【要約】
「幼保小の接続」を実現するため,「小学校学習指導要領」「幼稚園教育要領」「認定こども 園教育・保育要領」「保育所保育指針」の比較検討を行い,①幼児教育と小学校教育間にある 段差を明らかにした。そのうえで,②「学びの連続性」を確保するための実践理論について 考察を行い,さらに③実践理論を実践に移すために領域「言葉」と小学校「国語科」の資質・
能力の連続性を検討し,明らかにした。
1 はじめに
1 - 1 幼児教育の重要性
質の高い就学前教育(幼稚園・保育所等での教育の総称)が世界的に求められている(イ ラム・シラージ他 2016(1),ポール・タフ 2017(2))。この背景には,欧米での子どもの発達を長期 に渡って追跡調査をした研究成果の影響が大きい。OECD(2011(3))は,『人生の始まりこそ強 く(Starting Strong)』の第 2 版で,就学前教育の充実が困難な成育環境におかれた子どもた ちがその後の人生のリスクを回避するのに資する可能性が大きいと指摘した。また,ノーベ ル経済学賞を受賞したシカゴ大学の J. ヘックマンは,1960年代に行われた「ペリー就学前計 画」と1970年代に行われた「アベセダリアン計画」の 2 つの社会実験に注目し, 1 )就学前 教育がその後の人生に大きな影響を与えること,2 )就学前教育で重要なのは,IQ に代表さ れる認知能力だけでなく,好奇心,忍耐力,協調性といった非認知的能力が重要であること
(へックマン 2013(4)),を明らかにした。そして,就学期・就学後の教育投資よりも,就学前の 教育投資こそがはるかに効率的である,と結論づけた。このような一連の研究成果により就 学前教育が注目されている。
*立正大学社会福祉研究所客員研究員
キーワード:幼保小接続,領域「言葉」,小学校「国語科」,資質・能力
幼保小接続のための一考察
―領域「言葉」と小学校「国語科」の連続性を目指して―
A study for connection of preschool and kindergarden and elementary school
―With the aim of continuity in territory “
word”
and an elementary school“
national language department”
.―佐々原正樹
*Masaki Sasahara
〈原著論文〉
1 - 2 なぜ,幼児期から小学校の接続を取り上げるのか
本研究では,就学前教育の中でも,幼児期から小学校の移行期の教育に焦点を当てる。幼 児期から小学校への移行期の教育を取り上げるのは,生涯に渡って学び続ける基礎力を育成 するための重要な時期(文部科学省 2010(5))だからである。
幼保小の連携や接続が論じられたのは,「小 1 プロブレム」や「学びの連続性」等の問題意 識からであった。「小 1 プロブレム」が注目されるようになったのは,1999年頃,小学校入学 生の不適応問題として,「授業中に立ち歩く児童がいる」「学級全体での活動で各自が勝手に 行動する」「教師の指示が全体に行き届かない」等の問題をマスコミが報道してからである
(藤井 2010(6))。当初,この「小 1 プロブレム」の主な原因として,就学前教育に,特に「自由 保育」に求める向きがあった(上野 2007(7))。
その後,幼児期教育のみに要因を求めるのではなく,就学前教育と小学校教育の段差(目 標,方法,場【時間・空間】等の違い)にあると捉えられた。そして,「小 1 プロブレムに対 する対策」から,就学前教育と小学校教育が滑らかに進むために,「お互いの違いを意識しな がら,協力する=連携」の道を模索する方向へと変わって行った。文部科学省(2001)は,
「幼児教育の充実に向けて~幼児教育振興プログラム(仮称)の策定に向けて(8)」の中で,「幼 稚園と小学校が連携し,幼児期にふさわしい主体的な遊びを中心とした総合的な指導から,
児童期にふさわしい学習等への指導を円滑にし,一貫した流れを形成することが重要」と述 べている。また,2002年には,「幼・小連携に関する総合的調査研究(9)」,2003年には「就学前 教育と小学校との連携に関する総合的調査研究(10)」として,全国の研究協力幼稚園・小学校に おいて,幼小連携をテーマにした研究を奨励している。さらに,文部科学省は,2008年に改 定された「幼稚園教育要領(11)」「保育所保育指針(12)」及び「小学校学習指導要領(13)」には,幼保小の 連携に関することが明記された。以下の通りである。
・小学校学習指導要領
幼小連携を推進,幼稚園と家庭の連続性を配慮,預かり保育や子育て支援を推進
・幼稚園教育要領
幼稚園と小学校との連携,幼稚園と保育所との連携を強化,小学校教師との意見交換,
合同研修などの連携を図るように明示
・保育所保育指針
小学校との連携の奨励と,「保育所児童保育要録」の小学校への送付の義務づけ 無藤(2009(14))は,幼保小の連携として,「子ども同士の交流」「教師同士の交流」「カリキュ ラムの接続」の 3 点を挙げている。現場の具体的な連携としては,幼保小でお互いの行事に 参加したり,授業・保育の相互参観をしたり等の「子ども同士の交流」「教師同士の交流」が 中心であり,「カリキュラムの接続」は理念的なものにとどまり,具体的なカリキュラムの提 示は少なかった(横井・酒井 2005(15))。
その後,文部科学省(2010(5))は,「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関す
る調査協力者会議」の報告書を提出している。その中で, 1 )幼児期の教育と小学校教育の 関係を「連続性・一貫性」で捉える考え方, 2 )幼児期と児童期の教育活動をつながりで捉 える工夫,3 )幼小接続の取組を進めるための方策(連携・接続の体制づくり等),の 3 点を 示した。
「小 1 プロブレム」の「対策」から始まった幼児期から小学校の移行期の教育は,幼保小の
