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学習場面における随伴経験尺度の開発

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学習場面における随伴経験尺度の開発

著者 豊田 弘司, ?邊 友里, 浦 瑞帆

雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

巻 22

ページ 27‑33

発行年 2013‑03‑31

その他のタイトル Development of Scales for Experience of Contingency in Learning Situation

URL http://hdl.handle.net/10105/9297

(2)

1.はじめに

日常生活において自分の努力がそれに見合うだけの 成果につながる場合と、つながらない場合がある。自 分の行動にそれに見合うだけの結果が伴う経験は随 伴経験、伴わない経験は非随伴経験と呼ばれている

(牧・関口・山田・根建, 2003; 豊田, 2006; 豊田・島津,

2006)。そして、この行動と成果の随伴性は、人間の 意欲や自信を規定する重要な要因である。牧ら(2003)

は、中学生を対象として、対人関係における随伴経験 と非随伴経験を測定する尺度を開発し、これらの経験 が自己効力感と関連していることを明らかにしてい る。また、豊田(2006)は、大学生においても、対人 関係における随伴経験が自己効力感だけでなく、自尊 感情にも関連することを示している。これらの研究は、

対人関係における随伴経験を検討したものであるが、

随伴経験は学習場面においても存在する。例えば、あ る学習法が成績向上につながる経験は学習場面におけ る随伴経験といえる。学校教育において、学習活動は 重要であり、それ故、学習場面における随伴経験量は 学習意欲にも大きく貢献すると考えられる。したがっ て、学習場面における随伴経験量を測定する尺度を作 成することは意義がある。そこで、本研究の第1の目 的は、学習場面における随伴経験を測定する尺度を開 発することである。

豊田・島津(2006)は、対人関係における随伴経験 量が、情動知能(Emotional Intelligence; EI)におけ る他者の情動の認識と理解(Perceiving and Under- standing emotion; PU)に関連していることを明らか にしている。対人関係において自分の他人への関わり が良い結果を生んだ経験は、他者との関わる意欲や機 会を増大させ、その結果、EIにおけるPUの能力を伸 豊田弘司

(奈良教育大学 学校教育講座(教育心理学))

濵邊友里

(奈良教育大学 教育学研究科修了)

浦 瑞帆

(奈良市立並松小学校)

Development of Scales for Experience of Contingency in Learning Situation Hiroshi TOYOTA

(Department of Psychology, Nara University of Education)

Yuri HAMABE

(Graduated at Master Course of School Education, Nara University of Education)

Mizuho URA

(Namimatsu Elementary School, Nara)

要旨:学習場面における随伴経験の尺度を開発し、情動知能及び自己肯定意識との関係を検討した。研究Ⅰでは、対 人関係における随伴経験の尺度である主観的随伴経験(牧ら, 2003)を参考にして、学習活動における随伴経験尺度 を作成し、その信頼性及び妥当性を検討した。因子分析を行い、2因子が抽出され、因子ごとの内的一貫性があり、

信頼性が示された。また、主観的随伴経験尺度との正の相関も認められ、妥当性も示された。研究Ⅱでは、研究Ⅰで 開発された随伴経験尺度によって測定された随伴経験量と情動知能(Toyota et al., 2007)の関係を検討し、情動の 表現と命名及び情動の制御と調節との関連が示された。さらに、研究Ⅲでは、随伴経験量と自己肯定意識との関係が 検討され、随伴経験量は自己肯定意識と正の相関を持つことが認められた。これらの結果は、学習場面における随伴 経験量が適応に関連している可能性を示唆した。

キーワード: 学習場面 learning situation、随伴経験 experience of contingency、情動知能 emotional intelligence

(3)

ばすことは十分に考えられる。しかし、対人関係場面 でなくても、これまでの学校生活において中心的場面 である学習場面についても同じことがいえよう。すな わち、自分の勉強に関する努力が成果(よい成績)に 結びつけば、他者に対しても積極的になるし、自分の 意見や意志を表現できるようになる。また、時には、

