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偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果

著者 豊田 弘司, 中田 琴恵

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 45

号 1

ページ 123‑132

発行年 1996‑11‑25

その他のタイトル Effects of the Causal and the Outcome

Informations on Incidental Memory

URL http://hdl.handle.net/10105/1579

(2)

奈良教育大学紀要 第45巻第1号(人文・社会)平成8年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol.45, No. 1 (Cult.&Soc.), 1996

偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果

豊 田 弘 司・中 田 琴 恵*

(奈良教育大学心理学教室) (平成8年4月8日受理)

Bradshow & Anderson (1982)は記銘文に原因文を対呈示する群(原因群)、結果文を対呈 示する群(結果群)、無関連な情報を対呈示する群(無関連群)、記銘文を単独で対呈示する群

(単独群)を設定し記銘文の意図記憶成績を比較した。その結果、原因群と結果群が最も成績が 良く次いで単独群、そして最も成績が悪かったのが無関連群であった。記銘情報に意味的に関連 性の高い情報が付加されることによって記憶成績が促進されることは多くの研究で兄いだされて いるが(Stein, Morris, & Bransford, 1978;豊田, 1984, 1992)、この研究でも記銘文に意味的関 連のある情報を対呈示する条件(原因群及び結果群)が無関連な情報を対呈示する条件(無関連 料)よりも記憶成績を促進するという結果が追証されたのである。しかし、この研究で興味深い

のは、結果群が原因群よりもいくぶん成績が良かったという結果である。この結果については彼 らは積極的に考察せず、結果情報の方が原因情報よりも記銘文との関連性が高いことによる可能 性を示唆しているだけである。ただし、記銘文と原因文及び結果文の関連性に関する評定値は、

この可能性を支持する結果を得ていない。

そこで、本研究では原因情報と結果情報の効果を再度比較することにした。というのは、原因 情報も結果情報も記銘情報に関連しているが、原因情報は記銘情報よりも時間系列上で先行し、

結果情報は記銘情報の後に続くという明確な違いがある。それ故、もし、この両者の有効性に違 いがあれば、情報の有効性を考慮する際の視点として、新たに時間系列という要因を加えること になるからである。さらに、彼らの実験には、原因情報と結果情報の効果を比較する目的からす ると、方法論上の2つの問題点があった。まず第1の問題点は、記銘文として用いたのが、歴史 上の有名な人物のエピソードに関するものであり、原因文も結果文も被験者が推測するのが難し いものであったということである。したがって、被験者自身が原因や結果としてこれらの文を符 号化できていたかは疑問である。第2の問題点としては、この実験は意図記憶事態であるので、

被験者独自の記憶方略が記憶成績に反映される可能性が高いということである。純粋に記銘文に 付加される情報としての原因文や結畢文の効果を比較するのであれば、記憶方略の個人差が反映 されにくい偶発記憶手続を用いるのが適切であろう。

したがって、本研究の第1の目的は上述した2つの問題点を考慮し、記銘文に付加された原因 情報と結果情報が記憶に及ぼす効果を検討することである。第1の問題点については、記銘文、

原因文及び結果文を日常的な事象に関する内容に変え、被験者自身が原因文を原因情報として、

* 現所属は、京都府舞鶴市立池内小学校

123

(3)

il刻 豊 田 弘 司・中 田 琴 恵

結果文を結果情報として符号化できるようにした。第2の点については、上述したように意図記 憶手続きではなく、偶発記憶手続きを採用した。

さらに、本研究では、原因文と結果文の記銘文に対する適切性(記銘文の示す内容に対して原 因もしくは結果として認められる程度)の効果を検討することにした。それは、被験者が原因情 報や結果情報を対呈示されたとしても、それが適切でない場合には記銘文の記憶成績を高める可 能性は少ないと考えたからである Bradshow & Anderson (1982)では、原因文や結果文の 適切性までは検討していなかった。そこで、本研究の第2の目的は、原因情報もしくは結果情報 として適切な文と不適切な文を設け、偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の適切性の効果を検 討することである。

