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― ― 21 世紀における英語劇の展開

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清泉女子大学人文科学研究所紀要 第40号 2019年3

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世紀における英語劇の展開

―異なる文化的背景を持つ人々とともに生きるための英語―

飛 田 勘 文

要旨 21世紀、英語劇は、学習指導要領の改訂や中央教育審議会の答申、一般 社団法人日本経済団体連合会の意見書の影響を受け、その主目的をコミュニケー ション能力の開発としつつ、異文化理解教育、国際理解教育、多文化共生教育(社 会的包摂)、グローバル人材育成、グローバル市民の育成(シチズンシップ教育)

とも関連づけられて実施されるようになっている。その原因には、日本人の海外 移住や外国人の日本への移住の大幅な増加が挙げられる。つまり、元々、英語は、

一部の日本人が海外留学や国際交流イベントなど、日常とは異なる特別な場所で 使用する「特別な言語」だったが、21世紀に入ってからは、海外で生活する日 本人や日本で暮らす外国人の数も急増し、身近で使用される「日常の言語」にな りつつある。そこで、本研究は、2000年から2018年に至るまでの日本の学校や 大学の教育課程の英語科の英語劇の展開について探る。

 英語によるコミュニケーション能力の開発をテーマとする英語劇は、英語で劇 を創ることを活動の中心とする。従来、その土台は世界平和の実現を狙いとする ユネスコの国際理解教育に置いていたが、2000年以降は世界に出て行く企業戦 士の育成を狙いとする経団連のグローバル人材育成に置いている。その結果、

2000年以降の英語によるコミュニケーション能力の開発をテーマとする英語劇 からは、世界平和の実現といったニュアンスは失われてしまっている。また、コ ミュニケーション能力の開発をテーマとする英語劇とグローバル人材育成をテー マとする英語劇は、同一視される傾向がある。

 異文化理解教育をテーマとする英語劇の多くは、海外の文化を英語劇にし、そ の劇化の過程を通して英語のことばを習得するとともに、海外の文化について理 解を深めることが活動の中心になっている。日本文化との比較を行う場合もある。

 国際理解教育は幅広い内容から成るため、国際理解教育をテーマとする英語劇 には、英語による発信力やコミュニケーション能力の開発、外国の人々への日本 の文化の紹介、友だちとの相互理解、異文化体験と異文化に対するアウェアネス の開発を目的とする英語劇など、さまざまな実践が存在する。

 多文化共生教育をテーマとする英語劇には多文化共生の問題を具現化するもの や、多文化共生の実現を模索するものが存在する。また、異なる背景を持つ人々 とともに生きることを強調しているという点で多文化共生教育と関わりのある社 会的包摂をテーマとする英語劇には、障がい者や性的マイノリティーが参加する ものがある。

 一部の英語教師たちは、グローバル人材育成に懐疑的である。彼らは欧州評議

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会の複言語・複文化教育政策などを参考にしながら、グローバル市民の育成をテー マとする英語劇の実践を行なっている。

キーワード:英語劇、演劇教育、コミュニケーション

The Development of Drama in English as a Foreign Language Education in Japan in the 21st Century

HIDA Norifumi Abstract  Influenced by the revisions of MEXT’s Curriculum Guidelines, the reports of the Central Council for Education, and the proposals of the Japan Business Foundation, there have been dramas used in EFL (English as foreign language) education with new aims in the 21st centur y: EFL drama for communication skills, intercultural understanding, international understanding, multicultural coexistence, social inclusion, global human resources, and global citizenship.

  The central activity of EFL drama for communication skills is to create and present a theatrical performance in English. It is based on the global human resources policies coming from the proposal of the Japan Business Foundation, and it is often equated with drama for global human resources.

  In using EFL drama for intercultural understanding, students often learn other cultures by dramatising them. Some of them also attempt to compare these cultures with Japanese cultures.

  Under the name of EFL drama for international understanding, students do a wide range of drama activities, including drama for the development of communication skills, the introduction of Japanese culture, the fostering of mutual understanding with classmates, and the gaining of intercultural experience and awareness through drama.

  In EFL drama for multicultural coexistence, some dramas problematise issues in multiculturalism, while other dramas attempt the realization of equal multicultural coexistence. In EFL drama for social inclusion, there are EFL dramas in which students with disabilities or LGBTQ participate.

  In EFL drama for global citizenship, English teachers often criticize the global human resources policies and design their drama work based on the Council of Europe’s plurilingual education.

Key words: Drama in English as a Method of Teaching English, Drama Education, English as a Foreign Education

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 21世紀に入ってから、学校や大学の教育課程の英語科の中で英語劇(英語 教育における教育方法としての演劇)が積極的に実施されるようになっている。

その中には、元々、伝統的に英語劇を実施してきた学校や大学もあるが、学習 指導要領の改訂や中央教育審議会(以下、中教審)の答申、一般社団法人日本 経済団体連合会(以下、経団連)の意見書の影響を受け、英語劇の導入を決定 したところもある。そこで、本研究は、2000年から2018年に至るまでの日本 の学校や大学の教育課程の中の英語劇の展開について、とくにその目的や指導 方法に焦点を当てながら探っていく。なお、本研究は、筆者が以前に執筆した 論文「日本の英語劇の歴史 ―第1期・第2期―」(2017)の続編で、21世紀 以降の英語劇の発展に焦点を当てる本研究は「第3期」にあたる。

21世紀の英語教育の展開

 前掲の論文の中で、筆者は、1930年から1970年にかけての英語劇の主目的 が「英語で考える習慣」の形成であることを、また、1970年から2000年にか けての英語劇の主目的が「英語で表現する能力やコミュニケーション能力」の 開発であることを示した。2000年から現在に至るまでの英語劇においても、

