[資料] 統計にみるアメリカ自動車工業 : MVMA, Facts & Figures '79を中心にして
その他のタイトル [Material] The American Automobile Industry in Statistics
著者 井上 昭一
雑誌名 關西大學商學論集
巻 24
号 6
ページ 525‑583
発行年 1980‑02‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00020924
関 西 大 学 商 学 論 集 第24巻第6号 (1980年2月) (525)55
[資料]
統計にみるアメリカ自動車工業
‑ MVMA, Facts & Figures'79(1) を 中 心 に し て ―
井 上 昭
< 目 次 >
は し が き
I 生産台数と登録台数
l 自動車利用と所有者
l11 自動車(工業)の経済的影轡力
は し が き
今世紀の半ばごろまではアメリカ合衆国(以下,アメリカと略称)におい ても,「鉄は国家なり」とか「鉄は産業の米」とかいわれて, USスチール 社 (UnitedStates Steel Corp.) に代表される鉄鋼業がキー・インダスト リーの中でも,その基軸の地位を占めていたことはよく知られている事実で ある。
(2)
今日では,例えばエクソン社(EXXONCorp.)が「石油業界の国連」など と形容されるように, 「石油を制するものが世界経済の死命を制する」時代 になり, 石油産業が相対的に鉄鋼業の地位にとって代って, 「最大の基礎産 業の支柱」になっているq表Iおよび表lIをみていただきたい。
56(526) 第 24巻 第 6 号
表I アメリカ鉱工業企業売上高ペスト10(1978年)
順位 I 企 業 名 ( 業 種 ) I 売(千上ドル)高 1 純(千利ドル益) 1 売上(利%益)率 1 G M(自動車) 63,221,100 3,508,000 5.5 2 ェクソン(石油) 60,334,527 2,763,000 4.6 3 フォード(自動車) 42,784,100 1,588,900 3.7 4 モーピル(石油) 34,736,045 1,125,638 3.2 5 テキサコ(石油) 28,607,521 852,461 3.0 6. スタンダード・オイル・オプ・カリフォルニア(石油) 23,232,413 1,105,881 4.8 7 IBM(電算機) 21,076,089 3,110,568 14.8 8 G E(電機) 19,653,800 1,229,700 6.3
, ガルフ・オイル(石油) 18,069,000 791,000 4.4 10 クライスラー(自動車) 16,340,700 △ 204,600
〔注J:△は欠損を示す。
(出所J:Fortune, May 7, 1979, p.270.
順 位
D
②
① 心 の の
︐
① の の の
ー
(
︵
︵
︵ ヽ し ( ( (
︵
︵ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 U
G M(米・自動車)
エクソン(米•石油)
表I世界鉱工業企業売上高ペスト10(1978年)
企 業 名 (国籍・業種) I売上高(千ドル)
63,221,100 60,334,527 ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ(閲英・石油)
フォード(米・自動車)
モービル(米・石油)
テキサコ(米。石油)
BP (英•石油)
スクンダード・オイル・オプ・カリフォルニア
(米・石油)
イラン国営石油会社(イラン•石油)
IBM(米・電算機)
44,044,534 42,784,100 34,736,045 28,607,521 27,407,620 23,232,413 22,789,650 21,076,089
(注J:カッコ内は前年順位を示す。
(出所J:井上昭編苫 rアメリカ自動車工業日誌」関西大学経済・政治研究所, 1980年3月発 行予定。
統計にみるアメリカ自動車工業(井上) 57(527) アメリカ国内では売上高ベスト・テンのうち半分の5社までが,そして世 界の鉱工業企業においては, じつに7社までが石油企業によって占められて いることからしても,石油産業の地位の高さが理解できようというものであ
る。
それだけに,今秋以来続いているイランの首都テヘランのアメリカ大使館 占拠・人質事件の, いわゆるイラン情勢に象徴されているように, OPEC
(Organization of Petroleum Exporting Countries,石油輸出国機構)の 政治的・経済的な思惑のからんだ資源ナショナリズムの強化,すなわち原油 輸出禁止ないしその削減通告(とはいえ, 12月17日から20日までベネズエラ の首都カラカスで開かれていた OPEC総会では, 石油価格問題をめぐって 穏健派と過激派とがきびしい対立をみせ,世界の原油価格は野放しとなり,
