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胆沢ダム洪水吐きの震災復旧に向けた詳細調査について

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(1)

目 次

§

1.はじめに

§

2.工事概要 

§

3.洪水吐き被災復旧基本方針

§

4.補修・復旧に向けた調査の概要

§

5.おわりに 

§1.はじめに

平成

20

6

14

8

43

分,岩手県内陸南部の深さ

8 km

M7.2

の地震が発生した.発震機構は西北西―東 南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,地殻内で発生した 地震であり,岩手県奥州市と宮城県栗原市では震度

6

強 を観測した.

奥州市に建設中であった胆沢ダム建設工事現場におい ても,斜面崩落や堤体・洪水吐き等にクラックが生じる など被害が発生した.

被災時洪水吐き打設工事は,未だ竣工しておらず,特 に洪水吐き右岸壁は,堤体盛立材と接していることから,

胆沢ダム全体工程を考えると,早期の躯体構築の再開が 必要であった.そのため,洪水吐きでは震災直後より多 種の調査を実施し,平成

20

8

19

日より調査・復旧 対策が完了した打設箇所より順次打設を再開した.

本稿では,被災後の洪水吐き復旧基本方針ならびに洪 水吐き被災調査の概要について報告する.

§2.工事概要

胆沢ダム本体工事では,工事を

5

つに分割発注(基礎 掘削工事,原石山準備工事,堤体盛立工事,原石山材料 採取工事,洪水吐き打設工事)し,マネジメント技術活 用方式(CM方式)を試行的に導入している.写真―1 に胆沢ダム完成予想図を示す.以下に工事内容を示す.

工事件名:胆沢ダム洪水吐き打設(第

1

期)工事 発 注 者:国土交通省 東北地方整備局

工事場所:岩手県奥州市胆沢区若柳地内

工  期:平成

18

3

16

日~平成

22

3

10

日 河 川 名:1級河川 北上川水系 胆沢川

工事内容:洪水吐きコンクリート打設

230,000 m

3     :ボーリング・グラウチング工  8,000 m     :取水放流設備(コンクリート) 14,000 m3     :取水放流設備(法面保護)

1 式

胆沢ダム洪水吐きの震災復旧に向けた詳細調査について

Investigation for Restoration of Earthquake striken spillway of Isawa-Dam

中岡 良文

Yoshifumi Nakaoka

要  約

 本工事は,洪水調節を主たる目的とする北上川水系胆沢川に,堤体積

1,350

m

3を有するロックフ ィルダムの関連工事として行われる洪水吐き打設工事である.

 胆沢ダム洪水吐きは,平成

20

6

14

日の岩手・宮城内陸地震により被災し,躯体・基礎地盤に甚 大な被害を受けた.被災時,洪水吐きは全体の約

58%の進捗状況であり,早期の打設再開を目指し被

災直後より被災調査を行うとともに,復旧工事を行ってきた.

 本稿では,施工再開に向けた洪水吐きコンクリートの被災復旧基本方針および洪水吐き被災調査の概 要について報告する.

*東北(支)胆沢ダム(出) 写真 ― 1 胆沢ダム完成予想図

(2)

§3.洪水吐き被災復旧基本方針

3 - 1 検討フロー

被災対応の検討フローを図―1に示す.検討フローは,

①補修・復旧レベルの選定,②要求性能の整理と被災パ ターンの分類,③復旧対策のための被災調査の実施,④ 復旧対策のための詳細調査の実施,⑤被災状況の評価,⑥ 被災評価に対応した補修方法の選定の順で行うこととし た.

3―2 洪水吐きの要求性能

洪水吐きは,未だ竣工していない構造物であるため,被 災箇所の対策実施に際しては,「当初設計仕様」に見合っ た補修・再構築を実施することを基本とし,今回の地震 に耐えられた当初設計仕様相当に補修・再構築すること を基本とした.

①  今回相当の地震に対しても修復可能な損傷にとどま る構造とする.

②  補修または再構築の実施は,躯体や基礎地盤等との 適用性や経済性を勘案して判断する.

③  ダム本体の貯水機能維持に影響が懸念される箇所に ついては仕様を変更(機能強化)する.

3―3 補修・復旧の考え方

洪水吐きにおいて要求される性能は,次の⑴~⑷に示 すとおりである.

⑴ 力学的耐久性

洪水吐き構造体として,所定の設計条件に対する抵抗 力と耐久性が必要である.

