発展途上国における税制 ・税務執行
栗 原 克 文
Abs t r 礼ct
Ma nyde ve l o pl ngC O unt r i e sha vei mpl e me nt e dr e f o r mst ot he i rt a x s ys t e msi no r de rt omo de r ni z et he m a ndt oc o pewi t hc ha nge si nt hes o‑
c
io‑ e c o no my. The yha vema dema j o rr e f o r msi nt he i rt a xadmi ni s t r a t i o n a swe l l .Al t ho ughc ha l l e nge sc o nc e r nl ngt a xpo l i c ys uc hc o unt r i e sf a c e va r y,t he r es e e m t obeac o mmo na ppr oa c hi nha ndl i ngr e f o r mso ft a x s ys t e m a ndadmi ni s t r a t i o n.
Tl l ea i mo ft hi sa r t i c l ei st oc l a r i f yc o mmo nc ha r a c t e r i s t i c so ft a xr e一 gi me si nde ve l o pi ngc o unt r i e sa ndc o ns i de rwhi c hdi r e c t i o nt he i rr e f o r m s ho ul dhe a dt or e a l i z epr ope rt a xa t i o na ndt oi mpr o vet a xc o mpl i a nc e.
Thec ons i de r a t i o ni nc l ude sl e s s o nsJ a panha dl e a r ne di ni t se f f o r tt o boo s tt a xc o mpl i a nc es i nc ei t si nt r oduc t i o no ft hes e l f ‑ a s s e s s me nts ys ‑ t e m i n1 9 4 7,a nds omei mpo r t a ntpo i nt si nt heSho upRe c o mme nda t i on whi c hgui de dpo s t ‑ wa rJ a pa ne s et a xs ys t e m a nda dmi ni s t r a t i on.
Tl l i sa r t i c l ea l s oc o ve r si s s ue swhi c ha r et a xa t i o no ns ma l lbus i ‑ ne s s e sunde rt hes e l f ‑ a s s e s s me nts ys t e m,r e ve nuet a r ge t ,t a xi nc e nt i ve s t oa t t r a c tf or e i gndi r ec ti nves t me nt ,t a xadmi ni s t r a t i o na nds e ve r al t o pi c si ne ac ht a x.
I nc o met a xa t i o n,l npa r t i c ul a r ,wi l li nc r e a s ei mpo r t a nc ea sapo t e n
‑t i a lr e ve nues o ur c ea ndame a s ur et oa c hi e ves oc i a le q ua l i t ywi t ht hede‑
ve l opme ntofe co nomy.I nc omet axa t i o n,ho we ve r ,i se xpec t e dt o be c o mec o mpl i c a t edc o ns i de r i nge ve rdi ve r s i f yi ngt a xpa ye r swhoa r e o bl i ge dt of i l et a xr e t ur nspr o pe r l yJnma nyc o unt r i e s ,s ma l lbus i ne s s e s e mpl o y" de e me dt a xa t i o n' 'i nwhi c l lt he yc a l c ul a t et a xa mo untbas e d o nt he i rt ur no ve ro rs c a l eo fbus i ne s sbe c a us eo ft he i ri ns uf f i c i e ntboo k‑
a c c o unt i ng.
I naddi t i o nt ot hef ac tt hatt a xs ys t em ge ne r at e sr e ve nue,i te x‑
pa ndsbus i ne s st hr o ughpr ope rboo k‑ ac c o unt i ng・Fo rt hi sr e a s o r i , c e r t a i n f o r m o fi nc e nt i ves ho ul dbec o ns i de r e dt opr o mo t eboo k‑ ke e pi ngpr a c ‑ t i c ea mo ngbus i ne s se nt i t i e s .
Enf o r c e a bi l i t ya ndec o no mi cde ve l o pme nta r ec r uc i a lf a c t o r si n r e f or mi ngt a xS ys t e m.Pr o pe rt a xs ys t e m a ndadmi ni s t r a t i o nwi l lpr o ‑ mo t eno to nl yf a i rt a xa t i onbuta l s oe c o nomi cgr o wt hi nt hede ve l o pl ng c o unt r i e s .
Keywords:t a xs ys t em; t a xa dmi ni s t r a t i o n; s e l f ‑ a s s e s s me nts ys t e m
目 次
はじめにⅠ
税収 の構成割合
Ⅱ 申告納税制度 と小規模事業者 に対す る課税
Ⅲ 徴税 目標
Ⅳ
税制上の インセンテ ィブ
Ⅴ 適正な税務執行
Ⅵ
個別税制
おわ りには じ め に
多 くの発展途上国においては,経済社会の変化 に対応 して,税制を近代化 させ るための税制改革や税務執行上の変革を行 って きている。各 々の国にお ける税制や税務執行のあ り方は様 々であるが,一方で共通する点 も多 く,課 題解決 に向けての取 り組 みは各国を通 じて共準的なアプローチやミ 当てはまる 点 も多 くみ られる。
本稿 においては,発展途上国が税制 ・税務執行 を近代化 し適正な課税 を実
現 してい く方策 について,多 くの国の共通的特徴 を整理 し,今後 目指すべ き
方向性について考察す る。多様な納税者 に正 しい申告 ・納税 を促すために,
日本は 1 9 47 年の申告納税制度導入後大 きな労苦 を経験 して きたが,発展途上 国において もこの 日本の経験が教訓 となる点 もあるため, 日本におけるコン プライアンス向上q) 取 り組み,特 に申告納税制度の定着のための取 ・ り組みや 第二次世界大戦後 に 日本の税制 ・税務行政 について勧告を行 ったシャウプ勧 告の考 え方 も勘案 しつつ,考察を加 えてい くこととする。
第 Ⅰ章 においては,貧富の差が比較的大 きい発展途上国において,関税等 に税収の多 くを依存 している状況 と, 今後の経済発展や 自由貿易の潮流の中, 所得課税の重要性が増大 してい くことが予想 され,その際,税制 ・税務執行 体制の整備が不可欠になることについて論述する。
第 Ⅱ章 においては,多 くの発展途上国で導入あ るいは導入を検討 している 申告納税制度 について,特 に小規模事業者への課税の困難性 と解決の方向, 事業者の記帳推進 について考察する。
第 Ⅲ章 においては,多 くの発展途上国が採用 している徴税 目標 について, 申告納税制度 との適合性の観点か ら論述する。
第 Ⅳ章 においては,海外 か らの投資 を誘致するための税制上の優遇措置 に ついて,その効果 と弊害 を十分に吟味することの必要性について論述す る。
第 Ⅴ章 においては,納税者の 自主的な適正 申告 ・納税の推進,ノン ・コン プライアンスへの対応等,適正な税務執行 に必要 な事項 について考察す る。
