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リスク転嫁に関する保険と ERM の一考察

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リスク転嫁に関する保険と ERM の一考察

大 城 裕 二

■アブストラクト

情報処理技術の進歩,グローバリゼーションの進展,規制緩和の進行等,

経済社会の環境変化は構造的であり,企業活動の経営的関心においては,も はやリスクへの対応が不可避的視座となっている。大災害リスク,テロ・リ スク,利率リスク等,伝統的保険手法によるリスク処理能力に限界性が指摘 され,資本市場を糾合するリスク財務体系の開拓が飛躍的進歩を見せてきて いる。リスク財務の転嫁手法としては,保険が絶対的に有力視されてきたが,

リスク環境動向を反映して,代替的リスク転嫁手法(ART)の開拓を中心 に,財務統合的・総合的なリスク処理実践の展開が進行している。こうした 斬新なリスク処理実践体系の代表的表現とされるERM は,リスク財務のリ スク転嫁手法を有力な手法として開発させている。リスク転嫁の有力施策で ある保険は,ERMの展開においても基盤的施策として位置づけられる。

■キーワード

ERM(企業体リスクマネジメント),リスク財務,リスク転嫁

Ⅰ.はじめに

近年におけるリスク処理実践の展開は,情報処理技術,リスク数理手法等 のさらなる発達をもって,斬新なるリスク転嫁手法の開発 に繋がってきて

*平成18年2月18日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成19年2月14日原稿受領。

1) George E. Rejda,Principles of Risk  Management and  Insurance, 9

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いる。リスク処理実践には,古くからさまざまな方策が開発されてきたが,

近年における経済的リスク処理の施策には,環境変化に応えて開発されるリ スク処理技術の顕著な発展を窺うことができる。経済的損害の不確実性に対 する有力施策としては,これまで保険を基盤に置くリスク転嫁手法が大いに 有効なものとされてきた。それゆえに,保険不能リスクに対する経営判断は,

しばらく経営外部要因として科学的管理の 外に置かれてきたということが できる 。しかるに,保険の科学的合理性は,理論と実践に幾分かの整合性 を欠きながらも,確率論の思考に基づくリスク平均化技術を根底に置き,不 確実性への対応に経営学的有用性を訴え続けてきたのである 。ただ,近年 における情報処理技術の飛躍的向上とこれに付随する派生的環境変化の目ま ぐるしい動きは,伝統的な保険応用形態のみならず,新たなリスク転嫁手法 を開拓させている。

リスク環境の変遷は,保険に関わるリスク研究を進展させ,20世紀半ば以 降,経営的リスク処理の視座を急速に発展させてきた。とくに,回避,保有,

転嫁,軽減という4つのリスク処理形態を支柱とするリスクマネジメント

(以下=RMとする。)体系の開発は,リスクに対する経営学的アプローチを 急速に進展させ,近年では,経営財務論的RM研究の独自的展開を導くま でになってきている。長い間,リスク処理問題への科学的接近は,保険学的 なリスク概念操作をもって可能とされてきていたのである 。

ed.,Pearson Education, Inc.,2005, pp.14‑15. Athearn, J. L.,et al.は らかのリスクは株主に対して限られた責任を持つ企業の形成によって転嫁でき る。その他のものは,保険を含む契約措置によって転嫁できる。 とする。

James L. Athearn, S. Travis Pritchett, Joan T. Schmit,Risk  and Insurance, 6 ed.,West Publishing Company,  1989, p.10.

2) 保険の利用は費用便益分析によるが,保険不可能リスクは経営的判断に多く が委ねられる。経営手腕の問題に関わる経営学的関心においても,リスクは経 営外部要因として経営的関心の 外に置かれるところがあった。

3) 保険市場の形成と失 敗 に つ い て は,Herbert S. Denenberg,et al., Risk and  Insurance, 2 ed.,Prentice-Hall, Inc.,  1974, pp.22‑28を参照。

4) 大城裕二 ドイツ危険管理論の展開 損害保険論集 (損害保険事業総合研 54

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リスク処理実践の経営学的発達は,米国RM実践の展開に顕著に見られ,

対象リスクを純粋リスクに限定する保険管理型RM が主流とされてきた。

1980年代半ばに至るまで,リスク概念の操作性が問題視されながらも,企業 界での実践可能性に配慮して,保険可能リスクの処理を中心とする米国型 RMの展開が繰り広げられてきた。そこには,保険業界の保守的姿勢という よりも,むしろ保険化困難な投機的リスクを扱うことへの抵抗感があったと いえる。ただ,そのような配慮もリスク環境の大きな転換によって,1980年 代にはファイナンシャル・リスク問題への積極的アプローチが促され始め,

投機的リスクおよび動態的リスクを類別しようとする保険経営的視座は,む しろ特殊なものとされ,リスク処理問題は経営全般に拡張されるようになっ てくるのである 。

米国RM実践におけるリスク概念の拡大は,1980年代以降の諸研究に窺 えるところであり,基本的にはブレトンウッズ体制の崩壊,石油危機に始ま る累積債務問題,情報処理技術のさらなる進歩,グローバリゼーションの進 展,そして世界的金融規制緩和の動向を背景とする世界的リスク環境の変化 によるところである。すなわち,1970年代前半における変動相場制への移行,

石油マネーを通じての累積債務問題等,財務リスク(financial risk)問題 への関心の高まりは,同時にそのような財務問題の技術的解決法を開拓させ る新たなリスク課題を経済界に提起してきたのである。

リスク財務手法の発達は,グローバリゼーションと金融規制緩和の下にお いて,保険中心の伝統的なリスク処理体系を包摂するリスク経済を構築し始 め,代替的リスク転嫁(Alternative Risk Transfer)と称される斬新なる リスク転嫁アプローチを続々と開発させている。天候デリバティブ,Cat.

