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幼児の鉄棒逆上がりにおける習得者と未習得者の動作の差異

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幼児の鉄棒逆上がりにおける習得者と未習得者の動作の差異

Differences…in…movement…between…learners…and…non-learners…

in…the…horizontal…bar…forward…upward…circling…of…the…infant

山 本 周 史 Shuji…YAMAMOTO

1. 緒言

 鉄棒逆上がりは、鉄棒種目の中でも基礎的な種目であり、小学校体育科授業において児童が習 得を目的とする代表的な種目である。しかしながら、幼児においても、鉄棒逆上がり運動の習得 は可能であり、叶(2011)は幼稚園や保育園での遊びの中で既に逆上がりは登場し、鉄棒運動に 取り組む基本的な技として認識されていることを示唆している。また、小川(2017)によると、

教職課程を履修する大学生を対象に鉄棒逆上がりが出来た時期について調査し、幼稚園の間にで きたという回答が 21%であったとして、幼児期に鉄棒逆上がりを習得する可能性を示している。

このように、幼児が鉄棒逆上がりを習得する可能性は示されているが、その運動動作の分析に関 する研究は少なく、鉄棒逆上がりの技術に関する研究は主に成人や児童を対象としたものである。

 鉄棒逆上がりの動作分析を行った研究として、野崎ら(1990)は、低技術者と高技術者の動作 を分析し、振り上げ脚については、開脚の程度より、振り上げる方向が重要であることを示唆し た。さらに、振り上げ足は力を入れて振り上げるのではなく、蹴る方向を正確にさせることが大 切な条件であると報告している。また、高橋(1995)は、鉄棒逆上がりの達成を決定する中核技 術として、準備局面から主要局面前半部での腰部の振り上げに同期した上肢の引き寄せであると し、それによって鉄棒を軸とした回転が生み出されるのであり、その際に協働する上体の後方へ の倒しが重要な役割を果たしていると述べている。さらに、鴻巣ら(2018)は、成人男性の鉄棒 逆上がりをカメラモーションキャプチャシステムと床反力により動作分析した結果、助走と踏切 時における離地の運動エネルギーが遊脚期の体幹部の上方移動に利用されるため、エネルギーを 体幹部に伝達する技術が逆上がりの成功に重要であると示唆した。一方、技術指導に言及した研 究として、奥野(2016)は、大学生を対象とし、VTR による鉄棒逆上がりの動作パターンを分 析した。その結果、成功時には、首の位置は一度鉄棒を超えた後に再び鉄棒側に戻り、腰の位置 は鉄棒より離れながらほぼ水平移動してから上方への移動が認められたと述べている。失敗時に は、首の位置は最も低い地点を通過した後に上昇を示さず、腰の位置は鉄棒の高さに達した以降 も同じ高さでいる傾向が認められたと述べている。これらのことから、成功時の動作は、上体の

(2)

後方への倒れ込みの早いことに起因し、指導上の重要なポイントであると示唆した。また、岡本

(2017)は、低鉄棒の逆上がりにおける初心者指導では、従来から足の振り込みに力点が置かれ ることが多かったが、踏み切り足を鉄棒の真下に位置する姿勢をとり、身体重心は鉄棒の後方に 位置させることで、重力による回転方向のトルクを受けて、鉄棒逆上がり動作の回転のきっかけ を作ることが可能になると述べている。さらに、中西(2017)は、女子大生を対象にアンケート 調査した結果、対象者の多くが鉄棒逆上がりのための有効な技術として、小学校生以下対象の書 籍に示される肘を曲げて回る技術が正しいと理解しており、中学高等学校教員を対象とした書籍 に示される肘を伸ばして回る技術を教えられていないことを報告している。

 小学校で行われる鉄棒逆上がりは片脚振上げ型であるが、橋爪と高邑(2005)は、児童を対象 にその動作を分析した結果、準備局面での支持脚が離床する時点で、主要局面となる上体の後方 への倒し速度が最大になり、その後の振り上げ脚の速度は大きくなり続けることによって達成さ れていることを示した。同様に、山本ら(1992)は、児童の鉄棒逆上がりに関し、その動作の遂 行上、脚の振り上げと逆位が重要であると述べている。また、大内ら(1994)は、鉄棒逆上がり は筋力に頼らない方法で達成されていることを示し、児童の体力と運動能力の低さおよび形態の 大きさが動作を難しくすると述べている。一方、幼児を対象とした研究として、山本(2007)は 鉄棒逆上がり動作中の身体重心の移動パターンを分析した。その結果、習得者と未習得者に差異 が見られ、助走期の動作の機序と踏み切り足の位置といった巧緻的な要因が影響すると報告して いる。また、中西(2017)は幼児を対象に静止画像による動作分析を行った。その結果、鉄棒逆 上がりを円滑に遂行できた被験者は、主要局面で肘を伸ばして回る傾向が強く、その技術が有効 である可能性を示唆した。