第Ⅵ章 においては,所得課税,消費課税,資産課税それぞれについて考慮 すべ き事項や今後 目指すべ き方 向性 について考察する。
Ⅰ 税収の構成割合 と所得の再分配機能
発展途上国においては,所得分配が比較的不平等である 。1 9 9 0 年代 におけ る世 界 各 国の ジ ニ係数1 の地 域 別 平 均値 をみ る と,工 業 国 ・高所 得 国 は
1 ジニ係数は,ゼ ロに近 いほ ど所得分配の平等性が高 く , 1 に近いほ ど不平等性 が高い
とい う係数であ る。
0. 3375 であ るの に対 し, ラテンア メ リカ ・カ リブ海 0. 493 1 ,サハ ラ以南 アフ リカ0. 4695 ,東 ア ジア ・太平 洋 0. 3809 とな って い る 2 。 こうした 中,所 得再 配 分 の機能 を有 す る租税 ,特 に個 々の納 税者 の担税 力 に応 じて税 負担水準 を 設 計 す る こ とが可能 な所得税 の役割 が よ り重要 とな る。
しか し,税収 の構成 割合 をみ る と,発展途上 国 におけ る所 得税 の 占め る割 合 は大 きい ものではない。発展途上 国の GDP に占め る各税 の割合 をみ る と, OECD 諸 国 に比 べ関税 の割合 が高 く,所 得税 の割合 は小 さい ( 表 1 )。 関税
に比較 的多 くの税収 を依存 してい る発展途上 国であ るが,今後 , 自由貿易 が 推進 されてい く潮流 の中,関税 率 が低下 し, また,経 済 の発展 に応 じて所得 課税 の役割 が高 ま り,関税 の租税 収入 に占め る割合 は低下 してい くこ とが予 想 され る。
租 税 収入 に 占め る関税 の割合 (1 998 年 )は, OECD 諸 国で は 1.1 % であ るの
(表
1)
GDPに占める租税収入の割合 ( 1 9 9 5 11 9 9 7
年)[ %]
1 法人税 所得税 一般消費税 個別消費税 関税 OECD 諸国( 注1 ) 3. 1 1 0. 8 ・ 6. 6 3. 6 0. 3 発展途上国( 注2 )̲ 2. 6 2. 2 3. 6 2. 4 3. 5 アフリカ 2. 4 3. 9 3. 8 2. 3 5. 1 アジア 3. 0 3. 0 3. 1 2. 2 2. 7 . 串東 3. 2 1. 3 1. 5 3. 0 4. 3
( 注 1 )チェコ,ハンガ リー,韓国,メキシコ及びポーラン ドを除 く。
( 注 2)アフリカ 8 カ国,アジア 9 カ国,中東 7 カ国,西半球諸国1 4 カ国のサンプル。
(出所)
Vi t oTa nz ia ndHo we l lH.Ze e ," Ta xPo l i c yf o rEme r g ingMa r ke t s:De ‑ ve l o pi ngCo unt r i e s' ' ,Na t i o na lTa xJ o ur na lγo l . LI I I ,No. 2( 2 0 0 0 ),p. 3 0 4・
( 原資料は,Re venueSt a t i s t i c s( OECD),Go ve r nme ntFi na nc eSt a t i s t i c s ( I MF) )
2 峯陽一 「 21 世紀世界の不平等を考える‑アマリティア ・セソの経済思想とアフリカ ー」
日本国際経済学界第6 2 回全国大会報告 ( 2 0 0 3 年 1 0 月 5 ‑ 6 日)1 4 頁。
に対 し, OECD 以外 の国 々においては 17. 7% と高 く,特 にアフ リカ諸国に おいては 37. 5% と大 きな依存割合 となっている。その割合は,経済成長 に伴 い低下 してい く債向にあ り,例 えば,アジア太平洋地域 においては,同割合 は 1 980 年 には 29. 0% であ った ものが , 1 990 年は 27. 6% , 1 998 年 には 1 9. 2% に 低下 し,また,他の地域 において も同様 に低下 している( 表 2 ) 。 日本におい て もかつては 1 5. 6% ( 1934 年度)であったが,現在 は 1. 8% ( 2006 年度当初予 寡) となっている。
( 表 2 )租税収入 に占め る関税の割合 [ %]
地 域 1 9 80 年 1 9 9 0 年 1 9 9 8 年
OECD 4. 7 2. 7 1. 1
OECD 以外 2 4. 2 2 0. 5 1 7. 7 .
アフ リカ 3 8. 6 31. 9 37. 5
アジア太平洋 2 9. 0 2 7. 6 i 9. 2
中東 31. 7 2 8. 9 2 5. 2
( 出所) Mi c hae lKe e n( e d. )̀ ̀ cha ngi ngCus t o ms:Cha l l e ngea ndSt r a t e gi e sf o rt he Re f o r m o fCus t o msAdmi ni s t r a t i on' ' ,I MF,P6( 2 0 0 3 )
関税への依存割合の低下 に伴い税収の中心 とな ってい く租税 は,個人や法 人の所得税及び付加価値税 とい うことになろう 。 特 に個人及び法人に対す る 所得税は,経済が成長 してい く中,企業や個人事業者の利益又は所得の増大
に伴い,租税の中心的な役割を果た してい く可能性があ り,税収ポテンシ ャ ルが大 きい ものである。
一方,今後 ,経済発展が進む とその初期段階では所得分配の不平等度が拡 大 してい くことが予想 され る 3 。所得税の重要な機能 としては,累進所得税
3
クズネ ッツ仮説 (逆U
字仮説)では,経済発展 の初期段階では所得分配の不平等度 が 拡大 し,経済発展 が よ り一層進 む と不平等度 は逆 に縮小 し始 め る とい う慣 向があ る とさ れ る。率や個人 ご との状況を勘案 した きめ細 かい制度設計 により,所得の再配分機 能 を活用することが可能になることである。 したがって,所得分配の不平等 の拡大を所得税の もつ再配分機能で補 ってい くことが有効 と考 えられる 4。
しかしなが ら,多 くの発展途上国においては,所得税の この利点を十分 に 生か していない と思われ る。税収全体に占める所得税収の割合は低 く,また, 所得税納税者の範囲が狭い もの となってお り,所得税の納税義務者がご く一 部の者 に限定 されていることが多いためである。
貧富の差が大 きい状況の下で,所得再配分のために税制の果たす役割は よ り重要であ り,制度上及び税務執行上,高所得者か ら的確 に徴税で きる仕組 み及び体制 になっているか とい う点に注視 してい く必要がある。多 くの免税 や優遇措置 により,高所得者層 に対す る課税ベースが狭め られ,垂直的公平 を損なっている面がないかを考慮 していかなければな らない。一方,必要な 税収確保,社会的な公平性,あるいは社会の運営 コス トを皆で負担 してい く
とい う観点か らは,平均的な所得を有す る大多数の者 にも応分の負担 を求め てい くことも重要であ り,課税ベースを拡大 し, よ り多 くの納税者か ら租税 を適正かつ公正 に徴収で きる仕組みをいかに構築 してい くかが課題 となる。
税務執行上 においては,多 くの国において,税収 に占める納税額の割合が 大 きい大企業及び外資系企業 に対する担 当部署が存在するが,一方で,個人 納税者に対す る課税が適正 に行われることが公平性の観点か ら重要である。
所得 に対する課税,特 に小規模事業者 に対する課税 は税務執行上の困難度が より大 き く,今後,所得税の課税ベースを拡大 してい く一方で,所得税を適 正 に徴収するためには様 々な制度上,税務執行上の工夫が必要 となろう。
4 もちろん社会保障その他の歳 出面での所得再配分 も重要である。
Ⅱ
申告納税制度 と小規模事業者に対する課税
A 申告納税制度の導入
現在,多 くの発展途上国において申告納税制度が導入されてお り,導入 し ていない国において もその導入が検討 されている 5 。
申告納税制度は,納税者が 自ら税額 を計算 した上で,税務当局に対 して申
5 例 えば,アジア諸国において,申告納税制度の導入 と定着 に取 り組 んでいる国,ある いは導入を検討 している国の状況 と課題 については ,As i aDe ve l o pme ntBa nkI ns t i t ut e
( AD BI ) " Ta xAdmi ni s t r a t i o n2 0 06Summa r yRe por t "2ト2 3Ma r c h2 0 06( ADBI ホーム ページ: ht t p: / / www. a dbi . o r g/ f i l e s / 2 0 0 6. 03. 2 0. c pp. t a xa dmi ni s t r a t i on. 2 0 0 6. s umma r y.