コミュニケーション能力の開発は主目的になっている。だが、同時に、英語劇 は、異文化理解教育、国際理解教育、多文化共生教育、グローバル人材育成、

グローバル市民の育成とも関連づけられて実施されるようになっている。その 背景には、学習指導要領の改訂や中教審の答申、経団連の意見書の影響がある が、より根本的な原因としては、下記の外務省と法務省のデータが示すように 日本人の海外移住や外国人の日本への移住の大幅な増加が挙げられる。

   海外在留邦人数の推移     1990年:620,174     2000年:811,712     2010年:1,143,357

    2017年:1,351,970人(外務省領事局政策課,2018)

   外国人登録者数及び在留外国人数の推移     1990年:1,075,317

    2000年:1,594,001     2010年:2,087,261

    2017年:2,561,848人(法務省入国管理局,2018)

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 このような日本人の海外移住や外国人の日本への移住の大幅な増加は、英語 教育が従来の外国の人々との会話や交流という単純な対人コミュニケーション や異文化コミュニケーションの範囲を超えて、「どうすれば異なる文化的背景 を持つ人々とともに生きていくことができるのか」という、より日々の生活と 密接に結びついたコミュニケーションの問題に取り組む必要が出てきたことを 示している。つまり、元々、英語は、一部の日本人が海外留学、国際交流イベ ント、国際会議など、日常生活とは異なる特別な場所で使用する「特別な言語」

だったが、21世紀に入ってからは海外で生活する日本人や日本で暮らす外国 人の数も急増し、身近で使用される「日常の言語」になりつつあることを示唆 している。

学習指導要領の影響

 学校や大学の教育課程の中で実施される英語劇の目的、内容、指導方法は、

その時代の学習指導要領の内容に影響を受ける。そこで、最初に、2000年度 以降の小学校と中学校を中心とする学習指導要領の外国語活動および外国語の 目標を確認することにする。

 文部省/文部科学省は、1947年に最初の学習指導要領を導入して以来、長 い間、小学校における英語教育の実施を各小学校の裁量に一任してきた。しか し、1990年代半ば頃から、グローバル人材育成を求める経団連の要求に応え、

次第に初等英語に介入していくようになった。

 1998年告示の小学校学習指導要領は、中央教育審議会の答申『21世紀を展 望した我が国の教育の在り方』(1996)の見解を踏まえ、新設科目「総合的な 学習の時間」における国際理解教育の一環として「外国語会話」が実施可能で あることを記し、公立小学校への英語教育の導入を開始するとともに、その必 修化に向けての準備を整えた。

 そして、文部科学省は、2008年告示の小学校学習指導要領でついに「外国 語活動」(第5及び第6学年)を新設した。ただし、その目的は、英語によるコ ミュニケーション能力の開発を前提として、小学生に体験的に英語に触れさせ ることであり、この段階では英語の四技能などの基礎能力の開発はそこまで厳 しく求めなかった。

外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコ ミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基 本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養

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う。(文部科学省,2008,p. 111)

1998年告示の小学校学習指導要領の総合的な学習の時間の内容と比較すると、

国際理解教育は総合的学習の時間が担っているためか、「国際理解」の文言が 無くなっており、国際理解教育との繋がりは薄れている。

 英語劇との関係で補足しておくと、外国語活動の新設に伴い、文部科学省は 補助教材『英語ノート』(2009a,2009b)や『Hi, friends! 』(2012a,2012b)

を配布し、その中で「おおきなかぶ」や「桃太郎」のオリジナル劇を創作する 単元を用意した。興味深いのが、この単元に関し、直山木綿子文部科学省教科

調査官は2013年6月に三重県伊勢市立厚生小学校で行われた外国語活動の研修

会で、この単元が3つのリトマス試験紙―①2年間の外国語活動が見えるリ トマス試験紙、②学級経営が見えるリトマス試験紙、③学校全体の組織が見え るリトマス試験紙の役割を果たすと述べて、斬新な英語劇の意義を提示した(川 村・小林ほか,2014)。

 2017年告示、2020年から実施予定の小学校学習指導要領では、全教科で「主 体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)が求められる。そのこ とを前提に、外国語活動は第3及び第4学年に引き下げられ、新たに第5及び 第6学年に「外国語」が新設されている。

 外国語活動は、2008年告示の小学校学習指導要領の外国語活動と比較する とその目的の量が増え、より細かくなっている。「外国語によるコミュニケー ションにおける見方・考え方を働かせ」の一節が加わり、社会言語学的視点、

つまり社会的・文化的コンテクストを考慮しながら外国語によるコミュニケー ションを図ることが求められている。また、「日本語と外国語との音声の違い に気付く」とあり、日本語との比較を通して外国語を習得していくことが期待 されている。さらに、「自分の考えや気持ちなどを伝え合う力」、あるいは「主 体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度」は、双方向コ ミュニケーションにおいてもっと学習者が自分から発信していく必要があるこ とを説いている。

 外国語の目標は、以下の通りである。

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国 語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、

コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成する ことを目指す。

(1) 外国語の音声や文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどについ

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て、日本語と外国語との違いに気付き、これらの知識を理解すると ともに、読むこと、書くことに慣れ親しみ、聞くこと、読むこと、

話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用 できる基礎的な技能を身に付けるようにする。

(2) コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、身近で 簡単な事柄について、聞いたり話したりするとともに、音声で十分 に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだ り、語順を意識しながら書いたりして、自分の考えや気持ちなどを 伝え合うことができる基礎的な力を養う。

(3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め、他者に配慮しながら、

主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を 養う。(文部科学省,2017,p. 156)

おおよそ外国語活動の目的と同じだが、「体験的」という文言は無くなっており、

新学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び」を前提にしているとはいえ、

体験型学習はあまり強調されていない。また、オーラシーのみならず、リテラ シーの開発や、文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどの言語構造の学習 も重視されるようになっている。

 次に、中学校の英語教育について説明する。2つのポイントがある。1つは、

小学校における英語教育の必修化により、中学校の英語教育の内容が前倒しに なっている。もう1つは、それゆえに、小学校学習指導要領の外国語活動およ び外国語と比べると、当然、その内容がより高度になっている。

