Ⅰ はじめに
! 1 序
我が国の民法499条以下では、債務者に代わり債権者に弁済した者は債権 者に代位するといういわゆる弁済による代位を規定し、さらに502条はその 弁済が債権の一部についてのみであるときは、代位者はその弁済をした価額 に応じて債権者と共にその権利を行使するとしている。代位弁済の効果は現 在、債権者が有する原債権と担保権の移転であることに異論はないが、502
ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面
―― 保証人の代位と債権者優先主義をめぐって ――
森 永 淑 子*
Ⅰ はじめに
Ⅱ ドイツ法の展開と現状 1.後期普通法学説期の状況 2.BGB 制定過程
3.BGB 施行後の議論
Ⅲ むすびに代えて
*
福岡大学法学部准教授
−5 1 9−
(1)
条所定の一部代位の場合にはいかなる効果が生じるのかという点については、
周知のように今もなお争いがある。特に、一部代位者は債権者から独立して 代位取得した権利を行使できるか(行使面の問題)、担保物を競売して得ら れた代価の配当にあたり一部代位者は債権者と平等の地位で配当を受けられ るか(満足面の問題)という点においてである。
最高裁昭和60年5月23日判決(民集39巻4号535頁以下)は、物上保証人 の一部代位の事案で、満足面につき債権者が優先するという立場(いわゆる 債権者優先主義)を採用したが、その射程や理論構成は明らかにしていない。
またその「優先」はあくまで原債権者と代位者との間で相対的に生じるのか 否か等の法律構成も未解明のままといってよい(1)。他方で、近年、最高裁平 成17年1月27日判決(民集59巻1号200頁)は、抵当権の複数の被担保債権 のうちの1個についてのみ保証がなされ、保証人が保証額を全額代位弁済し たケースにおいては、前掲最高裁昭和60年判決で示された債権者優先主義は 妥当しないとした。代位者と債権者は抵当権を準共有し、代位取得した債権 額と債権者の残債権額の割合に応じて配当を受けうるとしたのである。この 判決により、債権者優先主義の妥当範囲に一線が画されたわけであるが、そ の妥当性や射程についてもなお学説の議論が一致しているとはいえない(2)。 このように、我が国の一部代位に関する議論はいまなお不明瞭な部分を多く 残しているといえよう。
ここで諸外国の状況に目を向けると、一部代位の局面においてはイタリア 等で我が国の民法502条と同様の平等主義がとられている一方、フランスや ドイツ、オーストリア、スイス等では債権者優先主義がとられている。上記 のように、我が国の判例において(その射程範囲は措くとしても)満足面で 債権者優先主義が採られた現在、後者のグループで債権者優先主義がどのよ うに基礎づけられ、運用されているかを見てみることは、債権者優先主義に 関する理解を今後より深化させるための参考となるものと思われる。本稿は、
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(2)
その作業の一環として、ドイツにおける債権者優先主義の展開と現状を素描 することを試みるものである(3)。
!
2 BGB における「代位」と債権者優先主義
ドイツにおいては、我が国の弁済者代位制度に相当する「法律に基づく債 権移転」制度(以下、便宜上これも「代位」または「代位制度」と呼ぶ)が 存在する。しかし、我が国の民法500条やコード・シヴィル1251条のように、
法定代位権者を包括的に定める規定はない。BGB の各所に、債務者に代わ り債権者に弁済し法律上当然に「代位」できる者ごとに、個別に規定が置か れている。その効果は、「債権者を満足させた限りで、債権者に属する債権 が移転する」と規定されており、また BGB412・401条により従たる権利も 移転する。つまりわが国同様、債権者が債務者に対して有していた債権(原 債権)および担保権の移転である。ここにいう従たる権利とは、主に質権・
抵当権といった付従性のある担保権が想定されている。なおドイツにおいて は、付従性のない物的担保として土地債務が存在するが、「代位」が生じる 場合においては、債権者は原債権の担保とされていた土地債務を、債務者に 代わり弁済した者に譲渡する義務を負うとされる(4)。
さて、ドイツの代位制度においては債権者優先主義がとられていると説明 されるが、それは、たとえばコード・シヴィル1252条のように(5)、ある債権 の部分的弁済を予定したものではない。BGB 各所の「代位」を定める規定 の中で、「債権の移転が生じる」という文言に引き続いて、「移転は債権者の 不利益に主張することができない」という定型句が付加されるという形を とっている。以下、本稿ではこれを、一般的にわが国で想定されている「債 権者優先主義」とは区別する便宜上、「不利益禁止条項」と呼ぶ。
この不利益禁止条項は、BGB 内に限るとおおよそ以下の条文の中に見い だされる。それは268条3項2文[弁済権(Abl!sungsrecht)を
有する第三者の弁済に関して]、426条2項2文[連帯債務者の弁済に関して]、
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(3)
774条1項2文[保証人の弁済に関して]、1143条1項2文(774条1項を準用)[債務者でない抵当不動産 所有者の弁済に関して ]、 1150条(268条を準用)[抵当土地に関し利害関係を有す
る第三者による弁済に関して ]、1164条1項2文[債務者による抵当権の被担 保債権の一部弁済に関して]、 1225条2文(774条の準用)[債務者でない質物所有者による弁済に関して]、1249条2文(268条2項3項の準
用)[質物の譲渡により質物上の
権利を失う者による弁済 ]、1584条(1607条4項の準用)[離婚後扶養義務を負う元配
偶者と親族の関係に関して]、1607条 4項[後順位の扶養義務を負う
親族による扶養の実施 ]においてである。このほかにも、保険法などに同旨の
規定が存在する。
!