究所創立60周年記念),平成6年2月。

5) 亀井利明 リスクマネジメント理論 中央経済社,平成4年4月,23‑24頁。

6) Edmund A. C. Crouch and Richard Wilson, Risk/Benefit Analysis, Balling Publishing Company,1982.;Neil A. Doherty,Corporate Risk Management⎜A  Financial Exposition⎜,  McGraw-Hill, Inc.,1985.

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ンド,クレジット・スワップなどのように,すでに実践的有用性が開拓され,

ある程度まで保険に替わるものとしての発展が期待されるものもあるが,そ こにはERM(Enterprise Risk Management)と称される総合的・統合的 企業リスク処理概念の展開を促す動きに繫がるところがある 。

本稿は,保険を代表的施策としてきたリスク転嫁の基本構造を振り返り,

近年におけるERM への動向とその背景にあるリスク財務手法の発展におけ るリスク転嫁概念の拡張的実践を評価しようとするものである。

Ⅱ.リスク転嫁の伝統的見解と新展開

リスク転嫁(transfer of risks)は,20世紀前葉に始まるリスク処理体系 の考察に基本的内容を提起するものであり,リスク保有と共にリスク財務

(risk financing)を主要な課題としている。リスク転嫁の施策として幾つ かを提示できるが,収支相等と給付反対給付均等を理念的運営原則として構 築される保険手法は,とくに有益なリスク処理手法として役立てられてきた。

すなわち,経済的不確実性への対応において比較的小額の経済的負担を多数 結合し,比較的少数の高額経済必要に備えるという保険の確率援用構造は,

技術的に公平なリスク処理実践として広く活用されてきたのである。

保険の概念規定について,その概念標識に関する幾つかの見解が示されて きたが ,必ずしもリスク転嫁が有力なる概念標識とされてきた訳ではない。

保険経営学的視座によれば,保険はRMにおける転嫁手段の特殊方策とし て二つの主たる文脈をもって定義される。James S. Trieschmann,et al.

は, 被保険者(転嫁者)と保険者(被転嫁者)の両当事者間で一定の機能 を果たすように考えられた経済的ないし社会的制度であり,法的契約であ

7) Erik Banks,Alternative Risk TransferIntegrated  Risk  Management through  Insurance, Reinsurance, and  the Capital Markets  ⎜, John Wiley & Sons Ltd,2004, p.173.  

8) 大城裕二 保険機能の実質と保険概念論 岡山商大論叢 第18巻第2号,

昭和57年9月,53‑54頁。

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る。 とし,Mark S. Dorfmanは,財務論的に 予期しない損害コスト を再配分する財務的取決め であり,法学的には 損害について一方が他 方を補償することを約する契約上の手法 であるとしている。すなわち,

保険とは何か。 について,保険を利用する保険契約者・被保険者側のリス ク処理観点,保険を運営する保険者側の保険経営学的観点,保険現象を客観 的に観察しようとする者の経済学的観点等,多様な説明が試みられるが,C.

Arthur Williams, Jr.,et al.によれば, 転嫁施策としての保険の特徴は,

リスク共同機構の形成,すなわち保険者が多数の被保険者のリスクを結合す るところにある とし,被保険者側の意図を推量ってリスク転嫁を強調す るものとなっている。

リスク転嫁の強調は,主観的・主体的リスク処理観に立つリスクマネジメ ント論の立場でもあるが,保険現象を客観的に説明しようとする保険経済学 的視座によれば,リスクの結合と分散を通じたリスク分担の仕組みに注目し,

保険を リスク移転 (shift of risks)の制度であるとする 。いずれにし

9) Sandra G. Gustavson and Robert E. Hoyt,Risk  Management &

Insurance, 11 ed.,South-Western College Publishing,2001, p.90. 10) Dorfman, Mark S.,Introduction  to Risk  Management and  Insurance,

7 ed.,Pearson Education, Inc.,2002, p.2. 11) Ibid.,p.4.

12) C. Arthur Williams, Jr. & Richard M . Heins,Risk  Management and Insurance, 4 ed.,McGraw-Hill, Inc.,  1981, p.210.また, 保険は,個人的 経験を結合し,もって損害の数理的予測を可能にし,リスクを転嫁した構成員 のすべてが寄与する基金によって損害を支弁させるリスク転嫁の社会的仕組み である。 ともされる。James L. Athearn, S. Travis Pritchett & Joan T.

Schmit,Risk and  Insurance, 6 ed.,West Publishing Company,1989, p.50.

