異なる身体部位に取り付けた加速度計により測定した
静的立位姿勢動揺の妥当性の検討
Validity of Postural Sway Measurements during Static Standing Made by
Accelerometers Placed on Different Body Segments
宮澤 佳之
1)朝倉 智之
2)臼田 滋
2)Yoshiyuki MIYAZAWA, RPT, MS1), Tomoyuki ASAKURA, RPT, PhD2), Shigeru USUDA, RPT, PhD2)
1) Department of Rehabilitation, Geriatrics Research Institute and Hospital: 3-26-8 Otomo, Maebashi, Gunma 371-0847, Japan
TEL +81 27-253-3311 E-mail: [email protected]
2) Graduate School of Health Sciences, Gunma University
Rigakuryoho Kagaku 32(6): 923–927, 2017. Submitted Jul. 11, 2017. Accepted Aug. 18, 2017.
ABSTRACT: [Purpose] The purpose of this study was to clarify the validity of postural sway measurements in the
static standing position made by accelerometers placed on different body segments. [Subjects and Methods] The subjects were 21 healthy adult males. Center of pressure (COP) on a force plate and acceleration measurements were made under four conditions: with the subjectsʼ eyes open and closed, and on hard and soft surfaces. The root mean square (RMS) value of the acceleration of the head, the 4th thoracic vertebra and the 5th lumbar vertebra were calculated and the differences between each condition were analyzed. [Results] On the soft surface, the acceleration of each body segment showed differences between the conditions similar to COP. [Conclusion] The measurement of the acceleration RMS of each body segment on a soft surface may be a useful new evaluation index, in place of the conventional COP path length measurement.
Key words: accelerometer, center of pressure, static standing balance
要旨:〔目的〕異なる身体部位に取り付けた加速度計により測定した静的立位姿勢動揺の妥当性を検討すること.〔対 象と方法〕対象は健常成人男性21名とした.条件は開眼と閉眼,硬い支持面と柔らかい支持面を組み合わせた4条 件とした.頭部,第4胸椎,第5腰椎の加速度のRoot mean square(RMS)と,床反力計による足圧中心(COP) を測定した.指標ごとに各条件間の差を解析した.〔結果〕身体各部位の加速度は柔らかい支持面条件ではCOPと同 様に条件間で差を示した.〔結語〕身体各部位の加速度RMSは,柔らかい支持面条件では条件間でCOP軌跡長と同 様の差を示し,従来のCOP軌跡長測定に代わる評価指標として有用であることが示唆された. キーワード:加速度計,足圧中心動揺,静的立位バランス 1) 老年病研究所附属病院 リハビリテーション部:群馬県前橋市大友町 3-26-8(〒 371-0847)TEL 027-253-3311 2) 群馬大学大学院 保健学研究科 受付日 2017 年 7 月 11 日 受理日 2017 年 8 月 18 日
I.はじめに
姿勢の不安定性や転倒は,バランス障害を有する者に とって重大な問題となっており,65歳以上の高齢者の 30~50%は年に一度は転倒を経験し,日常生活に不利 益な影響を与える重篤な怪我などの結果となることも多 くある1,2).そこで,姿勢安定性やバランス能力の評価 方法として,床反力計や重心動揺計から得られる足圧中 心(Center of pressure:以下,COP)や,三次元動作解 析装置からの重心位置の算出など機器による測定が用い られ,またFunctional Reach Test3)や,Timed Up and gotest(以下,TUG)4),Berg Balance Scale(以下,BBS)5)
などの簡便な評価指標が考案されており,信頼性や妥当 性が確認されている6-9).機器を用いた測定は簡便な評 価指標よりも正確な数値を示すことができ,バランス障 害の原因や種類の判別が可能であること,また軽症例の 記録や,変化を細かく数値化して示すことができるとさ れている10).しかし,床反力計や三次元動作解析装置 などは持ち運びができず,測定場所が限られることや, 機器自体が高価なことが問題とされている2,11). 近年では小型の加速度計による静的立位バランス測定 が行われており,従来の機器よりも小型で場所を選ばず に簡便に測定でき,安価でありながら,精密なバランス 能力を評価できるとされており2,11,12),信頼性について は健常若年者と健常高齢者を対象とした研究において, 腰背部へ取り付けた加速度Root mean square(以下,
RMS)の再テスト信頼性は0.75以上と報告されてい
る13).また,加速度計は身体に直接装着することが可
能であるため,COP測定では評価することのできなかっ
た身体各部位の動揺を測定することができるとされてい ることや11),COMの加速度はCOPからCOMを引い
た値(COP–COM)の絶対値と強い相関を示し,身体の 加速度はCOPとCOMの関係から,姿勢制御のエラー の大きさを示す指標として有用であると報告されてい る14).さらに,加速度計の測定値はTUGやBBSと有 意な相関を示すことや15),COP軌跡と有意な相関を示 すこと11),COP軌跡長と同様に視覚や支持面の変化に より影響を受ける2,16)という報告がされており,静的立 位バランス測定において,COP測定よりも安価であり 簡便に使用できる加速度計の妥当性を示すことで,臨床 場面においてより簡便に詳細なバランス測定が行えると 考えられる. 本研究の目的は,健常者を対象として,開眼または閉 眼と硬い支持面または柔らかい支持面を組み合わせた4 つの立位条件の下,頭部,第4胸椎,第5腰椎の身体3 か所の加速度と従来の指標であるCOP軌跡長の関連性 について検証し,静的立位バランス測定における加速度 計の妥当性を検討することである.
