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鉛蓄電池電極活物質の結晶構造とその化学組成の 性能への効果

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学 位 論 文

鉛蓄電池電極活物質の結晶構造とその化学組成の 性能への効果

平成 22 年 9 月

熊本大学大学院自然科学研究科

宮成 長良

(2)

目次 頁 第

1

章 緒論 5

1-1

鉛蓄電池の歴史

1-2 鉛蓄電池の高出力化 1-3 鉛蓄電池と他の二次電池との特性比較 1-4 本研究の目的 1-5 第1

章の文献

2

章 鉛蓄電池の概要 9

2-1 鉛蓄電池の充放電反応機構 2-2 鉛蓄電池正極及び負極の製造方法 2-3 鉛蓄電池製造工程のフローチャート(ペースト式) 2-4 鉛蓄電池の主要構成部品(自動車用) 2-4-1 電解液(Electrolyte)

2-4-2 隔離板(Separator)

2-4-3 電極(Electrodes) 2-4-4 電槽(Container)および蓋(Cover)

2-4-5 液口栓(Vent plug)

2-4-6 端子(Positive and Negative terminals) 2-4-7 第2章の文献

3

章 鉛蓄電池の未化成電極活物質の結晶構造のSEM観察とXRDによる組成分析 16

3-1 未化成活物質の結晶構造のSEM観察 3-1-1 試料

3-1-2 試料調製 3-1-3 装置

3-1-4 結果および考察

3-2 未化成活物質の粉末X線回折による組成解析 3-2-1

試料

3-2-2

試料調製

3-2-3

薄膜Ⅹ線回折装置

3-2-4

結果および考察

3-2-5 第3

章の文献

4

章 既化成電極活物質の結晶構造のSEM観察とXRDによる組成分析 20

4-1 既化成活物質の結晶構造のSEM観察

4-1-1 試料

(3)

4-1-3 SEM像観察 4-1-4 結果および考察

4-2 既化成電極活物質の粉末X線回折による組成解析 4-2-1 試料

4-2-2 試料調製 4-2-3 薄膜X線折装置 4-2-4 結果および考察

4-2-5 XRD定量分析結果および考察

5

章 充放電に伴う鉛蓄電池負電極の活物質の結晶構造および組成変化 24

5-1 試料

5-2 CV測定

5-3 鉛板負電極の酸化還元サイクル

5-4 鉛板負電極のCVに対するサイクル回数の影響

5-5 300

回サイクル後の鉛板負電極のSEM像

5-5-1 試料

5-5-2 結果および考察

5-6 300

サイクル後の負電極の活物質のX線回折による組成解析

5-6-1 試料

5-6-2 結果および考察

6

章 鉛蓄電池陰極表面の抗酸化被膜形成とその効果 32

6-1 即用式鉛蓄電池の概要

6-1-1 即用式鉛蓄電池用電極の必要条件 6-2-1 即用式負極の製法

6-2 アルカリ性フエノ-ル(石炭酸)処理による鉛電極の酸化防止効果 34 6-2-1 緒言

6-2-2 実験

6-2-3 結果および考察 6-2-4 まとめ及び課題

6-3 アスコルビン酸とホウ酸混合水溶液処理による即用式負極板 40 6-3-1 アスコルビン酸使用の経緯

6-3-2 アスコルビン酸の性質

6-4 即用式負極板特性(重量評価法) 40 6-4-1 実験

6-4-2 結果および考察

(4)

6-5-1 即用性能試験 6-5-2 結果および考察 6-5-3 充電受入れ性能試験 6-5-4 結果および考察

6-6 アスコルビン酸とホウ酸混合溶液処理の鉛板のEPMA

観察 44

6-6-1 EPMA

の概要

6-6-2 各種分析法・装置と比較 6-6-3 Pb

基板

6-6-4 試料作製

6-6-5 断面試料作製法

6-6-6 EPMA

による分析

6-6-7 EPMA

による高倍率マッピング

6-6-8 結果および考察

6-6-9 アスコルビン酸及びホウ酸処理における鉛板表面状態の経時変化 6-6-10 EPMA

による酸素濃度マッピングと酸素分布測定

6-7 EPMAおよび線分析による考察 56 6-7-1 EPMA画像と線分析

6-7-2 線分析 6-7-3 考察

6-7-4 第6

7-2

項の引用文献

6-8 鉛電極の酸化防止に対するアスコルビン酸とホウ酸の協奏効果の検討 60 6-8-1 実験

6-8-2 加熱処理に対するホウ酸の影響の実験結果および考察 6-8-3 赤外分光法によるホウ酸とアスコルビン酸の相互作用の検討

6-8-4 鉛電極表面における吸着構造(鉛単結晶(111)表面上での吸着モデル) 6-8-5 まとめ

6-8-6 引用文献

7

章 電池を指向したマイクロエマルション電気化学に関する研究 68

7-1 はじめに

7-2 両連続相マイクロエマルション(BME)とは 7-3 両連続相マイクロエマルションの電気化学測定

7-3-1 K3Fe(CN)6

系両連続相マイクロエマルションの

CV

測定

7-3-2 Ferrocene

系両連続相マイクロエマルションの

CV

測定

7-4 みかけの拡散係数の比較

(5)

7-6 両連続相マイクロエマルションを用いた電気化学デバイスへの適用 7-7 第7章の参考文献

8

章 総括 76

8-1 本研究の成果

8-2 今後の展望

謝辞

(6)

第1章 緒論

1-1 鉛蓄電池の歴史

1859

年に

Plante’によって開発された鉛蓄電池は、多くの改良が加えられ、今日でも二次

電池の主流として生産されている。1881 年に

Faure

は、鉛板の化成を促進するため鉛板の表 面に鉛化合物を塗布することを発明した。さらに、鉛の酸化物を硫酸で練ってペースト状(粘 土状)にし、これを鉛合金の格子体(grid)に塗布して、負極及び正極の極板としたペース ト(Paste)式極板に改良された。この方法によって性能は飛躍的に向上し、現在の電極板製 造法の主流となっている。ちなみに、日本における鉛蓄電池の極板製造は

1895~1896

年に始 まった。 初期の鉛蓄電池では、活物質の保持、集電のために用いる

Grid

の材料には鉛が用 いられていた。1882 年に

Sellon

は、鉛・アンチモン合金を用いることを提案した。

1974

年に米国で鉛・カルシウム合金を

Grid

材料に用いる電池が開発された。さらにその

強度、耐食性向上のため、スズを添加し、エキスパンド(Expand)式極板を採用することに なり、前記の鋳造式による鉛・アンチモン合金に代わって、エキスパンド式極板が主流とな っている。

