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わが国の複式簿記形成期における 簿記教科書の分析 ⑴

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(1)

1 は じ め に

 本稿は,わが国の複式簿記形成期として捉えられる明治期以降の簿記教 科書を分析の対象として,その中で論じられる簿記理論1)を明らかにする ことを目的とする。つまり,当時を代表する簿記論者がその簿記書で明ら

1) 「簿記理論」をどのように定義するかは,非常に難しい問題であるが,さ

しあたり ⑴ 簿記目的論(勘定機能論),⑵ 簿記対象論(取引論(取引分類 論を含む)),⑶ 簿記形式論(勘定論(勘定分類=体系論または勘定組織=

計画論を含む)),⑷ 簿記手続論(勘定記入論)といったものが考えられる

(高寺(1967)111頁)。本稿においても,この定義に従うものとする。

 247 商学論纂(中央大学)第

60

巻第1

2号( 2018

年9月)

わが国の複式簿記形成期における 簿記教科書の分析 ⑴

──東奭五郎(

1913

『最近學説 簿記法大意』にみる簿記理論──

𠮷 田 智 也

   目   次

1 は じ め に

2 東の簿記書に関する先行研究 3 『最近學説 簿記法大意』の内容

 ⑴ 簿記の目的と財政一覽表  ⑵ 貸借對照表の作成方法と取引記録

 ⑶ 諸概念の解説──「勘定科目」・「借主」・「貸主」・「商業帳簿」

4 おわりに──『最近學説

簿記法大意』の特徴

(2)

248

かにした「簿記」の諸概念を説明するとともに,どのように複式簿記を教 授しようとしたのかを解明する。本稿では,具体的に,わが国の複式簿記 形成期における代表的な簿記研究者である東奭五郎の『最近學説 簿記法 大意』に焦点をあてて検討する。

 まず,本論に入る前に,東奭五郎がどのような人物であったのかについ て,新井(2005,2007),中野(2016)等の記述をもとに,まとめてみる。

 東は,1865年(慶応元年)

7月に長崎県で生まれ,1887年

(明治20年)

月に高等商業学校(後の東京高等商業学校,東京商科大学等を経て,現在の一橋 大学)の第一回の卒業生として卒業し,函館商業学校,長崎商業学校,熊 本商業学校等の教諭・校長を経て,1898年(明治31年)

10月に高等商業学

校の教授に就任した。1903年(明治36年)神戸商業高等学校(神戸商業大学 等を経て,現在の神戸大学)創設とともに教授に任じられ,1908年(明治41 年)

3月より2年間,商業実践および簿記研究のために欧米に留学

2)

1909

年6月にニューヨーク大学から “

Doctor of Commercial Science

” の名誉学 位を授与されており,1913年(大正2年)に神戸会計学会を設立,1916年

(大正5年)

9月にわが国における会計士業務創設を目指して教授の職を辞

し,同年10月に東京丸の内にて東会計人事務所を開設した。1917年(大正

6年)

には日本会計学会の創設に尽力し,1939年(昭和14年)に引退,会計 学と会計士業務に一生を捧げて活躍したが,1947年(昭和22年)

12月に長

崎市で老衰のため逝去した。

 東の著書・論文は多数あり3),ここですべてを取り上げることはしない

2) 新井(2007)によれば,このテーマによる在外研究者としては日本最初で

ある。

3) なお,東は Mr. Balance Sheet

のペンネーム(奭の字は左右に百がある)

で,英国勅許会計士協会の機関誌

The Accountant

にも寄稿したとされる(新 井(2007)1136頁)。

(3)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 249 が,著書として,わが国最初の会計

4 4

書とされる『商業会計』2巻(1908年

(明治41年)・1914年(大正3年))のほか,『簡易簿記教科書』(1901年(明治34 年)),『新案詳解商業簿記』(1903年(明治36年)ないし1907年(明治40年))4)

『商業簿記』(1912年(大正元年)),『最近學説 簿記法大意』(1913年(大正2 年)),『商業會計研究』(1930年(昭和5年))などが挙げられる。このうち,

本稿では『最近學説 簿記法大意』を分析の対象とする。なぜこれを取り 上げるのかは,彼の簿記に関する著書のうち,より後になってから公刊さ れたものの方が,彼自身の簿記に対する考え方が洗練・深化が進んでいる だろうと考えるからである。

 以下,第2節では東の簿記書に関する先行研究を概観し,第3節で『最 近學説簿記法大意』の内容を分析し,第4節でその特徴を明らかにする。

2 東の簿記書に関する先行研究

 東の簿記書に関する先行研究としては,黒澤(1990)や新井(2005),工 (2015),工藤・島本(2007)など5)が挙げられる。

 まず,黒澤(1990,121‑122頁)によれば,高等商業学校が創設された頃

(1885年)から,日本の簿記教育はフォルソム

E. G. Folsom

の「会計の論

理」

Folsom

(1873))を取り入れた「受渡説」6)が主流となっており,その

影響が高等商業学校出身の東の著書にも反映されていると指摘する。ま

4) 新井(2005)では1903年(明治36年)に,新井(2007)では1907年(明治

40

年)に公刊されたとしている。

5) このほかにも,先行研究として中野(2011)や中野(2016)をあげること

ができる。ただし,これらはいずれも東の『新案詳解 商業簿記』等につい て,会計史研究(簿記史研究)の観点から評価しているものであるため,本 稿においては取り上げない。