実 験 1

日  的

記銘文に対して対呈示される文の型(原因、結果)を被験者内要因として、偶発記憶に及ぼす 原因情報と結果情報の効果を検討する。

方  法

実験計画 2 (対呈示文型;原因、結果) × 2 (適切性;適切、不適切)の要因計画が用い られた。両要因ともに被験者内要因である。

被験者 被験者は専門学校の学生20名(男子9名女子11名)であり、平均年齢は20歳0 か月(18歳7か月〜23歳4か月)であった。

材  料 a)記銘文 記銘文は、小柳ら(1960)の日本語3音節名詞の熟知価表から熟知度 の高い3音節名詞(4.00‑4.99)と賀集ら(1958)の3音節動詞の連想価表から使用頻度の高い 動詞(2.75‑13.49)が選ばれ、第2著者によって意味の通るように組み合わせて作られた0 3 音節名詞は主語あるいは目的語として使用され、動詞はすべて過去形に統一された。

b)対呈示文 記銘文に対呈示される原因および結果文の適切文として用いた文は、大学生 15名による予備実験の結果から選択した。この予備実験では、大学生に記銘文を1文ずつ呈示 し、その記銘文が示す事象の原因もしくは結果を記入してもらうものであった。そして、原因も しくは結果として大学生が記入した頻度の高いものを選んだ。さらに、それらの文を心理学専攻 の大学院生及び学部学生7名に原因もしくは結果として適切である程度を5段階で評定しても らった。その適切性の平均評定値が4.5以上の文を採用した。一方、不適切文については、予備 調査の結果を参考にして記銘文として適切でない文を実験者が作成した。このようにして、要因 計画に対応して、原因・適切文、原因・不適切文、結果・適切文及び結果・不適切文という4つ の対呈示文がつくられた。これらの文の例は、対応する記銘文とともに表1に示されている。

表1 本研究で用いられた記銘文と対応する対呈示文の例

記 銘 文      対呈示文型   適切性        対呈示 文

明りをっけました。    原  因     適     その原因は、暗かったからです。

不適     その原因は、浅かったからです。

結  果     適     その結果、明るくなりました。

不通     その結果、浅くなりました。

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偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果 125

C)評定リスト 方向づけ課題では、記銘文と対呈示文の関連性を評定させるのであるが、そ のための評定リストが作成された。このリストは記銘文30文及び対呈示文30文から構成されて おり、記銘文のうちの6文は分析に入れないバッファー文、対呈示文のうちの6文も同じくバッ ファー対呈示文としてリストの最初と最後に3文ずつ配置された。これらの記銘文と対呈示文が

1ページに1文ずつ呈示され、表紙をつけた30ページからなるB6判の小冊子にされたO要因 計画に対応して、上述したように4つの対呈示文ができるので、小冊子は4つの文型をカウン ターバランスするように組み合わせて4種類が作成された。そして、各文型に割り当てられる記 銘文は6文ずっということになる。小冊子の各ページの上部には記銘文が大きく印刷され、その

下に対呈示文が記銘文よりもやや小さく印刷され、さらにその下に記銘文と対呈示文の関連性を 評定するための5段階評定尺度に対応する1から5までの数字が印刷されていた。

d)挿入課題用紙 方向づけ課題と自由再生テストの間に挿入課題を行うが、そのための用紙 が用意された。この用紙はB4判の大きさで、有意味なひらがな文字列と無意味なひらがな文字 列が印刷されているものであった。

e)自由再生テスト用紙 挿入課題終了後、書記自由再生テストを行うが、そのための自由再 生テスト用紙はA4判であり、上部に氏名を記入する欄が設けてあった。

f)手がかり再生テスト用紙 自由再生テスト後に行う手がかり再生テストのための用紙は A4判の大きさで記銘文30文すべてが横書きで1文ずつ印刷されていた。各文は主語、目的語、

述部のいずれかしか書かれておらず、他の部分は被験者が再生された残りの文を記入するための 空欄( )に置き換えられていた。

手  続 実験は、偶発学習実験の手続を用いて被験者の所属する看護学校の一室で集団的に 実施された。

1 )方向づけ課題 上述した小冊子を配布し、小冊子の表紙に記載された課題に関する記述を 読み上げ、黒板に記入例を示した模造紙を掲示し、それを使って課題の仕方を説明した。被験者 全員が課題の仕方を理解したことを確認した。その後、被験者は実験者の合図に従って1ページ