 1998年告示の中学校学習指導要領の外国語の目標は、次の通りである。

外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケー ションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くことや話すことなどの実 践的コミュニケーション能力の基礎を養う。(文部科学省,1998)

 1989年告示の中学校学習指導要領の外国語の目標の違いの1つは、「国際理 解の基礎を培う」の一節が消えていることである。その理由は、国際理解教育 は、外国語ではなく、新設された総合的な学習の時間の領分となったためと考 えられる。しかし、その結果として、元来、日本の国際理解教育はユネスコの 国際理解教育の理念に影響を受けているわけだが、英語教育から「世界平和の 実現」の志が失われてしまっている印象を受ける。また、「外国語で表現する 基礎的な能力」の一節が消え、その代わり、従来の「積極的にコミュニケーショ

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ンを図ろうとする態度」に加えて新たに「実践的コミュニケーション能力の基 礎を養う」が加筆され、外国語の目標はよりいっそうコミュニケーション能力 の開発が強調されるものになった。このような世界平和の志の喪失と(経済を 前提とする)コミュニケーション能力の開発の過度な強調の重なりは、英語教 育やコミュニケーション能力の開発そのものをどこか非人間的なものに感じさ せる。

 続く2008年告示の中学校学習指導要領の外国語の目標は、1998年告示の中

学校学習指導要領の外国語の目標と比較すると、初等英語の必修化に伴って オーラシーの開発が前倒しになっているためか、オーラシーに加え、リテラシー の開発も積極的に求めるようになっている。

 2017年告示の中学校学習指導要領の外国語の目標は、同年告示の小学校学 習指導要領の外国語活動および外国語と同じく、その目的の量がかなり増加し ている。2008年告示の中学校学習指導要領の外国語の目標と比較すると、同 年告示の小学校学習指導要領の外国語活動および外国語と同様に、やはり社会 的・文化的コンテクストを考慮しながら外国語によるコミュニケーションを図 ること、日本語との比較を通して外国語を習得していくこと、双方向にコミュ ニケーションにおいてもっと学習者が自分からの発信していく力が必要である ことが記されている。小学校学習指導要領の外国語活動および外国語との違い は、リテラシーの獲得や言語構造の理解、複雑な話題を扱いながらコミュニケー ションを図っていくことが求められている。

 以上、簡単にだが、2000年から現在までの学習指導要領の外国語活動や外 国語の目的について分析した。高等学校の学習指導要領の外国語の目的につい ても、その内容はより高度だが、類似する展開を見せている。その中心は、英 語によるコミュニケーション能力の開発であり、その結果、それをテーマとす る英語劇も多く登場している。注意しなければならないのが、2000年以降の 英語によるコミュニケーション能力の開発の重視は、一見、1989年告示の中 学校学習指導要領の時代からあまり変わっていないように見えるが、その土台 がユネスコの国際理解教育ではなく、経団連(2000)が求めるグローバル人材 育成にある点で大きく異なる。後で説明するように、この問題は、「グローバ ル人材ではなく、グローバル市民の育成こそが重要なのではないか」という一 部の英語教師の主張にも繋がっていく。

中教審の答申や経団連の意見書などの影響

 2012年、中教審は答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向

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けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜』を発表し、その 中で「学生が主体的に問題を発見し、解を見いだしていく能動的学修(アクティ ブ・ラーニング)への転換が必要」と記した。能動的学修はすでに小学校や中 学校などでは総合的な学習の時間などの一部の教科の中で行われていること だったが、ここに至って大学においても同様の考えが導入された。その結果、

英語劇をアクティブ・ラーニングと結びつけて考える英語教師が登場するよう になった。

 また、1996年、中教審は、答申『21世紀を展望した我が国の教育の在り方』

の中でコミュニケーション能力の育成を重視した外国語教育の改善を唱えると ともに、異文化理解や国際理解を要求し、英語教育を異文化理解教育や国際理 解教育と関連づけた。

(a) 広い視界を持ち、異文化を理解するとともに、これを尊重する態度 や異なる文化を持った人々と共に生きていく資質や能力の育成を図 ること。

(b) 国際理解のためにも、日本人として、また、個人としての自己の 確立を図ること。

(c) 国際社会において、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意思を 表現できる基礎的な力を育成する観点から、外国語能力の基礎や表 現力等のコミュニケーション能力の育成を図ること。

(中央教育審議会,1996,p. 43)

この引用には「異なる文化を持った人々と共に生きていく」という一節がある が、これは、英語教育が多文化共生教育とも結びつくことを示している。この 答申などの文言がきっかけとなり、英語教育において異文化理解教育、国際理 解教育、多文化共生教育をテーマとする英語劇が登場するようになった。

 国際理解教育について補足しておくと、近年、従来とは異なる国際理解教育 の見解が登場している。

これまでの「国際理解教育」は、[中略]一般に「外国の文化を学ぶ」

という傾向が強いものであった。つまり、日本人が外国について学び、

外国に認められることを目指し、日本をより他国に理解してもらうこと を目的とするのが国際理解教育であったように思う。一方、「異文化間 教育」は、自己の文化を見つめなおし、異文化の相手との自己も含めた かかわり合いを重視する。近年の国際理解教育では、より多元的な価値

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観を重視する傾向があるが、異文化間教育では、単に文化の違いを知る だけでは不十分で、人の多様なあり方をお互いに認め合い、共に生きよ うとする態度を育むことを重視している。(近藤・田島ほか2013,p. 5)

この引用では「異文化間教育」という用語が使用されているが、これは、異文 化理解教育や国際理解教育の内容が、実質、異なる文化的背景を持つ人々とと もに生きることを重視する多文化共生教育に近づいていることを示している。