6) 「受渡説(または価値受渡説)」とは,「複式簿記の原理として等価交換の

原則(co-equality)に立脚し,交換の対象を,物,権利および勤労の三つに 分類することがその特徴である」(黒澤(1990)122頁)とされる。

(4)

250

た,下野直太郎の計算要素説を承継発展させた代表的なものとしても,東 の著書が取り上げられている(黒澤(1990)125頁)。ただし,彼の「簿記に 関する教説は,下野直太郎の「簿記精理」におけるそれとくらべて,独創 性を欠き,極めて常識的なもので,特に引用するに値する点は認め難い観 がある」(黒澤(1990)129頁)と手厳しい評価を下している7)。また,理論 継承に関して,工藤(2015,187頁)では,「東の簿記書は,……下野の簿 記理論の継承というよりは,フォルサム理論の援用または紹介と位置づけ たほうが正確であるかもしれない。」と評価している。

 これらに対し,新井(2005,32‑33頁)は,東の簿記書は「簿記教授法に 貸借対照表から出発するという独創性を取入れ」たものとして,簿記手続 論ないし簿記教育論の観点から高く評価している。また,工藤・島本

(2007,216頁および236頁)においても,「単一の原著の翻訳物としての簿記 書」ではなく「より幅広く複数の西洋簿記書からの知見をとり入れてさら に簿記論者独自の創意工夫を織り込んだ簿記書」の代表例として,「貸借 対照表を起点とする簿記教授法を創意した」と東の簿記書を評価してい る。

 東の簿記書に対して,真逆ともいえる「常識的で独創性を欠く」という 否定的な評価と「簿記論者独自の創意を織り込んでいる」という肯定的な 評価が与えられている点は,非常に興味深い。なお,肯定的な評価におい て,彼の独創性は「貸借対照表を起点とする簿記教授法」にあるとされて いるため,それがどのようなものであり,本稿で取り上げる『最近學説 簿記法大意』ではどのように展開されるのか,次節で詳細に分析してい

7

) ただし,東を「佐野善作とならんで,明治時代後期の簿記教育をリードし た人物として評価しなければならない(なお,東奭五郎は,後にわが国最初 の職業的会計士となり,この方面において大きな貢献をするに至る……)」

(黒澤(1990)129頁)と,教育者および実務家としては高く評価している。

(5)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 251 く。

3 『最近學説 簿記法大意』の内容

⑴ 簿記の目的と財政一覽表

 本稿で分析の対象とする『最近學説 簿記法大意』は,その「緒言」に よれば,1912年(大正元年)

8月に広島市で開催された実業学科教員夏期

講習会において,東が商業簿記科講師として講演した要領を編纂したもの とされる(東(1913)緒言1頁)

 著書全体は,15章立てであり,その各章の題名と頁数を示せば,表1の ようになる。

表1 『最近學説簿記法大意』の目次8)

第 一 章  總論及財政一覽表………1

第 二 章  財政一覽表へ各種扣除高の揭載法……… 12

第 三 章  財政一覽表と代數學方程式との關係……… 25

第 四 章  貸借對照表の解釋……… 29

第 五 章  貸借對照表形式の種類及其批評……… 47

第 六 章  貸借對照表作成の方法……… 54

第 七 章  左右複記仕譯の通則及前表作成の例解……… 70

第 八 章  貸借對照表及損益表作成の例解……… 80

第 九 章  勘定科目及其分類……… 97

第 十 章  借主及貸主の意義……… 98

第十一章  借主及貸主に基く複記仕譯の解説法………104

第十二章  財政一覽表を貸借對照表と稱する所以………109

第十三章  商業帳簿………113

第十四章  單記式簿記法と複記式簿記法………1268) 第十五章  結論,簿記法講習者に商業學及會計學の必要………137

8) 本稿では「複式簿記をどのように教えていたのか」について明らかにしよ

うとするため,「単記式簿記法」についての説明・分析は,別稿に譲ること とする。

(6)

252

 この目次をみた際に,まず気づくのは「財政一覽表」という現在(およ び過去)の財務諸表(ないし計算書類)には見られない計算書の存在であろ う。その詳しい内容は,彼の考える簿記の定義とも関わるため,後述す る。本書においては,簿記上の熟語(ないし術語)である「借」・「貸」を 極力使用せずに説明を行おうとするため,「貸借對照表」に代えてこの語 を多用している。なお,本書において「借方」「貸方」の語句が初めて登 場するのは49頁であり,著書全体の3分の1を超えてからのことである。