13) 保険の簡潔な定義は難しい。文献に多くの定義を見るが,それらは冗長で,

定義に適さない保険に気付くことがある。 とされる。Karl H. Borch, ed.

by  Knut K. Aase & Agnar Sandmo, Economics  of  Insurance, (Advanced Textbooks in Economics, Vol.29), Elsevier Science Pub- lishers B. V., Netherlands,1990, p.1.

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ても語法上の問題であるが,本稿では,保険手法を経営学的主観論に立ち,

リスク転嫁 の施策として論述することにするが,経営学的視座による RM論では,保険手法がリスク処理の有力な手段として活用されるのである。

市場経済体制のリスク処理体系が基本的に利益社会的関係として構築される 限り,保険の役割は基本的にリスク処理の重要施策として位置づけられるこ とになる。金融規制緩和,グローバリゼーション,さらにはコンピュータ技 術の持続的進歩等によって,新しいリスク転嫁施策の開発環境が育まれてお り,ARTと略称される 代替的リスク転嫁 策の発展動向に注目されるの である。

リスク転嫁をリスク制御的なものとリスク財務的なものに分けて捉える見 方もあるが ,保険理論を中心として,一般にリスク転嫁にはリスク結果に 対して他の経済主体による財務的措置が予定されるのが常であり,保険は 一方(転嫁者)が他方(被転嫁者)に対して対価をもって自分たちのリス ク負担を措置するRM手法 であるとされる。リスク転嫁は,明らかに 経営学的視座による語法であり,経済主体の目的適合的なリスク処理の観点 を強調する表現である。保険学説として必ずしも有力とはいえないリスク転 嫁説は,米国RM研究の普及にともなって一つの有益な見解とされるよう になっている。

RM研究は,一般に,リスク処理手段を リスク制御 (risk control と リスク財務 (risk financing)に分類し,さらにリスク制御を リス ク回避 と リスク軽減 に分類して捉えている。 リスク軽減 は,リス

14) リスク制御的リスク転嫁として,①財産あるいは活動の他者への移転,②被 転嫁者に対する転嫁者の損害賠償責任の消去ないし軽減,③転嫁による他に対 して引き受けた損害債務の解消,を挙げている。C. Arthur Williams, Jr., Michael L. Smith & Peter C. Young,Risk Management and  Insurance, 8 ed.,McGraw-Hill Companies, Inc.,1998, p.277.

15) James S. Trieschmann & Sandra G. Gustavson,Risk  Management &

Insurance, 10 ed.,South-Western College Publishing, Appendix A‑20, p.115.

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クを直接に処理するものではないことから,リスク処理の基本形態に含める べきではないとされるが ,軽減策のリスク処理形態としての重要性から,

これをRMの基本形態として扱うのが一般的である。

他方,リスク財務は,一般に リスク保有 (retention)と リスク転 嫁 に分類されている。 リスク保有 は,リスクに直面する経済主体自身 でリスク結果の経済的準備措置を用意するものであり,その積極的手段とし ては基金,積立金・準備金・引当金,自家保険(self insurance),あるいは キャプティブ(captive)の設計が挙げられる。また, リスク転嫁 (trans- fer)は,古くから保険を代表的手段とするリスク処理形態であり,保険以 外には,ホールドハームレス条項(hold‑harmless agreement) ,信用の 利用,ヘッジングなどが挙げられ,取引市場の状況によっては,相手方に受 け容れられるとは限らず,消極的利用策の域を超えるものではない。とくに,

ヘッジングは リスク転嫁 が利益の機会との相殺において実現し得るとい う限定的・消極的利用形態のものといえる。このように,保険以外にも リ スク転嫁 の諸方策を提示できるが,主体的リスク処理の展開においては,

保険を圧倒的に有力な手段として位置づけることができる。もちろん,保険 利用についても費用便益分析(cost benefit analysis)をもって十分に検討 されなければ,必ずしも有益な手段とされうる訳ではない。

RMにおける保険の有益性が明らかであっても,リスクの保険可能性に関 する厳しい要件が検討されなければならない。リスクの保険可能性は,保険 の技術的公平性によるほか,保険の社会的公正性の観点からも提起されるも のであり,保険可能リスクは 純粋リスク (pure risk)で 静態リスク

16) James L. Athearn,Risk  and  Insurance, 4 ed., W est Publishing Company,1981, pp.8‑9.;James L. Athearn, S. Travis Pritchett & Joan  T. Schmit,op. cit.,p.26.;C. Arthur Williams,  et al., op. cit.,pp.253‑56. 17) 契約に挿入される条項でリスクに対する責任を元のリスク結果に責任を負う 者以外に負わせるもの。損害賠償条項(indemnity agreements)とも呼ばれ る。James S. Trieschmann & Sandra G. Gustavson,op. cit.,p.115.

