声帯の健康の立場から考えた小学校音楽科の「歌唱」について
―米山文明『一日5分のトレーニングで声と歌にもっと自信がつく本』を手がかりに―
山口(藤田)文子*
(2006 年 11 月 30 日受理)
The Key Concerned with“Singing” in Elementary School Music Class from the Standpoint of the Vocal Chord Health :
“The Book that Provides You More Confidence in Your Voice and Ability to Sing Songs through Five Minutes of Daily Training”
by Fumiaki Yoneyama
Ayako YAMAGUCHI(FUJITA)* (Received November 30, 2006)
はじめに
筆者は教員養成大学において,音楽科教育の立場から,初等音楽科内容研究,初等音楽科教育法 研究等の授業を担当している。これらの授業においては,音楽教育系音楽選修以外の学生も受講し ており,毎年発声指導は欠くことのできないものとなっている。なぜなら,小学校音楽科にとって「歌 唱」は重要な領域であり,学生の興味関心などに基づいて選択した歌唱曲に関してはもとより(これ らはほとんどがポピュラーで,リズム,アーティキュレーション等において難しい点が多い),「う み」,「かたつむり」といった児童と歌う共通教材においてすら,学生からの次のような声帯の健康や
「歌唱」教育に関連する質問に答えることが多いからである。「高い声が出ないのだがどうしたらよい だろうか」,「もっと良い声になりたいのだがよい練習方法はないだろうか」,「声がかすれてしまう のだがどういった点に気をつけたらよいだろうか」,「音程があわないのだが原因を調べることはで きないだろうか」等々である。また一方で筆者は,小学校教員の方々からも,次のような疑問を投げ かけられることがあった。「ポリープができてしまったのだがどうしたらよいだろうか」「声をなるべ く酷使しないで教える方法はないだろうか」等々,こちらもかなり切実で深刻な問題である。
筆者は質問を受けるたびに,自ら声楽を学ぶものとして,もっぱら発声の面から手助けができな いものかとその方法を探っていた1)。しかしながら,様々な事例に出会ううちに,発声の方法のみ
*茨城大学教育学部音楽教育講座(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1; Seminar of Music Education, Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)
から前述の質問に答えることは,自ずから限界があるように思うようになった。なぜなら発声の問 題を考える以前に,その前提として普遍的に把握しておかなければならない事柄があるのではない かと考えるようになったからである。声帯の構造,基本的な発声の原理,声を出すことに関わる様々 な付帯条件など,知っているだけで声の出し方が改善される事柄もたくさんあるように思えた。
この理由から,耳鼻咽喉科関連の,該当するような文献を探すようになった。しかしながら目に した医学書は理論的で,図なども精密な点は評価に値するが,あまりにも専門的で難解であり,実 際の授業で参考にしたり,紹介するには難しいものが多かった。そうしたなかで米山文明の『1 日 5 分のトレーニングで声と歌にもっと自信がつく本』2)(以下,『声と歌にもっと自信がつく本』と略 記)は,耳鼻咽喉科の医師の本でありながらわかりやすく,専門的な内容が実践に即して展開され ており,従来の声楽家によって書かれた発声の本には無いよさもあり,授業で紹介するには最適で あると思えた。