「連携」にシフトし,さらに,「接続」へとシフトしたといえよう。ここで,「連携」と「接 続」の概念をもう少し明確にしておく。酒井・横井(2011(16))は,「連携」と「接続」の言葉を 比較し,「連携とは,異なる 2 つのセクションが相互に協同,協力し合う様子を表す概念であ るのに対して,接続とは,続けるとか続くという意味合いを含むもの」と述べている。そう 考えると,初期の幼保小の「連携」は,「異なる校種が段差を滑らかに移行するために協力を する」ことであり,そのための方法が「交流」であったということである。つまり,ここで の「連携」は,段差が前提であり,段差を少なくするまでには至っていないのである。それ に対して,「接続」に軸足が移ったということは,段差を前提に協力するだけではなく,「続 くもの」を明確にし,段差そのものを少なくすることが求められることになる。つまり,「カ リキュラムの接続」による「連続性・一貫性」が求められるようになったのである。幼小教 育の目標が「学びの基礎力の育成」と 1 つに繋がり,「学びの連続性」が主張されたのは当然 である。
この考えはより発展させた形で,新しい「小学校学習指導要領(17)」(2020年より全面実施),
「幼稚園教育要領(18)」「認定こども園教育・保育要領(19)」「保育所保育指針(20)」(2018年全面実施)に 受け継がれている。新しい「小学校学習指導要領(17)」では,「総則」に「幼児期との接続」が言 及された。さらに,「教育課程の編成」の項には,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を 踏まえた指導を工夫することにより,幼稚園教育要領に基づく幼児期の教育を通して育まれ た資質・能力を踏まえて教育活動を実施し,児童が主体的に自己を発揮しながら学びに向か うことが可能となるようにすること」と書かれている。幼児教育(就学前教育)からの育ち を引き継いで,カリキュラムを組むことの必要性が初めて述べられている。一方,「幼稚園教 育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」には,「幼児期の終わりまでに 育ってほしい姿(到達目標ではなく,方向目標として)」として,1 )健康な体と心,2 )自 立心, 3 )協調性, 4 )道徳性・規範意識の芽生え, 5 )社会生活との関わり, 6 )思考力 の芽生え, 7 )自然との関わり・生命尊重, 8 )数量・図形,文字等への関心・感覚, 9 ) 言葉による伝え合い,10)豊かな感性と表現,の10の具体的な姿(18)(19)が示されている。(20)
以上のことから,幼児期から小学校への移行期の教育は「学びの連続性」,つまり,幼児教 育と小学校教育の円滑な接続が求められており,「学びの基礎力を育成」するための重要な時 期であることが示された。また,この考えは新しい小学校学習指導要領,「幼稚園教育要領」
「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」に受け継がれており,幼保小の接続は,
重要な課題であることがわかる。
幼保小の接続に関する研究や実践は様々な形で行われてきた。例えば,お茶の水女子大学 附属幼稚園・附属小学校(2008(21))の研究・実践がある。お茶の水女子大学附属幼稚園・附属 小学校は長年の研究の成果として,「接続期」という概念を生み出した。「幼稚園→,接続期
→小学校」とし, 5 歳児10月から 1 年生 1 学期までを「接続期」と位置づけたのである。つ まり,幼児教育と小学校教育のカリキュラムレベルの「接続」が目指されたということであ る。その後「接続期」という言葉は多くの実践や研究で使われ,広がりを示している。それ に対して,横井は「接続期」という概念の広がりを評価するものの,「その時期の子どもの生 活や学びが「接続」されていること,つまり,カリキュラムレベルにおいて,幼児教育と小 学校教育が「接続」しているという内実を伴ってはじめて,「接続期」は「接続期」たりえる のである」(横井 2007(22))と危惧している。横井が述べるように,幼児教育と小学校教育の段 差をそのままにし,「接続期」という言葉だけが一人歩きしてしまっては,せっかくの「接続 期」という概念も理念だけで終わってしまう。そうならないためには,「学びの連続性を担保 するために,持続すべきことは何なのか」また,「実現するための理論をどのように構築すれ ばよいのか」等,明らかにすべきである。「幼保小の接続」を実現するための研究は,今後も 重要な課題と考える。
2 研究の目的と方法
本研究の目的は,以下の通りである。
1 )幼児教育と小学校教育の間にある段差とはいかなるものかを整理する 2 )段差を克服し,「学びの連続性」を確保するための実践理論を考察する
3 ) 実践理論を実践に移すために,領域「言葉」と小学校「国語科」の資質・能力の連続 性を検討する
本研究では,1 )幼児教育と小学校教育の間にある段差を整理するために,平成29年版「小 学校学習指導要領」と平成29年版「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育 所保育指針」を比較検討することで,どのような連続性が新たに生まれ,残された課題は何 かを整理する。次に,2 )課題を克服するための実践理論を考察する。具体的には,ラーバー ス(1994(23),2005(24))の評価論を検討する。さらに,3 )実践理論を実践に移すために,領域「言 葉」と小学校「国語科」の資質・能力の連続性を検討するために,平成29年版「小学校学習 指導要領」低学年の「目標」と「内容」と平成29年版「幼稚園教育要領」「認定こども園教 育・保育要領」「保育所保育指針」の「ねらい」「内容」を比較検討する。
3 幼児教育と小学校教育の連続性と段差
3 - 1 「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」(平成29年 版),「小学校学習指導要領」(平成29年版)の改定から見る連続性
3 - 1 - 1 「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」(平成29 年版)の改訂から見る幼稚園・認定保育園・保育所の共通点
「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」保育所保育指針」(2018年全面実施)が 示された。今回の大きな改訂の 1 つは,幼稚園,保育所,認定こども園で,共通の「幼児教 育」を行うことが明示されたことである。これまで,保育所は制度上も法律上も幼児教育を 行う施設とは認められていなかった。ところが,今度の改定で,「幼稚園教育要領(18)」「認定こ ども園教育・保育要領(19)」「保育所保育指針(20)」の各総則の中に,「育みたい 3 つの資質・能力」