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(static risk)でなければならないとする技術的要件 ,そして 被保険利 益 という法的要件をもって判断されることになる 。つまり,損害結果の 不確実性,統計的把握の可能性,あるいは経済的利害関係の存在を満たすこ とが保険可能リスクの要件として重視されてきたのである。消極財産保険の 発展,リスクの巨大化・集積化・複雑化等によって,リスクの保険可能性は,

保険者の経営判断によるところとされる面があり,今日,保険可能リスクの 判断基準はますます曖昧になってきている。たとえば,巨大災害リスク,利 子率リスク,為替リスク,ファイナンシャル・リスクなどは,危険事故の動 態性だけでなく,投機的性質をも指摘され得るものであり,保険可能性の伝 統的基準に適わないとされてきたものである。

リスクの保険可能性については,①同質危険形態の大量性,②損害の特定 性・測定可能性,③損害事故の偶然性,あるいは④損害の非過大性等の基準 が技術的に提起されてきた 。このようなリスクの保険可能性に関する要件 は,保険の経済的意義と統計技術適用可能性を具体的に反映するものであり,

単なる純粋リスク・静態リスクの認識を超えて厳格に捉えられてきた。それ でも,保険可能性要件を満足させる程度については,保険企業の経営政策的 判断から,保険企業規模,リスク金額,付随契約の存在 等,様々な理由を もって,主観的な保険可能性の認識をもって実践される面がある。それゆえ に,金融規制緩和の世界的・持続的情勢の下で,伝統的な保険可能リスクの 要件は,さまざまな実践手法の開拓による保険技術応用への総合的成果とし

18) 純粋リスクは 損害の可能性だけが存在する状態 に関係し,静態リスクは 自然の異常作用あるいは人間の間違いや悪行によって生じる損害 に関係し て い る。George E. Rejda,Principles of Insurance,Scott, Foresman and Company,1982, pp.6‑7.  

19) 近代社会の発展における費用利益や責任利益等の消極財産利益の認識は,被 保険利益概念の抽象性をいっそう高めている。

20) Emmett J. Vaughan,Risk Management,John Wiley & Sons, Inc.,1997, pp.210‑11.

21) 大規模契約に対する見返りとして引き受けられる場合もある。

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て拡張されてきているといえる。

リスクの保険可能性の現実は,リスク財務におけるリスク保有とリスク転 嫁の結合的手法を中心として,保険を基盤とした多様な手法を開発させてき ている。このようなリスク財務の展開は,統合的(Integrated)RM,全体 論的(Holistic)RM,企業体(Enterprisewide)RM,総合的(Compre- hensive)RM等で称される新しいRMの動向を生み出している 。すなわ ち,全企業リスクを総合的に捉え,経済的価値の部分的なリスク回避,保有,

および転嫁を考察させる全体的リスク処理を構築させるものへと進化してき ているのである。そのような環境条件としては,リスクの大量観察と分散を 可能にさせる市場基盤の拡大,リスク処理技術の発展,そして金融規制緩和 の背景を見逃すことができない。

Ⅲ.ERM への動向とリスク転嫁策

1990年代末葉以降,米国においては,ERM およびこれに類する様々な新 しいリスク処理概念の提唱が繰り広げられてきた。ERM に言うEnterprise Riskについて,George E. Rejdaは 商企業が直面するすべての重大リス 

クを包括した比較的新しい言葉であり,純粋リスク,投機的リスク,戦略リ スク,オペレーショナル・リスク,財務リスクなどが扱われる 。 とし,

企業が直面するすべての主要リスクを一つの統合的処理計画に結びつける

22) こ れ ら のRMは 同 義 の も の と さ れ て い る。Andre P. Liesenberg &

Robert E. Hoyt, “The Determinants of Enterprise Risk M angement:

Evidence from  The Appointment of Chief Risk Officers,”Risk  Manage- ment and  Insurance Review, Vol. 6, Number 1,2003, p.37footnote1. 23) 戦略リスクは企業の財務目標や目的に関する不確実性に関係し,オペレーシ

ョナル・リスクはコンピューター・システムへのハッカーの侵入による損害等,

企業の事務処理から生じるものに関係し,財務リスクは商品価格,利子率,外 国為替相場および貨幣価値の不利な変化を要因とする損害の不確実性に関係す る。George E. Rejda,Principles of Risk  Management and  Insurance, 9 ed.,Pearson Education Inc.,2005, pp.7‑8.

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ものである 。 と説明している。ERM の意義に関わる多くの捉え方は,

新しい企業リスク処理は,保険と保険外財務処理手段を含めて,財務的総合 実践として展開され,企業リスク処理の費用管理面に役立てられるという点 に注目している。Neil A. Dohertyによっても, 統合的RM (Integrated

RM)を企業リスクの費用管理に向けて保険および財務諸手段を役立てるも 

のであるとし,ERMの代替的用語法であるとされている 。

Doherty, Neil A.に よ れ ば,1960年 代 のRobert I. M ehr & Bob

Hedges の書物に インシュアラブルリスク・マネジメント が組み込まれ 

たことによって,リスクマネジメントは大きく進展を見たとしている。そこ では,①保険証券あるいは財務ヘッジの購入による取引相手方への転嫁

(transfer),②保険を利用しない場合,単に保有するだけでなく,内部的な 価格付,準備金設定,そして損害設定による自家保険等をもって保険的処理 を行う積極的・能動的な保有(retain),③スプリンクラー,煙感知器,点 検,その他の安全施策への投資による軽減,そして④リスクが高い活動に手 を出さないか,あまりリスクが高くない処理で代える回避的措置が含まれて おり,保険管理者の役割を健康や安全の問題からキャプティブやその他の内 部基金の運営を担当する幅広いリスクマネジャーの役割に発展させるものに なったとされている 。