自分の感情をコントロールすることもできる。という のは、随伴経験が多いことによって、今の状況がいず れは改善され、よい結果につながるという確信がもて るからである。したがって、学習場面における随伴 経験量は、EIの向上に貢献するのかもしれない。ま た、EIには、情動をうまく統制する能力や情動をう まく利用する能力が含まれ、それらが学習の効率を規 定することが指摘されている。もし、学習における随 伴経験が情動処理能力に貢献しているのであれば、随 伴経験とEIの間に正の相関があるであろう。特に、

学習場面において自分の情動を制御・調節する能力

(Managing and Regulating emotion; MR)は重要で あるので、MRとの正の相関は予想できる。そこで、

本研究の第2の目的は、学習場面における随伴経験量 とEIの関係を検討することである。

ところで、牧ら(2003)や豊田(2006) は、適応の 指標として自尊感情や自己効力感を取り上げ、随伴経 験との関係を検討してきた。自尊感情とは、自分の能 力や価値に関する評価的な感情や感覚であり(山本・

松井・山成,1982)、自己効力感とは、ある結果を生 み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことが できるかという個人の確信(坂野・東條,1993)であ る。そして、自尊感情と自己効力感の背景には、自分 に対する肯定的なイメージが存在する。このイメージ は、Rogers(1951)が指摘している自己受容と近い ものであり、肯定的で、健康な自己意識である。

加藤(1977)は、青年期の自己意識に関する検討を 行い、自己受容-自己批判、自己の開放-閉鎖、及び 自己の独立-依存という次元で自己意識をとらえてい る。また、平石(1990a)は、健康-不健康、及び対 自己-対他者次元の組合せから尺度を構成し、その主 成分分析から、自己意識の多様性を指摘した。それと ともに、「健康な自己の確立」を示すものとして解釈 される自己確立感と、「健康な自己の確立」に失敗し、

自己が混乱、拡散した状態と解釈されている自己拡散 感を見いだしている。さらに、平石(1990b)は、青 年期における自己意識の発達を自己肯定性次元と自己 安定性次元に分けて検討し、自己肯定次元性を対自己 領域と対他者領域の二つに分けている。これらの研究 からすると、自己意識が多様であり、青年期における 適応にとって重要であることがわかる。

では、自己意識を規定する要因は何であろうか。

平石(1993)は、それが認知的発達及び社会的文脈 という2つの要因であると指摘する。認知的発達に

関しては、青年期前期から中期にかけて抽象化能力が 発達し、それに伴って認知されている自己は多元的に 分化する。そして、対立する自己の属性のために葛藤 を経験する。また、青年期中期においては、理想と現 実のずれが最大化することによって葛藤や混乱が生じ る。したがって、認知的発達に伴うこれらの葛藤の経 験が自己肯定意識を成長させる(Harter & Monsour, 1990)。一方、社会的文脈に関しては、Rosenberg(1979, 1986)が、青年期における認知された自己は、外面的 なものから内面的なものへと移行することを指摘し た。Harter & Monsour(1990)は、このような内省 力の高まりが自意識を高めるとともに他者からのまな ざしに対する感受性を高めると主張する。感受性が高 まれば、過去に培われた役割やスキルと理想的な規範 との結びつきに対する疑問を喚起させる結果となる。

したがって、社会的文脈によって生じる内省力の高ま りとそれに伴う他者への感受性が、自己肯定意識を成 長させることになる。特に、平石(1990b)による自 己肯定意識尺度の「被評価意識・対人的緊張」は、こ の他者からのまなざしに対する意識の高まりを表す尺 度である。

ただし、自己意識は、対人的な場面において自分と 他者と関係から自分を評価するものであるため、上記 の認知的発達による説明は、第二の要因である社会的 文脈の要因と独立させることはできない。すなわち、

