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阪南大学産業経済研究所年報第47号

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阪 南 大 学

阪南大学産業経済研究所 第 47 号

第四十七号 二〇一八年

  十二月

No.47

December 2018

Institute of Industrial and Economic Research Hannan University

Annual Report

Institute of Industrial and Economic Research Hannan University

2018年12月

産業経済研究所年報

(2)

目   次

はじめに

段  家誠 (3)

研究活動総括

 (5)

助成研究報告   < 終了報告 >

 リード・ユーザー活用型オープン・イノベーションモデルに関する

  理論的・実証的研究 水野  学 (6)

 「学習財」としてのスキー・スポーツに関する基礎的研究 桜田 照雄 (8)

 マーケティング活動におけるフラッグシップショップの役割 西口 真也 (11)

 集合動産を活かしうる取引枠組みとは

  ~特に譲渡担保生成の起源について 池田 雄二 (14)

 非伝統的金融政策と資産担保証券のスプレッド:

  市場型間接金融の視点からの実証研究 王   凌 (15)

 平面特徴を用いた3次元点群データの重ね合わせ手法に

  関する研究 北川 悦司 (16)

 社会事業の研究―環境保全,防災,医療を中心として― 福重 八恵 (17)

 AR(拡張現実)などを用いた「遺跡」の活用における基礎的研究 和泉 大樹 (20)

  < 中間報告 >

 コムギ根由来の新規のアレロケミカルの探索 鶴嶋  鉄 (22)

 超音波診断装置から明らかにする身体組成の特徴と

  多様な運動能力との関連性 黒部 一道 (23)

叢書紹介

 『戦争と聖書の平和―キリスト者からの問いかけ―』 村田 充八 (26)

 『近代文学における < 笑い > の小説の生成』 鷲㟢 秀一 (28)

国外研究報告

 ポストケインズ派の経済学に基づく所得分配,金融,総需要の

  理論・実証分析 西   洋 (30)

 難民コミュニティ用の補助的な言語学習システムの構築と導入

   WILSON Gordon (32)

国内研究報告

 16世紀フィレンツェにおけるメディチ君主国の研究 松本 典昭 (33)

(3)

  関する研究 清水苗穂子 (34)

研究フォーラム記録

 第47回 ノルウェーにおけるギャンブル規制 桜田 照雄 (36)

 第48回 ケベックと北米のフランス語圏,その歴史と文学       ; ニューイングランド,アカディア,オンタリオ

      ―英語圏の大海に浮かぶ孤島から群島へ― 真田 桂子 (37)

外国研究者短期招聘報告

 実学思想と近代―日中比較 石井 雄二 (39)

 漢代居延における戌卒と戌地について 陳   力 (40)

 カジノ(ギャンブル)依存症対策の研究 桜田 照雄 (41)

 アジアの新型都市化と社会文化システム 矢倉研二郎 (42)

科学研究費補助金採択一覧

 (44)

生涯学習記録

 (46)

研究記録

 (47)

(4)

政官モラル低下で問われる大学のあり方

産業経済研究所          所 長  段   家 誠  

 森友学園問題では財務省の公文書が書き換えられ,加計学園問題では首相官邸の面会記録が 早々に廃棄され,挙げ句の果てには関係する加計学園理事長側が安倍首相との面会すら存在し ていなかったと会見した。事の真偽を問われているのは,財務省職員や幹部,学校法人理事長 そして首相だ,出来事の改竄はあってはならない。

 前者は小学校の開校,後者は大学の新学部設置に絡む問題で,いずれも教育の内容や質の問 題を論じる以前の入り口の問題である。首相・政府機関・学校関係者への信頼を揺るがすもの である。

 公文書の改竄や面会記録の破棄,面会の事実そのものの消滅等はあってはならない。事実の 記録と保存が大事で,国を支える官僚それを動かす政治家は,本来そうした基本原則を踏まえ て行動すべきだ。首相や官僚がそうした点をしっかり踏まえていれば,1年以上の国会審議の停 滞やその間に生じたコスト・歳費の浪費もなかったはずだ。

 真相が国会やメディアで究明されるのを待っているさなか,もっと驚く事件が起きた。文部 科学省の局長が,息子の医学部合格と引き替えに東京医科大に補助金を認定する便宜を供与し た疑いがあるとの報道が出た。古典的な事件とも呼ばれるこの手の裏口入学は,かつては有名 大学や医学部を持つ大学でささやかれた話だ。事件はそれだけに止まらず,東京医科大ではそ の他の裏口入学を疑わせるメモが報道された。

 研究者には研究倫理が求められている。一つ一つのデータやその出所を尊重し,事実を積み 重ね,真理を探究していく姿勢が絶えず問われている。大学はその最たるよりどころのひとつ だ。その大学で不正入学が行われ,その大学を所管する文科省職員の倫理規範が緩くなっては まずい。

 研究者は思索,実験・記録を何度も行い,その証拠を積み上げることによって,そこから新 たな発見や仮説・理論の構築をし,問題解決をはかり真理に近づいていく。文系・理系を問わ ず大学はその科学のありようを,研究を通じて学生に丹念に教えていかなくてはならない。

 日本の政官モラルのありようが問われる中,この間も国際情勢は激動している。2018年6月に

シンガポールで米朝首脳会談が開催された後も,朝鮮半島の「非核化」をめぐり半島情勢の緊

迫した状態は続いている。北朝鮮の核廃絶が行き詰まり,さらにロシア疑惑で追い詰められた

(5)

要だ。日米ともに積もり積もった内政の行き詰まりや不都合な真実から国民の目をそらすため に,朝鮮半島情勢が利用されないことを切に願う。

 内外の政治家と官僚が劣化し,モラルが低下していると思われる今こそ,大学は足下を見据

えて,一つ一つ研究と教育を積み重ねることが大切だ。

(6)

         

 本学では,研究活動活性化のバロメーターとして,国の競争的研究資金の約4~5割を占め る科学研究費助成事業(科研費)の獲得を目指した取り組みを行ってまいりました。平成29年 度は,新規で基盤研究C(一般)4件及び若手研究B1件が採択されました。継続課題との合 計採択件数は22件,採択金額は24,960,000円となりました。