3 本稿の対象と叙述の順序
ドイツにおける議論を見ると、これらの「代位制度」及び不利益禁止条項 を論じるにあたっては、全てを包括して取り上げるものや、いわゆる保険法 や家族法上の「代位」は別グループとし、それ以外の、弁済権ある第三者・
保証人・連帯債務者の「代位」に関しては区別をせず一括して扱うものも多 く見受けられる(6)。本稿では、弁済権ある第三者の「代位」も視野に収めた 検討の手始めとして、まずは保証人の「代位」と不利益禁止条項の適用に関 する議論に焦点をあてるが、他の代位権者に関する議論も、保証人のそれに 関連する限りで参照していくこととする(7)。
!
2でみたように、不利益禁止条項が規定されてはいるものの、我が国の 502条に関する解釈論同様、ドイツにおいても、その適用範囲については判 例も学説も分かれており今なお不明確な点が多いとされる(8)。その一因は、
まず、この不利益禁止条項の文言の不明瞭さにあろう(9)。他方、学説・判例 の分裂は、BGB 以前の債権者優先主義に関する普通法学説が影響している との指摘もある(10)。そこで以下では、ドイツ普通法学説における代位制度 に相当する、訴権譲渡の利益と不利益禁止条項のありようと BGB の制定過 程を概観した後、BGB のもとでの議論状況を見ていくこととしたい。
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(4)
Ⅱ ドイツ法の展開と現状
1.後期普通法学説期の状況
先にみた「代位」の条文において繰り返し現れる不利益禁止条項は、普通 法学説以来しばしば言及されている法格言、 Nemo subrogat contra se に 由来するとされる(11)。これは、保証人に関していえば、彼が債務者に代わ り債権者を満足させた場合に与えられる、いわゆる「訴権譲渡の利益(bene- ficium cedendarum actionum)」との関係で、以下のように語られてきた。
まず、BGB 制定以前の状況においては、債務者に代わって弁済した者・
たとえば保証人が、債権者の有していた原債権や担保権を法律上当然に取得 するというしくみにはなっていなかった。弁済者は、債務者との人的関係に 応じて固有の求償権(委任反対訴権・事務管理反対訴権)を取得するだけで あった。そのような関係がなければ、債務者に対して求償の道がないことも ありえた。
時代が下り、債務者に対する固有の求償権を持たない者には求償手段を付 与し、また固有の求償権を有している者にはそれを担保するために、債権者 が原債権の担保として有していた担保権を利用させるべく、訴権譲渡の利益 が認められるようになった。これは、債権者に対して弁済する際に、それと 引き換えに、債権者の有する諸権利の譲渡請求を認めるというものであった。
保証人等から弁済を受ければ、債権者が有している諸権利(諸訴権)は価値 のないものになる。他方、これらの諸権利を、弁済した者が利用できれば、
それは債務者に対する求償を容易にする、ということが考慮されてのことで あったという。
このように、弁済者の求償手段・あるいは固有の求償権の強化の手段とし て債権者の有する権利が有用であること、他方で債権者にとってそれはもは や無価値であることが、訴権譲渡を認めるべき理由付けとしてあげられてき
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(5)
た。そして、訴権の譲渡により債権者に何の不利益も生じないのに債権者が 譲渡を拒絶するならば、それは悪意を帯びるとして、保証人側からの悪意の 抗弁(exceptio doli)が主張されることとなり、債権者は譲渡を拒絶できな いとされた(12)。
このことから逆に、かかる訴権がまだ債権者にとってなお有用であるとき あるいは訴権の譲渡が債権者にとって不利益をもたらすときには、債権者は それを理由に譲渡を拒絶することができるとされた。これが、現在の不利益 禁止条項の前身であろう(13)。その譲渡拒絶は、保証人が、債権者にとって 生じうる不利益を除去する措置を講じるまで、認められ得たとされる。たと えば残債権額を全部弁済するとか、保証人が保証していない債権を債権者が 有しており、それが被保証債権とともに同一担保物の被担保債権となってい るようなときには、その他の債権も保証人が(自ら保証してはいないにかか わらず)弁済する、といった対応が訴権譲渡のために必要だとされている(14)。
かかる譲渡拒絶の法文上の根拠としては、しばしば C.8,41,2が挙げられ てきた(15)。これは次のようなものであった。
同一の債権について、複数の質物と保証人を債権者が有する場合に、債権者は ― 債権者がそうすることを選んだときには ― 保証人自ら義務を負った額を訴求でき る。保証人が支払った場合には、債権者は質物に対する権利を保証人に譲渡しな ければならない。しかし債権者が同一の質物あるいは抵当を他の件についても担 保としているときは、債権者は、全債権が弁済されるまでは、担保の移転を強制 されない
(16)。
この法文のみをもって債権者による譲渡拒絶を認めてよいかという点で疑 念が生じないではないが、肯定論者はむしろ、上述の、(求償のために債権 者にとって無価値のものを譲渡するという)訴権譲渡の利益の意義から譲渡 拒絶を導けると考えていたようである(17)。
なお債権者が債務者に対して、保証の対象となっていない他の債権を有す
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(6)
るときにも譲渡拒絶が認められるのか、ここにいう「不利益」とは広く一般 的に経済的な不利益を指すかについては争いがみられるものの、これらの点 を肯定するのが有力説であった(18)。
さらに、このように債権の一部のみが弁済された場合には債権者は訴権譲 渡を拒絶でき、弁済者は弁済額に応じて債権者の権利を取得することはでき ないということから、主債務者破産時には、保証人から一部弁済がなされて も債権者は債権全額をもって配当加入できるということも導かれていた(19)。
2.BGB 制定過程
後期普通法学説においては、債権者による訴権の「譲渡拒絶」という形で、