自己意識は他者との関わりと切り離して考えることは できない。大学生においては、学業はもちろんのこと、

学業以外の生活が広がり、高校生までとは異なった環 境におかれることになる。また、成人として扱われる ようになり、アルバイトなどの職業的活動を通して学 校以外の社会的経験を積み重ねていく。青年期後期の 大学生は多くの時間を様々な他者と過ごし、その中で 様々な感情を抱いている。対人場面での経験は、相手 の反応が直接、即座にフィードバックされる状況であ り、その反応性の高さから、随伴経験及び非随伴経験 を敏感にとらえ、それらの経験が自己意識を規定する 可能性が高いと考えられる。そこで、本研究の第3の 目的は、学習場面における随伴経験と自己意識の関係 を検討する。ただし、平石(1990b)は、自己安定性 と区分して、自己肯定性次元に関する尺度を自己肯定 意識尺度として開発しているので、本研究では、この 自己肯定性(自己肯定意識)に注目し、この尺度を用 いて、自己肯定意識と学習場面における随伴経験との 関係を検討する。

2.予備調査 2.1.目的

学習場面における随伴経験尺度を作成するために、

自由記述による予備調査を行った。

(4)

2.2.方法

2.2.1.調査参加者

大学生143名(男子63、女子80)であり、平均年齢 は18歳7か月であった。これらの調査対象者は後述す る本調査の調査対象者とは異なっていた。

2.2.2.調査手続き

調査は第1著者の授業終了後に、集団的に行われた。

「これまでの経験の中で勉強に関係した努力や工夫が 成果に結びついた経験がありませんか。例えば、勉強 方法を工夫したら、成績が伸びたり、勉強内容がよく わかったりした経験です。そのような経験を具体的に 書いてください。また、反対に、勉強に関係した努力 や工夫をしたのに、成果に結びつかなかった経験はあ りませんか。例えば、勉強方法を工夫したのに成績が 良くならなかったというような経験です。そのような 経験を具体的に書いてください。数に制限はありませ ん。いくつでも良いので、書いてください」という教 示を与え、約10分間、自由記述を求めた。

2.3.分析手続きと結果

自由記述の中から、意味内容が似ている記述を整理 して、学習場面における随伴経験と非随伴経験に該当 する記述を集計した。ただし、この予備調査は本調査 で用いる尺度の項目を作成することが目的であったの で、それぞれの記述の頻度よりも、記述の種類が重要 であった。それ故、頻度は少なくても、具体的な記述 であれば、それを採用することにした。そして、最終 的に、随伴経験に関する記述及び非随伴経験に関する 記述を17項目ずつ選出した。

3.研 究 Ⅰ 3.1.目的

予備調査で作成した学習場面における随伴経験尺度 の信頼性と妥当性を検討する。

3.2.方法

3.2.1.調査参加者

奈良教育大学の学生244名(男子108、女子136)で あり、平均年齢は18歳8か月であった。

3.2.2.調査内容

学習場面における随伴経験尺度 予備調査で収集し た随伴経験に該当する項目17項目及び非随伴経験に該 当する項目17項目を本調査で用いる尺度項目としてラ ンダムに配列し、4件法による回答(「全く経験した ことがない(1)」「あまり経験したことがない(2)「少 しは経験したことがある(3)」「よく経験したことが ある(4)」)を併せてA4判用紙に印刷した。

主観的随伴経験尺度 本研究で新たに開発する学習 場面における随伴経験尺度の妥当性を検討するため に、牧ら(2003)において開発され、豊田(2006)に おいて大学生にも適用されている尺度を用いた。この 尺度は、対人関係における随伴経験を調べる15項目

(例「友人の悩みを聞いてあげたら、感謝された」)

と非随伴経験を調べる15項目(例「自分は信用してい たのに、友人が自分を信用してくれなかった」)から なり、上述の尺度と同じく、回答は4件法である。

3.2.3.調査手続き

第1著者の授業終了後、2週にわたって、集団的に 調査が実施された。第1週に学習場面における随伴経 験尺度を調査し、第2週に対人関係における随伴経験 尺度を実施した。第1著者が調査者となって、各項目 を読み上げ、調査参加者は、項目ごとに4件法で回答 していった。両尺度ともに、約10分程度で全員が回答 を終えた。