 一方,学内助成研究制度に関しては,学内の特色ある研究を促進する制度として新規・継続 を併せて10件6,000,000円を交付いたしました。この助成研究制度は,前述の科研費申請を条件 とした公募方式により選考を行うとともに,終了した課題に対する成果報告を義務づけており ます。その成果は研究者の所属する各学会誌,『阪南論集』において,学術論文等として成果発 表が行われています。

 阪南大学叢書の刊行助成制度も本学の特色ある研究助成制度の一つです。本制度は,毎年4 枠を限度として,大学と出版社が特別購入契約を行うことにより本学研究者への間接的な助成 を行う制度です。平成29年度は,叢書2件を採択し,年度末に刊行されました。

 国内外研究・研修制度では,平成29年度国外研究員3名,国内研究員2名が派遣されました。

 外国研究者短期招聘制度は約1ヶ月間にわたり,国外から研究者を本学研究者が招き共同研 究等を行う制度として定着し,平成29年度についても4名の研究者を招聘し研究交流活動を通 じて研究の国際化を図っています。

 その他,産業経済研究所では,学会の学内開催援助制度,研究フォーラム(学外研究者及び 本学専任教員の研究発表を通して,より専門性の高いテーマを議論し,異分野・学際間の研究 交流を図る制度,短期招聘制度により招聘された研究者による研究発表も行われている。)の開 催等により研究活動の活性化を図っています。

 生涯学習事業に関しては,小・中・高校生向けに研究成果の社会還元を目的として,大学コ ンソシーアムとの共催事業で大阪府在住の中学生対象の「大阪中学生サマーセミナー」を開講 しました。

 一般の成人向けの講座としては,大阪,神戸,奈良の各大学,機関が連携しリレー講座を行 う「公開講座フェスタ」,研究成果報告会を兼ねた「公開講座(オータムセミナー)」を開講し,

多くの方に受講いただきました。

 今後とも,産業経済研究所・研究部事業の進展を図り,研究活動とその成果報告を行うこと

により社会貢献を進めてまいります。

(7)

◇助成研究報告

<終了報告>

リード・ユーザー活用型オープン・イノベーション モデルに関する理論的・実証的研究

経営情報学部 教 授   水 野   学 1.本研究の目的

 本研究は3年間にわたり,リード・ユーザー が,オープン・イノベーションにおいて果たし 得る役割とその有効性を理論的・実証的に明ら かにすることに取り組んできた。イノベーショ ン研究の領域において,近年注目すべきテーマ が2つある。1つはオープン・イノベーション である。これは自社の技術や知識だけでなく他 社が持つ技術や知識を有機的に組み合わせるこ とでイノベーションを実現させようとする考え 方である(Chesbrough, 2003) 。もう1つはユー ザー・イノベーションである。これまでイノベー ションの主体はメーカーであると仮定されてい たが,近年の研究によりユーザー,とりわけリー ド・ユーザー(以下,LU)と呼ばれる製品の使 い手たちが,その製品に対して改良や開発に取 り組むという事実が明らかになってきた(von Hippel, 1986)。

 本研究はこの2つの問題を同時に議論するこ とで,より有効な製品開発組織や方法を開発し ようとするものである。すなわち企業のオープ ン・イノベーション活動における外部資源とし ての LU の有効性を理論的,実証的に検討しよ うとするものである。具体的には,①ユーザー・

イノベーションの発生メカニズム,② LU の発 見方法,そして③ LU 活用型オープン・イノ ベーションモデルの開発の3つである。

2.研究の概要

 上記の3つの研究課題を明らかにするため

に,本研究は次のような研究活動を行ってきた。

 まず理論的な課題を明確にするために,代表 者らが過去に行った科研費研究の再検討を行 い,そこからユーザー・イノベーション発生 メカニズム,とりわけ LU がイノベーションに 取り組む動機や誘因に関しての仮説導出を行っ た。

 次にその仮説を深化させるため,メーカーと LU の間に存在するユーザー・イノベーション を巡る情報懸隔を架橋する方法に関する問題に ついて重点的に取り組んだ。とくに両者の協同 イノベーションを促進するためのツールキット 問題と,情報流通網問題に関して事例研究およ び文献研究を行った。

 最後にこれらの研究成果を理論枠組みとして 再構築し,同時にその理論を実務に応用するた めの実験的研究や事例研究に取り組んだ。

3.研究成果

 3年間にわたった本研究の成果は,以下のよ うなものである。

(1)ユーザー・イノベーションの発生動機

 一般的にユーザー・イノベーションは,期待 利益の大きさ(von Hippel, 1988)と,情報の粘 着性の高さ(von Hippel, 1994)を主たる動機 として発生すると言われてきた。本研究ではこ の2つの仮説をより精緻化するために,①産業 構造仮説と②自己実現仮説の2つの仮説を提示 した。産業構造仮説とは,ユーザーが使用する 製品が属する産業自体の構造やメーカーの戦略

(8)

が,ユーザーのイノベーションを促進(もしく は減退)させる要因となるという仮説である。

例えば特定メーカーによる寡占化は,メーカー の新製品開発や改良の動機を減退させるため,

ユーザーによる革新活動を促進させるというも のである。

 一方の自己実現仮説とは,そもそもメーカー によるイノベーションを期待する気がなく,あ る問題に対して自分たちで工夫をしたり,知識 やスキルを誇示したりすることが動機となって いるユーザーが存在するというものである。こ れまでの研究では,このような動機は消費財の 分野特有のものであると考えられていたが,農 業を始めとする産業財分野でも観察されること を明らかにした。

(2)イノベーションの停滞と原因

 先行研究では,ユーザー・イノベーションは コミュニティを通じて普及が促進されること が,おもに消費財分野で指摘されてきた(例え ば Franke and Shah, 2003, Hienerth, von Hippel and Berg Jensen, 2014)。しかし産業財の場合,

コミュニティの存在そのものがないことが多 い。これはコミュニティを通じて同業者に情報 が漏れてしまうことを恐れるためである。その 結果,ユーザー・イノベーションが広く普及し ないという現象を引き起こす。

