はじめに
不登校概念の歴史的経過について整理すると,
若林(1980)は,学校恐怖症(schoolphobi
a
) または登校拒否(schoolrefusal)という問題が,1960年前後に注目し始めたと整理している。また,
齋藤(2016)は,1990年代に入る頃から「不登校」
という表記で,用いられる頻度が高まったとして おり,1992年の文部省学校不適応対策調査研究協 力者会議による報告書において,登校拒否が「ど の子にも起こりうる現象」として公認されたこと を機に,1990年代半ばには,現在の「不登校」が 学校現場や社会において定着していったと整理し た。
齋藤(2016)は,現在汎用されている不登校概 念について,本来ならば多様な背景をもつ学校欠
席状態を広く扱ったものであるが,従来の登校拒 否とほぼ一致する概念として用いられていると指 摘している。
そこで本研究における「不登校」とは,文部科 学省の定義に基づき,「何らかの心理的,情緒的 要因,身体的あるいは社会的要因・背景により,
登校しないあるいはしたくともできない状況にあ るため年間三十日以上の欠席した者のうち,病気 や経済的な理由による者を除いたもの,また,神 経発達症群の診断を受けていないもの」とする。
また,どの発達段階で不登校を呈するかによって,
その背景や要因に傾向が見られるため,本研究で は,「中学校段階で不登校を呈した」不登校経験 者を対象とし,限定して論じることとする。
我が国の「平成28年度児童生徒の問題行動・不 登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(速 要旨
学校教育を卒業すると形式上の不登校は解消される。しかしながら,不登校であったことの二次被害から学校教 育段階のその後の社会生活への移行や対人関係において,困難が生じる可能性も高く,不登校を経験した後の適応 や支援についても引き続き検討する必要がある。不登校状態である当事者への心的側面における支援等の研究は多 く見受けられるが,進路の視点で不登校研究を論じているものは,かなり少ないといってよい。本稿は,中学校段 階で不登校を呈した生徒に対象を限定し,森田(200
3
)の調査から「中学校卒業後」について回想した42名の回答
を抽出し,SPSSTextAnalysi sForSurvey
4.
0を用いて,テキストマイニングの手法で分析を行った。当事者 において,不登校を経た中学校卒業後は「ポジティブ」「ネガティブ」と相反する感情を抱いており,その背景に は,進路選択時における支援者「親」「教師」「友人」の関わりが影響を及ぼしていることが示唆された。キー・ワード:不登校経験者の中学校卒業後,進路選択,進路形成
中学校段階における不登校経験者のその後の 進路選択に関する考察
川 上 知 子
Careerchoi ceoftheexperi enceofschoolnon-attendance atj uni orhi ghschooll evel
TomokoKawakami
報値)について」をみると,高等学校における不 登校生徒数は48
,
565人(前年度49,
563人),在籍 者数に占める割合は1.
46%(前年1.
49%)と,や や減少傾向にあるが,小・中学校における不登校 児童生徒数は133,
683人(前年度125,
991人),在 籍者数に占める割合は1.
35%(前年度1.
26%)と,依然として高水準で推移している。 また伊藤
(2016)は,中学を卒業した不登校生徒たちの進 学率に関して,平成5年度の65
.
3%から平成18年 度は85.