pdf ) に,以下の ように記述 されている。 ( 筆者仮訳)
「マ レーシアにおいては ,2 0 01 年 に法人 に導入 した申告納税制度 を 2 0 0 4 年 に個人 にも拡 大 したo 申告納税制度 は税務行政の効率化 に資す る面 があ る一方で,小規模事業者への 対応が大 きなチ ャレンジであ る。その定着のため,税法や手続 きの明確化のためのパブ リック ・ルー リング,税務執行手続 きの効率化,新 コン ピュー タ ・システムの開発,租 税教育,納税者サービスの向上に取 り組んでいる。
ベ トナムにおいては ,2 00 4 年 か ら申告納税制度の試行を実施 し,徐 々にその対象を拡 大 しているが,特 に
, (a)納税者サービス
, (b)申告書の処理 と納付
, (C)租税滞納の徴収 事務,及び ( d) 税務調査の面で税務執行の抜本的改革を実施 している。上記 4 つの機能を 勘案 し組織再編 も実施 しているところである。
カンボジアにおいては ,2 年間の試行 を経て ,1 9 9 4 年 に首都プノンペンにおいて申告納 税制度 ( Re a lRe gi me) を導入 したが,小規模納税者 については, 、賦課課税制度 ( Es t i ‑ ma t e dRe gi me ) を適用 してい る 。 ( a ) 納税者サービスによる自主 申告の インセンテ ィブ
向上
, (b)記帳の奨励 , ( C ) 小規模事業者 に関す る環境整備
, (d)調査の充実, ( e) エソフ ォースメソ ト活動の強化,( f )人材育成 に取 り組んでいる。
ラオスにおいては,大規模 ,中規模納税者 には申告納税制度が適用 され,小規模納税 者 には Co nt r ac t による方式 ( 売上高に基づ く総利益の推計)を採 っている。 申告納税制 度の下でのチ ャレンジは,税務執行の専門性 を高めること,脱税への対応,人材育成, I T の活用である。
現在賦課課税制度を適用 しているミャンマーは,申告納税制度の導入 も検討 している。
また,現在の商業税 を付加価値税 に リプ レースす ることも検討中であ る。納税者への広
報や,コンピュータ ・システム,税制の簡素化,情報の活用な どが課題である。 」
告及び納税 を行 うものであ る。 この制度は,納税者が 自ら税額を計算 ・確定 し,社会の運営 コス トを負担するとい う考 え方が根底 にあ り,申告及び納税 の手続 きに関す る変更に止ま らず, よ り民主的な国家運営,税制の構築 とも 適合 しやすい もの と考 え られ る6 。多 くの納税者が 自主的に納税義務 を履行 するとともに,税務当局の人的資源をよ り有効な分野 に配分することがで き れば,税務行政 を効率化 させ,課税の公平 につなが り,税収の増加をもた ら す ことが期待で きる。
賦課課税制度 を採用 して きた国において,課税ベースの拡大,納税義務者 の増加 によ り,すべての情報 申告を税務 当局が事前 に査定 して,納税義務者 に課税額 を通知することが困難 になった ことが,申告納税制度へ移行する国 が多 くなって きた ことの一因 と考 えられ る。
日本 においては,第二次世界大戦後 ,1 9 4 7 年 に抜本的な税制改革 が行われ た。特 に,それまでの賦課課税制度か ら申告納税制度への変更は,それまで 記帳慣習の乏 しい小規模事業者,特 に個人事業者 について も自らの所得を計 算 し,申告及び納税する仕組 みへの変更であ り,混乱 も大 きかった。
それまでの賦課課税方式は,税務署長が前年の所得 に基づ き算 出した税額 を納税者 に通知 して, 納税者は通知 された税額を納める とい うものであった。
戦後の超 インフ レーシ ョンの下,前年の所得 に基づ く課税では十分な歳入を 確保することが困難 とな り,また,課税最低限の実質的な低下 により,給与 所得者等 に大 きな負担感を感 じさせた。一方,補足が困難な闇経済の存在が 不公平感を増大 させた。
申告納税制度が導入される と,納税者 自身が当年の所得を把握 して,その 所得 に基づいた税額を計算 し,その税額を 自主的に納付 しなければな らな く なった。 しか しこの方式は,納税者 に とっては帳簿をつける習慣が少な く,
6 金子宏教授 は 「この制度は,納税者が 自分の税額 を 自ら計算 し納付す る制度であ るた め,民主的な租税思想 にふさわ しい ものである と考 え られた。」 と述べている 。( 『 租税法
( 第十一版) 』6 1 頁 ( 弘文堂 ,2 0 0 6
年)正確な申告をすることが困難であ り,税務職員に とって も新 しい制度 に不慣 れであったため,結果 として大量の無 申告や過少 申告が相次いだ。 日本にお ける申告納税制度は, この ような混乱か ら始 ま り,制度の定着 に向けて試行 錯誤が続 いた。
申告納税制度の下で,申告か ら納税 までの手順をいかに組み立てるかにつ いては多様な方法があるが,納税者が税制 に対する正 しい知識を持ち 自発的 に正 しい申告を行 えるような環境 を整 えてい くことが重要である。
税務当局 に とって,申告納税制度の導入は,納税者の納税手続 きや税務執 行の方法の大 きな変更を伴 うものであるため,組織の再編 ,コンピュータ ・
システムの充実,職員の育成な どが大 きな課題 となる。納税者が 自主的に適 正な申告 を行 うよう, 税務当局は納税者サービスや広報 に努める必要がある。
また,申告納税制度の下では,納税者の申告 により納税額が一次的に確定す るため,納税者の申告内容の誤 りを正すには,申告後の税務調査 を充実 させ ることが重要 になる。そ こで,申告後の税務調査の分野への よ り多 くの人員 の投入,調査 に必要な情報のデー タベース ・システムの構築,多様な納税者 に対応 した税務調査の体制,職員の能力向上 な ど,様 々な取 り組みが欠かせ ない 7 。
納税者 ,特 に事業者が申告納税義務 を適正 に履行するためには,事業者の 記帳や税額計算,税務書類の作成 を行 う税務専門家の役割 も重要であ り,そ の役割,資格,責務 を明確 にしてい くことも有益である。
B 小規模事業者に対する課税 と記帳の推進
申告納税制度は,大規模事業者 については帳簿が既 に存在 してお り,税務 7 I MF の Ca r l o sSi l va ni 氏 と Ka t he r i neBa e r 氏は,自発的 コンプライアンス と申告納税 制度は現代的税務行政の基礎である と述べ,申告納税制度 に重要 な事項 として次の 4 項 目を掲 げてい る。 ( 1 ) 納税者 に納税義務 と権利 を理解 させ る納税者サービス,( 2 ) 簡便な 手続 き , ( 3) 強力かつ公平なペナルテ ィ,( 4 ) 効果的なエソフ ォースメソ ト ・プログラムO
