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『苔の衣』の人物形成 : 『狭衣物語』摂取の方法

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『苔の衣』の人物形成 : 『狭衣物語』摂取の方法

著者名(日) 加藤 奈保子

雑誌名 大妻国文

巻 30

ページ 53‑74

発行年 1999‑03

URL http://id.nii.ac.jp/1114/00001410/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

﹃ 苔 の 衣

﹄ の人物形成

1 1

﹃狭衣物語﹄摂取の方法ーー

方 日

奈 保 子

はじめに

﹃苔の衣﹄は鎌倉前期に成立した物語で︑全四巻からなり︑四十数年間に渡る三世代の男女および親子の姿を通して︑

中世的な無常感を背景に︑多様な愛別離苦の形を描いた作品である︒この作品は︑第二世代にあたる﹁苔の衣の御仲らひ﹂

の恋と︑第三世代の兵部卿宮の恋を描いた物語であるが︑一方で︑親子の姿を三世代に渡って描いた物語でもある︒物語

は第一世代の右大臣の二人の妻︑西院の上と東院の上の対立関係から始まり︑第二世代では西院の上の娘と東院の上の養

女の生涯の明暗を対比し︑第三世代ではさらにその娘たちの姿をやはり明暗対照に描いている︒西院と東院の系譜をたど

るだけでなく︑幸と不幸の比較も三世代に渡っており︑親子の物語としての様相を呈している︒

複雑なので︑主要人物の簡単な系図を本稿の最後に載せた︒適宜参照していただきたい︒本稿の人物呼称もこれに従うも

﹃源氏物語﹄や﹃狭衣物語﹄からの物語取りが積極的に行われており︑踏まえら

れた先行作品を視野に入れずに読むことはできない︒先行作品摂取に関する研究は数多く行われているが︑

(3)

︿ 注

1

2

取りに関しては︑久下晴康氏﹁﹃狭衣物語﹄の影響|﹁物語取り﹂の方法からl

v E

などの諸作品でも︑様々な角度から検討されている︒

︵ 注

4

5

6

﹃苔の衣﹄も︑﹃狭衣物語﹄取りは明瞭であり︑坂井寿夫氏が用例をあげて指摘されて以来︑神野藤昭夫氏や足立繭子氏

らによっても︑検討がなされてきた︒

稿

親子の物品という側面から︑円苔の衣﹄における﹃狭衣物語﹄取りのありょうを︑指摘されたものを含めて

改めて整理しなおし︑物語の中でどのような意味をもたらしているのかを検討していきたい︒テキストは︑今井源衛氏校

討﹃苔の衣﹄︵中世王朝物語全集7︑笠間書院︑平成8年ロ月︶を用いた︒また︑﹃狭衣物語﹄には様々な伝本があり︑本

来ならば諸本にあたらなければならないところだが︑本稿では︑流布木系である鈴木一雄氏校注﹃狭衣物語﹄

古典集成︑新潮社︑昭和伺年・昭和日年﹀によった︒

の主題について

まず最初に︑この作品の主題について若干記しておきたい︒

︵ 注

7

主題については︑早くに山森雅樹氏が指摘した﹁愛別離苦﹂

︵ 注

8

を︑豊島秀範氏がさらに敷桁している︒豊島氏は︑﹃夜の寝覚﹄の冒頭を模倣した︑

逢うての恋も逢はぬ嘆きも︑人の世にはさまざま多かる中に︑苔の衣の御仲らひばかりあかぬ別れまで︑ためしなく をもって主題とする見解がほぼ固まっているが︑

あはれなることはなかりけり︒

に着目し︑﹁あかぬ別れ﹂の内容は﹁苔の衣の御仲らひ﹂とされる第二世代の一代に限らないとした︒そして︑﹁あかぬ別

れ﹂を語る︿死﹀の拾写の月例を整理し︑最愛の恋人を失アた男君の嘆きを拍きながら︑その悲しみが遣された姫君ヘと

(4)

