都市域における多自然川づくりと住民参加に関する研究
―東京都杉並区済美公園の事例―
Nature-oriented River Works in Urban Areas and its Status of Resident's Participation,-A case study of Seibi Park,Suginami Ward,Tokyo Metropolis
太 田 慧 *
Kei Ota 摘 要
本研究は,東京都杉並区の済美公園における親水施設設置の過程とその後の評価を明らかにしたものである。都 市化の進展によって,河川と人々のつながりが希薄になった高度成長期以降,全国に多くの親水公園が設置され た。さらに,河川法の改正や多自然川型づくりの通達など,河川整備をめぐる法的・制度的変化が生じている。
このような法的・制度的変化の背景から,河川整備の場面においてワークショップ(以下,WS)やその他の手 段によって合意形成を図る取り組みが全国で行われるようになってきた。しかし,事業完成後の河川環境の変化 や住民意識について検証された研究はまだ少ないのが現状である。本研究では,東京都杉並区において行われた WS による住民参加を,行政への聞き取り調査によって明らかにし,さらに事業後の住民意識についてアンケー ト調査を実施した。その結果,WS の取り組みが地域住民に十分伝わっていないことが明らかになった。今後の 公園運営のためには,住民による主体的な管理・運営が望まれる。
I.はじめに
1.1 研究目的
人々は河川と密接な関係をもちながら生活を営んで きた。しかし,都市化が進行した高度成長期以降の都 市部の河川では,水害対策のためにコンクリート護岸 で覆われたり,水質の悪化や都市開発のために暗渠化 されたりして,河川と人々とのつながりが希薄になっ てしまった歴史がある。そこで,1970年に土木学会に おいて河川が備えなければならない機能として「親 水 1)」の機能が提唱された。このような「親水」機能 は,1974年の江戸川区において日本初の親水公園であ る古川親水公園の整備によって具現化したと,土屋
(1991)や坪井(2003),畔柳(2008)などが指摘して いる。さらに,1990年には建設省河川局によって「『多 自然型川づくり』の推進について」として全国に通達 され,多自然型川づくりが全国的に取り組まれるよう になった。加えて,2005年9月以降に発生した災害を 対象に「多自然型川づくりアドバイザー制度」が発足 し,激特事業 2)において河川環境や自然景観の保全へ
の配慮を目指している。また,河川に関する法的状況 も変化し,1997年の改正河川法では河川整備の計画策 定にあたって地方公共団体や地域住民の意見を反映す ることが明文化されている。
以上のことから,今日の河川整備を取り巻く状況は,
河川法改正以前の治水・利水目的とともに親水・環境 保全が追加され,地域住民の意見を取り入れながら河 川と人々のつながりを取り戻そうとする方向に動きつ つある。しかし,河川整備の過程における住民参加を 論じた研究は数多く存在するが,事業完成後の河川環 境の変化や住民意識について検証された研究はまだ少 ない。また,「多自然型川づくりアドバイザー制度」を 活用した事業後の河川環境の変化や,住民意識につい ての検証はあまり行われていないのが実情である。本 研究では,都市域における水辺空間の質的向上という 従来の親水施設設置の文脈とは異なり,災害対策事業 に付随する事業として親水施設が設置された東京都杉 並区の済美公園の事例を検証する。さらに,整備後の 施設の評価や住民意識に言及するとともに,都市域に おける多自然川づくりの実態を明らかにする。
1.2 多自然川づくりと河川整備の諸制度の変化
河川法の歴史は,1896年に制定された治水を目的と した旧河川法の制定が最初である。旧河川法の制定か
*首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域
〒192-0397東京都八王子市南大沢1-1 (9号館) e-mail [email protected]
ら60年余りが経過し,1964年には高度経済成長で急 増した水需要に対応するために,利水に関する規定や 水系の一貫管理を目指した新河川法が制定された。さ らに,1997年には河川環境に対する関心の高まりを受 けて,河川が備える役割として治水,利水目的に加え て親水目的が追加された。また,河川整備に関する関 連法として,2002年制定の自然再生推進法3),2004年 制定の景観法4)の制定が挙げられる。
河川環境の関連制度としては,1990年11月に建設 省河川局より出された多自然型河川整備の実施要領が 挙げられる。これによると,多自然型川づくりとは,
河川が本来有している生物の良好な成育環境に配慮し,