本論では,この本の1.全体構成を見た上で,小学校音楽科の「歌唱」を担当する立場から,この 本に述べられた2.声帯の健康と「歌唱」教育に焦点をあててとりあげ,3.まとめにかえて,で声 帯の健康の立場から考えた小学校音楽科の「歌唱」について筆者なりの見解を述べることとしたい。
1.『声と歌にもっと自信がつく本』の全体構成について
この本は,はじめに――あきらめていませんか「もっと〝いい声〟で話したい,歌いたい……」,
第1章 あなたは「声」に自信がある?ない?――知っておきたい「声が出るしくみ」,第2章 「声」
は何歳からでも変えられる――ちょっとした工夫で,抜群の効果!,第3章 自分の「声」の魅力を 一二〇パーセント引き出そう!――あなたにも必ずできるトレーニングとケア,第4章 これで,
あなたの歌声が見違える!――歌が 10 倍楽しくなる法,の主に 5 部分からなっている。
はじめにでは,日本の社会で軽視されてきた「声の文化」の重要性に着目し,歌の魅力を根本のと ころで左右する「声の出しかた」そのものに,最も重要なポイントがあるとしている。また発声のメ カニズムは実にデリケートであるが,多くの人に自分の「声」の可能性を知ってもらいたいという願 望の下この本を書いたと述べている。
第 1 章では「声帯」の構造から説きおこし,ここから生じた音が共鳴腔を通って様々な声を生み出 すという「声の出るしくみ」について述べている。また1.高低,2.強弱,3.持続時間,4.音 色といった「声の 4 要素」が複雑に組み合わされて様々な声が出てくるとし,「呼吸」と「共鳴腔」は声 の 2 本柱であり,自分に合った「声の出しかた」を身につけることが大切であるとしている。
また自分に聞こえてくる声には,2種類(内耳から聞こえてくるものと外耳から聞こえてくる声 と同じもの)があり,いい声を出したりうまく歌ったりするためには,聴覚も大きなポイントとな るとしている。
ここで学校の先生と政治家に多い声の障害についてとりあげ,その対策について述べている。あ わせて声が与える印象も指摘し,「発声」の教育の必要性を説いている。
第2章では,「声」は何歳からでも変えられるとして,声の出しかたの工夫を,リラックス,姿勢,
呼吸法,身振り手振り,顔の表情との相関関係などから言及している。
それと同時に発音をはっきりさせるために,母音の重要性や,外国語において子音がカギになっ ていることを示し,電話やマイクにおける声の出しかた,信頼感を与える人や「異性をひきつける人」
の声の特徴,小さくてもよく通る声,声が出ないときの対処法,学校における声の出しかたなどに ついて述べている。最後にいい声を出す様々な(発声を含む)トレーニング法を示している。
第3章では,自分の声の魅力を一二〇パーセント引き出すトレーニングとケアを提案している。
まず温度・湿度の関係から説き始め,「歌」は1日何分までか,声を出すのに良い飲み物,タバコ とポリープの関係,飲んではいけない薬などについて述べている。また声帯の健康についても言及 し,のどが知らせる危険のサインとその対処法,ポリープが出来たときの良い医者の選び方などに ついて論じている。最後に声変わりについて長いスパンで男女共に取り上げ,雨の日の歌い方など も含んだ形で,よりきめ細やかなのどの扱いをすすめている。
第4章では,現在の自分の声をいかにして良くするかについて述べている。「音楽の才能」を遺伝 以外の環境にも求め,そのかかわりで音痴が生まれた可能性について述べ,音程の合わない人のた めの聴力を利用した音痴克服法について,また別の音痴についてもタイプ別にその克服法を考察して いる。また「うまいといわれる歌」を歌うために,自分の声の質にあった選曲,腰の使い方の重要性,「ひ ざ」と「足首」のゆるめかたなどについて述べ,自分の「個性」を殺さない歌い方を提唱している。
2.『声と歌にもっと自信がつく本』における声帯の健康と「歌唱」教育について
