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RIETI - 租税条約仲裁の国際法上の意義と課題-新日蘭租税条約の検討-

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RIETI Discussion Paper Series 11-J-036

租税条約仲裁の国際法上の意義と課題

−新日蘭租税条約の検討−

小寺 彰

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RIETI Discussion Paper Series 11-J-036

2011 年 3 月

租税条約仲裁の国際法上の意義と課題

-新日蘭租税条約の検討- 小寺 彰(東京大学・経済産業研究所) 要 旨 2010 年 8 月に署名された新日蘭租税条約はわが国が仲裁規定(租税条約仲裁)をお いた初めての租税条約である。この仲裁制度の特色は仲裁を相互協議手続の一環として 位置づけたもので、2008 年 OECD モデル租税条約に倣ったものだ。本稿では、まず、 租税条約仲裁の歴史を概観し、そのうえで、仲裁制度と主権(主権問題)、日蘭租税条 約上の仲裁の特色を検討したうえで、同条約上の仲裁手続の分析に移り、透明性、条約 解釈規則、仲裁の監督の観点から問題点を摘出し、改善を促す提案を行う。最後に、こ うした理論的、制度的整理を踏まえて、わが国がOECD モデル租税条約を扱う際に注 意すべき点を示す。 キーワード:仲裁、相互協議、主権、透明性、条約解釈規則、仲裁の監督 RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な議論を喚起 することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、(独)経済 産業研究所としての見解を示すものではありません。

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*1 The 2008 Update to the Model Tax Convention(adopted by the OECD Council on 17 July 2008) *2 た と え ば 、 川 端 康 之 「 国 際 課 税 に お け る 代 替 的 紛 争 解 決 モ デ ル 序 説 - 租 税 仲 裁 手 続 を 中 心 に - 」総 合 税 制 研 究 3 号( 1995)61 頁 以 下 、赤 松 晃「 O E C D モ デ ル 租 税 条 約 25 条 5 項 に 導 入 さ れ た 仲 裁 規 定 の 意 義 - OECD の 事 例 検 討 を 手 掛 か り に - 」国 際 課 税 2010 年 5 月 号 222 頁 以 下 、 村 井 正 「 租 税 条 約 を め ぐ る 紛 争 解 決 の あ り 方 - 仲 裁 手 続 の 導 入 を め ぐ っ て - 」 税 務 広 報 39 巻 12 号 ( 1993) 6 頁 以 下 、 駒 宮 史 博 「 租 税 条 約 に 係 る 紛 争 処 理 制 度 の た め の 比 較 研 究 」 ジ ュ リ ス ト 1257 号 ( 2003) 113 頁 以 下 が あ る 。 *3 WTO 紛 争 処 理 手 続 に つ い て は 、小 寺 彰『 WTO 紛 争 紛 争 処 理 手 続 の 法 構 造 』( 2000)87 頁 以 下 参 照 。 *4 投 資 協 定 仲 裁 に つ い て は 補 章 参 照 は じ め に

2008 年 の OECD モ デ ル 租 税 条 約( Model Tax Convention)の 一 部 改 訂*1に よ っ て 、

モ デ ル 租 税 条 約 に 仲 裁 規 定 が 導 入 さ れ 、 そ れ を 受 け て 日 本 で も 昨 年 ( 2010 年 ) 署 名 さ れ た 「 所 得 に 対 す る 租 税 に 関 す る 二 重 課 税 の 回 避 及 び 脱 税 の 防 止 の た め の 日 本 国 と オ ラ ン ダ 王 国 と の 間 の 条 約 」( 新 日 蘭 租 税 条 約 ) に は 仲 裁 規 定 が 盛 り 込 ま れ た 。 租 税 条 約 に 仲 裁 規 定 を 盛 り 込 む 例 は わ ず か で は あ っ た が 第 2 次 大 戦 前 か ら あ っ た 。し か し 、日 本 で は そ の よ う な 動 き は 従 来 ま っ た く な く 、OECD モ デ ル 租 税 条 約 で の 仲 裁 制 度 の 採 用 が 切 っ 掛 け に な っ て 実 現 し た 。 OECD の 作 業 開 始 当 時 は 仲 裁 の 採 用 に 消 極 的 だ と 言 わ れ た 日 本 も 、 2008 年 に OECD が モ デ ル 租 税 条 約 中 に 仲 裁 規 定 を 採 用 す る に 至 っ て 、 新 日 蘭 租 税 条 約 に お い て OECD モ デ ル 租 税 条 約 と 同 趣 旨 の 仲 裁 規 定 を 置 い た 。 OECD モ デ ル 租 税 条 約 が 下 敷 き に な っ て い る 以 上 、 今 後 西 欧 先 進 国 と の も の を 中 心 に 租 税 条 約 を 改 定 す る 際 に は 仲 裁 規 定 が 置 か れ る こ と が 予 想 さ れ る 。 租 税 条 約 上 の 仲 裁 ( 以 下 「 租 税 条 約 仲 裁 」 と い う ) に つ い て 租 税 法 学 者 か ら の 検 討 評 価 は あ る が*2 、 国 際 法 研 究 者 か ら の 検 討 は 寡 聞 に し て 聞 い た こ と が な い 。 し か し 、 租 税 条 約 は い う ま で も な く 国 際 条 約 で あ り 、 国 際 法 学 で は 古 く か ら 紛 争 処 理 論 が 重 要 な ト ピ ッ ク で あ り 、「 国 際 仲 裁 裁 判 」( 後 述 ) と 呼 ば れ る 制 度 も 広 く 知 ら れ て き た 。 国 際 法 上 の 紛 争 は 交 渉 ま た は 協 議 に よ っ て 処 理 さ れ る の が 通 常 の 姿 で あ っ た が 、 最 近 で は 、 国 際 裁 判 等 の 公 平 な 第 三 者 紛 争 処 理 手 続 に 付 さ れ る も の が 多 く な っ て い る 。 典 型 例 は WTO 紛 争 処 理 手 続*3 で あ り 、 ま た 投 資 協 定 仲 裁*4 で あ る 。 国 際 法 学 で は 、 国 際 裁 判 等 の 公 平 な 第 三 者 紛 争 処

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*5 小 寺 彰 「 国 際 社 会 の 裁 判 化 」 国 際 問 題 597 号 ( 2010 年 12 月 号 ) 1 頁 以 下 参 照 。 な お 、 同 号 に は 、 国 際 司 法 裁 判 所 、 海 洋 紛 争 、 WTO 紛 争 解 決 手 続 、 投 資 協 定 に つ い て 、 裁 判 化 の 諸 相 を 論 じ た 論 稿 が 含 ま れ て い る 。 理 手 続 の 利 用 が 盛 ん に な っ た こ と は 、 国 際 社 会 に お い て 「 司 法 化 」 乃 至 「 裁 判 化 」 の 発 展 と 評 価 さ れ て い る*5 。 租 税 条 約 仲 裁 の 採 用 も そ の 一 環 の よ う に 位 置 づ け ら れ る の だ ろ う か 。 ま た 租 税 協 定 仲 裁 は 、 ど の よ う な 制 度 と 考 え れ ば い い の だ ろ う か 。 例 え ば 、 従 来 か ら 知 ら れ て い る 国 際 仲 裁 裁 判 と 同 じ 法 的 性 質 を も つ も の だ ろ う か 。 本 稿 で は 、 新 日 蘭 租 税 条 約 を 材 料 に し て 、 国 際 法 の 観 点 か ら 租 税 条 約 仲 裁 を み た と き に ど の よ う な 特 色 が あ る か を 検 討 し 、 そ の 意 義 と 課 題 そ し て 将 来 の 方 向 性 を 考 え よ う と 思 う 。 Ⅰ . 租 税 条 約 仲 裁 の 意 義 - 新 日 蘭 租 税 条 約 仲 裁 を 例 と し て - 1 . 新 日 蘭 租 税 条 約 仲 裁 の 概 略 ( 1 ) 新 日 蘭 租 税 条 約 2 4 条 新 日 蘭 租 税 条 約 に お い て 仲 裁 を 規 定 す る の は 2 4 条 で あ る 。 2 4 条 相 互 協 議 手 続 5 (a)一 方 の 又 は 双 方 の 締 約 国 の 措 置 に よ り あ る 者 が こ の 条 約 の 規 定 に 適 合 し な い 課 税 を 受 け た 事 案 に つ い て 、1 の 規 定 に 従 い 、当 該 者 が 一 方 の 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 に 対 し て 申 立 て を し 、 か つ 、 (b)当 該 一 方 の 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 か ら 他 方 の 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 に 対 し 当 該 事 案 に 関 す る 協 議 の 申 立 て を し た 日 か ら 二 年 以 内 に 、 2 の 規 定 に 従 い 、 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 が 当 該 事 案 を 解 決 す る た め に 合 意 に 達 す る こ と が で き な い 場 合 に お い て 、当 該 者 が 要 請 す る と き は 、 当 該 事 案 の 未 解 決 の 事 項 は 、 仲 裁 に 付 託 さ れ る 。 た だ し 、 当 該 未 解 決 の 事 項 に つ い て い ず れ か の 締 約 国 の 裁 判 所 又 は 行 政 審 判 所 が 既 に 決 定 を 行 っ た 場 合 に は 、 当 該 未 解 決 の 事 項 は 仲 裁 に 付 託 さ れ な い 。 当 該 事 案 に よ っ て 直 接 に 影 響 を 受 け る 者 が 、 仲 裁 決 定 を 実 施 す る 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 の 合 意 を 受 け 入 れ な い 場 合 を 除 く ほ か 、 当 該 仲 裁 決 定 は 、 両 締 約 国 を 拘 束 す る も の と し 、 両 締 約 国 の 法 令 上 の い か な る 期 間 制 限 に も か か わ ら ず 実 施 さ れ る 。 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 は 、 こ の 5 の 規 定 の 実 施 方 法 を 合 意 に よ っ て 定 め る 。 こ れ は OECD モ デ ル 租 税 条 約 25 条 5 項 を そ の ま ま 採 用 し た も の で あ る 。 念 の た め 同 5 項 を 挙 げ て お く 。

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*6 金 子 宏 「 相 互 協 議 に お け る 権 限 あ る 当 局 者 間 の 合 意 の 効 力 」『 租 税 法 理 論 の 形 成 と 解 明 』( 2010)所 収 239 頁 、伊 藤 剛 志「 相 互 協 議 に 関 す る い く つ か の 問 題 」RIETI Discussion Paper Series 10-J-053(2010)参 照 。

5. Where, a) under paragraph 1, a person has presented a case to the competent authority of a Contracting State on the basis that the actions of one or both of the Contracting States have resulted for that person in taxation not in accordance with the provisions of this Convention, and b) the competent authorities are unable to reach an agreement to resolve that case pursuant to paragraph 2 within two years from the presentation of the case to the competent authority of the other Contracting State, any unresolved issues arising from the case shall be submitted to arbitration if the person so requests. These unresolved issues shall not, however, be submitted to arbitration if a decision on these issues has already been rendered by a court or administrative tribunal of either State. Unless a person directly affected by the case does not accept the mutual agreement that implements the arbitration decision, that decision shall be binding on both Contracting States and shall be implemented notwithstanding any time limits in the domestic laws of these States. The competent authorities of the Contracting States shall by mutual agreement settle the mode of application of this paragraph.1

