ねじ締結用潤滑剤ポリイソブチレンのトライボロジー特性に関する研究
大津 健史
1*,小松 恭一
2,橋村 真治
3Study on Tribological Properties of Polyisobutylene Lubricant for Use in Screw Tightening
Takefumi OTSU1*, Kyoichi KOMATSU2 and Shinji HASHIMURA3
The lubrication performance of polyisobutylene which is used as a lubricant for bolt tightening, was investigated in order to understand the lubrication mechanism during the tightening process. Ball on plate type spinning friction tests were conducted, and three kind of polyisobutylene(PIB-L, M, H) in which the highest viscosity is PIB-H, followed by PIB-M and PIB-L, and polyphenyl ether(5P4E) were used as lubricants in this study. Results show that the friction coefficient of PIB at initial stage of the tests at 400 MPa, depends on the viscosity, and that of PIB-H is the highest in the lubricants. It is also shown the friction coefficient increase with increasing contact pressure, and that of PIB-L, PIB-H and 5P4E at 600 MPa is greater than that of PIB-M. Large wear is observed on the contact surface after the test. In the spinning test, the thickness of entrapment oil film decrease with time, and the decreasing rate in 5P4E is greater than that in PIB-M. These results suggest that the lubrication film formed by PIB-M has an ability to prevent for wear and seizure at the condition with high contact pressure, such as the contact of screw tightening.
Key Words : lubricant, friction, screw, polyisobutylene, polyphenyl ether
1.緒 言
ねじ締結体における締付け力は,ねじ部,およ び座部の摩擦係数に大きく影響される 1).各摩擦 係数は,ねじ加工で生じる形状誤差や平面度,真 直度等の幾何学的誤差,表面粗さの不均一さ等の 影響を受けるため,その値は締付け毎に見掛け上 変化することとなる.また,締付け時には,接触 面間ですべり摩擦が起こり,その結果,凝着摩耗, 掘起し摩耗が引き起こされる.したがって,摩擦 係数はその発生状態によっても変化する.このよ うに,締付け時の摩擦係数の変化はさまざまな原 因で引き起こされ,それらは締付け時のトルク係 数,および締付け力のばらつきを発生させる.し たがって,締付け力を高精度にコントロールする ためには,各摩擦係数のばらつきを小さく抑える ことが必要となる. ねじ締結用潤滑剤2) は,締付け時の摩擦係数を 安定化させ,締結後の締付け力のばらつきを抑え る機能をもつ.代表的な潤滑剤としては,鉱油や 合成油,二硫化モリブデンペースト等が挙げられ る 3).これらを用いた際の潤滑機構として,ねじ 部,および座部の接触面間に適切な潤滑膜を形成 させ,摩耗や焼付きを抑制することが考えられて いる.ただし,締結における潤滑条件が非常に複 雑であるため,これまでにその潤滑機構は詳細に 理解されていない.それとともに,潤滑剤として 必要となる基本特性(粘度や分子構造等)も詳細 論 文 原稿受付 2016 年 6 月 6 日 掲載決定 2016 年 9 月 3 日トライボロジスト J-STAGE 早期公開日 2016 年 10 月 27 日 1 大分大学・工学部(〒870-1192 大分県大分市大字旦野原 700)Faculty of Engineering, Oita University (700, Dannoharu, Oita-shi, Oita 870-1192) 2 (株)東日製作所(〒143-0016 東京都大田区大森北 2 丁目 2-12)
Tohnichi MFG. Co., Ltd. (2-12, Omori-kita 2-chome, Ota-ku, Tokyo 143-0016) 3 芝浦工業大学・工学部(〒135-8548 東京都江東区豊洲 3 丁目 7-5)
Faculty of Engineering, Shibaura Institute of Technology (7-5, Toyosu 3-chome, Koto-ku, Tokyo 135-8548) *
に整理できておらず,このような課題を解決する ことにより締結時の潤滑状態の理解が深まると考 えられる. 本研究では,ねじ締結用潤滑剤としてポリイソ ブチレン(PIB)を検討した.これまでに,PIB な どの高分子樹脂剤を潤滑剤に利用した例として, 圧延加工,熱間鍛造などの塑性加工における利用 検討が挙げられる4,5).ここでは,その基礎的なト ライボロジー特性を調べることを目的とし,面接 触下でのスピン摩擦実験により,PIB の摩擦・摩 耗特性を調べた.また,光干渉法を用いた直接観 察により,スピン摩擦時の接触面間での油膜形成 状態についても調べた.これらの結果を基に,PIB の潤滑機構,およびねじ面や座面での潤滑機構に ついて検討を行った.