あわせて美しい自然景観を保全あるいは創出する事業 の実施と定義されている。一方,多自然川づくりとは,
2006年の国土交通省の基本指針において,1990年の通 達以降の多自然型川づくりの課題を克服し,さらなる 川づくりの向上を図る目的で多自然川づくりへと名称 を変更したものである(図1)。2006年の基本指針にお ける多自然川づくりとは,河川全体の自然の営みを視 野に入れ,地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配 慮し,河川本来が有している生物の生息・育成・繁殖 環境及び多様な河川景観を保全・創出するために,河 川管理を行うものと定義されている。これらの制度や 指針によって,全国の河川においてさまざまな取り組 みが行われるようになり,その数はおよそ3万件とも いわれている(島谷,2007)。このような河川開発は,
神奈川県横浜市の和泉川,埼玉県朝霞市の黒目川,静 岡県三島市の源兵衛川など数多くの事例がある。
図1 多自然川づくりの展開
(原田(2006)より一部改編)
しかし,多自然型川づくりレビュー委員会報告
(2006)によると,激特事業では多自然型川づくりの
実施要領 5)に適さない河川整備が多く行われていると されている。そこで,激特事業のような大規模で短期 間に河川整備が行われるような事業では,河川環境や 自然景観の保全に一層の配慮が必要であるという理念 のもとに,2005年9月以降に発生した災害を対象に「多 自然型川づくりアドバイザー制度」が発足した。この 制度は,工学や生態学の研究者などの専門家を事業者 に派遣することによって,専門的な助言を行う制度で ある。
1.3 地域住民の合意形成とその先行事例
河川整備の現場において,住民参加の必要性が法 的・制度的背景から生じてきている。現在では,住民 参加による河川整備は,「まちづくり6)」の一環として 主に都市域において多く行われている。しかし,1997 年の河川法改正以前から住民が主体となって河川整備 に参加する事例は存在している。このような住民参加 による河川整備では,WSが合意形成の手段として利 用されることがある。
例えば,坪井(2006)による東京都世田谷区の北沢 川緑道の事例では,1991年に住民組織が結成され,東 京都区部において最も早期に住民参加が行われたと記 されており,千葉他(2003)による大阪府の石川河川 公園の事例では,1994年に公園整備に関する住民組織 が結成されていることが述べられている。1997年の河 川法改正以降の河川整備における住民参加の研究は,
市川(2008)による東京都練馬区の白子川の研究,澤 井(2002)による京都市の日野川の研究,長谷川・高 橋(1999)による京都市の鴨川の研究,久(2008)に よる京都市の西高瀬川の研究など,さまざまな研究実 績がある。また,鎌田・池上(2001)は,溜池整備事 業とWSの認知度をアンケート調査によって明らかに した。概して,これらの研究では合意形成の過程が明 らかにされ,竣工後の地域住民の主体的かつ継続的な 取り組みが課題として指摘された。
Ⅱ.善福寺川における河川整備
2.1 対象地域の概要
本研究の研究対象地として,東京都杉並区の善福寺 川に隣接する済美公園に選定した(図2)。研究対象の 選定理由としては,善福寺川の整備は「多自然型川づ くりアドバイザー制度」が適用された東京都で初の事 例であるということと,WS による合意形成が計られ たという理由である。さらに,23区の西部台地の善福 寺川流域は水害常習地という制約があり,増水時に水
没するワンド型の親水施設を設置することによる,管 理方法の特徴や公園利用に関する住民意識を明らかに するためである。
善福寺川は,荒川水系神田川支流の一級河川である。
杉並区の善福寺池を水源として杉並区内を南東に流れ,
中野区との区界付近で神田川に合流する。そのため,
全長10.5㎞のほとんどが杉並区内を流下する河川とな っている。第二次世界大戦前は農業用水として利用さ れていたが,都市化が進行し水道が整備された高度経 済成長期以降,善福寺川の河川水は利用されておらず,
水利権は自然消滅している。阿部(2008)によれば,
流域の土地利用は都市化が顕著であり,2000年時点の 土地利用に対する市街地面積率は約96%(東京都建設 局河川部,2004)という典型的な都市河川となってい る。なお,善福寺川は荒川水系に属している一級河川 であり,本来は国土交通省関東地方整備局の所管とな るはずだが,流域が杉並区内に限定される事を理由と して実際の河川管理は杉並区が担っている。
済美公園は杉並区南東部の善福寺川沿いに位置して いる区立公園である。元々は東京都の苗圃 7)であった が,杉並区に譲渡されて1968年10月1日に公園とし て整備された。面積は6,520.63㎡であり,杉並区内の 区立公園としては比較的広い公園である。
