尺度得点を従属変数と する対応なしのt検定(両側検定)を項目ごとに行った。 その結果,心理適応に関して,「躁状態」について,被 暴力経験および被暴言経験がある児童は,躁状態得点が 有意に低いことが示された(暴力:t(17) = 2.93,p < .01, 暴言:t(15.44) = 2.29,p < .05) (Figure.5)。 また,行動適応に関して,「遊びと余暇」と「社会性」 について,被暴力経験および被暴言経験がある児童は, 遊びと余暇得点と社会性得点が有意に低いことが示され た(遊びと余暇…暴力:t(21) = 3.04,p < .01,暴言:t(21) = 3.41,p < .01,社会性…暴力:t(21) = 2.60,p < .05, 暴言:t(21) = 2.47,p < .05) (Figure.6~Figure.7)。

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4 このことから,躁状態得点の低さを元気のなさと捉え た場合,元気のなさや他者と上手に遊ぶことの難しさ, 社会性の低さの背景には,子ども間暴力や暴言の問題が 潜んでいる可能性が示唆された。他者から暴力や暴言を 受けることは,児童の安心・安全を脅かすものであり, 暴力を振るったり,それに耐え抜いたりすることには, 壮大なエネルギーが費やされる(田嶌,2011)。また,子 ども間暴力の性質について,暴力や暴言は,年上から年 下,より強い子どもから弱い子どもに対して行われると の指摘もある(杉山,2007;酒井ら,2011 など)。よって, 日頃暴力や暴言を受ける児童は,支配―被支配関係の中 で,いつも不公平な立場に不本意ながら身を置かされて しまっていると推察される。そのことが,児童の元気の なさや他者とルールを共有して上手に遊ぶことの難しさ, 社会性の成長の妨げに繋がっているものと考えられる。 あるいは,子ども自身の社会性の低さが他者からの暴 力や暴言を引き出してしまっている可能性もある。厚生 労働省(2015)によれば,児童養護施設入所児童のうち, 約3 割が発達障がいなどの何らかの障がいをもち,また, 診断・判定はないものの特別な配慮が不可欠な児童も多 数存在する(横谷,2012)と報告されている。また,星野 (2009)や西澤(2009)は,不適切な養育環境に育った児童 は,無意識のうちに挑発的な言動をなし,そういった児 童の言動への反応として,他者からの暴力を引き出して しまうことや周囲が示す受容性や非暴力性が「本物」で あるかどうか試そうとして問題行動を続発させることも 起こると述べている。被害児童の中には,個人のもつ特 性から,意図せず他者からの攻撃性を引き出してしまう 場合もあることから,個人の特性について,詳細なアセ スメントを行うことが重要であると考えられる。 さらに,「内在化問題」と「外在化問題」,「不適応行動」 について,被暴言経験がある児童は,それらの得点が有 意に高いことが示された(内在化問題…t(21) = 2.54,p < .05,外在化問題…t(21) = 2.19,p < .05,不適応行動… t(21) = 2.75,p < .05) (Figure.8)。 このことから,児童養護施設入所児童の不適応行動に は,他児から暴言を受けることが大きく影響しているこ とが示唆された。暴言は,暴力に対して,叩く・蹴るな どの人目を引くインパクトがあるわけではなく,被害も 視覚的に分かりやすい怪我や痣などがないため,一見見 過ごされたり,軽視されたりしてしまいがちであるが, 児童に与える心理的ダメージは暴力よりも強いことが示 され,たとえ,からかいなどであってもきちんと止める ことが必要であると考えられた。 Ⅳ.総合考察と今後の課題 本研究の目的は,児童養護施設入所児童を対象に,入 所前の生活状況として被虐待経験を,現在の生活状況と して子ども間での被害経験を取り上げ,それらが児童の 心理・行動適応に及ぼす影響を検討することであった。 その結果,児童養護施設入所前の生活環境については, ネグレクトされた経験が,自傷や抑うつ,上手な対人関 係の築けなさに影響を及ぼしていることが示唆された。 ネグレクトされた経験がある児童に対する支援として, 例えば,児が関心のあるものに支援者も関心を持ったり, 児が起こした適切な行動に即時的に肯定的な声掛けを行 ったりする関わりは大変重要であると考えられる。また, 被虐待経験が重複してある児童は,被虐待経験が1 つあ る児童と比較して不安感を抱きやすいことが示唆された。 一方,現在の生活状況については,暴言や暴力を受け た経験が,児童の元気のなさや他児との遊べなさ,社会 性の低さに影響を及ぼしていること,または,自身の社 会性の低さが,他児からの暴言や暴力を意図せず引き出 してしまっていることが示唆された。加えて,暴言を受 ける経験は,様々な不適応行動を招く可能性が示唆され た。児童養護施設入所児童の心理・行動適応を促すため には,安心・安全の確保が重要であり,そのためには, 暴力などの問題の解決が必要不可欠であると考えられる。 以上より,児童養護施設入所児童の心理・行動適応を 理解するためには,入所前および現在の生活状況の両側 面から総合して捉える必要があると考えられる。 今後は,複数の児童養護施設への調査依頼も考慮した 対象児童数の拡大,入所児童自身への調査依頼,職員間 の捉えのズレの検討の3 点が課題として残された。 Ⅴ.主要引用文献 森田喜治(2007). 児童の虐待 III:ネグレクト虐待を中 心として 龍谷大學論集 469, A12-A29 田嶌誠一(2011). 児童福祉施設における暴力問題の理解 と対応 続・現実に介入しつつ心に関わる 金剛出版

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