3.3.結果と考察 3.3.1.尺度の信頼性

学習場面における随伴経験尺度の全34項目の評定値 について2因子を想定した直交バリマックス回転によ る因子分析を行った結果、両方の因子に因子負荷量の 高い項目が4項目、因子負荷量が.30以下の項目が4 項目あり、これらの項目は除いて、残り26項目を再度 因子分析を行った。その結果が、Table 1に示されて いる。項目をみれば明らかなように、第1因子は学習 場面における非随伴経験、第2因子は随伴経験と命名 した。それぞれの因子の内的一貫性を確認するために、

α係数を算出し、.84と.81という値が得られた。これ によって、信頼性が確認された。

3.3.2.尺度の妥当性

学習場面における随伴経験尺度の妥当性を検討する ために、主観的随伴経験尺度(牧ら, 2003)における 随伴経験尺度及び非随伴経験尺度との相関係数(r)

を算出した。ただし、本調査が2週にわたっているの で、2つの尺度をともに回答した調査参加者は220名 であった。学習場面における随伴経験尺度と主観的随 伴経験尺度との相関係数はr=.53であり、学習場面に おける非随伴経験尺度と主観的非随伴経験尺度との相 関係数はr=.47であった。これらの相関係数から、学 習場面における随伴経験尺度の妥当性が示唆された。

 以上の結果から、学習場面における随伴経験尺度

(随伴経験が13項目、非随伴経験が13項目)を新たに 開発することができたのである。

(5)

4.研 究 Ⅱ 4.1.目的

豊 田・ 島 津(2006) で は、 主 観 的 随 伴 経 験 量 が J-ESCQ(Toyota, Morita, & Takšić, 2007)における PUと関連することを明らかにしている。研究Ⅱで は、学習場面における随伴経験量及び非随伴経験量と J-ESCQで測定されるEIの水準との関係を検討する。

4.2.方法

4.2.1.調査参加者

奈良教育大学の学生90名(男子47名、女子43名)で あり、平均年齢は18歳6か月であった。

4.2.2.調査内容

学習場面における随伴経験尺度 研究1で作成され た尺度(随伴経験に該当する項目13項目及び非随伴経

験に該当する項目13項目)を本調査で用いる尺度項目 としてランダムに配列し、4件法による回答を併せて A4判用紙に印刷した。

J-ESCQ Toyota et al. (2007)によって作成された日 本語版の尺度である。EL (Expressing and Labeling emotion; 情動の表現と命名)、PU (情動の認識と理 解)、MR (情動の制御と調節)という3つの下位尺度 からなり、各下位尺度8項目ずつの全24項目で構成さ れている。回答は5件法(「いつもそうである(5)」「だ いたいそうである(4)」「時々そうである(3)」「めっ たにそうでない(2)」、「決してそうでない(1)」)で ある。

項目例は、「私は、自分の気持ちや感情を表すこ とばがすぐに浮かんでくる」「私は、自分が感じて いる複数の感情を一つひとつ言葉にすることができ る」「私は自分の感情をうまく表現できる」(以上、

EL)、「私は、知り合いに出会った時には、すぐにそ

項   目   F1  F2  M  SD 

   

第1因子 学習場面における非随伴経験(α=.84)

31)苦手な教科を勉強したが、理解できなかった

  .67  

 

-.17   2.71   .80   29)頑張って勉強したが、いい点がとれなかった .67   .07   2.65   .78   34)長時間勉強したが、成果が上がらなかった .65   -.02   2.32   .83   32)先生から教わった勉強法を試したが、うまくいかなかった .59   .06   2.30   .69   25)友人と勉強を教えあったが、分からないままだった  .51   -.03   2.22   .73   24)塾や予備校に行っても、点数が上がらなかった  .50   -.11   1.90   .86   16)勉強法を自分で工夫したが、成果がなかった  .50   -.16   2.29   .73     5)人に勉強を教えたが、分かってもらえなかった  .48   .10   2.48   .73   23)友人と競い合いながら勉強したが、負けてしまい、やる気がなくなった   .48   -.13   1.69   .75     7)苦しい思いをして勉強を続けたが、思うような結果が出なかった  .47   .02   2.64   .88   .47   .00   1.95   .81   .46   .13   2.14   .76     .43   .08   2.60   .74  