「代位」により債権者が不利益を被ることを防ぐ構成が採用され、実務にも 取り入れられていた。しかし、BGB 制定過程当初の部分草案作成段階に検 討された、いわゆるドレスデン草案においては、保証人の弁済により債権者 の有する権利の移転は法律上当然に生ずるものとする規定がおかれたにもか かわらず、不利益禁止条項に相当するものは付加されていなかった(20)。
これが現れるのは、ドレスデン草案を部分草案として検討した第一委員会 においてである。第一委員会の資料では(21)、普通法学説が依拠したローマ 法文に加えて、一部保証のケースや複数債権の一部のみを保証した上で保証 債務を履行したケースにおいても不利益禁止条項の適用があるとした判決が 紹介されている。
この第一委員会での審議において、保証人の債権者の権利への「代位
(Eintritt)」は債権者の不利益をもたらしてはならない旨が承認された(22)。 これを承けて委員会草案670条では、「移転は債権者の不利益に主張してはな らない」という文言が付け加えられ、BGB 第一草案676条では、若干表現を 変え「移転は債権者の不利益に主張することができない」となる。
BGB 第一草案理由書では、原債権の保証人への移転が、債権者の不利益
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(7)
には主張され得ないことが述べられ、注釈で第一委員会で挙げられた資料や ライヒ上級商事裁判所の判決、コード・シヴィルやフランス商法典の条文に 言及されるにとどまり、詳しい説明はない(23)。同旨の規定を置く第一草案 337条(BGB426条)においても同様であった(24)。
なお、BGB268条に対応する規定は第一草案・第二草案段階では存在せず、
いわゆる第三草案で現れる(25)。そのため、第一草案337条・676条で不利益 禁止条項に関する説明がほとんどないのは、BGB268条に関する説明で既に 述べられているからではなく、単に詳細に述べる必要がないと判断されたも のと推測される。
この後、第一草案676条の他の部分については第二委員会で若干の修正が あったものの、不利益禁止条項については変更なく、現在の BGB774条とし て成立した。なお、不利益禁止条項のある同条1項の規定は以下のようであ る。
BGB7 7 4条 保証人が債権者を満足させる限度で、債権者の債務者に対する債権は 保証人に移転する。移転は債権者の不利益に主張することができない。債務者と 保証人の間に存在する法律関係から生じる抗弁はこれによって影響を受けない。
3.BGB 施行後の議論
! 1 概要
このように、BGB 制定過程ではほとんど議論もないままに、「代位制度」
の中に不利益禁止条項が置かれることになった。
この不明瞭といってよい規定の内容を少しでも明らかにするべく、現在ま で、この不利益禁止条項は、しばしば次のようにパラフレーズされている。
すなわち、債務者以外の者によって満足を受けた債権者は、債務者自身が履 行した(あるいはそれによって債権が消滅した)場合よりも不利な地位にお
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(8)
かれてはならない、と(26)。では、この不利益禁止条項によって、どのよう な場合に、どのような法律効果が生じるのであろうか。
まず、ある1個の債権につき保証がなされ、その保証債務の一部のみが弁 済されたときに、不利益禁止条項が妥当することについては異論がない。こ のとき、まず774条1項・401条・412条の効果として、原債権及び従たる権 利が、弁!済!額!に!応!じ!て!保証人に移転する。いわゆる一部移転が生じることに なる(27)。弁済により移転する従たる権利の中には質権・抵当権等の物的担 保も含まれる。物的担保が抵当権であったときには、抵当権は、債権者と保 証人とに分割される。そして不利益禁止条項により債権者が優先することに なるため、両抵当権の間には優劣関係が生じるとされる(28)(29)。
しかし、これ以外の点、たとえば不利益禁止条項の適用範囲や「不利益禁 止条項に基づいて」生じる法的効果などについては、我々の目から見ても、
「代位」および不利益禁止条項の文言からは容易に導けない。その文言があ まりに簡潔であるがゆえに、解釈に委ねられることになり、普通法学説と同 様に解そうとする説と反対説とがしばしば対立することとなった。
その対立は具体的には、①債務の一部保証をしその保証債務は全部履行し た保証人に不利益禁止条項の適用はあるか(以下、不利益禁止条項の適用肯 定=債権者の優先が認められる、という意味で用いる)、②債権者が債務者 に対し被保証債権とは別の債権を有している場合に保証人が保証債務を全部 履行したときには不利益禁止条項の適用はあるか、③主債務者破産時に一部 弁済した保証人は破産手続に配当加入できるか、といった点で現れてきた。
③も興味深い点であるが破産法との関連があるため一旦措くこととし、以下 では、特に不利益禁止条項の適用範囲の問題として①②を取り上げることと する。
なお、この対立は、ときには「代位制度」の沿革や立法者意思の解釈とも 関連させて論じられてきたが(30)、不利益禁止条項の根拠をどのように解す
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(9)
るかという問題ともかかわっている。そこで、まず前提問題として不利益禁 止条項の根拠論を概観し、その後、個別の問題について見ていく。
!
2 不利益禁止条項の根拠
不利益禁止条項の根拠を何に求めるのかを論じる文献は多くはない。この 点につき、後期普通法学説では、概ね次のように説かれてきた。いわく、債 権者の権利の移転を認めるのは、これが弁済者にとって有用であり、債権者 にとってはもはや価値がないからだということの裏返しとして、債権者の有 する諸権利につき債権者がなお利益を有するときには諸権利の譲渡は認めら れない、というのである。
しかし、後期普通法学説期と異なり、BGB のもとでは、債権者の権利移 転が法律上当然に生じることとなった。譲渡拒絶すなわち原債権・担保権を そもそも移転させないのではなく、弁済額に応じて移転した権利の主張・行 使を制限するという構成がとられたわけである。そうすると、どのような場 合に、「なぜ」権利行使が認められないのか、という点について以前とは若 干異なる理由付けを要するとも考えられる(31)。以下の諸見解はその理由付 けの試みと見ることができよう。
なお、Ⅰ
!
