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様式 研究者 研究機関 [ 概要版報告書 ] 助成番号 助成事業名 所属 助成事業者氏名 河川を通した土砂と生元素の供給が河口干潟の形成に果たす役割 熊本県立大学環境共生学部小森田智大助成事業の要旨 目的 河口干潟は 川を通して陸上から様々な物質が流入する 陸域

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(1)

河川基金助成事業

「河川を通した土砂と生元素の供給が河口干潟の形

成に果たす役割」

助成番号:

27-1263-025

熊本県立大学環境共生学部

講師 小森田 智大

平成

27 年度

(2)

様式6・2 1.研究者・研究機関 [概要版報告書] 助成番号 助成事業名 所属・助成事業者氏名

27-1263-025

河川を通した土砂と生元素の供給が河口

干潟の形成に果たす役割

熊本県立大学環境共生学部

小森田智大

助 成 事 業 の 要 旨 〔目 的〕 河口干潟は、川を通して陸上から様々な物質が流入する。陸域と海域をつなぐ重要な場である。特 に、梅雨期には川から河口域に大量の生元素が供給される。川から海への土砂と生元素(C, N, P) の供給は、河口域の生態系を支える上で重要であるが、出水の前後では河川から供給される土砂に よって干潟の標高が変化することから、表層堆積物に含まれる生元素の観測のみでは梅雨期におけ る河川からの生元素供給量の推定はできない。本研究では、梅雨期における既存の生元素含量(C, N)の面的な観測に加え、河口域の標高を梅雨の前後に観測することで、梅雨期に川から干潟へと 供給される生元素量を推定することを目的とした。 〔内 容〕 本研究は、熊本県熊本市の西側に位置し、有明海に流入する緑川の河口域を調査地とした。本研究 では、この河口域において、干潟北部に岸沖方向に約4 km の測線を 500 m 間隔で 9 本設け(図 1)、 梅雨前(2015 年 4 月 21–22 日)、梅雨後(7 月 4 日)に標高を測定した。また、緑川河口干潟全 域において、梅雨前(6 月 1–5 日、18 日)には 117 地点、梅雨後(7 月 30–31 日、8 月 3–5 日) には132 地点で堆積物を採取した。干潟の標高は、緑川河口域に設けた 9 本の測線で水深を測定 すると同時に、河口付近に設置した水位計で潮位の変動を観測し、潮位補正を行うことで標高とし た。水深の測定では、超音波流速計(ADCP: Sontek River Surveyor M9、 Xylem Japan)を搭 載した小型ボートを10 km h−1の速度で曳航し、1 秒毎に水深を測定した。堆積物の分布調査では、 長さ10 cm のプラスチック製円柱コアサンプラーを用いて表層 0–10 cm の堆積物を採取し、ビニ ール袋に入れて持ち帰った。さらに、測線付近では、長さ49 cm の円柱コアサンプラー(内径 40。 8 mm)を用い、堆積物を採取した。採取したコアは現地で表層から 5 cm 間隔に区切り、それぞ れ別のビニール袋に入れて持ち帰った。堆積物サンプルは、含水率、有機態炭素含量、窒素含量、 炭素・窒素安定同位体比および粒度組成用サンプルとした。 〔結 果〕 梅雨後に河口付近で有機物含量が増加し、陸起源有機物の割合が上昇していたことから、梅雨期に 河川を通して陸から河口干潟へ有機物が流入したと考えられる。標高が上昇した地点では、有機物 含量の変化量がTOC で 1.63±5.33 mg g–1TN で 0.12±0.44 mg g–1であったのに対し、標高が 下降した地点では、TOC で 0.12±1.60 mg g–1TN で 0.02±0.16 mg g–1であったことから、梅雨 後に標高が上昇した場所で有機物量が増加する可能性が示された。84 地点中、TN 含量が増加した 地点は45 地点であり、干潟全域の 53%で TN 含量が増加していたこととなる。これを面積に換算 するとTN 含量が増加した場所は 11.79 km2となった。土砂が堆積した厚さを観測値の平均値であ る0.3 m として、1 m3あたりのTN 平均増加量を乗じると、窒素供給量は 439.6 g m–2となる。こ の値に、TN 含量上昇域の面積である 11.79 km2を乗じることで、緑川河口干潟全域の梅雨期のTN 堆積量を求めると、5,182 tN という結果が得られた。これに対して、2000 年から 2010 年にかけ ての緑川の年間窒素負荷量は、3,000–7,500 tN であることが報告されている。干潟の TN の堆積 量が河川負荷のみで賄われているとすれば、堆積量が供給量を上回ることとなる。これに対する解 釈としては、河川以外の別な窒素の供給源の可能性である。本研究の調査地である砂質干潟の上流 部には有機物を豊富に含んだ堆積物からなる泥質干潟がある。出水期においては、潮汐流よりもは るかに大きな力が作用することが予想されることから、泥質干潟から砂質干潟へと大量の有機物が 供給され、堆積したと考えられる。このことから、砂質干潟への窒素供給源としては、河川だけで なく、河口近くの泥質干潟も重要な供給源となっている可能性が考えられる。 調査対象水系・河川 データベースに登 録するキーワード 部門 大分類 中分類 小分類 調査部門 環境 生態系 その他 ※データベースに登録するキーワードは、本冊子 P.43 の表から 代表的なものを一つ記入 して下さい。