 さて,東は簿記をどのように定義しているか,その考えを明らかにして おこう。

 東は,第一章の冒頭で,「簿記とは人の財産に關する境涯

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

,換言すれば

4 4 4 4 4

其財政の有様を何時にても一目明瞭ならしむるの目的を以てこれが最も秩

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

序正しき記錄の方法を講説する一學科なり

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

(東(1913)1頁,本文に傍点あ り,以下同じ)と定義する。また,この人の財政上の境涯を,表2のよう な「財政一覽表」に表示することは,「その比較的に秩序正しく且一目の

4 4 4 4 4 4 4 4 4

下に明瞭整然たる記錄方式

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

たることは衆人の常識に訴へて亦異論なき所な るべし」(東(1913)5頁)と述べており,財政一覽表が極めて常識的な表 示方法であることを主張している。

 なお,上記の一覽表において,各種の財産(および借財)の金額を合計 した後,天秤の左右が釣り合うように分銅を載せることと同様に,表の左 右の合計額が一致するように,右側に「正味財産高」(もしくは左側に「正 味借財高」)を朱記すると説明している9)。また,「この天秤の装置は更に亦

9) なお,正味財産高(もしくは正味借財高)の朱記については,「同表を俗

解せんとの手段に外ならず然れども漸次に同表に目慣れてその意義を十分に 了解納得するに至れば必ずしもこの朱書を要せず4 4 4 4 4 4」(東(1913)24頁)と述 べており,財政一覽表への理解が進めば,必ずしも必要なものではないと考 えている。

(7)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 253

代數學の方程式なりとも解する事を得ると云ふ」(東(1913)6頁)とし,

第三章においては代数学の方程式による説明も行っている。

 また,基本的には,財政一覽表の左側に財産の各種類と金額を,右側に 借財の各種類と金額をそれぞれ記入し,左右の合計額を比較して,その不 足額を「正味財産高」(もしくは「正味借財高」)として不足している側に記 入することになるが,表3のように,時には表の右側に「借財ならざる他 種の金額」,もしくは左側に「財産ならざる他種の金額」を記入すること があると指摘している(東(1913)12‑13頁)

 表の右側に「借財ならざる他種の金額」が計上される理由として,

「⑴財産の或項目にして多少不確實なるか ⑵若くは或種の財産の一部分 にして眞實に財産たるの価値を失ひたるかの疑あるか ⑶或は正味財産 高の或部分は特別の理由よりして正味財産高以外に之を扣除し置くことを 必要又は便利とする場合あるか」(東(1913)13頁)と,3つの場合を取り 上げている。すなわち,債権に関する回収可能額の表示のように財産(貸 付金の回収)金額に不確実性がある場合の「滞貸準備高」や一覽表作成時

表2 財政一覽表の具体例(1)

(例10) 財政一覽表

財 産 種 目 金  額 借 財 種 目 金  額

1 現  金 50 7 乙某ヨリ借金 50 2 被  服 120 8 某呉服店ヘ未拂金 25 3 什  器 75 9 米屋其他ヘ未拂金 35

4 家  屋 1 , 500 110

5 地  所 500

6 郵便貯金 250

  正味財産高 2,385

2 , 495 2 , 495

出所:東(1913)10頁,なお太字での記入部分は,朱記されている。

(8)

254

における財産(被服および器具)の「實価」10)が購入したときの原価を下回 っている場合の「代價減却高」,さらに臨時の出費のために若干の金額を 準備しておく場合の「出費準備高」など,財産総額から「減却扣除せんと の目的に出でたる種々の金高」もまた,一覽表の右側に計上される(東

(1913)14‑19頁)

 ただし,上記の表3の第14項までは財産総額から「必ず扣除すべきもの4 4 4 4 4 4 4 4 4

10

) 財産評価の方法として,「物品の原價4 4とこれが大約の保存年限4 4 4 4とを考察し 而してその現在の價額を定むるにあり」(東(1913)16頁)と,現在の定額 法による減価償却と同様の方法を紹介している。すなわち,「例へば最初參 千圓にて新築したる家屋にしてこれが居住に堪ふべき年限を參拾年と豫定す るときは毎年の價額減却高は壹百圓にして毎月の減却高は八圓參拾參銭參厘 と計算するが如し即ち一物件の新調後その年月の經過するに隨て4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

右の如き計 算に基く或る一定の割合をば當初の原價より減却して4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

同物品の現在の價額を 見積るなり」と。

表3 財政一覽表の具体例(2)

(例5) 財政一覽表

財   産 金  額 借財,扣除,正味高 金  額

1 現     金 30 10 丙 某 ヨ リ 借 金 300 2 銀 行 預 ヶ 金 1 , 000 11 同借金未拂利息 30 3 公 債 及 株 券 850 12 被服及器具代減却高 50 4 家     屋 2 , 000 13 家  屋  代 〃 20 5 地     所 1 , 500 14 滞 貸 準 備 高 50 6 被 服 及 器 具 500

