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イギリス2012年消費者保険 (告知・表示) 法の概観と比較法的示唆

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(1)

イギリス2012年消費者保険 (告知・表示) 法の概観と比較法的示唆

中 村 信 男

■アブストラクト

イギリスの保険法現代化作業の一環として,2012年に消費者保険(告知・

表示)法が制定された。これまでコモンロー・ルールとそれを具体化した 1906年海上保険法がすべての保険契約を規律してきたイギリスの保険法制に おいて,企業保険と消費者保険との区分を設け後者につきコモンロー・ルー ルの適用を排除し,消費者保護を実現する立法が実現した。そのうえで,同 法は,保険契約者等による告知義務違反に対する法的処理として,従来は消 費者にとって過酷とされてきたコモンロー・ルールを変更するとともに,プ ロラタ主義を採用する。しかも,これらの規律は,既に消費者保険契約に関 して保険契約者等の保護の観点から実務上採用されている取扱いを制定法に 取り込むものとなっており,その実効性が実際に裏付けられたものである点 も含めて注目に値する。本稿は,保険契約法に関する比較法研究としてイギ リスの上記立法を,制定の経緯も含めて概観し,併せてわが国の保険法制に 対する若干の示唆を得ようとするものである。

■キーワード

消費者保険契約,告知義務,プロラタ主義

*平成24年10月20日の日本保険学会全国大会報告による。

/平成25年7月3日原稿受領。

(2)

1.はじめに

近時,イギリスでは保険法制の見直し作業が行われており ,その一環と して2012年3月に 2012年消費者保険(告知・表示)法 (

the Consumer Insurance

(

Disclosure and Representations  

)

Act

2012 (

c.6))(以 下,

2012年消費者保険法 という。)が成立した。これによりイギリスの保険契 約法の現代化が進められ,保険契約者または被保険者・保険金受取人が消費 者である消費者保険契約(consumer insurance contract)に係る規律と企 業保険契約(business insurance contract)の規律を区分する立法主義が 導入されている。また,同法は,告知義務違反に対する処理方法として,わ が国では導入の是非が議論されながら最終的に立法化が見送られたプロラタ 主義 を明文化しており,いずれの点も注目される。

本稿は,これらの点を中心にイギリス2012年消費者保険(告知・表示)法 ついて制定の経緯も含めて概観し,わが国保険法制への若干の示唆を得よう とするものである。

1)

http:

//

lawcommission.justice.gov.uk/ areas

/

insurance-contract-law.htm.

イギリス保険法改正プロジェクトに関する資料として,The Law  Commis-

sion and the Scottish Law  Commission, Insurance Contract Law :M is- representation, Non-Disclosure and Breach of Warranty by the Insured

(

A  Joint Consultation Paper

)(

Law  Com  No.189/ Scot Law  Com  No.134)

(

July

2007)がある。その邦語訳として,甘利公人監訳 英国保険法 共同意見 募集書(2007年7月)〜不実告知,不告知および保険契約者によるワランティ 違反〜 (㈳日本損害保険協会・㈳生命保険協会,2008年)がある。

2) プロラタ主義が告知義務違反に対する処理の方法により比例減額原則,引受 基準額原則,割合的減額原則に大別されることにつき,山下友信 告知義務・

通知義務に関する立法論的課題の検討 黒沼悦郎=藤田友敬編 (江頭憲治郎 先生還暦記念)企業法の理論(下巻) 399頁以下(商事法務,2007年),小林 道 生 告 知 義 務 違 反 の 効 果 と プ ロ ラ タ 主 義 保 険 学 雑 誌607号42頁〜43頁

(2011年)参照。

見出しだけになってしまうのでアキを作成しています

(3)

2.イギリスにおける保険法改正プロジェクトの制度的背景

⑴ イギリス保険法の特色と消費者保険契約にとっての問題点

①保険契約の最高信義契約性と保険契約者・被保険者の自発的告知義務 イギリス保険法は,18〜19世紀に形成されたコモンローを基礎とし,その 一部が1906年海上保険法(the Marine Insurance Act1906)として法典化 されている。裁判所は,同法が保険契約に係るコモンロー・ルールを明文化 したものと捉え,同ルールのみならず1906年海上保険法上の規律があらゆる 形態の保険契約に適用されるとする立場をとり続けてきている ため,保険 契約者が消費者である消費者保険契約もその例外とはされなかった 。

こうした経緯から,イギリスでは,保険契約は 最高信義契約 (

contract of utmost good faith

) の一種とされ,契約当事者に,他方当事者の判断

 

に影響を及ぼすとみられる一切の情報を提供すべき自発的告知義務(duty

to volunteer material information

)が課されてきた(1906年海上保険法

 

17条,18条)。そのため,第1に,保険契約者・被保険者は,保険契約の締 結の前に,保険者側からの質問がなくとも,保険契約者等が認識しまたは認 識すべき情報であって,慎重な保険者(prudent insurer)の危険選択に影

3)

M acGillivray on Insurance Law,

12

th ed., Sweet & M axwell,

2012

,

para.17‑007 .

イギリス保険法では,保険契約の締結を行う者を一般的に

in-

suredや assured

と表現する。イギリスでは,保険契約は,保険契約者が自己

のために,生命保険にあっては自己の生命について締結することが基本とされ ているようであるため,損害保険契約の保険契約者と被保険者,生命保険契約 の保険契約者と被保険者または保険金受取人の用語上の区別が必ずしも明確に 行われていない。そのため,本稿では,insuredを保険契約者・被保険者と訳 出している。同様の理解に立つものとして,甘利監訳・前掲(注1)。

4)

Explanatory Notes to the Consumer Insurance

(Disclosure and Rep-

resentations

)Bill, para.6

.