「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が共通して入った。そのことで,認定こども園 及び保育所が「幼児教育を行う場」であることが明確に示されたのである。確かに,現在も 幼稚園は「学校教育法」に基づく「学校」であり,保育所は「児童福祉法」に基づく「福祉 施設」であり,法律上違いはある。しかし,そこで行われている教育や保育は,制度上はど ちらも「学びの基礎力」や「生きる力の基礎」を育む幼児教育であることが示されたのであ る。このことの意味は大きいと考える。
2 つ目は,「養護」の重要性が強調されたことである。新しい「保育所保育指針(20)」では,総 則の中に「養護に関する基本的事項」が入った。今度の改訂で,保育所は幼児教育を行う場 として位置づけられたが,同時に,「養護」の場として,福祉施設としての働きを疎かにしな いことも強調されたのである。この背景には,経済的に貧しい子どもたちの存在,さらには,
育児放棄や虐待等の社会問題に見られる「愛情不足」の子どもたちの存在,また,劣悪な環 境による「体験の貧困」「言葉の貧困」の問題,そのような環境による非認知的スキル(好奇 心や忍耐力,協調性等)の未発達の子どもたちの存在が考えられる。困り感を抱えた子ども たちの「養護」なくしては,教育は成り立たないという倉橋惣三以来の考えが大事にされて いる。このような「養護」を強調する視点は,今回の「幼稚園教育要領」や「認定こども園 教育・保育要領」にも受け継がれている。「認定こども園教育・保育要領(19)」では,総則の「幼 保連携型認定こども園として特に留意すべき事項」の中に,「生命の保持や情緒の安定を図る などの養護の行き届いた環境の下,幼保連携認定こども園における教育及び保育を展開する こと」(下線は筆者)と明記されている。また,「幼稚園教育要領(18)」では,総則の「幼稚園教 育の基本」の中に,「幼児が安定した情緒の下で自己を十分に発揮することにより……幼児期 にふさわしい生活が展開されるようにすること」(下線は筆者)と明記されている。
3 つ目は,幼児教育の質向上が求められたことである。新しい「保育所保育指針(20)」では,
総則の「保育所保育に関する基本姿勢」の中に「その職責を遂行するための専門性の向上に 絶えず努めなければならない」という一文が追加された。わざわざこの一文が追加されたこ
とは,質の高い就学前教育が世界的に求められていること(イラム・シラージ他 2016(1),ポー ル・タフ 2017(2))と無関係ではないであろう。また,「幼稚園教育要領(18)」では,総則に「指導 計画の作成と幼児理解に基づいた評価」「教育課程の役割と編成等」が,「認定こども園教育・
保育要領(19)」では,総則に「教育及び保育の内容並びに子育ての支援等に関する全体的な計画 等」が入り,その中で,共に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が使われている。
「カリキュラム・マネジメント」とは,本来,教育で使われる用語であり,教育目標の実現に 向けて,教育課程(幼保では,全体的な計画という言葉を使っている)を編成し,実施・評 価し,改善を図る一連のサイクルを計画的・組織的に行うことである。総則にこれらのこと が入ったということは,「カリキュラム・マネジメント」を行い,質の高い幼児教育を実現す ることが求められているということに他ならない。
このことから,新しい「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指 針」では,表 1 に示すように,以下のことを求めていることが示された。
1 )幼稚園,保育所,認定こども園で,共に「幼児教育」を行うこと 2 )幼稚園,保育所,認定こども園で,共に質の高い幼児教育を行うこと 3 )幼稚園,保育所,認定こども園では,共に「養護」も重視すること
以上のことから,幼稚園,保育所,認定こども園が,法律上の違いはあっても,少なくと も制度上は,共に,質の高い幼児教育が求められており,幼稚園,保育所,認定こども園間 の段差は少なくなったと言える。また,その結果,各園・所から小学校への接続が円滑に行 える可能性は高まったと言えよう。
表 1 幼稚園,認定こども園,保育所の共通点と差異
法律上 制度上(平成29年版)
幼稚園 学 校(学校教育法)
幼児教育を行う
・育みたい 3 つの資質・能力
・幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿 カリキュラムマネジメント
→質の高い幼児教育 安定した情緒の下→養護の視点も
(幼稚園教育要領)
認定こども園 学 校(認定こども園法)
幼児教育を行う
・育みたい 3 つの資質・能力
・幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿 カリキュラムマネジメント
→質の高い幼児教育 養護の重視
(認定こども園教育・保育要領)
保育所 福祉施設(児童福祉法)
幼児教育を行う
・育みたい 3 つの資質・能力
・幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿 質の高い幼児教育
養護の重視
(保育所保育指針)
3 - 1 - 2 小学校学習指導要領(平成29年版)の改訂から見る幼児教育と小学校教育の 4 つの連続性
新しい「小学校学習指導要領」によって,小学校教育はどのように方向づけられたのであ ろうか。その改訂は,幼児教育と小学校教育の接続にとってどのような意味を持つのであろ うか。新しい「小学校学習指導要領(17)」を検討することとする。
今回の改訂の大きな変化の 1 つに,資質・能力の育成が重視されたことがある。
具体的には,以下の 3 つの資質・能力として整理されている。
⑴ 「何を理解しているのか,何ができるのか」(「知識・技能」の習得)
⑵ 「理解していること,できることをどう使うのか」(「思考力・判断力・表現力等」の育 成)
⑶ 「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか」(「学びに向かう力・人間性 等」の涵養)
これで,幼児教育から小学校教育に至るまで,「一貫・連続」して,資質・能力の育成が求 められることになった。「幼稚園教育要領(18)」では,育みたい 3 つの資質・能力として, 以下の
3 つに整理されている。
⑴ 豊かな体験を通じて,感じたり,気付いたり,分かったり,できるようになったりす る「知識及び技能の基礎」