 さらにメーカーがユーザー・イノベーション に対して,保証問題や技術デザインの水準を理 由として否定的な態度を取るために,せっかく LU がイノベーション情報を公開してもそれを 活用できていないことが明らかとなった。

(3) LU 活用型オープン・イノベーションモデ ルの促進要因

 LU とメーカーの協同イノベーションを促進 するための要因として,① LU の技術デザイン 不足を補完するツールキットと,②保証や権利 保護など情報懸隔を架橋するためのイノベー ション流通システムの2つが導出されたが,そ れを実験と事例研究を通じて明らかにした。例

えばレゴやダンボールなどツールキットを使え ば,技術的知識が低いLU でもメーカーのコミュ ニケーションを促進させる可能性があることが 示された(静岡で実験やダイソンの事例)。さ らに自動車のアフターパーツ店やワークショッ プにおけるファシリテーターのような情報媒介 者が存在することで,対立するメーカーと LU を架橋する可能性があることも示された。

4.研究の発表

 上記の研究成果は,以下のような方法で発表 した。

(1)論文

◦ 「ユーザーイノベーション―革新をもたらす 顧客たち―」調査月報』No.113,pp. 36-41,

2018.

◦ 「産業財における共創型製品開発 : 企業ユー ザーイノベーターの探索法」『マーケティン グ・ジャーナル』Vol.36(4) pp. 58-75,2017.

(2)研究発表

◦ “Developing a Cardio Simulator: More real and quicker”, ISPIM Innovation Conference 2017, Vienna, Austria, 2017(竹村氏,廣田氏 との共同).

◦ “Design Prototyping: Reducing the uncertainty in “fuzzy front end” stage of product development”, ISPIM innovation forum 2017, Toronto, Canada, 2017. (竹村氏,

廣田氏との共同).

◦ 「ユーザー・イノベーションの可能性:広が るユーザーの力」,日本マーケティング学会 マーケティングカンファレンス2015,早稲田 大学,2015.

◦ “The Important Role of Users in Pop Culture -Related Business in Japan”, 13th Annual User and Open Innovation Society Meeting, Catolica-Lisbon School of Business and Economics, Lisbon, Portugal, 2015.

(9)

(3)セミナー等

◦ 「新しい時代の商品・サービス開発法」,静 岡デザインセミナー2017,静岡,2018.

◦ 「ユーザーイノベーターの育て方」,販売促 進研究所 マーケティングサロン , 静岡,2017.

◦ 「新時代の商品開発 ―ユーザーイノベーショ ン入門―」SOHO 静岡 ブレイクスルーセミ ナーVol.136,静岡,2016.

(4)その他

◦ 「顧客ニーズの発見法(下)ユーザーが見つ ける新用途」,日経 MJ ヒット塾,日経 MJ,

2017.

◦ 「顧客ニーズの発見法(上)解決したい「用事」

は何か」,日経 MJ ヒット塾,日経 MJ,2017.

5.今後の課題

 3年間の研究を通じて,LU がメーカーのオー

プン・イノベーションにおけるパートナーとな り得る可能性が明らかになってきた。すでに海 外ではコンテストやコミュニティを活用して,

ユーザーの革新成果をメーカーの製品開発活動 に取り込んだり,自社のシーズ活用に活かした りする動きが始まっている。今後日本でもその ような活動を活発に行うことで,従来のメー カーイノベーションとは異なる革新の源泉を生 み出すことが重要である。

 その一方で,本研究が明らかにしたように メーカーの多くはまだ LU の存在と実力に懐疑 的であるため,今後はメーカー単独イノベー ション,ユーザー単独イノベーション,協同型 イノベーションそれぞれのパフォーマンスの違 いを測定,検証していく必要がある。そのため に企業の協力を得た,より規模を拡大した形で の実験型調査に取り組む必要がある。

*2018年3月31日退職

「学習財」としてのスキー・スポーツに関する 基礎的研究

流通学部 教 授   桜 田 照 雄 バックカントリー・スキーは「本来の」スキー

文化

 海外のスキー場と比較したとき,日本のス キー場経営にとって最大の弱点ともいうべき は,滑走面積(経営面積)の狭隘さである。スキー の日本伝来は1912年末のことである。意外に思 われるかも知れないが,日本のスキー場にリフ トが架けられるのは1948年から50年にかけての ことなので,戦前に500カ所も存在していた日 本のスキー場にはリフトはなかった。スキー板 を担いだり,スキー板を履いたまま,斜面を登 り,滑走を楽しんでいたのである。

バックカントリー・スキーがもたらす経営課題

 ひとつの山の異なる斜面にあって,一つの斜 面・一つのリフト・飲食施設,場合によっては 宿泊施設をワンセットで設える経営スタイルが 1960年代には日本各地のスキー場に定着してい く。70年代には一つの山を一つの事業会社で運 営する「リゾート開発」が定着し,この経営ス タイルが今日でも受け継がれている。

 2000年代に入って,日本のスキー場経営やス キー文化には新しいベクトルが登場している。

一つは,訪日外国人スキー客の急増である。日 本の狭隘なスキー場を彼らはどう楽しむのか。

ここからもう一つのベクトルが登場する。サイ ド・カントリーやバック・カントリーと言われ

(10)

る――日本のスキー文化からすれば「先祖がえ り」――圧雪されていない自然地形の斜面滑走 を目的としたスキーの盛行である。これは,リ フトも活用しないわけではないが,それにのみ 依存しはしない,「スキーを用いた冬山登山」の 要素が加わるスキー文化である。スキーエリア はもはやゲレンデや「リゾート」にとどまらず,

一つの山岳エリアを対象とした「エリア・マネ ジメント」を求められる段階に至っている。北 海道の大雪山系やニセコ山系,北信の白馬山系 を訪れる外国人スキーヤーによってもたらされ た,これらの新しいベクトルをどうスキー場経 営――エリア・マネジメントへのゲレンデ・マ ネジメントの組み入れ――に取り込んでいくの か。これが現下の経営課題となっている。