3で述べたように、不利益禁止条項については代位者が保証人で あるか、弁済権を有する第三者であるかを区別せずに論じられることも多く、根拠論もこれら全代位権者に一般的に妥当することを目指して語られている こともある。この点に注意しつつ、主なものをみる。
!
a 「代位制度」の意義と構造を強調する見解BGB 制定後も、後期普通法学説期と同様に、不利益禁止条項の根拠を代 位制度の意義との関係で説くものがある(32)。すなわち、代位はあくまでも 債務者に代わって弁済した者の求償の手段として、あるいは求償を容易にす
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(1 0)
るために生ずるものであり、それによって債権者が不利益を受けることが あってはならない、という。
このことから、先に見た「債務者以外の者から弁済を受けた債権者は、債 務者自身から弁済を受けたときと比べて不利益を受けてはならない」という ことを導き、さらにこれを基準として−すなわち「債務者自身が弁済したと きと比べて」不利益が生じるか否かによって−不利益禁止条項の適用範囲を 定めようとする。
この見解によれば、①②いずれにおいても、債務者自身が弁済したときに 比べれば債権者が事実上不利益を受ける可能性は否定できないため、適用を 肯定することにつながりやすい。そこで「不利益」とはあらゆる不利益を指 すのかが問題となるのだが、この点は以下の
!
3で再度言及する。!
b 担保目的に注目する見解主に保証人に関するものであるが、「代位」により債権者に不利益を及ぼ すことが禁じられるのは、保証がなされた趣旨や担保目的に反するからであ ると説くものがある(33)。
この考え方によれば、債権の一部弁済のケースで、一部弁済した保証人が 債権者に不利益を与えるような状況で債務者に対する諸権利を主張したりす ることは、まさに保証の趣旨に反するであろう。他方、①②においては、保 証人はすでに負担した義務を果たしているから保証がなされた目的は達して おり不利益禁止条項は適用されないと解することもできようし、保証の趣旨 から考えて適用されるべきだと解することも可能となろう。
!
c 債権者に対する債務の残存を根拠とする見解不利益禁止条項の適用にあたり、債権者の残債権について、弁済者がいま なお債務を負っていることをメルクマールとするものがある(34)。その前提
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(1 1)
として、不利益禁止条項には求償の循環を避ける趣旨があるというのである。
すなわち、一部弁済ののち、債権者に対してなお残債権額について支払義務 を負う者は、債務者から一部弁済額につき求償を得たとしても、受領したも のをただちに債権者に引き渡さなければならない。これは迂遠であり、かか る求償の循環・迂回を防ぐためには、弁済者は、債権者が全額の弁済を受け るまでは債務者に対して何も請求できないとしておく方がよい(35)。不利益 禁止条項はそれを考慮したものだとする。
このように解することから、後に見るように、不利益禁止条項が妥当する のは、「弁済後もなお債権者に債務を負う者」すなわち一部弁済した保証人 か連帯債務者に限定されることになり、①はその範囲から外れることにな る(36)。他方、求償循環の回避という点を強調するならば、いわゆる固有の 求償権による請求についても、不利益禁止条項が妥当し請求が許されないこ ととなる(37)。なぜなら、保証人が債務者からいかなる方法・手段で受領し たとしても、原債権による請求の際と実質的に生じる結果は同じだからであ る。
!
d 債務共同体の存在を根拠とする見解保証人や連帯債務者を念頭におきつつ、弁済者が債権者に劣後すべきなの は、問題となるある債務について、債務者と弁済者とが、債権者を完全に満 足させるための債務共同体(Schuldgemeinschaft)を形成しているからであ るとするものがある(38)。
その説明においては、合名会社の社員が会社に対して損害賠償請求権を有 する場合に、この会社が破産したときには、社員は会社債権者に劣後しなけ ればならない、という事例が挙げられる。そしてこの状況と「代位」のケー スは同じに見るべきである、とするのである。たとえば保証人は、債務者と 共に債権者を満足させるべき債務共同体の一員であるといえる。よって、そ
−5 3 0−
(1 2)
の共同体外の、いわば第三者である債権者に対しては劣後すべきであるとい う(39)。
この説と
!
c との相違点はどこにあるのだろうか。それは、この債務共同体 に属する者は、債権者に対して債務を負う者には限定されず、たとえば BGB 268条の弁済権を有する第三者もこれに属するとする点であろう(40)。いわば、債権者との関係でみれば、債務者無資力のリスクあるいは担保権実行により 全額弁済を受けられないリスクを負担すべき地位にある者については不利益 禁止条項が適用されると解することができよう。
この見解によれば、不利益禁止条項が適用されるかどうかは、その債務に ついて弁済者が債務共同体に属していると見られるかどうかにかかっており、
その判断は形式的でなく、弁済された債権と債権者がなお有する債権との関 係、弁済者の意思等を勘案して判断することになる。
!
e 担保権の不可分性を根拠とする見解BGB 制定以前の、ある抵当権の被担保債権の一部額について保証がなさ れ、保証人がそれを弁済したというケースを予定しての議論であるが、この ときに債権者は抵当訴権の譲渡を拒絶できることを、担保権の不可分性から 説明するものがある(41)。すなわち、担保権の不可分性から、債権者は全部 の弁済を受けるまで抵当権の全部を行使できるのだから、保証人の一部弁済 により債権者は抵当権の譲渡義務を負うとすれば、債権者は上記の権利を害 されることになる、という。
譲渡義務を法律に基づく移転(代位)に置き換えるならば、担保権の不可 分性から、一部弁済を受けた抵当債権者は、全部の弁済を受けるまでは(少 なくとも)配当において優先するべきだということになろう。
−5 3 1−
ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(1 3)
!