1970

年代に入って補水不要電池(Maintenance Free Battery)の開発が始まった。

一方、Pb-Ca-Sn 合金の

Grid

材料への適用、電池内のフリーな電解液(稀硫酸)を減少さ せる目的で、正・負の両極板の間に短絡防止に使用する隔離版(Separator)であるガラスマ ットに電解液を保持し、さらに、充電時に正極板上で発生する酸素を電池の外部に排出させ ずに負極活物質上で反応させ、水に戻す方法の採用により、補水不要の自動車用鉛電池であ る制御弁式鉛バッテリー、すなわち

VRLA(Valve Regulator Lead-Acid)電池が開発され世界中

で使用されている。

First electric Vehicle is a tricycle in Paris 1881 in France

Battery: Secondary Plante’Battery(lead-acid) Motor: 1/10 hp

1882 in England

Battery: Ten lead-acid (Plante’Battery) cells Battery Capacity: 1.5kWh-20V

Motor: ½-hp

Range: Between 16 and 40km Maximum speed: 14 km/h

(7)

1-2 鉛蓄電池の高出力化2 )

21

世紀に入り、環境やエネルギー問題への関心がこれまで以上に高まり、今後の車には、

燃費・排ガス・動力性能・快適性の更なる向上が求められている

2)

それらの多くは電動化に伴う電力使用量の増加をもたらす。従来の

14V

電源系(鉛電池電圧

12V)では発電・配電系すべてにおいて限界が指摘され、新しい電源システムの提案が望まれ

ている。今後車両に搭載されるシステムとしては、アイドリングストップシステム、電動エ アコン等々が考えられるが、その実現のためには、現在の出力を約

3

倍にする必要がある。

高出力化には電圧、電流、あるいは、その両方を増加させる必要があるが、電流を3倍以上 に増加させる方法は現実的ではなく、本質的な対策としては電流値を上げずに、通常電圧を

14V

3

倍の

42V

にすることが考えられている。

このような理由から、日本では

2001

8

月に

36V

鉛蓄電池が搭載された世界初の

42V

電源車

(トヨタクラウンマイルドハイブリッド車)が商品化された。

2)

36V

鉛蓄電池にはハイブリッド用途において最大限の性能を発揮させるために以下の種々 の新技術が取り入れられている。

① 正極板に用いられている格子体の腐食およびそれに起因する変形は、鉛蓄電池の寿命を 決定する要因の一つである。耐食性を向上させるために、正極格子体には合金組成を最適化

した

Pb-Ca-Sn

系合金が使用されている。活物質には、高密度のペーストを採用し、充放電に

伴う活物質劣化が低減されている。通常、高密度ペーストを使用すると活物質利用率が低下 するが、新添加剤の採用により、大電流放電時の利用率が向上した。

② 負極板が充電量が不十分で使用された場合、サルフエーション(硫酸鉛の結晶が粗大化し、

充電が困難な状態になる現象)が起こり易い。この現象は、高温で使用される場合、鉛の溶解 度が大きくなり、さらに加速される。

サルフエーション抑制のために、従来よりもカーボンが多く添加された高密度の活物質が採 用されている。これにより、活物質内部にカーボンや鉛の導電性ネットワークが形成され、

絶縁体である硫酸鉛の発生を抑制できる。

③ セパレータ(隔離板)の優れた寿命性能を得るためには、極板群に加わる圧力を高くする とともに、使用中にもこの圧力を維持する必要がある。そのためセパレータには、微細ガラ ス繊維製のセパレータが採用された。

電解液である硫酸の減液による収縮と、それに伴う圧力の低下が小さく、そのうえ耐短絡特 性も優れた微細ガラス繊維製のセパレータが採用された。

④ 排気構造は従来の

12V

電池と同様に各セルごとに安全弁が装着されている。また一活 排気バルブを端子から離れた位置に設け、さらにセラミック製のフイルターを取り付けるこ とによって安全性が高められている。

将来、車の標準電気負荷は

14V

系と

42V

系の二つとなり、搭載電源は

14V,42V,100V

以上の

(8)

1-3 鉛蓄電池と他の二次電池との特性比較

車両搭載用の各種バッテリーは以下の特性を有する。

エネルギー密度、出力密度はリチウムイオンバッテリーが最も高く、鉛バッテリーが最も低 い。ニッケル水素バッテリーは、それらの中間である。

常温での出力特性は、リチウムイオン電池>ニッケル水素電池>鉛蓄電池の順である。

低温領域では、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池の出力は低下し、鉛電池と変わらな い。コストは、鉛電池が最も安価であり、リチウムイオン電池は高価である。ニッケル水素 電池は中間に位置する。

42V

車やハイブリッド車の普及とともに、電池のリサイクルは避けて通れない問題となる。

鉛電池は、古くから自動車用途に用いられてきた経緯があり、リサイクルのルートや処理方 法は完全に確立されている。

一方、コンシューマー用途のニッケル水素電池、リチウムイオン電池は、現在のところ回収 率は高くない。ニッケル水素電池はニッケルなどを回収し、ステンレスなどへの再生は行わ れているものの、活物質を再生し再度電池にするところまでには至っていない。リチウムイ オン電池についても、高価なコバルトの回収は行われるが、まだ課題は多い。

²⁾

鉛電池は、100 年以上前に発明され、その優れたコストパフォーマンスと改良の積み重ね により、現在においても二次電池の主役の地位を保っている。また、その用途も自動車、サ イクルサービス、通信などあらゆる分野に渡っている。

現在、環境温暖化対策として、電気自動車(EV),ハイブリッド車(HEV),あるいは プラグインハイブリッド車(PEV)等が実用化されてきた。

更には、太陽光発電、風量発電を含めて、スマートグリッド化のインフラ化が進みつつある。

これらの背景には、電気を蓄える手段として電池が、さらに必要となり、現在、Li-ion 電 池、Ni-H 電池、燃料電池、電気二重層キャパシターなどが、注目を集めている。

1990

年代前半には、正極にコバルト酸リチウム、負極にリチウムイオンを吸蔵できるカー

ボン材料を用いた

Li-ion

電池が実用化され,PEV や

HEV

用途にも適用されつつある。

公称電圧は

3.6~3.8V

と高く、また軽量であることからエネルギー密度や出力密度は非常に 高い。この電池の安全性の確保には、「過充電」、「過放電」、「過電流」,「異常高温」、などを 防止する精密制御が必要である。そのため電池パッケージには種々のセンサーが不可欠であ る。今後更に正極材料の研究、またコストの問題をクリアする必要がある。