八甲田山・酸ヶ湯温泉スキー場の経験から

 バックカントリー・スキーについて,八甲田 山酸ヶ湯温泉をベースに半世紀近くガイド活動 を行ってきた其田忠佳氏に,インタビューを 行った。以下はその要約である。

①  八甲田はバックカントリー・スキー・フィー ルド。ニセコや白馬はサイド・カントリーが メインなのだが,やはり山に入ると厳しい環 境が待ち受けている。

②  「山を観る」のが,ガイドの教養。ガイド を1人前に育てるには10年かかる。営利企業 でのガイド育成には限界がある。企業として の採算性が前提になると同時に,「山をあま り知らない上司」では,そもそも育成は無理 だろう。

③  日本は冬のシーズンが短いので,ガイドで 生計を立てるのも難しい。「国立マウンテン・

カレッジ」を設立して,公務労働としてガイ ド業務を位置づけないかぎり,ガイドの養成 は困難だろう。

④  八甲田という「山の文化」をよく理解した うえで,どのようなバックカントリー・スキー を展開していくのか。バックカントリー・ス キーを「教える」ことができるのは,八甲田 のガイドを組織化(「八甲田山ガイド連絡会」)

しているからだ。一致した目的意識のもとに 各グループを運営しているから「教える」こ とができるのだ。

⑤  「星野リゾート」が,十和田・八甲田に進出 してきた。インバウンドのバックカントリー・

スキーヤーを当て込んで,外国人のガイドを 八甲田に導入しようと提案してきた。これに 対して,われわれ八甲田ガイドは,「八甲田 という山の文化」と,それをベースにしたバッ クカントリー・スキーを展開しようとしてい るのだが,この理解を外国人ガイドと共有で きるとは思われないので,ロープウェイ運営 企業もまきこんで,外国人ガイドの導入はあ きらめてもらった。要は,八甲田でバックカ ントリー・スキーをやるには,八甲田という 山それ自体を知らないといけないということ だ。

課題設定と分析手法

 以上が本研究の背景というべきものである。

そこで,(1)新しいスキー文化として登場して いる「バック・カントリー」「サイド・カント リー」というスキー文化の研究と,(2)雪国 観光圏にみられるような「エリア・マネジメン ト」のコンセプトをいかにスキー場経営に取り 込むのか,(3)従来からある「ゲレンデ・ス キー」の愛好者が「バック・カントリー」「サイド・

カントリー」の分野に移行する可能性や諸条件 の抽出を研究課題とし,研究を行ってきた。こ れらの課題研究に適したスキー場として「かぐ らスキー場(新潟県南魚沼郡湯沢町)」をとり あげた。

 まず,取り組んだのは,既存のスキーヤーの 指向性(嗜好性)の把握である。これを分析す る手法として,データ・マイニング手法を試み た。具体的には,以下である。

 スキー場を紹介・案内するスキー・ガイドブッ クやインターネット上の情報交換サイトには,

対象とするスキー場(ここでは「かぐらスキー 場」)への消費者としての評価――「おすすめ スポット」「スキー場で困ったこと」「スキー場

(11)

への評価」など――が記されているケースが少 なくない。そこで,これらを情報源として位置 づけ,データを収集し,データ・マイニングソ フト(IBM SPSS)を用いて解析を試みた。

(1) キーワードの抽出――来訪スキーヤーの 関心はどこに?

 【表−1】は,250件のアンケートで回答者に よって用いられていた「単語」を抽出した結果 の一部である。この結果を「50音別」に整理す れば【表−2】が得られる。

 「オープン コース」や「オープン 混雑」は,

スキー場がオープンしたときのゲレンデでの

「混雑」状況にアンケート回答者の関心が向け

られていることを示している。

 同様に,「クーポン」では,「コンビニ」や「レ ンタル」「割引」といった「クーポン」の付随サー ビスや「携帯」などの「クーポン」へのアクセ スにスキーヤーの関心が向けられているのがわ かる。消費者ニーズを的確に把えることは,マー ケティングやマネジメントにとって前提条件で あり,こうしたアンケート結果を分析すれば,

スキー場経営者が想定あるいは設定したマネジ メント課題が,消費者に浸透しているかどうか を判断する素材として活用できるだろう。

 【表−3】は250件のアンケート結果を,要素 別に集計した結果(の一部)である。

 「かぐらスキー場」へのアクセスへの関心が 高く,ポジティブ評価とネガティブ評価が拮抗 しているのが特徴となっている。「春スキーの メッカ」と位置づけられてきた「かぐらスキー 場」だが,ガイドブックやインターネット・サ イトでの情報からは,そうした評価を肯定する 結果は得られなかった。

 「東京から新幹線で66分のアクセス」とは,「東 京都湯沢町」とよばれる越後湯沢のアクセスの 良さを訴えるキャッチフレーズである。こうし た利便性の良さが「かぐらスキー場」には必ず しも反映されているとは言えず,むしろ「渋滞 に見舞われる関越道」といったネガティブ情報 の影響をこうむっていることがアンケート結果 から伺われた。

 【表−4】は,アンケートの記述内容に含ま れている諸要素(アクセス,雪質,混雑,人気 など)に分類し,肯定的な評価には+1を加点 し,否定的な評価には−1を減点するとの条件 で整理したもの(の一部)である。このことに よって,評価ポイントごとの評価(肯定的評価 なのか,否定的評価なのか)とその程度(点数 の多寡)を把握することができる。

【表-1】

サマーゲレンデ 宿泊

天気 町営駐車場 ライブカメラ シーズン券 駐車場 標高 アクセス 明日の天気 アクセス 東京 ATM 雨 アルバイト アイテム 赤ちゃん アリエスカ 足湯 いつまで イベント 行き方 居酒屋

【表-2】

オープン コース オープン 混雑 クーポン

クーポン コンビニ クーポン リフト券 クーポン レンタル クーポン 割引 クーポン 携帯 クーポン 情報 みつまた 営業時間 みつまた 駐車場

【表-3】

アクセス・ポジティブ アクセス・ネガティブ 雪質 混雑 人気 春スキー

57 49 13 12 5 7

(12)