2.実験方法
2.1 スピン摩擦実験 本研究では,スピン摩擦試験機により,各潤滑 剤の摩擦特性を調べた.Figure 1 に本研究で使用 したスピン摩擦試験機の主要部,Fig. 2 に摩擦部 分の拡大図を示す. 固定試験片①は,取付け枠②上の試験部③中に 取り付けられた試験片ホルダ④に固定し,回転試 験片⑤は回転軸⑥の先端に取り付けた袋ナットに より固定する.両試験片を接触させた状態で,取 付け枠を上方に引き上げることで,接触部に荷重 W を加える.回転軸はモータにより回転させるこ とができ,これにより接触面でスピン摩擦を行わ せることができる.スピン摩擦により取付け枠に 伝えられる回転力F はロードセル⑦で測定し,こ の回転力から求まる摩擦トルクT を基に,以下の 式(1)より接触面間の摩擦係数 µ を算出した. T FR Wr Wr (1) R:取付け枠部の回転半径,r:固定試験片の接 触部半径(接触部の中心位置) 回転試験片には直径13.5 mm の軸受球を用い, 固定試験片には直径13 mm,高さ 10 mm の円筒材 を使用した.なお,回転試験片の材質は高炭素ク ロム軸受鋼JIS SUJ2(HV≒840),固定試験片の材 質はクロムモリブデン鋼 SCM435(HV≒325)で ある.固定試験片円筒端面中心には直径3 mm の 穴を設け,表面はダイヤモンドスラリー(粒径 6 µm)によるバフ研磨を行い,鏡面に仕上げた.ま た,試験時に両試験片が正確に接触するように, 実験前に円筒面の穴周辺部を回転試験片で押し付 け,幅約0.12 mm の球状座面となるように塑性変 形させた.押付け荷重は,2 kN とした. 実験は,室温 24~26℃の下で行った.荷重は, 締付け時のねじ面,座面の面圧を考慮し118~705 N(平均接触面圧 100~600 MPa)の範囲で変化さ せ,回転数は42 rpm(すべり速度約 7 mm/s),実 験時間は 10 min で行った.なお,すべり速度 7 mm/s は,M10 のボルトを約 10 rpm で締め付ける 際のすべり速度と同等である.また,潤滑剤は試 験前に接触部に十分に塗布し,試験中の再供給は 行わなかった. 本実験では潤滑剤として,3 種類のポリイソブ チレンPIB-L,PIB-M,PIB-H,およびポリフェニ ルエーテル(5P4E)を使用した.各潤滑剤の 40℃ Fig.1 Test apparatus for the spinning friction testにおける動粘度は,PIB-L で 480 mm2/s,PIB-M で
4650 mm2/s,PIB-H で 48000 mm2/s,5P4E で 302
mm2/s であった.また,分子量は,PIB-L で 550,
PIB-M で 1000,PIB-H で 2300,5P4E で 4466)であ
った. 2.2 スピン摩擦下の油膜観察実験 本研究では,スピン摩擦時の潤滑膜の挙動を調 べるため,接触面にスクイーズ過程で閉じ込め膜 を形成させ,その油膜を直接観察する実験を行っ た.過去に,桑野らは,このような実験方法を使 用し,往復スピン運動下における閉じ込め膜の挙 動を調べている7). Figure 3 に実験装置の概要を示し,(a)は正面図, (b)は A-A から見た断面図をそれぞれ示す.試験片 には鋼球とガラスディスク(光学ガラスBK7 製, 片面にクロムの半透過膜をコーティングしたもの) を使用し,垂直方向に荷重を加え,二つの試験片 を点接触状態で接触させる.このとき,接触面に はスクイーズ過程で発生する閉じ込め膜が形成さ れる(Fig.4).鋼球は,高炭素クロム軸受鋼 JIS SUJ2 (HV≒840)製で,直径 19.05 mm である.また, 図に示すように,鋼球の接触位置はディスクの回 転中心に一致させており,これによりスピン摩擦 を行えるようにしている.ガラスディスク取付け 部はプーリとなっており,ベルト伝動によりモー タで回転させることが可能となっている.二つの 試験片を接触させた状態でディスクを回転させる ことで,スピン摩擦を行わせることができる.ま た,接触面での油膜の挙動は,上方より顕微鏡で 観察した.油膜厚さは光干渉によって生じる干渉 縞の色を解析することにより求めた. 実験手順,および条件は以下の通りである.ま ず,鋼球を荷重14 N(ヘルツの最大接触圧力 470 MPa)で 1 s 以内にディスクに接触させ,接触面 間に閉込め膜を形成させる.その後,ディスクを 回転数10 rpm の一定速度で回転させ,接触部は上 部より顕微鏡で観察した.潤滑剤には前述した 3 種類の PIB,5P4E を使用した.実験は,室温 24 ~26℃で行った.