5) 石山卓磨 英国保険法における最高信義の義務 同 現代会社法・保険法の 基本問題 284頁以下(成文堂,1997年)。イギリス法におけるモラルハザード に係る事実の告知義務については,藤原晴美 モラルハザードに係る事実の告 知義務に関する一考察 現代社会文化研究28号189頁(2003年)参照。

(4)

響をおよぼすとみとめられる重要情報(material information)(同法18条 2項)をすべて提供すべき義務を負うものとされる(同条1項前段)。また,

保険契約者等がこの義務に違反した場合は,保険者は当該保険契約を取消す ことができ(同項後段),その結果として保険金の支払を拒絶し,支払済み の保険金の返還を請求することができるとされている 。

こうした保険契約者・被保険者の自発的告知義務とそれを前提とした義務 懈怠の効果は,保険契約者・被保険者が消費者であっても適用されると解さ れてきた。しかし,第1に,消費者保険契約にもこの種の義務を適用するこ とは,消費者に対しほとんど履行不能な義務を課すものであり,その違反の 場合の法効果が苛酷であるとの批判が寄せられていた 。

第2に,保険契約者等に告知義務違反が認められる場合,従来のルールで は保険者が保険契約を取消し保険金支払義務の全部を免れる全部免責主義が 基本とされていた。しかし,これでは,保険者が,重要事実を正しく告知し てもらっていたならば,保険料を増額したに過ぎなかった場合であっても,

保険者に全部免責を許すこととなり,保険契約者等に不利な結論が導かれる 憾みがあった 。

第3に,告知されなかった重要事実または不実表示された重要事実とは全 く無関係な事由により保険事故が発生した場合であっても,イギリス法上は,

わが国の保険法のような因果関係不存在の特則(日本保険法32条2項2号但 書,59条2項1号但書,84条2項1号但書)がないために,告知義務違反を

6)

The Law  Commission and the Scottish Law  Commission, Consumer Insurance  Law:Pre‑Contract Disclosure and M isrepresentation  

(Law

Com  No.319/ Scot Law  Com  No.219)Cm  

7758(SG/2009/255)

, para.2 .9 .

(以 下,こ れ を

CIL

と 略 記 す る。)。先 例 と し て

Carter v. Bohem

(1766) 3

Burr.1905があり,現在も先例性を維持している。MacGillivray, supra note

3

, at para.17‑005 .

こ の 事 件 に つ き,MacGillivray, supra note3

, at para.

17‑004,石山・前掲論文(注5)287頁〜288頁,藤原・前掲論文(注5)195頁

〜196頁。

7)

CIL, ibid, para.2 .11 .

8)

CIL, ibid, para.2 .14 .

(5)

理由とする契約の解除・保険金支払義務の全部免責を保険者が主張すること が認められ,消費者には厳しい結果をもたらしがちであったといえる。

一方,第4に,保険者としても,業務の効率化の観点から保険契約者・被 保険者からの自発的な情報提供をまって危険選択をすることが非現実的であ り,提供情報の種類等の不均一という点で非効率でもある。そのため,伝統 的な自発的告知義務を廃止し,保険者からの質問に保険契約者・被保険者が 回答するという方法での告知に改めることが求められていた 。

②保険契約者等の真実表示義務

第2に,1906年海上保険法20条1項によれば,保険契約締結に際し保険契 約申込者等が保険者に行った一切の重要な表示は真実でなければならないと 定められている(真実表示義務)。そのため,保険契約者等の行った事実の 表示(representation of fact) が真実でなかった場合は,当該表示を行 った保険契約申込者が誠実かつ合理的に行動したときであっても,真実表示 義務違反となり,保険者は保険契約を取消すことができるとされている 。 そうすると,保険者が,非常に広範な,あるいは,内容等の点で必ずしも明 確でない質問を行っている場合には,保険契約者等が合理的な注意を払った としても,結果的に不正確な回答をしてしまうことがある。その場合も,保 険契約者等の不実表示があったものとして扱われるため,この義務が,保険 契約者等には不公正に作用するとされていた 。また,この義務の違反の場 合も保険契約全部の取消しと保険者の全部免責の効果が生ずるため,その法 効果が保険契約者等に酷な結論をもたらしているとの指摘・批判が行われて

9)

CIL, ibid para.2 .15 .

10) この表示(representation)と告知(disclosure)との関係が問題となるが,

告知が保険契約の最高信義契約性に由来する保険契約者等の自発的情報提供義 務に対応するものであるのに対し,表示は,保険者側からの質問に対する回答 を指す用語と解して差し支えないようである。CIL, ibid, para.2

.16 .

11)

CIL, ibid, para.2 .15 .

12)

CIL, ibid, para.2 .20 .