につき10秒間で記銘文と対呈示文の適切性を5段階で評定していった。

2)挿入課題 上述した挿入課題用紙が配布され、被験者は用紙に印刷されたひらがな文字列 の中から3文字以上で構成されている名詞に丸をつけていった。この課題は、 3分間行われた。

3)自由再生テスト 挿入課題終了後、上述の自由再生テスト用紙を渡し、書記自由再生テス トを10分間実施した。被験者は、記銘リストの小冊子に印刷されていた記銘文を再生するよう に求められた。

4)手がかり再生テスト 自由再生テスト終了後、上述した手がかり再生テスト用紙を配布し、

書記手がかり再生テストを5分間実施した。被験者は用紙に印刷された空欄に適切な言葉を記入 して記銘文を完成するように求められた。

結  果

方向づけ課題において記銘の意図を持った者はいなかった。また、小冊子をチェックしたとこ ろ、 5段階評定の記入もれもなかった。対呈示文の適切性(適切文、不適切文)の実験操作が妥 当であったか否かを確認するために、被験者の適切性評定値の平均を4つの対呈示文型ごとに算 出した。その結果、原因・適切文は4.29 (SD.70)、原因・不適切文は1.53 (SD.35)、結果・

適切文は4.59 (SD.33)、結果・不適切文は1.54 (SD .45)であった。この評定値について2

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126 豊 田 弘 司・中 田 琴 恵

表2 対呈示文型及び適切性ごとの平均止再生率(実験1) 対呈示文型        原   因

適 切 性      適       不 適

幸t.mLIT<

適       不 適 自 由 再 生   .22 (.16)   .22 (.15)     .22 (.16)   .14 (.15) 手がかり再生   .47 (.28)   .31 (.26)     .45 (.29)   .29 (.20)

( )内はSD

(原因、結果) × 2 (適切、不適切)の分散分析を行ったところ、適切性の主効果(F(l,19)‑

810.93, p<.01)のみが有意であった。適切文が不適切文よりも適切性の評定値の高いことが 示されたので、対呈示文の適切文と不適切文の実験操作が妥当であったことが示された。

なお、本研究では記銘情報として文を用いているので再生された文が記銘文としての意味を保 持している場合は正再生とみなした。具体的には、第2著者があらかじめ類似した語をリスト

アップし、そのリストにある場合を正再生としてカウントしていった。この採点法は、自由再生 及び手がかり再生に共通である。

自由再生 表2の上欄には、自由再生テストにおける対呈示文型及び適切性ごとの平均正再生 率が示されている。この正再生率を角変換して、 2 (対呈示文型) × 2 (適切性)の分散分析 を行ったところ、対呈示文型の主効果(F‑1.13)、適切性の主効果(F‑1.63)及び両者の交 互作用(F ‑1.06)のいずれも有意でなかった。

手がかり再生 表2の下欄には、手がかり再生テストにおける対呈示文型及び適切性ごとの平 均正再生率が示されている。この正再生率を角変換して、 2 (対呈示文型) × 2 (適切性)の 分散分析を行ったところ、適切性の主効果(F(1.is)‑7.76 p<.05)が有意であり、適切文が不 適切文よりも手がかり再生率の高いことが示された。なお、対呈示文型の主効果(F‑.04)及 び対呈示文型×適切性の交互作用(F ‑.02)は有意でなかった。

ci^B3

本研究の第1の目的は、偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果を比較することであった。

Bradshow & Anderson (1982)の方法論上の問題点を考慮した実験を行ったが、自由再生、

手がかり再生ともに原因情報と結果情報の間に記銘文の記憶成績の差を兄いだすことはできな かった。ただし、実験1では、対呈示文の型(原因、結果)を被験者内要因として計画していた。