   

第2因子 学習場面における随伴経験(α=.81) 

    20)友人と競い合いながら勉強したら、点数が上がった 

  .04  

 

.66   2.96   .93       27)苦しくても勉強し続けたら、試験の点数が上がった  -.09   .60   3.18   .76       33)友人と励まし合って勉強したら、点数が上がった  .05   .59   2.71   .87       10)自主的に勉強していたら、ほめられた  .06   .57   2.94   .87         8)友人と同じ目標をもって頑張ったら、やる気が出た  .20   .56   2.81   1.05       22)勉強法を自分で工夫したら、点数が上がった  -.14   .56   3.00   .71       19)頑張って勉強したら、試験の点数が上がった  -.16   .56   3.54   .56       12)友人と勉強を教えあったら、点数が上がった  .02   .49   2.95   .90         1)頑張って勉強したら、試験の点数が上がった  -.11   .44  3.02   .76       28)自習室で勉強するようになったら、成績が上がった  .08   .38   2.96   .94         4)先生(友人)から教わった方法で勉強したら、点数が上がった  -.01   .38   3.01   .76         6)苦手な教科を勉強したら、点数が上がった  -.14   .36   3.12   .72       30)予習・復習をしたら、授業内容が理解できるようになった  .17   .34   2.97   .80  

寄与率 15.00    13.43 Table 1 学習場面における随伴経験尺度の因子構造

15)予習・復習をしたが、授業の内容が理解できなかった 

13)自分では努力したつもりだったが、先生や親から評価されなかった    2)勧められたテキストを試したが、効果がなかった

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の知り合いの気分がわかる」「私は友達の気分の変化 を見抜くことができる」「私は、誰かと一緒にいる時 の様子をみると、その人の感情を正確に見きわめられ る」(以上、PU)、「私は、誰かにほめられると、より 熱心に頑張るようになる」「私は、気分のよい時には、

なかなかその気分は沈まない」「私は、気分のよい時 には、どんな問題でも解決できるように思う」(以上、

MR)である。

4.2.3.調査手続き

研究Ⅰと同じく、第1著者の授業終了後、2週 にわたって、集団的に調査が実施された。第1週に 学習場面における随伴経験尺度を調査し、第2週に J-ESCQを実施した。実施方法は研究Ⅰと同じであった。

4.3.結果と考察

Table 2には、学習場面における随伴経験尺度の下 位尺度である随伴経験及び非随伴経験尺度に含まれる 項目の合計得点と、J-ESCQの下位尺度(EL、PU、

MR)及び合計点(EI合計)の相関係数(r)が示さ れている。随伴経験とEI合計及びEL、MRとの間に正 の有意な相関が認められる。したがって、学習場面に おける随伴経験量は、EIの水準に影響する可能性が 示唆された。

豊田・島津(2006)においては、対人関係における 随伴経験量がPUと正の相関を見いだしていた。この 結果は、対人関係において随伴経験量が多い人は、積 極的に人と関わることが多く、その結果として他者の 情動を理解するPUの能力を向上させることになると 解釈できる。一方、本研究では、学習場面における随 伴経験量を測定し、ELとMRとの間に有意な正の相関 を見いだした。この結果は、学習場面において随伴経 験がある人は、自分の情動を積極的にうまく表現でき、

かつ、学習活動において喚起される否定的な感情をう まくコントロールできる可能性を示唆しているといえ よう。

5.研 究 Ⅲ 5.1.目的

研究Ⅲでは、学習場面における随伴経験量及び非随 伴経験量と自己肯定意識との関係を検討する。

5.2.方法

5.2.1.調査参加者

奈良教育大学の学生159名であったが、2週にわたっ て調査を実施したために1週のみしか調査に参加しな い者がいた。それらの者を除外すると総調査参加者は 124名(男子61、女子63)であった。

