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植物の形を児童にどう教えるべきか 合目的的認識から科学的認識へ

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(1)

植物の形を児童にどう教えるべきか

合目的的認識から科学的認識へ         *

ャ 川 正 賢

(1981年10月15日受理)

How Should Children Be Taught Tlant Form P:

From Finalitic Cognition To Scientific Cognition

Masakata OGAwA

(Received October 15,1981)

1 は じ め に

小学校六年の理科の教材に「植物どうしの関係」という単元がある。この単元の授業実践記録 などによると,児童が植物の形を日光との関係でどのように考えているのかがよくわかる。特に 注目したいのは,彼らの多くが植物がどうしてそのような形をしているのかについて疑問を抱き,

それを日光との関連で合目的的に理解しようとする傾向が見られることである。いくつかそのよう

な例をあげてみたいと思う。    1)

@〔例1〕 自然林を観察した子どもの場合

,       「木の葉はすきまなく日光に当たるようにのびている。」

     「木の葉は日光に当たろうとして枝が横へ大きく広がっている。」  2)〔例2〕 花だんの様子を観察した子どもの場合

「葉が日光に当たりたいたあに,葉と葉がかさなっていない。」

「混んでいる所のホウセンカは真っすぐ上に伸びようとしていたが,空間をつくっ

k例3〕 アレチノギクを観察した子どもの場合

「太陽の光をとるために周りより早く高くなろうとするから,中の方が周囲より背 が高くなった。」

このような児童の認識は,ある意味では素朴で素直なものではあるが,このままの形で放置し ていいかどうかは疑問である。このような認識は,はたしてどこから生じるのであろうか。また これを科学的な認識に変容させることは可能であろうか。そのためには,どのような指導方法を 用いるべきであろうか。この小論においては,まず合目的的説明が科学的説明に変えられるかどう かを論理的に分析することから始め,次いで,現行の指導法の中に合目的的説明に導きやすい構 造が存在することを指摘し,さらに科学的説明に導くための指導方法を検討してみたいと思う。

*茨城大学教育学部理科教育研究室

(2)

2      茨城大学教育学部紀要(教育科学)31号(1982)

皿 生命現象の合目的性の因果的説明    4)

?コ禎里は,生物体の諸構造・諸器官の相互適合性,個体の生存にとってのそれらの諸器官 の合目的性に関する目的論的説明について,心臓の機能を例にして論理的考察を試みている。そ れによれば,合目的的説明をしている命題のもとになる事実は因果的説明に翻訳することが可能で あるが,その合目的性の成立の原因については説明されていないし(これを「第一の難点」と呼 んでいる。),また,もとの現象のメカニズムに関する因果的説明もされていない(「第二の難点」)

という。

具体例を挙げて考えてみたい。「木の枝は日光を受ける目的で日光の方向へ伸びる。」という 命題は,事実だけを因果的説明に翻訳することはできて,「木の枝は日光が原因となり,その結 果日光の方向へ伸びる。」という命題に変わる。しかし,この命題は「日光の方向へ伸びる」と いう形質が木の枝にどうして備わっているのか(「第一の難点」)を説明していないし,「日光 の方向へ伸びる」メカニズム(「第二の難点」)をも説明していないのである。

 この分析は,児童の「合目的的認識」を「科学的認識」に変革していく場合の重要な視点とな      5)りうると考えられる。中村の言う「第一の難点」とは,いわば生物が「種的時間」のレベルで

その合目的的形質を獲得する過程の因果的説明を問題とするものであり,「第二の難点」とは,         5)

カ物の「個体的時間」のレベルで,その形質のメカニズムを解明することを問題とするもので あると言える。生物がこの二重の時間構造に生きていることを認識することがまず第一である。

しかしながら「第一の難点」の解決は学問的にもまだ完全ではなく,いわゆる「進化」のメカニ ズムとして議論されている内容であって,今回の目標のなかに含めて考察することはできないの で,保留しておきたい。本論においては,「第二の難点」の解決を「科学的説明」として規定し ておくことにしたい。

皿 現行の指導法上の問題点

 児童が上述のように植物の形と日光との関係を合目的的に理解する原因をここで考察してみた       6)い。まずこの単元の内容について学習指導要領の記述の分析から始めてみることにする。

植物が繁茂しているところの様子を調べ,植物は互いに影響を与えながら成長して いることを理解させる。

ア.密生している植物の一部が取り除かれると,日当たりなどが変わり,植物の成 長の様子が変わってくること。

イ.植物が繁茂しているところでは,内側と外側とで,日当たり,温度などが違い,

植物の様子にも違いがあること。

本筋から少しはなれるが,これらの記述の中に「様子」という用語が見られる。この用語は,

7.8)