⑵ 気付いたことや,できるようになったことをなどを使い,考えたり,試したり,工夫 したり,表現したりする「思考力,判断力,表現力等の基礎」
⑶ 心情,意欲,態度が育つ中で,よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力,人間 性等」
知識は必要である。だが,その知識を頭の中に蓄えておくだけでは意味がない。文脈や状 況に応じて,別の知識や技能と関係づけながら,活用することに意味がある。そうすること で,知識は構造化し,ネットワーク化する。ネットワーク化された知識は,新たな課題を解 決するの中でさらに活用され,より深い思考・判断や表現を可能にする。また,より深い思 考・判断や表現を行うためには,他者を必要とする。他者と出会うことで,自分の思考や判 断の見直しが起こる。このような過程を通して,「学びに向かう力」が育つ。幼児期は「学び の芽生え」の時期,児童期は「自覚的な学び」の時期という違いはあるものの,資質・能力 を幼児の時から,一貫して育てる土壌ができた。これは,幼保小の接続にとっても重要な変 化と言えよう。さらに,「幼稚園教育要領(18)」「認定こども園教育・保育要領(19)」「保育所保育指 針(20)」の中に,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が示され,それらを踏まえて,各 教科における学習が円滑に行われるよう,スタートカリキュラムを編成することが求められ た。
2 つ目に「どのように学ぶか」として,「主体的・対話的で深い学び」が位置づけられたこ とである。総則(17)の第 1 の「小学校教育の基本と教育課程の役割」の 2 には,「第 3 の 1 に示す
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生かした特色ある 教育活動を展開する中で,……(筆者 中略)……,児童に生きる力を育むことを目指すも のとする」と書かれている。「生きる力を育む」ことを教育の最終目標とし,その手段として
「主体的・対話的で深い学び」を位置づけることが明確に示されている。さらに,第 3 の 1
「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」には,各教科等の指導に当たって配慮 することとして,「児童が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互 に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解 決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実 を図ること」「児童が生命の有限性や自然の大切さ,主体的に挑戦してみることや多様な他者 と協働することの重要性などを実感しながら理解することができるよう,各教科の特質に応 じた体験活動を重視し,家庭や地域社会と連携しつつ体系的・継続的に実施できるように工 夫すること」が強調されている。
主体的・対話的で深い学びとは,「子どもがすでに断片的に持っている思いや考え」を基 に,それらを相互に関連づけながら,「知識及び技能」の習得,「思考力,判断力,表現力等」
の育成,「学びに向かう力・人間性等」の涵養を目指すもの(白水 2017(26))であり,また,そ の実現には,子どもの「主体的な行為」や「他者との出会い」,さらに,「各教科の特質に応 じた体験活動」が重要であることが示された。ここでの「子どもがすでに断片的に持ってい る思いや考え」とは,幼児教育で育てられた「学びの芽生え」に他ならないのではなかろう か。つまり,幼児教育で育まれた資質・能力を受け,小学校教育では, 3 つの資質・能力を,
さらに発展させていくことが方向づけられたと言えよう。
また,「主体的・対話的で深い学び」は,「幼稚園教育要領(18)」の総則の第 4 「指導計画の作 成と幼児理解に基づいた評価」の 3 「指導計画の作成上の留意事項」の中に,「認定こども園 教育・保育要領(19)」の総則の第 2 「教育及び保育の内容並びに子育ての支援等に関する全体的 な計画等」の 2 の⑶「指導計画の作成上の留意事項」の中に,共に書かれている。ここにも
「学びの連続性」が見られる。幼児教育は,環境を通して行われる。子どもの興味・関心に 添った物的環境,子どもが他者やモノと広く深く関われるような言葉かけ等の人的環境,を 設定する中で,子どもは主体的に活動を始める。子どもは「主体的」に遊びを考え,友だち と「対話=関わり」をしながら,遊びに没頭する。その没頭した遊びを継続し,自分たちで 工夫する中で,より深い学びを得る。つまり,夢中の継続した遊びを通して,資質・能力を 育むのが幼児教育である。その意味で,幼児教育はもともと「主体的・対話的」であり,今 後「深い学び」が求められることになろう。
新しい「小学校学習指導要領」(平成29年版)によって,小学校教育はどのように方向づけ られたのかを検討してきた。また,その改訂は,幼児教育と小学校教育の接続にとってどの ような意味を持つのかを検討してきた。その結果,表 3 に示すように,以下のことが示され た。
1 ) 幼児教育から小学校教育まで一貫して,資質・能力を育てるということになり「目標 の連続性」が生まれた。
2 )幼児教育から小学校教育まで一貫して,「学ぶ方法」として,「主体的・対話的で深い 学び」が位置づけられ,学びの「方法の連続性」が生まれた。
3 )「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を踏まえたスタートカリキュラムの編成 が位置づけられ,「内容の連続性」が生まれた。
次に,幼児教育,小学校教育が目指すものについて検討する。
「小学校学習指導要領(17)」(平成29年版)には,教育の目標として,総則の第 1 の 2 に「第 3 の 1 に示す主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生かし た特色ある教育活動を展開する中で,次の⑴から⑶までに掲げる事項の実現を図り」という 文が新しく追加され,「児童に生きる力を育むことを目指すものとする」(筆者下線)と書か れている。さらに,「生きる力を育むことを目指すに当たっては,学校教育活動全体並びに各 教科,道徳科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動……(筆者 中略)……の指 導を通して,どのような資質・能力の育成を目指すのかを明確にしながら,教育活動の充実 を図るものとする」(筆者 下線)と書かれている。