ずらされているとされ︑﹁親子の別れ﹂を描く物語であるとされた︒さらに︑冬巻末尾近くの︑苔の衣大将が夢告を受け︑

下山を決意する場面にも着目された︒

夢ともなくいと尊げなる僧傍らに立ちて︑

親子の契りはなほ深きものなり︒こ

の度の命生け給へ﹂とのたまふを・:︵略︶・:かく聞きながら︑あれを助けざらんこそ︑むげに慈悲なき心地ずれ︒親

引制劇劃叫仏削剖U紺刷出剖剖り︒割引ぺ引引出制判制倒劃吋叫割引引制め︒ハ冬巻二七一一一i

右のような夢告による下山を決意する場面から︑﹁いわば無常な世の中にあって︑なおかつ断ち難いものとして︑親子の

幹があるのだという主張︑それは仏も許すものとして︑三位中将︵筆者注・苔の衣大将︶を通して描くこと﹂を主題に据え

無常の世の中で﹁愛別離苦﹂を繰り返しながらも︑﹁親子﹂には強い幹があるのだという主題は︑物語の根幹を作りあ

げ︑終始一貫して描かれ続けている︒それは︑石山寺での夢告で﹁二葉よりことなる花は得たりとも盛りの花は見もし果

てじを﹂︵春巻一二頁︶と︑西院の母子の別れが示されることから始まっている︒物語が展開していくにつれて︑様々な

人物の死が描かれる︒その描写はどれも長く綿密である︒もっとも特徴的なのは︑最愛の人への思いではなく︑残してい

く我が子への愛情に満ちた︑子供の将来を託す遺言を残していることである︒主要人物はもとより︑東院の上の父である

物語の中核とならない人物に至るまで︑

が︑冬巻の末尾で︑兼輔の有名な古今集歌﹁人の親の心は閣にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな﹂を本歌とした︑ 子供への愛情の強さを繰り返し強調しているのである︒その典型

身を変へて真の道に入りぬれどなほ子の闇に惑ひぬるかな

親子の紳の強さに束縛されている苔の衣大将の姿を描くことで︑

物語はその主題性を再確認して幕は閉じられるのであ

る︒こうした親子の粋を描こうとする姿勢は︑冬巻のもう一つの山場である兵部卿官の死に関しても同様である︒兵部卿

(5)

宮の死の直前に父三条帝の行幸があって︑この親子の別れを丁寧に描いている点ゃ︑兵部卿宮が我が子の行く末を母藤壷 中宮に託して逝去する点も合わせて︑親子の紳を示す主題は末尾まで一貫して描かれている︒

男女の関係だけではなく︑親子の愛別離苦を様々な形で描き︑親子の愛情の強さを語ろうとしたところに︑この物語の

主題は据えられているのである︒

二︑苔の衣大将の場合

﹃苔の衣﹄が︑親子の物語であるということを踏まえた上で︑同じように親子の物語としての側面を持つ﹃狭衣物語﹄

を摂取することによって︑﹃苔の衣﹄が親子の物語としての骨格をどのように作りあげているのかを整理したいと思う︒

まず︑第二世代の男主人公である苔の衣大将を中心に︑その妻の西院の姫君︑及び両親との関係について描かれている

﹃狭衣物語﹄と比較し︑摂取のありょうを見ていきたい︒なお︑対応する用例で︑

に︑﹃狭衣物語﹄には①・②のように番号をつけた︒

﹃苔の衣﹄には①・②のよう

①  更け行くままに笛の音澄み上りて︑狭衣の大将の﹁光にゆかん天の原﹂と吹き澄まし給ひけん笛の音も︑これに

① 

t

t

まことに月の都の人待たるる心地する︒

稲妻の光にゆかむ天の原遥かに渡せ雲のかけはし

と点目の限り吹きたまへるは︑げに︑﹁月の都の人もいかでかはおどろかざらむ﹂とおぼゆるに︑︵巻一・三一一頁﹀

①は八月十五夜の宴で︑苔の衣大将が笛を吹く様子だが︑﹁狭衣の大将の:::﹂とあるように︑﹃狭衣物語﹄を引用する ことで︑笛の技量を称えている︒﹁月の都の人﹂という措辞までも引用しており︑﹃苔の衣﹄の﹃狭衣物語﹄摂取は明確で ある︒こうした直接的な引用だけでなく︑対応関係が見出せる表現は︑以下のように指摘できる︒

(6)

