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プロジェク ト・マネジメン ト研究の展望 : プロジェク ト・マネジメ ン ト

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(1)

プロジェク ト・マネジメン ト研究の展望 : プロジェク ト・マネジメ ン ト

分野 における組織能力の展開

村 山 宏 幸

Ⅰ.は じ め に

米国

PM

協 会

( Pr o j e c tMa na ge me n tl n s t i t u t e

;以下

,PMI )( 2 0 0 8 )

に依 れば, プロジェク トは, 「独 自のサー ビス,所産 を創造す るため に実施す る有 期 的 な活動」 と定義 され る。 また, プ ロ ジェ ク ト ・マ ネ ジメ ン ト

( Pr o j e c t Ma na g e me n t

以下

,PM)

は 「プロジェク トの要求事項 を満足 させ るため に, 知識,スキル, ツール と技法 をプロジェク ト活動 に通用す ること」 と定義 され る。近代 的

PM

が適用 され た とい われ る,マ ンハ ッタ ン計 画

( Ma nha t t a n pr o j e c t )1)

以 降

,PM

は,主 に工学的視点か ら, ツール と技法の開発 と適用 に 焦 点が当て られて研 究が行 われて きた よ うにみ える。 しか しなが ら,近年,

PM

研 究者か ら

「 PM

の通用が プロジェク トの成功 を保証 していない」 と,従 来の

PM

研 究 に対す る批判が萌芽 してい る。 (以下,従来の

PM

研 究 を伝統的

PM

研 究 とす る)

そ こで,本稿 で は,近代 的

PM

の生成 と,実務 家か らの要 求 に応 える形 で 発展 して きた伝 統 的

PM

研 究の今 日に至 る系譜 を鳥轍す る とと もに,伝 統 的

PM

研 究へ の批判的視座 に立 った議論 を レビュー し

,PM

研 究分野 における課 題 を整理す る

1)米国が原子爆弾開発 ・製造のために,亡命ユダヤ人を中心 として科学者,技術者 を総動員した国家プロジェク トである。プロジェク トは成功 し,原子爆弾が製造さ

,1 9 45

7

月1

6

日世界で初めて原爆実験を実施 した。さらに,広島に同年

8月 6

日 ・長崎に

8

9

日に投下された。

〔 2 0 9 〕

(2)

この上で,隣接科学 とされる,経営学領域 において

PM

研 究領域 に適用可 能 と考え られる既存研究を レビュー し,組織能力 とい う概念を適用することで,

PM

研究における課題解決の展望 を示す ことが本稿の 目的である

また

,PM

研 究分野 と経営学 の研 究パ ラダイムの違い を概観す ることで,

PM

研 究の経営学領域 に対する貢献可能性 に関 して も言及す る

Ⅰ.pM

研 究の系譜

本章 では, PM とPM研 究が どの ように生成 され,現在 どの ような議論が 行 われているのか を概観す る。 まず

,PM

の生成 と発展 を整理 し,次 に,伝 統 的

PM

研 究 に対 す る批 判 的議 論 お よび批 判 的視 座 に基 づ い た研 究 の レ

ビューを行 う

1.近代的

pM

の生成 ・発展

有史以来,エジプ トのピラミッ ドや中国の万里の長城の建設など,プロジェ ク トと呼ぶ に相応 しい事業 は数多 く行 われてい るが,近代 的な

PM

を通用 し たプロジェク トは1

9 3 0

年代の 「テネシー川 ・開発 プロジェク ト」 または1

9 40

代 の 「マ ンハ ッタン計画」,がは じま りとされている

( Cl e l a nd,20 0 4)

。それ以 前 のプロジェク トにおいて も, テイラー

( Tayl or )の科学 的管理手法 に基づ

いた生産性 向上 の試みや, ガ ン ト・チ ャー ト

( Ga nt tcha r t )

を用いた進捗管 理 などのマネジメン トが実施 されていたが,マネジメン トの基本単位は製造 ラ インに置かれてお り, この基本単位 ごとに当初計画に基づ く管理 ・統制 を展 開 す ることがマネジメ ン トの中心 に位置づけ られて きた (宮脇,2

0 03 )

これに対 し1

9 3 0

年代の 「テネシー川 ・開発プロジェク ト」 もしくは1

9 40

年代 の「マ ンハ ッタン計画」は,プロジュク ト活動 にサ イバネテ ィクス

( Cybe r ne t i c s )

とい う概念 ・技術 を適用 し,管理工学の研 究成果 を用いてシステマテ ィックに プロジェク ト活動 を統制 しようと試み られてお り (木村,2

009 )

, これが近代

PM

の始 ま りという見解が一般的になっている

(3)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

211

そ の後

, PM

,1 9 5 0

年代 の 「アポ ロ計 画

( Apol l opr ogr a m )2)

」 と 「弾 道 ミサ イ ルポ ラ リス 開発

3)

」 で顕 著 な発 展 を見せ る

( Mor r i sandHough,1 988, Cl e l a nd,2 00 4) 。

「ポ ラ リス 開発」 で は, 当時 の東西 冷戦 下 の 緊張状 況 とス プー

トニ ク ・シ ョ ック

4) ( sput ni kc r i s i s )

に よ り,早急 に弾 道 ミサ イルの 開発 を行 う必要 に迫 られ た, 米 国海軍 が

PERT ( Pr ogr a m e va l ua t i o na ndr e vi e w t e ch‑

ni que )5)

と呼 ば れ る工 程 管 理 手 法 を 開発 した。 同 時 期 に は, デ ュ ポ ン社 が

CPM ( c r i t i ca lpa t hme t hod

, ク リテ ィカルパ ス法 / 限界工 程管 理 手法

)6)

と呼 ばれ る工 程 管 理 手 法 を開発 して い る

( Mor r i sa ndHough,1 988)

。 また

,1 9 55

年 「ポ ラ リス 開発 」 にお い て, 海 軍 に特 別 プ ロ ジ ェ ク ト局

( Spe ci a lPr o j ect Of f i ce )

が 設置 され た こ とで

, PM

は独 立 した研 究分 野 と して確 立 され る こ と にな る

( Mo r r i sa ndHough,1 9 8 8)

木村

( 2 009 )

,

「アポ ロ計 画」 や 「ポ ラ リス 開発 」 の プ ロ ジ ェ ク トの特 徴 につ いて 「多 くの要 素技 術 が必 要 であ り,異分 野 の研 究者 を集 めて ひ とつ の 目 的 に向か って協 力 させ る とい う新 しい技 術 ス タイル」 と指摘 した上 で, 「関連

2)NASA

に よる人類初の月への有人宇宙飛行計画である

。1 9 6 1

年か ら

1 9

72年 にか けて実施 され,全

6

回の月面着陸に成功 した。

3

)ポラリス

( Po l a r i s )

は,冷戦期 にアメリカ合衆国が開発 し,アメリが 毎軍で運用 された潜水艦発射弾道 ミサ イル

( SLBM)

の名称である

4)1 9 5 7

年10月

4

日の ソビェ ト連邦による人類初の人工衛星 「スプー トニク

1

号」の 打 ち上げ成功の報 に よ りアメリカ合衆国の政府や社会に走 った衝撃や危機感 であ

る。

5) PRET ( Pr o gr a m e va l ua t i o na ndr e vi e wt e c hni que )

とは,主に大規模 で複雑 なプロジェク トの計両立案 とスケジュー リングを単純化するために

,1 9 5 8

年にコン サルテ イブ‑ズ ・ア レン ・ハ ミル トン社

( Bo o zAl l e nHa mi l t o nl nc .