各産油国が独自に価格をきめるという内部不統一もみられる),その報復手 段としてのアメリカの対イラン経済封鎖や軍事行動威嚇など,今や世界の経 済・政治は大混乱に陥っている。それに対応するための措置の一環として,
11月2日には, ア メ リ カ の 元 国 務 長 官 で あ っ たH・キッシンジャー (H. Kissinger)が産油国から原油を買い付けるに当たっ.ての基準を設けるため の OPCC(Organization of Petroleum Consuming Countries, 石油消費 国機構)の創設を勧告して,消費国の結束を提唱したり, 12月10日にパリの OECD (Organization for Economic Cooperation and Development,経済 協力闇発機構)本部で開かれた IEA(International Energy Agency,国際 エネルギー機閲)閣僚理事会の席上,アメリカは加盟20ヵ国にたいして80年 の石油輸入量の上限を設定し,国別に目標値を厳守するように強制したりし ている(表Ill参照)。
58(528) 第 24 巻 第 6 号 表lI1 80年国別石油輸入上限 オーストラリア 13.5 オーストリー 11.5 ペルギー 30.0 カ ナ ダ 7.4 デンマーク 16.5 西ドイツ 143.0 ギリシャ 14.8 アイルランド 6.5 イタリー 103.5 日 本 265.3 ルクセンプルグ 1.5 オランダ 42.0 ニュージーランド 4.2 ノルウェー ‑15.5 スペイン 51.0 スウェーデン 29.9 ス イ ス 14.0 ト ル コ 17.0 イギリス 12.0 アメリカ 437.2
〔注J:カッコ内は85年輸入目標値。
:単位100万トン。
:マイナスは輸出を示す。
〔出所〕:「毎日新聞」1979年12月11日号。
(17.0) (13. 5) (3l.O) (29.4) (11.0) (141. 0) (16.5) (8.0) (124. 0) (308.66) (2.0) (49.0) (4.4) (‑18.3) (52. 9) (29.0) (14.5) (25.0) (‑5.0) (436.0)
周 知 の よ う に , 現 在 世 界 中 で 走 っ て い る 乗 用 車 ・ ト ラ ッ ク ・ バ ス な ど は , ガ ソ リ ン や 軽 油 な ど を 燃 料 源 と し て い る が , そ れ ら は い ず れ も 原 油 を 精 製 す る こ と か ら で き る も の で あ る 。 も ち ろ ん , ア メ リ カ や ブ ラ ジ ル な ど で は ガ ソ ホ ー ル ( ガ ソ リ ン8.5 9対 エ チ ー ル ・ ア ル コ ー ル1.5 1の 混 合 燃 料 ) を 使
統計にみるアメリカ自動車工業(井上) (529)59 用した自動車が一部走行しているが,その割合はごく微少なものであり,さ らにいぜんとしてガソリンが燃料母体となっていることには何ら変りがな い。自動車メーカーの実験室段階では電気自動車やクーボチャージャー付自 動車も試作されているときくが,今のところ,それを実用化し,ガソリン自 動車に匹敵する性能や価格で大量に生産しうる状況にはない。したがって,
目下のところ, アメリカのみならず世界の自動車企業の懸案は, 「いかに燃 費効率のよいガソリン自動車を造るか」にあるといって過言ではない。その ためには小型化・軽量化が不可欠の前提となるが,その実現をめぐってお互 いに縞を削って研究開発に専念している。
永年にわたってビッグ・スリーの一角を占め,その独占的支配力を誇示し てきたクライスラー社 (ChryslerCor~..)が慢性的な財務状態の悪化から経 営ピンチに直面し, 12月20日,アメリカ上下両院の35億ドルにものぼる同社 救済融資法案の可決によってかろうじて倒産の危機を免れるという状況に追 いこまれている唯一の, とはいえないまでも,大きな原因は,燃料経済性の すぐれた小型車開発戦略の面で, GM(General Motors Corp.)やフォード
(3)
社 (FordMotor Co.)に大きく立ち遅れたことにある。
アメリカ自動車工業が,小型車開発に力を入れざるをえなくなったのは西 ドイツや日本のメーカーの製品に代表される性能のよい, しかもきわめて燃 費効率の高い輸入小型車に市場を侵食されたことに端を発している。 1959年 ご・ろから数度にわたるアメリカ自動車メーカーの小型車開発計画は,そのこ とを如実に物語っている。しかし, AMC(American Motors Corp.)を除
< GM, フォードならぴにクライスラーの3社はいずれも, 「大型車に比べ
I• 、11