1. 全体構成を見ればわかるように,広い意味で言えばすべてが声帯の健康と「歌唱」教育の問題 にかかわっているという考え方もできよう(あわせて注24を参照されたい)。しかしながらここで は特に小学校音楽科の「歌唱」を担当する立場から,声帯の健康のために必要であると思われる事柄 について,2.1 教師自身の教授方法もしくは教授方法に関連することについて,2.2 教師 と児童ともに知っていることがのぞましい知識,2.3 教師と児童ともに知っていることがのぞ ましい実践という三つの側面から述べることとしたい。
2.1 教師自身の教授方法もしくは教授方法に関連することについて
本論は小学校音楽科「歌唱」をテーマとしているが,授業は話し声と「歌唱」の両方を含み,しかも 話し声と「歌唱」が不可分の部分も多いので,発声に関する教師自身の教授方法もしくは教授方法に 関連することが非常に重要になると考えられる。この問題に関して,米山も多くの提案をしている。
第1章では,診療所に来る人は患者さんの 3 割近くが学校の先生だとして3)教師ののどの使い方 に問題があることを指摘している。「就職して2,3年のうちに約2割くらいの教員がのどをこわし たり,ポリープをつくったりしてしまう。そのために,教員をやめる人も少なくないときいていま す。」4)という言葉でもわかるように,事の重大さを十分認識しているようである。ここでは「教育課 程において,短い時間でもよいから,声の出しかたを教えていればこんなことにはならないはずで す。正しい発声法を習っておけば,大きな声を出しても,のどを壊すようなことはありません。そ れなのに,生まれたままの地声で怒鳴ってしまうから,すぐにガタがきてしまうのです。」5)として,
「発声」の教育の必要性を説いている。そして,「……ボイストレーニング,あるいは発声教育を,話
し声も含めて日本の小学校教育から取り入れるべきだと思っています。」6)と述べている。
また,「自分に合った『声の出しかた』をみつけよう」7)における共鳴腔と話し方に気をつけると いった指摘も,教授方法の上では効果が上がるであろう。また「声があなたの印象を大きく左右す る」8)で述べられているように,声の与える「なんとなく,この人は温かみのある人だ」,「信頼でき そうな人だ」といった無意識の印象も考慮する必要があろう。
第 2 章では,「『電話』『マイク』でよく通る声の出しかた」としてサ行,英語の th の音の息漏れ をなくし,「呼気とのどの奥から頭のほうへ向けるような気持ちで発声するとよい」と述べている9)。 このことは,話し声,歌声の如何に関わらず特にマイクを用いて指導する際の参考になるであろう。
また 「『こんな声』が人に信頼感を抱かせる」として,人を説得するには,テンポを遅めにして 相手に考える余裕を与える,間の取り方や「強弱」のメリハリを工夫するなど重要な指摘がなされて いる10)が,授業展開上必要になることもあろう。
また「小さくても『よく通る声』の出しかたは?」では,オブラツオワというロシアの声楽家の『声 は後ろで言葉は前で』という発言を,『言葉をつくるのは口腔の先のほう(唇や舌)でできるけれど も,音づくりは息を頭の後ろのほうにまわせ』と解説し,のどを痛めがちな教員に小さくてもよく 通る,のどへの負担の少ない共鳴を利用した発声を推奨している 11)。「緊張して声が出ないときは
「ン」音を出してみる」12)とともに,覚えておいてよい内容であろう。一方で「声が高くなるというの は,精神的に緊張状態にあると考えられます」として,声によって「相手の心の中」がわかるとす る13)観察眼も評価に値しよう。
「相手をいつのまにか自分のペースに引き込む,簡単な『声のテクニック』」では,教員が最小 限の敬意まで失ったことの原因を,「声」にあるとし,教員がトーンを自由自在に扱う技術を持ち,「休 み時間は低めの声で響きを少し押さえ気味に話し,授業に入ったら声の高さを少し上げて共鳴効果 を利用して話す,というようにメリハリをつければ,教室の雰囲気もかなり変わるでしょう。」14) として,話法の変化による授業展開の効果を提示している15)。