)が,海軍特 別プロジェク ト局の委託 によ り発明 した

PM

手法である。 プロジェク ト全体 を構 成す る各作業の相互依存関係 をネッ トワーク図にす ることで,各作業の 日程計画 を 作成するとともにプロジェク ト全体の所要時間を算糾 し,さらにクリテ ィカルパス

を明 らかに して所要時間の短縮 を図る手法のこと。

6)1 9 5 8

年にデュポ ンが化学 プラン ト建設に際 して, コス ト最適化 を目的 として開発 した手法である

。 CPM

は最小の投資額で所定期間内に計画が完了す る最適解 ( ケジュール,追加投資の意思決定) を求める。いずれの手法 も,線形計画,待 ち行 列,動的計画 といった

OR

の知見をプロジェク トに適用するためのアルゴリズムを 研究 ・開発 した ものである。

(4)

す る要素技術すべてに通 じ, しか もプロジェク トの全体像 をはっき り見通せ, さらにその指導者が優 れた リー ダーシップをとれる人格であれば,その指導者 は理想的なプロジェク ト・マネージャーであるが,その ような指導者は滅多に いない し,要素技術が広 くなると,それ らすべてに通 じた人間を見つけること は不可能 になる」 とし, この ような背景 の下 で 「システム工学」 による

PM

が登場 した としている。 また,木村

( 2 0 0 9 )

は当時の管理方法 を 「技術か ら人 間的要素 を取 り去 り, ドキュメンテー ションとその処理の徹底 した定量化 と明 示性で,技術 を統合する契機 と可能性 を見出す」 と説明 している。

木村

( 2 0 0 9 )

によれば

,PM

における次の転機 は

1 9 6 7

年 に発生 した 「アポ 1号の火災による乗組員全員死亡」 とされる。マ ンハ ッタン計画以降,技術 か ら人間的要素 を取 り去 ったマ ネジメ ン ト手法 の重要性 は認識 されつつ も,

「 PM

の担い手は技術か人間か」 とい う議論が,実務家や要素技術 の研究者間 で広 く行 われて きた。 この事故以前 は

,「 PM

の担 い手 は技術」 とい う見解が 優勢であったが, この事故 を契機 に

,PM

,人間 ・組織 的要素 を取 り入れたマ ネジメ ン トが要求 され

,PM

研 究 も 「人間を抱 え込 むことので きる有機質な システム工学 に進化 した」 とされる

以降

,PM

研究は実務か らの要求 に応 える形で発展 をみせ る。近代 的な

PM

はアメリカの石油,化学,軍需,航空産業,大規模公共事業等 に適用 され,

PM

研 究 もそれぞれのプロジェク トの状況分析か ら,コス ト管理,リス ク管理, 契約管理 など実務‑ の通用可能な

PM

ツールが開発 されることになる。 また, 実務 レベルでは

1 9 6 9

年 に米国で

PM

協 会

( Pr o j e c tMa na ge me ntI n s t i t u t e )

設立 され

PM

の標準策定、資格認定な どが行 われるようになる。

その後

,1 9 8 0

年代以 降の コ ンピュー タ技術 の急速 な発展 に伴い

,PM

はそ の適用範囲を急速 に広げることとなる。 コンピュー タ技術の急速な発展 は, コ ンピュー タ ・ソフ トウェアに対する機能的な要求 と製品に占める重要性 を急増 させた。 これに伴い, ソフ トウェア及びソフ トウェア開発プロジェク トは急速 に複雑化,大規模化す ることとなった。これによ り,従来,石油,化学,軍需, 航空産業,大規模公共事業等のプロジェク トに限定 されて きた

PM

の適用が,

(5)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

213

ソフ トウェア開発 プロジェク トに拡大す ることになる。 また, コンピュー タ技 術 の急速 な発展 は,それ までスーパー コンピュー タ等 を用いて行 って きたオペ レー シ ョンズ ・リサーチ

( Ope r a t l OnSRe s ea r ch

以下

, OR)

分析 を,パー ソ ナル ・コ ンピュー タを利用 して容易 に行 うことを可能 とした。 これ によ り,更 に多 くの分 野

‑ PM

の通用が可能 とな り 「プロジェク ト」 を一般 的 な組織 の 問題解 決手法 と して用い ることが多 くなった7)。実務 におけるプロジェク トの 適用範 囲の拡大 は,それ までの

PM

の様 々な技術 と強 く結 びつ き,実務 家, コンサル タン トを中心 に 「業務 におけるプロジェク トの利用お よびプロジェク ト ・マ ネジメ ン トツールは組織 の効果 的な変化 ・変革 を管理す るの に役立つ方 法 を提 供 す る こ とが で き る」 との 見 解 が 支 配 的 に な っ た と さ れ る (S

eode r l und,2 0 0 4)

0

これ に併せ て,実務 家か らは

, PM

に関す る知 見や技 法 を集積 し,一般 的 に通用可能 なテ ンプ レー トと して

, PM

に用 い るこ とが強 く望 まれ るよ うに なった

( Ci c mi la ndHodgs on,20 06)

。 この ような要望 を受 け

,1 9 9 6

年 に

PMI

PMBOK ( Pr o j e c tMa nage me ntBodyo fKnowl e dge )

を出版 し,現在 は, 事実上 の

PM

知識体系 の世界標準 と して実務家の 間で広 く利用 されてい る。

PMI( 2 0 0 8)

では,プロジェク トを 「① 立ち上 げ

( i ni t i a l i ze )

,②計画

( pl a nni ng)

,

③実行

( e xe c ut i ng)

,④監視 ・コ ン トロール

( mo ni t or i nga ndc ont r o

l),⑤終

( c l os i ng)

」 とい う

5

段 階のプロセスで実行 され る と定義 し, さ らに,それ ぞれのプロセスにおいて必要 な知識領域 を 「①統合管理,② ス コープ管理,③ 時 間管理,④ コス ト管理,⑤ 品質管理,⑥ 人的資源管理,⑦ コ ミュニケー シ ョ