学習指導要領全体にわたって見られ,すでに日下和信が,「〜方」とともに,「あいまいな 用語」として指摘しているように,いくつかの問題を内包している。この用語が文意の一義的な 解釈を妨げているのではあるが,この点についてここでは論究しないことにする。

本筋にもどって,アの「植物の成長の様子が変わってくること」を理解するためには,まず第 一に,「密生している植物の一部を取り除く」作業の前後で「植物の様子が違っている」ことを 理解する必要があり,さらにそのうえで,それを「変わってきた」こととして動的に理解しなお

(3)

す操作が要求される。すなわち,様子の違いという静的認識をもとにして様子が変化してきてい るという経過を動的に理解するように要求しているのである。イについては,単に「違い」を認 識すればよいのである。アとイの内容を統合して「植物が繁茂しているところの様子を調べ,植 物は互いに影響を与えながら成長していることを理解させる。」という高次の目標が成立すると 考えられる。とすればここに一つの根源的な問題が存在するように思える。それは「植物が繁茂

しているところの様子を調べ」という,いわば静的認識をもとにして,「植物は互いに影響を与 えながら成長している」という動的認識を引き出そうとする点である。言いかえれば,植物の形 態や生態の観察という静的な認識方法を基礎にして,そこから,動的な「成長」という過程の認 識を求めているのである。動かないものを見て思考操作でもってこれを動かして認識させようと するのは,児童にとっては論理的な飛躍が障害となりはすまいか。ここに「合目的的認識」の入 る隙間が存在するように思える。

そのほかに,児童の合目的的認識を助長する要因として,教師自身の合目的的認識,および教 科書その他の記述が考えられる。教師自身が問題となる事象を合目的的に理解しているとすれば,

容易に児童の合目的的思考を誘導できると考えられる。自然科学を専門としない教師の間では,

このような認識がされている可能性はあると思われるが,実証的データは存在しないので結論は 保留しておく。ただ,いくつかの授業実践記録のなかで,指導計画の部分にそれらしき記述が見

られるので例として引用しておく。   9)

@〔例〕 「指導計画と単元の全体構造のイメージ化(11時間)」のなかから,

11.植物は互いに日光を求あて影響を与えあいながら成長している。

また,教科書等の記述については,一部の教師用指導書の中に合目的的理解に基づく記述が見

られるので引用しておく。   10)

@〔例1〕 「単元のねらい」より

森や林など植物が繁茂している所のようすを調べ,……(中略)……,またそれら の植物の一部を取り除くと成長のようすが変わってくることなどから,植物は日光

    を求めて枝や葉をのばし,互いに影響を与えながら成長していることを理解させる。  11)〔例2〕 「第3時の指導のポイント」より

      、

S年の「ジャガイモの育ちかた」で,植物は日光のたすけをかりて葉の中で育つた めのよう分となる「でんぷん」を作っていることを学んだ。そのことから林の木も

     同じように日光を求めて枝や葉をのばしているのではないかと類推させる。       12)いずれにしても,植物の形態を生長との関連で基本的にどう認識するのかという視点が定まら

なければ環境要因としての日光と植物との関係も一義的には提示しえないように思える。

IV 植物の形態をいかに認識するか

植物をいかに認識するかを考えるためには,まず生物をいかに認識するかを考えねばならない。

13)

小学校指導書理科編に次のような記述がある。

生物はそれぞれ固有の形やっくりをもち,必要な物を体内に取り入れ不要な物を体 外に排出している。また日光,水分,温度,養分や他の生物などの影響を受け,そ れらに適応した生活を営み,成長している。生物は生命を維持し,子孫を殖やし,

その生命は世代から世代へと連続して伝えられていく。

(4)

4      茨城大学教育学部紀要(教育科学)31号(1982)

       14)

@この表現は生物の性質を示すものとしては概ね妥当であろうと考える。特に最初の文章の後半      15)は,生物を基本的には「動的平衡システム」と考えてもよいことを示している。すなわち,生物

とは,微視的にはたえず物質交代,エネルギー交代を行いながら,巨視的には一定の形やつくり を持っているものだと考えてもいいのである。この考え方は,植物の形態を考えるうえで重要な 示唆を含んでいる。自然科学の基本的方法である「観察」を植物の形態に対して適用する場合,

16)       17)