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様式6・3 1.研究者・研究機関 [自己評価シート] 助成番号 助成事業名 所属・助成事業者氏名

27-1263-025

河川を通した土砂と生元素の供給が河口

干潟の形成に果たす役割

熊本県立大学環境共生学部

小森田智大

助 成 事 業 実 施 成 果 の 自 己 評 価 〔計画の妥当性〕 本研究の当初のデザインは、年 4 回の測量調査と堆積物の化学組成を組み合わせるものであっ た。広域の堆積物調査は多くの調査点(約 130 地点)で構成されており、調査自体に大きな労力が かかり、分析についても多大な時間と費用を要した。そのため、堆積物の化学組成の調査について は、年 4 回の実施が困難であることが判明した。このことから、当初計画では、研究体制が小さく、 研究期間についても短すぎたといえる。研究体制としては、熊本河川国道事務所緑川下流出張所や 熊本県水産研究センターとの連携を図ることで、大きな進展を得られると期待される。研究期間と しては、最低でも 2 カ年計画で実施する必要があったと言える。しかしながら、限られた予算と人 的資源を駆使して、年 2 回の調査を実施することに成功した。このように、実施する内容を変更し たことから、研究の着眼点を「土砂と生元素供給の季節変化」から「梅雨期における土砂と生元素 供給の特徴」へと微修正することで、年 2 回の堆積物調査の意味づけを明確化することとした。 〔当初目標の達成度〕 本研究では、測量調査と堆積物の分布調査を組み合わせることで、梅雨期における干潟への生元 素の供給量を定量化することに成功し、河口干潟における泥質干潟と砂質干潟の明確な役割の違い を示すことができた。このことから、測量調査と堆積物の分布調査を組み合わせることが非常に有 効であり、河口域の物質循環過程の解明に向けて大きな前進になることが分かった。 本研究の大きな課題としては、測量していない場所における標高の正確な補間方法の確立があげ られる。本研究では、10 側線を設定し、測量した後に、空間補間することで干潟全域の標高を推 定した。このような方法だと、船の航路が数 10m ずれるだけでも干潟の地形が大きく変わって見え てしまう。また、このようなデータを用いて堆積量・浸食量を推定すると、大きな誤差を導く結果 となる。この課題は、当初目標であり「測量調査と堆積物の分布調査を組み合わせることで、河川 を通した干潟への土砂と生元素供給の季節変動を捉える」ことが、すでに方法論の確立している狭 い範囲(〜数 km2)における測量調査を想定していたためである。しかしながら、本研究域のよう な広い領域(22 km2)を対象とする方法論は確立していない。そのため、当初の目標設定を分割し、 着実な段階を踏む必要があったと考えている。その段階とは、①広域スケールに対応した簡便かつ 高精度な測量調査の開発、②実際に測量していない場所(補間した場所)における堆積・浸食の確 認、③生元素の供給量・流出量の定量(本研究の当初目的)、④供給された生元素の生物利用性の 解明、の 4 段階である。このように、着実な段階を踏むことで、残された課題を解決することが可 能であると期待される。 〔事業の効果〕 本研究で得られた成果としては、日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会で発表すると ともに、その内容の一部を論文として投稿する予定である。特に、河口域に特有の泥質干潟は、船 や海岸へのアクセスとしては不利益を生じさせるとの認識が大きいものの、本研究で得られた、生 元素の重要な供給源の1 つであるとの知見は、今後の河川整備に大きく寄与し得る内容と言える。 〔河川管理者等との連携状況〕 本研究では、緑川河口干潟を主なフィールドとして、調査を行った。本河川の管理者である熊本河 川国道事務所緑川下流出張所との連携関係は今のところ構築できていない。今後、得られた知見を スムーズに提供することや、調査に必要な情報の交換をすることも含めて緊密な連携関係を構築し たいと考えている。