ン管理,⑧ リス ク管理,⑨調達管理」 に分類 して提示 してい る

7)この理由について

Ci c mi la ndHo dg s o n ( 2 0 0 6 )

,「プロジェク トは,適用性が 高 く

( ve r s a t i l e )

,柔軟性に富み

( f l e xi bl e )

,予測的

( pr edi c t abl e )

であると実務 家に考えられているため」 と指摘 している。

(6)

2.伝統的 PMへの批判

以上 の ような,発展 をみせ て きた

PM

お よび

PM

研 究であるが,1

9 9 0

年代 後半 よ り 「ス カンジナ ビア学派

( Sca ndi na vi aSchoo l )

」 と呼ばれる北欧の研 究者 グループを中心 に

( Pa c kke ndo f f ,1 9 9 5),「 PM研究 によ り開発 ・提案 され

る,計画 とモニ タリング とい う

PM

手法 を通用 し,意思決定 と管理 を実践 し て も, プロジェク トの失敗 を排 除す ることはで きず, PMの通用が プロジェ ク トの成功 を保証 していない」 (

Shenhar ,1 998;Engwal l , 2003;Wi l l i ams , 2 00 5;Ci c mi la ndHodgs o n,2 00 6)

とい う批判的主張が萌芽する

批判論者の主張 を概観すれば,伝統的

PM

または

PM

研 究 において 「状況 適合 とい う概念が欠如 していた」 と要約で きる。 よ り具体的には 「(丑プロジェ ク トの類型化」 と 「②組織 的 ・人的要素」 とい う視座が伝統 的

PM

研 究 にお いては欠けていた とい うものである

前者 は, PMが プロジェク トの成功 を保証 しない理 由を 「伝統 的

PM

1

つの型が全てのプロジェク トに適合す る との前提 で行 われてい る」 ため とし

( She nha r ,2 0 0

1

), Pa c kke ndo f f( 1 9 9 5 )はこれを 「 PM

理論の偽 りの一般性」

と呼んでいる。この上で批判論者は 「プロジェク トを類型化 し,個 々のプロジェ ク トに適 したマ ネジメ ン トを行 う必要 があ る」 との立場 を とる

( Shenhar, 2 00

1)

0

後者 は,伝統 的

PM

における,計画 とモニ タリングを中心 とした管理手法 だ け で は プ ロ ジ ェ ク トを成 功 に導 くこ とが で きない とい う主張 で あ る

Kr e i ne r ( 1 99 5)

は伝統的

PM

研 究 について 「組織論 において広 く合意が形成 されている組織 コンテクス トは,プロジェク トを実施す る上でほとんど考慮 さ れていない」 と批判 している。 この上で

Engwa l l( 2 00 3)は 「

組織 コンテクス トなど,組織 ・人的要素 を考慮 しプロジェク トの成功 ・失敗 を分析 し,適切 な

PM

を実施す る必要がある」 と主張する

これ ら批判論者の主張は,経営学分野の視点では, ご く自然の主張である

まず,伝統 的

PM

研 究ではプロジェク トの類型化 とい う視座が欠けてい ると いう議論であるが, これは経営学分野 において広 く受容 されている 「状況適合

(7)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

215

理論 (コ ンテ ィンジェ ンシー ・モデル)が欠けている」 とい う主張 に他 な らな い。状況適合理論 は,1

96 4

年 にフイ ドラ‑ (

Fi edl e)によ り提 唱 された リー ダー

シ ップ理論 であ り, 「最適 な リー ダー シ ップ ・ス タイルは リー ダー を取 り巻 く 状況 に従 い変化す るため,ある特定のス タイルがあ らゆる状況 において最適 に はな らない」 とい う立場 を とる ものであ る。経営学分野 においては, 「組織 を 取 り巻 く環境 の組み合 わせ によ り,適切 なマ ネジメ ン トス タイルは異 なる」 と い う見解 の もと広 く受容 されてお り, 「組織活動の業績 に影響 す る要 因は何 で あ るのか」 とい う問題意識 の基 に,無数の研 究が行 われ,そ こで蓄積 された知 見 は,経営 におけるマ ネジメ ン トに広 く通用 されている

次 に,伝 統 的

PM

研 究 では組織 的 ・人的要素 とい う視座が欠 けてい る とい う議論であるが, これ も経営学分野 においては組織論 として研 究領域が確立 さ れてお り,業績 に影響 を与 える様 々な組織 的 ・人的要因が解 明 されてい る

では,既 に経営学分野では広 く受容 されている 「状況適合 の概念,組織論的 概 念」 が,何故

PM

分野 では欠如 し,前述 の ような批判 が萌芽 したのであろ うか。梅 田

( 2 0 0 3 )

の以下 の報告 は, この背景 を端的に表 している と考 え られ

「 PM

研 究 は経営学 (組織論, 国際経営論),経営工学,工学 の学 際的な 研 究分野であ り,現在 はそれぞれ 学問分野か ら異 なるパ ラダイム,研 究対象, 研 究方法 にてPM 研 究が行 われている。 PM の学理的研 究 にあたって, PM 研 究独 自のパ ラダイムが構築 され るこ とが望 ま しいが

,PM

研 究 は まだ経 験が浅いため,当面の研 究は,当該研 究課題 と関連す る既存学問体系 の恩恵 を受 け研 究が行 われなければな らない。 この上 では各学問分野固有のパ ラダ イムの違いを理解 しな くてはな らない」

1節 で述べ た とお り,伝 統 的 PM 研 究 は

OR

をプ ロジェ ク トに適用 す る ことで発展 して きた。 い ささか乱暴ではあ るが

,OR

を梅 田

( 2 0 0 3 )

の提示す る研 究分 野 にあて はめれ ば

,OR

は工学分野 の研 究 であ り,伝 統 的

PM

研 究

(8)

は工学分野を中心 に発展 して きた と言い換 えることがで きる。つ ま り,伝統的

PM

研究では,工学分野 による研究が主流で,経営学的視座 を持 った研究 には 注意や関心が払われてこなかった と考 えることがで きよう

工学分野,特 に

OR

を通用 した研究は,プロジェク トにおける多 くの意思決 定支援 ツールを提供 し,大 きな貢献があったことは紛れ もない事実である

。一

方で,批判論者が主張するとお り

「 PM

の通用がプロジェク トの成功 を保証 し ていない」 とい うことも経験 的に確 かであ り,伝統的

PM

研 究 と実務の差 を 埋 めるために,批判論者の主張する 「プロジェク ト分類」,「組織 ・人的要素」

とい う二つの視座か ら研 究 を進め ることは,今後の

PM

の発展 に非常 に重要 なテーマであるといえよう

3.