それでも,リスクマネジャーの職務を企業が直面する保険不可能なリスク を解決するものにまで拡大させることはなかったようであるが,①限定リス ク方式(finite risk program:financial insurance) の導入,②保険者が

24) Rejda G. E.,ibid.,p.8.主要リスクを単一計画にまとめることによってリ スク間の相殺をすることができ,全体的リスクを軽減することができるとする。

25) Neil A. Doherty,Integrated  Risk Management,McGraw-Hill,2000, p.3. 26) Robert I.M ehr and Bob A. Hedges,Risk  Management in  the Busi-

ness Enterprise,Richard D. Irwin, Homewood,1963. 27) Neil A. Doherty,op. cit.,pp.3‑5.

28) Erik Banks,Alternative Risk Transfer Integrated  Risk Management through  Insurance, Reinsurance, and  the  Capital   Markets  ⎜, John

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自分たち自身の企業危険形態を処理するための資産負債管理(asset liabil- ity management)の 利 用 に お け る 銀 行 へ の 追 随,そ し て ③ 統 合 的 担 保

(integrated coverage)方式の提供は,保険可能リスク処理の流れにおける 三 つ の 大 き な 革 新(innovation)で あ っ た と さ れ て い る 。ま た,Etti Baranoffによっても,そのようなRM  発展の革新的段階をERM発展に向

けた要約的段階として示され,①保険利用によるRM段階,②リスク処理 技術と情報伝達の爆発的成長段階,③リスク測定に関する数量的手法とモデ ルの発展段階,そして④金融市場の進展段階が挙げられている 。

Etti Baranoffは,リスクはどの組織においても重要な問題であり,企業 価値最大化のために収益や資本に及ぶリスクの影響を最小化することは,組 織活動を計画・指導・統制する過程における課題であり,その解は損害や不 確実性の源泉に関する全スペクトルを調査する総合的手法によって得られる とする 。ここでも,リスクの回避,保有,そして損害制御等,純粋リスク 処理の諸手段が損害財務に導入されることで,保険管理者の役割を幅広いリ スクマネジャーの役割へと拡大していることが指摘されている。

1980年代から1990年代は,金融技術革新が急速に進展し,オプション,先 物商品,それら関連市場の成長が見られた時期である。たとえば,利子率リ スクに対する銀行の危険形態は,先物,スワップ,そしてキャップスのよう な利子率デリバティブ証書でヘッジでき,1990年代には,シカゴ商品取引所 に導入された新しいデリバティブ証書にその支払いや行使価格(exercise

 

Wiley & Sons,2004, Glossary p.209.Finite risk insuranceは,損 害 経 験 の変動による影響を最小化するために保険会社が利用したFinancial reinsur- anceに 始 ま る。Emmett J. Vaughan,Risk  Management,John Wiley &

Sons,1997, p.333.

29) Doherty,op. cit.,pp.5‑6.1990年代に保険者たちは,多くの危険事故を共 通して担保する統合担保様式の保険証券にリスクを纏め始めたとされる。

30) Etti Baranoff,Risk  Management and  Insurance, Leyh Publishing, 2004, p.59.

31) Ibid.,p.58.上田和男 価値創造型リスクマネジメント⎜その概念と事例⎜

(白桃書房,2003年10月)にも同様に新しい動向が扱われている。

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price)を保険業界の大災害損失に関連付けるものが登場し,投資家たちは 暴風やハリケーンに投機することができ,保険会社はあらかじめ想定できる 危険事故に対するヘッジとしてこれらの証書を利用することができたのであ る。1970年代から1980年代を通して生じた石油価格,利率,為替交換率,製 造物責任,環境破壊といった財務指標や価格変動性に関する財務リスク問題 について,新しいヘッジ手段の必要性に対応する新しいデリバティブ手段の 供給が爆発的に開発されているのである 。

デリバティブ市場は,1980年代にはさらに成長が促進されるが,それは 1970年代前半のFisher Black,et al.による効果的オプション・プライシン グ・モデルが取引当事者たちにその価格設定はもはや推量ではないというこ とを確信させ,デリバティブ市場の大きな障害を取り除いたことによるとさ れている。また,デリバティブ市場の成長は,ヘッジングの利益を提供した こと以外に,他のRM戦略になる革新的手法を提供したとされている。長 い間,転換社債(convertible debt)や随時償還社債(callable debt)によ って行われてきたことがデリバティブを企業債務や持分(equity)に埋め込 むことで行われるようになったのであり,1980年代後半から1990年代前半に おいては,資本市場でもRMの語法が使われ始めているのである 。

また,Doherty, N. A.は,アセット・プライシング・モデルの新しい説明 において,キャピタル・アセット・プライシング・モデル(CAPM) ではリ

32) Doherty,op cit.,p.7. 33) Ibid.,p.8.