図2 善福寺川と済美公園の位置
(ゼンリン住宅地図により作成)
2.2 善福寺川流域の水害史と激特事業
近年,いわゆる「ゲリラ豪雨」と称される突発的な 集中豪雨の増加によって時間雨量100㎜という治水能 力を大幅に上回る豪雨が記録されるようになった。こ のような近年観測されるようになった時間雨量100㎜
を超える集中豪雨の被害で,最大の浸水面積を記録し たものが,2005年9月4日から5日にかけて台風14 号に伴う前線の発達によって発生した集中豪雨である。
この集中豪雨は後に「平成17年9月水害」と呼ばれ,
浸水家屋は3,591棟で,浸水面積は125.9haであった。
この水害では神田川・善福寺川流域の自治体に被害が 発生したが,最大の被災地は中野区及び杉並区であり,
両自治体には災害救助法8)が適用された。
以上のように,多大な被害をもたらした「平成 17 年9月水害」について,東京都は国に対して激甚災害 指定を申請した。その結果,2005年11月18日に「妙 正寺川・善福寺川河川激甚災害対策特別緊急事業 9)」
(以下,妙正寺川・善福寺川激特事業)が採択された。
この妙正寺川・善福寺川激特事業では,総事業費約145 億円のうち約 62 億円が国庫支出金として東京都に支 給されることになり,2005年~2009年度までの5年間 で護岸整備や河床掘削,橋梁架替,環状七号線の地下 貯水池の増強が決定された。
2.3 済美公園における住民参加へ至る過程
「平成17年9月水害」をきっかけとした妙正寺川・
善福寺川激特事業において,済美公園への親水施設建 設計画が浮上した背景としては,多自然型川づくりア ドバイザー10)が事業主体である東京都第三建設事務所 に派遣されたことが挙げられる(表1)。東京都第三建 設事務所は,多自然型川づくりアドバイザーの指示に したがって独自に親水施設の設計を検討し,善福寺川 に隣接する済美公園の一部を改修し,ワンド状の緩傾 斜護岸11)(以下,親水護岸)を建設する方針を打ち出 した。つまり,本研究事例は都市域における水辺空間 の質的向上という従来の親水施設設置の文脈とは異な り,災害対策事業に付随する事業として親水施設の設 置方針が示された。なお,親水施設の建設予定地とし て済美公園が選定された理由としては,済美公園の北 側が善福寺川に接しているため,善福寺川の水を導水 できることと,済美公園が区立公園のため,土地の買 収費用が不要であることが挙げられる12)。
このような整備計画において,東京都が「済美公園 と一体化する善福寺川のあり方を考えるワークショッ プ」(以下,本件WS)を企画した背景としては,水辺 の整備において住民からの意見聴取を義務づけた 1997年の河川法改正の影響がある。本件WSは,こう した「多自然型川づくりアドバイザー制度」という制 度的背景と,河川法改正という法的背景から魅力的な 善福寺川の整備案を住民とともにつくることを目的と して企画されたといえる(表1)。
ら60年余りが経過し,1964年には高度経済成長で急 増した水需要に対応するために,利水に関する規定や 水系の一貫管理を目指した新河川法が制定された。さ らに,1997年には河川環境に対する関心の高まりを受 けて,河川が備える役割として治水,利水目的に加え て親水目的が追加された。また,河川整備に関する関 連法として,2002年制定の自然再生推進法3),2004年 制定の景観法4)の制定が挙げられる。
河川環境の関連制度としては,1990年11月に建設 省河川局より出された多自然型河川整備の実施要領が 挙げられる。これによると,多自然型川づくりとは,
河川が本来有している生物の良好な成育環境に配慮し,
あわせて美しい自然景観を保全あるいは創出する事業 の実施と定義されている。一方,多自然川づくりとは,
2006年の国土交通省の基本指針において,1990年の通 達以降の多自然型川づくりの課題を克服し,さらなる 川づくりの向上を図る目的で多自然川づくりへと名称 を変更したものである(図1)。2006年の基本指針にお ける多自然川づくりとは,河川全体の自然の営みを視 野に入れ,地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配 慮し,河川本来が有している生物の生息・育成・繁殖 環境及び多様な河川景観を保全・創出するために,河 川管理を行うものと定義されている。これらの制度や 指針によって,全国の河川においてさまざまな取り組 みが行われるようになり,その数はおよそ3万件とも いわれている(島谷,2007)。このような河川開発は,
神奈川県横浜市の和泉川,埼玉県朝霞市の黒目川,静 岡県三島市の源兵衛川など数多くの事例がある。
図1 多自然川づくりの展開
(原田(2006)より一部改編)
しかし,多自然型川づくりレビュー委員会報告