5.2.2.調査内容

学習場面における随伴経験尺度 研究Ⅱと同じ尺度 を用いた。

自己肯定意識尺度 平石(1990b)が開発した尺度 を用いた。この尺度は対自己領域と対他者領域に二分 され、それぞれが3つの下位成分からなる。対自己領 域の下位成分は自己受容(項目例「自分なりの個性を 大切にしている」)、自己実現的態度(項目例「自分の 夢をかなえようと意欲に燃えている」)、充実感(項目 例「生活がすごく楽しいと感じる」)、対他者領域の下 位成分は自己閉鎖性・人間不信(項目例「他人との間 に壁を作っている」)自己表明・対人的積極性(項目 例「相手に気を配りながらも自分の言いたいことを言 うことができる」)、被評価意識・対人緊張(項目例

「人から何か言われないか,変な目で見られないかと 気にしている」)である。項目は全41項目であり、回 答法は5件法であった(「あてはまらない(1)」「どち らかといえばあてはまらない2)」「どちらともいえな い(3)」「どちらかといえばあてはまる(4)」「あては まる(5)」)。

5.2.3.調査手続き

研究Ⅰ及びⅡと同じく、第1著者の授業終了後、2 週にわたって、集団的に調査が実施された。第1週に 学習場面における随伴経験尺度を調査し、第2週に自 己肯定意識尺度を実施した。実施方法は研究Ⅰ及びⅡ と同じである。

5.3.結果と考察

Table 3には、学習場面における随伴経験の下位尺 度と、自己肯定意識の下位尺度間の相関係数(r)が 示されている。随伴経験に関しては、自己肯定意識の 被評価意識・対人緊張以外とは有意な相関が得られて いる。このことは、学習場面における随伴経験量が多 いことによって自己肯定意識が高まることを示唆して いる。豊田(2006)では、対人関係における随伴経験 量と自尊感情及び自己効力感の間に正の相関を見いだ した。また、豊田・島津(2006)は、同じく自尊感情 との間の正の相関、シャイネスとの間の負の相関を見 いだしている。これらの研究が示すことは、対人関係 における随伴経験は、個人の適応に関して促進的に機 能するということである。本研究では、学習場面にお ける随伴経験量が適応の指標である自己肯定意識に対

  随伴経験   非随伴経験 

EL   .34   -.04 

PU   .18   -.02 

MR   .40   -.16 

EI 合計   .41   -.09 

Table 2  尺度間の相関係数(  )r

(7)

して促進的に機能することが示された。したがって、

対人関係における随伴経験と学習場面における随伴経 験という質的な違いはあるが、自分の努力に対して成 果があるという経験は、個人の適応にとって重要な要 因であることが示されたのである。

ただし、被評価意識・対人的緊張尺度得点との間に は正の相関は見いだされなかった。この得点は、他者 からのまなざしを意識の高まりを表す尺度であるの で、随伴経験はそのような自意識を反映する他者への 感受性を高める要因ではないことがわかる。

6.総括的議論 6.1.随伴経験と適応

本研究では、学習場面における随伴経験尺度を新た に開発し、そこで測定された随伴経験量がEIや自己 肯定意識に貢献する可能性を示唆した。随伴経験を検 討した一連の研究(牧ら, 2003; 豊田, 2006; 豊田・島津, 2006)は、随伴経験と適応に関するいくつかの指標と の正の相関を明らかにしてきた。本研究においても新 たに、自己肯定意識という適応に関する指標との関係 があきらかになったのである。冒頭で述べたように、

最近の青年に関する意欲の低下が指摘されているが、

随伴経験は、この問題を解決するための方法における 指針となる。対人関係でも、学習活動においても、自 分の努力が成果につながれば、青年は意欲をもつよう になる。反対に、努力が成果につながらない状況が続 いていることが、青年の意欲を低下させ、Seligman, Abramson, Semme1 & vonBaeyer (1979) による学習 性無力感の状態をつくっているといえよう。したがっ て、青年の随伴経験量を増やすことが重要であるが、