批判的研 究

では,批判論 に基づ き

PM

分野では どの ような研 究が展 開されているので あろうか。本節では,伝統的

PM

研 究に対する批判論者である

,Sh e nh a r( 2 0 0 1 )

の提案 したプロジェク ト分類モデル と

,Eng wa l l( 2 0 0 3 )

が指摘するプロジェ ク トの成否における組織的 ・人的要素の研 究をレビューする

(1) プロジェク ト分類モデル

先 に も述べ た ように

,She nha r( 2 0 0 1 )

は 「従来の

PM

研 究は

1

つの型が 全てのプロジェク トに適合するとの前提で実施 されている」 として既存研究を 批判 し,プロジェク トを成功 に導 くマ ネジメン トを行 うには 「プロジェク トを 分類 して,それに通 したマ ネジメ ン トを実施すべ き」 と主張す る

( She nha r , 2 0 0

1 ) 。

伝統 的

PM

研 究では,そ もそ もプロジェク トを分類 してそれ に適 したマ ネ ジメン トを実施するとい う概念がなか ったこともあ り,プロジェク トの分類は,

Mo r r i s a nd Ho ug h( 1 9 8 8 )

が示 したプロジェク ト分類 (

1

) しか見当た ら ない。

(9)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

217

1

Mor r i san dHough

のプロジェク ト分類

産業/技術

宇宙航空,十木工事,建設工事,情報システム開発など

E ]的 明確 ・不明確

資金源 と施主の タイプ

融資 ・出資,民間,政府 ・国際機関

技術の不確実性 技術 レベル

所在地

国際プロジェクト,国内プロジェクト

Mo r r i sa ndHo u g h ( 1 9 88) よ り筆者作成

しか しなが ら, この分類 は, Mor

r i sa ndHough ( 1 988)が事例分析 した,

巨大 プロジェク ト

( ma c r opr o j e ct )か ら,提示 された仮説 に とどまってお り,

実証研 究 も行 われていない。 また, この後 これ らの分類 に基づ き, プロジェク トの タイプ と,マ ネジメ ン ト手法,それ に対す る成果 の因果 関係 の探 求 も行 わ れて こなか った。

She nha re ta

l.(2005) は,先 の批判か ら, プロジェク ト類型 の一般化 を 目 指 し,600を超 えるプロジェク トについて質問表調査 を行 い,得 られた回答 に つ いて因子分析 を実施 した。 その結果

「 NCTPTheDi a mond‑ MODEL

」 と呼 ぶ分類方法 (

1

お よび表

2

) を提案 し,各次元 の レベ ルに応 じてマ ネジメ ン

トを行 うべ きと主張 す る

Shenhareta

l.(2005)が提示 したプ ロジェク トの類型化 は,個別 プ ロジェ ク トを対 象 に した分析結果 が, あたか も一般化適用可能 として論 じられて きた 伝 統 的

PM

研 究 に対 して,①状 況適 合 の概 念 を

PM

研 究 に持 ち込 んだ とい う 理論 的側 面,② 多数 のプロジェ ク トを統計 的 に分析 し, プロジェク トの構造 的 側面 につ いて普遍 的 なモデ ルを提案 した とい う方法論 的側面 において,伝統 的

PM

研 究 に対 して大 きな貢献が あ った とい える。 しか しなが ら, この類型化研 究 には以下 の点で課題が残 されてい る と指摘 で きる

まず,類型化 の妥 当性 についてのケース研 究,実証 的分析 が行 われていない。

She nha re ta

l.(2005) の示 した類型 モデルが広 く受容 され るため には, この 類型 モデ ルを用 いたケース研 究,実証 的分析 が行 われなけれ ばな らないが,覗 在 その よ うな研 究 は見当た らない。

(10)

複雑性( c ompl e xi t y)

時間‑

早‑

配列( a ny ) システム( s

ystem )

最重要 競争的

電撃的 T

im e

‑ F

ast

‑ 通常 集合( a s s e mbl y ) 技術( レベル) Bl i t z l c r it i l C a l c o mp e l t i t i v eRe g l u la r l l

l (t

e c hnol l ogy)

l l l

l

l l l

l

緊急性 低 中 高

極 高

( pace) ブレークスルー プラットフォームPht 派生0)

Prea

e kt r iv hr a mg f or t ive h) n) ) I . o w ‑ Me di u m ‑ Hi g h‑

Super

T e c h T e c h Te c h

High ‑

Te c h

新規性ov ove l t y)

出所 :She nha re ta l . ( 2005)

区日 NCTPThe Di amond‑MODEL

2 NCTPダイヤモ ン ドーモデル の各 次元

【 新規性】 【 複雑性 】

製品が市場 に対 して どれ くらい 目新 しい もの どの程 度複雑 な製 品であるか

であ るか ・集合 :サ ブ システムであ り,単一機能 を有す

・派生 :既 存の製品の改善 る

・プラ ッ トホー ム :既存 の製 品 ライ ンの新 しい ・システム :サ ブ システムが集積 され た もので

新世代 あ り,複数機能 を有す る

・ブ レー クスルー :世界的な新製 品 ・配列 :共通 の 目的 を果 たす ため に, システム が広範 岡に渡 って集積 され た ものである

【 緊急性】 【 技術 レベル】

プロジェ ク トの切 迫 と利用可能 な時 間枠 プ ロジエク T .に よ り,企業が利用す る新技術

・通常 :遅 れは重要 ではない の範閉

・単 一競争 的 :市場へ の投入時 間が事業 におい ・低 :新技術 を用い ない

て重要である 申: 若干の新技術

・時 間 ‑最 重 要 :完 了時 間が ,成功 の機 会 に ・高 :全 て または人部分 は新 しい ( 技術) であ

とって重要である るが,既存技術 を利用す る

・電撃 的 :プロジェ ク トの危機,即時 の解決が ・極 高 :プロジェ ク ト開始時 に技術が存在 しな

出所 :She nha re ta l . ( 2005)

(11)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

21 9

次 に,プロジェク トの類型化 とプロジェク トの業績 (成否) に関わる因果関 係が明 らかにされていない。状況適合理論 による研究アプローチにおいて,プ ロジェク トの業績 を従属変数 として考 えた場合,プロジェク トの類型だけで業 績が決定す ることが有 り得 ない ことは明 らかであ る。繰 り返 しにはなるが,

She nhe r( 2 0 0 1 )

はこの点 について 「プロジェク トを分類 して,それに通 した マ ネジメ ン トを実施すべ き」 と してお り,その後の研 究 において

, NTCP

イヤモ ン ドモデルの次元 に応 じたマ ネジメ ン ト指針 を示 してい る

( She nhe r a ndDvi r , 2 0 0 7 )

。 しか しなが ら

,She nhe ra ndDvi r( 2 0 0 7 )

が提示 したマ ネ ジメン ト指針は,伝統的

PM

研究において分析対象 となった,個別のプロジェ ク トについて

, NTCP

モデル を用 いてその成功 または失敗要 因 を説 明 し,

NTCP

モデルを用いてプロジェク トタイプを分析 した上 で, これ ら成功 ・失 敗要因 を考慮 した

PM

を実施すべ きとい う,規範 的な示唆 に留 まってい る

She nhe ra ndDvi r( 2 0 0 7 )