そのために、被験者はある記銘文では原因文が対呈示され、別の記銘文では結果文が対呈示され ることになる。このような事態では、被験者が原因と結果を区別して処理しにくいことが考えら れる。すなわち、被験者内要因として対呈示文の型を計画したために、被験者に原因と結果の混 乱を引き起こし、そのために記憶成績の差が消失した可能性が考えられるのである。この点を考 慮し、実験2では、対呈示文の型を被験者間要因として再検討する。

本研究の第2の目的は、原因情報及び結果情報における適切性の効果を検討することであった。

自由再生においては認められなかったが、手がかり再生では記銘文に対して適切文を対呈示する 方が、不適切文を対呈示する場合よりも正再生率が高かった。この結果は、過去の研究(Stein, Morris & Bransford, 1978; Stein & Bransford, 1979)と一致しており、実験者によって呈示

された情報が適切である方が効果が大きいことを示唆するものである。この適切性の効果につい ては、適切文が記銘情報の意味理解を促す援助を与えていることによるという解釈(Stein,

(6)

偶発記憶に及ぼす原閃情報と結果情報の効果 127

Morris, & Bransford, 1978)がある。

では、何故自由再生において適切性の効果が見られなかったのであろうか。その理由としては、

全体の正再生率が低く、フロアー効果のために適切性の効果が検出されにくかったことも考えら れる。この可能性は、正再生率が高く、フロアー効果の可能性が消えた手がかり再生において適 切性の効果が現れたという事実に反映されているといえよう。しかし、より重要な理由は、実験 計画が対呈示文の型と適切性をともに被験者内要因とした方法論上の問題によると考えられる。

すなわち、一人の被験者は4種類の文をみることになり、適切文と不適切文の混乱が生じた可能 性によると考えられるのである。実験2では、対呈示文の型を被験者間要因とすることで一人の 被験者がみる文を2種類にして、原因情報及び結果情報における適切性の効果を再検討する。

実 験 2

日  的

実験1では、対呈示文の型を被験者内要因としたことの問題点が指摘された。それ故、実験2 では、対呈示文の型を被験者間要因として偶発記憶に及ぼす対呈示文の型及び適切性の効果につ

いて検討することを目的とする。

方  法

実験計画 2 (対呈示文の型;原因、結果) × 2 (適切性;適切、不適切)の要因計画が用 いられた。対呈示文の型は被験者間要因、適切性は被験者内要因である。

被験者 看護学校の学生44名(男子4名、女子40名)が実験に参加した。これらの学生の 平均年齢は19歳3か月(18歳4か月〜25歳3か月)であり、対呈示文の型に対応して、原因 文を対呈示される群(原因群)と結果文が対呈示される群(結果群)に22名ずつが割り当てら れた。

材  料 記銘文、原因文及び結果文は実験1と同じものを用いた。また、方向づけ課題で用 いる評定リストについても実験1と同じものを用いた。ただし、本実験では対呈示文の型を被験 者間要因とするので原因群と結果群に対応する評定リストが作成された。原因群用リストは記銘 文の配列を考慮して2種類つくられたが、記銘文30文に1文ずっ対皇示される30文がすべて原 因文であり、この半数が適切文、残り半数が不適切文であった。一方、結果群用の評定リストも 2種類作成され、対呈示される30文がすべて結果文であり、この半数が適切文、残り半数が不 適切文であった。なお、どちらのリストにおいても、リストの最初の3文と最後の3文はバッ ファー文であった。これらの評定リストは実験1と同じく表紙をっけたB6判の小冊子にされた。

また、挿入課題用紙、自由再生テスト用紙及び手がかり再生用紙も実験1と同じものを用いた。

手  続 本実験は被験者の所属する看護学校の一室で行われたが、用いられた手続は実験1 と同じであった。

結  果

方向づけ課題において記銘の意図を持った者はなく、 5段階評定の記入もれもなかった。実験 1と同じく、対呈示文の適切性の実験操作が妥当であったか否かを確認するために、被験者の適 切性評定値の平均を算出した。その結果、原因群では適切文が4.42 (SD.30)、不適切文が1.53 (SD.30)、結果群では適切文が4.31 (SD.54)、不適切文が1.45 (SD.36)であった。この評