(2) ガイドブック情報・インターネット・サ イト情報の収集と活用

 【表−1】から【表−4】は,ガイドブックや インターネット・サイトから得られた情報なの で,いわば当該スキー場評価への「概要」にと どまる情報と言うべきであろう。とはいえ,ア ンケートを実施しようとしたとき,スキー場経 営者の「狙い」をアンケートに反映させるには,

つまり,スキー場経営者が求める「情報」をア ンケートの設問に的確に反映するのは,少なく ない困難をともなう。そこで,以上のような「概 要」情報を把握することは,この困難を克服す るのに有用だと思われる。そうした活用法を吟 味すべきであろう。この点については,今後の 研究課題としたい。

今後の研究課題

 分析上の制限があるとはいえ,ガイドブック 情報やインターネット・サイトでの書き込み情 報をデータ・マイニングすることは,評価ポイ ントへの「概要」を把握するのに有効だと思わ れる。書物に「書かれた情報」やインターネット・

サイトに「書き込まれた情報」を吟味するには,

現状視察によって得られた観察者(研究主体や スキー場の経営主体等)の「現場感覚」が必要 となるだろう。こうして得られた情報をベース に「モデル(ある種の理念型)」を組み立て,ス キー場経営に間接的にかかわる宿泊施設の経営 者や地域の商工業者,行政の担当者との「議論」

を通じて,ブラッシュ・アップすることも,ス キー場経営者にとって必要な課題となるのでは なかろうか。

マーケティング活動におけるフラッグシップショップの役割

流通学部 准教授   西 口 真 也 1.研究の背景と目的

 本研究の背景には,小売業者にとどまらず,

製造業者にとっても店舗がマーケティング手段 として重要性を増している状況がある。イン ターネット販売の普及により,買い物行動の過 程において製品・サービスを手に取って見る機 会が減少した消費者に,製品・サービスだけで なくブランドの世界観を体験させる場として,

フラッグシップショップ(各地に多店舗展開し ているグループ店の中で中心的な存在となるお 店。旗艦店のこと。)を設けるケースが増えて いる。

 本研究の目的は,このフラッグシップショッ プのファサードデザインに特に注目し,その ファサードがブランドメディア化している状況 について明らかにすることにより,フラッグ

【表-4】

No 回答 内容 アクセス 雪質 混雑 人気 比較 春スキー

1 1 2月中旬の平日に湯沢へ新幹線で出向く。 1

2 2 平日の GALA もなかなか混んでいると聞きます。 -1

3 3 「神楽スキー場」も,かなり人気があるスキー場。 -1 1

4 4 平日でも少し混んでいたような記憶がございます。 -1

5 5 「神楽スキー場」と GALA,どちらが空いていますか? 0

6 6 せっかく平日の有休を取るので空いているに越したことはない。  0

(13)

シップショップ計画に寄与する知見を得ること である。そこで,フラッグシップショップのファ サードデザインに対する消費者の心理構造につ いて明らかにすることを目的として Web 調査 を実施することで,下記の点について明らかに 明らかにしたい。

1)フラッグシップショップを訪れる消費者像。

2) フラッグシップショップのファサードデザ イン評価を測定する尺度開発。

3) フラッグシップショップのファサードデザ インに関する消費者心理モデルの構築。

 本研究において導かれる結論は,マーケティ ング手段として存在感を増しつつあるフラッグ シップショップの計画に有益な示唆を与えてく れるものと考えている。

2.研究の計画と方法及び進捗報告

 本研究は,2015年度以降の阪南大学産業経済 研究所助成研究において実施してきた調査・研 究の延長線上に位置づけられるものである。本 研究においても,これまでの研究と同様,調査 手法として Web による質問票調査を用いる。

具体的には,以下のプロセスに沿って研究を進 めている。

1)調査対象ブランド及び店舗の選定

 本研究では,店舗ファサードをブランディン グに活用してきた先駆的なカテゴリーである海 外ファッションブランドの代表的なブランドを 取り上げている。2015年度に阪南大学産業経済 研究所助成研究により実施した全国1万人を対 象に実施した Web 調査の結果明らかになった 海外ファッションブランドランキングの結果に 基づき,上位24ブランドの中から,2018年3月 6日現在,銀座エリアに路面店を有する表1)

の18ブランドを調査対象とした。銀座エリアを 選んだのは,「銀座」という場所が,海外ファッ ションブランドがフラッグシップショップを出 店する場所として,国内において最も代表的な

立地であると判断したためである。

2)Web による質問票調査の実施

 フラッグシップショップのファサードデザイ ンに対する消費者評価の構成概念を抽出し,仮 説を構築し,構成概念の測定尺度項目を検討す るための基礎データを得ることを目的として,

Web による質問票調査を実施した。調査概要は 以下の通りである。なお,調査実施に関しては 株式会社マクロミルに依頼した。

◆調査票タイトル:「店舗に関するアンケート」

◆調査時期:2018年3月16日(金)~

      2018年3月18日(日)

◆調査地域:全国

◆調査対象者数:10,000サンプル

◆調査対象者属性

・性別:指定なし

・年齢:指定なし

・職業:指定なし

・ 業種:卸売・小売業(衣服・繊維製品),調査業・

表1)調査対象店舗リスト

店舗名 所在地

1 Abercrombie&Fitch 銀座中央通り 東京都中央区銀座6-9-10

2 ALFRED DUNHILL 銀座本店 東京都中央区銀座2-6-7

3 ARMANI 銀座タワー 東京都中央区銀座5-5-4

4 BURBERRY 銀座マロニエ通り 東京都中央区銀座3-3-1

5 CELINE 銀座 東京都中央区銀座6-10-1

6 CHANEL 銀座並木 東京都中央区銀座6-7-19

7 COACH 銀座 東京都中央区銀座5-4-3

8 DIESEL 銀座 東京都中央区銀座3-2-15

9 DOLCE&GABBANA 銀座 東京都中央区銀座5-4-9

10 Gap フラッグシップ銀座 東京都中央区銀座4-2-11

11 GUCCI 銀座 東京都中央区銀座4-4-10

12 H&M 銀座店 東京都中央区銀座7-9-15

13 HERMES 銀座店 東京都中央区銀座5-4-1

14 HOUSE OF DIOR 銀座 東京都中央区銀座6-10-1

15 LOUIS VUITTON 松屋銀座店 東京都中央区銀座3-6-1

16 PRADA 銀座 東京都中央区銀座6-10-16

17 Tiffany 銀座本店 東京都中央区銀座2-7-17

18 ZARA 銀座店 東京都中央区銀座7-9-19

出典)筆者作成

(14)