 以上のように、鉄棒逆上がりに関して、成人および児童を対象とした研究においては、いくつ かの分析結果が得られているが、幼児を対象とした研究は依然として少ない。幼児は児童に比べ て筋力の発達の度合いが低く、神経系の発達が著しいことから、巧緻性の良否が動作遂行上の要 因になるものと考えられる。よって、その動作を詳しく分析することで、鉄棒逆上がりの指導上 の有益な情報が得られると考えられる。本研究では、幼児を対象とし、先行研究においても鉄棒 逆上がりの技術的着眼点とされている身体部位の肩と腰の位置の変化を分析し、習得者と未習得 者におけるその動作の差異を明らかにすることを目的とした。

2. 方法 2.1 対象

 本研究では、幼稚園において運動遊びの一環として実施している鉄棒逆上がり運動の様子をビ デオ撮影し、参加した幼児の中から習得者と未習得者を選定し分析対象とした。ビデオ撮影は、

幼稚園年長クラスの幼児が体育指導の一環として鉄棒逆上がりを実施している際に行った。なお、

実施に際しては、幼稚園長に本研究の目的と方法を説明し、承諾を得た。また、保護者に対して は、幼稚園を通じて説明し、書面にて同意を得た。

 ビデオ撮影した幼児は年長クラスの 52 名である。その中で、鉄棒逆上がり運動を習得してい

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た幼児は 5 名であり、その 5 名を習得群として分析した。一方、鉄棒逆上がり運動を習得してい ない幼児の中で、振り上げた足が鉄棒横棒に近づく動作タイプと近づかない動作タイプの 2 つに 大別できることが目視により確認でき、近づかない動作タイプの中から習得群と同等のカウプ指 数の幼児を 5 名選定し未習得群として分析した。カウプ指数は、幼稚園側から提供された分析対 象者の直近の身長および体重の測定値から算出した。なお、分析対象者の選定に際しては、体力・

運動能力の性差は小さいと考えられることから、性別を考慮しなった。分析対象とした習得群お よび未習得群の年齢および身体的特徴は表 1 の通りである。

2.2 試技

 試技に使用した鉄棒の高さは 81cm であり、おおよそ幼児の胸から肩の高さである。試技に際 しては、鉄棒横棒の中心が両手の中心に位置するように指示したが、立ち位置等は任意で行わせ た。また、鉄棒の握り方は、全ての対象者が順手握りであった。なお、試技 1 回目のみをビデオ 撮影し分析対象とした。

2.3 ビデオ撮影

 4 点法による 2 次元的画像解析法(三浦ら,1986)に従い、鉄棒逆上がり動作を右側方からビ デオ撮影した。校正点となる 4 つのマーカーは、地面上に、鉄棒の横棒と縦棒がなす面に垂直に 交わる長方形の面の 4 角に設置した。長方形は、その中心と鉄棒横棒の中心から地面へ鉛直に降 ろした点が重なるようにし、縦 2m、横 1m の間隔で設置した。使用したマーカーの大きさは、

縦 0.10m、横 0.05m である。ビデオカメラは、鉄棒横棒の中心位置からその延長上の 14m 離れ たに位置に、その高さを鉄棒の横棒と同じ 0.81m として設置した。カメラ光軸は、鉄棒横棒と垂 直に交わる平面と垂直に交わるように調節した。ビデオ撮影では、デジタルビデオカメラ

(Panasonic…社製)をスポーツモードに簡易設定し使用した。

2.4 2 次元座標の算出

 身体計測点として、右肩峰、右大転子および左右踵骨隆起を用いた。これらの身体計測点のビ デオ画像の 2 次元座標は、PS デジタイザ(フィジカルソフト社製)を用い、1/60fps のサンプリ ングでデジタイズして得た。デジタイズは目視により行い、隠れ点は前後の動作から推測した。

各身体計測点の 2 次元座標データは、3 点移動平均によって平滑化し、4 点法による 2 次元的画 像解析法(三浦ら,1986)およびビデオカメラのアスペクト比により実長換算した。実長換算し