( I MFWo r ki ngPa pe r ,Ma r c h1 9 9 7,p1 2. )
専門家の活用な どによ り比較的円滑 に導入 していけると考 え られる。一方, 多 くの小規模事業者は,適正な帳簿を作成 してお らず,また,税務専門家に 記帳や税務 申告を依頼する資力にも乏 しいため,全ての個人を対象 として申 告納税制度 を導入 した場合には,記帳慣習に乏 しい小規模事業者の適正 申告 の確保 は,税務当局 に とって より困難な課題 となる。
事業規模 が一定規模以上の事業者は実額 により申告及び納税を行 う一万,
‑定規模以下の個人事業者に対 しては,収入金額の一定割合を課税所得 とみ な して一定額 を徴収す る方式 ( 以下 「みな し課税」 という。)を採用 してい る国が多い 8 。 このみな し課税方式を採用 している場合,収入金額の把握は, 事業規模 な どか ら推計 している・ 。 また, ト 前年の納税額 を基礎 として納税額 を 算定 している国 もあ る 9 。
小規模事業者 に対 して,所得税又は法人税 と付加価値税 とを区別せずに, 一体 として収入金額 に基づ く事業利益税 ともいえる統一の税 としている国 も 多 く見 られる。.さらには所得税又は法人税や付加価値税以外の様 々な税 も含
8 例 えば,ベ トナムにおいては記帳が行われていない ような中小事業者 については,外 形的な事業規模 に応 じた一定額の資本税 と法人所得税 ・付加価値税 を合わせた統一的な 事業税 が業種 によ り異な る利益率 に よ り算 出され る。 ( 玉川雅之 ・栗原克文 「国税庁 ・ J I CA のベ トナム税務行政整備支援プロジ ェク トについて」フ ァイナンス 2 0 0 6 年 1 月号, 4 6 ‑ 4 7 頁) ラオスにおいては,帳簿の存在 しない事業者 について,売上げをベース として 業種 により異なるみな し利益率が適用 され,事業利益税が計算 されるC ( 玉川雅之 ・鈴木 孝直 ・酒井克彦 「ラオスの税制 と税務行政 ‑ラオス税務行政実務研修 を終 えて ‑」 フ ァ イナンス 2 0 0 6 年 4 月号 ,2 0 頁。 ) イン ドにおいては,課税ベースを拡大 し,納税者の信頼 向上 のために,小規模の家族経営の事業者 を対象 として∴課税所得q) みな し課税 と簡便 な納税方法 を選択. で きる制度 を 1 992 年 に導 入 した 。 ( Sur es hN・She nde , " I nf or mal Ec o no my.TheSpe c i alTa xRe gi mef o rSma l la ndMi c r oBus i ne s s:De s i gna ndi m‑
pl e me nt a t i o n' ' ,Uni t e dNa t i o ns, 2 0 0 2,pp. 2 0 ‑ 2 2. )
9 Ri c ha r dM.Bi r d 教授は この方式を,少な くとも前年並みの税収を確保するとい う意味 で " bac k‑ ups ys t e m' 'として説明している 。 ( Ri c ha r dM.Bi r d , " Ad mi ni s t r a t i veDi me n‑
s i o nso fTa xRe f o r m " ,Pa pe rf o rac o ur s eo nPr a c t i c a lI s s ue so fTa xPo l i c yi nDe ve l o pl ng
Co unt r i e s ,Wo r l dBa nk,Apr i l2 8 ‑ Ma y1 ,2 0 0 3 ,p1 9. )
めて一体 とした統一税 としている国 もあ る。 (この ようなみな し課税や統一 税 の仕組 みは, Es t i ma t eRegi me,Si ngl eTa x,Speci alTa xRe gi me , Pr e s umpt i veTa xa t i o n,Co mpo s i t eTa xa t i o n な どと呼ばれ る・ 。) こうした小規 模事業者 に対す るみな し課税は,公平性 ,コソブライアンス ・コス ト及び執 行可能性 との較量の うえで,現実的なアプローチ として容認 されるものであ
ろう 1 0 。
ただ し, この ような小規模事業者 にも記帳を普及 させ,申告納税制度の も とで実額 に基づ く課税を推進 してい くべ きである。みな し課税 による場合 も, 記帳を促 しで きるだけ実額計算へ移行 させてい くためには,様 々な工夫を必 要 とす るが,制度上,みな し利益率を低すぎる割合に設定すべ きではない。
みな し利益率が実額 による所得税,付加価値税の計算 よりも優遇 されている と記帳制度は普及 していかない
からである。
しか し,多 くの国においては,小規模事業者のみな し課税 に よる税額は, 実額計算 により本来納めるべ き税額 よ り少な くなっていることが指摘 されて い る 1 1 。発展途上 国の小規模納税者 に焦点をあてた研究を した I MF の Pa r ‑ t ha s a r a t hiSho me 氏は,小規模納税者 の負担水準 について以下の ように述べ ている 1 2。
「アジアや ラテン ・アメ リカにおいて,小中規模の納税者はおそ らく全体 の 4 分の 1にも及ぶ ような税収へ貢献す る潜在力を秘めてい るにもかかわ
1 0 発展途上 国 8 カ国の税制改革 を分析 した研究 による と,税制改正の成功 には執行の容 易性が重要であ り,執行上の制約 を緩和 し,税務執行の向上 に役立 った成功例 として, 銀行 を経 由 しての納税,源泉徴収制度の活用 による申告件数の減少,みな し課税方式の 活用の 3 つを挙げている 。( Wa yneThi r s k , ̀ ̀ ove r vi e w:TheSubs t a nc ea ndPr o c e s so f Ta xRe f o r m i nEi ghtDe ve l o pi ngCo unt r i e s ' ' ,i nWa yneThi r s k( e d. ) , " Ta xRe f o r m i n De ve l o pi ngCo unt r i e s ' ' ,Wo r l dBa nk,1 9 9 9,p. 1 8
.)11
その結果,大規模事業者 により多 くの税負担が課せ られることになる。
1 2 Pa r t ha s a r a t hiSho ne , " Ta xAdmi ni s t r a t i o na ndt heSma l lTa xpa ye r ' ' ,I MFPo l i c y
Di s c us s i o nPa pe r ,Ma y2 0 0 4,pp2 7 ‑ 2 8.