小型車の絶対利益額が少ない」という資本の論理に反する理由を, 「大衆が 小型車よりも大型車を好むから」という理由にすりかえて(もちろん,日本 の20数倍の広大な国土でもハイウェイによる長距離走行が一般化しているア メリカにおいては,居住性•安定性の高い大型車は必要であり,絶えず一定 の,それもかなり高いニーズが構造的に存在している事実を無視するわけに はいかないが), 小型車開発に真剣に取り組んでこなかった。 ところが,近
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年では年間1,000万台にのぽるアメリカの自動車市場において, 輸入小型車 が20彩近くのシェアを占有するにいたって,そのうえ,いわゆる「1975年エ ネルギー法」 (EnergyPolicy and Conservation Act of 1975)制定による 省エネルギー・燃費節約令,例えば, ・85年型車は27.5MPG(マイル/ガ四=11.7、
キロメーター/リッ!Jr,)の走行を義務づけられ, 1ガロン当たりの走行マイル数が
1マイル不足する場合には, メーカーにたいして1台につき50ドルの罰金が 課せられることが決って以来(ちなみに, 乗用車を年間500万台余生産する
G Mは, もし1台につき50ドルの罰金を課せられるとすれば, 2億5,000万 ドル強を支払わなければならなくなる。 1ガロン当たり 2マイル走行距離数 が足りなければ,当然のことながら罰金額はその2倍になる),アメリカ自 動車メーカーはその社運と存亡をかけて,何よりもMGPの改善に精力と時 間と資金を注入せざるをえなくなった。アメリカのエネルギー省の発表によ れば,さらに規制強化の動きもあるという。いっそう軽量化(素材の代替化 促進, FF車=フロント・エンジン, フロント・ドライプ車の開発など)と
ダウンサイズ化が至上命令とされるゆえんである。
アメリカでは,本年の8月以来, プライム・レート (primerate,優良企 業向け貸出し金利基準。日本の標準金利に相当)が15彩を超えるという空前 の高金利時代に突入した。それにともなって消費者金利も上昇の一途をたど り,消費者は奢俊品(後にみるように,必ずしもアメリカ人にとって自動車 は奢俊品であるといい切れないが)たる自動車の購入を差し控えている。た だでさえ,年率13%にのぽるインフレで国民の購買力が低下している時であ る。販売不振のためメーカーは必然的に相次いで減産措置や工場閉鎖を断行 せざるをえず, 80年初頭には, メーカーだけで22万人のレイオフ者を出し,
1973 4年にかけての第一次オイル・ショック直後を上回る規模を記録する だろうと悲観的な予測がなされている。日本とは異なってアメリカのレイオ フは,いわば再雇用保証付の一時解麗であり,その期間中は失業保険および休 業手当により本給の8090彩が保証されているし,永久解雇ではないので,
いずれ景気が回復すればシニオリティ (seniority,先任権ないし入社年月日
統計にみるアメリカ自動車工業(井上) (531)61 順という客観的基準)に基づいて職場復帰が可能なのであるが,それにして
も膨大な数の失業者であるといわなければならない。
1979年8月末現在,アメリカの労働力人口(除軍人)は1億人を300万人 ほど上回っており,ここ1年間の失業率は5.8% 6%の間を推移している。
実に600万〜620万人の失業者が常時存在しているわけである(したがって,
軍人を除く就業者は9,690万人)。自動車工業は裾野の広い総合工業であるが ゆえに,鉄鋼業などの関連・資材産業への波及効果きわめて大きく,鉄鋼メ ーカーの最大手USスチールは,今年の11月27日に, 5工場を永久閉鎖する とともに,それ以外でも徹底的な不採算部門の切り捨て,いわゆるダイベス ティチュア(divestiture)を行い, 管理部門を中心として労働者1万3,000 人をレイオフすると発表した。しかも12月7日には,従来であればとうてい 夢想だにしえなかったようなニュースが発表された。すなわち, U Sスチー
ルが日本の住友金属から製鉄技術を輸入するというのである。
さて,自動車に話を戻そう。今秋の10月22日〜27日にかけて,東洋工業へ の25%の資本参加問題の最終的な詰めのため訪日したアメリカ第2位の,と いうよりも世界第2位の自動車メーカーのフォード社のヘンリー・フォード
I世(HenryFord Jr.)会長は,日本の対米小型車輸出が,アメリカヘ「失業 までも輸出している」として,大要次のような強迫に近い発言を行った。す なわち「日本メーカーはアメリカヘの完成車輸出を自粛するか,あるいは直 接アメリカに資本輸出を行って生産活動に従事すべきである。それが受けい れられない場合には,日本車締め出しもありうる」と。 UAW(UnitedAuto‑