1%(「不登校生徒に関する追跡調査研究 会,(2014)」)まで改善されていることをうけ,義務教育段階で不登校を経験した多くの生徒たち が高校に進学し,中途退学せずに高校を卒業する 生徒たちが増加していると整理している。しかし ながら,不登校経験のない生徒たちの高校進学率 に比べると,まだ現状に課題があることを指摘し ている。さらに,高校生の不登校は「高校中退」
「貧困」「ひきこもり」に関連するという指摘もあ り(青砥,2009),学校教育段階のその後の社会 生活への移行や対人関係において,困難が生じる 可能性も高く,不登校を経験した後の適応や支援 についても引き続き検討する必要があることは言 うまでもない。
不登校経験のその後に関する研究動向 不登校経験のその後の研究について大別すると 4つに整理されよう。1つは,不登校経験のその 後について具体的な事例(森田,2003)と支援
(服部・塩見・福井・大対,2012)について述べ たもの。2つ目は,通信制高校や定時制高校での 適応に関して述べたもの(大塚・真田・保坂,
2015)。3つ目は不登校経験の意味づけとその影 響について述べたもの(松井・笠井,2012;高橋,
2010)。4つ目は,不登校経験がその後の生活に 与える影響(高橋,2009)などがある。
松井・笠井(2012)は,「不登校経験のある子 どもたちが,その後どのような生活を送っている のかといった予後に関する調査や研究はあまり進 んでいない」と指摘し,笠井(2012)は,義務教 育終了後の不登校経験のある子どもたちのフォロー アップ活動や継続的支援の意義についての研究等
を通して,不登校経験がその後の生活にどのよう な影響を及ぼしているかについて考察を行ってい る。
また,「不登校に関する実態調査-平成5年度 不登校生徒追跡調査報告書」(文部科学省,2001)
の調査結果のように,不登校のその後について追 跡調査を行った研究も散見される。森田(2003)
は,「不登校問題」について従来指摘されてきた ような「心の問題」だけではなく,「進路の問題」
(進路形成,進路実現にかかわる問題)でもある と指摘している。さらに,中学校卒業後5年にわ たる進路形成過程とその時々の状況に関する評価 を見ていく中で,不登校であったことが進学のみ ならず就職に関しても大きな影響を及ぼしうるこ と,そして不登校に伴う「心の問題」の深刻さは
「進路の問題」との向き合い方と関連があるとも 示唆した。
これらを踏まえてこれまでの不登校経験に関す る研究の動向をみると,不登校や引きこもりが背 景にある青年に対し,人づき合いのスキルを向上 させることを狙いとしたSST(Soci
alSki l l s Trai ni ng
)を実施し,その効果を調査したもの(服部,2012)などのように不登校がもたらした
「心の問題」の治療やスキルを高めるといったも の,また,コミュニティ・アプローチ(目黒,
1998)メンタルフレンド(東,2001)などのよう に支援についても心的側面ついて論じたものが多 く見受けられる。
一方,不登校がもたらしたものを「進路の問題」
として捉えた研究は,進路形成という観点におい て論じたものとして,「キャリア発達という視点 からみた高校生の不登校事例不登校研究(田中,
2009)」など散見されるが,その数は「心の問題」
として論じたものに比べるとかなり少ないといっ てよい。
このことから,不登校問題を「進路の問題」と して捉えなおし,進路形成の視点で考察すること は,不登校支援の在り方や具体的支援について新 たな知見を得ることにつながるのではないかと考 えている。栗山(2016)は,進路形成に関して,
「進路選択」の積み重ねによってなされるもので あるとし,複数回の選択の結果という時間軸を必
要とする概念であると整理している。
笠井(2017)は,中学生時代に不登校であった 生徒の保護者を対象に,子どもの進路選択過程に 影響を及ぼす要因についての考察を行った。その 要因の一つとして,本人の学校に対する認識があ ると示唆し,進路選択やその後の適応に影響を及 ぼしていると述べている。
このことを踏まえ本研究では,中学校段階で不 登校を経験した本人を対象とし,中学校卒業後に どのような進路選択を経て,進路形成が行われて いるのかについて,その実態の一部を明らかにし たいと考えている。
不登校経験者が語る中学校卒業後 森田(2003)の著書「不登校―その後~不登校 経験者が語る心理と行動の軌跡」では,中学校3 年生のときに不登校であった生徒467名を対象に,
卒業してから5年後の20歳になったときに実施し たインタビュー調査についての集計,分析,考察 を行った結果について集約されている。また森田
(2003)は,本書を発行するにあたった背景の一 つとして,不登校に関心をもって取り組んでいる 機関や団体,立場によって,同じ調査結果であっ ても着眼点や見え方,解釈が異なるとし,この調 査結果を様々な方々に有効活用してほしいという 想いから社会に向けての公表に踏み切り,本書の 刊行につながったと述べている。本書の中で,不 登校を経験した生徒のフォローアップ調査を行っ ており,事例集のような形で個別に調査結果が記 載されている。
森田(2003)自身も「不登校のその後」につい て,ケーススタディとして論じられているが,多 様な進路へ進んだ人々,また進まざるを得なかっ た人々を対象とした大規模なフォローアップ調査 は,これまで実施されたことがないと述べている。
たしかに,2018年現在においても,不登校を経験 した多くの人々を対象としたフォローアップ調査 について論じたものは見当たらない。それだけに,
この調査結果はとても貴重価値の高いものであり,
森田(2003)が述べているように,多角的に考察 することで,新たな知見が得られると考える。
そこで,この著書の中にあるインタビュー調査 の質問項目の一つである「中学校卒業後」に着目 した。記載された回答を,分析・考察を行うこと で,中学校段階における不登校経験者が「中学校 卒業後」を回想する中で,どのような感情が表出 し,中学校卒業後にどのような進路選択を行った のかについて分析・考察を行う。
分析対象者
森田(2003)の著書「不登校 その後 不登 校経験者が語る心理と行動の軌跡 」に記載さ れたフォローアップ調査は,中学校3年生時に不 登校であった生徒が卒業して5年後の20歳になっ た467名を対象に実施されたものである。著書の 中で取り上げられた75事例のうち,中学校段階で はじめて不登校となった42事例(男性15名;女性 27名)分の「中学校卒業後」の項目についての回 答を抽出し,分析の対象とした。
結果と考察
42名分の「中学校卒業後」における回答をデー タ化し,SPSS TextAnal
ysi sForSurvey
4.
