The Recent Tai Lue Migrants along the
Thai‑Myanmar Border: Transnational Practice and Ethnicity Utilized to Live in the Border Context
著者 ハッタパス ジャルワン
著者別表示 Hatapasu Jaruwan journal or
publication title
博士論文要旨Abstract 学位授与番号 13301甲第5104号
学位名 博士(学術)
学位授与年月日 2020‑03‑22
URL http://hdl.handle.net/2297/00058757
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
様式 7(Form 7)
学 位 論 ⽂ 要 旨
Dissertation Abstract
学位請求論⽂題名 Dissertation Title
The Recent Tai Lue Migrants along the Thai-Myanmar Border: Transnational Practice and Ethnicity Utilized to Live in the Border Context
(和訳または英訳)Japanese or English Translation
タイ・ミャンマー国境地帯のタイ・ルー新移⺠
̶国境コンテクストで⽣きるために活⽤される越境実践とエスニシティ̶
Human and Socio-Environmental Studies 専 攻(Division)
⽒ 名(Name) Jaruwan HATAPASU
主任指導教員⽒名(Primary Supervisor)Prof. Dr. Yoichi NISHIMOTO
(注)学位論⽂要旨の表紙 Note: This is the cover page of the dissertation abstract.
要約
タイ北部にあるメ・サイ国境地域では、地域の権⼒と社会関係が異なる段階で明確 に現れ、国家権⼒と国家統制が⾒られる。多彩な⽂化背景、移住や移動といった国 家を超えた経験をもつ⼈々の実践だけでなく、多くのアクターがもたらす関係性や 相互作⽤、論争がそこにある。
本研究は、タイ・ルー⺠族が近年移住し、相互に関係を折り合ってきた交錯地帯 メ・サイ国境地域を考察し、このような移り変わりのある場での経験は、国境周辺 のそれぞれに異なるさまざまなタイ・ルーグループの明確な違いをもたらしたと主 張するものである。本稿では、国境という場所からどのように利益を得たのか、⾃
⺠族にとって有益な⽣活を成⽴させるために⺠族間のネットワークや国家を超えた 慣習をどのように⽤いたのかということに焦点を当てることにより、メ・サイ国境 における近年のタイ・ルー移住者たちの動向を探求していく。
本研究では「個⼈、コミュニティ、タイ・ルー(メ・サイ)組合」という相互に関 連し合う3つのレベルを設定した。まず、個⼈レベルにおいて3⼈のタイ・ルー移
⺠者について記述する。彼らは国境という環境において⽣き、より良い暮らしや経 済的あるいは社会的な好機を求めて、さまざまな⽅法や戦略を活⽤・実践してい る。
次に、コミュニティレベルではTang Tham Luangという儀礼を通した、これまで⽂
字として記録されることのなかった国を超えた移⺠タイ・ルーコミュニティの原動
⼒を探求する。この儀礼では、他の多数派⺠族グループであるタイ・ヤイとの結び つきだけでなく、移住者としてのタイ・ルーが故郷やタイの村に住むタイ・ルーに 帰属し、関連し合っているという意識が幾重もの階層の上に作り上げられる。
集団レベルでは、タイ・ルー(メ・サイ)組合に焦点を当てる。近年のタイ・ルー 移⺠者は新しい状況で活⼒を与え、交渉を⾏い、⾃らを表すための議論の場として この組合を⽤いている。
集団レベルでは、タイ・ルー(メ・サイ)組合に焦点を当てる。近年のタイ・ルー 移⺠者は新しい状況で活⼒を与え、交渉を⾏い、⾃らを表すための議論の場として この組合を⽤いている。
本研究が提唱するのは、タイ・ルー移民者の慣習や 3 つの相関し合う基準に鑑みれ ば、彼らは地理環境下や民族グループ内という枠組みにおいてタイ社会に対する
「辺境の民族」として応答しているということである。移民者であるタイ・ルーの 暮らしには権限が認められず、発言権や社会・文化的な空間もなく、彼らは国家の 安全を脅かすものとして誤認されさえしている。タイ・ルー移民者はより良い暮ら しを求め、集団を示すための、希望のある新しい環境としてメ・サイ国境を「交錯
地帯」と認識し、活用している。こうした環境下で、タイ・ルーの民族ネットワー クはタイ・ルー移民者がより良い暮らしを手にいれるために様々な方法で用いられ た重要な資源を象徴している。彼らは本来あるいは以前の状況や立場から、より好 ましい状態へ変化することを望んでいるのである。
キーワード:タイ・ルー、タイ・ルーの国家を超えた移⺠者、タイ=ミャンマー国 境、メ・サイ国境
ABSTRACT
The Mae Sai border in the northern part of Thailand gives a different meaning to different actors. It is also an object that clearly shows the power and social relations of society at different scales. In such a context, the Mae Sai border allows us to see the state’s power and its control. We can see the relationships, interactions, and contestations from many actors as well as the practices of people who have a varied history of culture, migrations, mobility, and transnational experiences.