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1. はじめに

河口干潟は、河川を通して陸上から様々な物質が流入する陸域と海域をつなぐ重要な場である。特に、 梅雨期には、川から河口域に大量の生元素が供給され、干潟へと堆積する。このような干潟への土砂と 生元素の堆積は、河口域の生態系を考える上で重要な現象である。干潟への生元素堆積量の推定を行っ た既存の研究として、一見ら 1)は、香川県の河口域における水中の懸濁態および溶存態リンの連続観測 を実施し、干潟へのリン流入量から、流出量を差し引くことで干潟への生元素の堆積量を推定した。そ の結果、春期には河川から負荷されたリンの50%以上、夏期には河川から負荷されたリンのほぼ全てが 干潟域に保持される一方で、秋期になると干潟に保持されていたリンが流出したことを示している。ま た、横山ら 2)は干潟の堆積物表層における各態リン含量の分布を調査することによって生元素の堆積を 評価した。横山ら 2)の調査結果によると、筑後川河口域においては、出水後に全リンの含量が河口付近 で大幅に上昇したことが示されている。 河口域においては、土砂の輸送に加えて土砂に含まれる生元素もまた、極めて動的な挙動を示す。干 潟における生元素の堆積量を評価する上では、一見ら 1)のように潮汐周期に合わせた連続観測を実施す ることが確実である。しかしながら、連続観測には多大な労力を必要とすることに加え、出水期のよう に天候が不安定な状態における連続観測は困難を伴う。一方、横山ら 2)のように堆積物表層の含量の分 布を捉える方法は、出水後に実施できることから観測は実現しやすい。ただし、出水期における生元素 含量の上昇は堆積物の標高の上昇を伴うことから、より正確に堆積量を推定するためには、標高の変化 も加味する必要がある点に注意を要する。 本研究の調査対象域である緑川河口干潟は、約2,200 ha におよぶ広大な面積を有しており、1970 年 代における川砂の採取に伴い、干潟の生物相が壊滅的な打撃を受けた可能性が指摘されている 3)。本干 潟域において、「覆砂」実験を実施したところ、実験区においては、アサリやシオフキ、ホトトギスガイ などの二枚貝類に加えて、ゴカイ類などの生物の回復も確認されている4)「覆砂」が川から供給される 土砂の堆積を人工的に再現したと考えると、河川を通した物質の供給がどれほど重要か容易に想像でき る。しかしながら、緑川河口域において、土砂および生元素の堆積量に関する定量的な知見はまだない。 本研究では、梅雨期における横山ら2)が実施したような生元素含量の面的な観測により、梅雨に伴う 生元素含量の変動を捉えた。さらに、河口域の標高を梅雨の前後に観測することで、標高の変化を算出 し、土砂の堆積と流出量を計算した。これらの結果を組み合わせることにより、梅雨期に緑川河口域の 砂質干潟に堆積する全窒素量を試算し、環境省(2013)によって報告されている緑川の年間窒素負荷量 と比較した。本報告書では、これらの調査結果を報告し、梅雨期前後の緑川河口干潟に堆積する主要な 窒素の供給源について考察する。

2. 材料と方法

2.1 調査地 本研究の調査地を図2.1 に示す。本研究は、熊本県の西側に位置し、有明海に流入する緑川の河口域 を調査地とした。本研究では、この河口域において、岸沖方向に約4 km の測線を 500 m 間隔で 9 本設 け、2015 年 4 月 14 日、22 日、7 月 4 日に標高を測定した(図 2.1a)。また、測量後 2 週間以内に測線 付近の定点(St. I2)で堆積物の柱状採泥を行った。さらに、2015 年 6 月 1–5 日と 6 月 16 日(117 地 点)、7 月 30–31 日と 8 月 3–5 日(131 地点)に緑川河口干潟全域において、堆積物の分布調査を行っ た。