高野恒雄の言う,「観察力」の三因子の一つ「変化の観察」が事実上不可能であることは,よく 知られている。しかし,それは植物の形態が不動なものであることを示しているのではなく,我々 の認識可能なレベルでは不動に見えているにすぎないことを示しているのである。この視点にたてば新しい 視野が開けてくる。すなわち,「形態」と「機能」を別々に理解する見方ではなく,「形態と機能」を時間と空 間のなかで,統一的に動的に,理解する,いわば「形態形成」的視点にたとうとするのである。これに関し て,フォン・ベルタランフィは,生物を「開放系の階層構造を示し,そのシステムの条件にもとついて構成

18)       19)

部分の交代を行うところのもの」と定義したうえで,次のような注目すべき見解を示している。

構造と機能,形態学と生理学を対置することは,生物を静止的に把握するところか らくる。機械のようなものでもまずはっきりした形があり,この形を動かすことも できるし,静止の状態におくこともできる。同様な意味で,たとえば目の前にみる 心臓の構造とその律動的収縮の機能とはたがいに区別できる。しかし生きている生 物に対して既製の構造と,この結果としておこる過程とを分離するのは間違ってい る。生物はたえずつづく過程の表現であり,この過程はその基礎をなす構造や組織 化された形態によって支えられている。形態学が,形態ならびに構造として確認す

るものは,実は時空的な現象の流れの一横断面なのだ。構造とは,私たち人間の尺 度で測って長期にわたる緩慢な過程の波である。機能とは,これに対して短く急 激な過程の波である。たとえば筋肉の収縮のような一つの機能がおきたという時に,

これは長く拡がりゆっくりとすすむ過程の波と短く急速な波が重なりあった,ということだ。

この考え方こそ,植物の形態に関する児童の合目的的認識を科学的認識へ発展させていくため の視点である。植物はそれ自身たえず変化し生長しつづけていることを理解させ,現在我々の見 ている,「形態」はその一断面をあたかも静止しているもののごとく認識しているにすぎないこ とに気づかせるのである。

V 形態形成的視点にたつ植物形態の指導法

では具体的に児童に形態形成的視点から植物の形態を指導するにはどうすればいいであろうか。

まずその前提として,児童に植物がたえず変化し生長しつづけていることを理解させなければな らない。上述のごとくこれを通常の観察によって行うことは原理的に困難であるから,観察が機 能するような操作を加えてやることができればいいのである。最も可能性が高い方法は,微速度 撮影等の手法によるいわば時間変化の操作である。現行のカリキュラムのなかでこれを実施しうるの

は,小学五年の「植物の発芽と成長」の単元であろう。ここで,この基本原則を体験を通して認識し ておくことが必要不可欠である。ただし,微速度撮影による植物の姿(形態と運動を含む)をどのよ うに生物学のなかに位置づけるかは,今後厳密に検討されるべき問題であることを付記しておく。

このような前提が整って,児童に「植物がたえず変化し生長しつづけるもの」であるという認 識ができたと仮定して,形態形成的視点にたった植物形態の指導はどう展開されるであろうか。

(5)

それは,第皿章で述べた「第二の難点」の解決の方向と一致するように思える。植物をたえず変 化し生長しつづけるものとして理解すれば,「第二の難点」の解決とは,その変化や生長を運動

メカニズムによって因果的に表現することにほかならない。

たとえば,マカラスムギの子葉鞘に横から光をあてると子葉鞘は光の方向へ曲がるという現象 を例にして考えてみることにする。これを次のように理解することが「形態形成的視点」にたっ た見方であるといえる。

「子葉鞘は光があたると伸長生長が抑制される。光があたらないと伸長生長は抑制 されない。横からの光は,子葉鞘に光のあたる側とあたらない側をつくる。光のあ たる側の伸長は抑制され,光のあたらない側は伸長するから,結果として子葉鞘は 全体として光の方向に曲がっている。」

この見方をくわしく見てみると,まず子葉鞘という全体を光のあたる側とあたらない側という 要素に分解していること,そしてその各々について運動メカニズムを基本現象から考察し,その 結果として全体の形態(あるいは形態の変化)を理解しているという構造が明らかとなる。ザな わち,「形態形成的視点」とは,問題となる現象をより基本的な構成要素に分解し,その諸要素 について基本的運動メカニズムを環境要因等との関連を含めて考察し,その結果として諸要素の変 化を認識し,それらを再統合した結果が全体としての現象であると理解する構造を持つのである。

この視点にもとついて,例えば,「植物どうしの関係」という単元を指導する場合の基本方針 を考えてみると次のようになる。

{1}植物の生育環境を変化させて,その後の生長を考察する場合には,植物を各構成

要素(根,茎,葉など)に分解し,それぞれがその生育環境の変化に対してどう         20)