    小 計

450 7 甲 某 へ 貸 金 200 15 臨 時 費 準 備 高 100 8 同貸金未収利息 20

9 乙 某 へ 立 替 金 100

  正 味 財 産 高 5,650

6 , 200 6 , 200

出所:東(1913)20頁,なお太字での記入部分は,朱記されている。

(9)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 255 と己に業と確定したる金額

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

」であるのに対し,第15項は「未だ起らざる臨 時の出來事を豫想したるものなるを以て現時は未確定の金額

4 4 4 4 4 4 4 4 4

」であり,

「若し豫想の出來事に遭遇せざるその間この金額は當然正味財産高に合算

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

すべきもの

4 4 4 4 4

」と考えることもできるため,これらを確定したものとそうで ないものに区別し,第14項までで小計を出している(東(1913)21‑22頁) なお,これらの財産総額から控除される金額については,財政一覽表の左 側の控除されるべき財産の金額の下にマイナスを付して表示することもで きると述べている(東(1913)27‑28頁)

 上述してきた財政一覽表はあくまで「一私人の場合を假定した」もので あり,「同表をば商人又は商事會社の財政を示す場合に適用するときは之 を貸借對照表

4 4 4 4 4

と稱す」(東(1913)29頁)と述べており,東は貸借対照表も また財政一覽表の一種として捉えていることがわかる。なお,会社は毎決 算期に,商人は毎年一定の時期に貸借対照表を作成し,株式会社において はこれを株主に配布するとともに新聞等で公衆に発表することは,当時の 商法により規定されていた(明治32年商法第26条,第192条)

 商人等の貸借對照表について,財政一覽表との違いはどこにあるのか。

 まず,財政一覽表における正味財産高は,個人商店・株式会社におい て,「積立金」・「資本金」・「純利益金」などの項目に細分される11)。この うち,「資本金」については,実務上さまざまな呼称が付けられているも のの「その實質は

4 4 4

「正味財産高」の一部分に

4 4 4 4

外ならず即ち該商店または會

11) 個人商店の貸借對照表において,「「資本金

4」「積立金4」「純利益金4」など稱 する用語の金4とは其實單に金額4 4又は金高4 4と云ふに外ならず然るに俗眼に對し て動もすればこれ等を以てそれ丈の現金4 4をの特に貯藏されたるものあるが如 くに誤解さるゝことあり特に注意すべし」(東(

1913

31

頁)との指摘がある。

これは,貸借対照表の貸方計上項目に「○○金」と付すことで,会社にそれ だけのお金があるかのように誤解されるということだが,

100

年以上も前に 今日と同様の問題が指摘されていたことは興味深い(新田(2004)参照)。

(10)

256

社にて當初

4 4

その營業資本

4 4 4 4

として元入

4 4

れしたる財産の正味金高

4 4 4 4 4 4 4

なり」(東

(1913)32頁)と説明される。ただし,「會社の場合にありては元入れすべ き金額を當初に定めたればとてその金額全額を直に入金するものと限るべ からず否多くの場合にその半額若くは四分の一を入金して營業を開始する を常とす」とも述べており,先述した財政一覽表の左側に「財産ならざる 他種の金額」として計上される項目として,「拂込未濟資本金」が計上さ れうることを説明している(東(1913)32頁および36‑38頁)。また,貸借對 照表の具体例として,「銀行」,「電鐵會社」,「水力電氣會社」などのもの も取り上げて,実務でみられる諸項目について説明を加えている。

 しかし,当時世間に公表されていた貸借對照表の形式や資産または負債 に付される総称がまったく統一されていないことを指摘する。たとえば,

資産または負債に付される総称・見出しは,次の7種があるとする(東

(1913)48‑49頁)

資産即ち財産種目に對し 負債即ち借財種目に對し

1 「資産」 1 「負債」

2 「借方即ち資産」 2 「貸方即ち負債」

3 「借方」 3 「貸方」

4 「貸方即ち資産」 4 「借方即ち負債」

5 「貸方」 5 「借方」

6 「權利」 6 「義務」

7 「積極」

(我邦に見ざれども獨逸に其例あり)

7 「消極」

(我邦に見ざれども獨逸に其例あり)

 このうち,それぞれの2

3と4

5では,「借方」・「貸方」がまったく

正反対の用法となっている。2

3については,現在のそれらと同様に,

(11)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 257 資産および負債が計上される貸借對照表の側面が「簿記法上「借方

4 4

」と稱

4 4

する側面の残高金額

4 4 4 4 4 4 4 4 4

」および「簿記法上「貸方

4 4

」と稱する側面の残高金

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

4

」をそれぞれ示しているための名称である。

 しかし,4

5は,「貸借對照表を作成する一個商人又は諸會社その人等

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

の立場より觀るときは

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

資産の各種目は同商人その人が

4 4 4 4

又は諸會社そのもの

4 4 4 4

4

「貸したる方」を示し而して負債の各種目は同商人その人が

4 4 4 4

又は諸會社 そのものが

4 4 4 4 4

「借りたる方」を示す故に」,貸借が逆転することになる(東

(1913)52頁)

