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文化史の諸相 : ミクロネシア諸語の間接所有表現 の語順について

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文化史の諸相 : ミクロネシア諸語の間接所有表現 の語順について

著者 杉田 洋

雑誌名 国立民族学博物館研究報告別冊

巻 006

ページ 241‑252

発行年 1989‑02‑20

URL http://doi.org/10.15021/00003736

(2)

杉 田  ミク ロ ネ シア 諸 語 の 間接 所 有 表 現 の 語順 につ い て

ミク ロネ シ ア諸 語 の問 接 所 有 表 現 の語 順 に つ い て

田   洋*

L目

n.資

IV.仮 説1

V.仮 説2

VL仮 説3

W.仮 説4

田.検

1.目

  本稿 は,ミ ク ロ ネ シア諸 語 の いわ ゆ る 「間 接 所 有 表現 」 の 内部 の 語順 の決 定 に至 る 歴 史 に つ い て,一 連 の 仮説 を提 出す る。 「所 有 者 を表 す 表 現 」 を 「所 有 者」,「被 所 有 物 あ る い は被 所 有 者 を 表 す 表現 」 を 「被 所 有 物 」,「限 定 詞 あ るい は 指示 詞 」 を 「限 定

・指 示 詞 」 と,そ れ ぞ れ簡 略 化 して 呼 ぶ とす れ ば,提 出 され る仮 説 は概 略 次 の よ うに 述 べ る こ とがで きる:

  1)  ミク ロネ シア祖 語 にお い て は,被 所 有 物 が 限 定 ・指示 詞 を伴 わな い間接 所 有 表 現 で,所 有 者 は 被 所 有 物 の 前 に置 か れ た。

  2)  被 所 有 物 が 限 定 ・指 示 詞 を伴 う間 接 所 有 表現 で は,[所 有 者 一 被 所 有 物一 限 定 ・ 指示 詞 ユ の順 に語 句 が配 列 され た。

  3)  そ の後,い くつ か の言 語 で,限 定 ・指 示 詞 を 後 置す る こ と に起 因 す る 「入 子 型 構 造 」 の 問 題 を 回避 す るた め に,所 有者 を後 置 す る[被 所 有 物 一 限定 ・指 示 詞一 所 有 者]の 語 順 が 採 用 さ れ た。

  4)  しか し一 方,別 の言語 で は,「 名 詞 を修 飾 あ る いは 限定 す る要 素 は 名 詞 の前 に 置 く」 とい う比 較 的 新 しい傾 向 か らの圧 力 に よ って 限 定 ・指 示 詞 が被 所 有 物 の前 に移 され,そ の結 果,よ り複 雑 な入 子 型 構 造 が生 ま れ る こ と とな った 。

  以 下 に,こ れ らの 仮 説 を提 出す る根 拠 とな る事 実 を 示 し,さ らに,仮 説 の妥 当性 を 検討 す る。 な お,本 稿 で は,ミ ク ロ ネ シア諸 語 が か つ て全 体 と して 他 の オ セ アニ ア諸 語 か ら 区別 され る歴 史 上 の一 時 期 を 有 して い た と仮 定 し,し たが って ミク ロネ シ ア祖

*東 京学芸大学教育学部

(3)

        国立 民族学博物館研究報 告  別 冊6号 語 を 再 構 成 す る こ と に 言 語 学 的 意 義 が あ る と仮 定 す る 。 こ の 仮 定 の 妥 当 性 に つ い て は, Jackson[1983]お よ びBender[1984]を 見 られ た い 。

  皿.資      料

  本 稿 で は次 の諸 言 語 につ い て論 述 す る 。[]内 に示 した記 号 は,研 究者 に よ って 共 通 に用 い られ る,言 語 名 の 略 号 で あ り,本 稿 の 中で も自 由 に 用 い られ る:

トラ ッ ク語     (Trukese)    [TRK]

モ ー ト ロ ッ ク 語  (Mortlockese)  [MRT]

プ ル ワ ッ ト語    (Puluwatese)  [PUL]

サ タ ワ ル 語      (Satawalese)  [STW]

オ レ ア イ 語      (Woleaian)    [WOL]

ポ ナ ペ 語        (Ponapean)    [PON]

モ キ ル 語      (Mokilese)    [MOK]

マ ー シ ヤ ル 語    (Marshallese)  [MRS]

キ リバ ス 語      (Kiribatese)  [KIR]

コ シ ヤ エ語      (Kosraean)    [KSR]