3.実験結果,および考察
3.1 スピン摩擦実験結果 Figure 5,6 には,接触面圧 400 MPa における実 験開始から3 s,10 min までの摩擦係数の時間変化 をそれぞれ示す.Figure 7 には,10 min の実験後 における固定試験片摩擦面の観察結果を示す.図 中の矢印は鋼球の回転方向を示す.なお,(a),(d), (f)の画像は他に比べ縮小されている. Figure 5 より,摩擦係数には各潤滑剤による違 いが現れており,実験開始直後に摩擦係数の上昇 が見られるが,その後低下し,3 s 時には PIB-H で約0.21,PIB-M で約 0.18,PIB-L で約 0.15 の値 を示している.この結果から,摩擦係数が潤滑剤 MicroscopeGlass disc Lubricant Ball Motor Pully Belt Glass disc H A A
(a) Front view (b) Section view at A-Pully
Fig.3 Observation apparatus for the spinning test
粘度とともに大きくなることがわかる.また, 5P4E では,実験開始から約 0.1 の値を示すことが わかる. Figure 6 の 10 min までの摩擦係数の時間変化よ り,PIB-L では時間経過とともに摩擦係数が上昇 し,最大約0.4 の値となることがわかる.その後, 時間とともに低下するが,10 min 時には約 0.33 を 示し,この値は実験初期の摩擦係数(Fig. 5)の約 2 倍の値となっている.Figure 7 の摩擦面の観察結 果より,摩擦面にはすべり方向に摩耗の跡が見ら れ,接触域幅は実験前の約7 倍に拡大しているこ とがわかった.PIB-M では,10 min までに摩擦係 数の大きな変化は見られず,実験初期の約0.18 の 値を継続している.また,実験後の摩擦面におい ても,PIB-L と比較して大きな摩耗は発生してお らず,接触域の拡大もほぼ見られないことがわか る.なお,このような実験結果には再現性が得ら れている.一方で,PIB-H,5P4E では,摩擦係数 がほぼ実験初期の値を示す結果(No.1 の結果)と ともに,実験によっては,摩擦係数が時間ととも に大きく上昇する,あるいは大きく変化する結果 (No.2 の結果)も得られた.No.2 の結果では,実 験時において摩擦係数は最大として約 0.65 の値 を示し,実験後の摩擦面にはすべり方向に大きな 摩耗が見られた.また,PIB-H,5P4E における No.2 の接触域幅は,それぞれPIB-M の約 7.5 倍,4 倍 に拡大していることもわかった.このような結果 はPIB-H で 3 回中 2 回,5P4E で 3 回中 1 回見ら れ,実験時,接触面における油膜形成状態が不安 定であったことが考えられる. 3.2 摩擦特性に及ぼす粘度の影響 Figure 8 には,400 MPa での実験における 1 s, 10 min 時の摩擦係数(2 回以上の実験結果の平均 値)と潤滑剤粘度の関係を示す.なお,Fig. 6 に 示した通り,PIB-H では実験結果にばらつきがあ ったが,ここでは3 回の実験結果の平均値として 示している. この図より,3 種類の PIB において,1 s 時の摩 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 Fri ct ion coef ficient Time, s
PIB-L PIB-M PIB-H_No.1
PIB-H_No.2 5P4E_No.1 5P4E_No.2
Fig.5 Changes in friction coefficient to 3 s at 400 MPa