 そのほか、注目すべきは、経団連が意見書「グローバル化時代の人材育成に ついて」の「Ⅲ.当面の課題」の「2.英語等のコミュニケーション能力の強化」

の「1.小・中・高における英語力の育成」の「2.総合的な語学学習の必要性」

のなかでグローバル人材育成に英語劇の導入を提案していることである。

小・中・高校においては、英語の技能の習得とともに、英語を利用した 総合的学習を行ない、総合力を育成することが重要である。小・中・高 校のすべての教育段階に設置される「総合的な学習の時間」を活用して、

生徒が生きた英語に直接触れる機会をできるだけ多く創るとともに、英 語によるディベート、英語劇、外国人との交流など、授業に対して創意 工夫を凝らす必要がある。

(一般社団法人日本経済団体連合会,2000,下線は原文のまま)

 その結果、グローバル人材育成と英語劇の間に強い結びつきが作られる。た だし、グローバル人材育成を、広くとらえるのではなく、英語によるコミュニ ケーション能力の開発に限定して理解している英語劇の戯曲集や指導書が多 く、実際のところ、グローバル人材育成をテーマとする英語劇と英語によるコ ミュニケーション能力の開発をテーマとする英語劇とは、ほぼ同義語になって いる。

 グローバル人材育成の一環として、もしくはグローバル人材育成を問題視し、

それに代わるものとして論じられるのが「グローバル市民の育成」、別の言い 方で「シチズンシップ教育」である。鳥飼玖美子(2016)は、国家をあげて育 成しようとしているグローバル人材、いわば世界に出て行って闘う企業戦士は、

長い目で見ると、グローバル時代に通用する人材の育成には繋がらないと主張 する。そして、グローバル人材とグローバル市民の違いを次のように説明しな がらグローバル市民の育成の必要を唱える。

グローバル人材は、日本企業のために世界で闘う人材というイメージが濃

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厚ですが、グローバル市民は、闘うのではなく、地球社会に貢献するの です。人類の未来が持続可能である為には、文化が異なり言語を異にし ていながらも、多文化・多言語が共存していくことが必須であり、その中 で自分なりの貢献ができる人間が「グローバル市民」なのです。(p. 51)

どこの国の言語教育政策を、あるいはどの学者の理論を参考にするかによって 英語教師の間でグローバル市民の定義に差はあるが、基本的には鳥飼氏と類似 する考えに基づいてグローバル市民の育成を目的とする英語教育が増えてお り、その中からグローバル市民の育成を目的とする英語劇も登場している。

 アクティブ・ラーニングとグローバル人材育成については分けて考えた方が よいのかもしれないが、ここで1つ言えることは、異文化理解教育、国際理解 教育、多文化共生教育、グローバル市民の育成のどれもが、「異なる文化的背 景を持つ人々とともに生きる」ということを重視しており、それぞれの分野か ら、その実現を目指す英語教育の実践が行われているということである。

21世紀の英語劇の実践

 英語劇に対する再注目の結果、2000年から現在に至るまでの間にさまざま な英語劇の脚本集、指導書、理論書、論文が発表されている(加藤,2001;佐 生,2008;森,2015;青山児童劇・童謡研究会,2014;村井,2005;東京都中 学校英語教育研究会,2004;日本演劇教育連盟,2007;日本児童劇作の会,

2007;木村・長谷川ほか,2015;木村・蓑田ほか,2000;柚木,2003)。その 中で学習指導要領の外国語活動や外国語や経団連のグローバル人材育成が求め るコミュニケーション能力をテーマとする英語劇には、例えば日本児童劇作の 会(2013)の『きずなを育てる小学校・全員参加の学級劇・学年劇傑作脚本集 高学年』や、増田(2006)、米田(2008)、秋山(2010)、一色(2012)、杉村・

久米(2012)、高久田(2015)の論文などがある。また、アクティブ・ラーニ ングをテーマとする英語劇には、吉本(2018)の「「アクティブ・ラーニング」

としての英語劇:シェイクスピア作『十二夜』上演の場合」などがある。

 以下、本研究がとくに注目する「異なる文化的背景を持つ人々とともに生き る」をテーマとする英語劇、つまり異文化理解教育、国際理解教育、多文化共 生教育、グローバル人材の育成(シチズンシップ教育)をテーマとする英語劇 について分析する。なお、多文化共生教育をテーマとする英語劇の一部として

「社会的包摂」をテーマとする英語劇についても扱う。

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(1)異文化理解教育

 異文化理解教育と国際理解教育はほぼ同じ意味で使用されることもあるた め、その違いについて明確にしておく。日本の国際理解教育は、第二次世界大 戦後に紹介されたユネスコの国際理解教育の見解に影響を受けている。それは

「世界平和」を目的とし、「生命に対する畏敬の念と基本的人権の尊重」「異文 化に対する理解と尊重」「自国の文化の理解と尊重」「意思の疎通を図るコミュ ニケーション能力」「自国の利益にとらわれず,グローバルな視点を持つこと」

を重視する(東京都高等学校国際教育研究協議会,1999;内海,1960)。つまり、

異文化理解教育は、国際理解教育の一部に位置づけられている。

 小学校教諭の平島惠子(2001)は、インターンの大学生とともに総合的な学 習の時間に国際理解教育の一環として英語教育と異文化理解教育を同時に実現 する授業を設計し、その授業の中でクリスマスをテーマとする英語劇の創作を 行った。彼女は、「英語を通してコミュニケーションをはかり、相手の人間性 を理解するとともに、異文化理解学習を進めることで、表現力や進んで関わろ うとする意欲が歓喜できる」(p. 43)と主張する。英語劇の創作にあたっては、

平島らは①クリスマスという文化を通して、家族との接し方や家族の関係につ いて考える、②英語活動を通して異文化を理解し、自分たちの文化を振り返る、

③ATと楽しく活動しながら外国語に親しむ、という狙いを立てた。また、授 業は全6回で、1回目の授業ではクリスマスに関するクイズを、2回目の授業で はクリスマスカードなどの作成を行った。続いて、3回目の授業の時に劇で使 用するクリスマスの物語の準備をし、4回目の授業で台詞と動きの練習を、5 回目の授業で衣装をつけて稽古し、最後の6回目の授業で練習した劇の発表を 行った。