脚注が入らないため,アキを作成しています

(6)

いた 。

③ 契約の基礎 条項

第3に,コモンロー上,保険者は,保険契約の申込書(proposal form の中に,消費者(保険契約者・被保険者)はすべての回答の真実性を保証す る旨,すなわち,保険契約者等の与えた回答が 契約の基礎(the basis of

the contract)を構成する 旨の文言を挿入することで,保険者にとって重  

要事実であるかどうかを問わず,保険契約者等による一切の表示を 真実性

保証 (

warranty

)へと法律上転換することができるとされてきた。しかも,

1906年海上保険法33条3項が,真実性保証は 危険測定に関するか否かにか かわらず,これを正確に履行しなければならない 契約条件であると規定す る。そのため,保険者は,上記の文言を契約申込書に挿入しておけば,保険 契約者等がすべての回答についてその真実性を保証していると主張・立証す ることで,いかに些細な事項であっても,それに関する不実表示を理由に保 険契約を取消すことができるばかりか ,保険契約者等に過失がない場合で あっても,真実性保証義務違反を理由とする契約の取消しを行うことが可能 であった。

もっとも, 契約の基礎 条項は消費者である保険契約者等に一種の不意 打ちを与えるため,実務上はその利用が差し控えられている が,小規模 事業者を保険契約者・被保険者とする保険契約における当該契約条項の効力 が問題となった事件で,これを有効とする判決 が報告されている。その 結果,裁判所が今後,消費者保険契約についても同様の判示を行う可能性が

13)

CIL, ibid, para.2 .15 .

14)

CIL, ibid, paras.2 .23 ,

2

.24 .

15)

CIL, ibid, paras.2 .26〜2 .28 .

また,1906年海上保険法20条は,保険契約者 等による不実表示が,慎重な保険者(prudent insurer)にとって重要な事実 に関するものであり,かつ,その不実表示が保険契約締結の誘因となったとき に限り,保険者の救済(契約取消し,保険金の支払拒絶)を認めるものであり,

契約の基礎条項の射程に一定の限定を付している。

16)

Unipac

(

Scotland

)

Ltd v Aegon Insurance,

1996

SLT

1197

.

(7)

出ていたため,この点でも立法措置が求められていた 。

⑵ 実務対応の限界と立法的対応の必要性

①消費者保険契約に係る実務対応

イギリスでは,以上の問題点を踏まえて,消費者保険契約について保険契 約者等の不実表示・不告知に関するコモンロー・ルールの見直しに向けた検 討がこれまで行われてきた が,立法措置はなかなか進まなかった。それ は,英国保険業協会(the Association of British Insurers)やその前身組 織が,ルールの見直しは自主規制の問題または金融オンブズマンの裁定の問 題として行う方が望ましいと主張してきたからである 。

そ こ で,実 務 対 応 と し て,第 1 に,英 国 保 険 協 会(British Insurance

Association

)とロイズが1977年に公表し1986年に改正・強化された 保険

 

実務に関する声明(the Statements of Practice) は,保険契約者等の重 要事実の告知義務を保険契約申込書で目立つように説明すること,重要事項 は質問項目として明示すること,保険契約者等が告知すると合理的に期待で きない重要事実の不告知を理由とする保険者による免責主張の制限等を保険 業者に求めるとともに,契約の基礎条項の利用を禁止する旨等を定めていた。

これは2005年に廃棄されたが ,強制力がないため実効性に欠ける上に,不 実表示の過失の有無を保険者が行う仕組みがとられているため,消費者保険

17)

CIL, supra note

6

, at para.2 .28 .

18)

The Law  Reform  Committee, Fifth Report of the Law  Reform  Com- mittee

(1957)(

Cmnd

62)

, The English Law  Commission, Insurance Law, Non

‑Disclosure and Breach of Warranty(1980)

, Law  Com  No.104 , National Consumer Council, Insurance Law  Reform :the Consumer Case for Review  of Insurance Law  

(

M ay

1997)

, BILA, Insurance Contract Law Reform

Recommendations to the Law Commissions(2002)   .

19)

CIL, supra note

6

, at para.2 .29 .

20) その内容は現在,金融オンブズマン・サービス(the Financial Ombuds-

man Service

)の行動指針として継承されている。CIL, ibid, paras.2

.31 ,

2

.

32

.

(8)

契約に係る上記問題の解決策としての機能的限界が指摘されていた 。 第2に,イギリスでは,金融サービス機構(the Financial Services Au-

thority

)が2005年以降,保険全般についても監督を行ってきた が, 金融

サービス機構ハンドブック (

the FSA  Handbook)に規定されている 保

険事業ソースブック(Insurance:Conduct of Business Sourcebook) (以 下,ICOBSという。) では,消費者保険について,保険者が消費者からの 保険金請求を,保険契約者・被保険者からの告知を合理的に期待できないよ うな危険測定上の重要事実の不告知または保険契約者等に過失のない危険測 定上の重要事実の不実表示を理由に拒絶することは,詐欺の立証がない限り,

不合理なものとなる旨を明記する(ICOBSルール 8.1.2)。さらに,同ルー ル 5.1.4のガイダンスでは,保険者が,保険契約者・被保険者に対し,重要 事実をすべて告知すべき義務の存在と,告知すべき事項,告知義務懈怠の場 合の効果を説明すること,重要事項について保険契約者等に対し明確な質問 を行うことを推奨する。FSAによる取組みは,これに従わない保険業者に 対する是正措置を発動できるため,業界の自主規制に比し実効性が高いが,

確立した判例法理を変更できない点に限界がある。そのため,現実の紛争処 理では依然,判例法理が適用され,消費者である保険契約者・被保険者の請 求が重要事実の不告知・不実表示を理由に棄却される可能性が高く,必ずし も十分な問題解決の機能を果たしていないこと や,ICOBSには,契約の 基礎条項を用いることを禁止する規定がないために,当該条項を保険契約に

21)

CIL, ibid, para.2 .33 .