  こ れ ら の 言 語 に つ い て の 資 料 は,そ の 大 部 分 を,本 稿 末 の 文 献 表 に 示 した,そ れ ぞ れ の 言 語 の 研 究 書 ・研 究 論 文 に 拠 っ た 。 サ タ ワ ル 語 の 資 料 の 一 部 は,国 立 民 族 学 博 物 館 に お け る秋 道 智 彌,石 森 秀 三,須 藤 健 一,Sabino  Sauchomalの 諸 氏 と の 共 同 研 究 に よ っ て 得 ら れ た も の で あ り,モ ー ト ロ ッ ク語 の 資 料 の 一 部 は1984年 度 文 部 省 科 学 研 究 費 補 助 金(海 外 学 術 調 査)に よ っ て 得 ら れ た も の で あ る 。

  な お,ト ラ ッ ク,モ ー ト ロ ッ ク,プ ル ワ ッ トは 東 トラ ッ ク 系 の,サ タ ワ ル,オ レ ア イ は 西 トラ ッ ク系 の,ポ ナ ペ,モ キ ル は ポ ナ ペ 系 の 言 語 で あ る。 マ ー シ ャル,キ リバ ス,コ シ ャ エ の 各 言 語 は そ れ ぞ れ 独 立 の 分 派 と考 え ら れ て い る。

  皿.背      景

  ミク ロネ シア 諸語 には,次 の トラ ッ ク語 の 例 に見 られ る よ うな 直 接所 有 表 現 と間 接 所 有 表現 の 区別 が存 在 す る:

  [直接 所 有 表 現]

    afare‑n Ermes

    (肩一の  エル メス)  「エル メス の肩 」

(4)

杉 田    ミク ロ ネ シア諸 語 の間 接 所 有 表 現 の 語 順 に つ い て

[間 接 所 有 表 現]

  ωa{, z‑7z Eγ7ηθ5 ωαα∫8γθ

  (乗 り 物 一の  エ ル メ ス  帆 走 カ ヌ ー)「 エ ル メ ス の 帆 走 カ ヌ ー 一

  直接 所 有 表 現 で は,所 有 者(上 例 で はErmes)が 被 所 有 物(ψr8‑)の す ぐ後 に 置 か れ る。 こ れ に対 して,間 接 所 有 表現 で は,所 有 者(Ermes)は まず 所 有 詞 と呼 ば れ る 要 素(zv矣一)の 後 に置 かれ,所 有 旬 と呼 ばれ る句(ω 磁 一πE7物5)を 形 成 す る。 そ し て,被 所 有 物(ω ααθ765)がそ の後 に置 か れ る。 上 の例 で 一π と書 か れて い る もの は, か つ て は独 立 の 前 置詞 的要 素*niで あ った と推 測 され る 「構 成 接尾 辞 」 で あ り,英 語 の前 置詞ofと 似 た構 造 的意 味 を表 す 。 所 有 者 が代 名詞 的要 素 で あ る場 合,そ れ は先 行 す る 名詞 あ る いは所 有 詞 の語 幹 に接尾 辞 と して付 加 され,し た が って構 成 接 尾辞 は 用 い られな い。 上 に示 した 二 例 の 中 の所 有 者 を 代 名詞 的 接 尾辞 ヲ 「私 の」 と置 き換 え る と次 の よ うに な る:

afare  y

「私 の 肩 」 tuaaづ ノz aaseres

「私 の 帆 走 カ ヌ ー 」

  直 接 所 有 表 現 にお け る被 所 有 物 と所有 者 の関 係 は,部 分 ・全 体 関係 や 親 縁 関係 な ど の よ うな密 接 な 関係 で あ る場 合 が多 く,こ の 理 由で,直 接所 有 表現 は しば しば不可 譲 所 有 表現 あ るい は 分離 不能 所 有 表 現 と呼 ば れ る。 一 方,間 接所 有 表 現 は可 譲 所 有 表 現 あ るい は分 離 可 能所 有 表 現 と 呼 ば れ る こ とが多 い。 また,不 可 譲 所 有 表 現 の 中で被 所 有 物 を 表 す 名詞 は不 可譲 名詞,可 譲 所 有 表現 の 中で 被 所 有 物 を 表 す 名詞 は可 譲 名 詞 と 呼 ば れ るこ とが あ る。 上 の例 で は,ψ γ← 「肩 」 が不 可 譲 名詞,zvaaseres「 帆走 カ ヌ

