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音声言語の指導実践−話し合い活動について−
著者 小山 篤史
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 18
ページ 11‑17
発行年 1995‑03‑30
URL http://hdl.handle.net/10105/10654
音声言語の指導実践
‑話し合い活動についてー
小山篤史
はじめに
この数年︑音声言語の指導の重要性が盛んに問われ︑多くの研究︑
実践が報告されている︒﹁ディベート﹂などはテレビ番組などにも
とりあげられ︑教育現場においても音声言語の指導の一形態として
行われている最もポピュラーなものの一つであろう︒
では︑なぜこれほどまで音声言語の指導がにわかに問われるよう
になったのであろう︒生徒達を見ていると︑よくしゃべる︒昨日の
テレビのこと︑友達のこと︑クラブのこと︑塾でのこと⁝等など実
にいろいろなことを際限なくしゃべっている︒しかし︑ひとたび授
業にはいり自分の思いや意見を求められても︑なかなか話すことが
できない︒おしゃべりはよくするが︑あらたまった場になると話す
ことができないのである︒このような現状に加え情報化・国際化が さけばれていることを考えれば︑音声言語の指導が重要視されるの
も当然のことであろう︒
今回の報告は︑奈良県国語教育研究会の研究委員(中学校の部)
として参加したなかで︑当研究会の研究主題﹁わかりやすく話すた
めの指導の工夫﹂の指導事例の一つとして行ったもので︑研究委員
による討議から得られた仮説に基づいた実践である︒
二実践指導例
(1)仮説
ひとりひとりが自分の意見を持って話し合いに参加するた
めには︑まず︑少人数のグループの中で意見を交換し合って
みることが有効ではないか︒
あらたまった場での話し合いの経験をほとんど持っていない生徒 ﹂﹁ヨ
たちに︑テーマ設定をして即座に話し合いを始めることは難しい︒
まず︑テーマに沿った各自の意見を持ち寄り︑少人数のグループの
中で意見を交わすことは︑テーマに対するより適切な意見(例えば︑
自分の意見を深める︑異なる意見を知る︑反論を予想できるなど)
を持つための一つの有効な手段であると考え︑この仮説を設定した︒
なお︑本指導案では︑パネルディスカッションという形態を取り
入れた話し合いを︑グループ討議のあとに設けている︒代表者(パ
ネラー)には︑一人ズツの相談役をおき︑反論の内容を検討したり︑
他の班による意見に対する分析をする助けとなるようにした︒また︑
この学習を通して︑話し合いにおける注意事項を認識させることも
意図した︒
(2)題材
生徒たちに︑話し合いたいテーマを挙げさせ︑最終的に﹁ヘルメ
ットは必要なのか﹂というテーマにしぼった︒本校においては︑通
学距離の遠近にかかわらず︑希望すれば自転車通学が許可される︒
そのため︑全校生の9割近くが自転車通学をしている︒しかし︑ヘ
ルメットの着用が義務づけられているにもかかわらず︑それが守ら
れていないのが現状である︒そのことを踏まえて︑改めてヘルメッ
ド着用の意義を考えさせ︑班ごとに根拠ある意見を発表させること
にした︒ (3)学習指導案(実施対象中学1年生)
a単元名わかりやすく話す
b題材名﹁ヘルメットは必要なのか﹂
c目標
・相手の立場や意見に配慮しながら︑自分の意見を言うこと
ができるようにする︒
相手の人格や見解を尊重する︒
話し合いにおける注意事項を考慮して話しをする︒
(4)指導計画(全5時間)
第1時登下校における現状をとらえて︑テーマに対する各自の
考えをカードに書く︒︽資料①︾
第2時6つの学習班に分かれて︑資料の収集や取材の準備をす
る︒
第3時収集した資料や取材結果をもとに︑テーマに対する討論
を班ごとに行い︑班としての意見や主張をまとめる︒
︽資料②︾
第4時各班の代表者と司会者(指導者)の計7名による話し合
いを行う︒代表者は︑各班1名ずつの相談役(代表者のす
ぐ後ろにいる)と発言内容の検討をすることができる︒話
し合いの後に︑評価力ードの評価項目に従って各自が評価 一
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一
する︒︽資料③︾(裏面に感想を書かせた︒)
第5時前時に記入した評価力ードの結果を各班で検討し︑話し
合いにおける反省点を考える︒
(5)授業記録(抜粋)
全部で6つの班に分かれての話し合いであるが︑その中で3班の
流れを追って抜粋した︒(司会者目司︑1〜6班代表者111〜6と
標記)
司⁝これから︑話し合いを始めます︒話し合うテーマは﹁ヘル
メットは必要なのか﹂です︒順に各自の班でまとめた意見を
述べて下さい︒
(中略)
3"3班の意見は︑ほとんどの人はかぶっていないのだから︑
ヘルメットは必要ない︒一人一人が気を付けて事故が起こら
ないようにすれば良いのだからヘルメットは必要ないと思い
ます︒
司"3班から初めて必要ないという意見が出てきました︒今の
意見に対しての反論は︑また︑後に聞きます︒それでは︑4
班のD君どうぞ︒
(中略)
司"3班を除いたーから6班まで︑すべての班が︑事故に遭っ たときのことを考えると︑やはり︑ヘルメットは必要だとい
うことですが︑その意見に対して︑3班としての反論はあり
ますか0
3"ヘルメットがあっても実際にT中学では︑かぶってない人