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2.2 調査方法

干潟の標高は、緑川河口域に設けた9 本の測線で水深を測定すると同時に、河口付近に設置した水位 計で潮位の変動を観測し、潮位補正を行うことで標高とした。水深の測定では、超音波流速計 (ADCP:Sontek River Surveyor M9, Xylem Japan)を搭載した小型ボートを 10 km h–1の速度で曳航

した。波の影響を除去するため、1 秒毎のデータに 10 秒の移動平均を乗じたものを水深データとした。 潮位の測定ではメモリー式水位計を用い、水中と地上で同時に測定を行って気圧差の補正を行ったもの を潮位データとした。 測線付近の定点(St. I2)においては、長さ 49 cm の円柱コアサンプラー(内径 40.8 mm)を用い たコアサンプリングを行った。採取したコアは現地で表層から5 cm 間隔に区切り、それぞれ別のビニ ール袋に入れて持ち帰った。持ち帰った堆積物サンプルは、実験室において含水率を測定し、残りを化 学分析用サンプル(全有機炭素(TOC)、全窒素(TN)、C/N 比、炭素安定同位体比(δ13C)・窒素安 定同位体比(δ15N))および粒度組成用サンプルとして冷凍保存した。 堆積物の分布調査では、長さ10 cm のプラスチック製円柱コアサンプラーを用いて表層 0–10 cm の 堆積物を採取し、ビニール袋に入れて持ち帰った。分布調査で採取した堆積物サンプルについては、実 験室において試料をよく撹拌した後、含水率、化学分析用サンプルおよび粒度組成用サンプルとして冷 凍保存した。 含水率の測定は、湿泥を約3 g アルミカップに取り、湿重量を測定した。つぎに、55℃の乾燥機で、 24 時間以上乾燥させた後、乾燥重量を測定して含水率を求めた。堆積物の粒度組成用サンプルは、ウェ ットシービング法により、6 種類の目合いの異なる篩(2 mm、1 mm、500 µm、250 µm、125 µm、63 µm)を用いて堆積物を粒径毎に分画した。分画した試料は 55℃の乾燥機内で 24 時間以上乾燥させ、重 量を測定した。 化学分析用サンプルの測定は、凍結乾燥後、堆積物をメノウ製乳鉢で細かく粉砕し、2N の塩酸を添 加することで無機炭酸塩を除去した。これに蒸留水を約2 ml 加え、遠心分離し(3500 rpm、10 min、 5 ℃)、アシストチューブ内の上澄みをパスツールピペットで慎重に除去する操作を 2 回行った。以上 の処理を行った底質サンプルは、アスピレーターで減圧した真空デシケーターで3 日間真空乾燥させ、 再度粉砕させた後、元素分析計(NC2500, Thermo Fisher Scientific)を用いて堆積物の TOC および TN を測定し、元素分析計に接続された質量分析計(DELTA plus, Thermo Fisher Scientific)でδ13C

およびδ15N を測定した。δ13C およびδ15N は、以下の式を用いて示した。 δX = [RSample/RStandard–1]*1000(‰) (2.1) ここで、X はδ13C またはδ15N、R は同位体比(13C/12C または15N/14N)を示し、Sample は測定試料 の同位体比、Standard は標準物質(PDB)を示す。 調査期間中における緑川ダムの流域雨量およびダムの放水量は国土交通省九州地方整備局緑川ダム 管理所のダム諸量一覧表(九州地方)の値を取得した。

3. 結果

調査期間中の出水の状況について、熊本北部では、2015 年 6 月 2 日ごろ梅雨入りし、7 月 29 日ごろ 梅雨明けが報じられた5)2015 年 4 月から 2015 年 10 月までの緑川ダムの流域雨量とダムの放水量を 図2.1 に示す。緑川ダムの流域雨量は、4 月の測量前後の期間(4 月–5 月)にかけては 0–1.83 m3 h–1 と低く、梅雨入りした6 月 2 日には 3.12 mm h–1に達し、6 月 3 日には 5.70 mm h–1に達した。降水量 に呼応する形で4 月–5 月にかけてのダム放水量は 7.59–29.19 m3 s–1と非常に少ない一方で、6 月 3 日か