⑵ 水密性・止水性・通水断面

洪水吐きとして所要の水路断面の確保と水密性及びジ ョイント部(止水板)の止水性が必要である.

⑶ 躯体安定性

洪水吐きの安定基準の基本的な考え方は次のとおりで ある.

①  流入部~セパレートウォール部は,貯留水による水 圧を受けるため,重力式ダムに準じた安定基準とす る.

②  シュート部の堤体側は,ダム本体と接触しておりダ ム本体の円弧すべりにかかる部位であることから,

重力式ダムに準じた安定基準とする.

③  上記以外の山側導流壁および減勢部は,一般の擁壁 基準に準じるものとする(ただし,滑動安定性は

Henny

の式による).

⑷ 掘削面の健全性

洪水吐きの掘削面に損傷・不安定箇所がなく,基礎岩 盤及び法面(仮設,永久)としての健全性が必要である.

また,洪水吐きの既施工ブロックでは,貯水機能(ダ ム本体)への影響区間として,流入部及びシュート部の 右岸側導流壁が該当する.特に,セパレートウォール

部では遮水性の確保が重要となるため,止水板機能が確 認できる構造(正・副の二重化,漏水計測など)に変更 する.なお,常用洪水吐きは貯水機能に大きく影響する 区間であるが,被災時点では未施工区間であった.

3―4 被災パターンの分類

被災パターンと評価区分について取りまとめた結果は,

表―1に示すとおりである.①被災パターンの分類,② 要求性能の整理,③評価の判断基準の整理を行った.

§4.補修・復旧に向けた調査の概要

4―1 調査内容

洪水吐きの被災状況を明らかにし,今後対策が必要と なる箇所の特定と,補修・復旧計画案のために詳細調査 を実施した.

詳細調査の実施時期は,平成

20

6

26

日の気象庁 の予報に基づき震度

4~5

弱の余震発生確率が低くなっ てから調査を開始した.

図 ― 1 洪水吐き被災対応検討フロー

表 ― 1 被災パターン別の評価区分概要

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(3)

図―2に,コンクリート構造物の補修・補強における 一般的な調査方法を示す.

洪水吐きの被災状況調査においては,構造物の規模や 範囲,現地状況を勘案すると,表―2に示すような詳細 調査が必要と考えられた.

⑴ 洪水吐き全域に渡って

(a)

の調査を実施すること が基本となる.

⑵ 躯体クラックの内部進展状況を確認する目的で

(b)(c)(e)の調査を実施する.

⑶ 止水板機能が保持されているか確認する目的で

(c)の調査を実施する.

⑷ 掘削面・法面の状況や躯体の着岩状況を確認する 目的で(d)(e)の調査を実施する.

⑸ 流入部では,コンソリデーショングラウチング健 全性を確認するため(f)の調査を実施する.

⑹ クラック貫通箇所及び鉄筋の露出箇所については,

対策工規模の判断材料として(g)の調査を実施する.

4―2 外観調査

⑴ 概要

目視による外観調査は,最も基本的な照査項目である.

特に,コンクリート構造物の変形が進行した段階では,コ ンクリート表面に変状が現れることが多いため,目視観 察や簡単な器具(クラックスケール等)を用いて調査す ることが構造物の診断において有効となる.

⑵ 調査項目

目視検査の調査項目としては,コンクリート表面に存 在するひび割れ,はく離,はく落,鉄筋露出の有無など の発生位置や程度等が把握できる.さらに,局部的な変 状以外にも構造物全体の変形(沈下や傾き)等の情報も 得ることができる.これらの結果は,詳細検査や補修・

補強の要否の判定およびその範囲の選定において,有益 な情報となる.

⑶ 検査方法

目視検査にあたっては,なるべくコンクリート表面に 近づいて入念に調査することが重要である.調査にあた っては,クラックスケール等の測定器,記録用カメラ等 を用いて発生箇所や状態を記録する.また,上記⑵の文 中に示した調査項目のうち,クラックは,コンクリート の耐久性および耐荷性能を把握するための指標となるほ か,その発生位置や形状(形態)から発生原因を推定で きる.クラックの調査においては,発生位置や形態を記 録するだけでなく,クラックの幅や長さを把握しておく ことも重要である.写真―2にゴンドラを用いた高所観 察状況,写真―3にブロック間の開き測定状況を示す.

4―3 非破壊検査

非破壊調査によるクラック調査は図―3の調査フロー に従い行った.