 つまり,前者は「簿記法上

4 4 4 4

借り又は貸したる財産の又は借財の各種目そ

4 4 4 4

のもの

4 4 4

を主格となしたる表示法」であり,後者は「同表の作成者

4 4 4 4 4 4

たる一商 人又は諸會社を主格としてその日常に所謂

4 4 4 4 4

借りたるものと貸したるものと を示さんとする」方法であり,「借り又は貸したる

4 4 4 4 4 4 4 4

「主格

4 4

」の相違

4 4 4

及び

「借貸

4 4

」兩用語の意義の

4 4 4 4 4 4 4

「廣狹

4 4

」に」よって,いずれかの名称が付される とする(東(1913)52‑53頁)

 また,6の「權利・義務」は5の「貸方・借方」を「法律的に説明した るもの」と述べているが,その上で,東は「借」・「貸」が2つの正反対の 解釈を許している不都合を指摘し,その代用として7の「積極」・「消極」

という見出しとすることが「寧ろ公明正大なり」と論じている(東(1913)

53頁)

⑵ 貸借對照表の作成方法と取引記録

 さて,それでは貸借對照表はどのように作成されるのであろうか。

 東によれば,「今一人の財政状體を記録せんと欲せば先以てこの人の最 初の財政を示すべき貸借對照表を作り而してもしその財政に變化異動を生 じたりとせば當初の同表をば變動の生じたるその都度に訂正變更しかくて 變化異動後の財政現状に適應すべき様同表を記録するに如きはなきことは

(12)

258

明かなり」(東(1913)55頁)と述べ,開始貸借対照表を作成し,財政状態 に変動があるごとに,その貸借対照表の諸項目を変動させて財政状態を明 らかにすべきであると主張し,例解を示している。ただし「凡そ世間の事 物として餘りに煩勞に過ぐるときは實用に供すべからず故に縱令道理には 多少背くとは云へ省略したる或便法を設くることはその例多々あり而して 簿記法にありても亦然り」(東(1913)57頁)とも述べており,最終的には 貸借對照表作成の「準備のみの記録法」(東(1913)66頁)と東の名づけた 簡便法を提案する。

 その方法とは,取引にあたる「各事實の起る毎にその以前の財政一覽表 中單に訂正を要するものゝみを追加記録

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

」するものである。そして,「記 録の中途にして若し財政一覽表を作らんと欲せば最初に作りたる該一覽表 にその時迄の追加記錄を通計し

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

且又同種の項目は表の左側なる金額合計

4 4 4 4 4 4 4 4

表の右側なる金額合計

4 4 4 4 4 4 4 4

とを比較差引し

4 4 4 4 4

而して單に其多き側面

4 4 4 4

に同項目の残

4 4

額の

4 4

みを記錄するなり」(東(1913)61頁)と具体的に説明している。なお,

本文の設例を利用し,後ほど数値を用いて説明することとする。

 具体例による方法を説明した後,この準備的記録に関して,「經驗歸納

4 4 4 4

し或は演繹推究し得たる六個の通則

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

にして即ち左の如し而して簿記法普通 の講説者に最も重要大切なる借貸仕譯けの法則

4 4 4 4 4 4 4 4

又は原理

4 4

と稱するものは結 局この通則に外ならずと云ふことは特に注目すべし」と述べて,以下のよ うな6つの仕訳の原理を提示する(東(1913)70‑71頁)

第一則 總て財政に變動を及ぼしたる事實

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

にはその一つ毎に財政一覽表 の左右兩側に記錄

4 4 4 4 4 4 4

を必要とし而してその金額は左右互に相等き

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

こと

4 4

第二則 總て「物品

4 4

」の場合にそのものゝ增加

4 4

したるときは表の左側

4 4

而してそのものゝ減少

4 4

したるときは表の右側

4 4

に記録すること

(13)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 259 第三則 總て「貸金

4 4

」の場合にそのものゝ增加

4 4

したるときは表の左側

4 4

而してそのものゝ減少

4 4

したるときは表の右側

4 4

に記録すること 第四則 總て「借金

4 4

」の場合にそのものゝ減少

4 4

したるときは表の左側

4 4

而してそのものゝ增加

4 4

したるときは表の右側

4 4

に記録すること     註一 貸金4 4(+)量にして借金4 4(−)量なるを以て如比 第五則 總て「正味高

4 4 4

12)の場合にそのものゝ減少

4 4

したるときは(當初 の正味借財高4 4 4 4 4又は中途の損失高4 4 4は)表の左側

4 4

に而してそのものゝ 增加

4 4

したるときは(當初の正味財産高4 4 4 4 4又は中途の利益高4 4 4は)表の右

4

4

に記録すること

    註二 前項借金4 4の場合とその外形のみは同様なり4 4 4 4 4 4 4 4 4然れどもその理由は4 4 4 大に異れり4 4 4 4 4兩者を混同すべからず