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ら放水量が231.37 m3 s–1へと大きく増加し、6 月 11 日には 298.7 m3 s–1に達し、7 月 22 日に至るまで 断続的な放水が続いた。このことから、本研究における面的観測について、6 月の観測はやや梅雨の影 響が反映されるものの、8 月の観測は梅雨明け後の結果を反映していると言える。また、7 月における 測量調査についても、その後も降水とダムの放水が続いたことから、梅雨明けの時期とは完全には一致 していない状態であった。 4 月と 7 月の測量調査によって得られた干潟の標高を空間補間した結果を図 2.2 に示す。4 月と 7 月 の標高について、共通した特徴としては、岸側(東側)から沖側(西側)に向かって標高が低下した点 である。大潮の低潮線におおよそ相当する標高–1.9 m の等高線に着目すると、4 月においては測線 D よ りも北側で–1.9 m よりも低い領域が広い一方で、7 月になると–1.9 m の等高線が測線 C よりも北側に 観測された。観測した領域の南側において、4 月には–1.2– –0.8 m の領域が測線 D から I にかけて広が っていたものの、7 月になると測線 F と G において–1.1 m よりも高い空間が出現した。 空間補間を行った4 月の標高と 7 月の標高の差をとった結果を図 2.3 に示す。4 月から 7 月にかけて 堆積が確認された場所としては、干潟の北側中央部で1.3 m、北側岸寄りで 2.7 m に達した。また、南 側においても測量領域の端に相当する箇所で1.4 m に達する堆積が確認された。一方、侵食が確認され た場所としては、調査領域の河口側の端で最も大きく、2 m に達する侵食が確認された。その他、調査 領域の南側の端で最大1.4 m の侵食、干潟の中央部で 0.9 m の侵食が確認された。標高が上昇した場所 の標高の変化量(堆積量)の平均値は0.3 m であった。 4 月から 7 月にかけて標高が 0–0.2 m 上昇した地点において、6 月に、質の異なる堆積物の層が堆積 した様子が確認された(図2.4)。この地点において 4 月 22 日、6 月 18 日、7 月 18 日に採取した 0–40 cm の堆積物コアの鉛直構造を図 2.5–2.10 に示す。このうち、TN、TOC は、梅雨前の 4 月から梅雨後 の6 月、7 月にかけて表層での増加が認められた(図 2.5、2.6)。TOC は、4 月には表層 0–30 cm で 1.1– 3.0 mg g–1(図2.5a)であったのに対し、6 月には表層 0–10 cm の層で 14.6–31.5 mg g–1(図2.5b)と なり、7 月には表層 0–15 cm の層で 8.9–32.9 mg g–1(図2.5c)となった。TN についても TOC と同様 に、4 月に表層 0–30 cm で 0.08–0.3 mg g–1であったが(図2.6a)、6 月には表層 0–10 cm の層で 1.7–3.0 mg g–1(図2.6b)、7 月には表層 0–15 cm の層で 1.0–2.9 mg g–1となった(図2.6c)。含水率についても、 梅雨前の4 月から梅雨後の6 月、7 月にかけて表層で上昇しており、4 月には表層0–30 cmで21.1–28.4% (図2.7)であったのに対し、6 月には表層 0–10 cm で 51.8–63.6%(図 2.7b)、7 月には表層 0–15 cm で36.8–62.7 mg g–1(図2.7c)となった。δ13C については、梅雨前から梅雨後にかけて表層で低下し ており、4 月は表層 0–30 cm で–26.0– –23.5‰と全体的にやや低いが(図 2.8a)、6 月には表層 0–5cm で–27.6‰と最も低く(図 2.8b)、7 月には表層 5–15 cm で–26.1– –25.7‰となった(図 2.8c)。δ15N に ついては、4 月から 6 月まであまり大きな変化がなく、表層 15–30 cm の層は、4 月と 7 月に共通して 1.35–3.50‰程度と比較的低く、表層 0–15 cm の層では、いずれの月も共通して 1.99–5.70‰と比較的高 かった(図2.9)。C/N 比では、4 月は表層 0–30 cm で 10.87–15.50(図 2.10)、6 月は表層 0–20 cm で 9.73–13.53(図 2.10)と採取層全体で一様だったが、7 月は表層 15–30 cm で 3.46–5.53 であるのに対 し、表層0–15 cm で 7.57–13.19 と、層の深い部分で低く、表層で高くなった。 緑川河口干潟における堆積物表層のTOC、TN の分布を図 2.11–12 に示す。TOC、TN は両方とも 梅雨後に河口付近で含量が高くなっていた(図2.11、12)。TOC については、梅雨前には河口付近に 10 mg g–1を超える地点が点在しており、局所的に15.9 mg g–1という高い値を示す地点も見受けられた。こ の地点では、梅雨後にも15.4 mg g–1と近隣の地点と比べて高い値を示していた。その他、梅雨前には、 干潟の北部と南側の岸沿いで2.5–5.0 mg g–1と高い値を示す場所があった。梅雨後には、河口付近全体