(2006)によると,激特事業では多自然型川づくりの
実施要領 5)に適さない河川整備が多く行われていると されている。そこで,激特事業のような大規模で短期 間に河川整備が行われるような事業では,河川環境や 自然景観の保全に一層の配慮が必要であるという理念 のもとに,2005年9月以降に発生した災害を対象に「多 自然型川づくりアドバイザー制度」が発足した。この 制度は,工学や生態学の研究者などの専門家を事業者 に派遣することによって,専門的な助言を行う制度で ある。
1.3 地域住民の合意形成とその先行事例
河川整備の現場において,住民参加の必要性が法 的・制度的背景から生じてきている。現在では,住民 参加による河川整備は,「まちづくり6)」の一環として 主に都市域において多く行われている。しかし,1997 年の河川法改正以前から住民が主体となって河川整備 に参加する事例は存在している。このような住民参加 による河川整備では,WSが合意形成の手段として利 用されることがある。
例えば,坪井(2006)による東京都世田谷区の北沢 川緑道の事例では,1991年に住民組織が結成され,東 京都区部において最も早期に住民参加が行われたと記 されており,千葉他(2003)による大阪府の石川河川 公園の事例では,1994年に公園整備に関する住民組織 が結成されていることが述べられている。1997年の河 川法改正以降の河川整備における住民参加の研究は,
市川(2008)による東京都練馬区の白子川の研究,澤 井(2002)による京都市の日野川の研究,長谷川・高 橋(1999)による京都市の鴨川の研究,久(2008)に よる京都市の西高瀬川の研究など,さまざまな研究実 績がある。また,鎌田・池上(2001)は,溜池整備事 業とWSの認知度をアンケート調査によって明らかに した。概して,これらの研究では合意形成の過程が明 らかにされ,竣工後の地域住民の主体的かつ継続的な 取り組みが課題として指摘された。
Ⅱ.善福寺川における河川整備
2.1 対象地域の概要
本研究の研究対象地として,東京都杉並区の善福寺 川に隣接する済美公園に選定した(図2)。研究対象の 選定理由としては,善福寺川の整備は「多自然型川づ くりアドバイザー制度」が適用された東京都で初の事 例であるということと,WS による合意形成が計られ たという理由である。さらに,23区の西部台地の善福 寺川流域は水害常習地という制約があり,増水時に水
表1 河川整備事業の展開過程と事業関係者の係り方
年 月・日 内容 行政の
動き
多自然型川づくり アドバイザーの係り
住民の 参加
2005年 9月 ・平成17年9月水害発生
11月 ・妙正寺川・善福寺川河川激甚災害対策緊急特別事業が採択される
・多自然型川づくりアドバイザーの東京都庁への派遣
・東京都庁が独自に親水施設の設計プランを作成
● ●
2007年 ・東京都庁及び杉並区がWSの開催を決定 ●
12月 ・WS開催のビラを配布 ●
2008年 1月~3月 ・WSの実施 ● ●
3月~6月 ・WSで示されたモデルプランを基に東京都が設計図を策定
・多自然型川づくりアドバイザーにWSの成果を報告
● ●
7月 ・近隣の小学校で施設の概要を説明 ● ●
2009年 5月29日 ・テレビ朝日「報道ステーション」において「ドブ川が清流に!進む多
自然川づくり」として特集される
(東京都資料により作成)
WS 募集の案内ビラは,建設現場である済美公園か ら半径500m以内の範囲(堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁 目,大宮1丁目)の世帯に3,949枚投函された。なお,
2005年の国勢調査のデータによると,堀ノ内1丁目,
堀ノ内2丁目,大宮1丁目の世帯数の合計は6,904世 帯である。投函されたビラの枚数と世帯数の差異は,
済美公園から半径500mの範囲にこれらの地区の全て が該当しないことと,一部のマンションやアパートと いった共同住宅にはビラが配布されなかったことから 生じた差異である。
この募集案内のビラは,WS への参加意思の確認と ともに,現状の善福寺川のイメージや済美公園の利用 状況,親水護岸に期待する機能を調査するアンケート も兼ねたものとなっていた。東京都と杉並区は,近隣 の小学校や中学校にも類似するアンケート調査を行い,
WS で用いる住民意識の資料としてアンケート調査の 結果を整理した。
WSの構成員は,東京都職員,杉並区職員,コンサ ルタント会社社員13),一般公募で選ばれた地域住民で ある。しかし,一般公募の地域住民は,応募者が定員 である25人に達しなかったため,WSの運営主体であ る東京都と杉並区が,町会長やPTA会長,近隣中学校 の生徒会といった地域の事情に明るい人物に参加要請 することで補った。その結果,WSの参加住民は,一 般公募で選ばれた住民よりも行政に要請されて参加し た住民の方が多いという結果になったが,開催された 全4回のWSは定員の 25 人に達したことはなかった。