 中学校英語教師の松野裕司(2011)は、教科書『Sunshine English Course Book 1』の「Program 7: A Day at the Rodeo」に基づいて独自の単元「農業祭 の英語劇を作ろう」を用意した。日本にも五穀の収穫を祝う祭「新嘗祭」があ ることに注目し、学生に日本とアメリカの農業祭の両方について指導しながら、

そこでの学びをもとに英語劇を創るよう指導した。全7回の授業で、最初に、

学生に農業祭、ロデオ、カーボーイなどを紹介し、次に、音声教材による教材 の概要の把握・文法を指導した。続いて、学習した表現を使用して自分のこと を語るショー・アンド・テルを実施し、最後に英語劇の創作と発表を行った。

英語劇の意義について、松野は、「農業祭にまつわる英語劇を制作することに より、英語で考え表現する力を養うとともに、英語を使う喜びを味わわせたい」

と述べている。

 どちらの英語劇の実践も日本とは異なる海外の文化の内容を英語の台詞に

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し、身体表現するということが、そしてそれを通して英語のことばを習得し、

海外の文化について理解を深めるということが活動の中心になっている。ただ し、後者は日本の文化との比較が重視されている。

(2)国際理解教育

 異文化理解教育で説明したように、国際理解教育は幅広い内容から成る。例 えば、各学校のホームページの内容を確認すると、大妻嵐山中学校(2017)や 東京女学館小学校では、英語による発信力やコミュニケーション能力の開発を 目的とする英語劇が実践されている。また、広川町立津木中学校では、外国の 人々に日本の文化を紹介することを目的とした英語劇の実践が行われている。

 小学校教諭の小川恵子(2008)は、小学校の英語教育の目標として①言語や 文化に対する理解、②四技能と自己表現力、③相互理解と実践力を挙げる。こ の中で国際理解教育に関係するのは③だが、彼女は、あえて「国際理解」とし ない理由を次のように記す。

相互理解については、「国際理解」とせず、国を超えた理解の前に、ま ず隣りの友だちの気持ちが分かる子どもを育てたい。互いの気持ちや考 えが理解できてこその国際理解である。(p. 11)

そして、小川は、これら3つの目標を達成するのに最適な教材として英語劇を 紹介する。英語劇の指導方法を説明するにあたり、彼女は、英語の絵本『大き なカブ』を使用する。最初に、教師は生徒に絵本の読み聞かせを行う。次に、

絵本のことばをそのまま台詞にして児童に言わせる。慣れてくると、生徒から、

この場面ではこう言いたいという自発的な取り組みが見られるようになるの で、その時をとらえて読み方の指導を行う。児童の工夫も積極的に採用し、児 童の工夫が十分に出たところで内容を整理して台本を作成する。3番目に、台 本を配布し読んでみる。生徒は、音声で入っていることばを文字で読んでいく のはそれほど難しくないことを実感する。小川は、この時に味わう達成感は学 習意欲に繋がるので重要だと論じる。そして、最後に発表会を行う。国際理解 教育に関係する相互理解に関し、彼女はこの説明の中では触れていないが、こ うした英語劇の創作過程において、生徒が協力し、困った時には助け合いなが ら劇を創っていることが想像される。

 大学英語教師のムーディ美穂は論文「会話の授業で国際理解教育を―ドラ マによる異文化体験」(2010)の中で、イギリスのドラマ教育の考えを導入し た英語教育と国際理解教育を紹介する。彼女はイギリスのドラマ教育の中心的

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考えである「putting yourself into someone else’s shoes(他者の立場に立つ)」が、

異なる価値観への理解や共感を重視する国際理解教育を支援し、「学生の異文 化に対するアウェアネスを高める」と説明する。実際の指導にあたっては、ムー ディは、学生が自分の経験をもとに物語の大筋を決定し、その大筋をもとにし て 即 興 演 技 を 行 い な が ら 台 詞 を 創 造 し て い く 手 順 を と る。 具 体 的 に は、

①グループごとにあらすじを創造する、②あらすじをいくつかの場面に分け、

即興で演じる、③台詞を書き留めて物語の流れを確認する、④③を繰り返して 脚本を完成させる、⑤その脚本をもとに稽古を行い、発表する。その物語の創 造過程において、彼女は、コンフリクトが必要だと主張する。なぜなら、単な る日常を描いただけでは、学生は会話を続けられなくなってしまうためである。

そこで、会話に乗り越えなければならない問題や目的を与えることで、その登 場人物そして学習者の発話の動機を高める。

 以上のように、国際理解教育の名のもと、英語による発信力やコミュニケー ション能力の開発、外国の人々への日本の文化の紹介、友だちとの相互理解、

異文化体験と異文化に対するアウェアネスの開発を目的とする英語劇の実践が 行われている。難しいのが、ほかにも国際理解教育の名のもとに行われている 演劇の実践はあるが、英語劇、つまり英語教育の一環となると、その実例の数 が限定されてしまうということである。国際理解教育の内容の全てを英語劇で 行う必要はないが、今後、英語教師は、国際理解教育の幅広い内容をなるべく 網羅しながら英語劇を実践していく方法についても模索していく必要がある。

(3)多文化共生教育

 多文化共生教育研究者の山田泉(2018)は、多文化共生の概念に4種類に分 類する。

奴隷的多文化共生: 先住文化的強者が新来文化的弱者を利用・搾取する

同化的多文化共生: 先住文化的強者が新来文化的強者に迎合を求める形 対等的多文化共生: 先住文化的多数者と新来文化的少数者が対等・平等

に社会参加する形

植民地的多文化共生: 先住文化的弱者を新来文化的強者が利用・搾取す る形(p. 16)