の方が多いので事故に遭ったら︑というわけでもないような
・(少し︑相談役と相談する︒)T中学ではかぶっていない
人の方が多いので︑かぶらなくても別に良いのではないかと
思います︒
司⁝3班の意見に対して6班はどうですか︒
6.命はひとつだから(ヘルメットは)必要です︒
司"2班はどうですか︒
2"安全だから︑ヘルメットはかぶったほうが良いです︒
司⁝他の班は︑安全のためにヘルメットは必要だという意見で
すが︑3班としてはどうですか︒
3.ヘルメットをかぶった方が良いと言っている班の場合も︑
ヘルメットをかぶっていない人がいるし︑ちゃんとあごひも
をしめていない人がいます︒それは︑どういうことですか︒
司"今の3班の意見に対して︑1班はどうですか︒
1.生徒指導のN先生に聞いたところ︑2割くらいがちゃんと
ヘルメットをかぶっていて8割がかぶっていないということ
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でしたけれども︑2割はちゃんとかぶって︑自分が怪我をし
ないようにしているのだから︑ヘルメットをなくして2割の
人もヘルメットをかぶらなくなったら︑そのかぶっていた人
が事故に遭ったら︑せっかくかぶっていたのに怪我をしたら
かわいそうだから︒
(後略)
(6)反省と課題
①テーマを設定するにあたり︑生徒たちから出されたテーマをい
くつかひろってみる︒例えば︑﹁なぜ中学校は弁当なのか﹂﹁な
ぜ勉強しなければならないか﹂﹁なぜ目上の人に敬語を使わなけ
ればならないか﹂﹁なぜ規則があるのか﹂といったものであった︒
この中で最も採用希望が多かったのは﹁,なぜ規則があるのか﹂で
あった︒これは日常の学校生活において関心の高いことの表れで
あろう︒しかし︑話し合いの題材としては抽象的すぎるので︑
﹁学校の規則︑特に自転車通学におけるヘルメット着用の規則に
ついて﹂と︑より具体化させたテー‑マを設定した︒
②テーマに対して︑まず各自の考えを事前力ードとして書かせた︒
班での話し合いにおいて︑各自が自分の意見を持ち︑その意見を
述べるためのカードであったが︑単に﹁格好悪い︑暑苦しい︑重
い﹂などといった自分本位の意見が多かった︒話し合いにおいて 聞き手を納得させるためには︑その意見の根拠が大切であり︑そ
の意見の根拠が自分本位の考えでは聞き手を納得させることは困・
難である︒そのため︑班での話し合いにおいては︑班の意見をさ
さえる根拠を考えるように指導した︒
③3班の場合︑他の班と同様に﹁頭が痛い﹂﹁暑い﹂﹁重い﹂と
いった意見が出されていたが︑事前力ードに﹁テーマに対して︑
君が見た事実はどうだったのか︒﹂という項を設けたことで︑
﹁かぶっていない人が多い﹂という事実が一致して出された︒こ
の点では︑事前カードを書かせることが︑自分本位の意見ではな
く客観的な事実を出しやすくすることに有効であったと思われる︒
④班による話し合いにおいて︑﹁班の意見︑意見の根拠︑予想さ
れる反論︑予想反論に対する反論﹂の四つの項目を設けた話し合
いカードを配り︑このカードをもとにして︑全体での話し合いに
臨んだ︒授業記録の抜粋を見ると︑3班の意見は﹁ほとんどの人
がかぶっていないから﹂ということを根拠に﹁ヘルメットは必要
ない﹂と主張している︒話し合いカードに班の意見とその根拠を
書かせたことが︑根拠とともに意見を述べる意識づけに役立った︒
ただ︑その根拠に具体的な例を挙げることができなかった︒
⑤反論を述べる段階においては︑他の班が︻,ヘルメットは安全性
の面から考えて必要だ﹂という意見で一致したのに対し︑3班だ 一
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一
けが意見を異にしていた︒このときの反論(﹁ほとんどの人がヘ
ルメットをかぶっていないので︑ヘルメットは必要ではない﹂)
は︑話し合いカードの予想反論にもとついたものであり︑事前に
少人数の班で意見交換したことが︑全体の話し合いの場で意見を
はっきりと述べることに有効であったと考える︒一方︑課題とし
ては︑反論︑反論に対する反論に具体例がほとんど挙げられてい
ないために︑その論に説得力が欠けている点である︒班の話し合
いにおいて出来る限り具体例となる資料の収集の時間を保証する
ことが重要であろう︒
⑥話し合いの後の評価カードの結果︑興味深い点が挙がった︒3
班の班員は自分たちの班の代表者による発表に対して︑﹁班の意
見を反映した意見を言えており︑また︑大きな声で言えていた﹂
という評価をする一方︑不満点として︑3班の出した反論にこた
えることができている他の班の反論がなく︑話し合いが白熱した
ものにならず︑表面的だったという意見が出されていた︒﹁ヘル
メットは必要である﹂という意見になった︑3班以外の班では︑
﹁ヘルメットの必要性に気付いた﹂﹁全員で話すことで︑他の人
の考えが分かりおもしろかった﹂といった意見が多かったことと
比較すると︑3班だけが話し合いの︑論の食い違いに注目してい
たことがわかる︒班で話し合ったときの結果を自分の意見として 持ちながら︑全体の話し合いを聞くことができたからこそ︑論の
くい違いを強く感じたと考えられる︒このことからも︑各自が自
分の意見を持って話し合いに参加するために︑まず少人数の班で
意見を交換することは有効であったと言えよう︒
(奈良市立都南中学校教諭)
トヨ