市販 セル ロース粉末 お よびペ クチ ンが グル コー スの i nv i t r o
にお け る拡散速度 に与 える影響
I nf l ue nc eofComme r c i alCe l l ul os ePowde rand Pe c t i non i nu i t r o Gl uc o s eDi f f us i onSpe e d
加藤 陽治*・田中 順子* I Yo j iKATO*and J unkoTANAKA*†
論文要 旨
植物性食品由来 の食物繊維 の大部分 は細胞壁 である。 その主要構成多糖ペ クチ ンとセル ロー スの i nu i t r o におけるグル コースの拡散阻害作用 に対す る加熱操作 の影響 を,市販 のペ クチ ン お よびセルロース粉末 を用いて検討 した。 セル ロースの場合,加熱 ( 1 0 0 o C) による影響 はまっ た く受 けなかった。 しか し,ペ クチ ンは加熱時間の増加 に伴 い阻害率が減少 した。 これ は,加 熱 によるペ クチ ン分子 の粘性消失,すなわちペ クチン分子の分子量低下が原因であることがわ かった。 この ことか ら,水可溶性 お よび水不溶性食物繊維 の物理化学的性質が加熱調理操作 に より変わ り, その生理機能 にも大 きな影響 を与 えることが示唆 された。
キーワー ド:食物繊維,ペ クチン,セルロース, グル コースの拡散
1 .緒 言
食物繊維摂取量 の減少が種々の疾患 ( 消化器疾患,糖尿病 な ど) を引 き起 こす ことが明 らか にな り,生体調節機能因子 としての食物繊維の重要性が認 め られている 1,2) 。食物繊維 は水可 溶性食物繊維 と水不溶性食物繊維 の二つに大別 され る。 それ らの大部分 は植物性食品のいわゆ る植物細胞壁 に由来す るといって も過言で はない.食物繊維 の生理効果 の一つ耐糖性改善効果 は,水可溶性食物繊維 の拡散阻害作用 によ り説明 されている。
われわれ は,水不溶性食物繊維 の栄養効果解明の基礎知見 を得 るために水不溶性食物繊維 の 物理化学的性質の研究 を進 めて きた。 これ までに, ダイコン, キャベ ツお よびタケノコの水不 溶性食物繊維 ( 細胞壁)が低分子糖 を一時的 に抱 え込む性質 を有 し ,i nu i t r o においてグル コー スの拡散速度 を遅 らせ ることを明 らかにした 3 ・ 4 ) 。今回は,ニ ンジン, ゴボウ, ミズお よび リ ンゴの水不溶性食物繊維 を用 いて ,i nv i t r o におけるグル コースの拡散速度 に対す る影響 を同 様 に検討 した。 さらに,野菜 の細胞壁 を構成 している多糖 の中で含有量 の高いペ クチ ンとセル ロースが加熱操作 によ り i nu i t r o でのグル コースの拡散速度 にどの ように影響 を与 えるかにつ いて,市販 のセル ロース粉末 とペ クチ ンを用いて調べたのでその結果 について報告す る。
*
弘前大学教育学部家政学科教室De par t me ntofHo meEc o nomi c s ,Fa c ul t yofEduc at i o n,Hi r o s akiUni ve r s i t y
I
現在 北海道洞爺高等学校 (〒0 4 9 ‑ 5 8 0 2
北海道虻 田郡洞爺村字洞爺町5 8 ‑ 3 )
9 4
加藤 陽治 ・田中 順子2. 実験方法 1)材料
ニ ンジン, ゴボウ, リンゴお よび ミズ は弘前市内のスーパーマーケ ッ トよ り購入 した。おか らは朝 日工業株式会社 ( 埼玉県)の今野芳宏氏か ら恵与 された ものである。
セル ロース粉末 はナカライテクス㈱ か ら,ペ クチン (レモ ン製) とカルボキシメチルセル ロ ース ( CMC) は和光純薬工業㈱ か ら購入 した。 その他 の試薬 は市販特級品 を用いた0
2 )水不溶性食物繊維の調製
ニ ンジン, ゴボウ, リンゴお よび ミズ可食部 の水不溶性食物繊維 の調製 は前報 3) に従 って行 った。 おか ら水不溶性食物繊維 は 8 0%熱 メタノール処理後,前報 3) に従 って調製 した。
3)水不溶性食物繊維 および CMCのグル コースの拡散速度 に与 える影響 4)
各種水不溶性食物繊維 2gに1. 5%グル コース溶液50 ml を加 え,スターラーで撹拝 して試料 を 均一 にした後 に,透析膜 ( Seaml e s sCel l ul os eTubi ng ,Si ze:3 6/ 32 ,三光純薬株式会社) に 詰 め,50 0 ml の蒸留水 に対 してスターラーで撹拝 しなが ら透析 した ( 図 1)