の示唆は

PM

実務 においては,有益 ではあ るけれ ども

,

①成功 または失敗要因がプロジェク トに見 られる共通の特性 であるこ と,② それ らの要因 と

NTCP

モデルお よびプロジェク トの業績 に因果関係が あること」の二つの要件 を解明 しなければ,学術 的に妥当な示唆 とは言 えない ことが指摘で きる

また,実務的な課題 として 「(訂それぞれの次元の評価基準 はあま りに抽象化 され過 ぎていて,評価することが難 しい,②

4

次元

×4

段階評価では分類数が 多す ぎる」 ことも指摘で きる

(2) 組織 ・人的要素

Eng wa l l( 2 0 0 3 )

は,伝統的

PM

研 究に対 して 「①組織的眺望が非常 に狭 く, プロジェク トの成否 に関わる要因 について組織要因が考慮 されていない,② 個 々のプロジェク トを独立 して議論 してお り,プロジェク ト間の影響 など長期 的な時間軸の視座 に立 った分析が行われていない」 と批判 し,プロジェク トを 実施する組織の歴史的背景,プロジェク トを取 り巻 く社会的要因を理解するこ との重要性 を指摘す る

。Enga wa l l( 2 0 0 3 )

,1 9 8 0

年代 にス カンジナ ビアで

(12)

行 われた,水力発電所更新 と高圧配電線敷設 とい う二つの建設プロジェク トに ついて比較分析 を行 った。 この二つのプロジェク トは,時期,規模 そ して技術 水準 も似通 ったプロジェク トであ り,異なるのはプロジェク ト ・マ ネージャー

,PM

のス タイルであった。前者は

,PM

知識 と経験豊富なマネージャーが, いわゆる伝統的

PM

に基づいたマ ネジメ ン トを行 い,後者 は,前者 と比較 し 明 らかに

PM

知識 に乏 しく,担 当部門生 え抜 きのプロジェク ト・マ ネージャー が伝統的

PM

で示 されるような,マネジメン ト手法は利用 しない中でプロジェ ク トが履行 された。 プロジェク ト完了後,二つのプロジェク トを比較す ると, 伝統的

PM

を通用 しなか った高圧配電線敷設 プロジェク トが納期,予算,品 質が当初の計画 とお り遂行 され,更にプロジェク トメンバーの満足度が高かっ たのに対 し,伝統 的

PM

を適用 した水力発電所更新 プロジェク トは,納期, 予算の超過 をお こ し,プロジェク トメ ンバーの満足度 も低 い とい う結果 に終 わった。

Engwal l( 2 00 3)

は,二つのプロジェク トの差異 について,伝統的な

PM

PM

研究では考慮 されていない要因があるとして,二つのプロジェク トの組織 や歴史的背景の分析 を行 った。その結果,①水力発電所更新 プロジェク トにお いては,プロジェク トお よび組織の歴史的背景 によって当該 プロジェク トに適 したプロジェク ト ・マ ネー ジャー を選択 しなか った,② 高圧 配電線敷設 プロ ジェク トは,プロジェク ト ・チームがそれ以前 に同様のプロジェク トを経験 し ていたことを,差異の原因 として指摘 し, これ らの事実はプロジェク トの開始 か ら終了 までの限 られた期 間だけに焦点を当てた研究では発見で きない事実で あると指摘 している。 さらに

, She nha re ta l .( 200 5)

の示 したプロジェク ト 類型 と

, Engea l l( 200 3)

の指摘す るプロジェク トの組織 的側面 を,組み合わ せ ることで,状況適合アプローチにおいて豊かな知見が得 られることを示唆 し ている

以上 の

Engwa l l( 2003)

の研 究 と指摘 は,伝統的

PM

PM

研 究 において 研 究テーマ とはなってこなかったプロジェク トの歴史的背景や コンテクス 1、と い う組織 的側面 に光 を当てた ことで,伝統 的

PM

研 究の展望 に新 たな視座 と

(13)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

221

広が りを与 える ものである。 また,成功 したプロジェク トと失敗 したプロジェ ク トを比較 しその差異 を分析す ることで,プロジェク トの成功 ・失敗要因を探 求す る とい うアプローチ は伝統的

PM

研 究では行 われて こなか った研究手法 である

しか しなが ら

, Engwa l l( 2 0 03)

の報告 には,以下の限界がある

1

, Engwa l l( 2 0 03)

の指摘 した

2

つの成功 ・失敗要因は,比較対象 と なった

2

つのプロジェク トの分析結果 にす ぎない。 また,成否に影響す る可能 性 のある全ての要因を検討 した結果ではない。 この点については,伝統的

PM

研 究において も,個別プロジェク トの分析か ら様 々な要因が提案 されてはいる が,いずれ も普遍性 に乏 しく, さらに様 々な要因 と業績の統合 されたモデルの 提示が必要である

2

に,プロジェク トの歴史的背景や コンテクス トが成功 ・失敗 に影響 とす るとい う報告は,経営学分野では広 く合意が得 られている知見であ り,理論的 インプリケーションという観点では

,Engwa l日2 0 03)

の報告は新奇性 に乏 しい。

3

に,プロジェク トの歴史的背景や コンテクス トは,プロジェク トの成功 や失敗 に影響する重要な要因ではあるけれ ども

,Engwa l l( 2 0 0 3)

の報告では, これ らの要因に対 して,何 をどのようにマネジメ ン トすべ きか とい う,実務的 インプリケーシ ョンが述べ られていない。特 に,プロジェク トの歴史的背景や コンテクス トは,プロジェク ト完了後 に当該プロジェク トを客観的に傭轍する ことで発見で きる成否要因である。多 くの場合,プロジェク トを遂行す る当事 者が これ らの要因を知 ることは困難であ り, また既知 となって も, コン トロー ル不可能な所与条件 となることか ら,マネジメン ト指針 を提示することは重要 であると考えられる

4.