広告代理業以外

・未既婚:指定なし

・子供有無:指定なし

 本調査では,調査対象の18ブランドの画像を 提示した上で,それらの店舗の中から,店舗の 外観が最もブランドの世界観(ブランドらし さ)を表現していると思うものを一つ選択し てもらい,その店舗がブランドの世界観を表現 できていると思う理由を自由回答形式で収集し た。Web 調査で用いた調査対象店舗ファサード の画像については,著者が現地で撮影・収集し た。また,性別,年齢,都道府県,地域,未既婚,

子供の有無,世帯年収,個人年収,職業,学生 種別,以上の調査対象者属性についても質問し た。なお,調査実施に際し,調査対象者属性の 偏りを抑えるため,性別と年齢(10~20代,30代,

40代,50代,60代以上)で割付を行った。

3)構成概念の抽出

 Web による質問票調査により収集した自由回 答形式のデータ(有効回答数:2776)を「KH Corder 3AS」を用いてテキストマイニングを実 施した。フラッグシップショップのファサード デザインに対する消費者評価を構成する構成概 念を抽出するため,共起ネットワーク図を作成 した(図1参照)。

 次に,作成した共起ネットワークの内容につ いて,各ワードのつながりに注意しながら解釈 を試みた。結果,下記の通り,7つのグループ に分類し,6つを採用し,「建築表現」,「ブラ ンド表現」,「ブランド連想」,「立地連想」,「商 品連想」,「雰囲気」というフラッグシップショッ プのファサードデザインに対する消費者評価を 構成すると思われる仮説的な構成概念を抽出し た(図2参照)。

3.研究成果報告に向けて

 一連の研究成果については,2018年10月26日

(金)~28日(日)に予定されている日本流通 学会第32回全国大会にて報告するとともに,学 術論文としてまとめ,2018年度『阪南論集』へ の投稿を目指している。

図1)共起ネットワーク図 出典)筆者作成

図2)構成概念の抽出

出典)筆者作成

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集合動産を活かしうる取引枠組みとは

~特に譲渡担保生成の起源について

経済学部 准教授   池 田 雄 二

1) 「集合動産」とは,商品の在庫等,個々として独立した取引対象となるが,集合することで経済的一体性を持ち,取引上 一物として捉えられる動産の集合体を意味する。

2) 「譲渡担保」とは,担保権者が担保権設定者に対して持つ債権を残存させつつ,担保権設定者からその所有する財産の所 有権の移転を受け,設定者が被担保債務を弁済することで担保物所有権を受け戻せるものをいう。法典に規定されてい ない非典型担保の一種。

3) 「買戻特約付売買契約」とは,中世から近代初期までは本銭返等と呼称された取引で,売買契約時に元金を弁済すること で,目的物を取り戻せる特約が付された売買である。現行民法では第579条以下に規定されている。

4) 「売渡担保」が何であるかについては,諸説があるが,本研究では,法形式としては買戻特約付売買契約であるが,買戻 代金に元金に加えて利息を取る契約をいう。なお買戻特約付売買か売渡担保かの区別を取引当事者の何れが現実の占有 を有するかで区別する学説も有力である。

 本研究は在庫商品等の集合動産の担保化の活 性に繋がる取引枠組みの呈示を目的とし,特に 現代において集合動産1)担保を担う譲渡担保2)

が生成された起源を究明することを目的とした ものである。

 本研究の遂行によって以下のような成果をえ た。現在の学説的理解では,譲渡担保は買戻特 約付売買契約3)→売渡担保4)→譲渡担保という ような発展をしたと考えられている。しかし本 研究では買戻特約付売買→売渡担保という発展 とは別に,しかもそれ以前に譲渡担保は生成さ れており,そして現代に至ったのではないか,

という仮説に基づいて検討を行った。買戻特約 付売買が1270年頃に生成され,その後少なくと も数十年後には売渡担保が生成されていること は既に以前の研究で明らかにしている。そのた め本研究では時代が近い中世の法令と贈与(和 与)関連文書(寄進状,充文,譲状等)100通以 上について調査・分析を加えた。その結果,貞 永式目追加条々に譲渡担保的取引を意識してい

ると解釈できる条々が見い出された。では実際 にそのような古文書があるかどうか調査したと ころ,贈与をしたにも拘らず,その取戻に高額 な代金を必要とする古文書を2通発見できた。

その内の1通は譲渡担保に相当する取引である と解釈でき,しかもそれは最古の買戻特約付売 買の記録(1270年)以前の古文書であった。こ うして譲渡担保に相当する取引は買戻特約付売 買契約より以前に存在していたことを究明する ことができた。

 ただし今回の研究では,譲渡担保の生成原因 自体を突き止めるまでには至らなかったため,

そのことの究明と,譲渡担保の中近世の展開の 追跡が必要検討課題として残されている。

 なお以上の研究成果は,「譲渡担保の所有権 移転担保における系譜的位置」『社会の変容と 民法の課題〔上巻〕 瀬川信久先生 吉田克己 先生古希記念論文集』(成文堂,2018年)341~

369頁において公表された。

(16)

非伝統的金融政策と資産担保証券のスプレッド:

市場型間接金融の視点からの実証研究

経済学部 准教授   王     凌

 証券化(証券化は,様々なローンをプールし,

これらを束ねて証券にするプロセスである。こ のプロセスを通じ,個々のローンはより均質で 流動性と柔軟性を有する証券になる)は主要な 資金調達手段になってきたが,社債や株式と比 べ,証券化商品の価格決定(プライシング)は,