以 上 の 規 定 は 次 の よ う に 要 約 で き る 。 ① 相 互 協 議 の 申 立 て か ら 2 年 以 内 に 権 限 の あ る 当 局 間 で 合 意 に 達 し な い 場 合 に は 、 そ の 時 点 で 国 内 の 裁 判 所 又 は 行 政 裁 判 所 が 決 定 を 下 し て い な い 事 項 に つ い て は 、 納 税 者 の 申 請 に よ っ て 未 解 決 の 問 題 を 仲 裁 に 付 託 で き る 。 ② 相 互 協 議 の 申 立 て を 行 っ た 納 税 者 が 仲 裁 決 定 を 実 施 す る 相 互 協 議 を 受 諾 し な い 場 合 を 除 い て 、 当 該 仲 裁 決 定 は 両 締 約 国 を 拘 束 し 、 両 国 国 内 法 上 の 時 間 的 な 制 限 に も か か わ ら ず 実 施 さ れ る 。 ③ 締 約 国 の 権 限 あ る 当 局 は 、 相 互 の 合 意 に よ っ て 本 項 の 実 施 方 法 を 決 め る 。 か ね て よ り 租 税 条 約 は 、当 事 国 の 権 限 あ る 当 局( 日 本 で は 国 税 庁 が 該 当 す る ) 間 で 租 税 条 約 に 基 づ く 問 題 を 相 互 協 議 に よ っ て 処 理 し て き た*6 。相 互 協 議 は「 問 題 」 に 応 じ て 、「 個 別 事 案 協 議 」( 個 別 の 事 案 に つ き 、 納 税 者 の 申 立 て に 基 づ く 協 議 )、「 解 釈 適 用 協 議 」( 条 約 の 解 釈 ・ 適 用 に つ き 当 事 国 の 権 限 あ る 当 局 の 申 立 て に 基 づ く 協 議 )、「 立 法 的 協 議 」( 条 約 に 定 め の な い 場 合 に 、 二 重 課 税 を

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*7 金 子 宏 「 相 互 協 議 ( 権 限 あ る 当 局 間 の 協 議 お よ び 合 意 」) と 国 内 的 調 整 措 置 - 移 転 価 格 税 制 に 即 し つ つ - 」『 所 得 課 税 の 法 と 政 策 』( 1996) 390 頁 、 OECD, op.cit(note 1)., pp.73-75. *8 解 釈 適 用 協 議 や 立 法 協 議 に つ い て は 、 性 質 上 仲 裁 に な じ む か ど う か と い う 問 題 が あ る 。 簡 単 に い え ば 解 釈 適 用 協 議 に つ い て は 、 両 国 の 主 張 ぶ つ か り 合 う よ う な 事 態 、 す な わ ち 両 国 間 に 「 紛 争 」 が あ る と 認 定 で き る よ う な 状 態 に な れ ば 仲 裁 に な じ む が 、 そ の よ う な 事 態 で な け れ ば 仲 裁 に は な じ ま な い 。 ま た 「 立 法 的 協 議 」 に つ い て は 、 性 質 上 一 定 の 法 準 則 に よ っ て 処 理 す べ き 対 象 、 す な わ ち 「 紛 争 」 が な い た め に 仲 裁 に よ っ て 処 理 す る こ と は 不 可 能 で あ る 。 排 除 す る た め の 協 議 ) の 3 種 類 が あ る*7 。 こ の う ち も っ と も 多 い の は 個 別 事 案 協 議 で あ る 。 新 日 蘭 租 税 条 約 の 仲 裁 は 、 こ の う ち 個 別 事 案 協 議 に お い て 解 決 さ れ な か っ た 「 条 約 に 適 合 し な い 課 税 」 を 対 象 と し ( 個 別 事 案 協 議 )、 国 税 当 局 間 で 合 意 に 達 し な い 場 合 に 実 施 さ れ る 手 続 で あ る 。 両 国 国 税 当 局 が 条 約 に 適 合 す る 課 税 で あ る と 合 意 し た 場 合 に は 、 納 税 者 が 当 該 協 議 結 果 が 条 約 に 反 す る と 考 え て も 仲 裁 に は 付 託 で き な い 。 ま た 「 解 釈 適 用 協 議 」 や 「 立 法 的 協 議 」 は 、 新 日 蘭 租 税 条 約 の 対 象 に は な っ て い な い*8 ( 2 ) 新 日 蘭 租 税 条 約 24 条 5 実 施 取 決 め 新 日 蘭 租 税 条 約 の 仲 裁 手 続 の 詳 細 は 租 税 条 約 本 体 に は 規 定 さ れ ず 、「 所 得 に 対 す る 租 税 に 関 す る 二 重 課 税 の 回 避 及 び 脱 税 の 防 止 の た め の 日 本 国 と オ ラ ン ダ 王 国 と の 間 の 条 約 第 2 4条 5 に 係 る 実 施 取 決 め 」( 以 下 「 実 施 取 決 め 」 と い う ) に 定 め ら れ る 。 そ の 概 略 は 次 の 通 り で あ る ( 全 文 は 「 参 考 」 と し て 添 付 )。 1 . 仲 裁 へ の 事 件 付 託 の 要 請 : 仲 裁 付 託 要 請 は 、 納 税 者 か ら 一 方 締 約 国 の 権 限 あ る 当 局 に 対 し て 、 裁 判 所 等 の 判 決 が 下 っ て い な い こ と の 証 明 を 添 え て 行 わ れ 、 要 請 を 受 け た 一 方 当 事 国 の 権 限 あ る 当 局 は 他 方 当 事 国 の 権 限 あ る 当 局 に 対 し て 要 請 文 書 と 証 明 書 の 写 し を 送 付 す る 。 2 . 仲 裁 付 託 以 降 3 ヶ 月 以 内 に 権 限 あ る 当 局 は 仲 裁 付 託 事 項 に 合 意 し 、 要 請 者 に 伝 え る 。 仲 裁 付 託 事 項 に は 手 続 規 則 を 含 む こ と が あ る 。 3 . 仲 裁 付 託 事 項 が 決 ま っ た 後 、 締 約 国 は 各 1 名 の 仲 裁 人 を 指 名 し 、 指 名 さ れ た 仲 裁 人 は 第 3 仲 裁 人 を 任 命 す る 。 4 . 仲 裁 人 は 手 続 規 則 及 び 証 拠 規 則 を 決 定 す る 。 5 . 仲 裁 要 請 者 は 書 面 に よ っ て 自 己 の 見 解 を 仲 裁 人 に 表 明 で き る が 、 仲 裁 人 の 許 可 を 得 れ ば 口

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*9「 参 考 」 参 照 。

*10 OECD, op.cit(note 1)., pp.97ff.

*11 Zvi Daniel Altman, Dispute Resolution under Tax Treaties (2005), pp.13-97.参 照 。

頭 で 見 解 表 明 も で き る 。 6 . 仲 裁 人 は 付 託 さ れ た 問 題 を 条 約 の 適 用 規 則 及 び 適 用 規 則 に 従 う こ と を 条 件 に し て 締 約 国 の 国 内 法 に し た が っ て 決 定 す る 。 条 約 解 釈 は 、 OECD モ デ ル 条 約 コ メ ン タ リ ー を 考 慮 し て 、 ウ ィ ー ン 条 約 法 条 約 31 条 か ら 34 条 に 合 体 さ せ ら れ た 解 釈 原 則 に 照 ら し て 仲 裁 人 に よ っ て 解 釈 さ れ る 。 独 立 会 計 原 則 の 適 用 に 関 す る 事 項 に つ い て は 、 同 様 に OECD 多 国 籍 企 業 及 び 税 制 運 営 の た め の 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン を 考 慮 し て 決 め ら れ る 。 仲 裁 人 は 権 限 あ る 当 局 が 付 託 合 意 に 明 示 し た そ の 他 の 根 拠 ( source) を 考 慮 す る 。 1 . 仲 裁 決 定 は 過 半 数 の 仲 裁 人 に よ っ て 決 せ ら れ る 。 仲 裁 決 定 は 書 面 で 行 わ れ 、 両 当 事 国 の 国 税 当 局 が 合 意 す れ ば 根 拠 及 び 理 由 付 け が 示 さ れ る 。 い ず れ か の 国 税 当 局 か ら 要 請 が あ っ た 場 合 は 仲 裁 委 員 会 は 委 員 会 に お け る 議 論 の 概 要 を 示 す 。 仲 裁 決 定 は 先 例 的 価 値 を 持 た な い 。 要 請 者 及 び 両 方 の 権 限 あ る 当 局 あ る 当 局 の 同 意 が な け れ ば 、 仲 裁 決 定 は 公 表 さ れ な い 。 8 . 仲 裁 決 定 は 、 モ デ ル 租 税 条 約 25 条 5 項 又 は 付 託 合 意 に 含 ま れ る 手 続 規 則 へ の 違 反 を 理 由 に し て 一 方 の 締 約 国 の 裁 判 所 に お い て 執 行 で き な い 場 合 以 外 は 最 終 的 な も の で あ る*9 。 こ れ も OECD モ デ ル 租 税 条 約 付 属 書 ( Annex)*10 と ま っ た く 同 じ 内 容 で あ る 。 そ れ で は 、 新 日 蘭 租 税 条 約 上 の 、 ひ い て は OECD モ デ ル 租 税 条 約 上 の 仲 裁 に は ど の よ う な 特 色 が あ る の だ ろ う か 。 具 体 的 な 検 討 に 入 る 前 に 租 税 条 約 仲 裁 が 生 ま れ た 経 緯 を み て み よ う 。 2 . 租 税 条 約 仲 裁 誕 生 の 経 緯*11 ( 1 ) 第 2 次 大 戦 ま で 租 税 条 約 上 の 紛 争 の 処 理 方 式 と し て は 永 く 相 互 協 議 手 続 が 採 用 さ れ て き た が 、そ の 歴 史 は 19 世 紀 に 遡 る 。相 互 協 議 手 続 が は じ め て 採 用 さ れ た の は 、1899 年 の オ ー ス ト リ ア ・ プ ロ シ ア 間 の 所 得 税 条 約 で あ り 、 そ れ 以 降 20 世 紀 前 半 に 多 く の 租 税 条 約 が 結 ば れ た が 、 そ の ほ と ん ど は 相 互 協 議 に よ る 紛 争 処 理 を 規 定 し た 。そ の な か で 唯 一 の 例 外 が 、1926 年 に 英 国 ・ ア イ ル ラ ン ド 所 得 税 協 定( The UK-Ireland agreement of 14 April 1926 ) で あ り 、 そ こ で は 世 界 に 先 駆 け て 仲 裁 に よ っ て 協 定 の 解 釈 に 起 因 す る 問 題 に つ い て 最 終 的 な 決 定 を 行 う と 定 め ら れ た 。

し か し 、 英 国 ・ ア イ ル ラ ン ド 所 得 税 協 定 は 突 然 生 ま れ た 事 象 で は な い 。 そ れ に 先 立 つ 1924 年 に 国 際 連 盟 が 採 択 し た モ デ ル 二 重 課 税 協 定 ( The 1924 Model

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*12 そ の 後 1981 年 の IFA の ベ ル リ ン 大 会 で 相 互 協 議 手 続 が 取 り 上 げ ら れ 、 そ の 中 で 仲 裁 規 定 を 置 く こ と が IFA に 提 案 さ れ 、 ま た 1984 年 に は ICC に お い て 仲 裁 導 入 を 提 案 す る 論 文 ( position paper) が 公 表 さ れ た 。 Gustaf Lindencrona,"Recent Development of Tax Treaty Arbitration," in Resolution of Tax Treaty Conflicts by Arbitration, Proceeeding of a Seminar held in

Florence, Italy, in 1993 during the 47th Congress of the International Fiscal Association(1994), pp.3-4.