②・③は︑苔の衣大将とその両親の描写だが︑これも狭衣の場合を引用している︒両者の母はいずれも﹁前斎宮﹂であ

り︑その設定まで相似していることが︑まず指摘できる︒

②﹁げにこさとのたまうて︑手|叫州凶倒劃劃凶割引制劃州制削可倒引制明記制剤叫州叫細川制御気色を見給ふ

に︑︵略︶御歳も殊の外に大人び給ひにたれど︑親ともなく若く清げに見え給ふ︒︵秋巻入

O頁 ︶

②母宮待ちうけたまへる気色思ひやるべし︒﹁いかに困じたまひぬらむ﹂とて︑御|割叫州剖剖州出制調劃引

y

︿

②では︑苔の衣大将の母の﹁手づから御台参らせ箸とりまかなひて﹂世話をやく姿が捕かれているが︑これは②の︑天

稚御子が天下った後に帰宅した狭衣を待ちうけて︑﹁御手づからまかなひ据ゑて︑そそのか﹂す母の姿を引用している︒

また︑②で母宮が﹁親ともなく若く清げに見え給ふ﹂とされるのは︑②で︑女二の宮へ文を送らない狭衣を気遣う母宮が

﹁人の親げなく︑若うをかしき御有様﹂とされる表現を意識していると思われる︒狭衣の母の若さを語る場面は︑この他

にも認められ︑人物造型上の特徴となっているが︑理想的な主人公と若く見える母という構図が︑そっくり﹃苔の衣﹄に

③ 

日高くなりぬれば︑内裏・春宮へ参らんと思して︑すこしひき繕ひて肢の御前に参り給へるさまのいとめでたき

を︑例の皆々うち笑みてぞ見きこえ紺ふ︒﹁藤壷への御言伝てや候はん﹂と申し給へば︑﹁故郷の前栽などもこのほ

どは見所侍るを︑御覧じはやさせ給はぬ︒例の御暇ゆるしがたき御事にてやと心苦しくこそ侍れ﹂との給ふ︒

③ 

いとど召さへあれば参りたまふ

とて︑まづ殿の御前に参りたまへれば︑今日はまだ見たてまつりたまはざりつればにや︑めづらしきにほひ添ひた

(7)

まへる心地して︑うち笑みてぞつくづくとまぼられさせたまふ︒

御かたに御消息や﹂と申したまへば︑﹁例ならぬさまに聞きたてまつれば︑

参りはベるを︑中宮の

風にや︑ここにも

悩ましうて暮らしはベりぬるを︑つとめてのほどにためらひて参らむ︒暑きほどは︑しばし出でさせたまひても休

ませたまへかしと思ふを︑例の御暇ゃありがたからむ﹂などぞ聞こえさせたまへば︑御答へして立ちたまひぬ︒

③は︑春巻末尾で︑苔の衣大将が参内する前に両親のもとへ挨拶に訪れる段である︒我が子のすばらしい姿を﹁うち笑

みて﹂見守る両親の様子が語られ︑姉藤査中宮への伝言を尋ねて︑父から﹁例の御暇ゆるしがたき御事にてやと心苦しく

こそ侍れ﹂と返事を得ているが︑これも引用である︒﹃苔の衣﹄の﹁日高く﹂と︑﹃狭衣物語﹄の﹁夕さり﹂という時間の

設定などに異なる点はあるが︑③で参内する前に挨拶に訪れた狭衣を前にして︑堀川関白はその姿をすばらしいと感じな

がら︑﹁うち笑みて﹂見守り︑﹁中宮の御かたに御消息や﹂という問いかけに対して︑

しばし出でさせたま

ひても休ませたまへかしと思ふを︑例の御暇ゃありがたからむ﹂と返答するというあり方は同じである︒参内前の両親へ

の挨拶は︑当然なされる行為だろうが︑会話を展開させていく方向性や表現内容まで似ていることから︑これも﹃狭衣物

語﹄取りの一例と見て良いだろう︒

この②@ほどの言葉の対応は見られないが︑この他にも︑両親が息子に対して常に心配りし︑溺愛しているという様子

は︑二つの物語に共通してしばしば描かれている︒親子の情愛表現まで﹃狭衣物語﹄に依拠しているわけである︒

他に︑﹃狭衣物語﹄の歌ことばを引用したものと思われるものもある︒

④ 

﹁はかなき心の中をかくとも知られでもの思ふ人やはある︑いかなる前の世の契りにてかう人知れず心を砕きつ

よしなしごとにより︑さばかりめでたき御身を︑﹁室の八島の煙ならでは﹂とおぼしこがるるさまぞ︑

(8)