22)

FSA

は,2012年金融サービス法(the Financial Services Act2012)によ り,2013年 4 月 1 日 以 降,業 者 の 行 為 規 制 を 担 う

the Financial Conduct Authority

(FCA)と,イングランド銀行(the Bank of England

 

)の一部と

して金融システムの健全性確保の観点から金融機関を規制する

the Pruden- tial Regulation Authority

(PRA)とに分割されている。

23)

FSA  Handbook

FSA

の 機 構 改 革 を 受 け て

FCA  Handbook

と な り,

2013年4月1日より施行されている。ICOBSも同ハンドブックに継承されて いる。

24)

CIL, supra note

6

, at paras.2 .38 ,

2

.39 .

(9)

盛り込む例が現存し,消費者が不意打ちを受けるおそれがあることが指摘さ れていた 。

第3は,2000年金融サービス・市場法に基づく金融オンブズマン・サービ ス(the Financial Ombudsman Service)(以 下,FOSと い う。) に よ る 対応である。FOSは,同法228条2項により,紛争に関する一切の事情を考 慮して公正かつ合理的と考えるところに従って当該紛争の解決に当たること を求められている。それゆえ,FOSは,コモンロー・ルール適用の結果が不 当であると考えるときは,同ルールから離脱できるため,この機能を通じて 従来の保険法ルールの消費者保険契約への適用を排除する余地がある。これ に,FOSの利用が無料であることが相まって,保険契約に関する紛争の渦 中にある多くの消費者にとって,FOSへの紛争解決の申立が不当な結果回 避のための唯一の現実的手段とされている 。

②金融オンブズマン・サービスによる対応

そこで,FOSの対応をみると,第1に,FOSは,前記保険実務共同声明 が,保険者に,重要事実について明確な質問を保険契約者等に対し行うこと を求めていたことをもって,保険者は,当該質問をしなかったときは,重要 事実の不告知を主張できないことを意味すると解釈し,保険契約者等の自発 的告知義務の適用を排除していた。ただ,ICOBSルール 8.1.2が自発的告 知義務を前提とするため,規律間の不整合が指摘され,依然,消費者が不測 の不利益等を受けるおそれがあった 。

第2に,ICOBSルールは,保険契約者・被保険者の重要事実の不告知ま たは不実表示を,保険契約者等の善意無過失によるケースと,詐欺的な(ま たは悪意のある)または重過失によるケースに2分し,後者のケースには保 険者による保険契約の取消しと保険金の支払等の拒絶を認めている。そのた

25)

CIL, ibid, paras.2 .44 ,

2

.45 .

26)

FOS

の概要等については,松澤登 英国オンブズマン制度に関する一考察

―告知制度を中心に― 生命保険論集168号207頁以下(2009年)に詳しい。

27)

CIL, supra note

6

, at paras.2 .41 ,

2

.42 .

28)

CIL, ibid, para.2 .48 .

(10)

め,保険契約者等が軽過失によって不告知または不実表示をした場合が後者 の詐欺的なまたは重過失による告知義務違反のケースに包摂され,消費者の 不注意の程度とバランスを欠いた処理が行われてしまうという問題が残され ていた。そこで,FOSは,ICOBSルールと異なった方法をとり,不実表示 を,消費者が合理的に行動しながら不実表示となった善意無過失による不実 表示(innocent misrepresentation)と,消費者が軽過失で不実表示を行っ た 過 失 に よ る 不 実 表 示(careless/

negligent

/

inadvertent misrepresenta- tion

),および,消費者が意図的または重大な過失により不実表示を行った 悪意または重過失による不実表示(deliberate or reckless misrepresenta-

tion

)に分類した上で,それぞれのケースの法効果を区分する。これは,善 意無過失による不実表示のケースは保険契約を有効として保険者の責任を全 部認める一方,悪意または重過失による不実表示のケースでは従来通り保険 者による保険契約の取消と全部免責を許すものである。注目すべきは,フラ ンス法に倣って,保険契約者等が軽過失により重要事実の不実表示を行った 場合の処理のし方としてプロラタ主義を採用している点である 。すなわち,

FOS

は,軽過失による不実表示の場合に,正確な告知が行われていたなら ば保険者がより高い保険料を適用したと判断されるときは,保険者は,当初 の保険料をより高い保険料で除して得られた割合を約定保険金額にかけて算 出される金額を支払う方式と,正確な告知が行われていたならば保険者が当 該事実を保険保護の対象から除外していたと判断されるときは,除外条項が あったと仮定して,当該事案において保険金が支払われることになるかどう かを問題とする方式とを併用する。こうした

FOS

による取組み,とりわけ 軽過失による不実表示のケースにおけるプロラタ主義の採用は現実に機能し,

公正であるとの評価を得ている 。

そのため,保険業界も,FOSの取組みを受け,保険制度への消費者の信 頼を確保すべく,伝統的な保険法ルールの規律内容を修正する取組みを改め

29)

CIL, ibid, paras.2 .48 ,

2

.49 .

30)

CIL, ibid, para.2 .53 .