らず,みな し課税 による ̀ ̀ si n g l eTa x" により彼 らの税負担 は大 き く軽減 され,理論的に負担すべ き税額 に見合 うだけの納税 を行 っていない。また, 中小規模の事業者が優遇 されたみな し課税方式か ら実額計算へ移行するこ
とを梼跨 していることが,経済成長の妨げにもな っている。」
みな し課税 による税負担 を優遇 された もの とす ると,帳簿を作成 して実額 により所得計算 し申告 してい くインセンテ ィブが働 かないことになる。そ こ で,みな し課税 により税負担が軽減 されないようにしてい く一方,記帳に対
して特典を与 えることにより,みな し課税 を行 っている者が実額計算へ移行 してい くよう促 してい くことが有効である。実額計算を優遇す ることは,衣 な し課税 によ りコンプライアンスコス トが低 く抑 え られているのであるか ら 許容 されるものであろう 1 3。
日本においては,正 しい帳簿を作成 している者へ優遇措置を与 える青色 申 告制度が記帳の推進 に貢献 して きた 。1 9 4 7 年 に申告納税制度が導入 された当 時,個人事業者 には,記帳,帳簿保存な どの慣行がほ とん どなかった。 日本 において第二次世界大戦後の混乱期に税制 についての勧告を行 ったシ ャウプ 勧告は,当時の状況 について , 「申告納税制度の下 における適正 な納税者の 協 力は,かれが 自分の所得 を算定するため正確な帳簿 と記録をつける場合 に のみ可能である とい うことは 自明の理である。今 日, 日本における記帳は既 嘆すべ き状態 にある。多 くの営利企業では帳簿記録 を全然 もたない。他の会 社 は有 り余 る程沢山た くさんもっていて,その納税者のみが どれが本当の も ので どれが仮面 に過 ぎない ものかを知 ってい る。 その結果 は悪循環 とな
1 3 税制調査会基礎問題小委員会の 「 個人所得課税 に関する論点整理」( 平成 1 7 年 6 月21 日)
の中では,事業所得 について
,「 売上げ,必要経費の記帳に基づ く申告納税の趣 旨の重要
性を再認識す る必要があ る。簡易な税制 を構築す る狙 いか ら,事業所得 に関 しては,実
額での必要経費は正 しい記帳 に基づ く場合のみ認め ることとし,そ うでない場合 には一
定の 「 概算控除」のみ認めるとの仕組みを導入することも考 えられ よう。」 とされてお り,
一定の概算控除は実額での必要経費 よりも低い水準 とすべ きと理解で きる。
る。・‑ この悪循環 は切断 しなければな らない 。1 4 」 とし,記帳 に対 して優 遇措置 を与 える青色 申告制度 を勧告 した。 この勧告を受け1 9 5 0 年 に青色申告 制度が導入された。青色 申告制度 とは,帳簿 に基づいて正 しい申告 をする者 については,損失の繰越控除な ど所得計算上有利な取 り扱 いが受け られる制 度であ り,申告納税制度の定着 につながった。
1 95 0 年 に青色 申告制度が創設 された時点で,個人の青色 申告者数は1 1 万人 で青色 申告者の割合は 4 % であった。その後の税制改正で,青色 申告者 に一 層の優遇措置を与 え,1 952 年 には青色申告者 に限 り事業 に専従する家族への 給与を経費 とで きる制度を創設 し ,1 953 年 に小規模事業者 に簡易簿記 による 記帳を認め る制度 を導入 した。 これによ り,前 々年 の所得が 1 00 万 円以下の 小規模事業者は,正規の簿記の原則 ( 複式簿記)に従 った帳簿でな くて も, 現金出納帳な どの損益計算が可能 となる程度の簡易簿記 による記帳を してい れば,青色 申告を選択することがで きることとなった 1 5 。
国税庁 において も,簡易簿記の標準様式を公開 し,広報活動を推進 してい った結果,1 953 年以降青色 申告者数は大 き く増加 していった ( 表 3 ) 0
(表
3
)個人の青色申告者数 と青色申告者の割合1 6
午 青色 申告者数 青色 申告者割合
1 9 5 0
年1
1万人40 0 1 9 5 5
年5 2
万人3 2 % 1 9 6 0
年5 8
万人3 3 % 1 9 6 5
年7 9
万人4 8 %
1 4 シャウプ使節団 「日本税制報告書」附録巻 ⅣD5 6 頁。
1 5 簡易な簿記 とは,現金 出納帳,売掛帳,買掛帳,経費帳,固定資産台帳及びその他必 要な帳簿により,収入,必要経費を中心に記録するものであ る。
1 6 国税庁統計
この ように 日本において青色 申告が急速 に広 まっていった要因の一 つ とし て,記帳 に対する優遇措置があげ られる。特 に,簡易簿記制度は正規の簿記 の原則 に従 った帳簿を作成することが困難な小規模事業者 に とって も作成可 能な帳簿であ り,発展途上国において も,記帳の普及のために簡易の簿記 に
よる帳簿作成の仕組 みを構築す ることは一案であろう 。
小規模事業者の事業の成長は,経済発展の原動力であ る。記帳は税務上の 必要性か らだけではな く,帳簿 により事業の内容を分析 し,事業の発展のた めの方策 を考 えることが可能 となる。 日本が高度成長を遂げた背景の一つ と
して,第二次世界大戦後,多 くの事業者が記帳を行い,それに基づ き事業を 分析 した ことが事業の発展 につながっていった ことが考 えられる。
I MF の Par t has a r at hiShome 氏は,ブ ラジル ,中国, イン ドの産業別
GDP 構成の推移 を分析 し,いずれの国において も,小規模事業者 が多い と 見込 まれるサービスセクターが大 きく成長 してお り,小規模事業者が市場原 理 に基づ き事業規模 を拡大 してい くことを阻害せず,サポー トしてい くこと が重要であ り,また,その一方で小規模事業者 も応分の税負担 を負 うべ きと している1 7 。 こうした観点か ら,個 々の事業の発展,さ らには国の経済成長 のためにも,小規模事業者の記帳普及は重要性が大 きい。 また,税制は事業 の発展を阻害することのないように策定 してい くべ きである。一定規模以下 の小規模事業者が有利なみな し課税 を選択可能 とすると,事業者が事業規模 を一定規模以下 に抑 えることにもつなが り,マ クロ面か らみた資源の再配分 が非効率な もの とな って しまう。
帳簿の普及を奨励 してい くためには,税務当局のみではな く,税務専門家 や民間セ クターの協力 も不可欠である。税務専門家や民間セクターの適正 申 告 に向けての協力は,適正な税務 申告のみではな く,記帳水準の向上 を通 じ た健全な事業経営 . の観点か ら推進 してい くべ きであろう。
日本 においては,申告納税制度の確立 と発展のため,各分野において民間
1 7 Pa r t h a s a r a t hiSho ne ,S up r ano t e. 1 2 ,p7.
の納税協 力団体が創設 され,それぞれ 自主的に記帳や適正 申告 を奨励す る全 国的な活動 を展開 していった。
経済的混乱の下,滞納額 が逐年累増 し税収確保 が容易な らざる状況 に陥 っ た ことか ら ,1 9 51 年 に納税貯蓄組合法が制定 された。納税貯蓄組合 において は,納税準備預金制度 を活用 して納税資金を貯蓄 し, これを取 りま とめて納 税 するな どの活動 を行 った。
また ,1 9 5 0 年 の青色 申告制度導 入 と同時 に , 「自ら記帳 の勉強 を し税務 と 経営q) 健全化 を図ってい くことが申告納税制度 を定着 させ る上で有意義」 と の認識の下 ,青色 申告者が集 い,青色 申告会が結成 された。そのほか,法人 企業の適正な申告納税制度の確立 と納税意識の高揚 を 目的 とした法人会 が全 国に設立 された。 こうした民間セ クターにおけ る活動 が納税 コンプライアン スの向上 に大 きな役割 を果た して きた。