擦係数は粘度とともに大きくなることがわかり, この関係性はPIB の形成する油膜のせん断抵抗が 分子量とともに高くなるためと考えられる.一方 で,10 min 時の摩擦係数は,PIB-M では 1 s とほ ぼ同じ値を示すが,PIB-L や PIB-H では上昇して おり,粘度との関係性がなくなることがわかる. この結果は,時間経過により接触面間の油膜形成 状態が変化し,摩擦係数に影響したものと考えら れる.PIB-L では粘度が低いために油膜厚さが薄 く,その結果,時間経過とともに油膜破断が進行 したと考えられる.また,PIB-H では粘度が高い ために流動性が低くなり,時間経過とともに接触 面への油の供給が低下し(油量不足となり),油膜 破断が生じたことが考えられる.CANNらは,EHL における入口油量が粘度と関係し,粘度が高いと 油量不足による油膜厚さの減少が生じることを示 している8). 3.3 摩擦特性に及ぼす接触圧力の影響 Figure 9 には,100,400,600 MPa における実 験開始から5 min 時の摩擦係数(2 回以上の実験 結果の平均値)を示す.なお,実験結果にばらつ きがあった条件においても,実験結果の平均値と して示している.また,Fig.10 には,600 MPa で の実験における 10 min 後の摩擦面観察結果の一 例を示す. Figure 9 より,PIB-M では,摩擦係数は 100, 400 MPa とほぼ同じ約 0.18 の値を示すが,600 MPa で は約 0.24 まで上昇することがわかる.Figure 10 より,実験後にはすべり方向に摩耗の発生が見ら れることもわかる.PIB-L では,摩擦係数は圧力 とともに上昇し,400, 600 MPa では PIB-M を越え た値を示している.5P4E においても,圧力ととも に上昇する特性が示されており,その値は 400 MPa では PIB-M とほぼ同じ値となり,600 MPa で は約 0.34 と大きく上昇することがわかる.また, Fig. 10 より,実験後には摩耗の発生が見られ,接 触域幅はPIB-M の約 1.2 倍に拡大しているとわか る.PIB-H では,400 MPa では約 0.49 に上昇する が,600 MPa では約 0.39 に低下することがわかる (この結果は,後述するように,高圧下での油膜 のせん断強度と関係することが考えられ,その強 度が600 MPa で高くなったためとも推測される. この点の詳細な理解は今後の課題とする).いずれ の結果において,600 MPa での摩擦面には摩耗が 発生しており,PIB-L や PIB-H でのそれは PIB-M と比較して大きくなり,接触域幅は PIB-M の約 3.4 倍,5.3 倍にそれぞれ拡大している.一方で, 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 1 10 100 1000 Fr ic tion coef fi ci en t Viscosity, Pa・s
PIB-L (at 1s) PIB-M (at 1s) PIB-H (at 1s)
PIB-L (at 10min) PIB-M (at 10min) PIB-H (at 10min)
Fig.8 Realation between friction coefficient and viscosity
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 100 200 300 400 500 600 700 F rictio n coef ficien t at 5 min
Contact pressure, MPa
PIB-L PIB-M PIB-H 5P4E
Fig.9 Realation between friction coefficient and contact pressure