なお,一般公募で選ばれた参加住民の男女比は,男性 8人に対して女性が3人である。
Ⅲ.済美公園における河川整備への住民参加
3.1 WSによる合意形成
東京都第三建設事務所への聞き取り調査によると,
WSは全部で4回企画され,2008年の1月中旬から3 月中旬までの期間に行われた(表2)。なお,WSの内 容に関しては,WS運営の責任者であり実際にWSに 参加した杉並区建設課の担当者への聞き取り調査によ るものである。全4回のWSでは,行政およびコンサ ルタント会社の指示のもとグループでの討論や現地で の見学会が行われた。これらのWSの成果は,WS募 集のビラ配布範囲に該当する堀ノ内1丁目,堀ノ内2 丁目,大宮1丁目の各町会の回覧板とともに「かわら 版」として発行された。
3.2 WSの位置づけ
上山(2008)は,住民参加における参加者の関わり 方を,「行政主導型」と「行政市民一体型」,「第三者組 織主導型」の3つに分類した。「行政主導型」は行政主 導で住民との関与度合いを決めて計画立案を行うケー スである。この「行政主導型」は,利害関係が複雑な 場合や住民の意識が全くない場合,住民の経験や知識 が浅い場合に適している。「行政市民一体型」は,直接 的な利害関係が不明確なまちの将来構想や計画,身近 な公共施設の検討などに適している。「第三者組織主導 型」は,地域が限定され,関係住民の利害関係が明確 であり,地域のきめ細やかな対応が必要な場合に適し ている。これは,NPOや市民組織が主体となって地域 の課題の提起から議論を進める手法である。本件 WS は,上山(2008)の分類方法にしたがえば,「行政主導 型」に分類される。これは,済美公園における親水護 岸の整備事業が,緊急的な水害対策である妙正寺川・
表2 WSの内容
日時 参加住民 テーマ 手法 成果
第1回 1/19
20名 善福寺川と済美公 園の現状を考える
3つのグループに分かれて討論して、
善福寺川と済美公園の良いところと 良くないところの意見を出す。
善福寺川と済美公園の一体化へ概ね賛同が得られた。親水施 設は水に触れられるものや水辺で遊べる空間が期待される。
第2回 2/2
15名 水辺・親水公園の いろいろ
現地見学(都立祖師谷公園、東伏見石 神井川緑地、音無もみじ緑地)
護岸の形態が違うワンドやテラス状になっている事例を見 学し,善福寺川における済美公園の親水施設の完成後のイメ ージを共有。
第3回 2/23
11名 公園と一体的な水 辺空間を考える
3つのグループに分かれ、コンサルタ ント会社の指示のもと地図にゾーニ ングプランを書き込む。
水には近づけるが水に直接触れられないプラン、既存の公園 機能を無くして雨水を導水するなど親水機能に特化するプ ラン、親水施設設置後も既存の公園機能を保全するという3 つのプランが示された。
第4回 3/15
11名 モデルプランをま とめる
東京都によるモデルプランの説明。3 つのグループに分かれ、利用と維持管 理、安全対策について討論。
竣工後の管理についての意見が出され,日常の清掃活動は今 まで通り町内会や老人会が行い,増水後の汚水処理などの専 門的な技術を要する清掃は河川管理者である杉並区が行う 案が示された。
(聞き取り調査および東京都資料により作成)
善福寺川激特事業に付随するという特性から,住民間 にコアメンバーといった自発的な組織の形成する時間 的余裕がなかったことが原因であると考えられる。
ここで,本件WSの時間的制約を他の研究の事例と 比較してみる。例えば,坪井(2006)の北沢川緑道の 事例では,竣工後の管理・運営の討議を含めると,実 に8年もの歳月が費やされている。北沢川緑道の事例 は,北沢川が河川の本流と完全に分離されているため に,治水を考慮する必要がなく十分な時間をかける事 が可能であった。
本件WSは妙正寺川・善福寺川激特事業という災害 対策に付随する突発的な事業という特性上,行政と参 加住民の知識量の差を埋める存在は,コーディネータ ーとして手配されたコンサルタント会社が担うことに なった(図3)。WSでの議論の様子は,実際にWSの 運営に関わった杉並区役所建設課によれば,参加者同 士は顔見知りが多かったために常に穏やかな議論が展 開されていたという。
図3 組織関係図
(東京都資料により作成)
次に,本件WSの位置づけを,参加した住民の立場 から考える。杉並区役所建設課への聞き取り調査によ ると,WS に参加した住民間には,済美公園における 親水護岸の整備事業が「平成17年9月水害」に対して 実施された妙正寺川・善福寺川激特事業に付随する事 業であるという認識はあまりなかった。このため,参 加者は親水施設の建設を目的としたWSであるという 認識で議論に臨み,よりよい親水施設の建設に向けて の話し合いを行う事ができた。これは,WS の開催時 に東京都や杉並区の担当者やコンサルタント会社が親 水施設の意図を参加者に対して十分説明したことで,