第六則 總て表の一側面なる某金額は同側面

4 4 4

なる同種目

4 4 4

の金額を增加

4 4

而して他側面

4 4 4

なる同種目

4 4 4

の或は他種目

4 4 4

の金額を減少

4 4

するの性質 を有すること

    註三 本則は第一則なる財政一覽表の兩側面相等しきことを己に説き たるが如く代數學の方程式に準じ得べしとの理由に基く自然の推 論にしてその用は同側面4 4 4なる同種目4 4 4の金額は必要に應じて之を通4 計一括4 4 4し又他側面4 4 4なる同種目4 4 4の金額とは差引計算4 4 4 4をなし,或は彼 の扣除又減却的4 4 4 4 4 4

金額なるものを説明するの便利を謀りたるにあり

 第一則は,今日でいうところの「貸借平均の原理」である。第二則から 第五則までは,物品,貸金,借金,正味高の増減が,財政一覽表の左右い ずれに記録されるのかを規定している。第六則は,第一則を踏まえて,あ

12) 簡便法においては正味財産高あるいは正味借財高を単に「正味高」として

記録しており,それが正味財産高か正味借財高のどちらにあたるのかは,記 録された側面の左右によって判断することになる(東(1913)59頁)。

(14)

260

る項目の金額がたとえば左側に記録されたならば,当該項目の金額をそれ だけ増加させ,右側に記録されたならば,それだけ減少させるという貸借 における加減算の方法を規定している。

 これらの6つの通則を,天秤の装置を連想して示せば,図1のようにな る。この図は,左右に「右側扣除減却高」と「左側扣除減却高」を含んで おり,形こそ違うものの,今日の「取引要素の結合関係」を財政一覽表の 上で示したものといえよう。

 それでは,これらの6つの通則を踏まえて,期中の記録がどのように行 われるのか,本文の設例をもとに考えていく。事業開始時点の状態と期中 に行われる取引を示せば,次の通りである(東(1913)73‑75頁)

 ⑴ 現金貮千圓及代價千圓の商品合計五千圓の資本を元入れして商業を 始む

 ⑵ 甲商店へ元價壹千圓の商品を壹千貮百圓に賣渡し現金を受取る依て 利益高貮百圓

 ⑶ 營業上の諸入費として現金壹百五拾圓を支拂ふ

 ⑷ 乙商店より代價參千圓の商品を買入れ内壹千五百圓を現金にて支拂 ひ残額は後日支拂ふべき約束をなす

図1 6つの通則と財政一覽表

左側 財政一覽表 右側

(+)物   品 物   品(−)

(+)貸   金 貸   金(−)

(−)借   金 借   金(+)

(−)正 味 高 正 味 高(+)

右側扣除減却高 左側扣除減却高

合  計 合  計

出所:東(1913)72頁。

(15)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 261  ⑸ 營業用器具を買入れ代金貮百五拾圓を現金にて支拂ふ

 ⑹ 丙商店へ元價貮千五百圓の商品を貮千八百五拾圓に賣渡し依て參百 五拾圓の利益を得たり但代金の内壹千八百五拾圓を現金にて受取り残 額は後日支拂ふべき約束をなす

 ⑺ 甲商店へ元價壹千圓の商品を九百圓にて賣渡し現金を受取る依て損 失高壹百圓

 ⑻ 丙商店より賣掛代金の内五百圓を現金にて受取る  ⑼ 乙商店へ掛け金の内壹千圓を現金にて返濟す  ⑽ 店主の給料として現金五拾圓を支拂ふ

 ⑾ 手元に殘りの商品は原價壹千五百圓なれども現時の相場は壹千四百 圓に下落したるに依り損失高壹百圓

 ⑿ 營業用器具は使用の結果原價貮百五拾圓の一割を減却するの必要あ り依て損失高貮拾五圓

 上記のからまでの取引に関して,貸借對照表の左右の項目がどの ように記入されるかを,通則に従って記録すると,次のようになる。

─── ⑴ ───

貸借對照表

現     金

2 , 000

正  味  高

5 , 000

商     品

3 , 000

5 , 000 5 , 000

──────

現     金

1 , 200

商     品

1 , 000

正味高(賣買益)

200

6 , 200 6 , 200

(16)

262

──────

正味高(營業費)

150

現     金

150

6 , 350 6 , 350

──────

商     品

3 , 000

現     金

1 , 500

乙 商 店 ヨ リ 借

1 , 500

9 , 350 9 , 350

──────

器     具

250

現     金

250

9 , 600 9 , 600

──────

現     金

1 , 850

商     品

2 , 500

丙 商 店 へ 貸

1 , 000

正味高(賣買益)