V

b

かくばかり思ひこがれて年経やと室の八島のけぶりにも間へ

④は︑苔の衣大将が︑西院の姫君を垣間見した後︑﹁室の八島の煙だに燃え出でざらん﹂とその姿を反努し︑

白できない心情を語るものだが︑これは︑④

a

や④bの狭衣が源氏の官への恋い焦がれる心を象徴的に表現する際に用い

る歌ことばを使用している︒入内が決まった源氏の宮に対する思いや叶わない恋のつらさなど︑狭衣が抱いていたもの

︿ 注 9

を︑苔の衣大将にも抱かせているのである︒これ以外に︑歌ことばの引用として﹁武蔵野のゆかり﹂があげられる︒

さるままには︑武蔵野の宰相の中将をありしよりけに懐かしく語らひて明かし暮らし給へど︑御心の中を知り

思いを告

⑤ 

⑤ ⑤ 

宰相中将はいと懐かしくおぼえ給ふも︑武蔵野のゆかりはせめてのこととあはれなり︒

﹁いでや︑武蔵野の夜の衣ならましかば︑げに替へまさりにもやとおぼえまし﹂と︑思ひぐまなき心地すれど︑

いたうかしこまりて

紫の身のしろ衣それならば乙女の袖にまさりこそせめ

⑤の﹁武蔵野のゆかり﹂は﹃古今集﹄﹃伊勢物語﹄にあり︑﹁紫のひともとゆゑに武

蔵野の草はみながらあはれとぞ見る﹂の和歌に拠るものである︒⑤の﹁武蔵野﹂はa

b

ともに︑西院の姫君の長兄の宰

相中将︵八主要人物関係図﹀では中納言︶を指し︑苔の衣大将が用いる表現である︒@の﹁武蔵野﹂は︑女二の宮の降嫁を促

﹁いでや︑武蔵野の夜の衣ならましかば﹂と源氏の官を指して用いた表現である︒それぞれ﹁武蔵野のゆ

かり﹂として示される対象は異なり︑特に﹃狭衣物語﹄を言わなくてもよさそうだが︑西院の姫君と源氏の宮という思い

人に関わる際に︑男主人公が用いる言葉であるという点から︑﹃狭衣物語﹄を介していると解釈したい︒

以上にあげたように︑苔の衣大将には狭衣が投影されていることが分かる︒それは︑両親との関係から︑恋する女性と

(9)

の関係にまで及んでいる︒﹃苔の衣﹄と﹃狭衣物語﹄は︑男主人公を取り巻く人物構成が酷似しているのである︒両物語

六 ︒

1

で対応する人物関係を図示すると次のようになる︒

寸前斎宮

西

l西

一 一

白 別 干 崩 干 坊

主!=ア市干両

首 | 関 ! の

| 白 | 上

源 , | 紘

l

??ここ=附宮 , . . . ̲  

これらの共通点は以下のように指摘できる︒

まず︑両親が関白と前斎宮であることが共通している︒

藤原氏出身の関白ではなく︑苔の衣大将の父関白は

﹁今日明日ただ人になりたるといふばかりこそ﹂︵夏巻九三頁︶

堀川関白も﹁一条院︑当帝などの

一つ后腹のこの御子﹂で︑母親も皇族の血を引いているという設定となっている︒つまり︑皇族出身の関白であるという

点まで一致するのである︒また︑理想的な男君と若く見える愛情豊かな母親という関係も同じであった︒その他︑姉妹が︑

︵ 注

M

当帝の中宮であることや︑最愛の女性︵西院の姫君・源氏の宮﹀が母方の従姉妹にあたることなどが︑共通点としてあげ

られる︒﹃苔の衣﹄では第一世代・第二世代の構図を︑まるごと﹃狭衣物語﹄から写し取っていることになる︒

このように﹃狭衣物語﹄を大胆に摂取することによって︑﹃苔の衣﹄

と関白夫妻の親子の愛情のあり方をも補強している︒主題の根幹となる

ることでより確実なものとしているのである︒ の世代聞のつながりに骨格を与えて︑苔の衣大将

﹃狭衣物語﹄を引用す

(10)

三︑苔の衣中宮と兵部卿宮の場合

﹃苔の衣﹄冬巻では︑玄口の衣大将の出家後の世界︑すなわち︑彼の子供である苔の衣中宮らの第三世代の物語が描かれ

ている︒その中で︑男主人公の座を担うのは兵部卿宮である︒

ぞよく通﹂う人物で︑元服時には

光 丘き蔀

昔 宮う 卿

査は

官 の

苧 衣え +

主将

~~

..

2

.

~ 7~

__,_..、

将 「の 御

姿 叔

を 父引 の

写 納き 大

t

し 言

t

した人物として設定されている︒また︑苔の衣大将造型の場合と同様に︑兵部卿宮造型も狭衣像に依拠している︒

ここでは︑この兵部卿宮に焦点をあて︑第三世代︑冬巻における﹃狭衣物語﹄の摂取のありょうを整理したいと思う︒

まず︑兵部卿宮と苔の衣中宮の関係を見ていく︒この二人の関係には︑狭衣と源氏の宮の関係が摂取されているようで

⑥ ⑥ 

姫君なんどもものし給はねば︑ただ大将の姫君を実の妹背のやうに思ひ交はし給ひたり︒

O

よその人々︑帝︑春宮も︑ひ

O

頁 ︶

@は藤査中宮に引き取られた苔の衣中宮が︑兵部卿宮と﹁まことの妹背﹂として育てられたという表現であり︑⑥の狭 二葉より露ばかり隔つることなく生ひたちたまひて︑親たちをはじめたてまつり︑とつ妹背と思しおきてたるに︑

衣と源氏の官が﹁ひとつ妹背﹂として扱われているという表現と対応している︒この用例は両作品に限らず使用されてい

るが︑女君が母方の従妹にあたり︑入内を望まれていることまで一致させており︑﹃狭衣物語﹄の引用の一例と解せよう︒

以下︑兵部卿宮と苔の衣中宮の関係に︑狭衣と源氏の宮の関係が具体的に引用されている例を検討する︒

入内を直前にした苔の衣中宮に︑兵部卿宮がその思いを打ち明ける段である︒⑦はその発端となる︑男君

が女君のもとへ出向く場面である︒

~- ノ 、

(11)