参 照 。

Double Taxation Agreement) に は 仲 裁 規 定 が 設 け ら て お り 、 ま た 1927 年 の 国 際 連 盟 モ デ ル 租 税 条 約 は 相 互 協 議 手 続 と と も に 相 互 協 議 に お い て 条 約 解 釈 に 関 し て 合 意 に 達 し な い 場 合 に 常 設 国 際 裁 判 所 が 問 題 の 処 理 を 行 う こ と が 決 め ら れ て い た 。 そ の 後 も 国 際 連 盟 の モ デ ル 租 税 条 約 の 改 定 作 業 は 第 2 次 世 界 大 戦 中 ま で 続 い た 。 国 際 連 盟 の 取 組 は 、 英 国 ・ ア イ ル ラ ン ド 協 定 が 生 ま れ る 素 地 が 当 時 す で に 相 当 広 範 に 存 在 し て い た こ と を 示 し て い る 。 ( 2 ) 第 2 次 大 戦 後 第 2 次 大 戦 後 、 租 税 協 定 仲 裁 を 最 初 に 取 り 上 げ た の は 、 1951 年 の 国 際 税 務 協 会 ( IFA) で の 検 討 で あ る 。 I F A は 、 1951 年 の 第 5 回 総 会 で 初 め て 租 税 協 定 仲 裁 を 取 り 上 げ 、 租 税 に 関 す る 多 数 国 間 条 約 が 「 二 重 課 税 に 関 わ る 事 件 を 解 決 す る た め の 二 国 間 の 混 合 委 員 会 の 創 設 を 規 定 す る 条 項 」 や 「 係 争 中 の 条 項 の 意 味 を 仲 裁 人 が 決 定 す る こ と を 締 約 国 が 許 す 義 務 的 な 仲 裁 条 項 」 を 含 め る よ う 勧 告 し た 。 I F A に お け る 租 税 協 定 仲 裁 の 議 論 は そ の 後 も 続 き 、 1957 年 お よ び 1960 年 の 総 会 で は 、 国 際 租 税 法 廷 ( international tax court) の 問 題 が 再 度 取 り 上 げ ら れ 、 1960 年 の 総 会 は 国 際 租 税 法 廷 の 必 要 性 を 明 確 に 提 言 し た*12 。 し か し 、 こ の 流 れ は 公 的 機 関 で は 受 け 入 れ ら れ な か っ た 。 1963 年 に OECD に お い て は じ め て モ デ ル 租 税 条 約 が 採 択 さ れ た が 、 租 税 条 約 の 紛 争 処 理 方 式 と し て 相 互 協 議 手 続 を 規 定 す る に と ど ま り 、 司 法 的 性 格 の 紛 争 処 理 手 続 は 規 定 さ れ な か っ た 。 1968 年 に EC 委 員 会 は 、 租 税 紛 争 を 国 内 租 税 当 局 に よ っ て 構 成 さ れ る 常 設 委 員 会 に 付 託 さ れ る と の 提 案 を 行 っ た が 、 EC 理 事 会 は 政 治 的 な 理 由 で 討 議 も し な か っ た 。 し か し 、 OECD で は 、 1963 年 モ デ ル 租 税 条 約 の 相 互 協 議 手 続 に つ い て 、 合 意 に 達 す る 保 証 が な い こ と や 相 互 協 議 に 納 税 者 が 参 加 で き な い こ と に 対 し て 批 判 が 高 ま り 、 そ れ を 受 け て 1971 年 か ら モ デ ル 租 税 条 約 の 相 互 協 議 手 続 の 改 善 案 が 示 さ れ た が 、 仲 裁 規 定 を 置 く ま で に は 至 ら な か っ た 。 そ の 後 、OECD で は 、1984 年 に「 移 転 価 格 と 多 国 籍 企 業( Transfer Pricing and Multinational Enterprses)」 と 題 す る 報 告 書 が 作 成 さ れ た が 、 各 国 政 府 代 表 は 相 互 協 議 に 優 越

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*13 United Nations Ad hoc Group of Experts on International Cooperation in Tax Matters, Transfer Pricing: The EC Arbitration Convention as a Dispute Resolution Mechanism(T/SG/AC.8/2001/CRP.13), 24 August 2001 参 照 す る 仲 裁 を 勧 告 す る こ と に 消 極 的 な 姿 勢 に 終 始 し た 。 こ の 流 れ は 続 き 、 E C 理 事 会 は 、 1976 年 に 「 仲 裁 手 続 に 関 す る 理 事 会 指 令 案 」 を 提 起 し た 折 に も 、 加 盟 国 の 租 税 主 権 の 放 棄 へ の 躊 躇 か ら 、「 理 事 会 指 令 案 」 は 採 択 さ れ な か っ た 。 し か し 、 1989 年 の 米 独 租 税 条 約 は 、 初 め て 租 税 条 約 に お い て 仲 裁 手 続 を 採 用 し た 。 米 独 条 約 で は 、 条 約 の 解 釈 ・ 適 用 に つ い て 権 限 あ る 当 局 間 で 意 見 が 一 致 し な い 場 合 に は 、 両 当 事 国 の 合 意 に よ っ て 仲 裁 に 付 託 で き る と 定 め る ( 25 条 5 項 )。 そ の 後 、 米 国 が 2001 年 ま で に 8 つ の 、 仲 裁 規 定 付 き の 租 税 条 約 を 結 び ( す べ て 仲 裁 付 託 に は 両 当 事 国 の 合 意 が 必 要 と さ れ 、「 ベ ー ス ボ ー ル 方 式 」 と よ ば れ る )、 そ の 他 の 国 も こ れ に 倣 い 、 20 世 紀 中 に 57 の 租 税 条 約 が 結 ば れ た 。 こ の 時 期 に 仲 裁 規 定 の つ い た 租 税 条 約 を 数 多 く 結 ん だ の は 、 米 国 以 外 に 、 カ ナ ダ 、 オ ラ ン ダ で あ っ た 。 こ の 流 れ の 中 で E C で も 仲 裁 手 続 の 検 討 が 再 開 さ れ 、「 理 事 会 指 令 」 の 形 で は な く 多 数 国 間 条 約 の 形 式 を 選 択 し て 、 1990 年 に 「 関 連 企 業 の 利 益 の 調 整 に 関 す る 二 重 課 税 の 排 除 に 関 す る 条 約 」 が 採 択 さ れ た*13 。 こ の 条 約 は 、 相 互 協 議 が 不 調 に 終 わ っ た と き に は 、 諮 問 委 員 会 に 意 見 を 求 め る こ と が で き る と い う 仕 組 み を 採 っ た 。 OECD で も 、 租 税 条 約 中 に 仲 裁 規 定 を 採 用 す る も の が 増 え て き た こ と を 受 け て 、 21 世 紀 に 入 る と OECD 租 税 委 員 会 に 仲 裁 の 検 討 が 始 ま り 、 2008 年 の OECD モ デ ル 租 税 条 約 に お い て 相 互 協 議 手 続 の 一 環 と し て 仲 裁 手 続 が 採 用 さ れ た ( The 2008 Update to the Model Tax Convention)。 2010 年 の 新 日 蘭 租 税 条 約 で の 仲 裁 手 続 の 採 用 は 、 こ の 2008 年 OECD モ デ ル 租 税 条 約 の 改 正 を 受 け た も の で あ る 。 租 税 条 約 仲 裁 に は 長 い 歴 史 が あ る が 、 第 2 次 大 戦 後 は 諸 国 が 採 用 に 躊 躇 し た た め 租 税 条 約 が 実 際 に 採 用 さ れ る よ う に な っ て か ら は 20 年 し か 経 っ て い な い 。 Ⅱ . 租 税 条 約 仲 裁 の 性 質 新 日 蘭 租 税 条 約 上 の 仲 裁 の 基 本 的 な 性 質 を 知 る た め に は 、 そ れ が も つ 種 々 の 論 点 を 順 に 検 討 す る 必 要 が あ る 。 租 税 協 定 仲 裁 を 議 論 す る 際 に 従 来 問 題 と さ れ て き た の は 、 ① 仲 裁 手 続 を 置 く こ と の 是 非 、 ② 仲 裁 が 義 務 的 ( 強 制 的 ) な も の か 任 意 的 な も の か 、 ③ 仲 裁 に お い て 納 税 者 が ど の よ う に 位 置 づ け ら れ る か 、 ④ 仲 裁 判 断 と 当 事 国 国 内 法 を ど の よ う に 関 係 さ せ る か 、 ⑤ 仲 裁 の 準 拠 法 を ど の よ