4)。経時的 ( 0 分,3 0 分,60 分,90 分お よび1 2 0 分後)に透析外液 の一部 を採 り, そのなかのグル コース量 をフェノー ル ・硫酸法 5 ) にて求めた。対照 として1. 5%グル コース溶液 ( 50 ml )のみの ものを同様 に行 った。
図
1食物繊維存在下におけるグルコースの拡散速度測定装置 W : 蒸留水,B: ビーカー,MS: マグネチックスターラー, CT: セルロース透析膜,S: グルコースと食物繊維の混合物
4)セル ロース粉末およびペ クチ ンのグル コースの拡散速度 に与 える影響
市販 セル ロース粉末 ( C) お よび市販ペ クチ ン( P) の混合比 の異 なる試料,CI OO ( C:p ‑1. 00 g :0g) ,C7 5( C:p‑0. 7 5g :0. 2 5g) ,C5 0( C:p‑0. 50g :0. 50g) ,C2 5( C:
p‑0. 2 5 g :0. 7 5g) ,お よび CO ( C:p‑ 0g :1. 0 0g ) をそれぞれ 8 点用意 した。
それぞれの試料 を50 ml 容栓付 き遠心管 に入れ,蒸留水2 5 ml を加 えよ く捜拝 した後,1 00 o C で 0
分,30 分,60 分お よび1 2 0 分加熱 し,室温 まで冷却 した。 これにグル コースを1. 5% になるよう
に加 え,撹拝 にて試料 を均一 に し,透析膜 ( Se aml e s sCel l ul os eTubi ng ,Si z e:3 6/3 2 ,三光
純薬株式会社)に詰 め,3 00 ml の蒸留水 に対 してスターラーで撹拝 しなが ら透析 した。経時的 ( 0
分,30 分,60 分,90 分お よび1 2 0 分後)に透析外液 の一部 を採 り, そのなかのグル コース量 をフ
ェノール ・硫酸法 5 ) にて求 めた。
5 )粘度測定
市販 セル ロース粉末 と市販ペ クチンを上述拡散速度実験 と同様 に計 1gとな るように混合 し, 蒸留水 2 5 m l を加 え ,1 0 0 o C で 0分 ,3 0 分 ,6 0 分 お よび 1 2 0 分加熱 し, それ ぞれ を室温 まで冷却 し
たOこれにグル コースを 1. 5 % の濃度 になるように加 え,よ く授拝 し,遠心分離 ( 3. 0 0 0 r p m,3 0 分)操作 を行 った。上清画分 ( 熱水可溶性画分) の粘度 を次の要領 で測定 した 6 ) 。すなわち,
5 ml 容 メス ピペ ッ トの 目盛 り 5. O ml の ところまで試料溶液 を吸 い上 げ, 目盛 り 3. Omlまで落下す るのに要す る時間 を測定 し,蒸留水 で計測 した値 を 1 とし, その相対値 で求 めた。測定 は室温 2 0 o C の部屋で行 った。
6
)水不溶性食物繊維 の走査型電子顕微鏡
(SEM)による観察
イオ ンスパ ッタ リング装置 I B‑3 型 イオ ンコ一 夕‑ ( エイコ一 ・エ ンジニア リング製) によ り金蒸着 し,走査型電子顕微鏡 S‑2 4 6 0 N (E ] 立製作所製)で観察 したC加圧電圧 は 1 8 Ⅳ であっ
た 。
3. 結果 および考察
ニ ンジン, ゴボウ, リンゴお よび ミズ可食部 の水不溶性食物繊維 ( 図 2 に リンゴの水不溶性 食物繊維 の電子顕微鏡観察 の写真 を示す)の i nu i t r o におけるグル コースの拡散速度 にお よぽ す影響 を調べ るために,図 1 に示す ような装置 4 ) を用 いて, グル コースの透析速度 を測定 した。
図 2 リンゴ水不溶性食物魚椎の走査型電子顕微鏡による観察
透析 開始後 1 2 0 分 まで,経時的 に透析膜外溶液 中のグル コース量 を測定 した結果 ( 透析膜 の外 に
出たグル コースの割合)をまとめた ものが図 3 である。透析時間 1 2 0 分 における値 で比較 してみ
ると,対照のグル コースのみの ものに比 べて, ミズで その 6 8 % , セル ロース粉末で 6 7 % , リン
ゴ とゴボウで 7 9 % , おか らで 8 5 % ,ニ ンジンで 8 9 % とな り,繊維 の存在 で外液 のグル コースの
量が少 な くなっていること, しか も種類 で その値 に違 いがみ られ ることがわかる。すなわち,