親水機能や河川の環境機能について参加者の理解を得 られた結果であるが,このような激特事業への理解不 足が,激特事業が有する時間的制限への認識不足を招 いた。
Ⅳ.公園利用者から見たWSの評価
4.1 アンケート調査の枠組みと回答者の基本属性 済美公園は杉並区立の公園である。したがって,公 園は区民の共有財産という観点から,公園周辺住民の ためのものではなく,さらに都市インフラの一部であ るという性質から,広範囲な住民参加が望まれる。し かし,実際のWS募集のビラは,事業対象地である済 美公園から半径 500mの範囲の世帯に投函されたが,
回答率は約1.5%(59枚/3,949枚)にすぎない。このた め,本件WSの参加者の意見が大多数の地域住民の意 見を代表しているとはいえず,サイレントマジョリテ ィー(もの言わぬ多数派)の意見を取り入れるために,
実際の済美公園利用者14)と善福寺川の遊歩道の通行人 に対して現地でアンケート調査を実施した。アンケー ト調査は回答者に偏りが生じないように,平日と休日 表1 河川整備事業の展開過程と事業関係者の係り方
年 月・日 内容 行政の
動き
多自然型川づくり アドバイザーの係り
住民の 参加
2005年 9月 ・平成17年9月水害発生
11月 ・妙正寺川・善福寺川河川激甚災害対策緊急特別事業が採択される
・多自然型川づくりアドバイザーの東京都庁への派遣
・東京都庁が独自に親水施設の設計プランを作成
● ●
2007年 ・東京都庁及び杉並区がWSの開催を決定 ●
12月 ・WS開催のビラを配布 ●
2008年 1月~3月 ・WSの実施 ● ●
3月~6月 ・WSで示されたモデルプランを基に東京都が設計図を策定
・多自然型川づくりアドバイザーにWSの成果を報告
● ●
7月 ・近隣の小学校で施設の概要を説明 ● ●
2009年 5月29日 ・テレビ朝日「報道ステーション」において「ドブ川が清流に!進む多
自然川づくり」として特集される
(東京都資料により作成)
WS 募集の案内ビラは,建設現場である済美公園か ら半径500m以内の範囲(堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁 目,大宮1丁目)の世帯に3,949枚投函された。なお,
2005年の国勢調査のデータによると,堀ノ内1丁目,
堀ノ内2丁目,大宮1丁目の世帯数の合計は6,904世 帯である。投函されたビラの枚数と世帯数の差異は,
済美公園から半径500mの範囲にこれらの地区の全て が該当しないことと,一部のマンションやアパートと いった共同住宅にはビラが配布されなかったことから 生じた差異である。
この募集案内のビラは,WS への参加意思の確認と ともに,現状の善福寺川のイメージや済美公園の利用 状況,親水護岸に期待する機能を調査するアンケート も兼ねたものとなっていた。東京都と杉並区は,近隣 の小学校や中学校にも類似するアンケート調査を行い,
WS で用いる住民意識の資料としてアンケート調査の 結果を整理した。
WSの構成員は,東京都職員,杉並区職員,コンサ ルタント会社社員13),一般公募で選ばれた地域住民で ある。しかし,一般公募の地域住民は,応募者が定員 である25人に達しなかったため,WSの運営主体であ る東京都と杉並区が,町会長やPTA会長,近隣中学校 の生徒会といった地域の事情に明るい人物に参加要請 することで補った。その結果,WSの参加住民は,一 般公募で選ばれた住民よりも行政に要請されて参加し た住民の方が多いという結果になったが,開催された 全4回のWSは定員の 25 人に達したことはなかった。
なお,一般公募で選ばれた参加住民の男女比は,男性 8人に対して女性が3人である。
Ⅲ.済美公園における河川整備への住民参加
3.1 WSによる合意形成
東京都第三建設事務所への聞き取り調査によると,
WSは全部で4回企画され,2008年の1月中旬から3 月中旬までの期間に行われた(表2)。なお,WSの内 容に関しては,WS運営の責任者であり実際にWSに 参加した杉並区建設課の担当者への聞き取り調査によ るものである。全4回のWSでは,行政およびコンサ ルタント会社の指示のもとグループでの討論や現地で の見学会が行われた。これらのWSの成果は,WS募 集のビラ配布範囲に該当する堀ノ内1丁目,堀ノ内2 丁目,大宮1丁目の各町会の回覧板とともに「かわら 版」として発行された。
3.2 WSの位置づけ