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*14 Lindencrona, op.cit., pp.4-9.参 照 。 う に す る か と い う 点 に あ っ た*14 。 本 稿 で は こ れ ら の 点 に 適 宜 ふ れ つ つ 、 国 際 法 上 の 重 要 と 考 え ら れ る 諸 論 点 に つ い て 検 討 し て い こ う 。 1 . 租 税 条 約 と 仲 裁 - 仲 裁 の 是 非 - ( 1 ) 租 税 上 に 起 因 す る 紛 争 と 仲 裁 の 採 用 租 税 条 約 に 仲 裁 手 続 が 置 か れ る よ う に な っ た 背 景 に は 租 税 条 約 上 の 個 別 事 案 に 関 す る 紛 争 ( controversies) の 増 加 が あ る 。 具 体 的 に 想 定 さ れ る の は 、 移 転 価 格 、 恒 久 的 施 設 ( P.E.) の 認 定 、 恒 久 的 施 設 へ の 所 得 の 帰 属 、 所 得 の 種 類 、 過 少 資 本 税 制 に 関 す る 紛 争 で あ る 。 一 例 と し て 、 も っ と も 典 型 的 な 移 転 価 格 に 関 す る 紛 争 を 紹 介 し よ う 。 移 転 価 格 税 制 と は 、 A 国 で 事 業 を 行 う x 社 が B 国 の 子 会 社 y 社 に 商 品 を 販 売 し て 一 定 の 収 益 を あ げ た が 、 A 国 課 税 庁 が x 社 の 販 売 価 格 が 不 当 に 低 い と 認 定 し て 適 正 な 価 格 で 販 売 し た 場 合 に 挙 げ た で あ ろ う 所 得 を 計 算 し て そ れ に 対 し て 課 税 を 行 う と い う 税 制 の こ と を い う 。 こ の 場 合 、 B 国 が 実 際 に と ら れ た 販 売 価 格 の ま ま 課 税 を す れ ば 、 A 国 が 認 定 し た 適 正 価 格 と の 差 が 二 重 課 税 に な る 。 そ こ で X 社 は 、 A 国 に 対 し て 相 互 協 議 の 申 し 入 れ を 行 い 、 A、 B 両 国 間 の 相 互 協 議 の 場 で 適 正 価 格 が 決 ま れ ば 二 重 課 税 状 態 は 解 消 さ れ る 。 し か し 、 A 国 が 認 定 し た 適 正 価 額 が 高 い と A 国 の 税 収 が 増 え る 代 わ り に B 国 の 税 収 が 減 少 す る た め に 、 A、 B 両 国 間 の 協 議 が 整 わ な い こ と も 多 い 。 他 の 紛 争 類 型 に つ い て も 簡 単 に 説 明 し よ う 。 恒 久 的 施 設 ( P.E.) を め ぐ る 紛 争 と は 、 当 事 国 内 に 課 税 の 根 拠 と な る P.E.が あ る か ど う か が 問 題 に な る も の 。 P E へ の 所 得 の 帰 属 に 関 す る 紛 争 と は 、 発 生 し た 所 得 が P E に 帰 属 す る も の か 否 か を め ぐ る も の 。 所 得 の 種 類 を め ぐ る 紛 争 と は 、 租 税 条 約 に お い て 特 定 所 得 ( た と え ば 知 的 財 産 権 収 入 ) に つ い て 課 税 国 が 決 ま っ て い る 場 合 に 、 実 際 に 発 生 し た 所 得 が ど の 種 類 の 所 得 か を め ぐ る も の 。過 少 資 本 税 制 を め ぐ る 紛 争 と は 、 外 国 子 会 社 の 資 本 金 が 少 な く 、 事 業 の 実 施 に つ い て 関 係 会 社 か ら の 借 入 れ に 大 き く 拠 っ て い る 場 合 に 、 ど の 程 度 の 借 入 金 を 資 本 金 と み な し て 利 息 の 経 費 性 を 否 認 す る か を め ぐ る も の 。 こ れ ら の 紛 争 が 国 家 間 で 解 決 さ れ な い と 二 重 課 税 の 状 態 は 解 消 し な い 。 し か し 、 こ の よ う な 紛 争 は A 国 と B 国 の 利 害 が 衝 突 し て い る た め に 話 し 合 い で 解 決 す る こ と が 難 し い 場 合 が あ り 、 し か も 解 決 さ れ な く て も 課 税 庁 は あ ま り 困 ら ず 、 他 方 納 税 者 が 二 重 課 税 の 不 利 益 を 負 う こ と か ら 、 仲 裁 手 続 の 必 要 が 産 業 界

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*15 Michael J. McIntyre, "Comments on the OECD Proposal for Secret and Mandatory Arbitration of International Tax Disputes," Florida Tax Review, Vol.7(2006), pp.624-627.参 照 。

*16 こ れ 以 外 の 仲 裁 の メ リ ッ ト に つ い て は 、 川 端 前 掲 論 文 64 頁 参 照 。

*17 Ad Hoc Group of Experts on International Cooperation in Tax Matters Tenth meeting, Arbitration in

International Tax Matters(ST/SG/AC.8/2001/CRP.15), pp.2-4.

*18 相 互 協 議 に よ っ て 処 理 で き な い 事 案 が そ れ ほ ど 多 く な い た め に 、 こ の よ う な 手 続 は 不 要 で あ る と か 、 そ も そ も 処 理 で き る こ と の 保 証 は 不 要 と い う 見 解 も あ る 。 McIntyre, op.cit., 622ff.参 照 。 か ら 強 く 主 張 さ れ*15 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 に お け る 仲 裁 の 採 用 に 繋 が っ た*16 。 こ の よ う に 租 税 協 定 仲 裁 が 置 か れ る よ う に な っ た 原 因 は 、 相 互 協 議 手 続 に よ っ て 上 記 の よ う な 租 税 条 約 に 起 因 す る 紛 争 に 十 分 対 応 で き な い と 主 張 さ れ た こ と に あ っ た 。 ICC の 専 門 家 グ ル ー プ は 、 仲 裁 手 続 を 採 用 す る こ と の 理 由 を 次 の 4 つ に 整 理 す る*17 。 ① 相 互 協 議 手 続 は 両 国 の 権 限 あ る 当 局 の 合 意 努 力 義 務 に と ど ま っ て お り 、 当 局 間 に 合 意 が 達 成 さ れ る 保 証 は な い 。 ② 相 互 協 議 に は 納 税 者 の 参 加 が 予 定 さ れ て い な い た め に 、 両 国 の 権 限 あ る 当 局 が 誤 解 し た 事 実 に 基 づ い て 不 適 切 な 合 意 を す る 可 能 性 が あ る 。 ③ 相 互 協 議 の 透 明 性 が な い 。 ④ 権 限 あ る 当 局 が 事 案 の 検 討 を 遅 延 さ せ た り 、 棚 上 げ に す る な ど の 行 為 を 行 え ば 合 意 ま で に 長 時 間 を 要 す る 。 国 際 商 業 会 議 所 ( ICC) の 専 門 家 グ ル ー プ の 見 解 は 、 相 互 協 議 と い う 政 府 間 の 交 渉 に よ っ て で は 最 終 的 に 紛 争 が 処 理 で き る 保 証 が な い た め に 仲 裁 を 採 用 す べ き だ と い う こ と に 尽 き る 。 こ れ は 通 常 、 国 際 紛 争 処 理 の 「 司 法 化 」 の 第 一 の 理 由 と し て 挙 げ ら れ る も の で あ る 。 問 題 は 、 そ れ が 紛 争 処 理 手 続 と し て 何 が 適 当 か ど う か と い う 政 策 問 題 に つ き る か ど う か と い う 点 で あ る*18 ( 2 ) 主 権 問 題 a . 問 題 の 所 在 仲 裁 を 設 置 す る こ と は 紛 争 処 理 の 権 限 を 当 事 国 が 仲 裁 委 員 会 ( 仲 裁 廷 ) と い う 第 三 者 機 関 に 委 ね る こ と を 意 味 し 、 そ の こ と は 紛 争 の 処 理 を 国 家 間 の 協 議 に 最 後 ま で 委 ね る べ き か 、 そ れ と も 第 三 者 機 関 の 決 定 を 国 家 間 の 合 意 に 代 え る べ き か と い う 点 に 関 わ る 。

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*19 水 野 忠 恒 『 国 際 課 税 の 制 度 と 理 論 』( 2000) 225 頁 、 伊 藤 前 掲 論 文 14-15 頁 、 増 井 良 啓 「 租 税 条 約 上 の 仲 裁 に 関 す る I F A 報 告 書 」 ジ ュ リ ス ト 1244 号 (2003)278 頁 参 照 。 *20 Natalia Quinones Cruz, "International Tax Arbitration and the Sovereignty Objection: The South American Perspective," Tax Notes International, No.533(2008),pp.534-540.参 照 。

*21 水 野 前 掲 書 225 頁 、 伊 藤 前 掲 論 文 14 頁 参 照 、 増 井 前 掲 論 文 278 頁 参 照 。 国 際 法 上 は 、 国 家 が 紛 争 処 理 を 第 三 者 機 関 の 決 定 に 委 ね る こ と に は 一 切 問 題 は な い 。 国 家 間 の 合 意 に よ っ て 国 家 を 合 併 す る こ と ま で 法 的 に は 可 能 で あ る 以 上 、 特 定 の 決 定 を 第 三 者 機 関 に 委 ね る く ら い で 国 際 法 上 の 問 題 は 発 生 し な い 。 し か し 、 特 定 の 問 題 の 決 定 を 第 三 者 機 関 に 委 ね る こ と に つ い て は 、 国 内 憲 法 上 の 問 題 は 生 じ う る 。 こ れ が 通 常 、 租 税 条 約 仲 裁 の 「 主 権 問 題 」 と し て 語 ら れ る 問 題 の 本 質 で あ る ( EU に お い て か つ て 盛 ん に 超 国 家 性 が 議 論 さ れ た が 、 そ の 多 く は こ の 文 脈 に お い て で あ っ た )。 b . 検 討 憲 法 秩 序 の 文 脈 で す ぐ に 思 い 浮 か ぶ の は 「 租 税 法 律 主 義 」 と の 関 係 で あ る 。 条 約 に よ っ て 納 税 者 の 課 税 要 件 を 国 際 機 関 に 包 括 的 に 委 任 す る と す れ ば 、 課 税 要 件 を 法 律 に よ っ て 定 め る こ と を 義 務 づ け る 租 税 法 律 主 義 と 矛 盾 牴 触 し 日 本 国 憲 法 上 許 さ れ な い と 考 え る 余 地 が 出 て く る*19。 そ の 場 合 、 租 税 条 約 上 の 紛 争 処 理 を 仲 裁 委 員 会 に 委 ね る こ と は 租 税 法 律 主 義 に 反 し 、 そ の よ う な 措 置 の 採 用 は 許 さ れ な い 。 つ ま り 、 個 々 の 課 税 額 の 決 定 を 国 会 か ら 仲 裁 委 員 会 と い う 第 三 者 機 関 に 委 ね る こ と の 是 非 が こ こ で の 争 点 で あ る 。 ま た 一 部 の 諸 国 で は 課 税 額 の 決 定 は 行 政 府 に 独 占 的 に 与 え ら れ る と し て お り 、 こ の よ う な 国 で は 紛 争 処 理 を 仲 裁 に 委 ね る こ と は 原 理 的 に 許 さ れ な い*20 し か し 、 租 税 条 約 に 明 確 に 課 税 要 件 が 決 め ら れ 、 そ れ に 関 す る 個 別 事 案 協 議 に つ い て 協 議 に よ っ て 合 意 に 達 し な い 事 項 ( issue) に つ い て の み 第 三 者 の 決 定 に 従 う こ と が 、 日 本 国 憲 法 上 の 租 税 法 律 主 義 に 反 す る と 言 え る の だ ろ う か 。 新 日 蘭 租 税 条 約 が 採 用 し た 仲 裁 手 続 は 現 在 で も 国 税 当 局 の 手 で 行 う こ と が 許 さ れ る 合 意 の 一 部 を 仲 裁 委 員 会 の 決 定 に 置 き 換 え た に す ぎ な い か ら で あ る 。 ま た 納 税 者 の 裁 判 を 受 け る 権 利 ( 憲 法 32 条 ) と の 関 係 を 問 題 視 す る 見 解 が あ る*21 。 新 条 約 の 採 用 し た 仲 裁 申 立 て は 納 税 者 の 発 意 に 基 づ く も の で あ り 、 ま た 納 税 者 が 国 内 裁 判 所 に 訴 え を 起 こ せ ば 仲 裁 申 立 て は で き な い の で あ る か ら 、 納 税 者 が 権 利 を 奪 わ れ た と は 言 え な い 。 む し ろ 問 題 は 課 税 と い う 公 法 上 の 権 利 義 務 の 決 定 を 裁 判 以 外 の 手 続 で 決 め ら れ る か と い う 点 で あ る 。 し か し 、 相 互 協

