『就実大学大学院教育学研究科紀要 2019(第4号)』 抜刷 就実大学大学院教育学研究科 2019年3月10日 発行
新 免 愛 香
青年期における悔しさの心理学的特徴と 精神的健康にもたらす影響
Psychological meaning, Correlates and Consequences of Chagrin in
adolescence.
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青年期における悔しさの心理学的特徴と 精神的健康にもたらす影響
教育学研究科教育学専攻 3617002 新免愛香
Ⅰ.問題と目的
日常生活において,「悔しい」という言葉を耳にすることは少なくないが,その心理学 的な特徴はほとんど明らかにされていない。本研究では,悔しさを類似感情である後悔と 比較することで,その心理学的特徴を明らかにすることを第1の目的とした。加えて,悔 しさと後悔が,精神的健康に与える因果的な影響の解明を第2の目的とした。その際,ポ ジティブな面として目標志向性,ネガティブな面として精神的苦痛と抑うつへの影響を検 討した。
Ⅱ.研究1:悔しさと後悔の概念的異同の検討
1.目的:悔しさを類似感情と考えられる後悔と比較し,喚起状況とパーソナリティの観 点から,悔しさの心理学的特徴について明らかにする。その際,以下の仮説を検証する。
①後悔がBISに,悔しさがBASに影響する。②悔しさが反応的攻撃/敵意的攻撃に影響 する。
2.方法:15~24歳の青年期300名を対象に調査を実施し,不正回答を除く147名を分析対 象とした。調査の実施はインターネット調査会社(Yahoo Business)に依頼し,①悔し さ・後悔の喚起状況に関する自由記述,②悔しさ傾向尺度,③後悔尺度日本語版,④日 本語版TIPI,⑤BIS/BAS尺度日本語版,⑥日本語版Buss-Perry攻撃性質問紙のそれぞれ に回答を求めた。
3.結果と考察:得られた294件の記述について,KJ法に準じた方法で分類した。その結 果,悔しさは9つ,後悔は11の状況に分類された。悔しさはより主観的な内容の記述が 多かったのに対し,後悔は状況を客観的に捉えたエピソードとして記述しているものが 多かった。また,パーソナリティとの関連として,悔しさと後悔は共に神経症傾向と関 係するが,協調性や開放性との関係から区別される可能性が示された。さらに,悔しさ がBISに,後悔がBASに影響すること,攻撃様式に違いはあるものの,悔しさと後悔は どちらも攻撃反応に影響することが明らかになった。以上より,悔しさと後悔は部分的 に類似した特徴を持つものの,それぞれ独自の特徴を持つ個別の感情だと考えられる。
Ⅲ.研究2:青年期における悔しさがもたらす影響
1.目的:悔しさと後悔の反すうによる持続が,精神的健康にもたらす影響について2時 点を含む縦断調査(Time1,Time2)により検討する。Time1では仮説①と②を,Time2 ではさらに仮説③を含めて検討する。①悔しさは,問題解決を目的とした内的注目であ る反省的熟考を介して目標志向性に影響する。一方,消極的に比較する傾向のある考え
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込みを介して抑うつに影響する。②困難な出来事に対する耐性が高ければ(レジリエン ス高群),問題解決志向的な反省的熟考に至り,耐性が低ければ(レジリエンス低群),
考え込みに至る。③悔しさが大きいほど,時間経過後の後悔は大きくなる。それに伴い,
反すうの影響から,目標志向性と抑うつとの関連も強まる。
2.方法:X県の私立大学および大学院に通う青年期(19~24歳,Time1:90名,Time2:
66名)を対象に,インターネット(Googleフォーム)を用いて2度の調査を行った。①
自身の悔しさ体験に関する質問,②日本語版RRS,③CES-D,④K6日本語版,⑤日本語 版目標志向性尺度,⑥精神的回復力尺度のそれぞれに回答を求めた。なお,Time2では,
①,③,④,⑤の項目のみを用いた。
3.結果と考察:Time1時点では,層別に共分散構造方程式(SEM)を行った。その結果,
レジリエンス低群において,悔しさが反省的熟考に影響すること,そして,動機づけに つながる一方で,精神的苦痛にも影響することが明らかとなった。高群では悔しさが精 神的健康に影響しなかった。次に,交差遅延効果モデルを用いた検討の結果,後悔が後 の悔しさを強めるという因果的な効果を持つこと,悔しさ体験直後に喚起される悔しさ が,長期的に考えると抑うつを低減させ,精神的健康を高めることが明らかとなった。
Ⅴ.総合考察
本研究により,悔しさと後悔は,部分的にこの知見は,部分的に類似した特徴を持つも のの,それぞれ独自の特徴を持つ個別の感情であることが明らかとなった。また,悔しさ のもたらす影響についても,精神的健康との関連において新たな知見が得られた。得られ た知見は,悔しさの心理学的特徴を理解するための一助となるだろう。