(7)

128 豊 田 弘 司・中 田 琴 意

表3 対呈示文型及び適切性ごとの平均正再生率(実験2) 対呈示文型         原   因

適 切 性      適       不 適

結   果 適       不 適

自 由 再生   .19 (.12)   .14 (.13)     .22 (.17)   .09 (.07) 手がかり再生   .48 (.20)   .34 (.17)     .45 (.25)   .31 (.14)

( )内はSD 定値について2 (群) × 2 (適切性)の分散分析を行ったところ、適切性の主効果(F(l,42)‑

1455.98 p<.01)のみが有意であった。したがって、実験1と同様、対呈示文の適切性の実験 操作が妥当であったことが示された。なお、記銘文の正再生率の算出に関わる採点法は、自由再 生、手がかり再生ともに実験1と同じであった。

自由再生 表3の上欄には、自由再生テストにおける対呈示文型(群)及び適切性ごとの平均 正再生率が示されている。この正再生率を角変換して、対呈示文型を被験者間要因、適切性を被 験者内要因とする2要因混合分散分析を行ったところ、適切性の主効果(F(1,42)‑ ll.78, p <

.01)が有意であり、適切文を対呈示した場合が不適切文を対呈示した場合よりも自由再生率の 高いことが示された。なお、対呈示文型の主効果(F‑.08)及び対呈示文型×適切性の交互 作用(F‑1.82)は有意でなかった。

手がかり再生 表3の下欄には、手がかり再生テストにおける対呈示文型(群)及び適切性ご との平均正再生率が示されている。この正再生率を角変換して、対呈示文型を被験者間要因、適 切性を被験者内要因とする2要因混合分散分析を行ったところ、適切性の主効果(F(1.42)‑ ll.69, P <.01)が有意であり、適切文を対呈示した場合が不適切文を対呈示した場合よりも手がかり 再生率の高いことが示された。なお、対呈示文型の主効果(F‑.50)及び対呈示文型×適切 性の交互作用(F‑.03)は有意でなかった。

考  察

実験2では、対呈示文型を被験者間要因として、本研究の第1の目的である偶発記憶に及ぼす 原因情報と結果情報の効果を比較した。しかし、実験1と同様、実験2においても自由再生、手 がかり再生ともに対呈示される原因情報と結果情報の間には差が認められなかった。すなわち、

記銘文に対して付加される原因情報と結果情報の効果には差のないことが示されたのである。原 因情報は記銘情報に先行し、結果情報は記銘情報に続くという時間系列上の明確な違いがあるの で、この両情報の有効性に差があると考えたが、その違いはなかった。もし、仮にこの違いがあ るとしても、原因情報も、結果情報も記銘情報とは意味的に関連する情報であるので、その意味 的関連性が記銘情報に付加される情報の有効性の多くを規定してしまい、時間系列上の違いがそ の有効性を規定する程度は少なかったのであろう。

ただし、本研究では原因情報も結果情報も実験者によってあらかじめ作成された文を対呈示さ れる手続きを採用していた。しかし、この手続きでは被験者自身が原因や結果としては理解でき ない文や被験者自身の認知構造に適合しない情報もあると考えられる。しかし、被験者自身に原 因情報や結果情報を生成させる手続きを用いれば、原因情報と結果情報の違いが明確になるかも しれない。というのは、記銘文の内容に関するWhy質問の答えを被験者自身に生成させる一連 の研究(Pressley, et al, 1987 ; Pressley, et al., 1988; Martin & Pressley, 1991 etc.)では、実

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偶発記憶に及ぼす原国情報と結果情報の効果 129

験者がWhy質問に対する答えを対呈示するよりも、被験者白身にその答えを生成させた方が記 憶成績の良いことを示し、その理由として、被験者自身が生成した答えの方が実験者が里示した 情報よりも被験者自身の知識構造に一致しているという解釈を行っているからである。したがっ

て、被験者に自分自身の知識構造に基づく原因情報や結果情報を生成させることによって、原因 情報と結果情報の効果の違いが記憶成績に反映されるくらいに増幅されることが期待できよう。