II.対象と方法
1.対象 対象は,健常成人男性21名(22.4 ± 1.3歳;平均± 標準偏差)とした.下肢疾患などにより歩行困難のもの と歩行時に疼痛があるものは除外した.本研究は,群馬 大学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会にて承認さ れ(受付番号26-69),全ての対象者に本研究の目的お よび方法に関する十分な説明を行い,研究への協力に関 して書面にて同意を得た. 2.方法 被験者は裸足にて床反力計上で両上肢を組み,両足内 側面を接触させた閉脚肢位で5 m前方の印を注視した 静的立位を保持した.測定条件は開眼(Eyes Open:以 下,EO)と閉眼(Eyes Closed:以下,EC),硬い支持 面( 床 反 力 計 上 ) と 柔 ら か い 支 持 面(AIREX社 製 Balance-Pad ELITE上)の組み合わせの4条件とし,各 条件をランダムに1回ずつ測定した.静的立位の測定時 間は60秒とした.測定開始直後に各機器へ同期信号を 入力し,ノイズを除去するため同期信号から20秒分の データを除き,その後の20秒間を本研究の解析対象と した. 加速度計については,MVP-RF8-GC-500(マイクロ ストーン社製)を頭部の前額中央(以下,頭部)へ, MVP-RF8-HC-500(マイクロストーン社製)2台を,そ れぞれ第4胸椎棘突起(以下,T4)と第5腰椎棘突起(以 下,L5)へ装着した.装着には両面テープを使用し, 頭部とL5へは伸張性バンドを用いて身体へ固定した. 加速度計の装着部位はHalickáら17)の先行研究を参考 にした.COPの測定には床反力計(9281C,Kistler社製) を使用した.サンプリング周波数を加速度計は500 Hz, 床反力計は60 Hzとした. 加速度は,解析ソフトウェア(MVP-RF8-S Ver.1.6.1.0, マイクロストーン社製)を用いて,Excelデータとして 記録された.フィルタ処理として,Dohenyら12)の方 法を参考に,重力成分とノイズ成分の除去のため多用途 生体情報解析プログラムBIMUTASⓇⅡ(キッセイコムテック社製)を用いて0.1~10 HzのBand pass filter処 理を行った.またCOPデータは4 Hzのlow pass filter
処理を行った.頭部加速度,T4加速度,L5加速度につ
いては,前後と左右方向それぞれについて加速度の振幅 の大きさを示す実効値であるRoot mean square(以下,
RMS)を求めた.床反力計から得られた前後または左 右方向それぞれのCOP位置座標データは,Excel上で 個々のサンプリングデータ間の差の絶対値を合計し前後 または左右方向動揺距離(軌跡長)を求めた.単位は加 速度がmm/s2,軌跡長はmmとして,それぞれ小数点 第1位まで求めた.
統計処理は SPSS Statistics Ver.22 を用いて,視覚 (EO,EC)と支持面(硬い支持面,柔らかい支持面) の2要因について,反復測定二元配置分散分析を行い, 交互作用が有意であった場合は要因別に対応のあるt検 定を行った.また,前後方向,左右方向それぞれにおけ る条件ごとの,指標間の関係をPearsonの相関係数を用 いて検討した.なお有意水準は5%とした.