以上

, PM

研 究の歴史 について,文献 レビュー を行 った。 その結果

, PM

研 究について以下の歴史的推移が確認で きる。 第

1

に,近代 的

PM

活動 は

1 9 30

年代か ら

40

年代 にかけて,管理工学の研究成果 を適用 し, システマテ ィックに

(14)

プロジェク ト活動 を統制 しようとい う試みか ら始 まった。第

2

PM

研 究は 実務家か ら提示 される課題 を解決する形で,工学分野,特 に

ORの研究成果 を

適用することで主 としてツール開発 に焦点を当てて発展 して きた。第

3に1 9 9 0

年代 に入 り工学分野の研 究成果 を通用 した

PM

ではプロジェク トの成功が保 証 されない とい う批判が萌芽 し,プロジェク トを状況適合 とい う枠組みで解明 す る試みが行われている。批判論者は,状況適合の枠組みに 「プロジェク トの 類型化」,「組織 ・人的要素」 とい う視点を持ち込んだ研究を行 ってお り, これ らの研 究 を レビュー した。 いずれ も,伝統的

PM

研 究 に新 たな視座 を与 え多 くの知見 をもた らす ことが期待 される研究であった。

しか しなが ら

, PM

とい う学 問領域 における状況適合 とい う研 究手法 は, 未だ,その歴史が浅 くプロジェク トの業績 に影響する要因 とそれ ら要因が業績 に影響 を与 えるメカニズムが解明された とは言い難い。 また,隣接科学の経営 学分野の視座 では,状況適合 とい う研 究 アプローチ は既 に一般的な研 究 アプ ローチであ り

, PM

分野の研 究で発見 される事実 (成否要因) は新奇性 に乏 しい。

さらに,批判論者 の主張 を傭 轍す ると,批判論者 は伝統的

PM

研 究 を批判 し従来の

PM

研 究 に新 しい視座 を提案 してはい るが,伝統 的

PM

研 究 に基づ くマネジメン トのプロジェク トの業績 に対する影響 を定量的に明 らかにしてい るわけではない。つ ま り,経験則か ら伝統的

PM

の通用が成功 を保証 してい ない とい う批判 は行 われているが, プロジェク トにおいて,伝統的

PM

が全 く意味を持たない ものなのか,それ とも一定程度の効果が存在する ものなのか とい う,研究や議論が見当た らない。

ここで指摘 した,プロジェク トの成否要因 と業績 とい う

2

つの課題 に対 して は,隣接科学である,経営学分野で様 々な議論 と,知見の蓄積が行われている

次節では,経営学分野の中か ら

PM

研 究 に有望 と考 え られ る,研 究蓄積 につ いて文献 レビューを行 う

(15)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

223

Ⅲ.経営学分 野 の適用検 討

業績 に影響 を与 える要因は何 か」 とい う

PM

分野の問題意識 を基 に,経 営学分野の研 究や議論 を傭轍す る と,戦略論分野 にお ける資源ベース ・アプ ローチ

( r e s o u r c e ‑ b a s e dv i e w

:以下

,RBV)

に関す る議論 と製品開発 に対す る研究が

,PM

研究に貢献可能 と考えられる

戦略論 においては,「企業の競争優位の源泉 は何 であるのか」 とい う問題意 識の下,多 くの議論がなされている。若干の論理の飛躍 はあるが,競争優位 と プロジェク ト業績 を等価 と仮定するな らば,同 じ環境下の企業間における業績 差異の源泉 を説 明す る戦略論 の議論 は

,PM

研 究 に も有益 であ ると考 え られ

戦略論の議論 と同様,経営学の中で も企業の製品開発活動 に焦点 を当てた研 究 も

PM

研 究 に有望 であ ると考 え られる。 なぜ な ら,企業 の製 品開発の多 く はプロジェク ト形態で行われているためである。 さらにこれ らの研 究において 業績 に影響 を与 える要 因 として研 究 されて きたの は組織 能力 であ る。先 に

Eng wa l l( 2 0 0 3 )

「 PM

研 究 にプロジェク トの組織 的側面の適用すべ き」 と い う主張 を示 したが,製品開発研究における組織能力の研究は, この主張か ら

も当てはま りが よい。

しか しなが ら,経営学分野の研 究蓄積 を

PM

分野に適用するにあたって,先 に示 した梅 田

( 2 0 0 3 )

の報告の とお り,パ ラダイムの違いを意識す る必要があ

。PM

研究の 目的が 「プロジェク トの要求事項 を満足 させ るための知識,ス キル,ツールと技法」の開発であ り,その研究対象 も,航空 ・宇宙,建築

,I T

, 組織改革など様 々なプロジェク ト (タスク)である。 これに対 し,現代の経営 学分野は 「企業 (組織)の効率的 ・効果的活動のための理論構築」が研究 目的 であ り,個 々の タスクは抽象化 して取 り扱 われる。 また,研究か ら導 き出され るイ ンプ リケー シ ョンも

PM

研 究が実践 的な管理技術

( me t hod )

や方法論

( me t h o d o l o g y)

が重視 されるのに対 し,経営学分野においては,組織 におけ る原理や現象を理論的に究明するためのインプリケーションが求め られる。

(16)

これ らパ ラダイムの違いを理解 した上で,本項では,始めに戦略論 における 議論 を傭轍する。戦略論 においては,当初企業の競争優位の源泉 を,企業が存 在する環境 と,その環境下 における企業の行動 (ポジシ ョニ ング) に求める見 解 が支配 的であ った。 しか しなが ら,後 に企業 の持 つ 固有 資源 を重視 す る

RBV

が主張 される。本項では, これ ら戦略論の議論 を傭轍

LPM

研 究へ の貢 献可能性 を検討する。次 に,製品開発 における組織能力 に焦点を当てた研究に ついて文献 レビューを行 う

1.戦略論における議論

戦略論では,企業の競争優位の源泉 は何 であるのか とい う問題意識の下,多 くの議論がなされて きた。 これ らの議論は,①企業の環境 に着 目した議論,② 企業の内部資源に着 目したに議論の二つに大別 される。

( 1 )

企業環境 に着 日した戦略論

企業の環境 に着 目し競争優位の源泉 を解 明する議論の中で,最 も支配的なパ ラダイム となっている ものが, Por

t e r

の競争戦略論

( Por t e r ,1 980,1 985)

あ る。 Por

t er ( 1 980)

は,企業が立脚 している業界 (市場) について

, 5

の競争要因

伍vef o r ce s:参入障壁,代替品の脅威,買い手の交渉力,売 り手

の交渉力,市場内における敵対関係の強 さ)を規定 し,これ らの要因に対処 し, 企業が競合他社

( c ompe t i t or s )

との関係 において競争優位 に立つための

3

の基本戦略 (コス トリーダーシップ,差別化,集 中化) と,競争優位 を維持す るため (利益 を創 出す るため) の概 念 として価値連鎖

( va l uecha i n)の概念

を提示 した。

Por t e r

の提示 した競争戦略論 は,それ まで極 めて概念的かつ暖味な もので あった戦略が精微化 された ことにおいて大 きな貢献であった。 また,市場の分 析枠組みである

5

つの競争要因,それ らの市場 に対 して企業が とるべ き3つの 基本戦略,企業オペ レーシ ョンの中か ら競争優位の源泉が創 出されるとい うバ リューチ ェー ンとい う