第 3 章では,声は消耗品であるとして発声法を直す練習をする一方で,声を使う時間の配分を工 夫してみることを提案している。すなわち,「授業時間が 60 分だからといって,先生がのべつ幕な しにしゃべっているのではなく,20分しゃべったところで生徒に作業をさせたり,本を読ませた り音楽を聴かせたりするのです。」といった指摘は,教育学上も意味のあることではないかと考えら れる。また「……午前中の授業が声を使わざるをえないものだったなら,午後の授業はあまり声を使 わないようにすればいいのです。」16)といった工夫も,声帯の健康を無視して展開されがちなカリキ ュラムにあって重要視すべきことがらの一つではないだろうか。「声の出しはじめにも注意が必要で す。これは野球のピッチャーを見ているとわかるでしょう。ウォーミングアップもしないでいきな り剛速球をなげたら,肩が故障してしまいます。登板の前には少なくとも10分から15分ほど肩 慣らしをして,筋肉をほぐして体を温めるものです。」,「これと同様に,これから声を使うぞという ときには,ある程度声を出しておいて,『のど慣らし』をしておくことが大切です。そうすれば,血 液の循環が良くなり,声が楽に出てくること疑い無しです。」17)などは,発声上知っておくことが望 ましいであろう。
また,「話すことのプロであるべき大学の先生でも,話し方を訓練していない人をよく見うけま す。」として,教室の広さや形に合わせて声の使い方を変えること,ホールにお客さんが入っている
時といない時の残響の差,雨の日の残響の差に注意することなどをあげているが,のどへの負担と いう点では考慮しなくてはならないであろう18)。
「自分の声の質に合った『歌を選ぶコツ』」として,声の質と歌のジャンルを適合させるといった 考え方を提案している19)が,ジャンルも,クラシック,ポップス,シャンソン,ロックなど多様で,
ともすればクラシック一辺倒に陥りがちな価値観を覆しており,苦手意識を払拭できない児童にと っては有意義なこととなろう。
最後に「あまりに技術にこだわって歌う喜びを忘れないようにしてください」として,「楽しい歌や 悲しい歌を,そのときどきの気持ちに合わせて歌う。それが個性というものではないでしょうか。
音痴を直すにしても,それが没個性な方向に向かっては行けません。自分の個性を生かし,表現力 を広げるための手段として,歌のテクニックを磨いてほしいと願うしだいです。」20)と述べて,技術 偏重を戒め,個性重視を説いているが,小学校音楽科「歌唱」の場合,十分配慮するべきであろう。
2.2 教師と児童ともに知っていることがのぞましい知識について
第1章における「声帯」の構造,「声の出るしくみ」,「声の 4 要素」である1.高低,2.強弱,3.
持続時間,4.音色については,教師のみならず,児童も発達段階に応じて知っていることが望ま しいのではないか。声の 2 本柱である「呼吸」と「共鳴腔」,聴覚の重要性も無視できまい。また,い かに多くの教師が声の障害を持っているかも,知っておかなければならない事のひとつであろう。
第3章における温度・湿度の関係,「歌」は1日何分までか,声を出すのに良い飲み物,タバコと ポリープの関係,飲んではいけない薬,のどが知らせる危険のサインとその対処法,ポリープが出 来たときの良い医者の選び方,声変わりについてなども,教師,児童,父兄ともに知らなければな らない問題である。また雨の日の歌い方なども知っていることがのぞましい。
第4章では,「音楽の才能」は才能だけではなく環境にも求めうること,「うまいといわれる歌」を 歌うために,自分の声の質にあった選曲法があること,いい声には腰が決めてであること,息つぎ で息を吸ってはいけない,満腹のときにはいい声が出ないことなど,実践に直結する形で述べられ ているが,これもまた知っていなければなるまい。
2.3 教師と児童ともに知っていることがのぞましい実践について