これまで十分に研究されてこなかった。一方,

長期間にわたる非伝統的な手段による大規模な 金融緩和が証券化商品にどのような影響を与え ているかについての分析は,未だ極めて少ない。

しかしながら,非伝統的金融政策の効果を把握 する上ではそれは必要不可欠な作業であろう。

  本 研 究 で は, 資 産 担 保 証 券(ABS: Asset- Backed Securities)のスプレッド(リスクの高 い資産と残存期間が同じの,ベンチマークとな るリスクフリー資産との利回り差。投資家が資 産担保証券を保有する際のリスクを補償するも のと解釈できる)に焦点を当て,金融構造の視 点から,非伝統的金融政策が資産担保証券の価 格決定に及ぼした影響を理論的かつ実証的に分 析している。

 本研究の目的は,(1)非伝統的金融政策が資 産担保証券スプレッドの低下にどれほど寄与し たか,(2)金融システムの構造によって,資 産担保証券のスプレッドに対する非伝統的金融 政策の効果が異なるかどうか,という2つの疑 問に答えようと試みることである。一番目の疑 問は非伝統的金融政策の有効性を考える際に非 常に重要な問題であり,二番目の疑問は金融構 造の経済的意義・インプリケーションを理解す

る上で非常に重要な問題であると考えられる。

 理論分析においては,資産担保証券のスプ レッドを信用リスク,プリペイメント・リスク

(オプション・リスク),流動性リスク等に分解 したうえ,非伝統的金融政策が資産担保証券の スプレッドに影響を与えうる経路を検討した。

 実証分析においては,理論分析を踏まえ,信 用リスク,プリペイメント・リスク,流動性リ スクをコントロールしたうえ,日米両国で実施 されてきた非伝統的金融政策が資産担保証券の スプレッドにどれほど影響を与えたかを検証し た。ここでは,(1)ミクロ・レベル(トランシェ・

レベル)のデータを用いて分析したこと,(2)

非伝統的金融政策のアプローチ方法を量的に捉 えたこと,(3)金融構造を考慮に入れて日米 間の比較をしたことなど,いくつかの新しい試 みを行った。

 本研究の研究成果について,研究代表者は Midwest Economics Association 2018年大会に て,“Unconventional Monetary Policy and ABS Spread Determinants: A Comparative Study from the Perspective of Financial Structure”

と題して研究発表を行った。また,学術誌に投 稿する予定である。

【謝辞】研究助成をいただいたことを心より感 謝申し上げる。また,本研究を行うことにあた り,ご支援・ご対応をいただいた研究助成課の 皆様に感謝の意を表したい。

(17)

平面特徴を用いた3次元点群データの 重ね合わせ手法に関する研究

経営情報学部 教 授   北 川 悦 司

(背景と目的)

 近年の技術進歩と3次元データのニーズの高 まりによって,今日では,衛星(カメラ,合成 開口レーダ(SAR))や航空機(レーザプロファ イラ(LP),カメラ),UAV(カメラ,レーザ),

車(モービルマッピングシステム),地上(カ メラ,距離画像センサ,レーザ)といった様々 なプラットフォーム上で様々なセンサ機器を利 用して3次元データを容易に取得できる。この 3次元点群データは,多岐にわたる利用用途が ある点で非常に注目されている。特に,異なる 時系列のデータを比較することは,地図更新や 構造物の維持管理,災害時の状況把握などに活 用できる点で非常にニーズが高い。しかし,時 系列変化を把握するために必須となる3次元点 群データの重ね合わせ(位置合わせや,レジス トレーションとも呼ぶ)手法の現状は,オープ ンソースのライブラリである PCL(Point Cloud Library )にも実装されている ICP(Iterative Closest Point)を利用した事例や研究が多い。

ただし,これらの手法は,点と点を誤差なく一 致させるパターンマッチング手法の延長であ る。そのため,対象物の形状に変化がなかった としても,各点群データの同じ位置に点が存在 するとは限らない「計測箇所の問題」や,航空 機から取得したデータと地上から取得したデー タの密度が異なる「点群密度の問題」などが原 因で,同じ撮影方法で点群の密度が非常に多い データなどしか上手く重ね合わせることができ ないのが現状である。そこで,本研究では,既 存の課題を解決する重ね合わせ手法を構築する ために,3次元点群データから平面を抽出し,

平面と平面の交線をパターンマッチングで重ね 合わせをする手法について検討した。具体的に

は,2016年度の助成研究で課題として残った「平 面のマッチング方法」や「抽出した直線を用い た重ね合わせ手法」などについての解決を目指 した。本手法は,点群密度の影響などを受けに くいことから,新しい重ね合わせ手法になる可 能性と,既存の手法との併用で今までより高精 度の重ね合わせが実現できる可能性がある。

(平面のマッチング機能)

 本機能では,基準平面上に他の平面との交線 を描画した2つの交線画像(2016年度の成果で 作成)に対して,画像処理技術を利用して回転 とスケール変換を行い重ね合わせることを目的 とする。本機能では,まず各交線画像に対して,

SIFT や A-KAZE などの特徴点マッチング手法 を適用し,それぞれの画像間の対応点を複数(4 点以上)取得する。次に,それらの対応点を用 いて,最小二乗法でアフィン変換行列を求める。

最後に,求めたアフィン変換行列を用いて,画 像に回転とスケールの変換を行う。

(座標変換機能)

 本機能では,本研究の核となる複数の3次元 点群データの重ね合わせを行う。具体的な処理 の流れは下記のようになる。

1) 各3次元点群データから基準平面を抽出す る。基準平面の算出には RANSAC 法を利 用する。

2) 基準平面が Z=0の平面になるように,各 3次元点群データに平行移動と回転変換を 行う。平行移動量は,抽出した基準平面の 重心座標を利用する。回転変換量は,抽出 した基準平面の法線ベクトルとZ軸のベク トル(0,0,1)のなす角を利用して求める。

(18)

本研究では,ここまでの変換によってZ座 標の重ね合わせができているため,残りを X,Yの2次元の重ね合わせとして処理で きる点が特徴である。

3) 基準平面がZ=0となった各3次元点群デー タから,基準平面と他の平面との交線を描 画した交線画像を作成する。(2016年度の 研究成果を利用する)