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議 手 続 に お い て も も っ ぱ ら 国 税 当 局 間 の 取 決 め に よ っ て 決 め る こ と が 許 さ れ る も の の 一 部 を 第 三 者 機 関 た る 仲 裁 委 員 会 に 委 ね る こ と が で き な い と は 考 え ら れ な い ( 納 税 者 は 、 仲 裁 決 定 を 含 め て 相 互 協 議 の 結 果 を 受 け 入 れ な い 権 利 を も つ )。 日 本 に お い て 主 権 問 題 と し て 法 的 に 議 論 で き る の は こ の 1 点 に 絞 ら れ る が 、 憲 法 違 反 と 断 言 す る の は 難 し い と 思 わ れ る 。 こ の よ う に 考 え る と 、 他 国 で は と も か く 日 本 の 場 合 は 、 租 税 条 約 に つ い て 仲 裁 を お く か ど う か は も っ ぱ ら 政 策 判 断 の 問 題 と 考 え ら れ よ う 。 2 . 仲 裁 の 性 質 ( 1 ) 仲 裁 の 設 計 - 納 税 者 の 位 置 づ け ・ 国 内 法 と の 関 係 租 税 条 約 仲 裁 の 手 続 を ど の よ う に 設 計 す る か は 、 仲 裁 に 納 税 者 を ど の よ う な 形 で 係 わ ら せ る か と い う 問 題 と 密 接 に 結 び つ い て い る 。 通 常 の 条 約 上 の 解 釈 適 用 に 関 す る 紛 争 を 処 理 す る た め の 国 際 仲 裁 裁 判 の 場 合 は 、 当 該 仲 裁 裁 判 判 決 が 紛 争 当 事 国 を 拘 束 す れ ば 足 り 、 そ の 判 決 が 当 事 国 領 域 内 の 市 民 に 一 定 の 影 響 を 与 え る 場 合 で あ っ て も 、そ れ は 当 事 国 の 国 内 措 置 を 通 じ て 実 現 さ れ る 。し か し 、 租 税 条 約 の 仕 組 み で は 、 納 税 者 が 相 互 協 議 を 課 税 国 に 申 立 て 、 租 税 条 約 当 事 国 間 の 協 議 が 始 ま り 、 協 議 に お い て 合 意 に 達 す れ ば 、 原 則 と し て 当 事 国 の み な ら ず 納 税 者 も そ の 合 意 結 果 に 拘 束 さ れ る ( 納 税 者 は 拒 否 す る 権 利 を も つ )。 相 互 協 議 を 前 提 に し て 仲 裁 を 構 想 す る と 、 納 税 者 を 仲 裁 に ど の よ う に 関 係 さ せ る か が 大 き な 問 題 に な る 。 従 来 、 仲 裁 に つ い て は 次 の よ う な 2 つ の 類 型 が 考 え ら れ た 。 第 1 は 、 国 家 間 の 仲 裁 手 続 で あ る 。 す な わ ち 、 国 が 相 互 協 議 手 続 に よ っ て 合 意 に 達 し な い 場 合 に 、 個 人 資 格 の 仲 裁 人 に よ っ て 構 成 さ れ る 仲 裁 廷 に 問 題 が 持 ち 込 ま れ 、 仲 裁 廷 の 決 定 に 両 当 事 国 が 従 う と い う も の で あ る 。 第 2 の 類 型 は 、 相 互 協 議 手 続 に よ っ て 当 事 国 間 で 合 意 が 達 成 で き な い 場 合 に 、 納 税 者 が 租 税 協 定 当 事 国 の 双 方 を 直 接 に 仲 裁 に 訴 え 、 仲 裁 廷 の 判 断 に 納 税 者 、 租 税 協 定 当 事 国 の 全 部 が 従 う と い う も の で あ る 。 a . 第 1 類 型 国 家 間 の 紛 争 処 理 に お い て 交 渉 が ま と ま ら な い 場 合 に 、 そ の 決 着 を 第 三 者 機 関 に 委 ね る 代 表 的 手 続 が 国 際 仲 裁 裁 判 で あ る 。 こ れ が 第 1 の 類 型 で あ る 。 国 際 仲 裁 裁 判 は 、 両 国 の 合 意 に 基 づ い て 開 始 さ れ 、 申 立 国 が 仲 裁 裁 判 合 意 に 基 づ い て 請 求 事 項 を 決 め て 仲 裁 裁 判 所 に 訴 え 、 仲 裁 裁 判 所 は 当 事 国 間 で 合 意 さ れ た 準 則 に 基 づ い て 付 託 さ れ た 紛 争 を 裁 く こ と に な る 。 通 常 、 個 人 に 関 わ る 事 案 が 仲 裁 裁 判 に 掛 け ら れ る の は 、 当 該 個 人 が 国 内 裁 判 所 等 の 現 地 の 国 内 手 続 に よ っ て

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*22 伊 藤 前 掲 論 文 4 頁 参 照 。 救 済 を 受 け る こ と が で き な か っ た 場 合 に 、 当 該 個 人 の 国 籍 国 が 個 人 に 害 を 加 え た 現 地 国 に 対 し て 交 渉 を 申 し 入 れ ( 外 交 的 保 護 権 の 行 使 )、 そ し て そ れ に よ っ て で は 紛 争 が 処 理 で き な か っ た と き に 、 当 該 国 籍 国 が 問 題 を 仲 裁 裁 判 に 提 訴 す る 形 で 使 わ れ る 。 仲 裁 判 決 に よ っ て 加 害 国 の 責 任 が 認 め ら れ る と 、 加 害 国 は 国 籍 国 に 対 し て 損 害 賠 償 等 を 行 う 義 務 が 明 確 に な る 。 こ の 手 続 で は 、 損 害 賠 償 義 務 に よ っ て 加 害 国 が 金 銭 賠 償 を 行 う 相 手 は 国 籍 国 で あ り 、 被 害 者 本 人 に 対 し て で は な い 。 そ の た め 国 籍 国 に 支 払 わ れ た 賠 償 金 を 被 害 者 に 支 払 う か ど う か は 国 際 法 上 は 当 該 国 籍 国 の 任 意 に 委 ね ら れ 、 被 害 者 が 賠 償 金 を 得 る 保 証 は 少 な く と も 国 際 法 上 は な い 。 こ の よ う に 仲 裁 裁 判 で 争 わ れ る の は 、 被 害 者 個 人 の 蒙 っ た 被 害 で あ る に も か か わ ら ず 、 国 際 法 上 は 被 害 者 の 国 籍 国 の 被 害 と し て 扱 わ れ て そ の よ う に 処 置 さ れ る 。 こ の よ う に 国 際 法 上 の 仲 裁 裁 判 で は 、 個 人 が 被 害 者 と し て 扱 わ れ る 「 国 内 法 の 世 界 」 と 、 当 該 個 人 の 国 籍 国 が 被 害 者 と し て 扱 わ れ る 「 国 際 法 の 世 界 」 は 分 断 さ れ 両 者 が 連 動 す る こ と は な い 。 租 税 条 約 仲 裁 を 第 1 類 型 に よ っ て 構 成 す れ ば 、 租 税 条 約 に 応 じ て 当 事 国 間 で 納 税 額 の 是 非 を 争 い 、 そ れ に つ い て 仲 裁 裁 判 所 が 決 定 を 下 す が 、 そ の 決 定 を ど の よ う に 国 内 的 に 実 施 す る か は 各 当 事 国 の 国 内 措 置 に よ る こ と に な る 。つ ま り 、 仲 裁 決 定 が そ の ま ま 自 動 的 に 当 事 国 国 内 で 効 力 を 発 生 す る こ と は 保 証 さ れ な い 。 ま た 仲 裁 に 提 訴 で き る の は 、 納 税 者 が 該 当 国 の 裁 判 所 ( 国 内 救 済 機 関 ) で 救 済 が 得 ら れ な い こ と が 確 定 さ れ る 必 要 が あ り 、 仲 裁 裁 判 所 の 判 決 は 国 内 裁 判 所 の 判 決 を 、 法 的 に は と も か く 事 実 上 は 覆 す こ と が 期 待 さ れ て い る 。 し か し 、 こ の よ う な 構 成 は 、 現 在 の 租 税 条 約 上 の 相 互 協 議 手 続 と は 基 本 的 発 想 を 異 に す る 。 租 税 条 約 上 の 相 互 協 議 の 特 色 は 、 国 家 間 の 、 そ れ ゆ え に 国 際 法 上 の 相 互 協 議 手 続 と 国 内 法 上 の 租 税 救 済 手 続 が 連 動 し て い る 点 に あ る 。 す な わ ち 、 納 税 者 が 自 己 の 課 税 に つ い て 租 税 条 約 に 照 ら し て の 疑 義 を 感 じ た 場 合 に 課 税 国 政 府 に 相 手 国 政 府 と の 相 互 協 議 の 申 し 入 れ を 行 い 、 相 互 協 議 に よ っ て 合 意 に 達 す れ ば そ れ に 応 じ て 課 税 が 行 わ れ る*22。 し か し 、 納 税 者 が 国 内 裁 判 所 に 訴 え て 判 決 を 得 れ ば 、 相 互 協 議 は 行 わ れ な い か 効 力 を 失 う か の い ず れ か の 途 を 辿 る 。 つ ま り 国 際 法 上 の 手 続 と 国 内 法 上 の 手 続 が 連 動 し 、 ま た 国 内 裁 判 所 の 判 決 が 相 互 協 議 の 結 果 に 優 位 す る 点 に 特 徴 が あ る 。 も し 相 互 協 議 と 同 様 に 、 仲 裁 裁 判 所 に 対 し て 納 税 者 が 申 立 権 を も ち 、 そ の 決 定 が 当 事 国 の み な ら ず 納 税 者 に 対 し て も 直 接 的 な 効 果 を も ち 、 し か し な が ら 国 内 裁 判 所 の 判 決 が あ れ ば 納 税 者 の 申 立 権 が 喪 失 す る か 、 仲 裁 判 決 が 法 的 効 力 を 失 う と い う 仕 組 み を 租 税 協 定 仲 裁