画像は省略するが,100 MPa での摩擦面では,全 ての潤滑剤において大きな摩耗の発生は見られず, 接触面幅の拡大も起こらなかった. ここで,接触面における油膜形成状態を粘度-圧力係数α を基に考察する.一般に,接触面間に 存在する油は,接触圧力の上昇により固化しやす くなる,その結果,接触面上において固化膜とし て存在でき,直接接触を防ぐ潤滑膜として機能す ることが考えられる 9).また,そのような膜は α の高い油ほど形成しやすいと考えらえる.本実験 で使用したPIB-M の α は約 22 GPa-1(40℃)10), 5P4E のそれは 38.5 GPa-1(40℃)11) である.した がって,PIB-M よりも 5P4E の方で,固化膜が形 成されやすく,摩擦係数の上昇,および摩耗の発 生も抑制されると推測される.一方で,実験結果 のFig. 9, 10 からは,600 MPa の摩擦係数は 5P4E の方で大きくなっており,また,摩耗の発生も大 きい.したがって,接触面における油膜形成状態 は のみでは検討できないとわかり,スピン摩擦 によるせん断を受けた場合の油膜の形成状態から 考察する必要があると考えられる.以上の考察を 検討するために,本研究では閉込め膜(スクイー ズ運動下で接触面間に固化した油)を利用したス ピン摩擦実験を,2.2 の直接観察実験により行っ た.その結果を以下の3.4 に示す. 3.4 スピン摩擦下の油膜観察結果 Figure 11 にはスピン摩擦実験における閉込め膜 厚(最大膜厚)の時間変化,Fig. 12 には 0,10, 30,60 s における接触域の観察結果をそれぞれ示 す.なお,Fig. 11 には,回転を加えずに一定荷重 を保持した静的条件(図中に static として示して いる)における結果も示し,Fig. 12 内の矢印はデ ィスクの回転方向を示す. Figure 11 より,静的条件下において,PIB-L の 閉じ込め膜の膜厚は時間とともに減少することが わかり,60 s 後には 89 nm と接触直後の 0.39 倍程 度まで低下していることがわかる.一方で,PIB-M, 5P4E の結果では,最大膜厚はほぼ低下しておらず, 約 325 nm の膜厚を維持していることがわかる. この結果より,PIB-M や 5P4E では,スクイーズ 過程で形成された閉じ込め膜内の油は固化してい るものと考えられる.一方で,PIB-L では,閉込 め膜内の油は十分に固化しておらず,その結果, 時間とともに接触域外へ排出されたと考えられる. Figure 11, 12 より,スピン摩擦を加えると,そ の膜厚が静的条件時よりも早期に低下することが わかり,その変化は潤滑剤で違いが見られるとわ かる.PIB-L では開始から 10 s 後に 36 nm まで低 下し,60 s 時には消失する.PIB-M,5P4E では, 開始時にはほぼ同等の膜厚であるが,10 s 後に 205, 174 nm へそれぞれ低下し,その低下率は 5P4E の 方が大きい.また,Fig. 12 より,閉じ込め膜の領 域の平均直径を求めると,10 s 後には,PIB-M で は147(0 s 時)から 109 µm,5P4E では 143(0 s 0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 10 20 30 40 50 60 Film thickness, nm Time, s
PIB-L PIB-M 5P4E
PIB-L_static PIB-M_static 5P4E_static
Fig.11 Chnages in film thickness with time
Fig.12 Changes in entrapment oil film during the spinning test
時)から90 µm となり,その縮小率は 5P4E の方 が大きくなることがわかった.その後の時間にお いても,膜厚の低下,および領域の縮小は継続し て起こり,膜厚とその領域は5P4E の方が PIB-M よりも小さくなる.さらに,Fig. 12 より,5P4E では,30 s 時に閉じ込め膜の周囲が黒くなってお り,摩耗が発生していることがわかる.また,そ の摩耗は時間経過とともに大きくなり,60 s 時に は接触域の大部分で摩耗が発生している.