Ni-H

バッテリーは実用化されたものの、普及に向けての問題は(1)自動車に搭載するため

には出力向上および小型化が必要である。また、(2)コストの低減等も必要である。

自動車用途で広く普及するためには、上記のいずれのバッテリーもコスト低減が今後とも大 きな課題である。

各種二次電池のエネルギー密度の比較を

Table 1-1

に示した。

(9)

Table 1-1.各種二次電池のエネルギー密度の比較2)

1-4 本研究の目的

発明から1世紀以上経過した鉛蓄電池は正極、負極、電解液、隔離板等の技術、材料、

電池構造については、すでに世界の研究者、技術者が長期にわたり研究が積み重ねられてき た。そして鉛蓄電池の長年の歴史によって、電池の信頼性、安全性、使用済み電池材料の再 利用技術は他の電池を寄せ付けないほど技術が完全に確立されている。しかしながら、現在 このような背景の中で、鉛蓄電池の研究に取り組んだ目的は次の理由にある。

即用式鉛蓄電池の重要性は、出荷状態の蓄電池で、電解液を含有せず、電極板は乾燥した 充電状態であり、注液後、補充電なし、あるいは簡単な補充電をすることによって使用可能 な蓄電池である。

即用式鉛蓄電池は負電極の性能に影響を受ける。その即用性の高い負電極を作る有効な 方法はアスコルビン酸およびホウ酸処理である。これまでに電地としての評価試験で、その 有効性は既に実証されてきた。しかし表面構造の研究は今日まで未着手のままである。

本研究の目的は最近著しい進歩の表面分析法を活用して、その表面構造を解析し即用 性能への効果を明かにすることである。

1-5 第1

章の文献

1) Michael H.Westbrook ‘The Electric Car’IET, p9

2) 電気学会・42V

電源化調査専門委員会編 自動車電源の

42V

化技術(第

1

版)オーム社,

(10)

2

章 鉛蓄電池の概要

2-1 鉛畜電池の充放電反応機構1)

二つの半電池を組み合わせると原理的には電池を構成することができる(Fig.2-1)。

このとき、電位の高い電極を正極(Positive electrode)、低い電極を負極(Negative

electrode)と呼ぶ。電池の放電の際には正極でカソード反応(cathodic reaction:還元反応)

が、負極でアノード反応(anodic reaction:酸化反応)が進行する。

一方、電池を充電する際には放電とは逆に、正極上では酸化反応が、負極上では還元 反応が進行する。

鉛蓄電池の負極の反応は次のようになる。

Pb + SO4²⁻ → PbSO4 + 2e⁻ 1)

正極の反応は次のようになる。

PbO2 + H2SO4

+2H⁺+ 2e⁻ → PbSO

4 + 2H2O 2) 全電池反応にはPb

PbO2

に加えて電解液中の

2H2SO4

が反応に直接関与する。

Pb + 2H2SO4 + PbO2 → 2PbSO4 + 2H2O 3)

鉛蓄電池の充電反応は放電によって生成した硫酸鉛を二酸化鉛に酸化する過程であり、

また、負極の鉛電極も同様で硫酸鉛と鉛の界面で充電反応が進行し、次式のように表さ れる。

負極: PbSO4 +2e⁻

→ Pb +SO

2²⁻ 4)

正極: PbSO4 +2H2O

→PbO

2

+4H⁺+SO

4²⁻

+2e⁻

5)

全反応: 2PbSO4 +2H2O

→Pb +PbO

2

+2H

2SO4 6)

硫酸鉛はイオン性の結晶固体として放電中に二酸化鉛電極上に析出する。

Fig.2-1 電池の構成2)

Fig. 2-1.

鉛蓄電池の基本反応モデ

(11)

Fig. 2-2.VRLA鉛蓄電池の反応モデル3)

VRLA(Valve- Regulated Lead Acid)制御弁式鉛蓄電池は補水不要のメンテナンスフリーの

電池である(Fig.2-2)。酸霧や水素ガスの発生が少なく、酸素ガスを負電極で反応吸収させる

「負極吸収式」を利用している。過充電され正電極から酸素ガス(O

2)が発生しても、負電極

で吸収されるため、負電極は満充電にならない。しかも正電極から発生した酸素は負電極の

活物質と反応して水に戻るため、水分の減少が無い。

(12)

2-2 鉛蓄電池正極及び負極の製造方法

正極及び負極は鉛粉(粒径は数μm~30 数μm の粉末で、鉛と酸化鉛との重量比は 約

25:75

である。)を希硫酸でミキシング(mixing)したペーストを鉛合金の格子体

(グリッド;電極の機械的強度向上と集電体の機能を有する。)に塗布し、ペースト 状の活物質を湿度と温度の決められた条件下で一定期間熟成乾燥(curing)する。

熟成中に水分は徐々に減少し、ペースト中の鉛は酸化される。同時に格子体と密着 しているペーストは固着し、機械的強度が増す。ただし、ペーストの乾燥過程でペ ーストが収縮してひび割れを起こしてはならない。

正極、負極ともに活物質の多孔性が重要であるため、格子体に塗布したペースト の外観にひび割れ(shrinkage)の無い状態で熟成乾燥(curing)させることは重要で ある。

乾燥前のペースト中には約

10%の水分が含まれている。一方、ミキシング中に鉛粉

の鉛は酸化鉛(PbO)に酸化され、さらに硫酸と反応して硫酸鉛(PbSO

4)が生成する。

熟成乾燥工程(curing)が終了した時点での正電極および負電極は未化成極板、いわ ゆる化成(formation)前の極板と呼ばれる。

乾燥工程が終了した正、負の両極の活物質は酸化鉛(PbO)、塩基性硫酸鉛(3PbO・

PbSO4) および (4PbO・PbSO4)の組成を有する化合物である。

化成(充電)は比重(sp.gr) 1.03~1.10(20℃)の希硫酸中で行う。直流電流を流し、

正極の活物質は酸化されて二酸化鉛(PbO

2)

になり、負極は還元されて海綿状鉛(Pb) になる。Pb の容積比率を1とした場合、PbO は

1.26, α-PbO2

1.32, β-PbO2

1.40, PbSO4

2.64

である。

化成工程によって、正極活物質、負活物質とも多孔性となり、多孔度は約

55%前後

である。電極活物質が多孔性であるため、電解液と電極界面との接触面積が大きく なり、電池性能は向上する。化成(formation)工程後の両電極は水洗され、最終工程 で両電極活物質に含まれる水分は熱乾燥によって除去される。