今後の検討課題である。

さて、本研究の第2の目的である適切性の効果に関しては、実験1と異なる結果が得られた。

すなわち、実験1では自由再生において適切性の効果がみられなかったが、実験2ではその効果 が認められた。実験2は、対呈示文型の要因を被験者間要因にしたことで、被験者が原因情報と 結果情報のどちらかを符号化するという実験事態であった。それ故、被験者が情報の適切性を符

号化しやすく、それ故、適切文と不適切文の差が明確に現れたのであろう。

一方、手がかり再生においては、実験1と同じく適切性の効果が認められた。したがって、手 がかり再生における適切性の効果は、自由再生における適切性の効果よりも手続きの違いにあま

り影響されない頑健な現象であるといえる。

では、何故、手がかり再生では適切性の効果が安定しているのであろうか Huntらの一連の 研究(Hunt & Einstein, 1980; Hunt & Seta, 1984; Hunt, et al, 1986 etc.)によれば、記銘情 報の検索は、複数の関連ある情報のまとまりへアクセスする産出過程と、そのまとまりの中の 個々の記銘情報‑アクセスする弁別過程の2段階から成っている。そして、記銘情報を検索する 場合、第1の産出過程においてうまくまとまりへのアクセスができない場合は、第2の段階であ る弁別過程に進めないことになる。それ故、産出過程に対する援助が必要なのであるが、自由再 生の場合はその援助がない事態である。そのために、自由再生でのまとまりへのアクセスには記 銘文と対呈示文が形成する意味内容の差異性(distinctiveness)が反映される。それ故、記銘 文に対して適切文が呈示されるよりも不適切文が対呈示される方が、意味的な奇異性 (bizarreness)が高まり、アクセスしやすいこともありうる。

それに対して、手がかり再生の場合は、記銘文の一部が手がかりとして呈示されるので、まと まり(本実験の場合は、記銘文と対呈示文)へのアクセスを促す援助が与えられる事態である。

適切文の場合には、記銘文と対呈示文が意味的な適合性をもっているので、記銘文と対呈示文が まとまりとしてアクセスされ、そのまとまりの中にある記銘文の残りの情報も検索されやすい。

それに対して、不適切文の方は、記銘文と対呈示文が意味的に不適合であるのでまとまりとして アクセスされにくく、記銘文の残りの情報も検索されにくかったのであろう。このように、自由 再生よりも手がかり再生事態の方が記銘情報(記銘文)と付加情報(対呈示文)の意味的適合性 が結果に反映されやすかったことによると考えられる。

この適切性の効果に限らず、意味的適合性の効果も自由再生と手がかり再生で結果が異なる場 合が報告されている(Hall & Geis, 1980)c 意味的適合性の効果とは、記銘語を枠組み文の空欄 にあてはめると文として意味が通るか否かを判断する方向づけ課題において、被験者が「はい」

(あてはまる)と反応した場合が、 「いいえ」 (あてはまらない)と反応した場合よりも記憶成績 が良いという現象である Hall & Geis (1980)によれば、自由再生において方向づけ課題にお いて判断時間を制限する場合(Craik & Tulving, 1975; Moscovitch & Craik, 1976;

Schulman, 1974)には適合性の効果がみられるが、制限しない場合もしくは制限が緩やかな場 合(Geis & Hall, 1976; Roenker, Wenger, Thomson, & Watkins, 1978)にはこの効果が見ら

(9)

130 豊 田 弘 司・中 田 琴 意

れない。しかし、手がかり再生においては一貫して適合性の効果がみられるのであるO この違い についても上述した2段階の検索から考えると、記銘語と枠組み文のまとまりへのアクセスに対 する援助が与えられる手がかり再生では、記銘語と枠組み文の間に意味的適合性のある場合の方 が、まとまりとしてアクセスされやすかったのであろう。それ故、上述の適切性の効果と同じく 記銘情報(記銘語)と付加情報(枠組み文)の意味的適合性が反映されていると考えられる。

実験1と2を通して、自由再生と手がかり再生において結果は多少異なるが、適切性の効果が 認められたことは、どんな情報であっても原因情報や結果情報として被験者が符号化しているこ