一方で, PIB-M では摩耗の発生は観察されない. これらの結果より,油膜部分にせん断が加わる ことにより,油膜内の油は周囲へ流動する 7)が, その流動はPIB-M の方が起こりにくく,その結果, 長い時間で厚膜が維持されたと考えられる.した がって,PIB-M の油膜のせん断強度は 5P4E より も高いと推測される.山本らは,ポリビニルエー テルPVE(鎖状炭化水素)の摩耗特性が α の高い トラクション油(サントトラック)やタール水添 油よりも優れることを報告12)し,その考察として, 接触面間に形成された PVE の固化膜のせん断強 度がトラクション油(サントトラック)やタール 水添油のそれよりも高いために,すべり摩擦下で 容易に崩壊せず,その結果,摩耗特性が高まった と示している.また,直接観察から,固化しやす いタール水添油の閉じ込め膜は,すべり摩擦が加 わった際に崩壊しやすいことも明らかにされてい る 13).これらの結果より,3.1 で示したスピン摩 擦実験試験結果において,PIB-M の 400,600 MPa での摩擦特性が5P4E よりも優れている結果は, 高分子構造により PIB-M の油膜のせん断強度が 高かったことが影響したためと考えられる. また,本実験結果の詳細な理解には,閉じ込め 膜内での油の状態や油膜内のせん断発熱等の影響 等についてさらに調べていく必要があり,これに より油膜のせん断特性に関する理解が深まると考 えられる.この点は今後の課題とする.
4.ねじ締結用潤滑剤に関する検討
本実験結果において,PIB-M は,600 MPa の高 い接触面圧下においても摩擦係数が大きく上昇せ ず,実験時の摩耗の発生も小さいことがわかった. この結果は,PIB-M を使用した条件では,高い接 触圧力下でも接触面間に油膜が保持され,その結 果,直接接触が大きくは起こらなかったことを示 している.したがって,締付け時にPIB-M を使用 することで,ねじ部,および座部の接触面におい て,十分な厚さの油膜が形成され,直接接触に起 因した摩擦係数のばらつきも抑えることができる と考えられる.橋村らは,締付け実験により, PIB-M のトルク係数のばらつきが二硫化モリブデ ングリースや鉱油に比べて小さくなることを報告 しており14),この結果は上述した潤滑機構により 検討できる.5.結 言
ねじ締結用潤滑剤PIB のトライボロジー特性を 面接触のスピン摩擦実験,油膜観察実験により調 べ,その摩擦・摩耗特性,および接触面における 油膜形成状態を調べた.その結果,以下の結論を 得た. (1) 接触面圧 400 MPa において,PIB の摩擦係数 は,PIB-H で約 0.21,PIB-M で約 0.18,PIB-L で0.15 の値を示し,5P4E では約 0.1 となっ た.また,10 min までの実験において,PIB-L では摩擦係数が時間とともに上昇し,実験後 の摩擦面には大きな摩耗が発生することも 分かった.また,PIB-H,5P4E では,実験 によっては,摩擦係数が時間とともに上昇す る結果が得られた. (2) 実験初期の PIB の摩擦係数は粘度とともに 上昇する関係が見られたが,10 min 時には PIB-L,PIB-H の摩擦係数は初期に比べ大き く上昇し,PIB-M では初期の値との変化は 見られなかった. (3) PIB-M の摩擦係数は,100,400 MPa ではほ ぼ同じ値を示すが,600 MPa では約 0.24 ま で上昇した. PIB-L,5P4E では,摩擦係数 は接触圧力とともに上昇し,600 MPa ではい ずれもPIB-M の値よりも大きくなった. (4) スピン摩擦下での閉じ込め膜の直接観察よ り,スピン摩擦させることで,閉じ込め膜の 膜厚は静的保持条件と比較し早期に低下す ることがわかった.また,膜厚の低下は, PIB-L,5P4E,PIB-M の順に早期に起こることもわかった.さらに, 5P4E では油膜の低 下とともに摩耗が発生し,PIB-M では大き な摩耗が見られないことがわかった. (5) ねじ締結用潤滑剤としては,高接触面圧まで 油膜を保持できる特性をもつ PIB-M が適当 であることがわかった.
文 献
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