mobile Workers, 全米自動車労組, 140万人) のダグラス・フレーザー (Douglas Frazer) 委員長も同様な発言をしているし, またアメリカ上下 両院の自動車ロビイストやその他の産業界の意思の代弁者である議員連も同 趣旨の声明を繰り返して, 日本に圧力をかけている。以上のように,資本主 義の牙城アメリカのリーディング・インダストリーたる自動車工業は一部政 治家や労働組合幹部と一休となって,なりふりかまわぬ脅しをかけざるをえ ないほど追いこまれているのである。
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それだけではない。ラルフ・ネーダー (RalphNader)を旗手とする消費 者運動家たちが,アメリカ自動車業界の安全性や排ガスを含む公害規制など の諸問題にたいする取り組みの怠慢な姿勢への糾弾と,集会やマス・メディ アを通じての不買運動,いわば反産業・企業運動なるものを展開している。
また,資本の専制を否定する目的をもった組織労働者による賃金,労働条件 などにたいする要求や突き上げも無視できず,アメリカ自動車工業は内憂外 患•四面楚歌の状況下にある。
その他,今日のアメリカ自動車工業界のかかえている諸問題を,いかに多 くの言葉を尽して論述しても,なかなか説得力をもたない。そこで数字や表 による可視的な分析を試みれば,同工業のおかれている立場が容易に理解し うるだろうとの考えのもとに,さまざまな角度からアメリカ自動車工業にア プローチをしてみたい。依拠する資料が主として MVMA 作成の•Facts &
Figuresなので, 当然のこととはいえ, われわれの見解とは逆の「わが世 の春」を謳歌しているかの如き数字や表に終始しているが,適宜コメントを 加えたいと考えている。なお,とくに出所を明記しない限り,数字などは同 書による。
〔注〕
(1) Motor Vehicle Manufacturers Association of the United States, Inc.,Motor Vehicle Facts & Figures'79, 1979. pp. 196.
(2) The Times, 1979.2.18.
(3)この点の詳細に閲しては, 井上昭一「プライス・リーダーシップ_アメリカ 自動車工業を中心に一ー」 [1J「商学論集」(関西大学),第24巻第3号, 1979年を 参照されたい。
(4)大型車と小型車の利潤額の相遮については, 井上昭一「アメリカ独占確立期に おける自動車企業の生誕とその発展」(2J「商学論集」(関西大学),第22巻節5号 1977年の中で比較・検討しておいた。参照願えれば幸いである。
統計にみるアメリカ自動車工業(井上) (533)63
I 生産台数と登録台数
1‑1 メーカー別自動車生産台数
I 1976 │ 1977 I 1978
〔乗用車)
G M (計) 4,891,982 5,259,657 5,284,499 シポレー 2,012,412 2,133,403 2,346,155 ボンティアク 784,631 875,957 867,010 オールズモービル 964,425 1,079,841 910,249 ビュイック 817,669 801,202 810,324 キャディラック 312,845 369,254 350,761 フ ォ ー ド ( 計 ) 2,053,799 2,555,867 2,557,197
l [フォード 1,494,054 1,761,373 1,743,445
マーキュリー 434,865 583,0551 813,752 リンカーン 124,880 211,439
クライスラー (計) 1,333,402 1,236,359 1,126,168
[プリマス 658,020 492,063 448,114 ダッジ 547,916 497,232' 441,550 クライスラー 127,466 247,064 236,504 A M C 213,918 156,994 164,352 チ ェ ッ カ ー 4,792 4,777 4,225
アメ.リカV W 40,194
乗 用 車 計 8,497,893 9,213,654 9,176,635
〔トラック・バス〕
シポレー 1,048,125 ̲ 1,122,169 1,216,050 l I
GMC 293,997 321,009 375,000 フォード 888,162 1,186,013 1,233,243 クライスラー 441,849 474,001 488,180、
A Mジェネラル 27,917 27,497 20,922 インクーナショナル 114,855 110,894 123,123 ジープ 124,924 162,?31 180,514 マック 23,230 30,178 33,114 ホワイト 17,730 25,195 13,217 その他 18,914 29,941 39,204 トラック・バス 計 2,999,703 3,489,128 3,722,567 自動車総生産台数 I 11,497,596 I 12,702,782│ 12,899,202