図 ― 2 調査方法

表 ― 2 洪水吐きにおける詳細調査一覧

写真 ― 2 ゴンドラを用いた高所観察状況

写真 ― 3 ブロック間の開き測定状況

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(4)

⑴ 超音波法

① 概要

超音波法は,超音波のコンクリート内部伝播時間を測 定することにより,ブロックとしての健全性を評価する 手法である.超音波の伝播モードとしては,縦波,横波 および表面波がある.超音波とは,一般的に可聴域(~

20 kHz)以上の周波数領域の弾性波を指すが,コンクリ

ート分野では圧電効果により発生させた弾性波を用いる 手法を「超音波法」と定義しており,主に縦波が用いら れている. 図―4に

2

探触子法によるひび割れ深さ測定 概要図を示す.

② 調査項目

具体的な調査項目としては,a.コンクリートの品質

(強度・均一性),b.コンクリートのクラック深さ,お

よび

c.コンクリートの内部欠陥(空隙,はく離等)の

位置や大きさである.評価パラメータとしては,

a.

超音 波伝播速度,b.受振波の振幅やエネルギ,および

c.周

波数特性が挙げられる.

③ 測定器具

超音波計測システムは,電気信号を発生するパルサ部,

電気信号を超音波に変換する送振子,超音波を電気信号 に変換する受振子,受振子により変換された電気信号を 増幅する増幅器,受振波の伝播時間を計測する計測回路 により構成されている.

超音波の測定には,1つの振動子で超音波の送・受振 を行う

1

探触子法と,超音波の送・受振を別々の振動子 で行う

2

探触子法がある.今回の調査では

2

探触子法を 適用した.

写真―4に超音波法(2探触子法)によるクラック深 さ測定状況を示す.

⑵ 衝撃弾性波法

① 概要

コンクリート表面を機械的に打撃した後,コンクリー ト中を伝播してきた弾性波を受振し,受振波の特性から コンクリート内部の状態を把握する手法を衝撃弾性波法 という.超音波法との違いは,弾性波の入力が電気的な 信号でなく,機械的な衝撃を用いていること,および用 いる周波数領域が比較的低い(数

kHz~数 10 kHz

程度)

ことである.衝撃弾性波法では,超音波法と比較して,入 力する弾性波のエネルギーが大きく波長が長いため,コ ンクリート中の骨材や微小空隙等による減衰の影響を受 けにくい.このため伝播距離を長くすることが可能であ り,大型構造物の検査法として適している.

② 調査項目

衝撃弾性波法の用途としては,トンネルの巻厚測定,ト ンネル覆工や舗装版背面の空洞調査,ダムコンクリート の品質調査,杭の値入深さや損傷程度の評価,鋼板とコ ンクリート間のはく離や充填材の充填状況の評価など多 岐にわたっている.

③ 測定器具

衝撃弾性波法の測定システムは,振動センサ(加速度 センサ,変位センサ,AEセンサ),アンプおよび波形記 録・表示装置により構成される.なお,打撃はハンマ打 撃や鋼球落下により行われる.測定は伝播時間の測定を 行う場合と行わない場合では若干用いるシステムが異な る.図―5に衝撃弾性波法模式図,写真―5に衝撃弾性

図 ― 3 クラック調査フロー

図 ― 4 2 探触子法によるひび割れ深さ測定概要図

写真 ― 4 超音波法(2 探触子法)によるクラック深さ測定状

図 ― 5 衝撃弾性波法模式図

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(5)

波試験測定状況を示す.

⑶ 注水試験

① 止水板機能の確認

洪水吐きのジョイント部に著しい開口,段差が認めら れる場合は,止水板に損傷・破断が生じている可能性が ある.ジョイントの開口幅が広い場合は着色水を無圧注 入し,ジョイントの開口幅が狭い場合は加圧注水するこ とで,止水板の健全性を確認する.また,床版部の止水 板では,表面コンクリートを一部切断して破断状況を直 接確認するこことした.写真―6に止水板調査状況

,

真―7に加圧注入による止水板調査状況を示す.

② クラック貫通の確認

躯体の水路側と背面側の同じ位置に大きなクラックが 認められる場合,クラックが躯体内を貫通している可能 性がある.クラックが貫通していると判断するために実 施した具体的な手法と判断基準は以下の通りである.a.