とが記憶成績を促進しているのではなく、原因情報と結果情報が記銘情報と意味的適合性をもつ 適切な情報であることが重要であることが示されたのである。

要   約

本研究の第1の目的は、偶発記憶に及ぼす原因情報と結果情報の効果を検討することであり、

実験操作としては記銘文に対呈示される文として原因文と結果文を設定した。また、第2の目的 は両情報における適切性の効果(適切文を対呈示する場合が不適切文を対呈示する場合よりも記 憶成績が良いという現象)を検討することであったが、この目的のために原因文及び結果文の両 文型において適切文と不適切文が設けられた。実験1と2が行われたが、どちらの実験において も偶発記憶手続きを用いた集団実験を行った。まず、方向づけ課題において、被験者は記銘文と 対呈示文(原因文もしくは結果文)の意味的な適切性に関する評定を行い、挿入課題の後、自由 再生テスト及び手がかり再生テストを受けた。

実験1は、対呈示文型(原因文、結果文)を被験者内要因として検討され、被験者は専門学校 の学生であった。実験の結果、自由再生及び手がかり再生ともに対呈示文の効果は認められな かった。しかし、自由再生においてはみられなかったが、適切性の効果は手がかり再生において 認められた。実験2では、対呈示文型を被験者間要因として検討した。その結果、実験1と同じ

く、自由再生、手がかり再生ともに対呈示文型の効果は認められなかった。したがって、原因情 報と結果情報が記憶に及ぼす効果には違いがないことが示された。ただし、今後の課題として、

被験者自身に原因情報と結果情報を生成させる手続きを用いて検討することの意義が議論された。

また、適切性の効果に関しては自由再生は実験1と異なりこの効果が認められ、手がかり再生で は実験1と一貫してこの効果が認められた。自由再生に比べて手がかり再生の結果が安定してい ることについては検索過程の違いによって考察された。

実験1と2を通して、実験1の自由再生で適切性の効果がみられなかった以外は、適切性の効 果が原因情報や結果情報の両方において認められたことから、両情報における適切性が記憶成績

を規定する重要な要因であることが示された。

引 用 文 献

Bradshow, G. L., & Anderson, J. R. 1982 Elaborative encoding as an explanation of levels of processing. Journal of Verbal Learning & Verbal Behavior, 21, 165 ‑ 174.

Craik, F. I. M., & Tulving, E. 1975 Depth of processing and retention of words in episodic memory.

Journal of Experimental Psychology '. General, 104, 268 ‑ 294.

Einstein, G. O., & Hunt, R. R. 1980 Levels of processing and organization : Additive effects of

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偶発記憶に及ぼす原田情報と結果情報の効果 131

individual‑item and relational processing. Journal of Experimental Psychology : Human Learning

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(11)

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Effects of the Causal and the Outcome Informations on Incidental Memory

Hiroshi Toyota and Kotoe Nakata

(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Recieved April 8, 1996)

Two experiments were carried out to investigate the effect of the types of paired sentences (causal sentence and outcome sentences) and the precision in the sentence (precise and imprecise) on incidental memory. These experiments involved the rating of precision between each target sentence and its paired sentence (causal sentence or outcome sentence) as an orienting task in incidental memory paradigm. Subjects were asked to conduct the orienting task followed by free recall and cued recall tests. One

word of each target sentence was used as a cue in cued recall.

In the first experiment the type of paired sentences was treated as the withm‑subjects factor. The performance differences between the causal and the outcome sentences were not observed in both free and cued recall tests. Although there was no performance difference between the precise and the imprecise sentences in free recall, the better performance was observed for the precise sentence in the cued recall.

In the second experiment the type of paired sentences was treated as the between‑subjects factor. There was no performance difference between the causal and the outcome sentences in both free and cued recall tests. The performance difference between the precise and the imprecise sentences was observed in both free and cued recall tests.

The findings obtained in both experiments suggested that there was no difference in effectiveness between the causal and the outcome informations and that the precision of the both types of informations was critical in incidental memory.

参照

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