ー」 が可 譲 名詞 で あ る

  上述 の構 造 は,被 所 有 物 が 限 定 ・指 示 詞 を伴 わ な い場 合,す べ て の ミク ロ ネ シア諸 語 に見 られ る。 しか し,限 定 ・指 示 詞 を 伴 う場合 に は い くつ か の言 語 が興 味 深 い 変異

を示 す 。 そ れ らの 変異 に つ い て は,仮 説 を論 じる際 に くわ し く述 べ る。

IV.仮 説1

  仮説1は,「 ミク ロネ シア祖 語 に おい て は,被 所 有 物 が限 定 ・指 示 詞 を伴 わ な い間 接 所有 表現 で,所 有者 は被 所 有 物 の前 に置 か れ た」 とい う もの で あ る。以 下 に,現 代 ミク ロネ シア諸 語 に お け る被 所 有 物 が限 定 ・指示 詞 を伴 わ な い間接 所 有 表現 の 例 を 見

(5)

国立民族学 博物館研究報 告  別冊6号 る こ と に す る 。 言 語 名 に つ い て は,上 の 第ll節 に 示 さ れ た 略 号 を 使 用 す る 。 下 線 部 が 所 有 句 で あ る。

    η¢レ5づ,PtvPωuk[TRK]

    (貴 重 品 一私 の  本)  「私 の 本 」     ωaa‑・sh mwoota[MRT]

    (乗 り物 一私 達 の  モ ー タ ー ボ ー ト)「 私 達 の モ ー タ ー ボ ー ト」

    π顔 一ジkolaak[PUL]

    (貴 重 品 一私 の  犬)  「私 の 犬 」     η妙 ∫づノωoonikat[STW]

    (貴 重 品 一私 の  子 供)「 私 の 子 供 」     ωα副 伽5α[WOL]

    (乗 り物 一彼 の  自 動 車)  「彼 の 自 動 車 」     璽 ブδδ'[MRS]

    (物 一私 の  シ ャ ッ)「 私 の シ ャ ッ 」     璽 ρω励 ん[PON]

    (貴 重 品 一私 の  本)  「私 の 本 」     a‑na  kao[KIR]

    (物 一彼 の  斧)  「彼 の 斧 」     猛2翅 ωα← 」[KSR]

    (魚  食 物 一彼 の)  「彼 の 魚 」

  こ れ ら の 例 か ら,コ シ ャエ 語 を 除 くす べ て の 言 語 で 所 有 句 が 被 所 有 物 の 前 に 置 か れ て い る こ と,す な わ ち 所 有 者 が 被 所 有 物 の 前 に 置 か れ て い る こ と が 見 て 取 れ る 。 数 詞,

限 定 詞,指 示 詞,形 容 詞,関 係 節 な ど,名 詞 と密 接 な 結 び つ き を 示 す 要 素 の 名 詞 句 内 に お け る 位 置 を 詳 し く調 べ て み て も,所 有 句 が か つ て 被 所 有 物 を 表 す 名 詞 の 後 に 置 か れ た こ とを 示 唆 す る事 実 を 発 見 す る こ と は で きな い 。 東 西 ト ラ ッ ク 系,ポ ナ ペ 系,マ ー シ ャル 系

,キ リバ ス 系 の す べ て の 言 語 に 例 外 な く現 わ れ る[所 有 詞 一 所 有 者 一 被 所 有 物]の 配 列 が ミ ク ロ ネ シ ア 祖 語 の 特 徴 の 一 つ で あ った と 考 え る 。

  こ の 配 列 は,ミ ク ロ ネ シ ア 祖 語 が 新 た に 作 り上 げ た も の で は な い 。 フ ィ ジ ー 語 とア ロ マ 語 の 次 の よ う な 例 に も 見 ら れ る よ う に,こ れ は メ ラ ネ シ ア 諸 言 語 に広 く行 な わ れ る配 列 で あ る:

    na  ke‑na  dalo[ブ イ ジ ー語]

    (そ の  可 食 物 一彼 の  タ ロ イ モ)「 彼 の タ ロ イ モ 」

(6)

杉田    ミクロネシア諸語の間接所有表現の語順について     (thau)96一 肋 麟 醐[ア ロ マ 語]