f 矛盾行為禁止的な理由からの基礎付け以上が主に保証人の「代位」を想定したものであるのに対して、不利益禁 止条項が定められているケース一般につき、統一的な基礎付けを試みるもの がある(42)。Selb は、不利益禁止条項の根拠を、以下のような一般原則に求 める。それは、「弁済者は自ら弁済のために債権者に一方の手で与えたもの を、他方の手で再び奪ってはならない」という原則である。いわば矛盾行為 禁止の一例として不利益禁止条項をとらえるものといってよかろう(43)。
この説によると、代位した保証人の権利行使により債権者が事実上不利益 を受けうるケースには広く不利益禁止条項が適用される可能性があることに なろうか。
ここでは、我が国の「債権者優先主義」の論拠とほぼ同様のことが述べら れてきたといってよい。もっとも、我が国において有力に説かれてきた、保 証人の義務の残存への言及は、他の代位権者規定における不利益禁止条項を 説明できないこともありドイツでは賛同者を得なかった。また担保権の不可 分性への言及もほとんどなく、参照しえた限りの学説の中には見あたらない。
後者についていえば、不利益禁止条項の適用範囲を担保権行使の局面に限 定するならば、これは論拠として十分用いることができるはずである。しか しこの後見るように、初期の有力学説は−後期普通法学説期と同様に−不利 益禁止条項の適用範囲を広く解する傾向があった。それ故に取り上げられな かったということかもしれない。
他方、担保目的に注目する見解は一定の支持を得ているが、これは担保提 供者への不利益禁止条項適用を正当化するにすぎないため、限定的にしか用 いられていないようである。
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(1 4)
!
3 不利益禁止条項の適用範囲
既に見たように、不利益禁止条項が適用される典型例は、ある1個の債権 の全部につき保証がなされ、保証人が保証債務の一部を弁済したにすぎない ときである。では、これ以外のケースについてはどのように考えられてきた のであろうか。
これまで議論の俎上に上ってきたのは、Ⅱ3
!
1の①債務の一部保証をしそ の保証債務は全部履行されているケースと②債権者が債務者に対して複数債 権を有しその一部が弁済されたケースの2タイプであるが、②はさらに②‐1 保証人が信用保証ないし根保証をなし、複数債権の総額の一部にあたる保証 限度額を支払ったケースと②‐2被保証債権と他の債権が同一の物的担保の被 担保債権となっており被保証債権のみが弁済されたケースとに分かれる。!
a 一部保証・根保証のケースををめぐってこのうち、①および②‐1については不利益禁止条項の適用が古くから認め られている。
[判例の状況]
判例は比較的古くから、一部保証や信用保証・根保証のケースで、保証人 が保証額を全額支払っていたとしても、債権者が債務者に対してなお債権を 有しているときには、不利益禁止条項の適用を認める立場をとってきた。
この点についてはライヒ裁判所(以下 RG と略す)1911年2月13日判決(44)
がリーディング・ケースとされており、本判決は信用取引関係から生じる債 権につき限度額を定めて保証した信用保証のようなケースでは、その取引関 係から生ずるすべての債権をもって単一の債権と解することも可能であり、
従って総債権額の一部の弁済も債権の一部弁済とみうるとしている。このほ か、連邦通常裁判所(以下 BGH と略す)においても、BGH1984年10月30日 判決(45)がこれを一般論としては引き継いでいる。
−5 3 3−
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(1 5)
このうち、根保証において保証限度額を超える分は、保証人にとっては「他 の債権」であり②‐2の場合と同様に扱うべきだとの考えも成り立つが、かか る立場は採用されていない。このように解されている理由としては、先に述 べた RG1911年判決にいう、「継続的取引関係から生じる諸債権は1個の債 権」という見方があげられる。また、別の RG 判決では、継続的な取引関係 から生じる債権についての保証で限度額を設定する際に、それが債務者への 信用供与の範囲制限をも条件としていたと解される場合には、限度額を超え る部分は保証の対象とならないと述べたもの(46)がある。このことからする と、かかる条件がある場合には限度額を超える分を「他の債権」として扱う 可能性もあるが、かかる条件がない限りは、債権者が全額の満足を受けるま で保証人も(支払義務は負わないとしても)一定の責任を負うという発想が あるかに思われる。
このように、根保証のケースで一律に不利益禁止条項が妥当するというの ではなく、保証が提供された趣旨を個別具体的に検討・考慮したうえで、債 権者が優先すべきかを決すべきであるという考え方が背後にあることがうか がえ(47)、具体的な保証の内容・目的等をも勘案して不利益禁止条項が適用 されているといえよう。
[学説の状況]
学説の中では、
!
2に見た Vischer は、不利益禁止条項の根拠を「債務の残 存」に求めるため、このケースでは不利益禁止条項の適用を否定すべきだと 論じたが(48)、「債務共同体の存在」を不利益禁止条項の根拠とする Schulz は、保証の対象外となっているとはいえ、同一の債務に関する債務共同体に 保証人は属しているのだから、適用肯定すべきだと説く(49)。そのほか、詳 細な議論はみられないが、学説の多くは判例に従って比較的古くからこの ケースへの不利益禁止条項適用を肯定している(50)。−5 3 4−
(1 6)
これに加え、銀行取引においては、債権者がすべての請求権につき弁済を 受けるまで債権者の権利が保証人に移転しないなどの内容を定めた代位制限 条項が付されているケースも多い(51)。このように、そもそも保証人が義務 を負っていない範囲の債権との関係でも不利益禁止条項が適用され、保証人 の劣後を広範に認めることの妥当性については、保証人保護の観点からは問 題となりうるとも思われるが、ここでは債権者保護の傾向が強く見られ、大 きな問題とはなっていないようである(52)。
なお、保証債務の一部弁済と一部保証に基づく保証債務の全部弁済を区別 しない理由は判然としない。Schulz は区別する根拠がないというにとどま り(53)、他に詳しい説明はない(54)。
!