第2章におけるリラックス,姿勢,呼吸法,身振り手振り,顔の表情の変化のさせかた,母音の 発音のしかたや,外国語における子音の発音のしかた,小さくてもよく通る声の出しかた,声が出 ないときの対処法,学校における声の出しかた(2.1 教師自身の教授方法もしくは教授方法に関 連することについても参照)なども,知っているとかなり有効になるのではないか。またいい声を 出す1日5分の様々なトレーニング法は特に参考になるであろう21)。なお,このトレーニングは題 名にも用いられており,ボイストレーニングとしてこの本の中心的な実践と考えて良いであろう。
第4章における音程があわない人のための聴力を利用した音痴克服法22),その他の音痴のタイプ 別克服法はかなり参考になろう。また「ひざ」と「足首」のゆるめかた,直立不動はいけない,息つぎ で息をつかず力を抜くことで自然と鼻から吸気が入るなど23),思い込みで気付きづらい点が指摘さ れていることは評価に値しよう。
3.まとめにかえて
この本は文庫本サイズであるが,小学校音楽科「歌唱」に関する耳鼻咽喉科的な側面では,少しオ ーバーな言い方になるが,1.全体構成で示した通り,その内容の豊富さ,幅広さにおいてエンサ イクロペディア的な存在になることも可能ではないかと考えている24)。ちなみに受けた質問,疑問 に対する関係で言えば,「高い声が出ない」,「もっと良い声になりたい」,「声がかすれてしまう」と いった問題には,第2章で示された,1日 5 分!「いい声を出すためのトレーニング」が多くの示唆 を与えるであろう。また「音程があわない」といった問題には,第 4 章の音程を合わせるための「音痴 克服トレーニング」が,「ポリープができてしまったのだが」という問題に関しては,第 3 章の「もし ポリープができてしまったら」が,「声をなるべく酷使しないで教える方法はないだろうか」という問 題に関しては,第 3 章の「『歌』は 1 日に何分まで」などが参考になるであろう。
今まで,耳鼻咽喉科の医師によって書かれた本としてそのまま小学校音楽科「歌唱」のなかに入れ られるもの,もしくは参考になるものを中心に追ってきた。しかしながらここで,小学校音楽科「歌 唱」の授業を行う立場から,この本の意図を汲み取った上で,声帯の健康の立場から考えた小学校音 楽科の「歌唱」について筆者の見解を述べることとする。
授業方法の改善もさることながら,まず考えなくてはならないのは,発声についてであろう。か つまたどういった発声を目指すのかについて考えねばなるまい。
米山はこの本のなかで,いわゆる「歌唱」に対する発声について,話し声と特別区別する形では扱 っていない 25)。音程をつけて発声練習をするといった方法をとっていても,「『いい声を出すため に腹筋を鍛える』のは逆効果です!」に見られるように,いわゆる腹筋のみを強調して使うといった
「歌唱」だけのことを想定しているわけではない26)。話し声であっても,呼吸法,共鳴など「歌唱」を する時と同じ方法を模索しているようである 27) 。つまり話し声と乖離しない形での,息を通すも しくは息にのせる形での「歌唱」を米山は提唱していると言えよう28)。
この点で長谷川も「声が出ているときの理想的な身体の状態とは次の通りであると考えられる。
即ち,息が楽に吐かれていて,横隔膜が充実し,喉頭部が軽くしなやかに働いていて,息が通った だけでそれが声となり,身体から離れていく,ということである。声を出すということは息を出す ことである。」29)と述べており,概ね米山と一致した意見である。また筆者が,声帯の発声障害を除 去する発声法を学ぶために,数年来接しているヴァムザー30)も,腹筋などに過度に力が入り,息が 静かに流れない声を「筋肉声」として認めず,小さなメカニズムに息を吹き込む形での発声を提唱し ており,共通点があるのではないかと考えられる。
筆者もまたこういった息の問題を蔑ろにしては,声帯の健康を維持できないのではないかと考え ている。ただし腹筋などの効果をすべて無視するのではなく,意識しないでも使えているのが自然 ではないかと考えている。
こういった発声面での改善と同時進行的に,授業方法の改善が望まれる。児童がリズム打ちをす る,音程をとるなどといった退屈になりがちな基礎,基本を学ぶ際であっても,主体的に取り組む ような工夫が必要であろう31)。