, 3

つの提案は明確 な枠組みであった こともあ り,多 く

(17)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

225

の実務家 に受容 され,現在 において も戦略論 における支配的なパ ラダイムのひ

とつであ り続けている

しか しなが ら,後の論争では

Po r t e r

の戦略論では企業の持続的競争優位の要 因が説明で きるほどの説得力を持 っていない との批判が出て くることになる。

(2)資源ベース ・アプローチ

Ha ns e na ndWe r ne r f e l t( 1 989)

Ja cobs on ( 1 988)

, Por t e r

5

つの 競争要因中の要素 として重視 した規模 の経済や,範囲の経済 といった経済的要 因は企業業績 に対 してあま り大 きな影響 は持 っていない ことを指摘,実証 して いる。また

,1 9 80

年代の米国企業の衰退 と日本企業の隆盛 を背景 に行 われた 「日 本企業の競争優位の源泉は何か」 とい うテーマの取組みは, 日本の企業の多 く が 「コス ト・リーダーシップ単帥各」 と 「差別化単餅各」 を同時 に採用 しなが らも 成功 を収めていることと,市場規模が小 さく競争が激 しい 日本市場 における日 本企業の行動特性 は

, Por t e r

が提唱す る

5

つの競争要因 とい う枠組み と,企 業が とるべ き3つの基本戦略では説明で きない。

こうした批判の もと,企業の競争優位の源泉 を企業内部の能力 ・資源 に求め る資源ベース ・アプローチ

( r e s our ce ‑ ba s edvi ew

:以下

, RBV

とす る) に よる戦略論が展 開されることとなる

。 RBV

では,競争優位の源泉 を,企業が 持つ特殊 な独 自資源 に求める。つ ま り個 々の企業 は資源や能力の点で異 なって お り,それが企業間のパ フォーマ ンスの差異の源泉 となる

( Ba r ne y,1 9 8 6.1 9 91 )

とい う議論である

これ ら

RBV

における組織能力の議論は数多 くされている。代表的な概念 と して野中

( 1 9 9 0 ),No na kaa ndTa ke uc hi( 1 9 95)

の 「知識創造」,伊丹

( 1 9 8 4)

の 「見 えざる資産」

, Pr aha l ad ( 1 9 90)

Ti dd ( 20 01 )

の 「コア ・コンピタ ンス

( c o r ec o mpe t e nc e)

, Gr a nt ( 1 9 9

1)の 「ケイパ ビリテ

ィ ( Ca pa bi l i t y) 」

が挙げ られるが,研 究者の間で共通 した見解 を見出すには至 っていない。ただ し,吉田

( 2 00 3 )

はそれまでの組織能力 に関する議論か ら,競争優位の源泉 に おける組織能力の特性 を 「(∋顧客 に価値 を提供す るもの,②他社 との比較優位

(18)

を生み出す独 自性,③代替困難な もの,④模倣困難な もの」 としさらに,組織 能力の代替 ・模倣困難 とい う特性 は 「暗黙性 ・複雑性 ・企業特定性」 とい う

3

つの条件が必要であるとしている

この ような視座 は

PM

研 究分野 について多 くの知見 を もた らす ことが期待 される。 RBVで議論 される 「個 々の企業 は資源や能力の点で異なってお り, それが企業 間のパ フ ォーマ ンスの差異 の源泉 とな る」 とい う仮 定 は,先 の

Engwa l l( 2003)の研 究アプローチ と符号す る。つ ま り,「プロジェク トを遂

行するチームは,個 々に資源や能力が異なってお り,それがプロジェク トの業 宿 (成功 ・失敗) と繋が る」 との仮定 を置 くことが可能 となる。 また,先 に

Engwa l l( 20 03)

の報告 について 「成否 に影響す る可能性 のある全ての要因を 検討 した結果ではない」 ことを指摘 したが, RBVで着 目す る組織能力 は,プ ロジェク トの成否に影響 を与 える要因 として

Engwa l l( 2 00 3)の研究 を補完す

ることが期待 される

しか しなが ら

, PM

研 究の 「プロジェク トの要求事項 を満足 させ るための 技法 開発」 とい う目的を考 えた場合,先 に挙 げた

RBV

に関す る議論 は,プロ ジェク トの成否要因を組織能力 に求める根拠 にはなって も,実務的なインプリ ケーションは示せてはいない。 この点 については, CRM (

Cus t ome rRe l a t i on Manage ment )や販売 ( s a l e s )な ど企業 の諸活動 に必要 な組織能力 を明 らか

にする研 究が多 く行 われて きている

8)

。ただ し,これ らの研究は,企業 (組織) 業績 を向上 させ るための活動

( a c t i vi t y)

に必要 な組織能力 を明 らか にす るこ とであ る。 これ に対 して

, PM

研 究 は, プロジェク トを成功裏 に遂行す るた めの組織能力,すなわち課業

( t a s k)を成功 させ るために必要な組織能力 を明

らか に しなければな らない。後述す る,経営学分野 に対す る

PM

研 究の イ ン プ リケー ションを先取 りして述べれば,企業業績 を向上 させ るために必要な諸

8

)例えば,近藤

( 2 0 0 8 )は , CRM ( Cus t o l l l e rRe l a t i o ns hi pMa nage l l l e nt )を実

施 しても充分な成果が挙げられないという問題に対 して,組織能力に着 目LCRM の成功 ・失敗要因を組織能力という視点で整理することで,CRMを成功させるた めには,CRM能力の構築が重要であることを示 している。

(19)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

227

活動やその活動 に必要な能力 と,環境 ・組織の様 々な制約条件の下で実際にそ の活動 をタスクとして成功 させるために必要な能力は異なるもの と考えられる。

2.

製品開発における組織能力

(1) 自動車産業の製品開発 における組織能力

製品開発活動では, 自動車産業 を中心 に様 々な研 究が行 われている

。 C1 a r k a ndFuj i mot o ( 1 991 )

は, 日米欧の 自動車産業の製品開発 プロジェク トの実 証研究を通 じて,特定の 日本企業 には 「重複型問題解決

( s t a geo ve r l a ppi ng) 」

と 「重量型 プロダク ト・マ ネージャー構造

( Heavywei ghtpr oductma nage r s t r uc t ur e)

」 とい う二つの重要な組織能力が存在す ることを明 らかに した。

重複型問題解決 とは,製品開発の各段階を時間的に重複 させ,重複時の集中 的なコミュニケーシ ョンによって開発 プロセスを一貫す る形で統合的な問題解 決 を促進するメカニズムである。重量型プロダク ト・マ ネージャー構造 とは, 開発 に関わる様 々な部門を横断的に管理するプロダク ト ・マ ネージャーに製品 コンセプ トの構築 を含む広 く強力な権 限を持たせ るメカニズムである。

さらに,藤本

( 1 99 5 )

は, 自動車産業 において発見 した効果的な製品開発パ ター ンが他産業 にも適用で きるか とい う一般化の問題 に対 して,産業毎の製品 特性の違いによ り,効果的製品開発パ ター ンも自動車産業 とは異なるとい う仮 設 を立て,予備的考察を行 っている。具体的には