b 債権者がなお「他の債権」を有するケースをめぐって!
a では判例・学説ともあまり対立がないのに対して、議論が分かれてきた のは②‐2のケースについてである。このとき、保証人は弁済により原債権・担保権を取得する。しかしその行使を許せば、債権者はその範囲で、「他の 債権について」事実上優先弁済を受けられなくなる可能性が出てくる。これ を債権者の「不利益」と評価したうえで、不利益禁止条項をもって保証人は 債権者に劣後するとすべきなのであろうか。
[判例の状況]
まず判例がどのような見解を示してきたかをみる。ただ、判例・学説とも に、この問題において保証人ケースと他の代位権者ケースとを区別していな い。議論の流れを追う上では、他の代位権者ケースに関する判決も見ること が必要となるため、両者が混在していることをお断りしておく。
最初のリーディング・ケースと目されているのが、
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a でもみた RG1911年 判決である。ここでは、一般論として、「保証人は、債権者の満足を受ける 権利(Befriedigungsrecht)を、自らの保証が関連している債権については、−5 3 5−
ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
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これを減縮することは許されない。しかし、同一債権者の同一債務者に対す る他の債権については債権者の優先権は及ばず、債権者は弁済した保証人に 移転した債権の主張によって、774条1項2文の意味において不利益を受け たことにはならない。この場合には、債権者はそれによって同一の債務者に 対する他の債権の満足を妨げられたにすぎないからである」と述べ(55)、債 権者が有する他の債権との関連では不利益禁止条項が適用されないと述べた。
これに対して RG1913年4月2日判決(56)は、後順位抵当権者による先順位 抵当権の被担保債権弁済の事例においてであるが、RG1911年判決を引き合 いに出しながらも、普通法学説においては他の債権との関係においても不利 益禁止条項が適用されていたこと、立法者の見解においてもそれは引き継が れていたことを指摘して、所問を肯定した。
このように、2つの方向が示されたが、その後の RG1931年2月18日判決(57)
は RG1913年判決寄りの路線をとった一方(58)、RG1914年6月17日判決(59)お よび RG1932年3月21日判決(60)はふたたび RG1911年判決に従った。
即ち、RG1914年判決は、「全く別の法律関係に根拠を有する債権、あるい は第三者により弁済された債権と全く法律上の関連を有しない債権」につい ては、不利益禁止条項が妥当しないとした(61)。また RG1932年判決は、本条 にいう「不利益」とは一般的な経済上の不利益を指すのではないとし、また 保証は債権者の法的地位を強化するためになされたものであるところ、ここ で問題なのは、保証人の「代位」が、まさにその債権者の法的地位を害する ことなのである、という(62)。
ここに至り、「他の債権」との関係では不利益禁止条項を適用しないとい う見解が定着したかにみえたが(63)、1990年に BGH は、次のようなケースで、
再度、債権者が有する他の債権のために不利益禁止条項の適用を認める見解 を採用した。これは、2つの建築計画につき、建築計画ごとに2度に渡り融 資がなされ、当事者の合意によりその全債権を担保すべく複数の土地債務が
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設定される一方、第2融資の一部についてのみの保証人が保証額全額を弁済 したというケースを扱ったものであった。そしてこの保証人が、弁済額に応 じて譲渡された土地債務以外については権利を有しないことを示すにあたり、
保証の対象となった債権と他の債権が同一の物的担保の被担保債権となって いる場合には、保証人は不利益禁止条項によりこの物的担保についての権利 を主張し得ない、ということを述べている(64)。
[学説の状況]
初期の学説では、後期普通法学説の影響を受け、不利益禁止条項にいう不 利益とは、一般的なあらゆる経済上の不利益を含むとして、「他の債権」と の関係でも債権者の優先を認めるものが有力であった(65)。もちろん、否定 説が皆無というわけではない。先にみた Vischer は、債権者の有する他の債 権については保証人は義務を負っていないのであるから不利益禁止条項の適 用はないとする(66)。また Schulz は、フランスにおける議論を参照しつつ、
他の債権は、保証人と債務者が形成する「債務共同体」の対象となっていな いから、不利益禁止条項の適用はないとするが(67)、これらは少数説にとど まっていた。
ところが、上記の RG1911年判決から1932年判決の流れを受けて、学説で は制限的解釈が有力となっていった(68)。そして不利益禁止条項が妥当する のは、保証人が保証を引き受けた当該債権の残債権との関係においてのみで あり、債権者が債務者に対して有する他の債権が保証人の代位取得した原債 権と競合するときは、債権者は優先権を主張できないと解するものが増えて いる(69)。RG1914年判決が示したように、債権者が優先できるのは、一部弁 済された債権と一定の法的関連のある債権を有している場合に限られるとい う形で、やや折衷的解釈をとるものもある(70)。ただしその「一定の法的関 連のある債権」が具体的にどのようなものを指すかは明らかではなく、元本
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
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債権と利息債権の関係が例示されるにとどまる(71)。
このような制限的解釈あるいは折衷的解釈が主張される際には、しばしば、
RG1932年判決の立場を受けて、債権者は一般的にあらゆる経済上の不利益 から保護されるというのではないとされる(72)。その理由は、不利益禁止条 項の基礎づけにおいて担保目的を強調する立場からは、債権者は、本来保証 が引き受けられた担保目的の侵害から守られるのみだからだ、とされる(73)。 債権者保護にかなり傾いていた旧来の学説と比較すると、債権者が保証を徴 した目的、保証人が保証を引き受けた趣旨をカウントして不利益禁止条項の 適用範囲を制限することで、債権者と保証人の利益のバランスをはかってい るとみることができようか。
もっとも、先にみたように BGH が再度拡張解釈をとったと解される判決 を出したため、学説はなお流動的であり、これが定着するのか、それとも制 限的解釈が維持されるのかについては今後の追跡を要しよう(74)。