上山(2008)は,住民参加における参加者の関わり 方を,「行政主導型」と「行政市民一体型」,「第三者組 織主導型」の3つに分類した。「行政主導型」は行政主 導で住民との関与度合いを決めて計画立案を行うケー スである。この「行政主導型」は,利害関係が複雑な 場合や住民の意識が全くない場合,住民の経験や知識 が浅い場合に適している。「行政市民一体型」は,直接 的な利害関係が不明確なまちの将来構想や計画,身近 な公共施設の検討などに適している。「第三者組織主導 型」は,地域が限定され,関係住民の利害関係が明確 であり,地域のきめ細やかな対応が必要な場合に適し ている。これは,NPOや市民組織が主体となって地域 の課題の提起から議論を進める手法である。本件 WS は,上山(2008)の分類方法にしたがえば,「行政主導 型」に分類される。これは,済美公園における親水護 岸の整備事業が,緊急的な水害対策である妙正寺川・
を含む2010年12月3日から18日にかけて実施し,計 75件の有効回答を得た。アンケート調査の目的は,主 にWSの認知度,実際に完成した親水護岸を含む公園 施設の評価,住民の市民活動への参加意欲である。こ れにより,WSの成果と今後の公園の管理運営の課題 を明らかにする。
地域別のアンケート回答者数は,表3の通りである。
杉並区に隣接する中野区にも回答者が5人存在し,善 福寺川の下流域に当たる神田川沿いの住民に一定数済 美公園の利用者がいた。これは,散歩やジョギングな どのレクリエーション目的で,神田川と繋がっている 川沿いの遊歩道が利用されていると考えられる(図4)。
前述のように,本件WSの成果は「かわら版」とし て町会の回覧板を通して住民に配布された。「かわら 版」が配布された堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁目,大宮 1丁目では,町会への加入について31人が回答し,19 人(61%)が加入していると回答した。つまり,WS の途中経過や成果を知ることができた住民は,町会に 加入している61%程度である。以下,本研究では募集 案内の通知によって,WS に参加できた可能性がある 堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁目,大宮1丁目の3地区を 済美公園の「周辺住民」と定義し,他の地区の回答者 と区別して分析することにする(表3,図4)。
アンケート回答者の年齢構成については,10歳代3
人(4%),20歳代12人(16%),30歳代10人(13%), 40歳代10人(13%),50歳代12人(16%),60歳代 19人(25%),70歳代5人(7%),80歳代4人(5%)
であった。回答者の年齢構成の割合は,WS募集時に 東京都と杉並区が実施した河川に関するイメージ調査 のアンケート結果の回答者の年齢構成とほぼ一致して いる15)。
表3 アンケート回答者の居住地域
杉並区
済美公園周辺住民
(WSの募集案内・
かわら版配布地域)
堀ノ内1 14 堀ノ内2 19 大宮1 2 計 35 その他の杉並区民 27 計 62
杉並区以外
中野区 5
世田谷区 2
西東京市 1
東京都以外 5
計 13 合計 75
(アンケート調査により作成)
図4 杉並区・中野区における回答者数と居住者分布
(アンケート調査により作成)
4.2 WSの認知度
まず,済美公園における親水護岸設置事業のきっか けとなった妙正寺川・善福寺川激特事業についての認 知度についての質問を行った。妙正寺川・善福寺川激 特事業については,事業内容や事業の名称を知ってい る回答者はごく少数であったが,全回答者75人中49 人(65%)は治水事業が行われていることを「知って いる」と回答した。妙正寺川・善福寺川激特事業の認 知度を,済美公園の近隣住民に限定すると,35人中26 人(74%)が「知っている」と回答している。このこ とから,済美公園周辺住民の認知度は,全回答者の認 知度より高くなっていることがわかる。済美公園周辺 住民の居住地が「平成17年9月水害」の被災地と重な っていることが,済美公園周辺住民の治水事業への関 心の高さにつながっていると考えられる。
次に,ビラや回覧板を通してWSの開催を知る機会 があった周辺住民に対して,済美公園における親水護 岸整備事業でのWSについて認知度を調査した。済美 公園周辺住民のうち,「知っている」と答えた回答者は 35人中6人のみであり,認知度は僅か17%であった(表 4)。このことから,WS の広報の成果が不十分であっ たことがうかがえる。また,杉並区の政策を知るため の手段として最も利用されているものは「区報」の38 人(47%)であった(図5)。なお,この質問は居住地 が杉並内にある62人の回答を有効回答とし,複数回答 可としている。「区報」は月に2回ずつ新聞に折り込ま れて配布されるほか,区の公共施設や小売店や駅に設 置されているため,比較的目にする機会が多いと考え られる。「その他」として挙げられていたものは,区の 政策に関心がないためにみないという回答がほとんど を占めた。いずれにせよ,「回覧板」を利用していると 答えた回答者は僅か12%であったことを考えると,あ まり住民が利用しない広報手段を用いたことよって,