He nde r s o na ndCl a r k( 1 99 0)

が提案 した,イノベーションの類型 (

2

) に基づ き, 自動車産業 をアーキテ クチ ャル ・イノベー ションに分類 される製品,メイン ・フレームコンピュー タ 産業 をモジュラー ・イノベーションに分類 される製品 として,考察 を行 った。

その上で,効果的な開発パ ター ンとして, 自動車産業 においてほ現行製品開発 の中で部門統合が重要であ り, メイン ・フレームコンピュー タ産業では開発上 流段階におけるコカレン ト エ ンジニア リング

9)

や統合的な問題解決が重要で

9

)概念設計/詳細設計/生産設計/生産準備など、各種設計および生産計画などの 工程を同時並行的に行うこと。

(20)

あ ることを指摘 している

コア ・コ ンセ プ ト

強 化 され る 転 換 され る

構 成 部 晶 の 連 結 変 化

イ ンク リメ ン タル

ジ ュ ラ

イ ノ ベ ー シ ョン イ ノベ ー シ ョン

アー キ テ ク チ ャル ラ デ ィカル イ ノ ベ ー シ ョン イ ノベ ー シ ョン

出所 He nd e r s o na ndCl a r k ( 1 9 9 0 ) , p 1 2

2

イノベーション頬型の分析枠組み

このほか に も藤本

( 1 9 95 )は,製品の複雑 さが増す とプロジェク ト規模が拡

大 しそれだけ統合者 の役割が増 し,一般 に もっとも困難 な調整領域 を扱 う能力 のある者がプロジェク ト ・リー ダーに就 く傾向があ り,製品が複雑 になれば効 果 的な開発パ ター ンは 自動車産業 に類似す る と予測 している

以上 の, Cl

a r ka ndFuj i mot o ( 1 99

1) と藤本

( 1 99 5 )の研 究 は,先 に述べ

She nha re ta l .( 20 05)

のプロジェク トの類型化研 究 において指摘 した 「プ ロジェク トの類型化 とプロジェク トの業績 (成否) に関わる因果関係が明 らか にされていない」とい う問題点 を補完す ることが期待 され る。特 に藤本

( 1 99 5 )

の立てた 「産業毎の製品特性 の違いによ り,効果 的製品開発パ ター ンも自動車 産業 とは異 なる」 とい う仮説 は, She

l l ha reta l .( 2005)の 「プロジェク トを

分類 して,それ に通 したマ ネジメ ン トを実施すべ き」 との主張 と,本質的な問 題意識が一致す る。 この点で,藤本

( 1 9 9 5 )の研 究アプローチ と,そ こで示唆

された,産業や製品毎の類型 に着 目した組織能力 は,プロジェク トを成功 に導

くために必要 な能力 を含んでいる可能性が高い。

(21)

プロジェクト マネジメント研究の展望:プロジェクト マネジメント分野における組織能力の展開

2 29

しか しなが ら

, C1 a r ka ndFuj i mo t o( 1 9 91 )

の研 究は 自動車産業 とい う特 定 した産業 を対象に した研究である

。PM

で扱 うプロジェク トは,航空 ・宇宙, 建築

, I T

,組織改革 な ど多方面 に渡 ってお り,普遍性 の検討が必要 である

藤本

( 1 9 9 5 )

の研究は,そのような問題意識 に基づいた研究ではあるが,仮説 の提示 に留 まっている

(2) 製品開発 における一般的な組織能力

一般化 とい う研究 においては,楠木ほか

( 1 9 9 5 )

が, 日本の製造業の製品開 発 における一般的な競争力 を探求 した研究を行 っている。楠木ほか

( 1 9 9 5 )

は,組織能力は①知識ベース,②知識 フレーム,③知識 ダイナ ミクス とい う

3

つの知識の階層 によ り構成 されている もの としている。 (

3)

ここで,知識ベース とは,区別可能な個別資源 としての知識 と定義 される

例 として個人が有す る特定の機能についての知識,組織が有するデー タ ・ベー ス,特許などが挙げ られている。 この知識ベースが提供する組織能力 を 「ロー カル能力」 と呼んでいる

出所 :楠木ほか ( 1 9 9 5 )

3

重層的な知識としての組織能力

(22)

次 に,知識 フレームとは,知識ベースを構成す る個別知識 を,組織全体 とし て安定的なパ ター ンに配置するための,組織構造や戦略などに関す る知識 とし て定義 される。例 として タス クの分割方法,組織形態のデザイ ン,権限の配置, チームに対する資源配分な どを挙げている。 この知識 フレームが提供す る組織 能力 を 「アーキテクチ ャ能力」 と呼んでいる

最後の知識 ダイナ ミクス とは,知識ベースにおける個別知識のダイナ ミック な相互作用 によ り,個別知識 を統合 し新たな知識 に変換 または創 出するプロセ スに関す る知識 として定義 される。例 として,機能別の開発 グループを横断す るようなコミュニケーションや コーデ ィネーション,特定の知識 を有す る技術 者の部門間移動などを挙げている。この知識 ダイナ ミクスが提供す る能力 を「プ ロセス能力」 と呼んでいる

この定義の上で,楠木ほか

( 1 995 )

は,①

3

つの異なる組織能力 と製品開発 のパ フォーマ ンスにはどの ような関係があるのか,②製品開発のパ フォーマ ン スについて 「開発効率」

,

製品品質」

,

「イノベー ション」 とい う次元 を設定 し 各次元 に対 して,それぞれの組織能力が どのような影響 を与 えるのか とい う

2

つの リサーチ ・クエスチ ョンを掲 げ, 日本の上場製造業 に対 して質問表調査 を 実施 した。その結果 プロセス能力は 「開発効率

」 ,

製品品質」

,

「イノベーショ ン」 とい う全てのパ フォーマ ンスに対 しては強い影響力 を持 っていることが明 らかになった。一方,ロー カル能力は 「イノベー ション」のパ フォーマ ンスに 対 して強い影響力 を持 っているが,それ以外のパ フォーマ ンスに対する影響力 は相対的に低 く,アーキテクチ ャ能力 については全てのパ フォーマ ンスに対 し ての影響力が相対的に低い とい うことが明 らかになった。

この上で楠木ほか

( 1 995 )は,インプリケーシ ョンとして,プロセス能力の

源泉 について(丑部門横断的な知識の相互作用の重要性,② 「リーダーの関与」

と 「経験共有」とい う

2

種類の知識の相互作用の関係,③ 「プロ トタイピング」

の効果 を上げている

部門横 断的な知識の相互作用の重要性 については,製品開発部門内や機能部 門間のコ ミュニケー ションの効果が一様 に優位な影響力 を持 ってお り,部門横

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