    (私  物 一私 の  考 え)  「私 の  考 え 」

  V.仮    説    2

  仮 説2は 被 所 有 物 が 限定 ・指示 詞 を 伴 う間 接所 有 表現 で は,[所 有 者 一 被 所 有 物 一 限定 ・指 示 詞]の 順 に語 旬 が 配 列 され た」 とい う もの で あ る。 ま ず,所 有 表 現 で は な い 単純 な 名 詞 旬 を調 べ,限 定 ・指 示 詞 の位 置 を見 る こ と:にす る。

塑 卿 〜ω磁 π 「「RK]

(例 の  男)  「例 の 男 」 ηω磁 η[MRT]

(例 の  男)  「例 の 男 」 彿ω磁 π塑[MRT]

(男  例 の)  「例 の 男 」 ωαα塑 工PUL]

(カ ヌ ー  例 の)  「例 の カ ヌ ー 」 ωαα塑[STW]

(カ ヌ ー  例 の)  「例 の カ ヌ ー 」 ωa kawe[WOL]

(カ ヌ ー  複 数 一例 の)  「例 の カ ヌ ー 」

⑳ 勿[MRS]

(子 供  例 の)  「例 の 子 供 」 汐wUtak・‑2[PONユ

(少 年  例 の)「 例 の 少 年 」 '6肋o塑'[KIR](teは 単 数 冠 詞) (1牛 こ の)「 こ の 牛 」 lucng gh[KSR]

(山  例 の)  「例 の 山」

  トラ ック語 とモ ー トロ ック語 の場 合 を除 いて,下 線 を付 した 限定 ・指 示 詞 が 名 詞 の 後 に置 か れ て い る こ とが観 察 され る。 モ ー トロ ック語 の場 合,限 定 ・指示 詞 は 口承 の 歴 史 説話 な どで は 名詞 に後 置 され,ま た,話 し言 葉 の 中 で は無 原 則 に前 置 された り後 置 さ れ た りす る。 限 定 ・指示 詞 を前 置 す る習慣 は トラ ック語 か らの借 用 と思 われ る。

(7)

国立民族学博物 館研究報 告  別冊6号   現 代 ト ラ ッ ク 語 で は,関 係 節 を 除 い て,名 詞 を 限 定 あ る い は 修 飾 す る要 素 を 名詞 の 前 に 置 く傾 向 が あ る:

    ekka‑naan  rdiwe'‑me'n me■i ttame‑n  nzwaan

    (複 数 一あ の  2一生 物  状 態  長 い一の  男)  「あ の 二 人 の 背 の 高 い 男 た ち 」 こ れ を 一 般 に 名 詞 を 限 定 ・修 飾 す る要 素 を 名 詞 の 後 に 置 く ポ ナ ペ 語 の 例 と比 較 す れ ば, ト ラ ッ ク語 の 特 徴 が 明 ら か に な る:

    Pωutak  reirei sili‑men‑o[PON]

    (少 年  長 い  3一生 物 一例 の)「 例 の3人 の 背 の 高 い少 年 た ち 」

所 有 表 現 で な い 名 詞 句 の 中 の 要 素 の 配 列 に 関 して は,ト ラ ッ ク 語 が 例 外 的 な 言 語 で あ る こ と が 知 ら れ て い る 。

  上 の 観 察 が 正 し い と す れ ば,ミ ク ロ ネ シ ア 祖 語 で は 限 定 ・指 示 詞 は 名 詞 の 後 に 置 か れ た と 推 定 す る こ と が 合 理 的 で あ る。 この 観 察 ・推 論 結 果 を 仮 説1と 組 み 合 わ せ る と, 仮 説2が 導 き だ さ れ る 。

W.仮 説3

  仮 説3は 「そ の 後,い くつ か の 言 語 で,限 定 ・指 示 詞 を 後 置 す る こ と に 起 因 す る

『入 子 型 構 造 』 の 問 題 を 回 避 す る た め に,所 有 者 を 後 置 す る[被 所 有 物 一 限 定 ・指 示 詞 一 所 有 者]の 語 順 が 採 用 さ れ た 」 と い う も の で あ る 。

  仮 説2に よ り 推 論 さ れ る[所 有 者 一 被 所 有 物 一 限 定 ・指 示 詞]の 語 順 を そ の ま ま の 形 で 保 持 し て い る 現 代 語 は ポ ナ ペ 語 で あ る:

    rie‑ti Pw‑.tak  kau[PON]

    (兄 弟 一私 の  少 年  あ れ ら の)「 あ の 私 の 弟 た ち 」

  所 有 者rie一 に 付 加 さ れ て い る 一iが所 有 者 を,  pωutakが 被 所 有 物 を 表 して い る 。 肱 π が 限 定 ・指 示 詞 で あ る 。