34) CAPM(資産価格決定モデル)は,投資家がリスク回避的で分散投資を行 うときi証券のリ ス ク はβ(係 数)で 測 ら れ,リ ス ク・リ タ ー ン 関 係 にE (R)=R +β[E(R )‑R]のトレードオフが成立する。ここでE(R )とR ポートフォリオの期待収益率と安全資産利子率である。この関係は証券市場 線(security market line)として知られる。金森久雄・荒憲治郎・森口親司

(編) 経済辞典 [第3版]有斐閣,1998年,488頁,585頁。証券市場線は価 格がシステマティック・リスクだけで決定されることを示し,アンシステマテ ィック・リスクは価格に影響を及ぼさないから,このリスク要素はただ分散に よって消去され,期待収益に影響を及ぼさないとされる。Doherty,op. cit., 64

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スクが中心的役割を果たすことを指摘し,1976年には保険によって如何に企 業価値を最大化することができるのかを示し,CAPMをもってRMを説明 しようとしたDavid Cummins の試みも見られている。これらにおいては,

企業財務問題とRMがいっそう緊密に関連づけられ,RMを保険とヘッジ ングに関する考え方であるとし,テコ作用管理,経営補償計画,そして税務 管理を扱う投資財務の考え方であるともされているのである 。

Doherty, N. A.のアプローチは,財務リスク,保険可能リスク,オペレ ーショナル・リスク ,事業リスク(business risk)等の全企業リスク領域 の問題解決への財務手法および保険手法の両方を扱う総合的ないし統合的な 視点に立つものであり,その特徴として,①企業リスクコストの診断,②最 適投資支援計画,③取引費用基準,④全リスクの包括性,そして⑤リスク調 整的・差別的,であることが挙げられている 。

Etti Baranoffによれば,こうした展開の背景には,①RM情報システム の発達によるERMの技術的役割の高度化,②リスク写像(関数)(Risk

Mapping)に関するリスク確認情報モデルへの数量的手法の導入,③金融 

市場リスクに対するポート フ ォ リ オ・リ ス ク 測 定 へ のVAR(Value at

Risk) 手法の標準化,④価格固定化防御法としての先物為替/先物商品買 

p.146.

35) Cummins, J. David, “Risk Management and the Theory of the Firm,”

Journal of Risk and  Insurance, XL

 

B

,1976,pp.587‑609. 36) Doherty,op. cit.,p.10.

37) オペレーショナル・リスク の用語は,1998年バーゼル銀行監督委員会リ スクマネジメント部会がオペレーショナル・リスクマネジメントの論文を発表 したことに始まるとされ, オペレーショナル・リスク は 外部事象による不 適切で誤った内部処理,人員,およびシステムから生じる損害リスク と定義 さ れ る。Oliver Prior, Risk Transfer in a Changing World, Risk Man- agement and  Innovation in Japan,

ritain and  the United  States edited by Ruth Taplin, Routledge,2005, p. 99.

38) Doherty,op. cit.,pp.10‑12.

39) VARモ デ ル は,銀 行 規 制 上 の 監 視 機 構 で あ る バ ー ゼ ル 協 定(Basel

Accord ,1998年に市場リスク危険の評価手法を合意したことから,とく 

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付(Forward/Future Purchase),価 格 切 換 防 御 法 と し て の ス ワ ッ プ

(swaps),価格上限設定(cap)または最低価格設定(floor)防御法として のオプション(options)あるいは価格変動ヘッジのデリバティブ,そして

⑤大災害ボンド(catastrophe bond),大災害リスク交換スワップ(catas- trophe risk exchange swaps),保 険 関 連 デ リ バ テ ィ ブ/オ プ シ ョ ン

(insurance related derivative/options),大災害持分プット(catastrophe equity puts:CatsE‑Puts),条件付劣後債(contingent surplus notes  ),

担保付債務証書(collateralized debt obligation:CDO),天候デリバティ ブ(weather derivative)等,保険リスクの証券化,大災害ボンドや大災害 株式プット等の資本市場利用施策が多様に開発されてきていることが挙げら れている 。

Ⅳ.ERM 実践体系とリスク転嫁

情報処理技術の発展,グローバル化の進展等,環境変化の諸要因とこれら に応える規制緩和の動向は,企業リスク処理実践の財務的観点による統合的 展開を促している。ERM の視座は,基本保険証券を通じてあらゆる危険の 担保を必要とするというのではなく,必要に応じて別誂えができ,複合的特 質に対応できる 商品/経路を跨る (crossproduct/channel)柔軟性を備 えたものを必要とさせている。実に,ERMに代表される統合的リスクマネ ジメントの実践体系は,図‑Ⅰに示されるように,RM目標の達成に関する 手段と経路を通した柔軟性にその利点があるとされるのである 。

また,James Lamは,図‑ⅡのごとくERMの枠組構成を示し,企業全 体のリスク測定・処理過程が体系的に構成されない場合,複雑過ぎるものに なり,処理することができないとしている 。

に銀行業界において発達した。Etti Baranoff,op. cit.,p.60. 40) Etti Baranoff,ibid.,pp.61‑64.

41) Erik Banks,op. cit.,p.49, p.177.