0 を用いて,テキストマイニングの手法で分析を行っ た。まず,テキスト分析パッケージ(以下TAP) の感性分析を用いて暫定的にカテゴリ生成を行い,その発言の傾向についての考察を試みた。
TAP
の感性分析の結果,「ポジティブ」(39件),「ネガティブ」(34件),「その他―要望」(10件),
「その他―提案・忠告」(5件)の4つのカテゴリ が生成された。( )内に示した件数は,そのカ テゴリに分類されたレコード数である。これらの ことから,中学校段階における「不登校経験者」
にとって「中学校卒業後」からこれまでを振り返っ たときに,「ネガティブ」 な側面だけではなく
「ポジティブ」な側面として捉えている者が多い ことが示された。
さらに,これら4つのカテゴリにおける重なり 度合いを調べるために,カテゴリ棒グラフで示し てみる。例えば,「ネガティブ」のカテゴリとそ の他3つのカテゴリとの重なり度合いを示したも
のがFi
gure1である。これは「中学校卒業後」
を「ネガティブ」だと捉えている者の約91
.
1%が「ポジティブ」なものとも捉えていることを示し ており,中学校段階における不登校経験者にとっ て「中学校卒業後」に起きた,または起きている 事柄を解釈すると,「ポジティブ」と「ネガティ ブ」という相反する感情が共存していることが示 唆された。
これらのことから,不登校という現象に対する 負のイメージが払拭されていない社会において,
ややもすれば,「不登校経験者」に対してネガティ ブな進路形成を抱く傾向は否定できない。しかし ながら,不登校を経験した当の本人にとっては,
必ずしもネガティブな側面だけではなく,自身の 経験の中で「ポジティブ」な側面を見出している ことに,支援者をはじめ周りは理解しておく必要 があるのではないかと考える。
さらに,不登校経験者にとっての「中学校卒業 後」をさらに深く分析し,進路形成との関連につ いての考察を行うために,未カテゴリ化のレコー ドに関して,タイプごとの傾向を探った。件数が 圧倒的に多かったものが次の上位4つであった。
名詞42件,組織名41件,動詞41件,形容詞35件と なっており,例えば,組織名に属する具体的なも のとしては,「高校」「通信制高校」「定時制高校」
などの進学先を示すものが多かった。
ここで,これら4つの未カテゴリ化の「名詞」
に着目した。「名詞」は,話題・トピックを表し,
名詞を追うことによって,話者が何について語ろ うとしているのか,何を問題としているのかを明 らかにすることができるからである(内田・川嶋・
磯崎,2012)。「名詞」によるカテゴリの自動生成
を行い,それだけでは意味をなさないカテゴリを 削除した結果, 27個のカテゴリが生成された
(Fi
gure
2)。「中学校卒業後」に関して,「ポジティ ブ」「ネガティブ」に続いて5割を超えたカテゴ リは,「自分」「卒業」「相談」「進学」の4つであっ た。それぞれのレコード件数の内訳は,「ポジティ ブ」(39件),「ネガティブ」(34件),「自分」(31 件),「卒業」(25件),「相談」(22件),「進学」(21 件)であった。そしてここで,高い件数であったカテゴリ「自 分」に関してとても特徴的だったことは,「決め る」という動詞で,レコード内を検索すると,
「自分で―決めた」のように「自分」とセットで
「決める」が出現していたことである。これに関 しては,色々な解釈が可能となるが,その一つと して,「自立」の観点で整理することができると 考える。
中西・平石(2000)は,自立の観点から思春期 危機に直面している子どもにおける「自立に向か うプロセス」を次の4つの段階,①前駆症状期,
②危機期,③転換期,④模索・再構築期,で仮説 的な想定を行った。注目したいのは4つ目の段階 である「模索・再構築期」。この段階においては。
周りの助けを借りつつ自分の力で進路を考え,選 択する力を身に付けていく時期であると整理した。
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Fi gure1. 「ネガティブ」カテゴリ棒グラフ。
21.4 50 14.3
38.1 23.8 11.9
23.8 31
73.8 59.5 26.2
38.1 35.7 19
23.8 28.6
52.4 16.7
19 38.1 11.9
92.9 11.9
11.9 38.1 23.8
81
0 20 40 60 80 100