  ポ ナ ペ 語 の よ う な 語 順 を と る と,所 有 者 が さ ら に そ の 中 に 所 有 表 現 を 含 む 表 現 に お い て,入 子 型 構 造 が 生 じ る 。 ポ ナ ペ 系 の モ キ ル 語 の 例 を 見 よ う:

    woaroa‑n[[e‑n  woall‑O]pirienn‑O]ω αrr‑・O

    (乗 り物 一の  物 一の  男 一あ の  友 人 一あ の  カ ヌ ー一あ の)「 あ の 男 の 人 の 友 人 の     カ ヌ ー 」

(8)

杉田    ミクロネシア諸語の間接所有表現の語順 について

  woaroa‑一 は 「乗 り物 」 を 表 す 所 有 詞,  e一は 特 徴 の な い 「も の,ひ と」 を 表 す 所 有 詞 で あ る 。 ωoatl‑‑O「あ の 男 」 がpirienn‑一 「友 人 」 の 所 有 者,  e‑n  woall‑O  pirienn‑O「 あ の 男 の 友 人 」(「あ の 男 の 人 の 友 達 で あ る 人 」 の 意)が ω僻 一 「カ ヌ ー」 の 所 有 者 で あ る 。 こ の 表 現 の 構 造 は 次 の よ うで あ る:

  日 本 語 の[[あ の 男 の 友 人 の]カ ヌ ー]は 「左 分 れ 式 」 構 造 を も っ て お り,発 話 も 解 釈 も 比 較 的 容 易 で あ る が,上 の よ うな 「入 子 型 」 構 造 は,そ の 処 理 が 困 難 で あ る 。   そ こ で,同 じ く限 定 ・指 示 詞 を 後 置 す る 現 代 オ レ ア イ 語 で は,所 有 詞 と所 有 者 の 組 み 合 わ せ,す な わ ち 所 有 句 を 所 有 者 と限 定 ・指 示 詞 の 後 に 置 く:

    [btik ka‑we[!aa‑r]][WOL]

    (本  複 数 一例 の  物 一彼 ら の)  「彼 ら の 例 の 本 」

こ こ で は 一rが 所 有 者 で あ る 。 こ の 表 現 形 式 は,次 の 例 で 明 ら か な よ う に,「 右 分 れ 」 構 造 を も っ て い る:

    beck ka一ωe [!aα一l sarωe  [laiu‑l mwal!eel]]

    (本  複 数 一例 の  物 一の  子 供  例 の  貴 重 品 一の  男  あ の)  「あ の 男 の 子 供 の     例 の 本 」

こ の よ う な 右 分 れ 構 造 は,左 分 れ 構 造 よ り さ ら に 処 理 が 容 易 で あ る 。   こ こ で,被 所 有 物 が 限 定 ・指 示 詞 を 含 む 表 現 に つ い て 各 言 語 を 見 る:

    waa‑y  kkα一naan  chitoosa[TRK]

    (乗 り物 一私 の  複 数 一あ の  自 動 車)  「私 の あ の 自 動 車 」     waa‑■  we  shitoosa[MRT]

    (乗 り物 一私 の  例 の  自 動 車)  「私 の 例 の 自 動 車 」     ωaa‑■ shitoosa we[MRT]

    (乗 り物 一私 の  自 動 車  例 の)  「私 の 例 の 自 動 車 」

(9)

国立民族学博物館研究報 告  別 冊6号 shitoosa we  waa̲!  [MRT]

(自 動 車  例 の  乗 り物 一私 の)  「私 の 例 の 自 動 車 」 ω磁 ω6ω ααヲ[PUL]

(カ ヌ ー  例 の  乗 り物 一私 の)  「私 の カ ヌ ー」

ωaa kke‑tve  zvaa‑mam[STW]

(カ ヌ ー  複 数 一例 の  乗 り物 一私 達 の)  「私 達 の 例 の カ ヌ ー」

kook〃mωu  iutiUme‑mw[WOL]

(コ カ コ ー ラ  そ の  飲 み 物 一あ な た の)「 あ な た の そ の コ カ コ ー ラ」

ne‑一・i kidi‑・kau[PON]

(貴 重 品 一私 の 犬 一あ れ ら の)  「私 の あ の 犬 た ち」

ψ ゴ70吻 麺[MRS]