」 」

ノ 、

⑦ 

弥生の十日ごろ南殿の桜常よりもおもしろきを︑宮一人見給ふも飽かず息されて︑一枝折りて姫君の御方へもて

⑦ 

O

池の水際の八重山吹は︑井手のわたりにことならず見渡さるる夕映えのをかしさをひとり見たまふも飽かねば︑

侍童のをかしげなるして︑一枝折らせたまひて︑源民の宮の御方に持て渡り参りたまへれば︑

の︑﹃狭衣物語﹄冒頭部分の⑦﹁ひとり見たまふも飽かねば﹂

一枝折りて姫君の御方へもて渡﹂るという描写は︑桜と山吹の差はあるもの

﹁一枝折らせたまひで︑源氏の宮の御方に持て渡り参りた

ま﹂うという描写の引用である︒折りとった花の枝に︑秘めた思いを記すことも同じである︒

次の⑧⑨は︑兵部卿宮が︑苔の衣中官に思いを打ち明ける場面である︒

⑧ 

すこし起上がりて取り給へる手つきなど︑警へんかたなく美しげなるに︑忍び難くて︑

人知れず思ひ忍びて今日やさは深き心の程を知らせん

とて御腕をとらへつつゆるしきこえ給はねば︑

O頁 ︶

年頃思ひ結ぼほれつる心の中の解け難さをいとよく言ひ続け給ひっつ︑鎮め難げなる御気色をただひたぶるに恐

ろ以心配劃

MU

覧 刻

総 以

︒ ﹁

い れ

同 州

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州 叫

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劉 引

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計 何

州 制

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州 割

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刻 叫

み 割

引 凶

る よ ⑨ 

・ ・ ・ ・

・ ・

O頁 ︶

﹁御腕をとらへつつ﹂歌を詠みかけるのに対し︑苔の衣中宮は︑⑨で﹁ただひ⑧で︑兵部卿宮が﹁忍び難く﹂なって︑

たぶるに恐ろしく疎ましく覚え﹂て︑﹁かばかりの心の隔て多くものし給ひける人を何心なく打ちとけ聞こえてのみ過ご

しけるよ﹂と思っている︒この両者のありょうは︑狭衣が源氏の宮へ思いを打ち明ける場面の引用である︒

⑥あひなうひとつ心なる心地して︑目とどまる所々多かるに︑え忍びたまはで︑﹁こはいかが御覧ずる﹂

とてさし

(12)

よしさらば背のあとをたづね見よ我のみまよふ恋の道かは

﹁あやし﹂とおぼすに︑御手をさへとらへて︑袖のしがらみせ

きやらぬ気色なるに︑官いとあさましう恐ろしうなりたまひて︑やがてとらへたまへる御腕にうつぶし臥したまひ

ぬる気色の︑言ひ知らぬものにとらへられたらむやうにおぼしたるも︑

⑨ 

l

誰よりもなつかしく思ひて︑明け暮れさしむかひて過ごしけるよ﹂

と︑うとましう恐ろしきにも︑さるべき人々の御あたりならで生ひ出けるを︑あはれにお.ほししられて︑

源氏の宮への思いを﹁え忍びたまはで﹂︑﹁御手をさへとらへて﹂一授をこぼす狭衣の姿に︑打ち明けられた当人は﹁いと

あきましう恐ろしう﹂感じ︑

誰よりもなつかしく思ひて︑明け暮れきしむかひ

て過ごしけるよ﹂と思っている︒

過去の親眠に対する嫌悪感など︑表現のあり方までそっくり

こうした女君の反応に対する男君の様子も︑両物語では同じである︒

﹁見ず知らざらむ人のやうに︑いとかくまで思さるべきことかは﹂

⑩ 

O頁 ︶

かばかりをだに恐ろしとおぼしたること﹂と︑泣く泣く恨みたまふほど

兵部卿宮は﹁見ず知らざらむ人のやうに・:﹂と嘆き︑狭衣は﹁むげに御覧じ知らざらむ人のやうに:・﹂と泣く泣く恨ん

でいる︒苔の衣中宮が﹁かばかりの心の隔て多くものし給ひける人﹂とし︑源氏の官︑が﹁かかる心おはしける人﹂と把握

したのとまさに対応しているわけである︒

以上のように︑⑦J⑮の﹃苔の衣﹄の一連の場面は︑花の枝を折って対面する発端から︑男君の思慕告白︑対する女君

~

(13)