即用式鉛蓄電池の場合は負極の乾燥方法が液入り充電済み電池とは異なり、イナー

ト式乾燥法等が用いられる。

(13)

2-3 鉛蓄電池電極製造工程のフローチャート( ペースト式)

鉛合金 鉛粉 添加剤 水 希硫酸

鋳造(casting ) 錬捏(mixing )

格子体(grid )

充填(pasting )

熟成(curing )---活物質の酸化促進

乾燥(drying) ---活物質の水分除去

未化成極板(unformed-plate)

化成(formation)

水洗(washing) --- 活物質中の硫酸分除去

① 熱風乾燥 熱風乾燥のみ

② 過熱蒸気処理

③ イナートガス乾燥

④ 化学処理後熱風乾燥

負極乾燥方式 正極乾燥方式

(14)

2-4 鉛蓄電池の主要構成部品(自動車用)

鉛蓄電池の主要構成部品としては、酸化の進行する負極(Pb)と還元反応の進行する正極

(PbO2)、二つの反応を結びつけるイオン導電相(H2SO4),負極と正極を隔てる、すなわち短絡防

止の役目をする隔離板(Separator),これらを入れる容器(Container)、正極と負極の端子

(Terminal), 両極の極群の集電体(Strap)がある(Fig.2-4)。

2-4-1 電解液(Electrolyte )

電解液は電極に接し高いイオン導電性を示すイオン導電相として重要な役目を果たす。

2-4-2 隔離版(Separator)

セパレータには両極の活物質同士が直接反応し、活物質が消費され、自己放電

(self-discharge)の進行を防ぐ機能と共にイオン導電性も必要である。

鉛蓄電池では多孔性材料を用いて、空隙に電解液を保持させ、イオン伝導性を確保する。近 年、細かいガラス繊維をマット状にした、いわゆるガラスマットセパレータが開発されメン テナンスフリー鉛蓄電池、いわゆる制御式鉛蓄電池(VRLA-Battery)が発展した。

2-4-3 電極(Electrodes)

鉛蓄電池の電極の開発には長い歴史があり、電池の用途から多くの種類がある。

鉛蓄電池は既に反応式で述べたように、放電によって正極と負極との両極に硫酸鉛が生成す る。

この硫酸鉛は長時間放置すると結晶化が進んで不動態となり、元の状態に戻すことが難 しくなる。これをサルフエーション(Sulfation)という。

二酸化鉛や海綿状鉛は硫酸水溶液への溶解度は低く電子伝導性が比較的高いが、硫酸鉛 は電子伝導性がなく、また溶解度も非常に低い。

2-4-4 電槽(Container)

および蓋(Cover)

電槽の役目は極板群や電解液を保持するための容器で合成樹脂が使用されており、電槽内 部は隔壁によって分割されている。

蓋は電槽と同じく合成樹脂で作られ、接着剤または熱溶着によって電槽と一体化する構造が とられている。また蓋の上面には注液兼排気のための液口が設けられている。

電槽や蓋の材料には耐酸性や機械的強度、耐油性および耐候性の高い

AS(アクリルニトル・

スチレン)樹脂、ABS(アクリルニトル・ブタジエン・スチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹

脂、PE(ポリエチレン)樹脂、等が用いられている。これらの合成樹脂は軽く、耐酸性、耐衝

撃性、加工性などに優れており、鉛蓄電池の軽量化や製造工程の合理化に大きな貢献を果た

(15)

2-4-5 液口栓(Vent Plug)

液口栓は、電池の内部から発生するガスと硫酸霧を分離し、ガスは排気孔から外部へ放

出され、硫酸分を電池内部へ還流させる役目を有する。また火炎の通過を阻止できる多孔性 のフイルターが装備され、発生するガス引火爆発の頻度を減少させる構造となっている。

2-4-6 端子(Positive, Negative Terminal)

端子は外部ケーブルとの接続のために電池の両端セルに設けられる。

自動車用電池には主としてテーパ状の端子が標準として用いられ、電池の極性を間違えて取 り付けられるのを防ぐために+側端子が-側端子よりやや太く作られている。

(A)

4) (B)5)

(E)

6)

(D)

PVC

セパレータ

エンベロップタイプ

VRLA用ガラスマット

セパレータ

(16)

2-4-7 第2章の文献

1) 松田好晴、竹原善一郎

編集代表 “電池便覧”(丸善)p157-162

2) 小久見善八編著 “リチウム二次電池” p10

3) D.Berndt, ‘Maintenance-Free Batteries’SECOND EDITION (RSP) p284 4) YUASA BATTERY ‘SERVICE MANUAL’Cat.No. D100-X, p2

5) D.Berndt, “Maintenance-Free Batteries”SECOND EDITION(RSP)p325

6) Edited by Jurgen O.Besenhard “Handbook of Battery Materials”WILEY-VCH p261

(17)

3

章 未化成電極活物質の結晶構造のSEM観察とXRDによる組成分析

3-1 未化成活物質の結晶構造のSEM観察

3-1-1 試料

自動車用未化成電極の活物質の一片(約

5×5mm)を使用した。

3-1-2

試料調製

観察前に、ピンセットと試料ホルダをエタノールでクリーニングした。ホルダ上に 両面テープを貼り付けた後、厚み約

1.3mm,5×5mm

程度に切った試料を中央付近に置い た。

3-1-3 装置

日本電子(株)製

J-5300 SEM(Fig.3-1)を測定に用いた。主な観察倍率は 6000

倍、

加速電圧を

15kV

に設定した。

Fig.3-1 J-5300 SEM 装置

(18)

3-1-4 結果および考察

未化成正電極の表面試料のSEM像を

Fig.3-2,

未化成負電極の表面試料のSEM像を

Fig.3-3

に示した。太さは約

2μm

以下で、約

8μm

の短枝状の結晶が重なり合っており多 くの空孔が観察される。正・負極ともほぼ同じ結晶状態が観察される。未化成、すなわち 初充電前には両極の表面状態はほぼ一致している。

Fig.3-2 正極未化成活物質表面のSEM像

(19)