(11)

て行っており,その成果が,英国保険業協会が2008年1月に公表したガイダ ンス 不告知および長期保険商品に係る顧客の請求に対する公正な取扱い (

Non-Disclosure and Treating Customers Fairly in Claims for Long- Term  Insurance Products

)である。これは2009年1月に協会員が遵守義 務を負う実務コード(Code of Practice)に改められ実効性の向上が図ら れている上に,不実表示を3分類して法効果を区別する

FOS

のアプローチ を採用し,保険契約者等の軽過失による不実表示の場合の取扱いとしてプロ ラタ主義を採り入れている 。ただ,これも,コモンロー・ルールにとって 代わるものでないために,消費者保険契約が裁判上は1906年海上保険法に定 めるルールの適用を受ける余地を残しているし,このコードの適用範囲が生 命保険,重度疾病保険,所得補償保険,傷害保険に限定され(同コード

para.

1.1)すべての保険契約をカバーしていない点で限界がある 。

③立法的対応の必要性

こうした実務対応では,前述した

FSA(現 FCA

)の取組みと

FOS

の対 応との不整合から明らかなように,基準やルールが錯綜し整合性を保ってい ないために,十分な問題解決策になっていない上に,それが実務上の取扱い の混乱を生じさせていた 。また,FOSが拘束力のある裁定を行える事案 が,保険金額で10万ポンド以下のケースに限られているため,すべての消費 者に対し実効性のある保護策を提供するものでないこと,FSA  Handbook

(現

FCA  Handbook)の紛争解決ソースブック(Dispute Resolution Sou-

rcebook)によれば,FOS

に紛争解決の申立てが行われた場合でも,FOS

において当該案件を裁判所,調停その他の苦情処理スキームにおいて処理す る方が適当であると判断するときは,FOSによる紛争処理が行われないと されていたことから,依然として,問題の解決が1906年海上保険法の規律を ベースとする司法審査に委ねられ,消費者に酷な結果が生ずる余地が残され

31)

CIL, ibid, paras.2 .54〜2 .56 .

32)

CIL, ibid, paras.2 .55 ,

2

.58 .

33)

CIL, ibid, paras.3 .9〜3 .17 .

(12)

ている。そのため,FOSによる取組みにも限界が指摘されていた 。

3.消費者保険法の制定とその概要・特色

⑴ 2012年消費者保険法の概要

こうした事情を制度的背景に,少なくとも消費者保険契約については,コ モンロー・ルールや1906年海上保険法の定める規律の適用を排除し,錯綜気 味の実務対応を整理して,保険契約者・被保険者となる消費者に対して保険 契約締結前の保険契約者・被保険者の告知義務に関する合理的なルールを明 示する制定法の導入が不可欠とされたため,2012年消費者保険法の制定に至 ったものである。

以下,同法の主要な規律内容を概観すると,第1に,適用対象となる消費 者保険契約とは, 自己の取引(trade),営業(business)または専門職業

(profession) に関係しない目的のためだけに,または,その目的を主眼と して保険契約を締結する自然人と,保険業を営みその事業の一環として保険 契約の当事者となる者との間で締結される保険契約 をいう(同法1条)。

ここに消費者とは,上記の目的のために消費者保険契約を締結する自然人

(individuals)をいうが(同条),消費者概念が,自然人であることのほか,

保険契約締結がもっぱら,当該自然人の取引,営業または専門職業と無関係 な目的のためだけに行われるか,または,当該目的を主眼として行われるこ とを構成要件とするため,要件充足の有無は事実問題となる。例えば,請負 業を営む個人が主として自家用で使う自動車について自動車保険契約を締結 する場合は,当該自動車を営業に用いていても,消費者として扱われる。こ れに対し,所有建物等を賃貸する個人オーナが当該建物について火災保険契 約を締結する場合は,事業者として扱われる 。

34)

CIL, ibid, paras.3 .4〜3 .8 ,

3

.48 .

35) 専門職業(profession)の例としては,プロサッカー選手が挙げられている。

CIL, ibid, para.5 .14 .

36)

CIL, ibid, para.5 .18 , Explanatory Notes, supra note

4

, para.18 .

(13)

ちなみに,2012年消費者保険法では,グループ保険契約(group insur-

ance

)においては被保険者(損害保険)または保険金受取人(生命保険等)

が同法にいう消費者であれば,その者を保険契約者とみなし,同法に定める 保険契約者の義務を課すが,保険契約者が企業者であるときは,名目上の保 険契約者は引き続きコモンロー・ルールの適用を受けることから,保険契約 者が告知義務に違反した場合に消費者である被保険者・保険金受取人にとっ ては酷な結果が生ずるおそれがある 。この点は,やや徹底を欠こう。

⑵ 消費者保険における自発的告知義務の廃止と質問回答義務への移行 第2に,消費者保険契約の保険契約者(the insured)は,消費者保険契 約の締結または変更に際して,不実表示(misrepresentation) を行わない ようにする合理的な注意(reasonable care)を払う義務を負う(同法2条 2項)。これにより,第1に,1906年海上保険法18条2項所定の自発的告知 義務が,消費者保険契約に関する限り保険契約者・被保険者たる消費者には 適用されなくなり(2012年消費者保険法2条4項),保険契約の最高信義契 約性というコモンロー・ルールもその限りで修正をうける(同条5項

a号)。

これは,消費者保険契約に関して

FOS

の紛争処理で用いられている前記の 取扱いを制定法に取り入れ,そのことをもって既存の法ルールの修正を図る ものといえるであろう。

第2に,不実表示が行われた場合であっても,消費者である保険契約者・

被保険者が善意無過失であるときは,保険者による保険契約の取消し等の保 険者救済が認められず,当該契約はそのまま有効なものとして扱われる。消 費者たる保険契約者または被保険者の不実表示が善意無過失によるものかど

37) この問題は立法過程で指摘されていた。CIL, ibid, para.7

.17 .