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ࣜྡ
Fi gure2. 「すべてのレコード」選択時のカテゴリ棒グラフ。
今回の分析で「自分―決める」がセットで出現 していることに鑑み,中学校卒業から20歳までの 5年間の中で,4つ目の段階「模索・再構築期」
に位置し,「ポジティブ」と「ネガティブ」の相 反する感情の狭間で葛藤しながらも,自身の進路 形成を行おうとするプロセスが垣間見られたとも 整理できよう。また,「卒業」と重なりの度合い が5割を超えたカテゴリは,以下の6つのカテゴ リであった(Fi
gure
3)。このことから,「卒業」について語った者の100
%が中学校卒業後に対して「ポジティブ」な発言 をしていることがわかる。「卒業」は1つの目標 達成の象徴であり,「ポジティブ」な側面をもち やすいと考えられる。一方,「卒業」は,次の居 場所となる就職先や「進学」を連想させ,不安を 伴い,「ネガティブ」な感情につながる側面もも つとも解釈できる。それらの相反する感情が共存 した,とても不安定な心理状態において,誰かに
「相談」する行為は,必要不可欠であるといえよ う。
これまで用いてきたカテゴリ棒グラフと同様に
Fi gure
4で示したカテゴリWebもカテゴリ間の重 複の度合いを調べるためのものである(内田他,2012)。Web上の「●」は,各カテゴリを意味し,
その大きさは回答者の数と比例している。また,
カテゴリ間の線の太さは,重複している共通のレ コードの数を表している (内田他, 2012)。
Fi gure
4は,「中学校卒業後」の回答において,カテゴリ「自分」との重複度合いをサークルレイ アウト(内田他,2012)で示したものである。触 れるまでもないが,
Fi gure
4で示されたのは,「中学校卒業後」の一部を視覚化したものに過ぎ ないが,「自分」を語る上では,複雑な背景,感 情が入り乱れていることがFi
gure
4からも見て取 れる。ここで27個のカテゴリの中の「親」「担任」「友 達」の3つのカテゴリに着目する。不登校を経験 した者にとって最も身近な存在である「親」,本 人と学校・社会とをつなぐ役割を担っている存在 ともいえる「担任」,「友達」の3つの視点で別の 角度から「中学校卒業後」における分析を行うこ ととする。Fi
gure
4で示したように,すべてのカ テゴリを対象にすると,複雑さを示すことはでき るが,傾向をつかむことに課題があるため,重複 度合いが5割を超えたものを視覚化し,それぞれ の傾向についての考察を行う。Fi gure 5
は,「中学校卒業後」について回答し た中で,「親」についての述べた者と重複度合い が5割を超えた頻度の高いカテゴリを示したもの である。中学校卒業後において,線の太さから
࣏ࢪࢸࣈ
ࢿ࢞ࢸࣈ
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ࠕ༞ᴗࠖࡢ㔜࡞ࡾ௳ᩘ⋡㸦㸣㸧
࢝ ࢸ ࢦ
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Fi gure3. 「卒業」選択時 カテゴリ棒グラフ。
Fi gure4. 「自分」選択時 カテゴリWebサークルレイアウト。
「親」の存在は,「ポジティブ」と捉えている者が 多い傾向であることがわかる。また,入学や卒業 という人生の分岐点において,「相談」相手とし て位置づけられているとも解釈できよう。
同様に,Fi
gure
6は,「先生」との重複度合い を示したものである。これも線の太さから,不登 校を経験した者にとって「先生」は,「ネガティ ブ」にも「ポジティブ」にもなり得るとても影響 をもった存在であるといえる。特に,「進学」や「卒業」の場面でその影響を受けやすいというこ とを示唆した結果であるといえよう。
さらに,Fi
gure
7は,「友達」との重複度合いを示したものだが,「先生」のときと同様,不登 校を経験した者にとって「ネガティブ」「ポジティ ブ」どちらにもなり得る影響をもった存在である とともに,「親」のカテゴリと同様,本来は「卒 業」や「進学」の場面において「相談」や色々な 感情を共有したい存在でもあると推察される。
これらの結果から,不登校を経験した者との関 わりや支援において,それぞれの立場による影響 力というものが存在するのではないかと考える。
「親」は「相談」の場面でどう関わるのか。「先生」
は「進学」「卒業」など進路決定の分岐点でどん な言葉でどう関わるのか。「友達」に関しては,