一方,「幼稚園教育要領(18)」「認定こども園教育・保育要領(19)」「保育所保育指針(20)」では,次のよ うに書かれている。
表 2 幼稚園,認定こども園,保育所の教育の目指すもの 幼稚園教育要領
(平成29年版) 幼稚園においては,生きる力の基礎を育むため,…次に掲げる 資質・能力を一体的に育むように努めるものとする。
認定こども園教育・保育要領
(平成29年版)
幼保連携型認定こども園においては,生きる力の基礎を育むた め…次に掲げる資質・能力を一体的に育むように努めるものと する。
保育所保育指針
(平成29年版) 保育所においては,生涯にわたる生きる力の基礎を育むため…
次に掲げる資質・能力を一体的に育むように努めるものとする。
表 2 に示すように,幼児教育は「生きる力の基礎を育む」ために,「資質・能力を一体的に 育む」ことが求められている。それに対して,小学校教育は「生きる力の育む」ために,「全 教育活動を通じて,資質・能力の育成」が求められている。以上のことから,幼児教育と小 学校教育では「生きる力の育成」を目指し,そのために「資質・能力の育成」に努める点に おいて,連続性が見られることがわかる。
以上のことから,以下のことが示された。
4 )幼児教育と小学校教育は「生きる力の育成」目指すという「連続性」が見られた。
表 3 幼児教育と小学校教育の連続性
~「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」(平成29年版 ) と
「小学校学習指導要領」(平成29年版 ) に見る~
幼児教育 小学校教育
1 )「何ができるようになるか」目標の連続性
○育みたい 3 つの資質・能力
・ 感じたり,気付いたり,分かったり,できる ようになったりする。「知識及び技能の基礎」
・ 気付いたことや,できるようになったことを などを使い,考えたり,試したり,工夫した り,表現したりする。「思考力,判断力,表現 力等の基礎」
・ 心情,意欲,態度が育つ中で,よりよい生活 を営もうとする。「学びに向かう力,人間性 等」
2 )「どのように学ぶか」学びの方法の連続性
○主体的・対話的で深い学び 3 )「何を学ぶか」内容の連続性
幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿が 現れるような「遊び」
(アプローチカリキュラム)
(方向目標が示された。到達目標ではない)
4 )「何を目指すのか」目指すものの連続性
「生きる力の基礎」
そのために,「資質・能力の一体的に育むよう に努める」
1 )「何ができるようになるか」
○育成を目指す 3 つの資質・能力
・ 「何を理解しているのか,何ができるのか」
(「知識・技能」の習得)
・ 「理解していること,できることをどう使うの か」(「思考力・判断力・表現力等」の育成)
・ 「どのように社会・世界と関わり,よりよい人 生を送るか」(「学びに向かう力・人間性等」
の涵養)
2 )「どのように学ぶか」
○主体的・対話的で深い学び 3 )「何を学ぶか」
幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿を 踏まえたスタートカリキュラムの編成
(少しずつ教科の中に生かしていく)
4 )「何を目指すのか」
「生きる力の育成」
そのために「資質・能力の育成を目指す」
3 - 2 幼児教育と小学校教育の段差
「教育方法」「空間・時間の配置」の 2 つの視点から検討する。
3 - 2 - 1 教育方法の段差
「幼稚園教育要領(18)」の「幼稚園教育の基本」の中に,「幼稚園教育は,学校教育法に規定す る目的や目標を達成するため,幼児期の特性を踏まえ,環境を通して行うものであることを 基本とする」(筆者 下線)と「環境」を教育方法とすることが明確に示されている。これ は,保育所や認定こども園でも同じである。「保育所保育指針(20)」では,「保育の環境」に「保 育の環境には,保育士等や子どもなどの人的環境,施設や遊具などの物的環境,更には自然 や社会の事象などがある。保育所は,こうした人,物,場などの環境が相互に関連し合い,
子どもの生活が豊かなものとなるよう,……(筆者 中略)計画的に環境を構成し,工夫し て保育しなければならない」と書かれている。また,「認定こども園教育・保育要領(19)」にも,
総則の第 1 の 1 「幼保連携型認定こども園における教育及び保育の基本」に「第 2 条第 7 項 に規定する目的及び第 9 条に掲げる目標を達成するため,乳幼児全体を通して,……(筆者 中略)環境を通して行うものであることを基本とし…」と書かれている。
幼児教育は,「環境を通して」行われる。子どもの興味・関心に沿った環境(人的環境,物
的環境等),安心できる環境の中で,子どもは主体的に動きだす。環境に対して主体的に働き かけるようになる。子ども本人は,仲間と一緒に夢中になって遊んでいるに過ぎない。保育 士は,環境の 1 人として,子どもが人や物と広く深く関われるように子どもの遊びを支援す る。今,子どもはどのような体験の蓄積があり,資質・能力を育むためには,どのような体 験を積み重ねることが必要なのかを考え,環境を構成する。そのような環境の中でこそ,子 どもは多くの気付きを得,学びを持つはずである。資質・能力はそのような環境の中で育ま れる。子ども自身よりも環境に働きかけることこそが重要である。幼児教育はこのような教 育観・指導観に支えられている。「間接性」の指導原理に支えられている。それに対して,小 学校教育は,「環境」という視点は少ない。井口(2013(25))は,東京学芸大学附属早竹小学校の 入学間近の 1 年生の授業を参観し, 1 年生の担任は, 5 歳児の担任と比べ,物的環境を十分 に生かしておらず,言葉だけで説明する傾向があることを明らかにしている。また,酒井
(2014(27))は,幼児教育と小学校教育を比較して,幼児教育の方法論について「子どもの興味・
関心ということについて,幼児教育では,配慮にみちた環境と,そこに安心してかかわれる ような雰囲気が重視されており,子どもはそうした環境の下で,自ずと興味や関心がわいて 次々と活動を展開していくことが仮定されている。」と述べ,小学校教育に対しては,「小学 校教育においても,子どもの興味・関心を生かした指導の重要性は指摘されているものの,