それには、1つの問題がある。それは、多くの青年が

今没頭できる活動を意識できないという現状である。

Marcia (1966)は、自我同一性の達成を示す2つの 基準として、危機(クライシス)を経験したかどう か、及び人生の重要な領域(職業やイデオロギー的価 値観)に対して積極的関与(commitment)を行って いるかどうかをあげている。危機とは簡潔に言えば、

自分の生き方について本気で悩むこと、もしくはその 時期であり、積極的関与とは今没頭できる活動をもっ ているということである。積極的関与をしている青年 は、積極的関与している活動において非随伴経験をす ることもあるが、随伴経験もする。すなわち、積極的 関与がなければ、随伴経験は決して増加しないという ことである。しかし、危機を経験せずには積極的関与 はないので、危機を経験することも重要になる。もち ろん、危機を経験しないで積極的関与がある者(早期 完了)もいる。これらの者は、周りの大人(例えば、

親)が示した進路を抵抗なく受け入れる。それ故、彼 らが経験することは、それまでの自分が持っている信 念を増幅させるだけになっているので、同一性達成者 がする経験とは異質なものである。モラトリアム人間

(小此木, 1978) が注目されて久しいが、今、何かに 積極的に関与しようとして、危機を経験している青年 が没頭できる進路や活動を見いだすことが随伴経験を 増やす前提であるのかもしれない。

6.2.随伴経験と学習方略の自発的使用

本研究では、学習場面における随伴経験に注目し、

随伴経験が適応を促進する機能を示した。しかし、学 習場面における随伴経験には、もう一つ重要な機能が ある。それは、随伴経験をもたらした学習方略や活動 を自発的に使用するための動機づけを喚起する機能で ある。豊田・森本(2000, 2001)は、学業成績の上位 の児童が下位の児童より多くの学習方略を持ってい ることを明らかにしている。また、DeMarie, Miller, Ferron, & Cunningham (2004) は、学業成績の上位 者が学習方略が多く、その柔軟性も高いことを指摘し ている。それ故、学習方略を教えることが学力の向上 にとって効率的であるが、そこにはいくつかの問題が ある。その一つが、方略を教えられてもその有効性を 実感できないので、自発的に学習に使用しないことで ある。では、どうすれば、自発的使用につながるのか。

そこには、方略を使って成績がよくなるという経験 という随伴経験が必要なのである。Stein, Bransford, Franks, Owings, Vye, & McGraw (1982) は,小学5 年生の学業不振児に対して、自分の用いた方略(この 場合は精緻化方略)と記憶成績の関係を説明させると いう訓練を与えた。このような訓練の結果,不振児 の方略の使用率(適切精緻化の生成率)は,訓練前 が30%であったのが,訓練後には84%にまで増加し ていた。そして,それに対応して手がかり再生率も Table  3  随伴経験と自己肯定意識の相関係数(  )

随伴経験 非随伴経験

対自己  自己受容  自己実現的態度 

  充実感  他者意識 

自己閉鎖性・ 

人間不信  自己表明・ 

対人的積極性  被評価意識・ 

対人緊張 

M  SD  M  SD  M  SD        

M  SD  M  SD  M  SD 

15.48  2.91  25.52  5.28  29.56  5.93    18.21  6.26  22.69  5.58  21.48  5.68 

.17*

  .29**

  .32**

   

-.25**

  .35**

  -.05  

-.15  -.16  .07 

.14  -.09  .13 

*  <.05  **  <.01  自己肯定意識

下位尺度

M

SD 39.165.68

29.90 5.94

r

p p

(8)

40%から90%へと上昇したのであった。同様の訓練 はStein, Bransford, Franks, Vye & Perfetto(1982)

やFranks, Vye, Auble,Mezynski, Perfetto, Bransford, Stein & Littlefield(1982)においても行われている。

そして、これらの訓練には方略の使用によって記憶成 績が向上したという随伴経験が含まれているので、児 童が方略を自発的に使用するようになるのである。し たがって、方略の使用が成績の向上につながるという 経験をさせないで、教えるだけでは学習方略の指導上 意味がないのである。

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参照

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