3-2 未化成活物質の粉末X線回折による組成解析

3-2-1 試料

3-1-1

と同じ自動車用未化成電極活物質の一片(約

5×5mm)を使用した。

3-2-2 試料調製¹⁾

乳鉢を用いて粉末試料を粉砕した。試料板(試料ホルダ)はガラス板を使用し、その溝の

凹部の寸法

20×16×0.5mm

の中に粉末試料を充填した。

3-2-3 薄膜X線回折装置

リガク社

RINT 2500VHF

を用いた。

3-2-4 結果および考察

. F

Fig.3-4 未化成正極および未化成負極のXRD Pattern

XRD

回折パターンは両極とも酸化鉛(PbO)と塩基性硫酸鉛(3PbO・PbSO

4

及び

4PbO・PbSO4)

が主成分であることを示している。これは両極は同じ鉛粉、原料を使用し、乾燥工程(curing,

drying)の温度、湿度が同じ条件で作製したためである。両極とも、主成分は酸化鉛(PbO)

である。残りは塩基性硫酸鉛である

3PbO

・PbSO

4

4PbO・PbSO4

である。これらの硫酸鉛の 生成の要因の一つは乾燥時の温度に起因すると考えられ、乾燥時の電極表面温度を

70℃以

下に抑えると

3PbO・PbSO4

の組成が高くなる。一方、乾燥温度を

70℃以上にすると4PbO・

XRD

Pattern of Lead-Acid Electrodes

(20)

3-2-5 第3

章の引用文献

1) 小暮亮雅 “SPM

観察のためのサンプリング”p86-p92,日本表面科学会関西支部、

実用表面分析セミナ-(2008)

(21)

4

章 既化成電極活物質の結晶構造のSEM観察とXRDによる組成分析

4-1 既化成活物質の結晶構造のSEM像観察 4-1-1 試料

自動車用既化成電極活物質の一片(約

5×5mm)を使用した。

4-1-2 試料調製

3

章の

3-1-2

と同じ方法を用いて調製した。

4-1-3 SEM像観察

日本電子(株)社製J-5300SEM

を用いた。

試料表面観察は観察倍率は6000

倍及び

12000

倍とし、加速電圧を

15kV

に設定した。

4-1-4 結果および考察

既化成正電極板の表面のSEM像を

Fig.4-1,および4-2, 既化成負電極の表面のSEM

像を

Fig.4-3

に示した。

既化成正電極板の活物質の表面の構造は未化成正電極板のそれとは非常に異なっていた。

1~10μm の結晶が観察されるが2μmの結晶が比較的多い。

小さな花弁のような結晶が内部から表面の外部へ突き出すように成長している様子が見 られる。この花弁は後述

Fig.4-4

のXRD組成分析および

Table4-1

のXRD定量分析か ら二酸化鉛の結晶構造である。

Fig.4-1 既化成正極活物質の表面のSEM 像:6000

(22)

Fig.4-2 既化成正極活物質のSEM

像 : 12000 倍

既化成負電極板の表面のSEM像を

Fig.4-3

に示した。

この活物質は薄い花弁が幾重にも重なり合ってた約6μmの構造体を形成し、花弁が接触し ている。構造体の大きさは

4~6μm

である。

正極の活物質は花弁部が厚く、空隙が少ないが、負極の活物質の場合は表面積が非常に大き いと考えられる。

Fig.4-3

既化成負極活物質の

SEM

像 : 6000 倍

(23)

4-2

既化成電極活物質の粉末X線回折による組成解析

4-2-1 試料

市販の自動車用既化成電極活物質の一片(5mm×10mm)を使用した。

4-2-2 試料調製

4-1-2

と同じ方法を用いて調製した。

4-2-3 薄膜X線回折装置

リガク社RINT 2500VHF

を用いた。

4-2-4 結果および考察

既化成電極は化成終了後水洗、乾燥後の電極である。

Fig.4-4

には既化成電極の正極と負極の活物質の

XRD Pattern

を示した。

Fig.4-4 既化成正極(Pos.)および既化成負極(Neg.)のXRD Pattern

(24)

回折パターンを解析したところ、正極はほとんどが二酸化鉛

PbO2 であった。二種類の

二酸化鉛 β-PbO

2(Plattnerite), とα-PbO2(Scrutinyite)が確認された。

正極は充放電初期の段階では二酸化鉛はα型とβ型が混在している。

一方、負極の主成分は鉛(Pb)であり、二種類の酸化鉛 PbO(Litharge)と

PbO(Massicot)が

含まれている。

4-2-5 XRD 定量分析結果および考察

両極の未化成電極と既化成電極との組成定量分析結果を

Table 4-1

に示す。

Table 4-1 XRD定量分析による両極(正極と負極)の化成前後(充電前後)の組成変化

化成後(充電後)の正極および負極活物質からは硫酸鉛(PbSO

4)が検出されなかったが、

一般的には既化成電極の正、負極の活物質組成には、2~3%の硫酸鉛が含有している。

(25)

5

章 充放電に伴う鉛蓄電池負電極の活物質の構造および組成変化

本章ではサイクリック・ボルタンメトリー(CV)を用いて負極活物質を充放電させた場合の深さ方向に関 する構造変化および組成変化に関して述べる。

5-1 試料

市販の自動車用既化成の負電極板の一部を作用極とした。試料の大きさは

10×10×1.3 mm

であった。

5-2 CV測定

以下の条件で測定を行った。

対極:白金(Pt)板, 参照極:Ag/AgCl, 電解液:3 mol dm-

3 H2SO4, 掃引速度:20 mV/s. 電気化学測定にはBAS-50W

を用いた。

測定機器および測定条件を

Fig.5-1

に示した。

5-3 鉛板負電極の酸化還元サイクル

電位範囲は-1.5~1.0 V

とし、連続

30

サイクルを繰り返した。

インターバルを1

分間とし

30

サイクルの測定を

10

回繰り返した。

全部で300

サイクルを行った。

5-4 鉛板負電極のCVに対するサイクル回数の影響

Fig.5-2

Pb

30, 150, 300 サイクル後のCV

を示した。

30

サイクル後の酸化ピークは約

0.4 V、還元電位は-0.05V であるが、これらの曲

線はサイクルが増すに従って酸化電位、還元電位ともネガテイブシフト、すなわち

れ易い方へ移動している。すなわち、サイクルの増加とともに電極の構造が変化し、

SO4-2

の見かけ上の活量が高くなったためと考えられる。

300

サイクルまでは酸化還元 ピークはシフトしており、活物質の活性化は進行していると考えられる。

Pb + SO4-2

PbSO4 + 2e-

E = E0 + RT/2F ln[PbSO4]/[Pb][SO4]

(26)

Fig.5-1 測定機器および測定条件

Fig.5-2 鉛蓄電池の負極の3M

硫酸中における

30,150,300

サイクル後のCV.