それらがどのようにして育まれるのかについては,方法論は明示されていない」と違いを指 摘している。幼保小間の「環境を通して」という「教育方法の不連続」が「学びの段差」を 生み出している可能性は高い。環境に導かれ,子どもの主体的な行為が起こる。その環境構 成が不十分であれば,当然子どもは動けない。そこで,つい,「しつけ・ルール」という強制 力に依存し,過度な適応を子どもたちに要求してしまう。そういう面が子どもの戸惑いを生 み,「学びの段差」となっている可能性が考えられる。
また,幼児教育は「遊びを通しての指導を中心」(「幼稚園教育要領」平成29年版」)にし て,ねらいが「総合的に達成される」(「幼稚園教育要領(18)」)ように行われる。 5 つの領域に分 かれているが,領域ごとの教育が行われるのではない。「遊びを通して,総合的に達成され る」のである。
それに対して,小学校教育は,各教科,道徳科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特 別活動等の全教育活動を通して,資質・能力の育成を目指す。つまり,各教科等に分かれて 指導がなされ,子どもの中での統合が目指されるのである。ただ,2020年度の学習指導要領 の改訂で,各教科の関わりがより授業の中でも意識されるようになり,汎用的なスキルの習 得が目指されている。しかし,各教科の成果は,個人の中で統合しなければならない点に変 わりない。この「教育方法の段差」が子どもの戸惑いとなり,「学びの段差」となっている可 能性が考えられる。
以上のことから,幼児教育と小学校教育には以下の段差があることが示された。
1 ) 幼児教育の方法である「環境を通して」行うという視点が,小学校教育には受け継が
れていない。そのため,「教育方法の段差」が生まれている。
2 ) 幼児教育ではねらいが「総合的に達成される」と考えて教育してる。一方,小学校教 育では各教科に分かれて指導したものが,個人の中で「統合される」と考えて教育し ている。このため,「教育方法の段差」が生まれている。
3 )1 )2 )の段差が学び手の戸惑いとなり,「学びの段差」を形成していると考えられる。
3 - 2 - 2 時間・空間の段差
⑴ 時 間
小学校教育は枠組みが明確である。「小学校学習指導要領(17)」(平成29年版)の総則の第 2 の 3 「教育課程の編成における共通的事項」の「⑵授業時数等の取扱い」の中に,「各教科等の それぞれの授業の 1 単位時間は,各学校において,各教科等の年間授業時数を確保しつつ,
児童の発達の段階及び各教科等や学習活動を考慮して適切に定める」(筆者 下線)となって いる。授業は45分が基準であり,児童は,日課表に従って集団で行動することが求められる。
授業と授業の間には休み時間が設定されており,児童はチャイムに従い行動することが求め られる。(ノーチャイムの学校もあるが,時間的制約は同じである)休み時間には次の準備を し,教科によっては,時間内の教室移動もしなければならない。時間に伴う制約は多い。
また,45分の授業は,席に座り,静かに先生や友だちの話を聞くことが求められる。途中 で自由に歩くことなどは認められず,発言の仕方等,学級によって,授業のルールが明示的 あるいは暗示的に設定されていることが多い。「学習内容」や「進み方(進度)」においても,
個人の選択は基本的にない。「学び方(学習方法)」も,これまで一斉授業が多く一律であっ たが,学習指導要領が改定され,「主体的・対話的な学び」が求められるようになった。今後 は,個人の学び,グループの学び,一斉の学び等,多様な学び方が個人によって選択される 可能性は高い。新しい学習指導要領では,「各教科等の特質に応じ,10分から15分程度の短い 時間を活用して特定の教科等の指導を行う場合において,……(筆者 中略)……その時間 を当該教科等の年間授業時数に含めることができること」が追加されている。この改定によっ て,スタートカリキュラムにおいて,短い時間(10分~15分)を単位(15分× 3 セット)に した授業も可能となる。幼保小の接続にとっては望ましい変化であると言えよう。しかし,
45分が基準ということに変わりはない。
それに対して,幼児教育では,「幼稚園教育要領(18)」(平成29年版)の総則の第 4 の 3 「指導 計画の作成上の留意事項」の中に,「認定こども園教育・保育要領(19)」(平成29年版)の第 2 の 2 「指導計画の作成と園児の理解に基づいた評価」の中に,「週,日などの短期の指導計画に ついては,幼児(園児)の生活リズムに配慮し,幼児(園児)の意識や興味の連続性のある 活動が相互に関連して幼稚園(幼保連携型認定こども園)生活の自然な流れに組み込まれる ようにすること」(かっこの中は「認定こども園教育・保育要領」),「保育所保育指針(20)」(2018 年度版)の総則の 3 「保育の計画及び評価」の中に,「長時間にわたる保育については,子ど もの発達段階,生活のリズム及び心身の状態に十分配慮して,保育の内容や方法,職員の協
力体制,家庭との連携などを指導計画に位置付けること」と書かれている。
「集団」を意識した小学校教育に対して,幼児教育では,「一人一人」を意識した時間の配 慮が見られる。「一人一人」の活動(遊び)に対する・意識・興味の連続性が重視されてお り,個としての子どもを意識した時間になっている。当然,幼児教育においても時間の枠組 みはあるものの,ゆるやかである。チャイムによって時間が区切られているわけでもない。
例えば,ある保育所では,次のような日課になっている。
7 :30 順次登所 健康観察 自由遊び 9:30 年齢に応じた保育活動
11:00 食事準備 食事 13:00 午睡
15:00 間食 健康観察 16:00 好きな遊び
大枠は決まっていても,次への活動の流れに個人差は認められている。全員が一律に集団 として行動するのではない。この点が幼児教育と小学校教育の大きな段差であろう。
⑵ 空 間
幼児教育は「環境を通して」行われる。幼児教育にとって,「環境」は有効な教育手段であ る。横井(2011(28))は,「幼児教育では,保育所・幼稚園の空間すべてを,子どもたちが安心し て落ち着いた生活を送るための「環境」として,遊びのなかで子どもたちが主体的に関わる
「環境」として考えている。」と述べている。保育士の「環境に対する意識は高い。まさに,
保育所空間すべてが,子どもたちが主体的に関わる「環境」と捉えている。また,その「環 境」は決して固定的なものではなく,子どもと共に変化するものと捉えている。そのため,