 多文化共生をテーマとする英語劇は、奴隷的、同化的、植民地的多文化共生 の問題を具現化する形で、あるいは対等的多文化共生の実現を模索する形で展

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開する。

 大学英語教師の川村一代ほか(2014)の英語劇の実践は、対等的多文化共生 を目指すものである。彼女らは、初等教育においては「小学校教育」「外国語 教育」「コミュニケーション能力の素地の育成」の3つが重要であると考え、

その3つの観点から補助教材『Hi, Friends! 2』の中の「Lesson 7: We are good friends」に登場する教材「桃太郎」の物語(劇)の検討を行った。とくに重視 したのが「小学校教育」で、彼女らはそれをLesson 7のテーマである「We are good friends」と結びつけて考え、この教材に登場する桃太郎の物語のエンディ ングは一考の余地があると論じた。つまり、この教材において、桃太郎は鬼た ちを力で屈服させ、椅子に踏ん反り返りながら床で土下座する鬼たちに「We are good friends!」と言っているが、彼女らは、はたしてそれは正しいだろう かと問う。

児童には「暴力で鬼を服従することはできても、友達になることはでき ない。」ということに気づかせたい。そして「いかに鬼の心を解きほぐし、

心を通わすか」がオリジナル物語のポイントとなること、物語を作る前 に徹底しておきたい。鬼とは自分(たち)と異質な他者だと考えると、

どうしたら異質な存在と心を通わせて友達になれるかを考え、それを演 技で表現することは、これからのさまざまな人々と関わっていくであろ う児童にとって、良い経験になると思われる。(p. 7)

 川村らは、生徒に暴力以外の方法で鬼と友だちになる方法はあるかを質問し、

異なる物語の展開とエンディングを探し求める。生徒たちは、桃太郎たちが鬼 と一緒にゲームをする、パーティーを開催する、鬼が島を掃除するなど、さま ざまなアイディアを提案する。そこで、彼女らは、生徒にそれらのアイディア に基づいて新しい物語の展開の桃太郎の英語劇を創るよう指導する。

 大学英語教師の幸野稔と佐々木雅子は、発音およびオーラル・コミュニケー ションに焦点を当てた英語の授業の中で、多文化主義をテーマとする英語劇と ディベート・スタイルのスピーチを実施した(Sasaki & Kono, 2007)。演劇を 選択したグループは、最初に、劇作家ロジャー・パルバースの戯曲『ドリーム タイム』を読み、オーストラリアの先住民と多文化主義についての理解を深め た。続いて、その戯曲の中からテーマに関連する部分を抜き出して上演用の脚 本を作成した。一方、スピーチのグループは、先住民と多文化主義に関するい くつかの文献を読んで、その中から関心を持った問題について議論を重ねた。

彼らはその議論の内容に提案したり反論意見を述べたりしつつ、その内容を洗

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練し、パフォーマンスとして発表できるよう整えた。最終的に、その2つを合 わせて1つのパフォーマンスになるよう工夫し、‘Dream for Multiculturalism’

という題目のもと発表した。

 両方ともが多文化主義をテーマに英語劇の実践を行なっているが、そのテー マを探るにあたって、前者が日本の物語を使用しているのに対し、後者は、海 外の物語を使用している。

(4)社会的包摂

 「社会的包摂」は、「ともに生きる」をテーマにしている点で多文化共生と繋 がりがあることばである。日本の多文化共生が、主に外国人や外国ルーツの人々 との共生を模索するのに対し、社会的包摂は、社会の中で追いやられてきた 人々、つまり障がい者や性的マイノリティー、民族的マイノリティーに注目し、

彼らとともに生きていく方法と彼らが社会参加することができる社会の構築を 目指す。2011年の障害者基本法の改正以来、インクルーシブ教育や、近年で は外国にルーツを持つ学生や性的マイノリティーの学生に配慮された教育が注 目されるようになっており、社会的包摂をテーマとする英語劇について触れて おくことは重要である。

 最初に紹介するのは、インクルーシブ教育をテーマとする英語劇(ロールプ レイ)である。龍谷大学短期大学部社会福祉学科では、2002年度から知的障 がい者と学修支援を通じて協働する「オープンカレッジふれあい大学課程」を 設置している。学生は障がい者学習支援、音楽療法、演劇療法などを学びなが ら、実際の協働においては知的障がいのある人とペアを組み、ミュージカル作 品の制作などを行っている。同大学の英語教師の大場智美は、2011年にその 講義シリーズの中で英語の授業を担当することとなり、その準備をする中で知 的障がい者が演劇(ロールプレイ)などの芸術活動に秀でていることに気づく。

そして、知的障がい者と一般学生を対象とする自分の英語の授業の中に芸術活 動を取り入れることを思案する。

Some local and junior college students were good at art performance. I came to realise this when I joined in Role Play and Sound and Movement sessions. Besides drama and music therapy, I recognised that it might be a good idea to use their talents for English activities. (Ohba, 2017, p. 65)

実際の授業の内容は、ロールプレイを簡略化したもので、事前に用意した数行 の台本をもとに、まずは、教師2人が自己紹介と挨拶の場面を演じて見せ、次

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にそれを学生が真似るといったものだった。しかしながら、知的障がい者を含 め、学生たちが非常に楽しく学習したことが伺える。

 次に紹介するのは、性的マイノリティーをテーマとする英語劇である。夜間 定時制高校の教師である浅田正登(2016)は、毎年、学生とともに一年間の時 間をかけて英語劇を創作し、その劇を定時制通信制合同文化祭ステージ部門で 発表している。ある年、彼が受け持つ性的マイノリティーI(女性から男性へ、

後に女性からXジェンダーへ)を含む12名の4年生は、西遊記の英語劇の上演 に挑戦した。

 浅田は、西遊記をもとに上演用台本を作成し、希望調査をもとに配役を行い、

稽古を行うが、一学期が終わる頃、ナレーターを担当していた学生Yが台詞の ある登場人物の役をやりたいと述べたため、また、学生Fが思わぬ演技センス を披露したため、浅田は彼らのことを考慮して脚本に修正を加え、二学期はそ の脚本を使用して稽古を行おうと試みた。ところが、Iは不満を表し、「新しい 脚本なら自分は銀角を降りる」と述べた。