掃引速度:20mV/s

(27)

5-5 300

回サイクル後の鉛板負電極のSEM像

5-5-1 試料

300

サイクル後の

Pb

板は精製水で洗浄後、50℃で, 2 時間熱風乾燥した。

5-5-2 結果および考察

Fig.5-3

は 300 サイクル後の負極活物質断面(1.3mm)のSEM像である。

Fig.5-3 300

サイクル後の負極断面SEM像:倍率55倍

SEM像のトップとボトムは負極の表面の端を示す。

中央部位

1/4

部位

電極表面

電極表面

(28)

Fig.5-4

は負極断面一部分を

2000

倍に拡大したSEM像である。

Fig.5-4 300

サイクル後の負極の断面のSEM像 :倍率2000倍

SEM像の左下部は電極が電解液と接している部分であり、電極表面である。一方、

SEM像の上部は電極のバルクである。このSEM像からは、活物質の結晶が界面部

位で大きく成長しており、バルク側では比較的小さいことがわかった。

(29)

Fig.5-5 300

サイクル後の負極の表面SEM像:倍率2000倍

Fig.5-6 300

サイクル後の負極の表面SEM像:倍率6000倍

(30)

Fig.5-5, Fig.5-6

のSEM像では電極界面部は表面全体が5μm 程度の結晶で密に覆わ れているが、これはX線回折の表面部の組成分析から硫酸鉛であることが判明した。

Fig.5-5

では、硫酸鉛の結晶は平均約5μmの大きさであり、この結晶が電極表面の多

孔性を減少させている。

反応の進行に従う電極の変化を調べるために、

電極厚み断面、バルクの結晶構造の状態

をSEM像観察した。

Fig.5-7, 5-8

は電極表面から深さ

325μm

における

SEM

像で倍率はそれぞれ

2000

倍と

6000

倍である。

Fig.5-7 表面から深さ約325μm

のSEM像:2000倍

(31)

Fig.5-9 表面から深さ約650μm

のSEM像:2000倍

Fig.5-10 表面から深さ約650μm

のSEM像:6000倍

Fig.5-6

の電極表面、

Fig.5-8

の表面から約

325μm,およびFig.5-10

の表面から約

650μm

の 硫酸鉛の結晶の大きさを比較すると表面平均

5μmに対して、電極内部(325μm, 650μm)で

は平均

2μm

である。結晶の大きさは電極の表面より電極内部が小さい。

負極は放電反応では

Pb

から

PbSO4

が生成する。 また充電反応ではその逆反応が起こるため、

PbSO4

は放電反応を妨害せず、さらに充電の際には速い反応が起こる電極の近傍の表面に保

(32)

5-6 300

サイクル後の負電極の活物質のX線回折による組成解析

5-6-1 試料

SEM観察した試料をそのまま使用した。また粉末試料はSEMに使った塊状試料を乳鉢

で数μm に粉砕して用いた。

5-6-2 結果および考察

Fig.5-11

は横軸を回折角

2θとし、縦軸を回折強度(counts)としたX線回折パターンであ

り以下のことがわかった。

① “Surface”は試料の表面部位を示す。鉛は赤印で示し、硫酸鉛は白丸印で示した。

鉛の回折強度のピークは微弱であり、ほとんどのピーク硫酸鉛に帰属される。

② “Thickness; center”は表面から約

650μm

のサンプルのプロフイールである。

表面部位の回折と比較すると鉛のピークが比較的強いことがわかった。

③ “Thickness; edge ca. 10~100μm”は試料の表面から深さ約

325μm

のX線パターン

である。回折パターンからは鉛と硫酸鉛とが混在していることが分かった。

④ “Homogenized;”は ①~③の試料を粉末にした試料の回折パターンである。一部に

一部に鉛が残っているが、ほとんど硫酸鉛であることを示している。

X線回折の組成分析とSEMの結果は比較的相関性が認められる。

(33)

6

章 鉛蓄電池負電極表面への抗酸化被膜形成とその効果

6-1 即用式鉛蓄電池の概要

即用式鉛蓄電池とは、出荷状態の蓄電池で、電解液を含有せず極板は乾燥した充電状

態であり、注液後、補充電なし、あるいは簡単な補充電をすることによって使用可能な 蓄電池である

1)

電解液が入った状態の鉛蓄電池は保管中は、陽極格子体の腐食や電池の自己放電によ

って硫酸鉛が負極に生成し、樹枝状に成長して正極と負極とを隔離する隔離版を貫通し て、短絡を起こすことがある。

この問題を抑制するためには、ある一定の間隔で電池を補充電する必要がある。

このような保管中の電池の保守管理の問題を避けるために、未注液で、充電済の状態

(charged and dry)の鉛蓄電池が用いられる。一定期間後でも充電状態が維持されていれ

ば注液して即座に使用可能である。

6-1-1 即用式鉛蓄電池用電極の必要条件

即用式鉛蓄電池に最も重要な技術は、負極(海綿状鉛)の化成後の乾燥方法である。

陽極の活物質は二酸化鉛(PbO

2)であり、二酸化鉛は空気中で乾燥しても酸化状態に変化

はないため、さほど問題はない。

負極は化成(formation)工程にて、活物質が海綿状鉛(Pb)に還元される。

その後、水洗し大気中で乾燥すると、還元された鉛はその後の乾燥工程で、再度酸化さ れて、酸化鉛となる。そのため乾燥状態で安定な鉛負電極の作製が即用式電池には最も 重要な技術である。

6-1-2 即用式負極の製法

即用式負極の製法は二つに分類される。

(1) 機械的方法で空気を遮断して乾燥する方法

① イナートガス(inert-gas) 乾燥法;窒素(N2),または炭酸ガス(CO2)雰囲気中 極板を乾燥する方法。

② 過熱蒸気(superheated-steam)乾燥法;150℃に過熱した水蒸気の雰囲気で

極板を乾燥する方法。

(34)

(2) 化学処理方法

機械的方法で空気を遮断する方法であるイナートガス乾燥法はプロパンガスを利用 する乾燥設備費が高価であり、さらに乾燥機内の雰囲気は加圧された条件下であるた め、処理可能な電極のサイズに制限がある。

すなわち、これまでの即用式電極の作製法では処理能力に限りがあるため新たな方法 が必要である。

本章では、負極の鉛表面に還元化学物質の保護皮膜を形成させ、耐酸化膜によっ

て保護する方法に関して記述する。

(35)