Ⅲ むすびに代えて
以上、ドイツにおける保証人の代位と不利益禁止条項の適用をめぐる議論 の一部を、大づかみに見てきた。
ドイツにおいては普通法学説期に、不利益禁止条項の適用範囲を広くとる ような見方すなわち「債権者は代位によって生じうるあらゆる経済上の不利 益から守られるべきである」ということが有力に主張されていたため、それ が BGB の施行後まで影響を及ぼしていたことが見て取れる。また一部保 証・根保証に基づく弁済も保証債務の一部弁済とほぼ同じように扱うことは 定着しているようである。他方、債権者が債務者に対して有する「他の債 権」との関係でも保証人が劣後しなければならないかという点については、
被保証債権と全く法的関連のない債権に関しては不利益禁止条項の適用を認
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(2 0)
めない、ということがミニマムの合意内容となっているとはいえそうである。
もっとも、このようなごく一部の議論を垣間見たのみではドイツにおける 不利益禁止条項のありようについて述べることは困難である。保証人の代位 をめぐる議論に限っても主債務者破産時の扱いや、さらに弁済権を有する第 三者の弁済と不利益禁止条項の適用に関する議論を渉猟して後、おぼろげに でも全体像が見えてくるものと思われる。これらは次の課題としたい。
(了)
(1)この問題に関する文献は数多いが、問題点を俯瞰するものとしてさしあたり 寺田正春「一部代位における債権者優先主義」金融法研究資料編 (3) 8 5頁以下
(金融法学会、1 9 8 7年) 、秦光昭「一部代位をめぐる判例・学説の現状と展望」
金法1 1 4 3号1 9頁以下(1 9 8 7年) 、理論構成に言及するものとして同「債権の一 部代位弁済と被担保債権の一部の代位弁済」金法1 1 5 0号5頁以下(1 9 8 7年)を 挙げておく。
(2)平成1 7年判決に関し疑念を呈する見解として、たとえば佐久間弘道「数個の 債権を担保する抵当権と一個の債権の代位弁済」塩崎勤ほか編・新裁判実務大 系 (2 9) 2 4 5頁(青林書院、2 0 0 7年) 、塚原朋一「東京高判平成1 6. 6. 2 4判批」金 法1 7 3 4号4 6頁(2 0 0 5年) 。
(3)立法史的にみれば、我が国の代位制度に関する一般規定はフランス民法に、
一部代位に関する規定はイタリア民法に由来する。他方で判例が一部代位の局 面で債権者優先主義を採用しているということからすれば、まずはフランスに おける議論を主たる対象とすべきであろうが、これは後日改めて検討したい
(フランス法の状況については既に寺田・前掲注 (1) 内で言及がある) 。ただ、
債権者優先主義の適用範囲について、フランス法では比較的早期に、債権が部 分的に弁済され、一部代位取得された担保権の行使の局面に限定する解釈が採 用されたのと異なり、ドイツにおいては債権者優先主義の適用範囲につき限定 的解釈と拡張解釈の双方が唱えられてきた。そこにみられる議論はフランス法 と対照をなす一例として取り上げる価値はあると思われる。
(4)判例・通説である。なお従たる権利の移転は、BGB4 1 2条・4 0 1条により生ず る。さしあたり代表的な説明として、J. von Staudingers Kommentar zum Bu ¨rgerlichen Gesetzbuch, § §7 6 5 ‐ 7 7 8, 1 3. Aufl., 1 9 9 7, §7 7 4 Rn 1 9ff.(Horn)
[以下 Staudinger/Horn で引用] ;ebd., § §2 5 5 ‐ 2 9 2, 1 3. Aufl., 1 9 9 5, §2 6 8 Rn
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)
(2 1)
1 1f.(Selb) [以下 Staudinger/Selb で引用]
(5)コード・シヴィル1 2 5 2条 前数条に定める代位は、債務者に対しても、保証 人に対しても生じる。部分的にのみ弁済したときは、代位によって債権者を害 することができない。この場合には、債権者は、部分的弁済のみを行った者に 優先して、自己に支払われるべきものについてその権利を行使することができ る。 [訳は稲本洋之助ほか訳
・法務大臣官房司法法制調査部編・フランス民法 典 ― 物権・債権関係 ―(法曹会、1 9 8 2年)によった。 ]
(6)たとえば、No ¨rr/Scheyhing, Sukzessionen, 1 9 8 3, §1 3S. 2 0 9ff. ; Olshausen, Gla ¨ubigerrecht und Schuldnerschutz bei Forderungsu ¨bergang und Regre ! , Habil. Bonn 1 9 8 8; Koppenfels-Spies, Die cessio legis, 2 0 0 6などは「法律に基づ く債権移転」のタイトルの下にこれらを包括的に取り上げて論じているほか、
コンメンタールではたとえば2 6 8条3項2文に関するコメントの中で保証人に 関する判決を引用したり、あるいはその逆のパターンもしばしば見られる。判 決の中でもいわゆる弁済権ある第三者の弁済と保証人のケースを区別せず並列 的に取り上げているものがある。
(7)これは、普通法学説以来、 「代位」と不利益禁止条項に関しては保証を念頭 に置いた論稿や重要判決が多いこと、また BGB2 6 8条およびそれに基づいて弁 済をなす「一定の利害関係を有する者」は保証人らと同列に扱われることが多 いが、BGB2 6 8条の「代位」は、歴史的には jus offerendi と呼ばれ、この後に みる保証人や連帯債務者の「代位」とは別の系譜に属すること、保険法や家族 法上の「代位」と不利益禁止条項については、いわゆる財産法一般の代位とは 別の考慮が働いている可能性があることによる。
(8)Schmoeckel/Ru ¨ckert/Zimmermann(Hrsg.) , Historisch-kritischer Kommen- tar zum BGB, Bd.2,2.Teil, 2 0 0 7, § §4 2 0 ‐ 4 3 2 Rn.1 5 2(Meier) [以下 HKK/Meier で引用]usw. なお代表的な債権法・担保法の教科書類においては、不利益禁 止条項についてはほとんど説明がないか、あるいは保証債務の一部が弁済され、
一部移転した担保権の行使にあたっての競合関係を処理するための規範として
−いわば典型例のみを挙げて−説明されるにとどまり、適用範囲等が詳しく論 じられることは少ない。
(9)この点を指摘する者は多いが、例として Staudinger/Selb §2 6 8 Rn 1 4f. ; Ol- shausen,a.a.O.,(Anm.6) , S.2 3 8.