 ここからは,AとBの2種類の手法について,

検討を行った。

4A) 平面のマッチング機能でアフィン行列を 求める。

5A) 3次元点群データのX,Y座標にアフィ ン行列の変換を行う。(Z座標はそのま ま)

6A)重ね合わせ基の座標系に戻す。

4B) 各3次元点群データの交線画像から共通 の交線を抽出する。抽出には,平面マッ チング機能の対応点などを利用する。

5B) 4Bの交線がX軸となるように回転変換

する。具体的には,交線とX軸の交点を 原点とするように平行移動し,X軸と交 線のなす角をマイナスの回転変換する。

6B) 4Bとは異なる交線とX軸との交点を求 め,複数の3次元点群データにおいてそ の交点が同じ座標になるようにX軸上に 全点を平行移動する。

7B)重ね合わせ基の座標系に戻す。

(まとめ)

 本研究において,各点群データの同じ位置 に点が存在するとは限らない「計測箇所の問 題」や,航空機から取得したデータと地上から 取得したデータの密度が異なる「点群密度の問 題」に依存しない共通部分を抽出できた。これ によって,今まで点と点のマッチングが主流で あった重ね合わせ手法に関して,新しい手法の 実現の可能性を示すことができた。基準平面の 選定方法や検討したA,B2つの手法間の検討 などは,今後の課題である。

社会事業の研究

―環境保全,防災,医療を中心として―

経営情報学部 准教授   福 重 八 恵 1.研究の背景

 従来,我が国おいては,防災,医療,環境保 全等の課題解決は政府や地方自治体などの公的 機関が担うものであるとする考えが根強くあっ た。しかし近年では,財政の逼迫やシステム的 な限界から,公的機関のみでは十分な対応がで きなくなっている。

 例えば,東日本大震災では,多くの自治体が 甚大な被害を受けたため,公助が十分に機能し なかった。その一方で,岩手県釜石市のように,

地域における日頃からの防災訓練の成果によっ て,中学生が小学生を助けながら的確に避難す

るなど,地域住民による共助の取り組みが大き な力を発揮した。また,阪神・淡路大震災では,

近隣住民等による救出が多数を占めたことか ら,地方のみならず都市部でも地域における共 助が注目された。

 今後,社会的課題の多様化に伴い,様々な分 野において,地域における社会事業への期待は ますます高まるものと予想される。特に,近年 多発し,甚大な被害をもたらしている自然災害 に対応する防災や環境保全,著しい人口減少と 都市圏への人口集中に伴い過疎化が進展する地 域の自立再生,医療技術の進展と高齢化により

(19)

増大する一方の医療費削減策等は喫緊の課題と なっている。

2.研究の概要

 かかる背景から,本研究では国内外における 社会事業(特に災害からの復興や環境保全,地 域の資源を活用した地方創生並びに医療観光分 野など)の諸事例を調査し,社会事業としての 展開可能性について検討するとともに,課題を 明らかにすることを試みた。

 本稿では,2013-2015年度科研基盤(C)の代 替補完医療に関する研究をベースに,2017年度 助成研究において社会事業の観点から発展させ た,地域資源の活用による医療観光事業の展開 と地方創生の分野における研究成果を中心に報 告する。

2-1.医療観光の国際的動向

 医療観光の内容は国情を反映しているため多 様な側面をもっているが,国際的に見ると大き く以下の4つに分類される。

(1)アメリカの事例

 世界各国から先進医療による治療を求めて難 病患者などが訪れる。その数は年間40万人を超 える場合もある。逆に自国の無保険者や低所得 者の患者は,治療費の安いタイやシンガポール,

インドなどの国際病院評価機構認証病院に流れ る。その場合の料金の目安は,渡航費や宿泊費 を含めた金額が,自国の治療費用の半額以下と 言われている。

(2)イギリスやフランスの事例

 税負担や企業負担の大きいヨーロッパの診療 方式では,「待機時間(治療開始までの時間)」

が長いことに加え,医療水準の低い病院に当た る可能性が高い。それを避けて,すぐに高水準 の治療を受けられるドイツやアメリカの病院を 訪れる。一般的な事例としては,歯の治療や美 容整形を目的として,治療費の安いポーランド やハンガリーを訪れる場合もある。

(3)中近東やアラブの富裕層の事例

 同時多発テロ事件以降,中東系人種が米国の

先進医療を受けることは困難となった。そのた め,中近東やアラブの富裕層は,JCI 認証病院 を数多く有するタイなどのアジア諸国を訪れる ようになった。

(4)中国やロシアの事例

 中国やロシアでは,医療サービス機関が少な いため,富裕層の一部は東南アジアをはじめと する医療機関を訪れる。この風潮に乗り遅れな いよう,韓国や台湾は国策として患者獲得に注 力している。

2-2.我が国における医療観光の取り組み

 我が国における医療観光の取り組みは,2009 年,観光庁による「インバウンド医療観光に関 する研究会」の開催を契機として始まった。そ こでは,医療観光とは,医療サービスを受ける 目的で他国を訪問し観光を行うこと,と定義さ れている。

 医療サービスには,大きく分類すると「健診」

「治療」「美容・健康増進」の3つがある。医 療機関が行う「健診」や「治療」に限定せず,「美 容・健康増進」といったサービスを広く含んで いる。

 また,近年では,地方自治体と民間団体など が連携して推進する医療観光が注目されつつあ る。

2-3.温泉資源を活用した医療観光

 中でも期待が集まるのが,温泉資源を活用し た医療観光の推進である。周知の通り,日本は 世界屈指の温泉資源を有する国である。環境省 の調査によると,2015年度の温泉地数は3,100を 超え,源泉数は約27,000本,湧出量は毎分約260 万リットル,42度以上の高温泉が源泉数の約 45%を占めている。さらに日本には,13,000も の宿泊施設数があり,収容可能人数は130万人 を超える。

 加えて,日本は世界的にも治安が良いことで 知られており,温泉資源以外にも多種多様な観 光資源を有する国である。また,近年では「お もてなし」の文化と質の高いサービスが広く知

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