6-2

アルカリ性フェノール(石炭酸)処理による鉛電極の酸化防止効果

6-2-1

緒言

鉛蓄電池の輸出あるいは熱帯、亜熱帯地域での利用に関して、“即用性”は非常に重要 な問題である。鉛蓄電池は作成後、化成(初充電)して、電池として使用可能となる。国 内での自動車用の鉛蓄電池の場合は化成後、密閉して使用すれば特に問題はないが、海外 への輸出あるいは長期間の保存を考慮すると、電解液を注入していない状況での鉛蓄電池 の輸送、長期間の保管には、輸送コストの軽減、安全性の増加、自己放電の軽減等の多く の利点がある。化成後、すなわち充電後、負極の酸化鉛は金属鉛に還元されている。海外 への輸出、使用を目的として電解液を除いた状態では、未処理の鉛電極は容易に酸化され、

容量は顕著に減少する。すなわち、使用する際に電解液を注入しても蓄電池としての十分 な性能を発揮できない。そのため、鉛蓄電池を「即用化」するためには、鉛電極(負極)

の耐酸化処理が必要となる。これまでの耐酸化方法としては高温加熱蒸気(SuperHeated

Steam)法が主に用いられているが、装置のコスト、メンテナンス、あるいは処理可能な電

極面積の制限もあり、必ずしも最良な方法ではない。本節では鉛電極の耐酸化性を向上さ せる目的で鉛電極との相互作用が比較的強いと考えられるフェノール(石炭酸)を用いた 処理、すなわちフェノールの有機薄膜で保護した電極を作製し、その電極の耐酸化性の評 価、また、二輪車用電池とフォークリフト用電池として構成した場合の即様式電池として の評価を試みた。フェノールによる耐酸化処理には1)低コスト、簡便な設備:電極を浸漬 する処理槽のみが必要、2)大面積の鉛電極も処理可能,等の利点がある。

6-2-2

実験

二輪車用電池、電極の評価

市販用の二輪車用負電極(35×50×2)を使用した。石炭酸(C

6H5OH)水溶液の濃度は20%,

10%,5%,2.5%とした。また、それぞれのフェノールに対する水酸化ナトリウム の添加量も変化させ、Table6-2-1 に示した4種類のアルカリ性フェノールを調製した。フ ェノールの溶解度を高めるために、アルカリ性の溶液を用いた。

鉛電極をそれぞれの40℃のアルカリ性フェノール溶液に20 分間浸漬した後、

90℃の大気中で

14時間乾燥した。その後、各電極の鉛の含有量を重量法で分析した。また、各電極を用い た即用性電池性能評価を行った。

産業用(フォークリフト)用電池、電極の評価

フェノールの濃度は5%,7.5%,10%、溶液温度は15℃,30℃,40℃に設定

した。水酸化ナトリウムの濃度はフェノールに対して2%,4%,6%とした。電極の浸

漬時間は20 分、40 分、60 分とした。処理後の鉛電極の含有率は重量法で分析し、電池の

容量は100mA の定電流放電の際の終止電圧(5.25V)に達するまでの持続時間で評価した。

(36)

6-2-3

結果および考察

Table6-2-1に用いた溶液の組成とその溶液で処理した場合のPb の含有量およびSHS 法

の電池を基準とした電池容量を示した。また、No.3 の溶液で処理した電極を用いた電池と

SHS 法で作製した電池の定電流放電(0.2A)の際の端子間電圧をFig.6-2-1に示した。

Table6-2-1 用いた溶液の組成およびその溶液で処理した場合のPb の含有量およびSHS

法の電池を基準とした電池容量

Fig.6-2-1 Terminal Voltage vs. discharge time (hour) for the battery using the SHS treated Pb electrode (dashed line) and the Pb treated with the alkaline phenol aqueous solution (solid line). The temperature of the battery: 25℃. Discharge current:0.2A.

(37)

Table6-2-1 に示したように、即用式負電極の評価法の一つである負極活物質の酸化され

てない金属鉛(Pb)の含有量は、今回行った全ての条件で88%以上となった。フェノールの濃 度が2.5%から20%から増加するに従って、鉛の含有量が約88%から、

95%に増加するのはフェノ

ールの鉛電極表面への吸着量に対応していると考えられる。現時点で、フェノール溶液での 処理後のフェノールの吸着量に関するデータは得られていないが、濃度が高い場合に酸化防 止能が向上していることはreasonable である。

SHS 処理の場合、鉛の含有量は93%であるが、

フェノールの濃度が10.5%以上(溶液No.1,2)の溶液で処理した場合は、

SHS 処理の場合の含有

量を上回り、この手法の有効性が示された。一方、電池容量はPb の含有量とは対応せずに、

低いPb の含有量、すなわち低濃度での処理の場合に増加する傾向となった。

SHS 処理の電池

容量を基準(100)とした場合、2.5%のフェノール溶液で処理した電極を用いた電池の容量は

109 となり、9%ほど増加した。含有する金属鉛あたりの容量(容量/Pb)として比較すると、

20%のフェノールの場合は0.98 であるのに対して、2.5%の場合は1.23 となった。フェノール

処理後の鉛電極の表面状態および放電状態における電極表面の状態に関する情報が得られて いないため詳細は不明であるが、高濃度のフェノールによる処理は鉛の酸化防止には有効に 機能しているものの、電極反応を阻害している可能性がある。より低濃度での実験を行えば フェノール濃度の最適値を求めることも可能であった。フェノールの濃度が20%の場合を除い ては今回用いた条件ではアルカリ性フェノール処理はSHS 処理と比較して、電池の容量とし て4%以上向上することが示された。フェノールの濃度が10%以下の場合は鉛の含有率が減少す るが、別の要因で容量が向上するため、電池の性能としては問題ないことがわかった。

No.3 の溶液の条件で処理した電極を用いた電池(二輪用MBC1‐6形、2AH/10

HR)の定電流放電実験を行ったところ、Fig.6-2-1 に示した結果が得られた。放電時間は 若干短いものの、アルカリ性フェノール溶液で処理した電極を用いた電池の放電特性はほ ぼSHS 処理の電極を用いた電池の特性と一致した。このように、アルカリ性フェノール溶 液での鉛電極処理は即用式電池には非常に有効な方法であることが示された。これまで用 いられているSHS 法と比較しても優れた結果が得られた。Table6-2-2には種々の条件のアル カリ性フェノール溶液で産業業鉛蓄電池の電極を処理した場合のPb の含有率(%)と放電時間 の結果をまとめた。