This research explores the Mae Sai border as a transition zone where migrants’
experiences of mutual adjustment negotiate their activity relationships with each other. This research argues that border experiences enable the distinct differences in this transition zone between Tai Lue ethnic groups along the border. This study explores the movement of recent Tai Lue migrants in the Mae Sai border by focusing on how they benefit from the border and how they use their ethnic networks and transnational practices to create advantageous lives.
This study reflects a complex set of how recent Tai Lue transnational migrants, networks, ideas, ethnic relations, and power relationships get repositioned in a new settlement.
This research focuses on three interconnected levels, individual, community, and the
Tai Lue (Mae Sai) Association. The individual level contains the narrative of three Tai Lue
migrants with different migration experiences and professions. Their life stories demonstrate
their ethnic strategies. Each of Tai Lue migrants used a different way/strategy to live in the
border context to pursue a decent life and economic or social opportunity.
At a community level, the study explores the dynamics of an undocumented Tai Lue transnational migrant community. The transnational migrants’ community form is not fixed points on geopolitical maps but is continuously redefined processes within a particular social setting. The Tang Tham Luang ritual allow participants to make a great merit but also acts as a symbol for community construction. The ritual creates a sense of belonging and relatedness on many levels, for migrant Tai Lue with Tai Lue in their homeland, and with Tai Lue in their Thai village, as well as connecting with the other dominant ethnic group—the Tai Yai.
At the association level, the study focuses on the Tai Lue (Mae Sai) Association. The Association emerged from dialogues with the Thai nation-state and within the Tai Lue ethnic group. The Tai Lue migrants use this association as a platform to empower, negotiate, and represent themselves in a new setting.
The study suggests that the Tai Lue migrants’ practices and their movements in the three interconnected levels reflect their responses as a marginalized people in the context of geography, and within an ethnic group—to the Thai society. As migrants, they have a life without rights. They do not have voices, social or cultural spaces. They are misperceived as national security threats. The Tai Lue migrants use the Mae Sai border as a transition zone to seek a better life, to represent their group, and to be recognized as they desire in a new setting.
In such a context, the Tai Lue ethnic network represents a vital resource used in different ways by Tai Lue migrants to acquire opportunities for a better life. They seek to change from their original/former status or position to a more favorable state.
Keywords: Tai Lue, Tai Lue transnational migrants, Thai-Myanmar border, Mae Sai border
㊞
学位論文審査報告書
令和2年2月14日
1 論文提出者
金沢大学大学院人間社会環境研究科 専 攻 人間社会環境学専攻 氏 名 Jaruwan Hatapasu
2 学位論文題目(外国語の場合は,和訳を付記すること。)
The Recent Tai Lue Migrants along the Thai-Myanmar Border: Transnational Practice and Ethnicity Utilized to Live in the Border Context(タイ・ミャンマー国境地帯のタイ・ルー新 移民―国境コンテクストで生きるために活用される越境実践とエスニシティ)
3 審査結果
判 定(いずれかに○印) 〇合 格 ・ 不合格
授与学位(いずれかに○印) 〇博士( 社会環境学・文学・法学・経済学・〇学術 )
4 学位論文審査委員
委員長 西本 陽一 委 員 鏡味 治也 委 員 中島 弘二 委 員 田村 うらら 委 員 宇根 義己 委 員
(学位論文審査委員全員の審査により判定した。)
5 論文審査の結果の要旨
本論文はタイ・ミャンマー国境を行き来する少数民族タイ・ルーが、越境を通していかによ りよい生活を得ようとするか、また、越境の時期によって、同じ民族の中にも別の共同体意識 が生まれている事実を報告する。これらの民族誌的な記述をとおして、人や物を隔てるものと いう国境についての否定的な見方に対して、transition zone(Newman 2003)である国境地帯を 利用することによって、人々は新たな存在を獲得し、よりよい生活を追求するのだと、国境に より積極的な意味を見いだそうとする。言い換えると国境は、特定の国家を超越した経済・社 会的なチャンスを提供するのだと本論文は捉えている。
タイ・ミャンマー国境の町メーサイには、10 以上の民族が暮らし行き来する。タイ・ルー 族はその一つであり、17 世紀以来中国雲南省シーサンパンナ―より移住してきたが、本論文 が特に取りあげるのは、1990年代と2000年代にタイ国内へ移住した「新移民」である。この 対象集団は、行政が認知していない2村落に、多くはタイ国籍なしに暮らしている。
本論文の目的、理論的枠組み、方法などを述べる第一章につづいて、第二、三章はそれぞれ タイ・ルー族の移住の歴史および調査地域(メーサイ県および2つの調査村落)について紹介 している。それにつづく第四、五、六章はそれぞれ、個人レベル、共同体レベル、協会レベル から、国境地帯のタイ・ルー族の具体的な生活と実践が記述される。終章である第七章は結論 の章であり、本論文冒頭で掲げられた3つのリサーチクエスチョンに対する答えが示される。
個人レベルでのタイ・ルー族の国境地帯における実践については、1.民族音楽の歌手、2.