III.結 果
要因別の測定結果を表1に示した.身体3か所の加速 度RMSとCOP軌跡長について,前後方向,左右方向 ともに交互作用は有意であり,すべての指標で閉眼かつ 柔らかい支持面条件の動揺が大きい結果となった.支持 面の要因では,前後,左右方向およびすべての視覚条件 で,身体3か所の加速度RMSとCOP軌跡長は,硬い 支持面に比べて柔らかい支持面で有意に動揺量が大き かった.視覚条件の影響については,COP軌跡長はど ちらの支持面においても,EO条件に比べEC条件で有 意に動揺量が大きかった.身体3か所の加速度RMSは, 柔らかい支持面条件ではEO条件に比べてEC条件で有 意に動揺量が大きかった. 各部位の加速度RMSとCOP軌跡長の指標間の相関 係数を表2に示した.身体3か所の加速度RMSは,前 後方向,左右方向ともに柔らかい支持面上でのEC条件 にてCOP軌跡長と有意な正の相関関係を認めた.硬い 支持面上でのEC条件の前後方向および左右方向,柔ら かい支持面上でのEO条件の前後方向では,T4加速度 RMSはCOP軌跡長と有意な正の相関関係を認めた.柔 らかい支持面上でのEO条件の左右方向では,頭部加速 度RMSはCOP軌跡長と有意な正の相関関係を認めた.IV.考 察
COP軌跡長は,支持面条件の違いとして前後方向, 左右方向ともに,硬い支持面に比べて柔らかい支持面で 動揺量が有意に大きくなり,頭部,T4,L5の加速度 RMSも同様に,硬い支持面に比べて柔らかい支持面で 動揺量が有意に大きくなった.視覚条件の違いとして, COP軌跡長は硬い支持面と柔らかい支持面ともにEO 条件に比べEC条件で動揺量が大きくなったが,頭部, T4,L5の加速度RMSは,柔らかい支持面のみEO条 件に比べてEC条件で有意に動揺量が大きくなった. 先行研究において,柔らかい支持面条件のような支持 面からの情報が定位についての正確な情報源とならなく なると身体動揺指数が大きくなるとされていること や18,19),健常成人において開眼に比べて閉眼では前後 方向のCOP動揺が大きくなること20)が報告されてい る.本研究においても,硬い支持面やEO条件に比べ, 柔らかい支持面やEC条件でCOP軌跡長は大きくなり, 先行研究と同様の結果となった.一方,身体加速度 RMSは,柔らかい支持面で硬い支持面に比べ動揺量が 大きくなったが,硬い支持面条件では,開眼や閉眼の視 覚条件によって差を反映しなかった.先行研究において, 硬い支持面上での開眼や閉眼などの視覚条件の変化によ り加速度RMSは有意差を示さず,バランス障害のない 健常人では,開眼や閉眼の違いは姿勢制御能力をそれほ ど求められないことから,条件間に差を示さなかったと 報告されている15,21).また課題難易度として,閉眼や バランスパッド上など課題難易度の増加により,近位関 節の役割が増加すると報告されている22).今回先行研 究と同様に健常成人を対象としており,硬い支持面条件 のEO条件やEC条件は簡単な課題であり,体幹部や頭 部の加速度RMSは差を示さなかったが,柔らかい支持 表1 要因別の比較結果 指標 前後方向 左右方向 視覚条件 硬い支持面 柔らかい支持面 視覚条件 硬い支持面 柔らかい支持面 頭部加速度(mm/s2) EO† 66.8 (24.9) 94.2 (23.6) EO† 64.2 (13.2) 106.2 (26.1) EC† 73.1 (23.3) 158.7 (49.2)* EC† 67.9 (17.1) 189.0 (66.5)* T4加速度(mm/s2) EO† 59.5 (18.8) 91.1 (25.9) EO† 62.7 (22.2) 107.0 (27.8) EC† 64.1 (23.1) 148.6 (41.2)* EC† 66.3 (21.6) 181.1 (54.0)* L5加速度(mm/s2) EO† 47.5 (18.9) 78.6 (24.5) EO† 14.9 (3.2) 31.3 (7.1) EC† 52.5 (17.7) 133.7 (42.6)* EC† 18.4 (4.9)* 57.6 (17.9)* COP軌跡長(mm) EO† 552.8 (65.1) 640.4 (85.2) EO† 398.8 (65.1) 549.4 (80.6) EC† 579.0 (65.2)* 1,014.0 (229.7)* EC† 424.0 (61.3)* 919.6 (234.6)* 平均値(標準偏差).EO:Eyes Open,EC:Eyes Closed.