の反応︑それを受けて男君がかきくどくまで︑内容のみならず表現のありょうまで︑一貫して﹃狭衣物語﹄を引用してい

右のような引用のあり方は︑場面取りとして把握できるが︑歌ことばの引用も見られる︒苔の衣大将も使用した﹁室の る ︒

八島の煙﹂の引用である︒

⑪ 

心憂き﹁室の八島の煙﹂ほのめかし初め給ひて後は︑

⑪ 

思ひ染め給ひにし﹁室の八島の煙﹂を思し出づるには︑

⑪の﹁室の八島の煙﹂という苔の衣中宮への思慕を表現する歌ことばは︑兵部卿官によって︑a

bのように繰り返し

使

狭衣が源氏の官への思慕を語る時に使用される鍵語であった︒

を鍵語にした歌のやりとりがないにもかかわらず︑兵部卿官から苔の衣中宮への思

慕を象徴する言葉として用いられるのは︑やはり﹃狭衣物一詰﹄を踏まえているからなのであろう︒ここでも苔の衣大将の

場合と同様に︑狭衣の象徴的な歌ことばを用いることによって︑その思いの深さや恋のつらさまでを︑兵部卿官に踏襲さ

﹃狭衣物語﹄取りの場面をあげよう︒兵部卿宮と苔の衣中宮の決定的な別離を語る段で

⑫ 

御車寄せたれば︑︹乗りにおはするを︑︺御衣の裾をやをら控へ給ひて︑

今はとて別れ果てなば同じくは命もともに限りてしがな

とて忍びかねっついみじう泣き給ふ御気色・:

⑫時になりて御車寄せつれば︑

またも見たてまつるまじき人のやうに︑限りの心地したまひて︑あまた立ち重なり

たる御凡帳に紛れ寄りて︑御衣の裾を引きとめたまへり︒:ハ略︶:

(14)

今日やさはかけ離れぬる木綿棒などそのかみに別れざりけな

とて︑扇を持たせたまへる御手をとらへて泣きたまふさまいみじげなり︒

入内か御棋の時かという違いはあるが︑ともに︑女君が手の届かない存在となって︑別離が決定的となる場面である︒

いよいよ車に乗ろうとする女君に対して︑男君は思いが叶うことのない絶望感から︑

に歌を一詠みかけるという次第になっており︑この場面は両物語とも同じである︒この⑫や⑦から⑩のように︑冬巻の中で

も大きな盛り上がりを見せる場面で︑これだけ大規模な﹃狭衣物語﹄取りがなされていることは︑注目すべき点である︒

兵部卿官の場合は︑苔の衣中宮と密通を犯し︑東宮出生となるが︑ここからは︑狭衣と女二の官の場合を摂取していく

ょうである︒兵部卿宮が︑我が子を生んだ苔の衣中宮に思いを訴えかけて詠んだ贈歌︑⑬﹁種蒔きし人を忘るな雲居まで

生ひ上るべき峰の若松﹂︵冬巻二二八頁︶は︑女二の宮の密通によって生まれた若宮を見て︑母皇太后官が詠んだ︑⑮﹁雲

居まで生ひのぼらなむ種まきし人も尋ねぬ峰の若松﹂︵巻二・一八一一良︶を踏まえたものである︒﹁種蒔きし人﹂は男主人

公を︑﹁峰の若松﹂は生まれたばかりの若宮を指している︒﹁雲居まで生ひ上﹂るという表現も引用されており︑詠み手と

歌の意味の働く方向は異なるが︑兵部卿宮と苔の衣中宮の関係に︑狭衣と女二の宮の関係も摂取されていることは否定で

の柏木と共通する要素も多い︒高位の男性と結婚して手の届かない存在となった女君

と密通し︑子供の出生となることや︑嘆きから病の床について︑死去し︑その後に霊となって現われる等である︒明らか

に︑兵部卿宮と苔の衣中宮の関係性には︑柏木と女三の宮の関係性が摂取されている︒密通と不義の子出生という展開

は︑おのずと柏木の場合に連なるが︑﹃苔の衣﹄は︑狭衣をまず踏襲するわけである︒

以上のような﹃狭衣物語﹄取りを分かりゃすく図に整理すると︑︹人物関係図

2

(15)

2

「 一 「 前

口 斎

! ?  

J

氏 \ 衣

苔の衣大将だけではなく︑兵部卿官にも︑また別個に狭衣の投影がなされているのである︒しかも︑兵部卿宮と苔の衣

中官の関係は︑狭衣と源氏の宮の関係と︑狭衣と女二の官の関係がないまぜになって摂取されていると言﹀える︒狭衣と女

二の宮の関係を取り込んだことにより︑二人の子供である東宮の存在までもが︑﹃狭衣物語﹄取りとなっているのである︒

狭衣と源氏の宮との関係性から︑第二世代と第三世代の骨格を補強し︑狭衣と女二の宮との関係性から︑第三世代と第四

世代の枠組みを強化しているのである︒

また︑狭衣が我が子に向ける愛情は︑女ニの宮腹の若宮を可愛がる様子から明確である︒

兵部卿宮が

東宮に接して示す愛情は描かれることはなかったが︑親としての愛情は︑狭衣を引用することで暗示しているのだと思わ

れる︒源氏の宮や女二の宮との関係を二重に摂取していくことによって︑

を与え︑同時に︑親子の愛情の深さを補強しているのである︒

の主題の根幹となる親子関係の骨格

四︑住吉の姫君と兵部卿宮の場合

兵部卿宮の狭衣引用は︑住吉の姫君との関係にも及んでおり︑狭衣と飛鳥井女君との対応関係が見られる︒流離する場

所が住吉であるなど︑﹃住吉物語﹄からの摂取も多く見られるが︑﹃狭衣物語﹄からの摂取も顕著である︒

まず︑二人の女性とも身分が低く︑流離する宿命の女性であることを確認しておく︒住吉の姫君は︑式部卿宮の北の方

(16)