納税者本人が税務書類 を作成で きなければ,税理士 に依頼す ることにな る が ,1 9 51 年 に税理士法 が制定 され,税理士の業務 の適正な執行のため試験制 度 と登録制度が採用 された。 この税理士法は,無料であ って も税務書類 の作 成,相談 は税理士 しかで きない とい う権限を税理士 に与 える一方,税理士 に は納税義務 の適正な実現 を図 る使命 が課 されてい る̀( 税理士法第一条)。現 在約 6 9, 0 0 0 名の税理士 がお り,申告納税制度 を支 えている。税理士が納税者
の記帳 を促す ことが,経営の近代化 にもつなが って きた といえよう。
発展途上 国においては,各国 とも公認会計士制度はあ るものの,税務専 門 家の役割,責務等 を明確 に位置づけてはいない。記帳の推進 ,適正な申告 に は税務 当局のみの取 り組 みでは限界 があるため,税務専門家 の位置づけを明 確 にした上 で,税務専 門家の協力に よる記帳推進 の取 り組 みを高めてい くこ
とが有益であろう。
Ⅲ 微 税 目 標
発展途上国の中には,徴税 目標 ( Re v e nueTa r g e t ) を設定 している国が 少な くない。徴税 目標制度は,国民総生産の予測値 に対する一定割合な どを 徴税額の 目標 として設定 し,それを達成す るように努める歳入管理の方法で ある。
日本 において も,徴収 目標 を設定 していた時期がある 。1 9 4 7 年 に申告納税 制度が導入されたが,当初連合国司令部は,全国の税務署に徴税 目標額 と割 当額 を示 して徴税の強化 を指示 した。 この割当課税は,財務局が,税務署 ご とに業態別の課税すべ き人数,一人あた りの平均所得額の 目標 を示 し,税務 署では,机上で所得の見込み額 を推計 し,大量の更正 ・決定を行 うとい う方 法であった。税務署長 には, 目標 を達成で きなかった場合 には厳 しい懲戒, 達成 した場合には報償が与 え られた。その結果 ,1 9 4 7 年 1 2 月末の徴税成果が 目標の 3 4 % だった ものが,その後 の 3 ヶ月で 1 1 0 % に高ま り,予算を達成 した。
しか しなが ら,個 々の納税者 に とってみれば,調査 に基づかない大雑把な推 計課税 となっていたため,納税者 か ら大量の異議 申し立てがなされ,また, 各地で反税運動が展開された。 この徴税 目標 については,その後, 日本の税 制 ・税務行政のあ り方をま とめたシャウプ勧告で強 く反対 され,短期間で廃 止 されることになった。
徴税 目標の達成 に固執するあま り,法に基づかない課税 をすることになれ ば,納税者の信頼 を欠 くことになる。業種 ,地域 ご との割当的な課税 を実施 する と,課税額が本来納付すべ き税額 よ り過大であって も,あるいは過少で あって も,課税の公平を損ない,納税者の税務当局への信頼を欠 くことにな る。シ ャウプ勧告 は , 「自発的な申告納税 は納税者の正確 な所得の確定を 目 指 している。その根本原理は,いわゆる 『目標額制度』 と対照的な ものであ
る 。 ‑ ・目標額制度 は所得税,法人税の徴収が完全 に崩壊するのを防止する
には当初は必要であったかもしれない。 しかし, これをやめるのでなければ
健全な税務行政の出現は望めない。」 としている 1 8 。 申告納税制度の下 では, 徴収 目標は 「 税収見積 も り」 と 「 税務調査 による追徴税額」の管理 に置 き換
えた上で,納税者 自らが税法 に基づ き適正 申告を行 う環境を整備 してい くべ きであろう。
Ⅳ
税制上のインセ ンテ ィブ措置
多 くの発展途上国では,各種の投資優遇税制を導入 している。経済発展の ため,国内の貯蓄不足 を補 うため,あるいは先端技術の習得等のために海外 か らの投資は有益な ものであ り,外国資本を呼び込む ことを 目的 として,タ
ックス ・ホ リデー ( 課税猶予措置),税率の低減,減価償却 に関す る特別償 却措置等のインセンティブ措置が設定 されているが,外国投資を呼び込むの に どれだけ効果があるかは必ず しも明確 ではない。 トロン ト大学の Ri c ha r d Bi r d 教授は , 「 多 くの研究 によると,投資の レベルはタックス ・インセンテ
ィブにさほ どセンシティブでないことを示 している。」 と述べている 1 9 0 また,租税政策 とアジア危機 について分析 した I MF の Da vi dC. L . Ne l l o r 氏は , 「イン ドネシアにおいては,外 国か らの資本 に対 して特別 な取 り扱い を しなかったに もかかわ らず,短期資本の大量の流入があった ことや,外国 資本 を呼び込むため多様なインセンテ ィブを設けていたフィリピンにおいて は,資本の流出入の変動はさほ ど大 き くなかった ことか ら,税制上のインセ ンテ ィブは資本流入の大 きな要因ではなかったのではないか。」 と述べてい
る 20 。
1 8 シ ャウプ勧告 前掲注1 4,巻 ⅣD5 貢。
1 9 Ri c ha r dM. Bi r da ndOl i ve rOl dma n
,̀ ̀ Ta xa t i o ni nDe ve l o pi ngCo u
ntries " ,J o hnsHop‑
ki nsUni ve r s i t yPr e s s,1 9 9 0,p. 1 3 0.
2 0 Da vi d C・ L Ne l l o r , " Ta xPo l i c ya ndt heAs i a nCr i s i s" ,I MFPo l i c yDi s c us s i o nPa pe r ,
Fe br ua r y1 9 9 9,p. 1 0a ndp. 1 5.
外国か らの直接投資を促進 させるには,税制 も投資先決定の一つの要因で はあろうが,多 くの要因の中の一要素 にしか過 ぎない。外国投資を促進する には,優遇税制だけではな く, ( a) 政治,社会 の安定 , ( b) 質 が高 く安価 な 労働 力, ( C) 社会的 インフラの整備 , ( d) 国内市場 の規模や市場 へのアクセ スの容易さ , ( e) 安定 した経済 ,為替相場の安定性, ( f ) 安定性 ・透明性のあ る法制度な ど,多 くの要因が考 え られる。
税制上のインセンテ ィブ措置は,一定の効果 をもた らす可能性がある一方 で,以下の ような困難な問題を惹起する可能性 もある。
( a)外 国資本 と国内資本 との競争上の差 が問題 にな り,不公平 を生 じる。
(したがって国内市場 とは切 り離 してオフシ ョア市場のみ認めているこ ともあ る。)
( b) 国内資本であ りなが ら,外国資本 と仮装す る可能性があ る。
( C)優遇措置の適用要件 を詳細に定めることになることが多 く,税制が複雑 にな り,税務執行の困難度が増加する。
( d)優遇措置を一度設定する と,それを廃止することが困難 となる。
( e) 資源の配分が非効率 になる。
外国資本のみを優遇す るよりも, 簡素で安定 した分か りやすい税制 により, 全ての納税者 に対する公平性を高めていき, 透明な課税ルール及び税務執行, 予測可能性の向上 ( 一定の取引を行 った場合の課税関係が明確 になっている
こと),不服 申立てや租税訴訟の機会及びその判断が適切 に行 われ るこ とな ど納税者の権利が確保 されることが より重要 と思われる。
特 に,政府 に対する信顔が必ず しも高 くない国においては,法に基づいた 適正な課税 は信頼確保のために不可欠である。税務当局の裁量的な課税では な く,納税者への説 明責任を十分に果た し,法 に基づいた課税 を徹底 してい
くことが重要 である。
特定の産業 を育成す るために特定業種 を対象 とした優遇措置 について も, .