(少 年  例 の 一複 数  貴 重 品 一彼 の)  「彼 の 例 の 息 子 た ち 」 Pwoaopa  luh一左痂[KSR]

(紙  物 一私 の  例 の)  「私 の 例 の 紙 」 キ リバ ス語 の 例 は 報告 され て いな い。

  これ らの 例 の 中で,下 線 を 付 した 所 有 者 表現(こ こで は代 名詞 的 接 尾辞)が 所 有 詞 と被 所 有 物 の 間 に置 かれ て い る もの が入 子 型 構 造 を も った もので あ る。 トラ ック,モ ー トロ ック

,ポ ナ ペ の諸 言 語 が この 構 造 を も って い る。 これ に対 して,ブ ル ワ ッ ト, サ タ ワル 、 オ レア イ,マ ー シ ャル,コ シ ャエ の諸 言 語 は所 有 詞 と所 有 者 を 最後 に 置 く 右 分 れ式 構 造 を も って い る。 仮 説3は,前 者 の言 語 群 が 古 い構 造 を 継 承 し,後 者 の言 語 群 が 入子 型 構 造 を解 消 して右 分 れ 構 造 を とる に至 った とす るので あ る。後 者 の言語 群 で は,限 定 ・指 示詞 を伴 わ な くて も,所 有 者 表現 が さ ら に所 有 者 表 現 を 含 んで い る 場 合 は 「深 い」 位 置 の所 有 者 が後 置 され,全 体 と して右 分 れ構 造 とな る。

W.仮 説4

  仮説4は,「 しか し一方,別 の言 語 で は,『 名詞 を修 飾 あ るい は限 定 す る要 素 は 名詞 の前 に 置 く』 と い う比 較 的新 しい傾 向 か らの圧 力 に よ っ て限 定 ・指 示 詞 が被 所 有 物の 前 に移 さ れ,そ の 結 果,よ り複 雑 な 入 子 型 構 造 が生 ま れ る こ と とな った 」 とい う もの で あ る。

  所 有 句(す な わ ち所有 詞 と所 有 者 の 組 み 合 わ せ)と 限 定 ・指示 詞 の位 置 に関 して注 目す べ き言 語 は トラ ック語 とモ ー トロ ック語 で あ る。 トラ ック語 で は ポ ナペ語 と同様 248

(10)

杉 田    ミクロネシア諸語の間接所有表 現の語順について

に 所 有 句 を 被 所 有 物 の 前 に 置 くが,'さ ら に 限 定 ・指 示 詞 も被 所 有 物 の 前 に 置 く。 こ の 配 列 は ト ラ ッ ク 語 に 特 有 の も の で あ り,こ れ が 仮 説 み を 提 出 す る 動 機 と な っ て い る。

モ ー ト ロ ッ ク 語 に は,上 の 例 か ら 明 ら か な よ う に,ト ラ ッ ク 語 型 ,ポ ナペ 語 型,オ ア イ語 型 の 三 つ の 型 が共 存 して い る 。

  既 に 述 べ た と お り,モ ー トロ ッ ク語 で は,か つ て 限 定 ・指 示 詞 は す べ て 名 詞 の 後 に 置 か れ た と推 測 さ れ る。 さ ら に,名 詞 句 内 部 の 形 容 詞 、 数 詞 な どの 配 死 を 調 べ る と, 古 い 時 代 の モ ー ト ロ ッ ク語 は 現 在 の ポ ナ ペ 語 と 非 常 に よ く似 た 名 詞 句 構 造 を も っ て い た と思 わ せ る い く つ か の 点 が 発 見 さ れ る 。 現 代 モ ー ト ロ ッ ク 語 は ポ ナ ペ 語 型 か ら ト ラ

ッ ク 語 型 へ の 「過 渡 期 」 に あ る と考 え る こ と が 可 能 で あ る 。

  トラ ッ ク語 は,ミ ク ロ ネ シ ア 諸 語 の な か で た だ 一 つ,一 貫 して 限 定 ・指 示 詞 を 名 詞 の 前 に 置 く言 語 で あ る 。 そ こ で,所 有 詞 を 伴 う 間 接 所 有 表 現 で は,次 あ 例 の よ う に [所 有 詞 一 所 有 者 一 限 定 ・指 示 詞 一 被 所 有 物]の 配 列 に な る:

π4磁̲n.Ermes  zve suus[TRK]

(貴 重 品 一の  エ ル メ ス  例 の  靴)  「エ ル メ ス の 例 の 靴 」 この配 列 が,研 究 者 に きわ め て困 難 な課 題 を与 え て い る の で あ る。