声帯の健康を考えれば,米山が言うように教員が 20 分話して,児童に 20 分作業をさせるといっ た取り組みも大切であるが,何を話すか,何を作業させるかを,もう一度吟味せねばなるまい。児
童が自ら学び,自ら考え,主体的に取り組めるような,テーマ選択と展開を,小学校「歌唱」に入 れることが必要であろう。教師が大声を出さなくとも耳をすまして聞くことの出来る授業を目指さ ねばなるまい。それには,基礎・基本を押さえることは原則としてはずせないが,「歌唱」に留まら ず,「器楽」,「つくって表現」,「鑑賞」など他のすべての領域においても,児童の興味・関心を重視 した授業がなおいっそう望まれよう。
以上の様に小学校の「歌唱」において声帯の健康を考慮に入れると,発声面と授業内容,展開方 法の両面からの工夫が求められる。米山など耳鼻咽喉科からの示唆と,教員の発声面や授業内容,
授業方法上の工夫などのさらなる相乗効果が期待される。
注
1)主に自分自身の学んできた発声方法であるが,発声に関する文献のなかで,特にコーネルウス・L・リード
『ベル・カント唱法』(音楽之友社,1992),レジナルド・ジャックス『発声と合唱の訓練』(音楽之友社,
1986),長谷川敏「Bel CantoにおけるHigh Mechanismの機能に関する一考察――ヨーロッパ歴代の名テ ノール,33 人の演奏分析を通して――」『茨城大学教育学部紀要』(人文・社会科学・芸術)第 41 号,
1992,pp.15-33,「Bel Canto その歌唱法と教授法に関する一考察―サモーシ理論に基づく体験的声楽理論の 展開―」『茨城大学教育学部紀要』(人文・社会科学・芸術)第 44 号,1995,pp.19-40 などに示唆を得た。
2)三笠書房,2002.ちなみに,筆者はこの本を教育学部の皆さん全員に読んでほしい本として,2005 年発行の
「教育学部 100 冊の本」のなかで推薦しておいた。
3)同上書,p.34.
4)同上書,p.36.
5)同上書,p.36.
6)同上書,p.40.
7)同上書,pp.26-30.
8)同上書,pp.41,42.
9)同上書,pp.76-78.
10)同上書,pp.79-82.
11)同上書,pp.84-87.
12)同上書,pp.87-91.
13)同上書,pp.91-93.
14)同上書,pp.93-96.
15) 斎藤孝も,『斎藤孝の相手を伸ばす!教え力』(宝島社,2005)p.165.で,「相手を退屈させない『メリハ リ』の技術」として,基本はハイテンション!をあげている。
16)『声と歌にもっと自信がつく本』,pp.136-137.
17)同上。.
18)同上書,pp.177-179.
19)同上書,pp.193-195.
20)同上書,pp.211-215.
21)同上書,pp.99-123.
22) 同上書,pp.188,190.
23) 同上書,pp.206,207.
24)各章の見出しと小見出しについては以下のとおり。
はじめに――あきらめていませんか「もっと〝いい声〟で話したい,歌いたい……」
第1章 あなたは「声」に自信がある?ない?――知っておきたい「声が出るしくみ」
「声」は遺伝で決まるのか?
「顔かたちが似ていると声も同じ」なワケ あなたの声はどんなタイプ?――「声の四要素」
自分に合った「声の出しかた」を見つけよう
録音された自分の声が,ヘンに聞こえるのはなぜか?
高度なコンピュータもかなわない聴覚の不思議 誰でももっと〝いい声〟を出せる可能性がある いまこそ「発声」の教育が求められている 声があなたの印象を大きく左右する 発声を重要視しているアメリカ大統領
第2章 「声」は何歳からでも変えられる――ちょっとした工夫で,抜群の効果!
「NHKアナウンサーの発音」は手本にするな!
「立って話すときの言い姿勢」「座って声を出すときのいい姿勢」
首の姿勢が「呼吸」と「声」を左右する 「呼吸」とは鼻から息を吸い込むことではない あなたは「自分の呼吸」をどれだけ意識していますか?