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*23 仲 裁 の 監 督 ( コ ン ト ロ ー ル ) に つ い て は 、 3 . 参 照 。 *24 増 井 良 啓 「 租 税 条 約 上 の 仲 裁 に 関 す る I F A 報 告 書 」 ジ ュ リ ス ト 1244 号 (2003)278 頁 以 下 参 照 。 *25 増 井 前 掲 論 文 278 頁 。 に 組 み 込 む こ と が 必 要 だ と い う 判 断 が あ れ ば 、 第 1 類 型 の 手 続 の 採 用 は 難 し い で あ ろ う 。 租 税 協 定 仲 裁 を 、 相 互 協 議 が 妥 結 し な い 場 合 に そ れ に 代 わ る 手 続 と し て 構 成 す る と す れ ば 、 租 税 条 約 仲 裁 と 国 内 法 上 の 手 続 の 連 動 の 確 保 は 必 須 条 件 と 言 え る 。 b . 第 2 類 型 仲 裁 で 下 さ れ た 判 断 が 直 接 的 に 納 税 者 個 人 に 効 力 を も つ こ と を 確 保 し よ う と し て 考 え ら れ た の が 、 第 2 類 型 で あ る 。 こ れ は 、 相 互 協 議 を 要 請 し た 納 税 者 が 相 互 協 議 に お い て 決 着 が 付 か な い 場 合 に 、 租 税 条 約 の 相 手 方 当 事 者 を 国 内 仲 裁 手 続 に 直 接 に 提 訴 す る と い う 形 で あ る 。 こ の 仲 裁 は 、 商 事 関 係 を 中 心 に 国 内 法 に 準 拠 し て 実 施 さ れ て い る も の で 、 国 際 商 業 会 議 所 仲 裁 ( ICC) な ど の 既 存 の 常 設 仲 裁 機 関 の 用 意 す る 規 則 を 使 用 し て 行 わ れ る 機 関 仲 裁 と 、 仲 裁 規 則 を 含 め て 当 事 者 間 の 取 決 め に 基 づ い て 実 施 さ れ る 個 別 ( ア ド ホ ッ ク ) 仲 裁 が あ る 。 言 う ま で も な く 、 仲 裁 が 適 正 に 行 わ れ る 場 合 は 国 家 裁 判 所 に 代 替 す る 役 割 を 果 た し 、 国 内 裁 判 所 の 監 督*23 を 通 じ て 、 仲 裁 判 断 は 国 家 法 上 の 保 護 を 得 て 裁 判 判 決 と 同 一 の 効 力 を も つ 。 当 然 、 仲 裁 地 裁 判 所 で 承 認 さ れ た 仲 裁 判 断 は 、 執 行 力 を も ち 、 ま た 仲 裁 地 以 外 に お い て も 、「 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約 」( ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 ) 等 に よ っ て 執 行 力 を 付 与 さ れ る 。 租 税 協 定 仲 裁 を こ の 第 2 類 型 に よ っ て 構 成 す る と 、 納 税 者 が 直 接 訴 え を 提 起 で き 、 ま た 国 内 裁 判 所 を 利 用 す る か 仲 裁 を 利 用 す る か は 納 税 者 の 選 択 に な り 、 納 税 者 が 国 内 裁 判 所 を 利 用 す る 意 思 を も て ば 、 仲 裁 手 続 は 開 始 で き な い 。 ま た 仲 裁 手 続 は 国 家 裁 判 所 に よ っ て 監 督 さ れ 、 ま た 外 国 裁 判 所 に お い て 、 納 税 者 が 仲 裁 判 断 を 強 制 執 行 す る こ と が 確 保 で き る 。 た だ し 、 一 旦 仲 裁 決 定 が 下 さ れ る と そ れ に つ い て 納 税 者 が 国 内 裁 判 所 に 訴 え 、 仲 裁 決 定 の 効 力 を 奪 う こ と が で き な い 点 は 相 互 協 議 の 手 続 と は 異 な る 。 こ の 手 続 を 主 張 し て き た の は 国 際 税 務 協 会 ( IFA) で あ り*24、 投 資 家 が 投 資 先 国 を 訴 え る 投 資 協 定 仲 裁 と 類 似 し た 設 計 に な っ て い る 。 第 2 類 型 に つ い て は 増 井 良 啓 教 授 の 詳 細 な 検 討 が あ る が 、 憲 法 上 の 問 題 は 1 ( 2 ) の 問 題 に 尽 き る と い う の が 結 論 の よ う で あ る*25 。 第 2 類 型 の 手 続 の 問 題 は 、 相 互 協 議 が 国 家 間

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の 協 議 手 続 で あ る に も か か わ ら ず 、 仲 裁 に な る と 一 転 し て 納 税 者 対 国 家 の 手 続 に 転 換 す る 点 に あ る よ う に 思 わ れ る 。 つ ま り 、 誰 が 最 終 的 に 決 定 権 を も つ か と い う 問 題 で あ り 、 納 税 者 が 仲 裁 に 直 接 訴 え る こ と が で き る の で あ れ ば 、 国 家 間 で 行 う 相 互 協 議 に 正 当 性 は な く な る 。 さ ら に 、 そ も そ も 国 家 間 の 相 互 協 議 で 出 来 上 が る 合 意 を な ぜ 仲 裁 で ひ っ く り 返 せ な い か の 説 明 が つ か な い 。 つ ま り 、 こ の 手 続 は 、 納 税 者 の 地 位 の 保 証 に は 役 立 つ が 、 相 互 協 議 ひ い て は 租 税 条 約 の 根 底 に 流 れ る 、 二 重 課 税 の 解 消 は 国 家 の 手 に よ っ て 行 う と い う 基 本 政 策 と 齟 齬 し て い る の で あ る 。 第 1 類 型 の 仲 裁 裁 判 の 場 合 は 、 仲 裁 へ の 提 訴 、 そ し て そ の 進 行 は も っ ぱ ら 条 約 当 事 国 た る 国 家 の 手 に 委 ね ら れ 、 裁 判 の 途 中 で も 国 家 間 で 協 議 を 行 っ て 合 意 に 達 す れ ば 取 り 下 げ る こ と も 可 能 で あ る 。 そ れ に 対 し て 第 2 類 型 で は 、 仲 裁 を 取 り 下 げ る こ と も 可 能 で あ る が 、 そ の 場 合 に は 納 税 者 を 含 む 三 当 事 者 の 同 意 が 必 要 で あ り 、 当 事 国 の 課 税 権 限 が 納 税 者 の 手 に よ っ て 制 約 さ れ る 。 c . 新 日 蘭 租 税 条 約 の 位 置 新 日 蘭 租 税 条 約 は 、相 互 協 議 の 手 続 の 一 環 と し て 仲 裁 を 設 け る こ と に よ っ て 、 上 記 第 1 お よ び 第 2 の 難 点 を 克 服 し よ う と し た も の と 評 価 で き る 。 す な わ ち 、 第 1 の 点 に つ い て は 、仲 裁 は あ く ま で 相 互 協 議 の 一 環 と 位 置 づ け ら れ る た め に 、 仲 裁 に 決 定 は 形 式 的 に は 従 来 の 相 互 協 議 の 合 意 の 位 置 づ け と 変 わ ら ず 、 納 税 者 へ の 効 果 と の 関 係 で 仲 裁 に 対 し て 新 た な 位 置 づ け を 与 え る こ と は 不 要 と な る 。 ま た 第 2 の 類 型 で 問 題 化 し た 、 納 税 者 の 仲 裁 上 の 位 置 づ け に つ い て も 、 あ く ま で 相 互 協 議 手 続 に お け る 納 税 者 の 関 与 の 在 り 方 と し て 整 理 で き る の で 問 題 は な く な る 。 も ち ろ ん 、 仲 裁 へ の 納 税 者 の 関 与 の 仕 方 は 、 第 2 の 類 型 よ り も 弱 く な り 、 ま た 仲 裁 委 員 会 の 決 定 に 当 事 国 が 従 わ な い 場 合 に 強 制 的 に 実 現 す る 方 途 が な い と い う 問 題 を 生 ず る 。 ( 2 ) 仲 裁 の 義 務 性 ( 強 制 性 ) と 任 意 性 租 税 条 約 に 仲 裁 を 採 用 す る と 決 め る と 、 そ れ を 義 務 的 ( 強 制 的 ) な も の に す る か 、 任 意 的 な も の に す る か が 問 題 に な る 。 租 税 条 約 に 規 定 さ れ る 仲 裁 に つ い て 、 仲 裁 手 続 を 開 始 す る に 当 た っ て 、 一 方 の 当 事 国 ま た は 納 税 者 が 一 方 的 に 申 立 を 行 え る か 、 そ れ と も 当 事 国 、 場 合 に よ っ て は そ れ に 加 え て 納 税 者 の 同 意 を 得 た う え で 仲 裁 に 問 題 を 付 託 す る か と い う 問 題 で あ る 。 通 常 、 条 約 上 の 紛 争 処 理 手 続 と し て 仲 裁 を 置 く 場 合 に は 、 一 方 当 事 国 ( 租 税 条 約 の 場 合 は 納 税 者 が 申 立 を 行 う こ と も 考 え ら れ る ) が 相 手 方 当 事 国 の 同 意 を

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得 ず に 一 方 的 に 付 託 で き る の が 普 通 で あ る が 、 単 に 両 当 事 国 、 場 合 に よ っ て は そ れ に 加 え て 納 税 者 が 合 意 を 与 え る べ き 仲 裁 手 続 を 事 前 に 決 め て お く だ け と す る こ と も 考 え ら れ 、 現 在 ま で に 米 国 の 結 ん だ も の は す べ て こ の 種 類 の も の で あ る 。 日 蘭 租 税 条 約 は こ の 点 に つ い て は 、 納 税 者 が 申 立 権 を も つ と い う 形 で 義 務 的 な 仲 裁 手 続 と し た ( 新 日 蘭 租 税 条 約 24 条 5 お よ び 「 実 施 取 決 め 」 1 )。 仲 裁 を 義 務 的 な も の に す る か 、 任 意 的 な も の に す る か は 、 仲 裁 手 続 の 利 用 可 能 性 の 大 き さ に 関 わ る が 、 も っ ぱ ら 政 策 判 断 の 問 題 で あ る こ と に か わ り は な い 。 Ⅲ . 仲 裁 手 続 上 の 問 題 1 . 概 要 新 日 蘭 租 税 条 約 上 の 租 税 協 定 仲 裁 に 関 す る 実 際 的 な 手 続 を 定 め る 「 実 施 取 決 め 」 は 、 通 常 の 国 内 仲 裁 の 手 続 を モ デ ル に し た も の で あ る が 、 い く つ か の 顕 著 な 特 色 が あ る 。 も っ と も 重 要 な も の は 、 す で に 検 討 し た 当 事 者 で な い 納 税 者 の 関 与 の 仕 方 で あ る が 、 そ れ 以 外 に 原 理 的 な 問 題 を 含 む の は 、 透 明 性 、 条 約 解 釈 規 則 と 監 督 ( コ ン ト ロ ー ル ) の 問 題 が あ る 。 2 . 透 明 性 a . 仲 裁 に お け る 透 明 性 仲 裁 の 特 色 は 、 紛 争 の 処 理 を 任 意 の 専 門 的 仲 裁 人 に 委 ね る 点 に あ る が 、 同 時 に そ の 手 続 が 裁 判 手 続 と 比 べ て 柔 軟 な 点 に あ る 。裁 判 は 通 常 公 開 の 場 で 行 わ れ 、 か つ 判 決 は 公 表 さ れ る 。 し か し 、 仲 裁 の 場 合 は 審 理 が 公 開 さ れ る こ と は ほ と ん ど な く ( も ち ろ ん 当 事 者 が 審 理 の 公 開 を 選 択 す る こ と は で き る )、 判 断 内 容 が 公 表 さ れ る の も 例 外 で あ る 。 む し ろ 手 続 が 公 開 さ れ ず 、 ま た 判 断 内 容 が 公 表 さ れ な い 点 が 仲 裁 の メ リ ッ ト と さ れ る 。 し か し 、 私 人 間 の 私 的 利 益 に 関 す る 紛 争 を 処 理 す る た め の 仲 裁 で あ れ ば と も か く 、 公 的 利 益 が 関 係 す る 公 的 性 格 を も つ 紛 争 を 仲 裁 手 続 に よ っ て 処 理 す る 場 合 に そ れ で 足 り る か と い う の は 大 き な 問 題 で あ る 。 公 的 利 益 に 関 係 す る 紛 争 に つ い て は 、 そ れ が ど の よ う な 形 で ど の よ う に 処 理 さ れ た か は 市 民 に き ち ん と 説 明 で き る 形 式 を 踏 む こ と は 非 常 に 重 要 で あ る 。 投 資 協 定 に 関 す る 紛 争 を 処 理 す る 投 資 協 定 紛 争 で は 、 多 く の 仲 裁 判 断 が 公 表 さ れ て い る ほ か 、 N G O 等 に よ る 第 三 者 意 見 ( ア ミ カ ス ・ キ ュ リ エ ) の 提 出 を 認 め る こ と も す で に 行 わ れ 、 仲 裁