(1 0)Olshausen, a.a.O.,(Anm.6) , S.2 3 9; HKK/Meier § §4 2 0 ‐ 4 3 2Rn1 5 2.
(1 1)もっとも、不利益禁止条項の淵源は従来の議論の中では明らかにはされてい ない。ライヒ裁判所の初期の判決は、根拠として普通法・コード・シヴィル1 2 5 1 および1 2 5 2条・プロイセン法等を援用しているが(vgl. RGZ8 2, 1 3 3, 1 3 5f.) 、そ
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(2 2)
れ以前のどこまで遡れるのかは不明である。Koban, Der Regress des Bu ¨rgen und Pfandeigentu ¨mers nach o ¨sterreichischem und deutschem Rechte, 1 9 0 4, S.5 3(Fn.1)は、古いフランス法学説でこの法格言が用いられていたことを指 摘する。また Schulz, Ru ¨ckgriff und Weitergriff, 1 9 0 7, S.8 8ff.は、1 6世紀フラン スの法学者シャルル・デュムラン(Charles Dumoulin)の説が起源であるとし、
これがドイツに持ち込まれたと見ている。これに対して近年、デュムランや彼 の同時代人の著作は不利益禁止条項の起源ではないとする研究(Sturm, Nemo subrogat contra se, in : Geda ¨chtnisschrift fu ¨r Wolfgang Kunkel, 1 9 8 4, S.493ff.)
もあり、この点についてはフランス法の文献研究を要しよう。ただ、ドイツに おいても代位制度および不利益禁止条項がフランスの学説または実務に由来す るものと考えられていると見てよいと思われる。vgl. Wacke, Nemo subrogat contra se, JA1 9 8 0,7 2 1.
(1 2)Savigny, Obligationenrecht, Bd.1,1 8 5 1, S.2 4 0ff.(連帯債務者について); Geib, Zur Dogmatik des Ro ¨mischen Bu ¨rgschaftsrechts, 1 8 9 4, S.1 5 7f.(保証人につい て); Olshausen,a.a.O., (Anm.6) , S.2 3 6f. ; Schulz, a.a.O., (Anm.1 1) , S.1 2ff., S.8 8ff. ; ROHG Urt.v.2 6.2.1 8 7 6(SeuffArch.3 2. Nr.1 3 8) .
(1 3)RGZ3,1 8 3,1 8 4.
(1 4)Hasenbalg, Die Bu ¨rgschaft des Gemeinen Rechts, 1 8 7 0, S.4 5 0ff. ; Dernburg, Das Pfandrecht nach dem Grundsa ¨tzen des heutigen ro ¨mischen Rechts, Bd.2, 1 8 6 4, S.3 6 7f.
(1 5)RGZ3,1 8 3,1 8 4; Hasenbalg,a.a.O.,(Anm.1 4) , S.4 5 2f. ; Dernburg, a.a.O.,(Anm.
1 4) , S.3 6 7f.など。
(1 6)Otto, Schilling, Sintenis(Hrsg.)Das Corpus juris civilis(Romani) . Bd.6,1 8 3 2, S.2 3 5からの試訳である。
(1 7)Hasenbalg, a.a.O.,(Anm.1 4) , S.4 5 3f.
(1 8)RG Urt.v.1.2.1 8 9 9(SeuffA5 4, Nr.1 5 0); Dernburg, a.a.O.,(Anm.1 4) , S.3 6 7.
(1 9)Goldschmidt, Zeitschrift fu ¨r H. R Bd.1 4(1 8 7 0)S4 1 6ff.
(2 0)ドレスデン草案9 4 0条「保証人が保証人の資格で債権者を満足させた場合に は、保証された債務に関して債権者に帰属していた諸権利はすべて保証人に移 転する。 (…) 」 (Schubert(Hrsg.) , Die Vorlagen der Redaktoren fu ¨r die erste Kommission zur Ausarbeitung des Entwurfs einen Bu ¨rgerlichen Gesetzbu- ches, Schuldrecht Teil3,1 9 8 0, S.4 5 6[以下 Vorentwu ¨rfe として引用]; Jakobs/
Schubert(Hrsg.) , Die Beratung des Bu ¨rgerlichen Gesetzbuchs, in systema- tischer Zusammenstellung der unvero ¨ffentlichten Quellen. Recht der Schuld- verha ¨ltnisse Bd.3,1 9 8 3, S.4 9 6[以下 Beratung des BGB.3として引用] . )
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ドイツにおける Nemo subrogat contra se 原則の一断面(森永)