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に2.5–7.5 mg g–1と高い値を示す場所が広がり、梅雨前には河口付近でのみ確認された10 mg g–1を超え る地点が、干潟の中央部にも見受けられた。最も高い値を示したのは干潟中央部にある地点で、10 mg g– 1を超える近隣の地点と比較しても著しく高い23.8 mg g–1であった。 TN については、梅雨前に干潟の北部、中央部、南部の岸沿いに 0.25 mg g–1以上の値を示す地点が 広がっており、0.5 mg g–1を超える地点がパッチ状に確認された。TOC と同様に、河口付近で 1.0 mg g– 1を超える地点が点在していた。これらの地点は、TOC で局所的に高い値を示した地点と同じ地点であ った。梅雨後には、0.25 mg g–1以上の値を示す地点が干潟全体に広がり、干潟の中央部では、0.75 mg g– 1を超える地点が広がった。また、梅雨前には河口付近でのみ確認された1.0 mg g–1を超える地点が、干 潟の中央部にも見受けられた。最も高い値を示したのは、TOC と同様に、干潟中央部にある地点で、最 高値となる2.17 mg g–1であった。 また、堆積物表層のδ13C およびδ15N の分布を図 2.13–2.14 に示す。δ13C について、梅雨前は河 口付近で–24‰の地点が広がり、干潟の北部と中央部では、–24– –23‰になり、沖側から南部にかけて – 21– –22‰と、河口から離れていくにつれて海起源有機物の割合が高くなった。陸起源有機物の割合が 最も高いのは、河口付近の地点で–26.3‰であった。この地点は、TOC 含量、TN 含量で局所的に高い 値を示した地点であった。梅雨後には、–25‰以下の地点が河口付近から干潟の中央部まで広がり、梅 雨前には局所的に陸起源有機物の割合が高かった地点も近隣の地点と同程度であった。沖側は、梅雨前 とあまり変化がなく、–24– –23‰程度であった。南部では、梅雨前に見られた–22‰以下の地点が確認 されず、–24‰以上の陸起源有機物の割合が高かった。δ15N について、梅雨前は、南部の沖側に 15.1‰ という局所的に高い値を示す地点があったが、その他は干潟全域で–1.7–5.9‰の地点が一様に広がって いた。梅雨後には、干潟の中央で5.0‰以上の地点が広がった。 堆積物の分布調査地点のうち、84 地点で TOC・TN 含量の差分を計算した結果を図 2.15 示す。この 84 地点のうち、有機物含量の増加が認められた地点は、TOC で 54 地点(64%)、TN で 45 地点(53%) であった。また、84 地点のうち、測量調査によって標高の上昇が確認されたのが 25 地点、標高の下降 が確認されたのが23 地点、測量調査の範囲外だったのが 36 地点であった。標高の上昇・下降が確認さ れた地点のそれぞれのグループでTOC・TN の変化量の平均値と標準偏差について、標高が上昇した地 点では、TOC の変化量は 1.63±5.33 mg g–1TN の変化量は 0.12±0.44 mg g–1であったのに対し、標 高が下降した地点では、TOC の変化量は 0.12±1.60 mg g–1TN の変化量は 0.02±0.16 mg g–1であっ た(表2.1)。 梅雨前の緑川河口干潟における表層の砂分、泥分、礫分の分布を図2.16 に示す。梅雨前において、 砂分はほぼ全域で90%以上であり、河口付近と干潟の南部で 90–70%まで低下していた。泥分は、河口 付近で高く、泥分が最も高かったのは、梅雨前にTOC 含量と TN 含量が最も高かった地点と一致して おり、44.86%だった。礫分は、干潟のほぼ全域で 2.5%以下だったが、干潟の南部で 2.5–7.5%であった。