「身振り手振り」はいい呼吸をするのにも効果的
表情を変える……こんな簡単なことで歌が格段にうまくなる!
日頃から「はっきりした言葉」で会話しよう
「発音の基本」――〝母音〟を正確にマスターすること!
外国語は〝子音〟の発音がカギ 「電話」「マイク」でよく通る声の出しかた 「こんな声」が人に信頼感を抱かせる!
「異性を引きつける人」の声の共通点 小さくても「よく通る声」の出しかたは?
緊張して声が出ないときは「ン」音を出してみる 声でここまでわかる「相手の心の中」
相手をいつのまにか自分のペースに引き込む,簡単な「声のテクニック」
声の出しかたが左右する,いい叱りかた・悪い叱りかた 1日5分!「いい声を出すためのトレーニング」
・まずは,心と体のリラックスで正しい姿勢をつくる
・体を伸ばして「あくび」が出たら準備OK!
・「座った姿勢」でいい声をだすには?
・空気をたっぷり取り入れる〝背面〟の広げかた
・「いい声を出すために腹筋を鍛える」には逆効果です!
・響きのいい声をつくる「半音上げトレーニング」
・「ホ・ホ・ホ・ホ・ホ」の発声練習ができたら,今度は「ホホホホホ」
・「顔の表情」が「声の表情」を決める
第3章 自分の「声」の魅力を一二〇パーセント引き出そう!――あなたにも必ずできるトレーニングとケア 温度・湿度に声はこんなにも敏感
会議やカラオケでのどを痛めるとき……
「歌」は1日に何分まで?
午前と午後に30分ずつ歌うのなら,のどに負担はかからない 1晩カラオケ歌ったら二,三日は休みなさい
声を出す前はこんな飲み物を飲むといい お酒は声にいい?悪い?
タバコは声帯をポリープ化する?
「のどが痛い」と思ったら――まずここをチェック!
「うがい」「のどの薬」は役立たず?
「飲んではいけない」――のどに危険な薬 のどが知らせる〝危険のサイン〟
もしポリープができてしまったら 「声変わり」のしくみ
声変わりのときの注意点
意外に多い「声変わりができない人」
女性は三度「声変わり」がある
ママさんコーラスで気をつけてほしいこと 梅雨の時期には半音下げて
第4章 これで,あなたの歌声が見違える!――歌が10倍楽しくなる法 「音楽の才能」は生まれつき?
「音痴は直る」は本当か
音程を合わせるための「音痴克服トレーニング法」
「音痴」にもいろいろなタイプがある 自分の声の質に合った「歌を選ぶコツ」
「声のプロ」を目指したい人のために……
いい声を出すためには〝腰〟が決め手 「ひざ」と「足首」をゆるめなさい 「直立不動」は歌に最悪の姿勢だ 「息つぎ」で息を吸ってはいけない」!?
満腹のときは,いい声が出ない
あなたの「個性」を生かしたうまい歌いかた 25) 注6参照。
26) 同上書,p.113.
27) 同上書,p.118.
28) 同上書,p.112.
29) 長谷川前掲論文(1992),p.17.
30) 長谷川前掲論文(1995),p.19.に示された,ウィーンのラヨス・サモーシ教授の弟子。声帯障害を治療す ることができるとされる(若い世代のためのヨーロッパ文化運動〔E.K.F.D.J.G.〕の議長ユッタ・ウン カルト・ザイフェルトの証明書より)。筆者は,2004年,2005年,2006年の3回,クロイツァー・凉子
(レオニード・クロイツァーの姪。声楽家)の招きで来日したヴァムザーのゼミナールを受講し,2005 年にはディプロマを取得した。
31) 泉靖彦「第1章歌唱指導,2.指導のポイント」『初等科音楽教育法』(音楽之友社,2006),p.61.