 Iが不満を表した理由の1つは、新しい脚本の中である女学生が担当する金 角とIが担当する銀角に加え、男子学生Fが担当する銅角という新しい登場人 物が加わったためである。Iは、男子学生Fが担当する銅角が加わることで自 分たちの役のジェンダーが明確になると反対する。また、Yのわがままで脚本 が修正されたことや、かつて自分を差別したFと一緒に演じなければならない ことを問題視する。

 そこで、浅田は、クラスの中で話し合いを行うことにする。そして、その話 し合いの中で、Iが入学以来差別的なことを言われ、ずいぶん傷ついているこ とを説明する。また、かつてFが差別的発言をしたことを指摘し、そのことを 聞いたFはIに、今はそのように思っていないことを伝え謝る。このようにし てIとクラスの間の誤解が解かれていき、一旦は、全員でジェンダーフリーの 劇を創っていくことを目指すようになる。

 ところが、その後、Iは降板を希望する。ほかの学生のアドバイスで銀角の 役を別の学生に譲り、ナレーター役を演じることが決まるが、結局、自分がや りたかった役をほかの学生に奪われたという気持ちから欠席してしまう。その 後も話し合いの機会を持つが、Iとクラスの間の摩擦は大きくなっていき、また、

浅田がIにばかり肩入れすることからほかの学生の気持ちが離れていき、つい にクラス全体の雰囲気は「もううんざり」という感じになる。三学期に入り、

結局、クラスの判断としては、英語劇の発表を中止とする。

 しかし、浅田は諦めがつかなかったため、そのクラスの中から有志を募り、

集まった学生で英語劇の創作を続ける。そして、Iを交えた一部の有志で英語

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劇を完成させ、その作品を発表する。

 この2つの英語劇の実践は、障がい者や性的マイノリティーを劇(物語)の テーマとするのではなく、実際にそのようなマイノリティーがいるクラスの中 で英語劇を創作するという点でこれまで紹介してきたものと大きく異なる。た だし、後者に関しては、実際のところ、英語劇は学級内における性的マイノリ ティーの問題を考えるきっかけを与えたに過ぎず、次第に学級運営の話へと移 行していくため、話題は英語劇から離れていく。その上で、この性的マイノリ ティーが参加する本英語劇活動のポイントの1つは、結局、うまくいかなかっ たが、ジェンダーフリーの英語劇を創ろうとした点にある。このクラスの教師 や学生は、性的マイノリティーの視点から作品の内容の検討を試みている。工 夫次第で性役割が明確な従来の作品もジェンダーフリーに脚色することが可能 だが、現状、性的マイノリティーの学生が気軽に演じることのできるジェンダー フリーの英語劇の作品は、どれほどあるだろうか。

(5)グローバル市民の育成(シチズンシップ教育)

 グローバル人材育成は、経団連の意見書「グローバル化時代の人材育成につ いて」に端を発している。しかし、グローバル人材育成が本格化するのは 2010年代に入ってのことからである。グローバル人材育成委員会(2010)は、

グローバル人材を次のように定義している。

グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様な バックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりや すく伝え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性 の差異を乗り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうし た差異からそれぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、

新しい価値を生み出すことができる人材。(p. 31)

しかし、すでに述べたように、一部の英語教師は、グローバル人材育成に対し て懐疑的であり、それに代わるグローバル市民の育成の必要を主張している。

また、グローバル人材育成は、英語によるコミュニケーションを「手段」に限 定して解釈している側面もあり、そのことからもグローバル市民の育成の必要 が唱えられている。

問題は、日本の「グローバル人材育成」の多くが、「英語」習得に焦点 を置いており、「グローバル化」の課題をコミュニケーション「手段」

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の問題に倭小化していることである。このため、英語が必要ないと考え る日本人にとって、「グローバル人材育成」は他人事のように思えてし まう。しかし、「グローバル化」は、国民国家制が保証しようとした単 一のコミュニケーション体制から、複合的コミュニケーション体制への 転換を意味しており、単に「日本語」「英語」など、言語種の選択問題 だけではなく、コミュニケーションに対する「態度」の変更を要求して いる。よって、すべての日本人がこの社会的変化に対応する準備が必要 である。(福島,2014,p. 139)

 グローバル市民の育成をテーマとする英語教育を実践するにあたり、英語教 師らが頻繁に言及するのが欧州評議会の言語教育政策である。その政策は、多 文化主義に基づく教育とは異なる複言語・複文化教育の必要を唱え、その目的 を「ともに生きるための方法としての複言語能力と異文化教育を開発すること」

と定める(Beacco & Byram, 2007)。ここで述べる言語能力と異文化教育(複 言語・複文化能力)とは、「コミュニケーションのための言語を使用し、異文 化間交流に参加する能力」(Council of Europe, 1996)のことで、グローバル市 民になるとは、具体的にはこの能力を獲得することを意味する。

 筆者は、イギリス留学時に、日本語教師であり、欧州評議会の言語教育政策 の研究者である福島青史氏と、日本の小学校に相当するイギリスのプライマ リースクールで同言語教育政策に基づく日本語教育を行い、その中で演劇活動 を行ったことがある(Fukushima & Hida, 2014)。帰国後は、その経験をもと に日本の学校や大学で英語劇の実践を行っている。そこで、グローバル市民の 育成/シチズンシップ教育をテーマとする英語劇の一環として、ここでは筆者 の英語劇の考え方を紹介する。

 欧州評議会が作成する『ヨーロッパ言語共通参照枠』(Council of Europe, 2001)は、複言語・複文化能力を一般的能力(①叙述的知識、②技能とノウハ ウ、③実存的能力、学習能力)とコミュニケーション言語能力(①言語能力、