4. 考察

本研究において、4 月と 7 月の標高差が 0–0.2 m である St. I2(図 2.4、2.5)の堆積物の鉛直構造に おいて、堆積物表層のTOC 含量、TN 含量、含水率が梅雨前には表層から深度 30 cm の層までほとん ど一様なのに対し、梅雨後には表層0–15 cm の層で増加、上昇していたことが示された(図 2.8、2.9、 2.11)。これに対して、有機物の質的には含有量ほど大きな変化は見られなかった。このことから、柱状 堆積物を採取した地点においては有機物の組成に大きな違いが見られなかったものの、量的に大きく変 化したことが示された。有機物含量の上昇した層に、土砂が堆積したと仮定すると、この地点で梅雨期

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に堆積した土砂の厚みは5–15 cm となる。この結果は、測量によって得られた標高の差(10–20 cm) と概ね一致していることを示している。 干潟全域のTOC・TN、δ13C の分布において、梅雨後に河口付近で有機物含量が増加し(図 2.12、 2.13)、陸起源有機物の割合が上昇していたことから(図 2.14)、梅雨期に河川を通して陸から河口干潟 へ有機物が流入したと考えられる。表 1 より、標高が上昇した地点では、有機物含量の変化量が TOC で1.63±5.33 mg g–1TN で 0.12±0.44 mg g–1であったのに対し、標高が下降した地点では、TOC で 0.12±1.60 mg g–1TN で 0.02±0.16 mg g–1であったことから、梅雨後に標高が上昇した場所で有機物 量が増加する可能性が示された。84 地点中、TN 含量が増加した地点は 45 地点であり、干潟全域の 53% でTN 含量が増加していた。これを面積に換算すると TN 含量が増加していた場所の面積は 11.79 km2 となった。土砂が堆積した厚さを観測値の平均値である0.3 m として、1 m3あたりのTN 平均増加量を 乗じたところ、単位面積当たりの窒素供給量は439.6 g m–2となる。この値に、TN 含量上昇域の面積で ある11.79 km2を乗じることで、緑川河口干潟全域の梅雨期のTN 堆積量を求めると、5,182 tN という 結果が得られた。これに対して、2000 年から 2010 年にかけての緑川の年間窒素負荷量は、3,000–7,500 tN であることが報告されている6)。このことから、本研究で試算した梅雨期の緑川河口干潟へのTN 堆 積量は、緑川の年間窒素負荷量に匹敵する可能性が示された。 干潟におけるTN の堆積量が河川を通した流入負荷のみによって賄われているとすれば、干潟への堆 積量が供給量を上回ることとなり、矛盾を生じさせることとなる。これに対する解釈の一つとしては、 河川を通した窒素負荷以外の別な供給源の可能性があげられる。本研究の調査地である砂質干潟の上流 部には有機物を豊富に含んだ堆積物からなる泥質干潟があり、潮汐流に伴い砂質干潟へと有機物が供給 されていることが報告されている 7)。出水期においては、潮汐流よりもはるかに大きな力が作用するこ とが予想されることから、泥質干潟から砂質干潟へと大量の有機物が供給され、堆積したと考えられる。 このことから、本研究における試算値には、泥質干潟から砂質干潟への流入分が含まれており、砂質干 潟への窒素供給源としては、河川だけでなく、河口近くの泥質干潟も重要な供給源となっている可能性 が考えられる。 謝辞 緑川河口干潟における調査にあたっては、熊本市の川口漁協共同組合の藤森隆美氏、福島努氏、鶴田錠 氏ら、九州大学の田井明助教、内川純一氏ならびに諸熊孝典氏をはじめとした熊本県水産研究センター の方々、山田勝雅氏ならびに中野善氏をはじめとした水産総合研究センター西海区水産研究所の方々、 桑原茉美氏、竹中理佐氏ならびに堤裕昭教授をはじめとした熊本県立大学海洋生態学研究室の方々の御 協力のもと研究を進めることが出来ました。末筆ながら、関係者の方々に深く御礼を申し上げます。 参考文献 1) 一見和彦・濱口佳奈子・山本昭憲・多田邦尚・門谷茂 2011.新川・春日川河口干潟域(瀬戸内海備 讃瀬戸)におけるリンの収支.沿岸海洋研究、第48 巻、第 2 号、167–178 2) 横山勝英・山本浩一・河野史郎 2008.有明海北東部及び筑後川感潮河道における地形・底質・形態 別リンの季節変動と土砂移動経路に関する考察.土木学会論文集B、Vol.64、83–98 3) 堤裕昭 2005.有明海に面する熊本県の干潟でおきたアサリ漁業の著しい衰退とその原因となる環境 要因.応用生態工学.8, 83–102 4) 堤裕昭・竹口知江・丸山渉・中原康智 2000.アサリの生産量が激減した後の緑川河口干潟に生息す