350

12 , 450 12 , 450

──────

現     金

900

商     品

1 , 000

正味高(賣買損)

100

13 , 450 13 , 450

──────

現     金

500

丙 商 店 へ 貸

500

13 , 950 13 , 950

──────

乙 商 店 ヨ リ 借

1 , 000

現     金

1 , 000

14 , 950 14 , 950

──────

正味高(店主給料)

50

現     金

50

15 , 000 15 , 000

(17)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 263

─── ⑾ ───

正味高(商品下落損)

100

商     品

100

15 , 100 15 , 100

─── ⑿ ───

正味高(器具使用損)

25

器     具

25

15 , 125 15 , 125

 上記の記録のように,期中の取引によって変動し,訂正すべき金額を左 右に記入するとともに,その変動によって財政一覽表の合計額に対する影 響がいくらになるのかも積算されていく。これらの記録に基づき,財政一 覽表を作成するためには,取引による変動を「通計す但同種の項目は一ヶ 所に纏む」,そして「次に左右兩側面に於ける同種の項目はその合計金額 を互に比較差引して残額をばその多き側面に記録す」と説明している(東

1913

70

頁)。これらの合算・集計手続に従って,取引終了後の財政一覽 表を作成するために,財政一覽表にその変動を書き加えれば,表4のよう になり,結果としての取引終了後の財政一覽表は,表5のようになる。

 なお,表4の財政一覽表の左右の合計額15

, 125が,取引毎の変動額を記

録し終わった際の累積的な影響額15

, 125に等しいことによって,期中の記

録の正確性が確認される。

 上記のように作成された貸借對照表において,「この商人の最初4 4の「正 味高」即ち元入資本高4 4 4 4 4と現時の4 4 4「正味高」との比較に」より,「差引增額4 4 4 4 即ち營業上の「純利益高」は」125円と計算される(東(

1913

79

80

頁) さらに,「この純利益高は如何なる理由に基きたるものかを繹ぬる4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4は商人 として最も興味多く否最も必要と感4 4 4 4する所なるは言を待たず」(東(

1913

80

頁)と述べ,純利益の発生原因を明らかにするためには,「各項目の增 減を計算せんが爲その一ッ毎に丁字形4 4 4の場所を用意し而して前記録(期中

(18)

264

表5 期末における貸借對照表(財政一覽表)

貸借對照表

⑴ 現     金

3 , 500

⑸ 乙商店ヨリ借金

500

⑵ 商     品

1 , 400

⑹ 正  味  高

5 , 125

⑶ 器     具

225

⑷ 丙 商 店 へ 貸 金

500

5 , 625 5 , 625

出所:東(1913)79頁。

表4 財政一覽表における期中の財政状態の変動 財政一覽表

現    金

2 , 000

商     品

1 , 000

1 , 200 2 , 500

1 , 850 1 , 000

900

+ 100

4 , 600

+ 500

6 , 450

正  味  高

5 , 000

商    品

3 , 000 200

3 , 000 6 , 000

+ 350

5 , 550

正  味  高

150

現     金

150

100 1 , 500

50 250

100 1 , 000

+  25

425

+  50

2 , 950

器    具

250

乙商店ヨリ借

1 , 500

丙 商 店 へ 貸

1 , 000

丙 商 店 へ 貸

500

乙商店ヨリ借

1 , 000

器     具

25

15 , 125 15 , 125

出所:東(1913)69頁を参考にして筆者作成。

(19)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 265

の財政一覽表への記録─筆者)の左側

4 4

を各丁字形の左

4

に而してその右側を該 丁字形の右に殆ど機械的に轉記して合計又は小計をなし而して丁字形に於 ける左右兩側面の差引殘額はその不足の側面に朱書して兩側最後の合計を

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

等くす

4 4 4

但「正味高」の計算記錄にありては右準備記録中なる括弧内の説明

4 4 4 4 4 4

をも附記

4 4 4 4

することとせり」(東(1913)76‑77頁)とし,いわゆるTフォーム による勘定口座の左右に,取引毎の増減を記録し,差引残高を計算・記入 した「正味高」勘定を作成することを主張する。上記の設例に従い,丁字 形の「正味高」の増減計算を示せば,表6のようになる。

 上記の「「正味高」なる前記の項目にて最初の正味高即ち元入資本高を 取除きてその他の部分は商人の會計にて之を「損益表」と稱す」(東(1913)

80頁)

と述べ,期首資本額を除いた期中の正味高の増減変動により純損益 を計算することになる。そして「同表は損失又は利益の詳細なる由來を一 目の下に整然明瞭ならしむるもの」(東(1913)80頁)と述べている。