一方のクラックに加圧注水し,反対側のクラックからの 漏水状況を確認する.漏水が検出できればクラックの貫 通を判断することができる.b.躯体底部クラックでは 一方の調査ボーリング孔に着色水を加圧注水し,他方の 孔から着色水の漏水を確認する.漏水が確認できればそ の間は貫通クラックが連続しているものと判断できる.

写真―8に加圧注入によるクラックの貫通確認状況(躯 体壁面部)を示す.

⑷ ボーリング調査

① クラック進展状況の確認

ボーリング調査は,クラック深度方向もしくは,躯体 壁面に生じたクラックの深度を確認するために壁上部よ り鉛直に削孔する.調査は,ボーリングコアやボアホー ルカメラ,ボアホールスキャナの観察により躯体内部の クラック発生範囲を特定し,補修・補強対策工選定の判 断材料とする.

② 着岩状況の確認

ボーリングの実施により,躯体と基礎岩盤の着岩状況 及び岩盤内のクラック状況を確認し,補修・補強対策工 選定の判断材料とする.ボーリング削孔後,ボアホール カメラにて着岩面及び基礎岩盤のクラックを確認する.

写真―9にボアホールカメラによる基礎地盤調査状況を 示す.

⑸ 透水試験

洪水吐き流入部で実施済のコンソリデーショングラウ チングに損傷(機能低下)が生じている可能性があるた め,透水試験によりルジオン値を確認しコンソリデーシ ョングラウチング施工時と比較することで健全性を確認 する.また,流入部では基礎排水孔の損傷状況について も確認する.調査は,未施工ブロックの基礎排水から着 色水を通水し,既施工ブロックの基礎排水(水抜き工)

からの通水状況を確認する.写真―10に透水試験状況,

写真―11に基礎排水調査状況を示す.

写真 ― 5 衝撃弾性波試験測定状況

写真 ― 6 止水板調査状況

写真 ― 7 加圧注入による止水板調査状況

写真 ― 8 加圧注入によるクラックの貫通確認状況

写真 ― 9 ボアホールカメラによる基礎地盤調査状況

(6)

⑹ その他

① 既設鉄筋引張試験

減勢部の半重力式タイプの導流壁では,鉄筋コンクリ ート断面にクラックが発生しており,クラック表面の剥 離により鉄筋の露出が認められる箇所も存在する.この ような断面では補修・復旧対策の基礎資料とするために 既設鉄筋の健全性を確認する必要があり,その手段とし て切断採取した鉄筋の引張試験を実施した.鉄筋試料採 取状況を写真―12に示す.

② クラック一面せん断試験

シュート部の重力式タイプの導流壁では,無筋コンク リート断面に躯体クラックが発生しており,滑動安定性

(せん断抵抗力)

が低下している.このような断面では補 修・復旧対策の基礎資料とするためにクラック貫通部の 摩擦係数を確認する必要があり,その手段として一面せ ん断試験を実施した.

一面せん断試験に用いた装置は,水平方向にせん断力 を加えられる反力フレームを使用し,既存の圧縮強度試 験機内に設置して試験を実施した.図―6に一面せん断 試験測定方法の概要を示す.

⑺ 引張軟化試験

動的解析実施時のパラメータ設定の参考資料とするた めに,同じ原石山骨材を使用したコンクリート供試体を 作成し,引張軟化曲線試験を実施した.コンクリートの 破壊エネルギーを調べるために

3

点曲げ試験を実施し,

試験より得られた荷重−ひび割れ肩口開口変位曲線をも とに解析作業を実施した.

§5.おわりに

洪水吐き打設工事及び被災復旧対策の実施概要は,

図―7に示すとおりである.洪水吐きの復旧対策工事は

H21

年度で完了した.

本稿では,震災による大規模コンクリート構造物の被 災復旧基本方針および被災調査について述べたが,胆沢 ダム洪水吐きは,震災時竣工をしていない構造物であっ たことから,既施工ブロック・施工途中ブロックの両方 について調査・評価を行った.よって今後同程度の被災 を受けた際のコンクリート構造物の調査・復旧について

の基礎となりうる意義のあるものであると考える.

最後に,ご指導,ご協力いただいた各位に深くお礼を 申し上げます.

図 ― 6 一面せん断試験測定方法の概要

写真 ― 10 透水試験状況

写真 ― 11 基礎排水調査状況(着色水による通水試験)

写真 ― 12 鉄筋試料採取状況

図 ― 7 洪水吐き打設工事及び被災復旧対策の実施概要

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