習得群 (n=5) 5.6 ± 0.55 114.8 ± 1.15 19.5 ± 0.87 14.8 ± 0.65 未習得群 (n=5) 5.2 ± 0.45 113.9 ± 1.54 19.3 ± 1.09 14.9 ± 0.76 カウプ指数 体重

身長 年齢

(kg)

(cm)

(才)

表 1 対象者の年齢および身体的特徴

(4)

た各身体計測点の 2 次元座標と対象者の年齢およびカウプ指数に適合した身体部分係数(横井ら,

1986)を用い、身体重心の実空間の 2 次元座標を算出した。なお、本研究では、鉄棒逆上がり動 作の軸となる鉄棒横棒の中心を 2 次元座標の原点とした。

2.5 分析

 本研究では、鉄棒逆上がり動作を、右肩峰および右大転子の軌跡と位置、左右踵骨隆起の位置 から分析した。また、その動作を、動作開始から支持脚が離地するまでを助走期、それ以降を遊 脚期として分け、各期における計測点の軌跡および変位を時間微分した速度から分析した。なお、

データ分析範囲は、動作開始から動作終了付近の大転子が最大鉛直位に至る時点までとした。

2.6 統計処理

 各計測点の距離および速度のデータは、全て平均値と標準偏差で示した。平均値の統計的有意 差の検定は、対応のない t 検定を用い、その有意水準を 5% 未満とした。

3. 結果

〔肩峰と大転子の軌跡〕

 助走期および遊脚期における肩峰の軌跡は、図 1 および図 2 の通りの様相を示した。また、助 走期および遊脚期における大転子の軌跡は、図 3 および図 4 の通りの様相を示した。

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図 1 助走期の肩峰(右側)の軌跡 原点:鉄棒軸

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図 3 助走期の大転子(右側)の軌跡 原点:鉄棒軸

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図 4 遊脚期の大転子(右側)の軌跡 原点:鉄棒軸

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図 2 遊脚期の肩峰(右側)の軌跡 原点:鉄棒軸

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〔肩峰と大転子の水平方向および鉛直方向の移動距離〕

 肩峰の水平方向および鉛直方向の移動距離をそれぞれ表 2 および表 3 に示した。助走期におい ては、水平移動距離では習得群と未習得群の間に有意差は認められなかったが、鉛直移動距離で は習得群に比べて未習得群が有意に高い値を示した(p<0.01)。また、遊脚期においては、水平 移動距離と鉛直移動距離ともに習得群と未習得群の間に有意差は認められなかったが、鉛直移動 距離では習得群に比べて未習得群が低い傾向を示した(p=0.07)。

 大転子の水平方向および鉛直方向の移動距離をそれぞれ表 4 および表 5 に示した。助走期にお いては、水平移動距離と鉛直移動距離ともに、習得群と未習得群の間に有意差は認められなかっ た。また、遊脚期においては、水平移動距離では習得群と未習得群の間に有意差は認められなかっ たが、鉛直移動距離では習得群に比べて未習得群が有意に低い値を示した(p<0.01)。

習得群 (n=5) 14.88 ± 4.06 7.52 ± 3.51 未習得群 (n=5) 11.15 ± 9.90 23.39 ± 7.96 **

**:p<0.01:対応のないt検定(習得群 vs 未習得群)

水平移動距離 鉛直移動距離

(cm) (cm)

表 2 助走期における肩峰の水平方向および鉛直方向の移動距離

習得群 (n=5) 20.50 ± 18.07 27.79 ± 10.05 未習得群 (n=5) 25.99 ± 15.57 12.50 ± 13.13

水平移動距離 鉛直移動距離

(cm) (cm)

表 3 遊脚期における肩峰の水平方向および鉛直方向の移動距離

習得群 (n=5) 53.08 ± 15.22 10.45 ± 4.47 未習得群 (n=5) 47.67 ± 20.62 13.33 ± 1.86

水平移動距離 鉛直移動距離

(cm) (cm)

表 4 助走期における大転子の水平方向および鉛直方向の移動距離

習得群 (n=5) 26.20 ± 15.01 33.08 ± 10.65 未習得群 (n=5) 37.80 ± 26.87 13.43 ± 2.41 **

**:p<0.01:対応のないt検定(習得群 vs 未習得群)

(cm) (cm)

水平移動距離 鉛直移動距離

表 5 遊脚期における大転子の水平方向および鉛直方向の移動距離

(7)

〔肩峰と大転子の助走期および遊脚期の最大速度〕

 肩峰の助走期および遊脚期の最大速度を表 6 に示した。助走期と遊脚期ともに、習得群と未習 得群の間に有意差は認められなかった。

 大転子の助走期および遊脚期の最大速度を表 7 に示した。助走期では習得群に比べて未習得群 が有意に低い値を示し(p<0.05)、遊脚期では習得群と未習得群の間に有意差は認められなかった。