子どもが自由に空間を行き来することが認められており,友だちとの関わりの自由度も大き い。
それに対して,小学校教育は「環境を通して」育てるという意識は弱い。そのため,基本 的に教室のみが「空間」としか考えられていない。空間の自由な移動は原則認められていな い。友だちとの関わりも教室の仲間と固定されている。授業の中では,その空間はもっと狭 くなる。自分の机といすが自分の空間となり,関わりもお隣の人ぐらいになる。「主体的・対 話的な学び」は,空間の配置に対する多様性をどれだけ保障できるかでもある。教室空間の 机の配置をペア・グループと広げることによって,多様な関わりが生まれる。教室の中にホ ワイトボートを持ち込むことで,関わりに変化が生まれる。幼児教育の「空間を環境と捉え,
環境で育てる」考えを小学校教育に持ち込むことは重要であろう。
以上のことから,幼児教育と小学校教育には,以下の段差が示された。
4 )幼児教育では,「一人一人」の意識・興味を大切にした時間設定がされているが,小学 校教育では,時間に伴う「集団」としての規範が重視されている。ここに,「時間に対す
る段差」が生まれている。
5 )幼児教育では,「空間は環境である」と捉えられており,子どもの空間の移動や多様な 関わりが認められているが,小学校教育では,「空間は環境である」という意識が弱いた め,空間や子どもの関わりは固定的である。ここに,「空間に対する段差」が生まれてい る。
4 段差を克服するための実践理論
平成29年版の「小学校学習指導要領」,「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」
「保育所保育指針」を検討した。その結果,幼児教育では,養護の視点を大切にしながら,幼 児教育の質を高めることが求められていることが示された。また,そのような幼児教育と小 学校教育との接続に関しては, 4 つの連続性「目指すものの連続性」「目標の連続性」「学び の方法の連続性」「内容の連続性」が方向付けられ, 3 つの段差「教育方法の段差」「時間に 対する段差」「空間に対する段差」があることが示された。この「連続性」と「段差」を教師 と子どもに分けると,子どもの「内容」「方法」「目標」共に連続性が方向付けられているが,
教師の「指導方法」「時間や空間」に不連続があることがわかる。つまり,目指す子どもや学 ぶ子どもの方法は共通なのだが,それを実現するための手立てに大きな違いがあり,不連続 であることがわかる。次の節では,この不連続の課題を解決するための実践理論を考察する。
【 幼児 教育 】 【小 学 校教 育】
生き る力 の 基礎 生き る 力
↑ ↑
資質 ・能 力を 育 む 資 質・ 能 力の 育成
遊 び 主体的・対話的深い学び 各 教 科等 主体的・対話的深い
10 の姿 スタ ート カ リキ ュラ ム
総合的 ○環境を通して 分けて,後で統合 ??○
△ △ 不連 続
段差
図 1 幼児教育と小学校教育の連続性と段差
4 - 1 幼児教育の質を高めるために
幼児教育の質を高めることと幼保小の接続の円滑に行われることの両方が求められている。
質の高い幼児教育の実現と幼保小の円滑な接続は両立するのであろうか。
幼児教育の質は多様であり,一義的に定義することは難しい。幼児教育の質をインプット
の「構造の質」,プロセスの「過程の質」,アウトプットの「成果の質」の 3 つの視点から捉 える考えがある(鈴木 2014(29))。「構造の質」とは,子どもが環境と関わり始める時の質であ る。つまり,物的環境と人的環境の構造の質である。例えば,物的環境(園が広くて清潔,
遊具等が豊か),人的環境(保育者と子どもの人数比率が適切,労働環境が良い等)てある。
「過程の質」とは,環境との関わりの質である。子どもが物や人と広く深く関われるような言 葉かけをしている等,保育者と子どもとの関わり等が問題になる。「成果の質」は,子どもが 何ができるようになったか,が問われることになる。これらの質は密接に関わりあって,全 体の質を高めることになる。
本稿では「過程の質」を取り上げる。幼児教育の質を高めるための中心となるのは,保育 者であり,保育者の子どもへの関わりだと考えるからである。また,幼保小の接続を考える ためにも,保育者の子どもへの関わりを問題とする「過程の質」を検討することが適切と考 えたからである。本稿では,ベルギー・リューベン大学のラーバース(1994(24),2005(25))の評価 に着目する。ラーバースの評価は,CLASS(Classroom Assessment Scoring System=アメ リカで開発された評価の指標)のように保育者(子どもへの関わり)を評価対象とするので はなくて,子どもを評価対象とする点に特徴がある。ラーバースは,子どもの情緒的な安心 感・居場所感「安心度」と遊びへ集中・没頭「夢中度」の 2 つの観点から「過程の質」を捉 えようした。つまり,子どもが安心して夢中になっている状態を「深い学び」と捉え,子ど もが没頭した活動を行うためには,どのような物的環境を構成し,保育者の関わりが必要か と考ていく。具体的には,1 )保育者は子どもの「安心度」「夢中度」を評価する,2 )評価 した理由を保育者で交流する, 3 )「夢中度」について,例えば,豊かな環境,主体性の発 揮,関わり方,集団の雰囲気,保育活動の運営,等の視点から振り返り,改善方法を考える,
この 1 )から 3 )を通して,実践の質を高めていく。このような幼児教育の質を高める方法 を提示したのである。筆者がラーバースの評価に注目するのは,保育者の行為を直接,省察
(振り返り)していない点である。省察は何かを媒介とし,それを鏡として省察する方が有効 と考える。例えば,話し手は聴き手の姿を対象とし,「聴き手は難しい顔していた。」「事例を 話した時,よく聴いていた。」等の聴き手の姿から,自らの話し方を振り返る方が自分自身を メタ認知しやすい。実践も同じである。自分自身の関わりを直接評価するよりも,子どもの 様子を振り返る鏡とし,間接的に省察する方がメタ認知しやすいと考える。
4 - 2 幼保小において,新しく何をつなぐのか
幼児教育と小学校教育では,今度の改訂によって,目指す子どもや学ぶ子どもの方法には 連続性が確保されていた。しかし,それを実現するための手立てに大きな違いがあり,段差 が生まれていた。これらのことら考えて,幼保小の接続の鍵となるのは,「環境を通して」育 てるという幼児教育の方法だと考える。小学校教育,特に低学年の教育に,「環境を通して」