38)

representation

を告知と訳することもあるが(例えば,甘利監訳・前掲(注 1)),本稿では,これを表示とし,disclosureを告知と訳している。また,

2012年消費 者 保 険 法 第 2 条 第 2 項 ・ 第 3 項 で は 不 実 表 示(misrepresenta-

tion

)という用語が用いられているが,これは重要事実に係る不実告知だけで なく,不告知をも包摂すると解されている。CIL, ibid, para.5

.50 .

(14)

うかの判断にあたっては,合理的消費者(reasonable consumer)を基準と して一切の事情を勘案するものとされている(2012年消費者保険法3条1 項・3項)。この点については,保険者の質問が包括的であるため,合理的 な消費者であれば,保険者がその時点で特定の情報を求めているものとは理 解しないと認められる場合,消費者が自己の回答が真実であると信頼するだ けの合理的理由を有している場合,合理的な消費者であれば,ある事実が,

保険者の知りたい事実とは考えない場合,消費者が,保険者が当該情報をす でに入手していると考えることが合理的である場合等のほか,保険者の質問 表の内容設計等に問題があるため,合理的な消費者であっても質問に気づか ないとみられる場合等(同条2項参照)が,善意無過失の不実表示事例とし て例示されている 。

ちなみに,不実表示に係る保険契約者等の注意義務違反の立証責任は,基 本的にこれを保険者が負うが(同法5条4項),保険者の質問が明確かつ特 定的である場合は,消費者は当該質問事項が保険者にとって重要であること を認識していたとの推定が働く(同条第5項)。そのため,保険者は保険契 約者等の回答が事実と異なっていることを主張すれば,それが保険契約者等 の不注意の一応の立証になるとされている 。

⑶ 告知義務違反の効果

①保険者救済が認められる不実表示(Qualifying Misrepresentations 消費者保険契約に関して,第1に,保険契約者・被保険者となる消費者が 行った不実表示を理由に保険者の救済が認められるのは, 当該消費者に 2012年消費者保険法2条2項に定める注意義務の違反があり,かつ, 保険 者が,当該不実表示がなければ,当該消費者保険契約を締結しなかった(ま たはその変更に同意しなかった)か,または,異なった条件であったならば,

そのときに限り当該消費者保険契約の締結または変更の同意を行ったであろ

39)

CIL, ibid, paras.5 .71 ,

5

.72 .

40)

CIL, ibid, para.5 .87 .

(15)

うことを証明するときである(同法4条1項)。これを,保険者救済が認め られる不実表示(qualifying misrepresentation)といい(同条2項),その 場合における保険者の救済は,同法附則第1に規定され,これに限定される

(同条3項)。これにより,消費者が保険契約締結に当たり不実表示を行った 場合でも,善意無過失であるときは,保険者の救済すなわち消費者保険契約 の取消し等が認められず,有効な契約として扱われる。

第2に,保険者救済が認められる不実表示は,保険契約者・被保険者であ る消 費 者 の 主 観 的 事 情 に よ り,悪 意(deliberate)ま た は 重 過 失(reck-

less

)によるものと,過失(careless)によるものとに2分され,保険者の 救済に違いが設けられている。まず悪意または重過失による不実表示の場合 についてみると,ここに 悪意 とは,消費者が,表示が不実である(un-

true

)ことまたは保険者の判断を誤らせるものである(misleading)ことを 知り,かつ,消費者が,当該不実表示が関連する事項が保険者にとって重要 であること(relevant)を知っていたことをいう(2012年消費者保険法5条 2項)。また,悪意に準ずる 重過失 (

reckless

)とは,消費者が,表示が 不実であるか,もしくは,保険者の判断を誤らせるものであるかどうかに配 慮しなかったこと,かつ,消費者が,当該不実表示が関連する事項が保険者 にとって重要であるかどうかに配慮しなかったことをいう(同項)。このう ち,reckless概念は理解が難しいが,自己の説明が正確かどうか,説明事 項が保険者にとって重要かどうかが正確には判断できないのに,一定の方向 の回答を行う場合が,これに当たるとされ ,その意味で,過失による不実 表示と異なるとされている 。

いずれにせよ,不実表示が消費者の悪意または重過失によるものとされる ためには,当該消費者が,告知事項が保険者にとって重要であることを知っ ていたか,またはその認識を欠いたことに重過失があったことの立証も求め

41) ㈳生命保険協会 生命保険契約に係るいわゆるプロラタ主義に関する海外調 査報告書(フランス・イギリス・ドイツ) 英22頁(㈳生命保険協会,2007年)。

42)

CIL, supra note

6

, at para.6 .18 .