課税ベースの縮小,財政収入の縮減,投資の非効率な分配,租税回避 の助長,
水平的公平の阻害 といった弊害をもた らす可能性がある。 これを是正 してい くことが,税制の簡素化,事業活動の経済的中立性,公平性の向上 に資す る ことになろう 21 。 したがって, タックス ・ホ リデーや特定業種 を対象 とした 優遇措置 をは じめ とした税制上の インセン テ ィブ措置 を仮 に設 ける として ち,その対象,効果,内国企業や他業種企業 との公平性な ど,優遇措置の効 果 と弊害 とを慎重 に吟味 し,また,期限を設定するな どの方策 ( Exi tPo l i c y)
まで考慮 に入れた検討が必要であろ う 2 2
。OECD の レポー トにおいて も,各 国の状況によ りインセンテ ィブの効果は異なるが,政策決定者は,その導入 に当たって,投資を阻害 している障害は何か,それ らは税制上の インセンテ ィブにより, コス トを抑 えつつ是正す ることが可能かを十分 に吟味すべ きと している 2 3 。
21 政府税制調査会 「 我が国税制の現状 と課題 ‑21 世紀に向けた国民の参加 と選択
‑」 ( 平
成1 2 年 7
月1 4 日)では,租税特別措置法 による税制上の優遇措置 について,「 租税特別措 置等 については,そ もそ もその特定の政策 目的 自体 に国民的合意があ るの か どうか,政 策手段 として税制を用いることが本当にふさわ しいのか どうか,『 公平 ・中立 ・簡素』 と い う原則 よ り優先 してまで講 じるだけの政策効果があるのか どうか,政府 による裁量的 な政策誘導にな りは しないかな どについて,慎重な検討が求め られますOまた,公的サー ビスの提供 に必要な租税 の量を一定 とすれば,特定 の人 々に対す る負担軽減 は他の人 々 の負担増加 につながるもq) であ ることも忘れてはな りません。租税特別措置等 について すべてを不合理 と断 じるわけにはい きませんが,税制 に よって経済社会 を誘導 しようと す ることには 自ず と限界があ ります。 また,一旦優遇措置が講 じられ る とそれが既得権 益化 し,政策効果の再検討が十分行われないまま優遇措置が長 く継続 して しま うことに な りがちです。租税特別措置等 については,以上の ような観点か ら,今後,そのあ り方 を見直 してい く必要があ ります。 」 とされている。
22 優遇措置の効果 と弊害 を含め, 8 カ国の発展途上 国の税制改正 を考察 し,その改正 の 一般的傾 向を分析 し,途上 国の税制改正 にあた ってq) 留意事項 を示 した もの として次の 文献 を参照 ( Wa yneThi r s k ," Ove r vi e w:TheSubs t i t ut ea ndPr oc e s so fTa x汝e f o r m i n Ei ghtDe ve l o pi ngCo unt r i e s' ' ,i n " Ta xRe f o r m i nDe ve l o pi ngCo unt r i e s " ,TheWo r l d Ba nk,1 99 7 ,pp. ト32. )
23 0ECD" Co r po r a t eTa xI nc e nt i ve sf o rFo r e l gnDi r e c tI nve s t me nt " , Ta xPo l i c ySt udi e s
,20 01.
仮 にインセンテ ィブ措置を導入する場合には,タックス ・ホ リデー よ りも 投資控除 ( Ⅰ nve s t me ntAl l o wa nc e ) ,投資税額控除あるいは加速度償却の方
が望ましいであろう 。 投資控除や投資税額控除は,特定のタイプの投資を促 進 し,透 明性 にも優れている。ただ し,投資選択のデ ィス トーシ ョンを招 く
ことや,優遇措置の適用可能企業が適用対象外企業 に代わって資産 を取得 し 制度を悪用する可能性な どの問題点 もあることに留意が必要である 2 4 。また, 加速度償却 は,優遇 された税額は後年度に回収 されるため財政負担が よ り少 ない,期間が限定 されている場合には短期間に投資を拡大 させ る効果があ る
といったメ リッ トがあ り,問題点が少ない との指摘 もある 2 5 。
Ⅴ 適正 な税務執行
発展途上 国において税務執行上取 り組むべ き課題は多岐にわたるが,中で も納税者の適正 申告 ・納税のための環境整備,税務調査な どノン ・コンプラ イアンスへの対応 ,I T( I n f o r ma t i o nTe c hno l o g y) の活用 と税務職員の育成 な どが重要である。
A 納税者の 自主的な申告及び納税の推進
申告納税制度の下 においては, 納税者が租税の意義や役割を正 し く認識 し,
2 4 1 9 9 7 年 か らのアジア危機 と租税政策の関係を,グローバ) I / 化 と情報技術の進展の観点 か ら分析 した研究 による と,「グローバ) I / 化 によ り資本に対する課税が困難 にな り,可動 性の高い資本 に対す る税 の減免措置が各種創設 されることになったが, こうしたデ ィス トーシ ョンを排除 してい くことが,持続あ る成長 に不可欠であ る。特 に,各種の税の免 除は,課税所得や控除可能な経費 を操作す ることにつなが り,税 の抜け道 を拡大 し税務 執行の困難性を増大 させた。」 と指摘 されている ( Da vi dC.L Ne l l o r , " Ta xPo l i c ya nd t heAs i a nCr i s i s" ,I MFPo l i c yDi s c us s i o nPa pe r ,Fe bma r y1 9 9 9. )
2 5 Vi t oTa nz ia ndHo we l lH. Ze e , " Ta xPo l i c yf o rEme r gi ngMa r ke t s:De ve l o pi ngCo un‑
t r i e s' ' ,I MFWo r ki ngPa pe r ,Ma r c h2 0 0 0,pp2 6 ‑ 2 7.
適正な申告 と納税を行 うことによ り, 自ら進んで納税義務 を果たす ことが極 めて重要である。 このため,税務 当局は税知識 の普及 と納税 コンプライアン スの高揚を図るため積極的な広報活動 を展開 してい くとともに,申告のため の正 しい計算方法について相談で きる体制の充実に努め,納税者の利便性を 向上 させてい くべ きである。
納税者 が適正 な申告 と納税 を行 うこ とが よ り一層奨励 され るような環境 は,税務当局だけの努力で整 え られるものではな く,税務専門家や民間の各 種団体 とも協力 してい く必要がある。 より多 くの納税者が必要 に応 じて税務 専門家のサポー トを得つつ正 しい申告を行 うよう,税務当局 として も支援を 行い,税務専門家が納税者の適正 申告のために積極的な役割を果た してい く
ことが期待 される。発展途上国における民間セクターの税務協力 レベルは多 様であるが,アジア ・オセアニアの国々の租税専門家の団体で構成 されるア ジア ・オセアニア ・タックス ・コンサル タン ト協会が,税 に関する情報交換 を行い協力を高める活動を推進 しているな どの例 もあ り, 今後, 民間セクター における適正 申告に向けた運動の一層の広が りが期待 され る。
B ノン ・コンプライアンスへの対応
申告納税制度の下で,適正 ・公平な課税を実現する上で税務調査の果たす 役割は大 き く,適正でない と想定 される申告 については,厳正な調査 を行 っ てその誤 りを確実に是正 し,また,調査を契機 に,納税者が将来 にわた り適 正な申告 と納税 を続けてい くよう促す ことにより,申告水準の一層の向上 に つなげてい くことが重要である。
納税者サービスの質 を落 とす ことな く,特 に,申告納税制度の根幹 を揺 る
がす脱税行為や悪質な滞納事案等 に厳正 に対処 してい くためにも,各種資料
情報の収集 と活用,データベースの構築な ど,税務調査を支援する仕組みの
充実が必要である。中で も,不正 な手段を使 って故意 に納税 を免れ ようとす
る納税者や,課税の公平の観点か ら大 きな問題 があると認め られるような事
案については,重点的な深度ある調査 を行 うな ど,誠実な納税者 との課税の 公平を図ってい く必要がある。
多 くの発展途上 国では,税務調査や滞納整理な どの直接的なコンプライア ンス業務へ従事す る税務職員の全職員に占め る割合が必ず しも高 くない。 こ
うした分野 に従事する人員の拡充や体制整備 を図 ってい くべ きであろう。
ノン ・コンプライアンスに対する罰則については,現在,多 くの発展途上 国において所得税の脱税 に対 して刑事罰を科 していない。その理 由 として, ( ∋刑事罰は民事罰 よりもより厳密な証拠書類が必要 となること,( 9脱税者が 非常 に多い場合に,ご く一部の者のみに刑事罰を科すのは総体的に不公平で あること,( 9刑事罰の導入は政治的に支持 されに くい ことな どが指摘 されて いる 26 。 コンプライアンス確保のためには,悪質な脱税行為 に対 して,刑事 罰 を含 め通常の税務調査 よ りも重 いペナル テ ィを課 す仕組 み も重要 であろ
う 2
7。また, 帳簿 をつけていない事業者や帳簿の信頼性が低い事業者 に対 しては, 税務調査 により所得 を推計 して課税する権限が税務当局 に与え られ るべ きで ある。その際,税務 当局においては,適切な数値 に基づいて推計計算 を行 う よう,推計の基礎 となるデータの蓄積 と適切な推計課税の手法の開発 を図っ ていかなければな らない。
C 汀 の活用
税務当局の人的資源が限 られている中,十分なコンプライアンスを確保 し てい くためには,税務当局 における I T の活用 を積極的 に図 り,事務 の合理
2 6 Ri c h a r d K . Co r d o n, J n
r. ," I nc o meTa xCo mp l i a nc ea ndSa n c t i o n si nDe v e l o p i n gCo u n ‑ t r i e s ' ' ,i ǹ ̀ Ta xa t i o ni nDe v e l o p i n gCo un t r i e s ' ' ,TheJ o h nsHo p ki n sUn i ve r s i t yPr e s s , 1 9 9 0 ,p. 4 6 2.
