ルワンダ復興の「援助」を再考する―貧困とHIV陽 性を抱える人々の声から
著者 平山 恵
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
巻 16
ページ 79‑81
発行年 2013‑12‑01
その他のタイトル Reconsideration of Reconstruction Assistance for Rwanda : Voice of the People Living with HIV
URL http://hdl.handle.net/10723/1955
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ルワンダ復興の「援助」を再考する
―貧困と HIV 陽性を抱える人々の声から
平 山 恵
【背景】
本研究は
1994
年に起きた大虐殺後のルワンダ復興の中でHIV
陽性者の支援を考える研究であ る。ルワンダのHIV
陽性者の特徴は(1)大虐殺の中での感染 (2)貧困 (3)差別という三重 苦を特徴としている。2001
年に発表者が行った調査との比較で行った。【方法】
対象者はルワンダの首都キガリ市にあるルワンダ保健省の
HIV
・AIDS
クリニックTRAC-Plus
に通ってくるHIV
陽性者の中から同意を得た100
人およびクリニックのスタッフ2
名であり、2010
年9
月2
日から23
日に個別に聞き取りを行ったものを2001
年と比較し、文献と合わせて 考察した。【結果と考察】
94
人(女性65、男性 29
人)を分析対象とした。1994年当時、ルワンダで大人であると考えられている
18
歳以上(現在34
歳以上)であった人が65
人、17
歳以下(現在33
歳以下)であ った人が29
人であった。1.
「レイプ感染者」は、小学校中退または未就学者が多く、「自分自身の教育」と「家」を求 めていた。2.
「配偶者感染者」は政府やNGO
などの「援助機関」を頼みにしており、「医療関係者」を頼 みにしていた。3
. 「非配偶者感染者」が「子のケア」を求め、「家族」を頼りにしていた。4.
男女間の感染経路の違い回収された内容を性別で比較したところ、感染経路に
5
%水準で有意差が見られた。男女と も「配偶者感染」が約半数を占めた。しかし「非配偶者感染」は男性が26.0%、女性が 9.0
%で男性が多く、女性はレイプで感染した人(17.9
%)が多かった。5
. 誕生地別の感染経路の違い回答された内容を誕生地別にみると、感染経路に
1%水準で有意差が見られた。ルワンダ外
生まれの群には非配偶者感染やレイプがなかった。これはルワンダ外で虐殺を免れた群と考 えると、虐殺と非配偶者感染やレイプ感染の割合が低かった。6
. 教育レベル別の仕事の希求の違い回答された内容を教育レベル別に比較したところ、仕事を求めているか否かに
5
%水準で有80
意差が見られた。
【結論】
下の表
1
の通り、2001
年と2010
年で社会経済環境によって感情の表出が違っていた。しかし、多くの人が「神」を頼りにしていた。配偶者感染者は「不安」を感じ、レイプ感染者は差別され ており「無力感」を感じ、非配偶者感染者は家族を支える強い意志を持ち、
2010
年に新たに現 れた母子感染者は自分の責任で感染したのではない「怒り」を感じていた。表
1
感染経路別の総合考察感染経路 特徴 拠り所
(頼るもの) 求めるもの 援助の可能性 1 配偶者
感染
虐 殺 で 家 族 を失 っ た こ と を 強 く訴 え る よ う に 話 す人 と 黙 っ て い る 人に わ かれる。
2001年:神、家族 食事(家や仕事は何と かなっている)
虐殺のトラウマケア
ス テ ィ グ マ を抱 え た ケ ー ス が ある 。 不安を感じる。
2010年:神、政府・
NGO、医療関係 者
虐殺で亡くなった遺体
2 レイプ 教育程度低い 2001年:神、NPO 2001年:仕事 拠り所がなくなり、
一番援助を要する群 である。
希望通り、成人教育 を通して HIV 陽性 者の互助仲間に入れ るかもしれない。
ル ワ ン ダ に ずっ と い て 海 外 に 逃げ ら れ な か っ た 。無 力 感を持つ
2010年:神以外「頼 れる者なし」の 人 も 少 な く な い。
2010年:自分の教育、
家、薬
3 非配偶者 感染