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*26 Alessandra Asteriti and Christian J. Tams, "Transparency and Representation of the Public Interest in Investment Treaty Arbitraion," in Stephan W. Schill ed., International Investment Law and Comparative

Piblic Law(2010), pp.787ff.参 照 。 審 理 の 公 開 等 も 議 論 さ れ て い る の は 、こ の よ う な「 透 明 性 の 要 請 」ゆ え で あ る*26 。 透 明 性 は 公 的 性 格 を も つ 紛 争 に つ い て 、 ま た 判 断 内 容 い か ん で は 国 家 の 公 的 措 置 の 差 止 め や 数 千 億 に 上 る 損 害 賠 償 金 の 支 払 い が 命 じ ら れ る に も か か わ ら ず 、 秘 密 裏 に 処 理 を 行 う こ と が 正 当 と 言 え な い と い う 発 想 に 由 来 す る 。 b .「 実 施 取 決 め 」 と 透 明 性 「 実 施 取 決 め 」上 、透 明 性 に 関 わ る の は 、「 9 . 手 続 上 及 び 証 拠 上 の 規 則 」、 「 10. 仲 裁 の 要 請 を 行 っ た 者 の 参 加 」 お よ び 「 14.仲 裁 決 定 」 で あ る 。 9 . は 仲 裁 審 理 の 公 開 、 10. は 納 税 者 の 手 続 上 の 保 証 、 そ し て 14. は 仲 裁 決 定 の 公 表 に 関 係 す る 。 9 . 手 続 上 及 び 証 拠 上 の 規 則 こ の 取 決 め と 付 託 事 項 に 従 い 、 仲 裁 人 は 、 付 託 事 項 に 定 め ら れ た 事 項 を 解 決 す る た め に 必 要 と 認 め ら れ る 手 続 上 及 び 証 拠 上 の 規 則 を 採 用 す る 。 「 実 施 取 決 め 」9 は 、仲 裁 手 続 が 準 拠 す る「 規 則 」の 定 め 方 を 規 定 し て お り 、 こ の 規 則 に よ っ て 審 理 自 体 の 公 開 や ア ミ カ ス ・ キ ュ リ エ の 是 非 が 決 ま る 。 現 在 の と こ ろ 審 理 の 公 開 や 第 三 者 意 見 の 提 出 は 想 定 さ れ て い な い と 思 わ れ る が 、 こ れ ら を 認 め る こ と も 可 能 で あ る 。 10. 仲 裁 の 要 請 を 行 っ た 者 の 参 加 仲 裁 の 要 請 を 行 っ た 者 は 、 直 接 に 又 は そ の 代 理 人 を 通 じ 、 相 互 協 議 手 続 で 許 容 さ れ る の と 同 等 の 範 囲 で 、 仲 裁 人 に 対 し て 書 面 に よ り 自 ら の 立 場 を 表 明 す る こ と が で き る 。 加 え て 、 要 請 者 は 、 仲 裁 手 続 に お い て 、 仲 裁 人 の 許 可 を 得 て 口 頭 で 自 ら の 立 場 を 表 明 す る こ と が で き る 。 「 実 施 取 決 め 」 10. は 、 申 立 て を 行 っ た 納 税 者 に つ い て 、 審 理 に お い て 書 面 で 意 見 を 表 明 す る こ と は で き る が 、 仲 裁 人 の 決 定 い か ん で は 口 頭 で の 意 見 表 明 も 可 能 で あ る と す る 。 納 税 者 に 対 す る 一 応 の 手 続 的 権 利 は 保 証 さ れ て い る 。 14.仲 裁 決 定

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*27OECD, op.cit(note 1)., p.108. *28 伊 藤 前 掲 論 文 12 頁 注 35 仲 裁 決 定 は 、 仲 裁 人 の 単 純 多 数 決 で 決 せ ら れ る 。 仲 裁 の た め の 委 員 会 の 決 定 は 、 文 書 で 提 示 さ れ 、 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 が 決 定 し た 場 合 に は 、 依 拠 し た 法 の 出 所 及 び 結 論 に 至 っ た 理 由 が 示 さ れ る 。 い ず れ か 一 方 の 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 か ら 要 請 が あ っ た 場 合 に は 、 仲 裁 の た め の 委 員 会 の 長 は 、 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 に 対 し て 、 当 該 仲 裁 の た め の 委 員 会 に お け る 議 論 の 概 要 を 示 す 。 条 約 の 議 定 書 12 d) (i )の 規 定 に 従 い 、 仲 裁 の た め の 委 員 会 の 決 定 は 、 先 例 と し て の 価 値 を 有 し な い 。 仲 裁 決 定 は 、 仲 裁 の 要 請 を 行 っ た 者 及 び 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 が 公 表 の 形 式 及 び 内 容 に 関 し て 書 面 に よ り 同 意 し な い 限 り 、 公 表 さ れ な い 。 「 実 施 取 決 め 」 14. は 、 仲 裁 決 定 の 発 表 形 式 を 規 定 す る 。 14. に よ れ ば 、 決 定 は 文 書 に よ っ て 示 さ れ る が 、 通 常 の 判 決 理 由 の 部 分 は 、 両 当 事 国 の 要 請 が な い 限 り 両 当 事 国 に も 示 さ れ ず 、 一 方 の 当 事 国 の 要 請 し か な け れ ば 、 理 由 の 概 要 し か 示 さ れ な い 。 さ ら に 決 定 自 体 に つ い て も 、 仲 裁 要 請 者 お よ び 両 当 事 国 の 同 意 が な い 限 り 公 表 さ れ な い 。 相 互 協 議 の 結 果 が 公 表 さ れ な い こ と と 並 行 し た 取 り 扱 い で あ り 、 仲 裁 委 員 会 の 決 定 に 先 例 と し て の 価 値 を 持 た せ な い た め に こ の よ う な 仕 組 み が 考 え ら れ た*27 。 こ の 仲 裁 決 定 の 公 表 の 仕 組 み は 、 透 明 性 の 観 点 か ら は 問 題 が あ る と 言 わ ざ る を え な い 。 14. の 仕 組 み で は 、 条 約 の 解 釈 適 用 に 関 す る プ ロ セ ス が 外 か ら は 一 切 明 ら か に な ら ず 、 関 係 国 民 が 仲 裁 委 員 会 で の 作 業 に 疑 義 を も つ 可 能 性 は 払 拭 さ れ な い 。 相 互 協 議 の 結 果 自 体 も 現 行 の 租 税 協 定 で は 公 表 さ れ て い な い が*28 、 い ず れ も 条 約 の 解 釈 適 用 に 関 す る 決 定 で あ る 以 上 、 と も に 、 守 秘 す べ き 事 項 は 別 に し て 原 則 と し て 公 表 す る こ と が 望 ま し い 。 3 . 条 約 解 釈 規 則 ( 1 )「 実 施 取 決 め 」 13. 「 実 施 取 決 め 」13.は 、租 税 条 約 仲 裁 の 採 用 す べ き 条 約 解 釈 規 則 を 規 定 す る 。 13. 適 用 さ れ る 法 原 則 仲 裁 人 は 、 適 用 さ れ る 条 約 の 規 定 に 従 っ て 、 ま た 、 こ れ ら の 規 定 に 服 し つ つ 、 両 締 約 国 の 法 令 の 規 定 に 従 っ て 、 仲 裁 に 付 託 さ れ た 事 項 に つ い て の 決 定 を 行 う 。 仲 裁 人 は 、 条 約 の 解 釈 に 関 す る 事 項 を 、 条 約 法 に 関 す る ウ ィ ー ン 条 約 第 3 1 条 か ら 第 33 条 ま で に 採 用 さ れ た 解 釈 の 原 則 に 照 ら し 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 の 序 論 28か ら 36 . 1ま で に 述 べ ら れ る と お り 、 定 期 的 に 改 定 さ れ る