WSの成果が住民へ十分に伝わらなかったといえる。
表4 WSの認知度・参加度
(単位:人)
(アンケート調査により作成)
図5 回答者が利用する広報手段
(アンケート調査により作成)
また,済美公園への親水護岸の設置は,激特事業の 一環として行われてはいるものの,治水とは一切関係 のない親水・環境目的で設置されたものである。しか し,アンケート回答者のなかには,親水護岸のワンド を治水施設であると勘違いしている回答者も少なから ず存在した。このような広報の不備は,今後の活用や 管理への住民参加において誤解を招きかねない。
4.3 WSへの住民の参加意欲
前述のように,公園利用者の中で本件WSの開催を 知っていた住民は75人中7人であったが,実際にWS に参加したと回答した住民は1人のみであった(表4)。 この回答者のWSへの参加理由としては,将来の子供 のために良い施設をつくりたいという理由であった。
また,WS には参加しなかったが,モデルプランが決 定した後の2008年7月の工事説明会に参加した回答者 も1人存在した。WSの存在を知りながら,参加しな かった理由としては,半数の3人が「参加する時間が なかった」と回答している。次いで「川に興味がなか った」という回答が2人存在した。回答者への聞き取 りの結果,「川に興味がなかった」と答えた回答者は,
公園清掃のボランティア活動や今後の公園利用などの 地域の行事への参加意欲も乏しいことがわかった。ま た,WS に参加しなかった理由として,興味はあった が高齢のためWSへの出席が困難であったという回答 者も1人存在した。
次に,住民の河川への関心とWSへの参加意欲の指 針として,仮に本件WSの存在を知っていたら,WSへ 参加していたかという質問を行った。この質問につい ては,本件WSの開催を知らず,また居住地が杉並区 内で距離的にWSへの参加が可能な55人16)の回答を有 効回答としている。この質問についての杉並区民の回 答は,「WSの存在を知っていても時間がなくて参加で きなかった」という回答が最も多く,25人(46%)で 知っていて
参加した
知っていた が参加しな かった
知らな かった 合計
済美公園周辺住民 1 5 29 35
その他の地域 0 1 39 40
合計 1 6 68 75
を含む2010年12月3日から18日にかけて実施し,計 75件の有効回答を得た。アンケート調査の目的は,主 にWSの認知度,実際に完成した親水護岸を含む公園 施設の評価,住民の市民活動への参加意欲である。こ れにより,WSの成果と今後の公園の管理運営の課題 を明らかにする。
地域別のアンケート回答者数は,表3の通りである。
杉並区に隣接する中野区にも回答者が5人存在し,善 福寺川の下流域に当たる神田川沿いの住民に一定数済 美公園の利用者がいた。これは,散歩やジョギングな どのレクリエーション目的で,神田川と繋がっている 川沿いの遊歩道が利用されていると考えられる(図4)。
前述のように,本件WSの成果は「かわら版」とし て町会の回覧板を通して住民に配布された。「かわら 版」が配布された堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁目,大宮 1丁目では,町会への加入について31人が回答し,19 人(61%)が加入していると回答した。つまり,WS の途中経過や成果を知ることができた住民は,町会に 加入している61%程度である。以下,本研究では募集 案内の通知によって,WS に参加できた可能性がある 堀ノ内1丁目,堀ノ内2丁目,大宮1丁目の3地区を 済美公園の「周辺住民」と定義し,他の地区の回答者 と区別して分析することにする(表3,図4)。
アンケート回答者の年齢構成については,10歳代3
人(4%),20歳代12人(16%),30歳代10人(13%), 40歳代10人(13%),50歳代12人(16%),60歳代 19人(25%),70歳代5人(7%),80歳代4人(5%)
であった。回答者の年齢構成の割合は,WS募集時に 東京都と杉並区が実施した河川に関するイメージ調査 のアンケート結果の回答者の年齢構成とほぼ一致して いる15)。
表3 アンケート回答者の居住地域
杉並区
済美公園周辺住民
(WSの募集案内・
かわら版配布地域)
堀ノ内1 14 堀ノ内2 19 大宮1 2
計 35 その他の杉並区民 27 計 62
杉並区以外
中野区 5
世田谷区 2
西東京市 1
東京都以外 5
計 13 合計 75
(アンケート調査により作成)
図4 杉並区・中野区における回答者数と居住者分布
(アンケート調査により作成)