グル コースの拡散速度 は繊維 の存在 で遅 くなる ことが示 されたo また,水不溶性食物繊維 との
9 6
加藤 陽治 ・田中 順子比較 に用 いた水可溶性食物繊維 の一 つで セル ロー ス誘 導体 で あ るカルボキ シメチル セル ロース ( CMC)の場合 は,透析開始後 1 20 分で,グル コースのみの場合 の値 の5 2% とな り,かな り拡散 が阻害 され てい るこ とがわか る。今 回の この実験結果 か ら,先 にみ られ たダイ コン, キ ャベ ツ お よびタケ ノコ水不溶性食物繊維 の低分子糖 を一時 的 に抱 え込 み,低分子糖 の拡散速度 に影響 を与 える性質 3・4) は普遍 的な もの と結論 す るこ とがで きる。
棚 30 20 10 ‑ 5 0 40 30 2 (./ . ) 仰 事 O Y I E l t J5 ' j FFl ; JJL Q 専 峯 憎
0 3 0
60 90 12 0
透析鱒hZl(分)
3 0 6 0 9 0 20
透析時間 (分) 透析時間 (分)
0 0 0 LL7 4 3
0 30 60 90 120 達析時間 (分)
0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析藤間 (分) 図3 各種食物触経のグルコースの i nv l t r Oにおける拡散速度に与える影響 ( 軸, ゴボウ ;
(B
), リンゴ ;
(C
), ミズ ;
(D
),おか ら ;
(E),ニンジン
;(F),セルロース と CMC。一〇一,グルコースのみの場合 : ‑ ●‑,グルコースに各種食物繊維 を加 えた 場合。( F ) では‑●‑が市販セルロースで,一 一 ●‑が CMCである。
われわれが 日常摂取す る野菜類 は生食 す るのみな らず,加 熱調理後食 に供 す る もの も多 い。
水不溶性食物繊維 の中 には加 熱操作 で一部 可溶化 す るもの もあ る。 また,水可溶性食物繊維 に は加熱 に よ り構造変化 が生 ず る もの もあ る。
これ まで に筆者 らは日常 の食生活 で摂取 す る機 会 の多 い葉菜類,根菜類 お よび果菜類 の炭水
化物組 成 を調 べて きた 7 9 ) 。 ペ クチ ン様物 質 ( 可溶性 お よび不溶性 の両者),ヘ ミセル ロー スお
よびセル ロー スに分類 した ときの構 成比率 を まとめてみ る と表 1の ようになる.細胞壁構成 多
糖類 の中でペ クチ ン様物質 ( 主 にポ リガ ラクツロナ ンや ラム ノガ ラクツロナ ンで他 にア ラビノ
ガ ラクタ ンな どを含 む) とセル ロースが主要 な多糖類 で あ る ことがわか る. そ こで,市販 セル
ロース粉末 と市販 ペ クチ ンを用 いて,加 熱操作 が これ ら多糖 が持 つ グル コースの i nu i t r o にお
ける拡散速度 に どの ような影響 を与 えるか について検 討 した。
表1 主要葉菜類,根菜類及び果菜類細胞壁のペ クチ ン様物質,ヘ ミセル ロース 及びセル ロースの割合
野 菜 細胞壁 多糖 (%)
ペ クチ ン様物質 ヘ ミセルロース セル ロース 葉菜類
キャベ ツ ハ クサイ ホウレンソウ チ ンゲ ンサイ レタス 根菜類
カブ ダイコン ゴボウ ニ ンジン レンコン 果菜類
ナス ピーマ ン キュウ リ カボチ ャ モ ヤ シ
6 2 1 5 7 4 4 3 4 4 7 2 7 4 4 4 5 4 5 3 4 4 9 0 8 5 5 4 5 4 1 0 7 4 9 : r: : 6 1 9 6
11 1
25 8 0 6 9 1 1 2 1 1 3 9 3 2 4 4 4 5 4 4 7 8 4 9 5 3 3 4 3 4 1 8 1 5 3 3 2 3 3 3
(一 uJ 叫
77)TO Y ‑ E= q r JQ ZJ
ヨりltG0
年峯村1
0 0 0 8 0 0 6 0 0 4 0 0 2 0 0
0 0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析時間 (分)1 0 0 0
0 0
‑6 0
0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析時間 (分)1 000
8 0 0
6 0 0 4 0 0 2 0 0 0 1 0 0 0
8 0 0 6 0 0 4 0 0 2 0 t I 0