(売春含む)
売 春 で 人 間 関係 の 悪化有
2001年:神、売春者 はNPOを頼る
仕事と遺していく子の ケアや教育。仕事は特 に小規模ビジネスを希 望。
仕事がないために売 春をしたと考えられ る。
外 国 で 生 ま れた 人 も 比 較 的 多 い。家 族 を 支 え る 強い 意 志有。
2010年:神、家族 小規模ビジネスをは
じめられる支援をす れば生活が安定し売 春回避が可。
4 母子感染 輸血感染
比 較 的 年 齢 が 低 い。
被差別やHIV陽性 者 の 親 に 対 して の 怒り有。
神以外はさまざま。 さまざま。 本人や差別をする周 りの人々に対するエ イズ教育
(2010年のみ) 親の HIV に対する 無 知 さ に 怒 りを も つ人もいる
引き続き、母子感染 予防の妊産婦検診の 奨励。
輸血の安全管理。
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第1
研究の2001
年はまだ国が安定しておらず国際援助も少なかったが、2010
年は先進国10
カ国全部の援助に加えて国際機関、NGO
も援助に加わっており、ルワンダの人々が援助に期待 していた。そんな中でも感染者経路別にその希求度は違っており、配偶者感染者は援助の窓口で ある「政府」や「医療関係者」などの援助の中心者を頼っていたが、レイプ感染者は「神」以外 頼るものがないという人が多かった。非配偶者感染者は「家族」を頼りにしていた。レイプ感染者には「社会孤立」や「未来への希望の喪失」という背景が推定された。レイプそ して
HIV
感染という二重苦の中で、今後、彼らが求めているものは「社会とのつながり」であ ると考えられる。一方、「売春感染者」が含まれている「非配偶者感染群」はレイプ感染群と同 様にスティグマもあった。しかし、HIV
感染が問題としても自分や子どもを食べさせていけな い群である。この群の人々は互助グループを作るなどの社会と関わることで生きていこうとして いた。母子感染群に多い青少年
HIV
陽性者は「新生ルワンダへの貢献」や「生きる意志」をもって いた。他の感染群でも2010
年は「自分自身の教育」を求めるものが増加している。能力をつけ て、前向きに生きていこうとするHIV
陽性者が増えていた。50
代の女性でもこれからの自分自 身の教育を望みとしている人が複数存在した。このように、同一の社会内の
HIV
陽性者にも、感染までの経緯と社会とのつながりや関わり 方によって、主に見られる感情や将来への希望が大きく異なっていることが、本研究で新たに発 見された。2001
年、2010
年両方の研究でも、「拠り所」で一番多い回答は「神」であった。1994
年の大 虐殺時にキリスト教の聖職者が大虐殺を支援したことでイスラムに転向したルワンダ人も多くい ると言われている。しかし、依然として心の拠り所は「神」であった。事例8
のようにキリスト 教会のミサで出会ったHIV
陽性者どうしが結婚した例もあった。事例11
のように苦しい時は「神父」と話すという
HIV
陽性者もいた。「神」、「神父」というよりも事例7
のように「祈る」ことを心の支えにしている人もいる。教会が社会とつながる「場」として機能していた。以前か ら人の集まる場所であった教会、そして必要が作らせた互助組織がともに「社会とつながる場」
として機能していたと考えられる。
「夫の遺体を一番求めている」と答えた人がいた。
1990
年のカンボジア難民の帰還の際にも「遺骨収集」が望みだと答えた難民が多かった。通常の援助では生きている人が対象であるため に国際機関も政府開発援助も受け入れなかったが、日本の
NGO 2
団体が当事者の「望み」を受 け入れ、カンボジア難民キャンプがあったタイから遺骨を探し出し、カンボジア人たちに喜ばれ るプロジェクトがあった(AYUS, 1994
)。喪失を受け入れる事実の確認ができないことには悲し みを超えられない(Bowlby, 1995
)。愛着のある対象の喪失によって生じる悲嘆の苦しみを乗り 越えていく心的プロセスを支援する援助もあっても良いかと考える。<参考文献>
AYUS, アーユス年次報告書1993, 1994年
Bowlby, John, Maternal Care and Mental Health, Rowman & Littlefield Publishers, 1995