(16)

られるが,保険者がこれを立証することの困難性が保険業界から懸念事項と して示されていた 。ただ,保険者が明確かつ特定的な(具体的な)質問を 行っている限り,当該事項が保険者にとって重要であることを消費者が認識 しているものとの推定が働くため(2012年消費者保険法5条5項b号),そ の限りでは保険者側の立証負担はさほど大きくないのであろう。

一方,第3に,過失による不実表示とは,消費者が消費者保険契約の締結 にあたり注意義務に違反して行った不実表示のうち,悪意または重過失によ るものと認められない場合をいう(同条3項)。その意味は,negligentと同 義とされているが,その定義から比較的広範な射程を持つとされている 。

②保険者救済の類型

消費者保険契約締結時の告知義務違反が保険契約者・被保険者たる消費者 に認められる場合に保険者に認められる法的救済についてみると,2012年消 費者保険法は,これを悪意または重過失による不実表示を理由とする救済と,

過失による不実表示を理由とする救済とに区別して規定する。

第1に,悪意または重過失による不実表示の場合は,保険者は,当該契約 を取消し(avoid),すべての請求(claims)を拒絶することができるとと もに,消費者にとって不公正とされない限り,払込済みの保険料(pre-

miums paid

)の返還義務を免れる(2012年消費者保険法第1附則2条)。

ちなみに,保険料を返還しないことが消費者にとって不公正とされるケース として,例えば,貯蓄機能付き生命保険契約において貯蓄スキームに組み入 れられる保険料部分については,たとえ消費者が悪意または重過失による不 実表示を当該契約の締結時に行ったとしても,これを保険者が保険契約取消 後も保持し続けることが不公正であるとみられる場合があると説明されてい る 。

これに対し,過失による不実表示の場合における保険者の救済は,消費者

43)

CIL, ibid, para.6 .21 .

44)

CIL, ibid, paras.6 .55 ,

6

.56 .

45)

CIL, ibid, para.6 .49 .

(17)

が消費者保険契約締結時に所定の義務を履行したとすれば,保険者がどのよ うに行動したかを基準とし(同附則4条),次のように内容が区分されてい る。第1は,保険者が消費者保険契約をいかなる条件であっても締結しなか ったとみとめられるときであり,保険者は,当該契約を取消し,すべての請 求を拒絶することができるが,払込済みの保険料は保険契約者に返還しなけ ればならない(同附則5条)。また,保険者が契約を取消すには,消費者に 対し相当期間の通知を行うことを要する(同附則9条4項b号)。

第2に,保険者が消費者保険契約を締結したとしても,それは異なった条 件(保険料に関する条項を除く。)によるものであったとみとめられるとき は,当該契約の取消しは認められず,保険者の請求があれば,当該保険契約 が,当該異なった条件に基づいて締結されたものとみなされる(同附則6 条)。この場合も,また次の第3の場合も,保険者は当該消費者に対し所定 の措置を講じる旨を通知することを要する(同附則9条4項a号)。

第3に,保険者が消費者保険契約を締結したとしても,より高い保険料を 課したとみとめられるときは,保険者は,保険金請求に基づいて支払われる べき金額をそれに応じて(proportionately)減額することができる(同附 則7条)。この場合も,当該契約の効力が否認されることはないが,保険料 以外の契約条件が同一のままであるか,それとは異なったものであったとさ れるかを問わず,約定保険料をより高い保険料で除して得た割合に約定保険 金額を乗じて得た金額の保険金を保険者が支払うものとするプロラタ主義

(比例減額原則)(同附則8条)が採用されている 。これは,イギリス保険 法上初めてプロラタ主義を採用するものであり,その意味で画期的な立法と いえるが,同時に,FOSが既に紛争解決手続の中で過失による不実表示を 対象に適用し実務上定着しているとの評価 のある実務先行型の手法を制 46) 支払保険金額は,約定保険金額(当初の支払予定保険金額)× X%で計算さ れ,Xは,実際に課された保険料をより高い保険料で除したものに100を乗じ て算出する(2012年消費者保険法附則第1第8条)。この手法は,フランス法 を参考にしたものである。CIL, ibid, para.2

.53 .

47)

CIL, ibid, paras.4 .26 ,

4

.27 .

(18)

定法上の救済策として取り込むものであって,実務上の運用可能性を確保し ている点が注目される。

なお,2012年消費者保険法は,生命保険について特例を設けており,消費 者が生命保険契約の締結に当たり重要事実につき過失による不実表示を行っ た場合に,不実表示がなければ当該保険者において保険契約を締結しなかっ たとみとめられるときであっても,保険者は当該保険契約の取消しを行うこ とができず,不実表示に係る事項を保険担保から除外するなどして契約を継 続することを求められる(同法第1附則9条5項)。これも,FOSが生命保 険契約について実施している取扱いを法制化するものであり,保険業界から も特段の異論は示されていない 。これは,イギリスにおける生命保険契約

(死亡保険)が長期契約であって,しかも重度疾病保険が付されていること が一般的であるため,例えば契約締結後に被保険者が癌と診断され保険金受 取人として保険金の請求を行おうとしたときに,保険者が契約締結時に保険 契約者の過失による不実表示があったことを理由に保険契約を取り消すこと を認めると,当該被保険者は以後おそらく同種の生命保険契約を締結するこ とができなくなることから,消費者に苛酷な結果を生じさせるおそれがある ことを懸念したものである 。

⑷ その他の消費者保護策等

このほか,2012年消費者保険法は,第1に,消費者保険契約の申込みまた は変更(variation)の申込みの際の表示を 契約の基礎 とする旨の条項 を当該契約に挿入しても,これを無効とし,不意打ち防止措置を講じる(同 法6条)。第2に,不実表示に関する2012年消費者保険法の規定を契約で排 除し,消費者を同規定が適用される場合よりも不利な状態に置くこと(con-

tracting out)は無効とされ(同法10条),片面的強行規定化が図られてい

る。第3に,消費者保険契約が保険代理店等を介して締結された場合に,重

48)

CIL, ibid, para.6 .96 .