仏教僧侶、3.藩王家系の活動家について、詳細なライフヒストリーが記述される。タイ・ル ー歌手は、ミャンマーで貧しい家に生まれたが、着の身着のままのタイ移住後には民族音楽の 歌手として有名になり、それを生かした商売によって経済的にも成功している。タイ・ルー人 僧侶もミャンマーの生れだが、タイ国の事実上の国教である仏教のネットワークを利用して、
タイの僧院に居住しながら教育機会を得て、仏教学校で教師をするまでになっている。タイ・
ルー活動家は、ミャンマー領内のタイ・ルー藩王の家系に生まれたが、同国の民族紛争を逃れ て、タイに移住した。現在、彼はタイ・ルーの文化と言語の保全のために尽力しているが、そ れらはタイ・ルー旧移民とは異なる、タイ・ルー新移民の地位向上のための活動である。
共同体レベルでのタイ・ルー族の国境地帯における実践については、調査村で催されるタン タムルアン儀礼が取りあげられる。タンタムルアンとは「偉大なダルマの開始」を意味する仏 教儀礼で、雨安居終了期か終了後の9月から11月の時期に3日間おこなわれる、主要な村落
祭礼である。同祭礼には、ミャンマーからも村民の親戚や友人がやってきて、祭礼で積徳し、
タイで買い物を楽しんで帰ってゆく(高価で質の良いタイの製品は、ミャンマー帰国後には地 位誇示のための品となる)。調査村はタイ・ルー族とタイ・ヤイ族(シャン族)との混住村で あるが、同じ仏教徒である両民族住民は、タンタムルアンを開催し参加することによって、同 じ村落住民という共同体意識を確認し強化するという。
協会レベルでのタイ・ルー族の国境地帯における実践については、包摂と排除という観点か ら、民族協会の事例が報告される。タイ・ルー新移民たちが結成した同協会は、民族文化の振 興と同時に、タイ国の政策や価値観と適合する諸活動をおこなうことにより、「タイ社会に害 をなす不法移民」と言われるタイ・ルー新移民が、タイ国で居場所を見つけ、認知されること に貢献しているという。
これらを踏まえて第七章「結論」では、タイ・ルー新移民たちが、1.個人レベルでは、国 境地帯というtransition zoneにおいてそれぞれに生活向上の機会を追求していること、2.共同 体レベルでは、村落仏教祭礼が、異なる民族間に共同体意識をもたらすこと、3.協会レベル では、民族協会がタイ・ルー新移民のタイ社会への包摂に寄与していることが確認される。そ して、ボーダー研究の文脈においては、経済・社会的な機会追求が可能な場としてのtransition zone という概念が確認され、民族研究の文脈では、同一民族といえども、歴史・社会的なコ ンテクストの違いによって、別の集団意識をもつことがあるという事実が確認される。
審査委員会では本論文に対して、いくつかの指摘がなされた。本論文は、民族ネットワーク を中心に論じているが、親族や友人などのネットワークについてより個別の細かい考察が必要 である。全体的にタイ・ルーという具体的な対象の記述に重点が置かれているため、理論的と 言うより記述的である。また、調査対象が代表的な住民、村落祭礼、民族協会という比較的目 に付きやすい対象であり、参与観察による庶民の視点や日常生活の観察からの立論にとぼしい。
理論的には、記述の多くはフィールドデータを既存の理論フレームへ適用したものであり、既 存の理論をこえる新しくオリジナルな視点や発見に欠ける。
しかし著者は、国境やエスニシティについて詳細に先行研究を検討し、数次にわたる村落で のフィールドワークにもとづき、タイ・ミャンマー国境地域におけるタイ・ルー新移民につい て、個人・共同体・協会レベルから、堅実な民族誌データを提示し、妥当な理論的な考察をお こなっている。したがって審査委員一同は、総合的に見て本論文が、博士論文としての内容と 基準とをじゅうぶんに満たすと判断した。