〔肩峰と大転子の鉄棒軸との距離〕

 肩峰と鉄棒軸との距離を表 8 に示した。助走期と遊脚期では、習得群と未習得群の間に有意差 は認められなかったが、離地時では習得群に比べて未習得群が有意に高い値を示した(p<0.05)。

 大転子と鉄棒軸との距離を表 9 に示した。助走期、支持脚離地時および遊脚期の全てで、習得 群に比べて未習得群が有意に高い値を示した(助走期:p<0.05,支持脚離地時・遊脚期:

p<0.01)。

習得群 (n=5) 2.65 ± 0.43 2.29 ± 0.64 未習得群 (n=5) 1.91 ± 0.43 1.97 ± 0.84

*:p<0.05:対応のないt検定(習得群 vs 未習得群)

(m/sec) (m/sec)

遊脚期最大速度 助走期最大速度

表 7 助走期および遊脚期における大転子の最大速度 習得群 (n=5) 1.07 ± 0.13 1.53 ± 0.31 未習得群 (n=5) 1.55 ± 0.20 1.55 ± 0.67

遊脚期最大速度 助走期最大速度

(m/sec) (m/sec)

表 6 助走期および遊脚期における肩峰の最大速度

習得群 (n=5) 24.26 ± 5.07 24.75 ± 4.98 33.82 ± 3.95 未習得群 (n=5) 28.90 ± 7.38 32.32 ± 4.49 33.76 ± 5.42

*:p<0.05 対応のないt検定(習得群 vs 未習得群)

(最大値:cm)

 支持脚離地時 遊脚期

助走期

(cm) (最小値:cm)

表 8 助走期、離地時および遊脚期における肩峰と鉄棒軸との距離

習得群 (n=5) 39.21 ± 3.71 40.56 ± 3.54 38.38 ± 3.55 未習得群 (n=5) 46.69 ± 4.32 51.12 ± 1.62 ** 57.39 ± 3.08 **

*:p<0.05, **:p<0.01:対応のないt検定(習得群 vs 未習得群)

(cm) (最小値:cm)

(最大値:cm)

 支持脚離地時 遊脚期

助走期

表 9 助走期、離地時および遊脚期における大転子と鉄棒軸との距離

(8)

4. 考察

 本研究では、幼児の鉄棒逆上がりにおいて、その技術的着眼点である身体部位の肩を肩峰によっ て、腰を大転子によって、それらの位置の変化を分析し、習得者と未習得者の動作の差異を明ら かにすることを目的とした。

 肩峰の軌跡は、習得群では、動作開始から支持脚離地にかけて前方へ移動し、支持脚離地後に 下方へ移動し、遊脚期中盤から終盤にかけて上方へ移動する様相が見られた。未習得群では、動 作開始から助走期中盤にかけて下方へ移動し、その後支持脚離地にかけて前方へ移動し、支持脚 離地から終盤にかけても前方へ移動する様相が見られた。一方、大転子の軌跡は、習得群では、

助走期は前方へ移動し、遊脚期中盤から終盤にかけて上方へ移動し、鉄棒軸へ近づく様相が見ら れた。未習得群では、助走期は前方へ移動し、遊脚期も中盤まで前方へ始動し、終盤にかけて緩 やかに上方へ移動しているが鉄棒軸へは近づかない様相が見られた。すなわち、習得群は、助走 しながら肩を鉄棒軸に近づけていき、支持脚の蹴りと同時に上体は後方へ倒れ込み、肩は鉄棒軸 から一旦離れるが腰の上昇に伴い終盤にかけて再び近づくといった動作であると考えられる。一 方の未習得群は、助走しながら鉄棒にぶら下がるように肩が鉄棒軸から離れ、支持脚の蹴りが行 われた後も腰と肩の上昇が行われないといった動作であると考えられる。このような幼児の鉄棒 逆上がりにおける習得群と未習得群の動作パターンは、奥野(2016)による大学生の鉄棒逆上が り時の首と腰の位置から分析した成功時と失敗時の動作パターンと類似していると考えられる。

また、高橋(1995)は準備局面から主要局面での中核技術である腰部の振り上げとけりに同期し た上肢の引き寄せと協働した上体の後方への倒しの技術が重要であると述べており、児童が鉄棒 逆上がりを遂行する上で重要な動作は脚の振り上げと逆位である(山本ら,1992、大内ら,