42) ERMの構成枠は,業界,規制当局,コンサルタント会社等で多様に示され

66

(15)

このように,ERMのリスク処理領域は,純粋リスク損害に特徴づけられ る業務リスクだけでなく,製造物責任,政治的出来事,テロ,知的財産侵害,

容量変化 (volumetric change)などの保険不能リスクに加えて,投機的 特質を有する特殊な財務リスクに拡張されている。そこでは,企業の資産,

負債,あるいは条件付資産投資明細が,個別的ではなく全体的に相関性があ ることに注目し,資産,負債,そして簿外偶発債務を統合的に管理する動き

て い る。James Lam, “Enterprise-wide Risk Management,”Modern Risk Management(introduced by Peter Field  ), Risk  Books(a division of Incisive RWG  Ltd.),2003, p.291.  

43) 純粋な需要力または供給の圧迫による容量不均衡。Erik Banks,op. cit., p.219.

図‑柔軟な ERM 計画の例

財 務 リ ス ク お よ び 経 営 リ ス

ABC

損害制御

ABC ERM

計画 転嫁/

財務 ヘッジン

保有

ファイナイ トリスク (財産・災害) 二重損害事 故担保

(大災害)

損害後財務

デリバティ

キャプティ

(Erik Banks,op. cit.,p.177.

(16)

に従ったものとして捉えられている

Erik Banksによれば,ERM をリスク軽減ないし消去の舞台としてだけ 考えるのではなく,企業が明記するリスク理念やリスク容認性に合致する幅 広いリスク処理を可能にするものとして考えられる。そのようなERMの主 たる特徴であるリスク増分処理から統合的処理への転換は,特定危険の個別 的担保から全企業リスク処理構造への変換であることが指摘される。あらゆ る危険形態(exposures)を一つの舞台に糾合することによる統合的成果を 導き出そうとすることは,リスク源泉のそれぞれに関する投資資産明細の分 散化利益を増大させ,考え方や行動を静態的で孤立的なリスク/収益観から 解き放つものであるとされるのである。そのことが,究極的には 企業価値 最大化の目的 に適うとされるのである 。

ERMによるリスク処理問題に関わる統合的視点は,全リスク投資明細の バランスを取る機会を提供し,超過保険,超過ヘッジング,その他の企業資 金の財務的浪費を削減することにつながるが,リスク構図を近代経営組織次 元で捉えることができない経営体には,もちろん適用し難いものである。こ

44) Ibid.,p.173. 45) Ibid.,p.174.

図‑ERM の枠組構成

1.コーポレートガバナンス トップダウン・リスクマネジメントの構築 2.ライン部門管理

事業戦略の整理

3.資産明細管理 資金管理者 の 思考と行動

4.リスク転嫁

集積リスクと非効率 リスクの転嫁

5.リスク分析

先進的分析手法の開発

6.情報および技術資源

情報とシステム可能性の統合 7.利害関係者管理 主要利害関係者に対するリスク透明性の改善

(James Lam,op.cit.,p.291.

68

(17)

れを具体的に実践するには,ERM計画に関する相対的な費用・便益の検討 が企業価値最大化の目標に結びつくものでなければならない。経営管理階層 の合意をもってリスク戦略が展開される場合,①市場における当該企業の評 価に与える影響,②競争上に生じる利点/欠点,③類似問題への業界企業の 対応,④事業経営に付随する制約や融通性,⑤責任を負担する者等,企業,

業界あるいは競争上の要因に基づいてERM戦略を検討し,a.事業単位と全 体的な資本属性,b.目標テコ作用と流動性,c.信用格付けの感応性,d.収益 目標,e.資産/負債の調和を含み,財務的目標に照らした計画が考えられな ければならない。もちろん,ERM戦略は企業目標と調和し,企業戦略の推 進に役立てられ,ERMの計画化はリスクを効率的に処理するだけでなく,

最終的に企業の収益性改善への意思決定基盤とされなければならない 。 このような基本構想において,ERMは,最も有効であると考えられるリ スクの共同保有,保険,限度設定,転嫁,証券化等による処理をもって,複 数年にわたって利用できる損害制御(loss control),損害財務(loss financ- ing),そしてリスク軽減の案を進んで検討するものであるとされている。総 合的,包括的,統合的なERM 計画は,唯一の正しい手法を提示できるとい うよりも,一貫性を確保し,生み出される利益や便益を捉えるために統合的 方式で処理されるものであるとされる。CRO(Chief Risk Officer)は,

こうした統合的リスク戦略を指導する役割を有し,CEOや取締役,事業部 長,専門リスクマネジャー等との調整役として機能する者であるとされてい る 。

ERMは,同様な統合的(Integrated)リスク処理体制を説明するさまざ まな用語の代表的表現であるとされるのであるが,それは企業環境の変化か ら導かれてきたリスク処理手段の多様化とその財務的観点による総合化形態 を反映するものである。James Lamは,組織論的問題認識において,図‑

Ⅱの枠組構成において,内部統制とRMに関する7つの主要部分,つまり

46) Ibid.,pp.179‑80. 47) Ibid.,pp.181‑82.