 また「損益表」を作成するための例解においては,これまで「正味高」

として表記してきたものを,「「營業資本高」なるものの減增を」記録する 表6 正味高の増減計算

−      正味高(損益表)      +

3 營  業  費 150 1 最     初 5 , 000 7 賣  買  損 100 2 賣  買  益 200

10 給     料 50 6    〃 350

11

 商 品 下 落 損

100 12

 器 具 使 用 損

25

   小  計

425

   殘  高 5,125

5 , 550 5 , 550

出所:東(1913)77頁,なお太字での記入部分は,朱記されている。

(20)

266

「資本」と「營業中に起りたる

4 4 4 4 4 4 4 4

正味高の減增換言すれば「損失」又は「利 益」を記録する」ための「損益」とに区別して記録している。また,上記 のように,取引による貸借對照表への影響を左右に分けて記録していた準 備的記録は,実務上「借貸仕譯帳」という帳簿に記録することになると説 明する(東(1913)84頁)

 上記の設例の取引⑴・⑵について,「正味高」を「資本」と「損益」と に区別する方法で借貸仕譯帳に記録すれば,次のようになる。なお,以下 では,左右両側の累積的な通計は,取引毎に行わず最後に記録することと して,取引毎の貸借が一致しているかについて合計を示して確認している

(東(1913)85頁)

─── ⑴ ───

貸借對照表

現     金

2 , 000

資  本(最初)

5 , 000

商     品

3 , 000

5 , 000 5 , 000

─── ⑵ ───

現     金

1 , 200

商     品

1 , 000

損 益(賣買益)

200

1 , 200 1 , 200

 また,本書に特徴的な取引の記録として,借入金の返済とそれに伴う利 息の支払いが挙げられる。たとえば,「乙より借金の内壹千圓外に利息と して五圓を合せて現金にて返濟す」(東(

1913

82

頁)という取引の記録は,

次のようになる。

(21)

わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析 ⑴(𠮷田) 267

──────

乙 ヨ リ 借 金

1 , 000

現     金

1 , 000

損益(乙へ利息)

乙 ヨ リ 借 金

乙 ヨ リ 借 金

現     金

1 , 010 1 , 010

 この取引において,いわゆる費用である支払利息は借入金の増加をもた らし,それを返済するという形がとられている。

88

頁の注釈においては,

「乙より借金」を増加させてからこれを減少させる手続きではなく,「乙よ り借金」を左右から取り除く便法も説明されているが,期末に「乙某より の借金に對する利息を計算したるにその金高拾圓」(東(1913)83頁)とい う利息の見越計上においても,利息は借入金を増加させており,「同一取 引同一仕訳」を実践していると考えられる。また,同時に,本書において は「未払利息」勘定のような経過勘定には記入がなされていないことも指 摘できる。

──────

損益(乙へ未拂利息)

10

乙 ヨ リ 借 金

10

 借貸仕譯帳になされる準備的記録は,その後,「財産,借財,及正味高 の各種目一つ毎の增減に關して計算記錄を行ふ」ことになるが,このため の帳簿は,現在のものと同様に「元帳」或いは「總勘定元帳」と呼ばれる

(東(

1913

89

頁)

 そして,期中の取引量が膨大になってくると,「頗る煩雑面倒なる計算 の記錄なるに歸因してその間誤記脱漏又は違算等も屢々生ずるの恐あり是 を以て成るべくこれら疎漏の絶無なることを期せんが爲4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4に簿記法の實際に

(22)

268

て特に記録せらるゝ一表は之を「試算表」と稱」(東(1913)93頁)し,表

7の「試算表」を提示する。

 この試算表を,元帳の各項目の左右両側の合計や各残高を集計して作成 する方法や,合計・残高のそれぞれが左右で一致することにより誤記違算 がないことを確認するその働きは今と変わることがない13)。また,合計欄 の一致額21

, 510が「借貸仕譯帳」の総計と一致することも指摘している

(東(1913)94‑95頁)

13

) なお,「誤記違算等は絶無なりとの保證なき帳簿は殆ど帳簿たる價値なし と云はざるべからず而してこの保證を與へんと勉むることはこれ亦簿記法に て重大なる任務の一なりとして右に述べたる「試算表」の場合はその一適例 なりと知るべし」(東(1913)95頁)とも述べている。

表7 試 算 表 試算表 大正  年  月二十日

殘 高 合 計 各 種 項 目 合 計 殘 高

2 , 585 6 , 025 1 現     金 3 , 440

2 , 400 2 , 500 2 家     屋 100 120 200 3 什     器 80 500 5 , 575 4 商     品 5 , 075 1 , 000 2 , 000 5 丙 商 店 へ 貸 金 1 , 000

800 800 6 丁 商 店 へ 貸 金

1 , 500 7 甲商店ヨリ借金 2 , 500 1 , 000 1 , 005 8 乙商店ヨリ借金 1 , 515 510 9 戊 ヨ リ 借 金 1 , 050 1 , 050 1 , 250 10 資     本 5 , 700 4 , 450

655 11 損     益 1 , 050 395

7 , 405 21 , 510 21 , 510 7 , 405

出所:東(1913)94頁。

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