  入子 型 構 造 の問 題 は,本 質 的 に は ポナ ペ語 の それ と同 様 で あ るが,ト ラ ック語 には 被 所 有 物 表現 の省 略 とい う独 自の 問 題 が あ るた め に,さ らに複 雑 にな って い る。 上 の 例 に現 わ れ る所 有 詞 擁 ωか は身 の 回 りの もの や動 物,人 間 との,「 親 縁 関 係 」 ほど緊 密 で は な いあ る種 の 関係 を示 す 。 した が って,次 の よ うな入 子 型 構 造 が現 わ れ る こ と

が あ る:

π6磁 一π[π伽 滋一π[ne'wdi‑n  Ermes  we  aat]ωe  konaakユ ωe Pωoor

(貴 重 品 一の  貴 重 品 一の  貴 重 品 一の  エ ル メ ス  例 の  少 年  例 の  例 の ボ ー ル)  「エ ル メ ス の 息 子 の 犬 の 例 の ボ ー ル 」

  一 方,ト ラ ッ ク 語 で は,会 話 が 行 な わ れ る 場 面 で 話 し手 が 何 を 指 し て い る か が 聞 き 手 に 明 ら か に な っ て い る と信 じ られ る 場 合,被 所 有 物 を 表 す 名 詞 を 省 略 す る こ と が あ る 。 た と え ば,上 の π伽 か πErmesωe  aatは,「 少 年 」 に言 及 し て い る こ と が 明 ら か で あ れ ば,擁 磁 一ηE辮65ω6と 言 っ て 済 ま す こ と が で き る 。 あ る イ ン フ ォ ー マ ン トは, 指 示 対 象 が 異 な る二 つ の 被 所 有 物 表 現 も省 略 可 能 で あ る と し て,π伽4一 ππ伽4‑n  Ermes ωe aatωe  konaakを η伽 か π 擁 磁 一πErmesωeωeと す る こ と を 可 と した が,別 の イ

ン フ ォ ーマ ン トは こ の 表 現 を 「へ ん な 」 表 現 で あ る と し た 。 何 らか の 言 語 使 用 上 の 制 約 の 問 題 が あ る よ う に思 わ れ る 。

(11)

国立民族学博物 館研究報告  別冊6号   トラ ッ ク語 だ け で な ぜ 限 定 ・指 示 詞 が 前 置 さ れ る よ う に な っ た の か に つ い て は,

Goodenough[私 信],  Jackson[1983],  Sugita[1987]に よ っ て 論 じ られ て い る 。 現 代 キ リバ ス 語 で 単 数 を 表 す 不 定 冠 詞 と して 現 わ れ て い るteと,ト ラ ッ ク 系 の 諸 言 語 の 祖 語 に つ い て 「1」 と い う数 を 表 す 形 態 素 と し て 再 構 成 さ れ る*teと に も と つ い て, 単 数 を 表 す 不 定 冠 詞 が ミク ロ ネ シ ア 祖 語 に存 在 した と 考 え,ト ラ ッ ク語 で この*teの 反 映 形eが 名 詞 に 後 置 さ れ て い た 限 定 ・指 示 詞 を 前 に 「ひ きつ け た 」 と い う の が 上 記

の 三 人 の 研 究 者 の ほ ぼ 一 致 し た 考 え で あ る が,根 拠 と な る 事 実 に 乏 し く,未 だ 明 確 な 解 答 は 提 出 さ れ て い な い 。

  し か し,上 の 第V節 で 触 れ た よ う に,現 代 トラ ッ ク語 に は 名 詞 を 限 定,あ る い は 修 飾 す る 要 素 を 名 詞 の 前 に 置 こ う と い う 傾 向 が 顕 著 に 見 ら れ る こ と は 確 か で あ る 。 「型

の 圧 力 」 の 存 在 は 否 定 で きな い で あ ろ う。

V皿.検 

  本 稿 で 提 出 した仮説 に した が って,ミ ク ロネ シア諸語 の 間接 所 有 表 現 の 構 造 の変 化 の あ とを た ど る こ とに す る。

  まず,ミ ク ロネ シア祖 語 に は次 の二 つ の型 が あ っ た:

  (a)  [所有 詞 一 所 有 者一 被 所 有 物]

  (b)  [所 有 詞一 所 有 者 一 被 所 有 物 一 限 定 ・指 示 詞]