のいじめを理由に︑自発的に家を出て︑住吉に流離する︒飛鳥井女君は︑乳母の好計によって連れ出されての流離で︑そ

の理由に違いはあるが︑二人とも愛する人との仲を裂かれ︑懐妊の身で流離するという点で共通している︒

⑭は︑住吉の姫君の懐妊が分かり︑身を寄せていた乳母の家へ︑兵部卿官が訪れた場面である︒

道の程いたく濡れにけりと見ゆるに︑伏せ屋の中はいとど所狭げなる御匂ひも我が身に染みぬる心地するに︑

⑭ 

O

頁 ︶

雨にさへいたうそぼちて︑にほひばかりはいとところせきまでくゆりみちたるを︑

⑭では︑兵部卿宮は雨に濡れており︑﹁いとど所狭げ﹂に匂いが満ちている︒この契りの場所は﹁伏せ屋﹂とされてい

る︒この表現は︑⑪の狭衣と飛鳥井女君の逢瀬の際︑雨に濡れてところ狭しと匂い満ちた狭衣の描写を引用している︒ま

た︑飛鳥井女君が狭衣のすばらしさに気後れし︑﹁かかる伏屋の下をさへ教へたてまつるも・:﹂︵巻一・六三頁﹀と︑我が

彼女の住居が

を思わせていることも引用している︒男君の高貴さの象徴である﹁匂ひ﹂

と︑女君の身分の低さの象徴である﹁伏屋﹂とを対比させることで︑二人の間にある身分差を描き出すことまでも共通し

また︑次の兵部卿官と住吉の姫君の贈答は︑﹃狭衣物語﹄における︑狭衣と飛鳥井女君の贈答を引用している︒

飛鳥川明日を逢ふ瀬と思ふにも夜の隔てに身ぞ浮きぬベき︵兵部卿宮﹀

宵の聞に流れ果てなば飛鳥川明日の逢ふ瀬を誰か待つべきハ住吉の姫君︶

飛鳥川あす渡らむと思ふにも今日のひるまはなほぞ恋しき︵狭衣﹀

渡らなむ水まさりなば飛鳥川あすは淵瀬となりにこそすれ︵飛鳥井女君︶ ⑮ 

⑮ 

無常感を漂わせつつも︑

は逢瀬を約束した﹁あす﹂を導き出すことに機能し︑ともに

(17)

兵部卿宮と住吉の姫君の関係は︑⑪逢瀬や⑮贈答から︑別れに至るまで﹃狭衣物語﹄を引用している︒住吉の姫君が出 奔を決めて︑⑮﹁掻き集むるその水茎を見る度に置き所なく悲しさぞ増す﹂

兵部卿官の文反故

を見て一択を流すという描写がある︒これは︑飛鳥井女君が狭衣笠一を手にし︑そこに書かれた﹁真名仮名など﹂の水茎の 跡を見て﹁いかでか悲しとおぼえざらむ﹂という描写の引用だと思われる︒住吉の姫君は出奔を決意して︑この独詠歌を 涙ながらに詠み︑飛鳥井女君は連れ出された後︑事の真相に気付いて一蹴するのである︒二人の置かれた状況は異なるが︑

別離が決定的になることを悟った女君が︑男君の思い出となる

また︑男君と別離が決定的になった後︑女君が出家を決意する点でも引用が見られる︒

⑪  かばかり思ふべき人もふり捨てて︑﹁見えぬ山路﹂に思し立つなりけり︒

住吉の姫君は︑生まれたばかりの我が子を見守りつつも︑

は︑@﹁いかなりとも頼むべき有様ならばこそあらめ︒見えぬ山路のみこそよからめ﹂︵巻一・九二頁︶と︑

︵出家﹀を決意しているのである︒

飛鳥井女君

出家を思い

立つのである︒子供まで成しながら男君と別れ︑流離しなくてはならない身の上を嘆き︑出家を志す女君の姿は︑両物語 以外にもあるだろうが︑﹁見えぬ山路﹂という言葉を象徴的に使用していることから︑ここは﹃狭衣物語﹄からの引用と

住吉の姫君が飛鳥井女君を摂取して描かれている点は︑男君との関係だけでなく︑その遺児にも及んでいる︒⑬の用例 は︑女君が男君の夢枕に立った際に残した和歌と言葉である︒