49)

CIL, ibid, para.6 .85 .

(19)

要事項について保険者救済が認められる不実表示がみとめられるときに関し て,当該代理店等の主観的事情をもって消費者の悪意等と認められるかどう かを判断する上で,当該代理店等が消費者の代理人か保険者の代理人かを決 することを要するものとし,その際の判断基準を例示する(同法9条,同法 第2附則)。

4.結びに代えて ―日本法への若干の示唆―

イギリス2012年消費者保険法の制定は,既に実務上運用されているところ を導入したものであって,イギリスの保険実務から見れば決して斬新な内容 の改正でないことは確かである。しかし,比較的長い伝統を持つイギリス保 険法制との関係でみれば,保険契約一般の共通ルールとしてのコモンロー・

ルールおよび1906年海上保険法の規律の位置づけに大幅な修正を加えるとと もに,イギリス保険法上初めて,保険契約者等を消費者と企業者とに分け,

法的規律を消費者保険契約と企業保険契約とで区分する方向性を打ち出した ことは,イギリス保険法体系に大きな変化をもたらすものといえる。今後の 改正作業では,保険契約者および被保険者が企業者である場合の告知義務の 内容やその違反の効果について,やや保険者寄りとされているルールをより 中立的な内容の規律に改める作業が,プロラタ主義採用の是非の検討を含め て始められている 。また,2012年消費者保険法では扱われなかった契約締 結後の問題として保険金支払遅延に対する被保険者等の救済の在り方,詐欺 的な保険金請求に対する保険者の救済方法,被保険利益等が検討課題として 挙げられており,イギリス保険法の抜本的な見直しが行われようとしてい る 。

50)

The Law  Commission and the Scottish Law  Commission, Insurance Contract Law :Business Insuredʼ s Duty of Disclosure and the Law  of   Warranties

(

Law  Com  Consultation Paper No.204/   Scot Law  Com  Dis-

cussion Paper No.155)( Joint Consultation Paper

)(2012)

.

51)

The Law  Commission and the Scottish Law  Commission, Insurance

Contract Law:Post Contract Duties and Other Issues  

(

Law  Com  Con-

(20)

一方,こうしたイギリス法の改正動向から日本の保険法研究にとってどの ような示唆が得られるであろうか。第1に,すでにわが国の保険法は,一部 規定の片面的強行規定化と損害保険契約について企業保険をそこから除外す ること(保険法7条,12条,26条,33条,36条)を通じて,保険契約に関す る法的規律(保険契約者等の保護のための規律)について消費者保険契約と 企業保険契約の区分を実現している。この点で同一の方向性を目指すイギリ ス保険法は,今後の立法動向も含め比較法的見地から参考に値しよう。

第2に,2012年消費者保険法が保険契約者・被保険者の過失による不実表 示(告知義務違反)の場合の処理方法として,契約の全部取消し・保険金支 払拒絶(但し,保険料は返還)と,保険契約の条件変更(除外事項の追加 等)および支払保険金の算定におけるプロラタ主義を採用したことは,殊に プロラタ主義の導入の是非がわが国の保険法制定時の議論でも検討されてい ながら,結局見送られたことと比較すると,わが国でも改めてプロラタ主義 の採用を検討することの必要性が依然あることを示唆するものといえまい か 。

もっとも,イギリス保険法上の保険契約者等の告知義務違反に係る規律で は,因果関係不存在特則が存在しないのに対し,わが国保険法では,保険事 故の発生と因果関係のない事項に係る告知義務違反の場合には,当該保険事 故の発生を理由とする保険金請求を保険者が拒否できない(保険法31条2項 1号但書,59条2項1号但書,88条2項1号但書)という法制上の違いがあ るため,わが国での議論にあたっては,因果関係不存在特則の立法政策上の 評価を含めて,プロラタ主義の採用の可否を検討する必要がある。

それでも,イギリス法が因果関係不存在特則を採用せず,また保険契約者 等の過失による告知義務違反の場合にも保険者からの契約解除等を許すもの

sultation Paper No.201/ Scot Law  Com  Discussion Paper No.152)( Joint Consultation Paper)(2011) .  

52) プロラタ主義を立法論として改めて検討する必要性を説く論者として,例え ば,小林・前掲(注2)39頁以下, 阿憲 保険法概説 74頁(中央経済社,

2010年)。

(21)

であることを踏まえつつ,プロラタ主義の採用により保険契約者等への影響 の緩和を図るイギリス法のアプローチが,先行していた実務の手法を立法に 取り込んだものであることも勘案すると,導入した場合の取扱いの困難が指 摘されるプロラタ主義の採用をわが国の保険法下でも改めて検討する際の一 つの立法例として参考に値しよう。イギリスでは,企業保険契約にもこの種 の考え方を採用するかどうかが検討されているが,わが国でも立法論として プロラタ主義の採用にあたり消費者保険契約と企業保険契約とで規律を区別 すべきかどうかの問題が指摘されていること に鑑みると,企業保険契約 向けのイギリス保険法の改正動向にも引き続き注目する必要があるように思 われる。

(筆者は早稲田大学商学学術院教授)

53) 山下(友)・前掲(注2)419頁〜420頁。

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