^動するのかを推定し,その運動の結果として,植物形態の全体像を予想すること。

②現在の植物の形態は,過去の環境条件の影響を受けながら生長運動をしてきた結 果であることを理解させる。

⑧現在の植物の形態を要素に分解することから,過去の環境の変化(たとえば,日 当たりの変化)を動的に推定できること。

それぞれの方針の具体化は今後の研究課題である。

VI お わ り に

児童が植物の形態と日光との関係を合目的的に理解することによって,自然に対する驚嘆の念 をいだくとすれば,それはそれなりに意義のあることである。しかし,そのような事象が実は,

植物を形態形成的視点からながめると,科学的に説明されることを知ることは,それ以上の驚き を児童に与えるであろう。この驚きは,自然のしくみに対する驚嘆であるばかりか,科学に対す る驚嘆でもある。理科教育の目標には,自然を知ることとともに科学の方法を知ることも含まれ ると考える。生物のもつ合目的性が,科学的に説明できることを知るのはその意味でも重要であ

ろう。

具体的な指導にあたっては,はじめから科学的認識へ導くよりも,まず合目的理解に児童を導 き,充分に驚きを実感させたうえで,科学的理解へと導くという方法がいいかもしれない。この 点は,実証的研究が待たれるところである。いずれにしても植物の形態を静止した姿としてとら えるのではなく,たえず変化している一横断面として理解する立場にたって小学校あるいは中学

(6)

o

6      茨城大学教育学部紀要(教育科学)31号(1982)

校の植物教材をいま一度検討することにより,新しい指導視点が開かれると考える。「植物はお もしろくない」という意見が児童の間で聞かれるが,それは「動かない」からである場合が多い。

児童の前で植物を動かす努力が今求められているのではなかろうか。

1) 神奈川支部研究グループ「意欲的な学習活動を進めるために学習問題をどうとらえさせるか」

『初等理科教育』14巻第4号,1980年,78頁.

2) 片岡康夫・大塚正則・塚田忠「6学年の理科,植物とまわりの様子(2)」『初等理科教育』15巻第7号,

1981年,60−61頁.

3) 野本キヨ子「実践記録・植物のかたちとくらし」 『理科教室』24巻第4号,1981年,40頁 4) 中村禎里「目的論と因果論その他。モノー『偶然と必然』について」 『現代思想』1巻第6号,1973

年,168−178頁.

5) 飯島衛『生物学と哲学との間』 (みすず書房,1969年),367頁.

6) 小学校学習指導要領第2章各教科,第4節理科,第2,各学年の目標及び内容,第6学年,2,内容

A生物とその環境(1}.

7) 日下和信「初等理科における科学用語の取扱いについて(第2報)一「〜方」・「〜のしかた」と いう用語に関して一」『大阪基督教短期大学紀要・神学と人文』第16集,1976年,29−51頁.

8) 日下和信「「あいまいな用語」の功罪と指導上の工夫」『教育科学理科教育』第150号,1980年,

36−45頁.

9) 片岡康夫・大塚正則・塚田忠「6学年の理科・植物のまわりの様子(1)」 『初等理科教育』15巻第6号,       ●

1981年,60頁.

10) 小学校理科6年上教師用指導書(学校図書株式会社,昭和54年度版)78頁.

11) 同書,85頁.

12) 植物学の分野では,growthを意味する用語として「成長」でなく「生長」を使用するのが慣例であ るので,本論においては引用部分を除いて,「生長」を使用する。

13) 文部省小学校指導書理科編(大日本図書,昭和55年版),第1章,第4節の1,11頁.

14) 「適応する」という表現は,生物学用語としての意味と日常用語としての意味が異なるので注意して 読む必要がある。またこの表現にも合目的的認識や価値的認識が入りやすい点があるので,慎重に対応

しなければならない。

15) 正確には「平衡」とは言えないわけだが,ここではあえてこの表現を用いた。

16) 高野恒雄『理科教育の理論と実践』 (東洋館出版社,1981年)99−106頁.

17) 同書,103頁で,「観察対象が時間の経過にともなって変化する場合の観察機能」と定義されている。

18) フォン・ベルタランフィ(長野敬・飯島衛共訳)『生命・有機体論の考察』 (みすず書房,1974年)

136頁.

19) 同書,142頁.

20) これが可能になるためには第5学年の「植物の発芽と成長」の単元において,植物の芽ばえ等の単純 な材料を例にして,植物個体の生長を基本要素に分解し,それぞれの運動の結果を統合して全体の姿を 認識する訓練をしておく必要がある。

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