Fi gure5. 「親」選択時 カテゴリWebサークルレイアウト。
Fi gure6. 「先生」選択時 カテゴリWebサークルレイアウト。
Fi gure7. 「友達」選択時 カテゴリWebサークルレイアウト。
実際のインタビュー内容から考察すると,中学校 を卒業した後,「友達」との出会いがあったこと について回答している者が多数いた。
平石(1998)は,子どもにとっての重要な対人 関係を「タテ関係(親や教師などの大人との関係)」
と「ヨコの関係(友達との関係)」の2つに大き く分類できるとした。さらに,実際に不登校の子 どもたちの傾向として,この両方の対人関係やそ の関係のバランスに課題があるとも指摘している。
Fi gure
5,7から,「親」「友達」の双方のカテ ゴリにおいて「相談」との重複が見られるが,線 の太さにおいて比較すると「親―相談」のカテゴ リ間がより重複度合いが高いといえる。このこと から,中学校段階で不登校を経験した者にとって,中学校卒業後の段階は,親(タテ関係)から,友 達(ヨコ関係)への移行期にあることを示唆して いるともいえよう。
まとめと今後の課題
これまでの分析結果から,大きく以下の2つの ことが示唆されたと考える。
1点目は,中学校段階における不登校経験者に とって「中学卒業後」は,「ネガティブ」,「ポジ ティブ」といった二つの相反する感情が共存して いることである。この結果は,学校現場において,
「いじめ」と同様に問題行動として扱われる傾向 にある「不登校」への捉え方自体に,まずは課題 があるのではないかと考えさせられるものであっ た。
2点目は,進路選択や人生の分岐点において,
「親」「教師」そして「友人」の影響を受けている ということである。より深い部分での相談対象と なり得る「親」「友人」との関係性やかけられる 言葉によって,当事者の進路選択において「ネガ ティブ」にも「ポジティブ」にもなり得ることが 示唆された。進路形成や人生の分岐点における場 面においての結果であるが,進路形成においても 同様な影響が考えられるといっても過言ではない。
高岸幸弘・井出智博・蔵岡智子(2017)は,高 校生の時間的展望について普通高校と通信制高校 に通う高校生の比較を行っている。普通高校と通
信制高校に在籍する高校生の時間的展望について 検討を行なっており,因果関係は不明としつつ,
通信制高校の生徒が普通高校の生徒よりも将来を ポジティブに捉えていないという事実は問題視す べきであると指摘している。
不登校経験者も多く在籍する通信制高校におい て,このような結果が見出されている。本研究に おいては,不登校経験者が中学校を卒業した20歳 の時点で「ネガティブ」「ポジティブ」という相 反する感情が共存していたことがわかった。恐ら く,他者からの何らかの働きかけから生じた現象 によって,二つの相反する感情がもたらされてい ると推測される。または,進路等に対する十分な 情報が与えられないなどのような「働きかけがな い」という現象からも,感情の分岐が起こるであ ろう。
本稿は,森田(2003)の既存のデータに基づく 分析であり,本研究の目的に基づいて行われた調 査ではないため,「中学校卒業後」の概要を把握 することに留まり,中学校段階における不登校経 験者と「進路形成」への影響を論じるために,別 の質問項目が必要であり,中学校卒業後の進路選 択時の実態について,細かい視点をもって分析す る必要がある。その結果から,不登校経験者の
「進路形成」がどのように行われているのかにつ いて明らかにすることができるのではないかと考 える。また,当事者と身近な存在であり,支援者 でもある「親(家族)」「教師」「友人」は,進路 選択時においてどのような言動を為しているのか について,当事者の立場から明らかにすることも 支援の新たな知見を得るためにとても重要である と考える。
謝 辞
本論文は,森田洋司先生(2003)の著書「不登校 その後 登校経験者が語る心理と行動の軌跡
」に記載されたフォローアップ調査の結果の 一部について,
SPSSTextAnal ysi sForSurvey
4.
0を用いて,テキストマイニングの手法で分析 を行いました。このように分析・考察することを 承諾していただいた森田洋司先生(大阪市立大学名誉教授)に,心より感謝を申し上げます。
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