2 7
刑事罰が導入 されていない一方で,追徴税額の1 0 0 %
を超 える過少 申告加算税 を課 して いる国 も見 られ る。化 ・高度化を図ってい くことが重要である。
税務執行が必要 とす る情報システムについて, Ri c h a r dM.Bi r d 教授 は, 理想 としては,以下の 5 つの要素 か ら構成 され るべ きとしている 2 8。
( a) 経済の潜在的課税ベースを査定で きるシステム、
( ち)潜在的な課税対象 を把握 し,それぞれの課税対象の課税ベースを推計 で きるシステム
( C)潜在的納税者を種類別 に分類 し,税務行政が とるべ き戦略を構築す るシ ステム
( d)異 な る潜在 納税者 グル ー プ に対 す る税務 当局 の戦略 の実効性 をモニ ター し,フ ィー ドバ ックするシステム
( e) 手続法 により公平性を阻害 される事項をモニターするシステム
この ような要素を具備 した理想的なシステムに近づいてい くためには,ま ず実効的なデータベースの構築が必要である。 データベースには,納税者の 基本情報 ( 氏名 ・名称,住所等),申告及び納税事績 とともに,税務調査の 記録や滞納税額の徴収等の履歴が蓄積 されているべ きである。 こうしたデー タベースが,税調調査等のコンプライアンス活動や納税者サービスへの情報 活用の基盤 となる。
データベースを構築 してい く際に留意すべ きは,蓄積 される情報が巨大 に な りすぎ,システム構築が大幅に遅延 した り,デー タの活用が非効率 になる 可能性があることであ る。データベースに蓄積すべ き対象 となる納税者 を, 事業を行 っている老のみ とするか,事業者以外の者 も含めるかで,デー タ量 に大 きな違 いが生 じる。また,蓄積す るデー タの範囲について も, ・課税上有 効な ものを吟味 しつつシステムを構築 してい くべ きである。そのためには, システム開発 に当た っては,システムを実際 に構築 してい く者 とそれを活用 する者の意思疎通が重要であ り,活用者のニーズを踏まえつつシステム全体 の負荷への対応可能性 を考慮 し,ニーズに優先順位 をつけて開発 してい くこ
2 8 Ri c ha r dM.Bi r d,S upr ano t e9 ,p. 1 2.
とが肝要である。蓄積する情報の量 について も十分な吟味が必要であ り,あ らゆる取引情報を入力 し,それをマ ッチングする一 ようなシステムは,その実 行可能性 と費用対効果 とを考慮 してい くべ きであろう。
この ように網羅的ではな くて も実効性のあるデータベースをまず構築 した 上で,拡張可能なシステム とし,対象 となる納税者や情報 を順次拡大 してい くべ きであろう。 また,当初 か らオン ・ラインによるネ ットワー ク ・システ ムが構築で きることが望ましいが,技術上それが困難であれば,オフ ・ライ ンによるバ ッチ ・システム ( ba t c hs ys t e m) か ら開始 して も,デー タベース が適切な ものであれば,活用 に大 きな障害 とはな らないであろう 。
現在 ,I T の発達 に より納税者への情報提供や 申告手続 きのサポー トが容 易になって きている。納税者 に とって も義務を履行 しやす く,課税 当局 に と
って も処理が行いやす くなるよう一層工夫 してい くことが重要であ る0
D 税務職員の育成
コンピュータ ・システムはあ くまで業務 を支援するものであ り,それを活 用するのは税務職員であるため,税務当局の人的資源の質的向上や組織体制 の改善 も不可欠である。 申告納税制度を円滑 に執行 してい くためには,税法 に基づ く課税,統一的な課税処理のために,税務職員は企業会計及び税法な どの専門的知識 と高いモラルを持たなければな らないら税務調査で追徴税額 があった場合,調査官は十分 に説 明をつ くし納税者 も納得 した上で納付する ことが重要である。行政裁量ではな く法律 に基づ く課税 を行 うことにより, 行政の透 明性を向上 させ,税務行政への信頼を高めてい くことにつながる。
そのためにも職員教育を充実 させ,職員の能力 ・資質の向上を図 ってい くこ とは最優先の課題である。
発展途上国では体系化 された長期 にわた る人材育成 プランや研修体系が未
整備の国が多 く,実務 ・知識 に優れた者 を教官 として,若手職員を含め多 く
の職員を育成 してい く仕組みが必要であ る。
日本における税務職員の研修 は ,1 9 41 年 に 「 大蔵省税務講習所」が設置 さ れ 1 9 4 9 年 に国税庁 の発足 に伴 い 「国税庁税務講習所」 に,さらに 1 9 6 4 年 に
「 税務大学校」 に改組 され現在 に至 っている。税務大学校 をは じめ,職場で の研修 な どによ り,人材の育成 を図って きた。
発展途上国の中には,税務職員の給与水準が民間セクターに比べて大幅に 低 く優秀な人材が集 ま らない,あるいは知識 を身に付けた税務職員 は民間セ クターに転出 して しまうことが多い とい う問題を抱 えている国 もあ る。税務 職員のみの問題ではな く,各 々の国における公務員制度のあ り方 に関わる問 題で もあるが,職務 に対するインセンティブの向上,処遇の改善 に も努めて い くべ きであろう。他方で,納税者の信頼確保の面か ら綱紀の保持の重要性 は高 く,内部監察制度 を含め非行防止に努めることが肝要である 29 。
Ⅵ 個 別 税 制
税制 を構築する上では,所得 ,消費,資産 に対する課税 を適切に組み合わ せ ,全体 としてバ ラン スの とれ た租税体 系 を構築 してい くこ とが重要 で
29 I MF の Vi t oTa nz i 氏は,世界の汚職 の経済的効果を論考 し,汚職の弊害を以下の よう にま とめている 。( Vi t oTa nz
i,̀ ̀ co r r upt i o nAr o undt heWo r l d:Ca us e s ,Co ns e q ue nc e s , Sc o pe,a ndCur e s " ,I MFSt a f fPa pe r sγo l . 4 5 ,No. 4( De c e mbe r1 9 9 8 )I MF,p. 5 8 5. )鍋 税者の信頼や透明性が重要な税務行政 においては,より一層の清廉 さが求め られ る。
( a)投資を阻害 し,経済発展を減少させ る
(ち)
汚職 と関連の少ない教育や健康への支出を削減する ( C)公共支出を増加 させ る
( d) ランニング ・コス トや修繕の支出を減少 させ る
(e)公共投資 とインフラ整備の生産性を減少 させ る ( i )税収を減少させる
(g)