0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析時間 (分)0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析時間 (分)1 0 0 0 8 0 0 6 0 0 4 0 0 2 0 0
0 0 3 0 6 0 9 0 1 2 0
透析時間 (分)図
4 グル コースの拡散 に対 する市販 セル ロース と市販ペ クチ ンの加熱時間の影響一 ‑ 0‑ ‑
,加熱 0分:‑O‑
,加熱3 0
分 :‑1●‑,加熱6 0
分 ;‑●‑,加熱1 2 0
分。9 8
加藤 陽治 ・田中 順子図 4 の A お よび図 4 の E はそれぞれ, セル ロース粉末 1 00% の場合 ( CI OO) お よびペ クチ ン 1 000 / .の場合 ( CO) に加熱時間が拡散速度 にお よぼす影響 をま とめた ものである. セル ロース は 加熱時間が増加 して も拡散速度 に与 える影響 は加熱前 ( 加熱 0 分) とほ とん ど変わ りがなか っ た.一方,ペ クチ ンの場合 は,加熱時間の増加 とともに,透析膜外液 中のグル コース量 は加熱 前 ( 加熱 0分) に比べ増加 してい ることがわか る。すなわち,拡散速度阻害率が加熱時間の増 加 とともに減少す ることを示 してい る. さ らに, セル ロース とペ クチ ンが共存 す る場合 ( C75 , C50 及 び C25) で も,同様 に,加熱時間の増加 に ともない,拡散阻害率が減少す る ことが示 され
た ( 図 4 の B , C お よび D) 0
つ ぎに, この減少が何 に由来 す るのか を検討 す るために,加熱後 の可溶性画分 の粘度 につい て調べた ( 表 2 )。ペ クチ ンは加熱前 には非常 に粘性 があるが,加熱時間 の増加 に ともなって, それが減少 してい ることがわか る。すなわ ち, これ はペ クチ ン分子 の低分子化がお こっている ことを示 している。一般 に,ペ クチ ンのポ リウロナイ ド鎖 は,中性p Hで加熱す る とメチルエス テル化残基 の部分 で切断
(β一あるい は転移脱離 によ り)され ることが知 られている。 また, ア ルカ リ性 のp Hの下 で はメチルエステル基 のケン化 も生 じること, さ らにはペ クチ ンの加熱時 の p H安定範 囲 は 3 ‑4. 5 であることも知 られている 1 0)0
食物繊維 の もつ物理化学的性質 の一 つに拡散阻害作用が ある。 この性質 は特 に水可溶性食物 繊維 が著 しい とされてい る。食物繊維 の持 つ生理効果 の食後血糖値 の上昇抑制効果 は,水可溶 性食物繊維 の拡散阻害作用 による とされてい る
1)0
表
2 市販セルロースとペクチン混合物の加熱前後の粘度変化
加熱時間
試 料(分)
CI O O C7 5 C5 0 C25 CO
0 0 0 0 3 6 2日 H 2 9 2 2 1 0 1 1 日 H H H H H H H 2 2 9 9 3 3 2 2 1 1 1 1
相対粘度
2. 56 6. 41 20. 0 3 2. 24 7, 1 2 1 6. 6 5 1. 5 9 1. 6 8 2. 1 5 1. 21 1. 68 1. 3 2
試料CI O O ,C7 5,C50 ,C25 及および CO は,セルロース とペクチンの比が それぞれ 1 00:0,7 5:2 5,5 0:5 0,25:7 5 および 0: 1 0 0 である。
食物繊維 の大部分 は植物性食 品のいわゆる植物細胞壁 に由来 す る といって も過言で はない。
野菜 を摂取す る際,生食 す る もの もあれ ば,加熱調理後食 に供 す る もの もある。今 回の市販 セ ル ロース粉末 とペ クチ ンを使用 したモデル実験 の結果 は,明 らか に,加熱操作が植物性食 品す なわち植物細胞壁 の主要多糖 であ る水可溶性 お よび水不溶性 の両ペ クチ ンの物性 を著 し く変化 させ, それが生理効果 に も大 きな影響 を与 える可能性 を示唆 してい る。ペ クチ ンの起源 によ り グル コースの拡散 に及 ぼす影響 が異 なること, そ して,必 ず しも粘度 と拡散抑制作用 は一致 し ない ことも報告 されている1 1 ) 。今後,各種野菜類 由来 の水不溶性食物繊維 の加熱前後での,i n v i t
roにおけるグル コースの拡散抑制 を比較 す ることが重要である と思われ る。
引用文献