②社会言語能力、③言語運用能力)に分類する。福島氏は、言語能力の育成を

「ともに生きる」能力の育成と考えた場合、そのためのコミュニケーション能 力が、コミュニケーション言語能力のみならず、一般的能力、つまり知識、技 能、態度と結びつけて考えるのは必然だと説明する。とりわけ、その一般的能 力の中でも実存的能力(自尊感情、他者を尊重する能力、他者と協働し関係を 作る基本的社会能力、積極的に挑戦する態度や学習に対する意欲・自信ほか)

は、とくに大事であるという。日本語教育の文脈だが、彼は、なぜ実存的能力 が大事かを次のように説明する。

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日本語教育を通して育成される一般能力は、多言語・多文化状況で生き るための基礎的な社会能力の育成に資するものでなければならない。最 も重要なものは、自尊感情を持つことができる能力であろう。つまり、

自分に価値があり、自分に自分自身の人生を切り開く能力があるのだと 信じられる能力のことである。なぜなら、この能力は知識社会に必要な 学習が継続できる能力や他者を尊重する能力に繋がるからである。また、

他者と協働し、関係を作る基本的な社会的能力も必要である。(福島,

2015)

 また、欧州評議会が『ヨーロッパ言語共通参照枠』における文化教育の欠如 を補うために作成した『異文化間の出会いのオートバイオグラフィー』(Council of Europe, 2014)は、複言語・異文化間能力の構成要素として、①脱自文化中 心能力、②他者尊重、③アイデンティティの承認、④曖昧に対する寛容さ、

⑤共感、⑥コミュニケーションに関する気づき、⑦解釈する・関連づけるスキ ル、⑧発見する・交流するスキル、⑨批判的な文化に関する気づき、⑩アクショ ン思考を挙げる。筆者は、演劇が、とくに筆者が専門とするイギリスのドラマ 教育の理論が、自尊感情、他者尊重、脱自文化中心能力などを開発するのに有 効であると考え、自分の英語劇の活動においてグローバル市民、つまりそのよ うな自尊感情、他者尊重、脱自文化中心能力などの開発をテーマとする演劇活 動を実施する。

 イギリスのドラマ教育の理論を土台とする演劇活動において、自尊感情は、

自己表現、つまり自分の考えやアイディアを積極的に述べ、身体化していくこ とで育まれる(Slade, 1954)。また、他者尊重は、登場人物、つまり他者を演 じる中で育まれていく(Heathcote, 1984)。そして、脱自文化中心能力は、ス タニスラフスキー的感情同化ではなく、ブレヒト的異化効果、つまり登場人物 や物語から距離をとり、理性を働かしてそれらを客観的に分析していくことで 可能となる。この時、海外の物語ではなく、自分の国の物語などを用いて自分 の国の文化や人々の行動を客観的に観察および分析していくことで、脱自文化 中心能力はより効果的なものとなる。

 筆者は、この考え方に基づいて日本の小学生や大学生に日本の物語、例えば 浜田廣介の『泣いた赤鬼』を使用した英語劇の実践を行う。同物語は、小学校 の道徳でよく取り上げられる教材であり、「善意に基づく友情」の美しさを描 いているが、そこには自己犠牲的な要素もつきまとう。脱自文化中心化の観点 から、学生には主人公の赤鬼やその友人である青鬼を演じてもらい、その内面 を探り、「善意に基づく友情」について客観的に検討してもらう。

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 具体的な段取りとしては、まず学生をいくつかのグループに分け、各グルー プでその物語を脚色して英語の台本を作成してもらう。この時、登場人物の内 面を補強するようなアイディアであれば問題はないが、原作の登場人物の内面 を正しく理解するために、物語の展開が大幅に変わるようなアイディアはなる べく避ける。次に、その台本を使用して劇を創作してもらう。続いて、劇が完 成したら、全員で各グループの劇を1つずつ観ていく。ここまでは一般的な英 語劇の創作と何ら変わりがないが、本英語劇の活動の場合、ここからが重要な 活動となる。例えば、筆者は、観客が劇の登場人物にインタビューする「ホッ トシーティング」(Neelands & Goode,1990)と称する活動を実施する。ある グループの学生たちに、別のグループの劇の赤鬼とインタビューを行ってもら う。そのインタビューの中で、学生たちは「青鬼の善意をどう思ったか」など の質問をする。各グループの赤鬼からは、「青鬼の親切が嬉しかった」、あるい は真逆の「青鬼の善意が辛かった」など、さまざまな意見が出てくる。しかし、

そのように、さまざまな意見を集めることによって、青鬼の行動、そして「善 意に基づく友情」に対する評価を相対化していく。重要なのは、物語の中にあ る文化的要素を抽出し、さまざまな角度から分析していくことで相対化し、批 判的に検討していくことである。学生は、その過程を経て自分たちが所属する 文化を冷静に捉えるようになる。

まとめ

 以上、2000年から現在に至るまでの英語劇の展開について検討した。筆者 は以前の論文で、1930年から1970年にかけての英語劇の主目的が「英語で考 える習慣」の形成であることを、そして1970年から2000年にかけての英語劇 の主目的が「英語で表現する能力やコミュニケーション能力」の開発であるこ とを示したが、この歴史的流れの中で、本研究においてどのようなことが分かっ ただろうか。

 1つ目は、1970年から2000年にかけての英語劇と同様に、2000年以降の英 語劇も英語によるコミュニケーション能力の開発を主目的にしているというこ とである。ただし、その土台はユネスコが述べる国際理解教育から経団連のグ ローバル人材育成へと変わったため、世界平和を実現するための英語によるコ ミュニケーション能力の開発といったニュアンスは消えてしまっている。

 2つ目は、2000年以降の英語劇は、英語によるコミュニケーション能力の開 発を主目的としつつも、従来の英語劇とは異なり、異文化理解教育、国際理解 教育、多文化共生教育(社会的包摂)、グローバル市民の育成と関連するよう

参照

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