子ども育てるという方法をつなぐことで,教育方法の連続性が確保され,円滑な接続となる
と考える。だが,「環境を通して」育てるという方法を小学校に導入した場合,「どのような 環境を望ましい環境なのか」という環境を評価するの指標がないと十分に理解されない可能 性がある。また,環境を改善するための視点も必要であろう。
4 - 3 幼児教育の質を高め,幼保小の円滑な接続のための実践理論
これらのことから考えて,ラーバースの理論は幼保小の接続を実践するための有効な理論 になり得ると考える。 1 つに,ラーバースの評価は,子どもを「安心度」「夢中度」という 2 つのキーワードで捉えることで,「環境」を評価する指標を示している。また,子どもが「安 心」と「夢中」になれるような環境(物的環境,人的環境)を構成するため 5 つの改善の視 点,例えば, 1 )子どもの意識・興味の連続性を生み出すような環境か, 2 )子どもと共感 的な関わりができていたか, 3 )子どもが主体的に動けるように空間や時間は設定されてい たか,等(保育活動の運営,集団の雰囲気は省略)が示されており,幼児教育と小学校教育 で共有化しやすい。
2 つに,環境改善の視点である「子どもが主体的に動けるような空間や時間は設定されて いたか」は,「時間に対する段差」「空間に対する段差」を少なくするために有効と考える。
例えば,子どもが学習に没頭していたかで「学びの深さ」を評価したとする。もし,子ども が学習に没頭していたとは言えない状態であったならば,改善の視点として,環境が問題と なる。その環境の 1 つに「時間」や「空間」も入る。これまで,小学校教師にとって「時間 は守るもの」「空間は教室」としか考えていなかった。ところが,子どもが夢中になるような 時間や空間の設定が求められることになる。教師の「時間に対する意識」「空間に対する意 識」の変革が求められる。教師の意識が変われば,子どもの意識も変わる。入学したばかり の児童にとって,学習規律の獲得は重要である。ただ従うべき規律として提示されるのでは なく,学習にとって「時間」「空間」はどうあればよいか,と規律の意味が問われることにな る。子どもたちは, 1 つ 1 つの規律の意味が言語化され,納得しながら身に付けていくこと が可能となる。それがお互いの段差を少なくするものと考える。
3 つに,教科に分けた枠組みを総合的な方向に変えるのに有効に働くと考える。子どもが
「夢中になる」のは遊びである。学習においても子どもが「夢中」「没頭」するのは,学習内 容に遊びの要素が加わるからである。学習そのものが楽しいから夢中になるのである。その ような学習は他の教科と関連したり,合科的指導になったりする可能性が高い。国語で言え ば,身体性(運動)やリズム性(音楽)と結びつく可能性が高い。例えば,「大きなかぶ」の 学習。「大きなかぶ」の世界に入り込んだ子どもたちは,自分たちも演じたくなる。劇遊びに 発展する。おじいさんやねずみになりきり,「うんとこしょ,どっこいしょ。」と演じる。子 どもは夢中になる。子どもの意識は遊んでいるが,遊びを通して,ぬけた時のおじいさんや ねずみの心情を体験し,それを言語化し共有化することになる。低学年の子どもが夢中にな る時は,リズムや身体が伴い,総合的になる可能性が高い。「夢中」というキーワードを追求
することで,幼児教育との段差はかなり少なくなると考える。
5 領域「言葉」と小学校「国語科」の連続性
幼児教育の質を高め,幼保小の段差を少なくし,円滑な接続を行うための実践理論として,
ラーバースの理論の可能性を論じた。実践理論を実践に移すためには,具体的な内容に即し て,資質・能力の連続性を検討する必要がある。幼児教育は「学びの芽生え」の時期,小学 校教育は「自覚的な学び」の時期と言われている。「学びの芽生え」から「自覚的な学び」へ の接続を円滑に行うには,どのような資質・能力を接続し,そのための指導内容の連続性も 具体的な内容に即して検討する必要がある。そこで,内容や目標に繋がりが見いだしやすい 領域「言葉」と小学校「国語科」を取り上げることにした。
領域「言葉」と小学校「国語科」の連続性を考察するために,平成29年版の「幼稚園教育 要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」の領域「言葉」の「ねらい」「内 容」と「小学校学習指導要領」の「国語科」の「目標」「内容」を比較検討する。
5 - 1 平成29年版「幼稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」「保育所保育指針」
の領域「言葉」の「ねらい」と「内容」
平成29年版領域「言葉」は,平成20年版領域「言葉」からどのような変更があったのだろ うか。平成29年版領域「言葉(18)」と平成20年版(11)では,以下の変更が見られる。 1 つは,領域の
「ねらい」と「内容」が年齢によって違うものになっている。平成20年版では,5 領域の「ね らい」と「内容」は年齢による違いはなかった。ところが,平成29年版では, 1 歳から 2 歳 と 3 歳から 5 歳で, 5 領域の「ねらい」と「内容」が違っている。発達に応じた「ねらい」
と「内容」が設定されたということになる。 2 つには,「保育所保育指針(20)」の中に,「(ア)ね らい」「(イ)内容」の下に,「(ウ)内容の取り扱い」が追加されたことである。これで,「幼 稚園教育要領」「認定こども園教育・保育要領」すべてが同じ形式になった。幼保小の接続か ら考えて,望ましい変化と言える。その結果, 3 歳から 5 歳に関しては,平成29年版の領域
「言葉」の「ねらい」と「内容」は平成20年版とほぼ同じものを引き継いでおり,1 歳から 2 歳に関しては,発達段階に応じた新しい「ねらい」と「内容」が編成されている。つまり,
平成29年版では(18)(19),幼稚園,認定こども園,保育所の領域「言葉」の「ねらい」「内容」「内容(20)
の取り扱い」は, 1 歳から 2 歳と 3 歳から 5 歳に分けられ,同じものになった。
以上のことから,領域「言葉」に関して,幼稚園,認定ごとも園,保育所で共通した教育 が行われるようになったと言える。このことは,小学校にとっては,幼稚園,保育所,子ど も認定園間の段差は少なくなり,各園から小学校への接続が円滑に行える可能性は高まった と言える。
平成20年版「幼稚園教育要領」と平成29年版「幼稚園教育要領」の 3 歳から 5 歳の領域「言 葉」の「目標」を示す。