†:p<0.05(硬い支持面 vs 柔らかい支持面), *:EOに対してp<0.05.
面条件では身体近位関節の動揺が増加したことで,身体 加速度RMSでもCOP軌跡長と同様に,条件間に有意 な差を示したと考えられる. また,身体部位の加速度RMSとCOP軌跡長との相 関関係からも,課題難易度の高い柔らかい支持面上での EC条件では前後,左右方向とも各身体部位RMSは COP軌跡長と有意な相関を示したが,比較的安定して いると考えられる硬い支持面上でのEO条件では相関関 係を示さなかった.また,硬い支持面上のEO条件より も難易度は高いと考えられる,硬い支持面上でのEC条 件や柔らかい支持面上でのEO条件では,より上半身重 心に近いT4加速度RMSがCOP軌跡長と相関関係を示 していた.竹内23)によると,胸郭部の質量が体重比 35.7%と大きいことや,脊柱の自由度が高いことから細 かな運動を可能にしていることを挙げ,左右方向と前後 方向の胸郭部動揺がCOPへの貢献度が高いことを示唆 しており,本研究でも硬い支持面上でのEC条件や柔ら か い 支 持 面 上 で のEO条 件 で は,T4加 速 度RMSと COP軌跡長は相関関係を示したと考えられる. これらのことから,身体各部位の加速度RMSは,柔 らかい支持面条件など複雑な姿勢制御を要求される条件 においては,従来のCOP軌跡長測定に代わる評価指標 として有用であることが示唆された. 本研究の限界として,標準偏差が大きく測定誤差の影 響を受けたことも考えられる.Moe-Nilssenら21)によ ると加速度計の傾きやフィルタ処理の影響により妥当性 が低下することを指摘している.重心動揺測定自体,非 定常的な系列であり,複雑でとらえがたい変動であるた め24),特に健常者若年者の体幹部の身体動揺は,正確 に測定できていても姿勢制御戦略の組み合わせの個人差 が大きく,ばらつきが大きくなる可能性があると考えら れる.今後は信頼性を高めるため,データ処理の方法や 動揺パラメータの選択について再検討していく必要があ ると考えられる.また,本研究は各指標から得られる数 値の解析を,RMSや軌跡長といった測定時間における 動揺量を用いて行ったため,それぞれの部位が実際にど のような動きをして姿勢制御行っているかは不明であ る.今後は,それぞれの指標の生波形を比較することや,
Zero cross pointのような時間的要素を含めた指標を活 用し,実際の姿勢制御をどう反映しているかを検証する 必要がある.さらに本研究の対象者は健常成人男性であ り,高齢者や転倒歴のある者などのバランス低下を期待 している対象においては,本研究で用いた条件でも課題 難易度が高いと考えられ,本研究の結果とは異なる可能 性があるため,実際にバランス低下をきたしている対象 で検証する必要があると考えられる. 本研究において,健常者の身体各部位の加速度RMS は,柔らかい支持面条件などの課題難易度の高い条件で は条件間でCOP軌跡長と同様の傾向を示し,従来の COP軌跡長測定に代わる評価指標として有用であるこ とが示唆された.今後加速度計の使用によって高齢者や バランス不良者の転倒リスクを簡便に評価できる可能性 があると考えられる. 表2 指標間の相関係数 硬い支持面 柔らかい支持面 T4加速度 L5加速度 COP軌跡長 T4加速度 L5加速度 COP軌跡長 前後方向 EO 頭部加速度 0.146 0.184 -0.04 0.334 0.490* 0.054 T4加速度 0.740** 0.255 0.729** 0.457* L5加速度 0.221 0.398 EC 頭部加速度 0.384 0.461* -0.032 0.525* 0.776** 0.642** T4加速度 0.680** 0.530* 0.601** 0.617** L5加速度 0.371 0.758** 左右方向 EO 頭部加速度 0.093 0.205 -0.106 0.136 0.472* 0.463* T4加速度 0.702** 0.117 0.457* 0.341 L5加速度 0.186 0.394 EC 頭部加速度 0.262 0.541* 0.251 0.897** 0.659** 0.623** T4加速度 0.592** 0.560** 0.666** 0.570** L5加速度 0.422 0.514*
EO:Eyes Open,EC:Eyes Closed. *:p<0.05,**:p<0.01.
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