1994)とも述べられており、幼児においても同様に重要な動作であると考えられる。つまり、形 態や筋力に差異があるとしても、鉄棒種目の基礎的技術である逆上がり運動を達成するにあたっ ては、その運動の機序は同様であり、幼児期の鉄棒逆上がり運動の習得は可能であることが示唆 される。一方、鴻巣ら(2018)は片脚振上げ型逆上がりにおいては支持脚踏切の離地による運動 エネルギー利用の技術とメカニズムを明らかにすることが指導法確立に重要であると述べおり、

幼児の鉄棒逆上がり運動における動作の詳細な分析が指導法確立に重要であると考えられる。

 肩峰と大転子の水平方向および鉛直方向の移動距離は、肩峰では、助走期の下方移動において 未習得群の方が大きく、遊脚期の上方移動において未習得群の方が小さい傾向が認められた。ま た、大転子では、助走期に差異は認められず、遊脚期の上方移動において未習得群の方が小さい といったことが認められた。一方、肩峰と大転子の助走期および遊脚期の最大速度は、大転子の 助走期において未習得群の方が小さく、その他に差異は認められなかった。さらに、肩峰と大転 子の鉄棒軸との距離は、肩峰では支持脚離地時に未習得群の方が大きく、大転子では助走期の最 大値、支持脚離地時および遊脚期の最小値の全てにおいて未習得群の方が大きいといったことが 認められた。これらの習得群と未習得群の比較から、幼児の鉄棒逆上がり運動の動作機序の重要 な点は、助走期の肩峰の移動様相、助走期の大転子の最大速度、支持脚離地時の肩峰および大転 子と鉄棒軸との距離であると考えられる。すなわち、鉄棒逆上がり運動を達成するためには、肩

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峰および大転子の軌跡とともに検証すると、肩は助走期に下方へ移動させることなく鉄棒軸へ近 づけ、腰は助走期に移動速度を高めつつ支持脚離地時に鉄棒軸から遠ざけないといった動作が必 要であると考えられる。しかし、従来から、成人を対象とした研究によると、逆上がりの成否に おいて蹴り上げ初速に大きな差はなかったが、脚の振り上げ角度では低運動技能者群の方が高運 動技能者群より大きい角度であったとの報告(野崎ら,1990)や、踏切時に振上脚を大きく振上 げるとともに、振上脚に蓄積された運動エネルギーを遊脚期前半の股関節伸展トルク発揮により 体幹部へ伝達する技術が、逆上がりの成功に重要であると示唆されるとの報告(鴻巣ら,2018)

がある。このように、成人においては踏み切り時の脚の蹴り動作と力発揮が重要であると示唆さ れているが、幼児の形態、筋力および鉛直方向への跳躍能力については性差が認められず、幼児 の筋力発揮の発達には神経系の要因の影響が大きいこと(八木ら,1994)、リバウンドジャンプ 遂行能力に必要とされる神経-筋機能および中枢神経系における運動調節機構の発達が促されて いることが推察できること(坂口,2013)から、幼児においては踏み切り動作と力発揮が重要な 要因になるとは考えられない。岡本(2017)は、足の振り込みに指導の力点が置かれることが多 かったが、鉄棒下に足を位置する姿勢をとれば、身体重心は鉄棒の後方に位置し、重力によって 身体重心は逆上がりと同じ回転方向のトルクを受け、それによって逆上がりの回転のきっかけを 作ることが可能となると述べており、橋爪(2005)は児童を対象とし、準備局面での支持脚が離 床する時点で、主要局面となる上体の後方への倒し速度が最大になり(有意な因子)、その後も 振り上げ脚の速度は大きくなり続けることによって逆上がりができていることが確認されたと報 告している。また、山本(2007)は幼児の鉄棒逆上がりにおいて、習得者と未習得者に助走期の 身体重心移動パターンに差異が見られ、踏み切り足の位置の差異が要因と考えられると述べてい る。これらのことから、幼児の鉄棒逆上がりの達成の成否は、踏み切りの動作や力発揮の影響は 考えられるが、本研究結果から得られた助走期の腰の移動速度と鉄棒からの距離といった、支持 脚の位置および支持脚接地までの動作機序が大きく影響を及ぼすものと考えられる。

 本研究では、肩峰と大転子の位置と速度の変化、すなわち肩と腰の動きに焦点を当てて分析し たが、先行研究で行われている力発揮などの分析により幼児の鉄棒逆上がり運動の動作を明らか にする必要性は考えられるが今後の課題としたい。

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参照

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