また、Table6-2-3 はTable6-2-2のデータを統計的手法による直交配列表(本報記載省略) を作成し、分散分析表にまとめたものである。

Table6-2-2 及び6-2-3 より、以下のことが示された。

1)フェノール溶液の反応温度は高度に有意。

2)フェノールの濃度およびNaOH の濃度は共に高度に有意。

3)フェノールとNaOH の相互作用はあまり重要ではない。

4)鉛の含有量

Pb と電極の放電容量とは相関係数r=0.28で相関がない。

(38)

Table6-2-2

産業用鉛蓄電池の鉛電極を処理したフェノール溶液の組成および反応条件 とその条件で反応させた場合の

Pb の含有率(%)とその鉛蓄電池の放電時間。

Table6-2-3 Table6-2-2のデータの統計的手法による直交配列表から得られた分散分析表

Fig.6-2-2に初期充電後の産業用(フォークリフト)電池とフェノール溶液処理を用いた電

極を使用した電池の放電特性を比較した。

25℃において5A の定電流放電を行い、端子間電圧

が1.75Vに達するまでの電圧変化を示した。産業用電池の場合、電極面積が大きく、

SHS 法処

理を行うことは不可能であったので、この電池の場合は作成後十分に充電した後の電池とフ

ェノール溶液処理によって作製した電池を比較した。

(39)

Fig. 6-2-2 Terminal Voltage vs. discharge time (hour) for the battery pre-charged (solid line) and the Pb treated with the alkaline phenol aqueous solution (dashed line). The temperature of the battery: 25 ℃. Constant discharge current: 5 A.

フェノール処理を行った産業用電池は初充電済の電池と放電特性に関してもほぼ同等の性 能を示している。

6-2-4

まとめ及び課題

二輪車用即用電池に関してはフェノール処理の電極を用いた電池とSHS 処理処理の電池の 性能を比較することができた。フェノール処理の電極を用いた電池はSHS 処理と同等あるい は若干高い性能を示した。一方、産業用即用式鉛蓄電池に関してはSHS 処理の設備がないた め、初期充電済の電池との比較を行ったが、フェノール処理の電池は十分高い性能を示した。

今回のアルカリ性フェノール溶液による電極処理を施した電極は即用式電池としての十分な 機能を有した。

しかしながら、この技術で製作された即用式電池は実用化には至らなかった。二輪車用の 場合も産業用の場合も、初期の放電時に電解液が赤く着色するという現象が観察されたため

初充電済

(

陰極-

Cd V)

初充電済

(

陽極-

Cd V)

終止電圧

1.75V

(40)

フェノールの保護膜が存在しない場合、鉛負極は放電に従って、

Pb+SO42-

→PbSO

4+2e-

の反応が起こり、電極表面に硫酸鉛が生成するため、電解液の硫酸イオンの濃度の減少は 起こるものの、電解液の着色という現象は起こらない。今回のアルカリ性フェノール溶液に おける鉛電極の処理ではフェノールの濃度によって耐酸化性が影響を受けたことから、電極 表面にフェノールの積層膜が形成されていた可能性がある。アルカリ性溶液で吸着したフェ ノール修飾鉛電極(Phenol-Pb)の酸化反応(一般的な電解酸化重合)

nPhenol-

→(Phenol)

n+ne-

が起こり、水溶性のフェノールオリゴマーあるいはポリマー(赤色に着色したことからある 程度共役が長い)が生成したため、電解液が着色したものと考えられる。初回の放電にこの ような反応が起こり、電解液が着色しても,電池としての性能に悪影響を及ぼさないことが 確認できれば、この処理法は十分即用式電池の電極処理法として脚光を浴びたはずであるが、

企業の方針によって量産化の技術としては採用されなかった。

このため別の耐酸化保護膜の探索を行い、研究を行った。

(41)

6-3 アスコルビン酸とホウ酸混合水溶液処理による即用式負極板

6-3-1

アスコルビン酸使用の経緯

抗酸化剤物質としてにホウ酸(H

3BO3)水溶液を使用し、赤外線乾燥を行うドイツの特許

がある。しかしホウ酸は抗酸化剤としては弱く、この物質のみを使用した即用式電極の 作製は不可能であった。

そこで、より高い抗酸化能が期待される新規抗酸化剤として、

D-イソアスコルビン酸(エ

リソルビン酸ナトリウム

Sodium Erythorbate C6H7NaO6・H2O )を1965

年に電池業界で初 めて利用した。

6-3-2 アスコルビン酸の性質

Table 6-1

0.3%エリソリビン酸の分解率を示した。30℃は3

時間後においても分解 率は

3.8%であるが、60℃の場合は1時間でも3.5%, 3

時間では

9.1%にも達した。

30℃ 60℃

1 時間 1.6 3.5

2

時間

2.4 5.8

3

時間

3.8 9.1

Table 6-1 水溶液中での0.3%濃度のエリソルビン酸の分解率(%)

6-4 即用式負極板特性( 重量評価法)

即用式極板としての評価法には種々の方法があるがここでは活物質中の含有鉛 量(Pb)を分析する重量評価法を用いた。

鉛の分析法は試料を乳鉢で粉末にして秤量後、稀酢酸で酸化鉛を除去後さらに

硝酸処理して硫酸鉛を除き、最後に鉛を定量分析する方法である。

評価基準(製品としての合格基準)は極板一枚の活物質中に鉛が含有される重量 %が

85%以上である。

6-4-1

実験

試料極板は二輪用工場品を使用した。

化成(formation)終了した電極は水中に浸して保存した。

試料極板は種々の濃度のアスコルビン酸とホウ酸の混合溶液で

40℃、20

分間

処理した。ホウ酸の濃度は5%に固定し、アスコルビン酸の濃度は0~1%まで変

化させた。

Table 1-1.各種二次電池のエネルギー密度の比較 2)  1-4  本研究の目的  発明から1世紀以上経過した鉛蓄電池は正極、負極、電解液、隔離板等の技術、材料、 電池構造については、すでに世界の研究者、技術者が長期にわたり研究が積み重ねられてき た。そして鉛蓄電池の長年の歴史によって、電池の信頼性、安全性、使用済み電池材料の再 利用技術は他の電池を寄せ付けないほど技術が完全に確立されている。しかしながら、現在 このような背景の中で、鉛蓄電池の研究に取り組んだ目的は次の理由にある。  即用式鉛蓄電池の
Fig. 2-1. 鉛蓄電池の基本反応モデ
Fig. 2-2.VRLA鉛蓄電池の反応モデル 3)
Fig. 6-2-2 Terminal Voltage vs. discharge time (hour) for the battery pre-charged (solid  line) and the Pb treated with the alkaline phenol aqueous solution (dashed line)
+6

参照

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