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*29 小 寺 彰 『 パ ラ ダ イ ム 国 際 法 』( 2004) 29 頁 参 照 。 OECD モ デ ル 租 税 条 約 コ メ ン タ リ ー に 配 意 し つ つ 、 判 断 す る 。 同 様 に 、 独 立 企 業 原 則 の 適 用 に 関 す る 事 項 は 、 OECD 多 国 籍 企 業 と 税 務 当 局 の た め の 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン に 配 意 し て 判 断 さ れ る も の と す る 。 ま た 、 仲 裁 人 は 、 両 締 約 国 の 権 限 の あ る 当 局 が 付 託 事 項 で 明 示 的 に 挙 げ る そ の 他 の 根 拠 を 考 慮 す る 。 こ の 規 定 は 、 新 日 蘭 租 税 条 約 の 解 釈 が 、「 条 約 法 に 関 す る ウ ィ ー ン 条 約 」( 以 下 「 ウ ィ ー ン 条 約 」 と い う ) の 解 釈 原 則 に 照 ら し て 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 等 の OECD 関 係 文 書 を 考 慮 し て 解 釈 す べ き こ と を 定 め て い る 。 a .「 解 釈 の 原 則 」 の 意 義 国 際 条 約 の 解 釈 を 、 ウ ィ ー ン 条 約 31 条 か ら 33 条 ま で の 規 定 に 準 拠 し て 行 う こ と は 、 国 際 法 の 規 則 で あ る 。 こ の 点 を 踏 ま え る と 本 規 定 は 次 の 2 つ の 特 色 が あ る 。 第 1 は 、 ウ ィ ー ン 条 約 31 条 か ら 33 条 ま で の 規 定 に つ い て 、 そ こ で 「 採 用 さ れ た 原 則 」 と 表 現 し た こ と で あ る 。 一 般 的 に 、 規 則 と は そ れ に 厳 密 に 従 う こ と を 要 求 さ れ る 法 規 範 を 、ま た 原 則 と は そ れ に 厳 密 に 従 う こ と は 要 求 さ れ ず 、 合 理 的 な 場 合 に は 例 外 を 許 容 す る 法 規 範 を さ す と 考 え ら れ る*29 。 O E C D モ デ ル 租 税 条 約 の 該 当 規 定 作 成 者 が 国 際 法 上 の 原 則 と 規 則 の 違 い を 混 同 し た た め に 「 原 則 」 と 表 記 し た と い う の で は な く 、「 採 用 さ れ た 」 と い う 語 が 原 則 の 前 に あ る こ と か ら 推 測 で き る の は 、 意 図 的 に 「 原 則 」 の 語 を 使 っ た こ と で あ る 。 つ ま り 、こ れ は ウ ィ ー ン 条 約 31 条 か ら 33 条 ま で の 規 定 に は 必 ず し も 準 拠 せ ず に 、 そ れ ら の 規 定 を 導 い た 源 に 存 在 す る 原 則 に 従 え ば 足 り る と 記 し た と み る べ き で、 、 、 、 、 、 あ る 。 こ の 点 を 具 体 的 に 説 明 し よ う 。 ウ ィ ー ン 条 約 に お い て 条 約 の 解 釈 方 法 を 規 定 す る の は 、31 条 以 下 、と く に 31 条 と 32 条 で あ る 。 第 3 1 条 ( 解 釈 に 関 す る 一 般 的 な 規 則 ) 1 条 約 は 、 文 脈 に よ り か つ そ の 趣 旨 及 び 目 的 に 照 ら し て 与 え ら れ る 用 語 の 通 常 の 意 味 に 従 い 、 誠 実 に 解 釈 す る も の と す る 。 2 条 約 の 解 釈 上 、 文 脈 と い う と き は 、 条 約 文 ( 前 文 及 び 附 属 書 を 含 む 。) の ほ か に 、 次 の も の を 含 め る 。 ( a ) 条 約 の 締 結 に 関 連 し て す べ て の 当 事 国 の 間 で さ れ た 条 約 の 関 係 合 意 ( b ) 条 約 の 締 結 に 関 連 し て 当 事 国 の 一 又 は 二 以 上 が 作 成 し た 文 書 で あ つ て こ れ ら の 当 事 国 以 外 の 当 事 国 が 条 約 の 関 係 文 書 と し て 認 め た も の

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3 文 脈 と と も に 、 次 の も の を 考 慮 す る 。 ( a ) 条 約 の 解 釈 又 は 適 用 に つ き 当 事 国 の 間 で 後 に さ れ た 合 意 ( b ) 条 約 の 適 用 に つ き 後 に 生 じ た 慣 行 で あ つ て 、 条 約 の 解 釈 に つ い て の 当 事 国 の 合 意 を 確 立 す る も の ( c ) 当 事 国 の 間 の 関 係 に お い て 適 用 さ れ る 国 際 法 の 関 連 規 則 4 用 語 は 、 当 事 国 が こ れ に 特 別 の 意 味 を 与 え る こ と を 意 図 し て い た と 認 め ら れ る 場 合 に は 、 当 該 特 別 の 意 味 を 有 す る 。 第 3 2 条 ( 解 釈 の 補 足 的 な 手 段 ) 前 条 の 規 定 の 適 用 に よ り 得 ら れ た 意 味 を 確 認 す る た め 又 は 次 の 場 合 に お け る 意 味 を 決 定 す る た め 、 解 釈 の 補 足 的 な 手 段 、 特 に 条 約 の 準 備 作 業 及 び 条 約 の 締 結 の 際 の 事 情 に 依 拠 す る こ と が で き る 。 (a ) 前 条 の 規 定 に よ る 解 釈 に よ つ て は 意 味 が あ い ま い 又 は 不 明 確 で あ る 場 合 ( b ) 前 条 の 規 定 に よ る 解 釈 に よ り 明 ら か に 常 識 に 反 し た 又 は 不 合 理 な 結 果 が も た ら さ れ る 場 合 こ れ ら の 規 定 は ま さ に 条 約 中 の 表 題 に 「 規 則 」 と あ る よ う に 、 条 約 当 事 国 が 条 約 解 釈 を 行 う 際 に 遵 守 す べ き 規 範 を 規 定 す る 。 し か し 、 31 条 お よ び 32 条 の 「 採 用 し た 原 則 」 と い う こ と に な る と 、 そ こ か ら 導 か れ る の は 、 精 々 下 記 の よ う な 原 則 で あ る 。 第 31 条 が 基 礎 を 置 く 、 条 約 解 釈 に お い て 条 約 文 ( text) を 基 本 と し て 解 釈 す べ き で あ り 、 条 約 の 準 備 作 業 は 条 約 解 釈 に お け る 補 足 的 手 段 に と ど ま る 。 こ の よ う に 、「 実 施 取 決 め 」 13 は 、 条 約 解 釈 に 関 す る 国 際 法 規 範 と は 異 な る も の を 採 用 し た の で あ る 。 b . OECD 文 書 の 位 置 ウ ィ ー ン 条 約 31 条 、 32 条 を 準 拠 す べ き 原 則 と す る と 、 こ れ ら 以 外 に 準 拠 な い し 参 照 す べ き も の が 必 要 に な る 。 そ こ で 「 実 施 取 決 め 」 上 条 約 解 釈 に お い て 大 き な 意 味 を も た さ れ て い る の は 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 条 約 コ メ ン タ リ ー や OECD 多 国 籍 企 業 及 び 税 制 運 営 の た め の 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン で あ る 。「 実 施 取 決 め 」 13 で は 、 こ れ ら の 文 書 に 配 意 ( ウ ィ ー ン 条 約 の 訳 語 を 使 え ば 「 考 慮 」 の 意 ) す べ き こ と が 明 確 に 規 定 さ れ る 。 OECD モ デ ル 租 税 条 約 コ メ ン タ リ ー や OECD 多 国 籍 企 業 及 び 税 制 運 営 の た め の 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン は 、 OECD 内 の 機 関 が 採 択 し た 文 書 で あ り 、 ウ ィ ー ン 条 約 上 は 、 せ い ぜ い 「 解 釈 の 補 足 的 な 手 段 」 に す ぎ な い 。 条 約 法 条 約 上 「 解 釈

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*30 最 高 裁 判 所 第 一 小 法 廷 判 決 平 成 21 年 10 月 29 日 の 補 足 的 な 手 段 」 に 限 定 は な く 、 解 釈 者 が 合 理 的 な 手 段 と 考 え れ ば ど の よ う な も の で も 採 用 で き る 。 こ の よ う な 取 り 扱 い が 許 さ れ る の は 、 そ れ ら が 「 解 釈 の 補 足 的 手 段 」 に す ぎ ず 、 条 約 解 釈 規 則 に よ っ て 導 出 さ れ る 解 釈 の 確 認 ま た は そ れ が 不 合 理 な 結 果 を ま ね く 場 合 に 使 わ れ る に す ぎ な い も の だ か ら で あ る 。 と こ ろ が 、「 実 施 取 決 め 」 で は 、 こ れ ら の 文 書 が ウ ィ ー ン 条 約 上 の 解 釈 規 則 の 源 に あ る 原 則 と 同 じ 位 置 づ け を 与 え ら れ て い る 、 さ ら に 言 え ば 、 ウ ィ ー ン 条 約 31 条 、 32 条 と の 関 係 で 準 拠 さ れ る 規 範 は あ く ま で 原 則 で あ る 以 上 、 そ れ が 解 釈 を 拘 束 す る 程 度 は 低 く 、「 実 施 取 決 め 」 13 が 配 意 す べ き と し た OECD モ デ ル 租 税 条 約 コ メ ン タ リ ー 等 の 文 書 が 仲 裁 の 解 釈 に お い て 占 め る 重 要 性 は 実 質 上 ウ ィ ー ン 条 約 を 上 回 る と み る べ き で あ る 。 ( 2 ) 問 題 点 仲 裁 委 員 会 の 行 う 解 釈 に つ い て 独 自 の 解 釈 規 則 を 定 め た こ と は ど の よ う な 問 題 点 を 生 む か 。 第 1 に 、 租 税 条 約 に つ い て こ の よ う な 独 自 の 解 釈 規 則 を 採 用 す る こ と は 、 国 内 裁 判 所 に お い て 租 税 条 約 を 解 釈 す る 場 合 と 齟 齬 が 生 ず る 可 能 性 を 招 来 す る 可 能 性 が あ る 点 で あ る 。 つ ま り 、 日 本 も 含 め て 国 内 裁 判 所 に お い て 租 税 条 約 を 解 釈 適 用 す る こ と が 行 わ れ る が 、 そ の と き は ウ ィ ー ン 条 約 の 解 釈 規 則 に 則 っ て 解 釈 す る こ と が 要 求 さ れ る*30 。国 内 法 上 、ウ ィ ー ン 条 約 は 国 会 承 認 条 約 で あ る が 、 OECD モ デ ル 租 税 条 約 コ メ ン タ リ ー は OECD と い う 国 際 機 関 の 非 拘 束 的 決 定 で し か な い か ら で あ る 。 も ち ろ ん 、 ウ ィ ー ン 条 約 上 の 条 約 解 釈 規 則 に よ れ ば 自 動 的 に 最 適 の 解 釈 が 常 に 導 か れ る も の で は な い 以 上 、 補 足 手 段 と し て OECD モ デ ル 租 税 条 約 コ メ ン タ リ ー や OECD 多 国 籍 企 業 及 び 税 制 運 営 の た め の 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン と い う OECD 文 書 が 解 釈 上 意 味 を も つ こ と は あ り う る 。 し か し 、 そ れ は あ く ま で 解 釈 の 補 足 手 段 と し て で あ る 。 こ の よ う に 条 約 解 釈 規 範 に つ い て 差 異 が あ る こ と は 、 国 内 裁 判 所 に お い て 行 わ れ る 租 税 条 約 の 解 釈 結 果 と 仲 裁 委 員 会 の 行 う 解 釈 結 果 が 異 な り う る こ と を 意 味 す る 。 納 税 者 は OECD の 諸 文 書 を 根 拠 に 主 張 し た い と き は 租 税 条 約 仲 裁 を 、 そ れ か ら 離 れ た い と き は 国 内 裁 判 所 を 利 用 す べ き だ と い う こ と に な る 。 こ の こ と は ど の よ う に 考 え る べ き で あ ろ う か 。 第 1 に 、 こ の よ う な 差 異 が 仲 裁 結 果 と 各 国 の 行 う 条 約 解 釈 の 間 に 生 ま れ る こ と 自 身 が 問 題 で あ る 。 同 じ 条 約 を 解 釈 す る に も か か わ ら ず 機 関 が 異 な る こ と で

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