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る底生生物群集の季節変化.日本ベントス学会誌、55: 1–8

5) 気象庁 2015. 平成 27 年の梅雨入り・明けと梅雨時期の特徴について、報道発表資料.

6) 環境省 2013.有明海への流入負荷量の推移について(COD、T–N、T–P)、環境省水質総量削減に 係る発生負荷量等算定調査業務報告書〜発生負荷量等算定調査(有明海及び八代海)〜. pp 8. 7) Yamaguchi H., Tsutsumi H., Tsukuda M., Nagata S., Kimura C., Yoshioka M., Shibanuma S. and

Montani S. 2004. Utilization of Photosynthetically Produced Organic Particles by Dense Patches of Suspension Feeding Bivalves on the Sand Flat of Midori River Estuary, Kyusyu, Japan. Benthos Research, 59, 67–77

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図 2.5 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の全有機炭素含量の鉛直構 造。(a)4 月、(b)6 月、(c)7 月

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図 2.6 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の全窒素含量の鉛直構造。 (a)4 月、(b)6 月、(c)7 月

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図 2.7 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の含水率の鉛直構造。(a)4 月、(b)6 月、(c)7 月

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図 2.8 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の炭素安定同位体比の鉛直構 造。(a)4 月、(b)6 月、(c)7 月

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図 2.9 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の窒素安定同位体比の鉛直構 造。(a)4 月、(b)6 月、(c)7 月

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図 2.10 6 月 18 日に堆積が確認された地点における堆積物の C/N の鉛直構造。(a)4 月、 (b)6 月、(c)7 月

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図 2.11 緑川河口干潟における堆積物表層の全有機炭素含量の分布。(a)梅雨前、(b) 梅雨後。

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図 2.13 緑川河口干潟における堆積物表層の炭素安定同位体比の分布。(a)梅雨前、(b) 梅雨後。

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図 2.14 緑川河口干潟における堆積物表層の窒素安定同位体比の分布。(a)梅雨前、(b) 梅雨後。

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図 2.15 緑川河口干潟における梅雨前後の堆積物表層の有機物含量の変化量。(a)全有 機炭素、(b)全窒素。

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図 2.16 6 月の緑川河口干潟における堆積物表層の粒度組成。(a)砂分、(b)泥分、(c) 礫分。

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・助成事業者紹介 小森田 智大

図 1.1  緑川河口干潟における調査定点。(a)標高の観測線、(b)堆積物の分布調査定点
図 2.1  調査期間中の緑川ダムの放流量と流域雨量。
図 2.2  測量調査の結果。(a)4 月、(b)7 月
図 2.3  4 月と 7 月において観測された標高差
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参照

関連したドキュメント

本報告書は、日本財団の 2015

助成者名 所属機関:名称 所属機関:職名 集会名称 発表題目 開催国 助成金額.

海洋技術環境学専攻 教 授 委 員 林  昌奎 生産技術研究所 機械・生体系部門 教 授 委 員 歌田 久司 地震研究所 海半球観測研究センター

○水環境課長

<第二部:海と街のくらしを学ぶお話>.

報告日付: 2017年 11月 6日 事業ID:

Public Health Center-based Prospective Study.Yamauchi T, Inagaki M, Yonemoto N, Iwasaki M, Inoue M, Akechi T, Iso H, Tsugane S; JPHC Study Group..Psychooncology. Epub 2014

①就労継続支援B型事業においては、定員32名のところ、4月初日現在32名の利用登録があり、今