ポ ナペ 諸 語 は 現 在 も この二 つ の型 を守 って い る。

  しか し,所 有者 を前 置 して お くと,所 有 者 自身 が所 有 表現 を含 む場 合 に,発 話,解 釈 と も に困 難 な 入子 型 構 造 が生 ず る。 これ を避 け るた め に,プ ル ワ ッ トジ サ タ ワル, オ レァ ィ,マ ー シャル の諸 言 語 は所 有 詞 と所 有 者 を限 定 ・指 示 詞 の後 に置 く,(c)の 配 列 を と り,こ れ に よ って,処 理 の容 易 な右 分 れ 構 造 を もた ら した 。

  (c)  [被 所 有 物一 限 定 ・指 示 詞 一 所有 詞 一 所 有 者]

  これ に対 して,ト ラ ック語 で は0般 に限 定 ・指 示 詞 は 名 詞 の前 に 置 かれ る よ うに な り,し た が って所 有 表 現 に お い て も(d)の よ うな 配 列 がな され るに い た った。

  (d)  [所 有 詞一 所 有 者 一 限 定 ・指示 詞 一 被 所 有 物]

  以 上 は,現 代 ミク ロネ シア諸語 の 間接 所 有 表現 の 中の要 素 配 列 につ いて の 観 察 と, 入子 型 構 造 を 避 け る とい う動 機 につ いて の推 測 と に も とつ く,き わ め て単 純 な 考 え で あ る。 限 定 ・指 示 詞 を伴 わな い間 接 所 有 表現 に お いて も同様 に 入子 型 構 造 が現 わ れ る はず で あ る とい う疑 問 が 当然 予想 され る。 しか し,そ の よ う な 間接 所 有 表現 は,現 代

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杉 田    ミ クロ ネ シ ア諸 語 の 間 接 所 有 表現 の 語 順 に つ い て

ミク ロ ネ シア 諸語 で は簡 単 な存 在 文 と判 断 文 に お い て の み用 い られ,明 確 に定 義 され た,た いへ ん 限 られ た文 法環 境 に の み現 わ れ る。 した が って,入 子型 構 造 は,も し仮

に現 わ れ た と して も,話 し手,聞 き手 に大 きな負 担 を 与 え る こ とは な い と考 え られ る。

  Harrison[1987]は 主 と して キ リバ ス語 とモ キル語 の資 料 に基 づ き,「間接 所 有 表 現 は所 有 句(一 所有 詞+所 有者)が 述 語 的 な機 能 を 含 み な が ら被 所 有 物 と同格 関 係 に立 って い る表 現 で あ る」 とい う基本 的仮 説 か ら出 発 して,ミ ク ロ ネ シア諸 語 の 所 有 表 現 の歴 史 を考 察 して い る。 しか し,要 素 の 配 列 の 問 題 に は触 れて いな い。

  Pagotto[1987]は,マ ー シ ャル語 の資 料 に も とつ い て研 究 し,限 定 ・指 示 詞 を 伴 わ な い間 接 所 有 表現 で は所 有 詞 が構 造 の 中心 とな って お り,被 所 有 物 は述 語 的で あ るが, 一 方,限 定 ・指示 詞 を伴 う間 接 所 有 表 現 で は被 所 有 物 が構 造 の 中心 で,所 有 詞 は 述語 的で あ る と い う主 旨の こ とを 述 べ て い る。Pagottoは この 考 え に た って 文法 規 則 を書 いて い るが,考 え そ の 物 の証 拠 立 て の作 業 は行 な って いな い。 しか しな が ら,こ れ は, た いへ ん興 味深 い考 え で あ る。

  本 稿 の基 礎 に あ る考 え方 は次 の と お りで あ る:1)限 定 ・指 示 詞 を伴 わ な い間 接 所 有 表 現 に お け る所 有 詞 の役割 は限 定 ・指 示詞 的 で あ る 。2)限 定 ・指示 詞 を伴 った も の にお け る所 有 詞 の役 割 は述 語 的で あ る。

  ミク ロネ シア諸 語 の 所 有 表現 は,基 本 的 デザ イ ンの面 で は統 一 的 で あ り,形 式 の 面 で は 多 様 で あ る。 オ セ ァニ ア諸 語 全 体 に 目を む け な が ら,「 地 道 な 」研 究 を積 み 重 ね る必要 が あ る。

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参照

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しかし,物質報酬群と言語報酬群に分けてみると,言語報酬群については,言語報酬を与