@ 

﹁飽かでのみ逢ふ瀬絶えにし悲しさに渡川にて君を待つかな

ものはかなげにて生ひ立ち給ふ人の行方︑必ずは尋ね取り給へ﹂

R' 

行くへなく身こそなりなめこの世をばあとなき水を尋ねても見よ

(18)

⑬は︑住吉の姫君が兵部卿宮の夢枕に立った際に遺した言葉である︒この時︑住吉の姫君は出家を終え︑すでに死去し

ていた︒独詠歌で自分の死を知らせ︑﹁必ずは尋ね取り給へ﹂と遺した子供の行く末をはっきりと男君に託している︒⑬

の歌を詠んだ飛鳥井女君は︑まだ乳母の好計によって連れ出される前であり︑お腹の大きい姿で狭衣の夢枕に立ってい

る︒これは︑女君の将来を暗示し︑懐妊を知らせる夢告である︒女君が置かれた状況は大きく異なるが︑男君の夢枕に立

ち︑自分の行方を示し︑子供の行く末を託すというあり方は︑﹃狭衣物語﹄の引用と言える︒

これ以外にも︑子供の性別の違いはあるものの︑男君が遺児のことを﹁忍草﹂と称している点︵⑩︶も︑周到に引用し

ている︒また︑遺児の生まれが菅木伝説を受けていることも共通している︒

⑮ 

紛れ所なくうつくしくて︑かかる伏屋の中に生ひ出で給ふもまことにそら恐ろしきまで見え給へば︑

⑮ 

后も︑﹁かばかりになり給ふまで怪しの伏屋に生ひ立ち給ひけるよ﹂と悲しくて泣かせ給ふ︒

 

﹁東のかたへなど聞きし︒もしさもあらば︑伏屋にや生ひ出でむ﹂など︑なほ心にかかりで︑わが宿世のほど口

@で︑子供が﹁伏屋﹂に生まれ出るという設定は︑飛鳥井女君の遺児の出生を踏まえており︑⑮の狭衣の独詠歌から導

き出されている︒これは﹃古今和歌六帖﹄の﹁その原や伏屋に生ふるははき木のありとて行けどあはぬ君かな﹂を踏まえ

て︑﹁ははき木﹂に﹁母﹂を︑﹁その原﹂に﹁腹﹂を掛け︑子供がいやしい﹁伏屋﹂で生まれることを示している︒つまり︑

住吉の姫君の遺児が流離した先で生まれるという設定は︑飛鳥井姫君がどことも分からぬところで生まれたという設定を

摂取していることになる︒男女の関係だけではなく︑子供との関係をも﹃狭衣物語﹄を摂取して描かれているのである︒

(19)

以上のように︑兵部卿宮と住吉の姫君との関係は︑狭衣と飛鳥井女君との関係を摂取していることが分かる︒用例⑭か

ら⑬は︑男女の関係を示すものだが︑⑬から@のように︑子供との関係を﹃狭衣物語﹄から摂取していることに注目した

ぃ︒その関係は︑︹人物関係図3︺のように整理される︒

3

I

住 兵

T I  

-~若

ア|飛鳥井姫君

ここでも︑﹃苔の衣﹄の主題の根幹をなす親子の関係は︑﹃狭衣物語﹄の摂取に依っている︒兵部卿官の父としての愛情

に︑狭衣の飛鳥井姫君への父としての愛情を重ねあわせることで︑より強く確かなものにしているのである︒そして︑前

掲⑬にあるように︑夢告の際︑飛鳥井女君が﹁行くへなく﹂の歌で︑﹁尋ねても見よ﹂と示したよりも︑住吉の姫君が﹁必

ずは尋ね取り給へ﹂と頼む﹃苔の衣﹄の方が︑より一層︑親の愛情の強さを意識化させている︒﹃苔の衣﹄の主題は︑﹃狭

衣物語﹄摂取によって補強され︑より明確に打ち出されているのである︒

兵部卿宮は︑苔の衣中宮・住吉の姫君の二人の女性と関わるが︑それぞれの関係には︑ともに﹃狭衣物語﹄の摂取がな

されている︒それは︑男女の関係だけでなく︑子供との関係にまで及んでいる︒苔の衣大将から兵部卿宮へ狭衣の投影を

ずらし︑源氏の宮との関係を摂取することで︑第二世代と第三世代をつないでいる︒また︑狭衣と女二の宮︑飛鳥井女君

の関係を摂取することで︑第三世代と第四世代をつないでいることになる︒つまり︑男女の関係や第二世代・第三世代の

﹃狭衣物語﹄の摂取で補強しながら︑第三世代と第四位代の親子の骨格を与え︑物語では描かれること

のない第四世代の存在を︑物語の中核をなすコ一世代の親子の枠組みに組み込んでいるのである︒そして︑第四世代とのつ

ながりをただ単に強めただけではなく︑狭衣親子のあり方を摂取することで︑主題に関わる兵部卿官の親子関係を確立さ

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