(18)

①企業統治(Corporate Governance),②ライン部門管理(Line Manage- ment),③資産明細管理(Portfolio Management),④リスク転嫁(Risk Transfer),⑤ リ ス ク 分 析(Risk Analytics  ),⑥ 情 報 お よ び 技 術 資 源

(Data and Technology Resources),そして⑦利害関係者管理(Stakehol- der Management)に触れる必要があるとしている 。そこには,情報処 理技術の進歩を背景に斬新なるリスク処理体系への広範なる観点が内包され ていることが分かる 。

さらに,現実的なリスク処理実践形態をもって捉えられるもう一方の観点 は,図‑Ⅰに示したErik Banksの財務的観点を基盤とするものであり,

Gerry Dickinsonによっても同様な観点が示されている(図‑Ⅲ )。そこ では,企業全体に亘るリスク処理の複雑性から献身的で専門的な能力が必要 とされ,リスク担当役員(CRO)という新しい調整管理機能が設定されて いる。Gerry Dickinsonは,上級執行役員で戦略計画委員会の中枢に位置

48) ①は妥当な組織的処理と企業の自己統制を確実にするため,②は会社の収益 創出業務にRMを統合するため,③は設定したリスク限度に反するリスク集 中を監視するため,④は第三者への転嫁が費用効果があると考えられるリスク 危険形態を処理するため,⑤は会社のリスク危険を数量化するためにリスクの 測定,分析,および報告手法を提供するため,⑥は情報管理と情報処理能力を 提供するため,⑦は主要利害関係者にリスク情報を報告するためとされる。

James Lam,op.cit.,pp.292‑93.Ref. James Lam, “Chapter1, M anaging Risk Across the Enterprise:Challenges and Benefits,”Risk  Manage-  ment⎜A  Modern Perspective⎜,edited by Michal K. Ong, Elsevier Inc., 2006, pp.11‑12.

49) ERMの手法として,企業全体的なリスク測定を促進する概念的手法(経済 的資本のように),企業全体的なリスク確認を促進する監視的手法,そして企 業全体的なリスク考察指令を有する上級委員会などの組織的手法を含み,多く を考えることができる。Michel Crouhy, Dan Galai & Robert Mark,The Essentials of Risk  Management, M cGraw-Hill Companies, Inc.,  2006, p.15.

50) Gerry Dickinson, “ The Evolution of Enterprise Risk  M anage- ment,”Risk  Management and  Innovation  in  Japan, Britain  and  The United  States,edited by Ruth Taplin, Routledge,  2005, p.159.

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(19)

すべき財務担当役員(CFO)とCROは密接に連携する必要があるとし,

CFOは保険やデリバティブの手配に責任を負うだけでなく,保有リスクの すべてを含む企業全体の財務方針に責任を負わなければならないとされる 。

Ⅴ.おわりに

保険管理を中心として発達したRM実践は,操作的リスク概念に依拠し ながらも,1970年代後半からは,為替変動リスク,価格変動リスク,利率リ スク,信用リスクといった財務的リスク領域と密接に関係せざるを得なくな ってきた。Gerry Dickinsonは,そのようなRM実践経緯における二つの

51) Ibid.,p.158.

図‑ERM と組織設定(一元的取締役会の会社) 株主・その他利害関係者 監督/規制当局

取締役会 非執行取締役を議長とする監査・リスク委員会

戦略とその付随リスクを判断する社長(CEO),財務担当役 員(CFO),リスク担当役員(CRO),その他の経営幹部

企業体財務と 財務部長

そのリスク財務 リスク担当部長

報告ライン 方針設定・統制 調整と情報交換

○製造 ○販売・流通 ○情報システム ○人的資源

○その他の業務および支援システム

(Gerry Dickinson,op. cit.,p.159. (CFO)

(CRO)

(20)

課題が,幅広いERM概念への統合的展開を生み出すことになったとしてい る。すなわち,それらは,①保険リスク処理と財務リスク処理に関するもの であり,②全般管理思考によるさらに全体論的なRM方式の展開に関する ものであった 。

RMの発展は,保険によるリスク転嫁を有力な手法として援用してきたが,

情報化,グローバリゼーション,規制緩和等の動向を反映するリスク環境の 動きは,ARTの諸方策を広範に開拓させ,保険手法のインパクトを軽減さ せてきている。すなわち,リスク環境の変化による新しいリスク対応手法の 開発は,基本的にリスク財務と高度に関連付けられており,リスク保有,リ スク転嫁,そしてリスク・ヘッジングの諸方式を中心として,リスク財務の 統合的・総合的実践を展開させてきているのである。

ERMの動向は,斬新なるリスク処理体系を構築させているが,保険によ るリスク転嫁方式がリスク財務の基盤的手段として位置づけられることは,

リスク転嫁の伝統的見解を通じて確認したとおりである。したがって,

ERMの展開は,その高度な推進の背景に保険の基盤があることを軽視させ るものではないのである。

(筆者は岡山商科大学商学部教授)

52) ①は保険可能・不可能リスクの統合的転嫁とリスク証券化の開発に,②は不 測事態対応計画(contingency planning)と事業継続管理(business contin- uation management)において,RMを企業戦略の実行と系統性を統合させ る中心的役割に繫げたのである。Ibid.,pp.151‑52.

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参照

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