マルチエージェントモデルを用いた交差点のシミュレーション
00D8101029K 芦辺 修一中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2004年
3月
あらまし:交差点において,自動車の通行に影 響を与える要因の
1つは,横断する歩行者であ る.歩行者の横断は,自動車の右左折に影響を 与え,その結果,単位時間あたりに交差点を通 過できる自動車の台数は減少する.
本研究では,交差点におけるシミュレーショ ンを行い,歩行者の横断が自動車の右左折に与 える影響を調べ,交差点の交通容量の推計法を 考察する.
キーワード:マルチエージェントモデル,
交通容量
1
はじめに
交差点では自動車と歩行者とが複雑に関係し 合い,横断歩道を渡る歩行者は,自動車が右折 または左折するときの障害となる.このため,
交差点を通過できる自動車の台数は,自動車だ けを考えた交通容量よりも小さな値となる.
本研究では,マルチエージェントモデルを用 いて人と自動車の干渉をモデル化し,交差点の シミュレーションを行う.結果から,交差点に おける歩行者の影響を考察して,交差点の交通 容量の推計方法を導く手がかりを得たい.
2
マルチエージェントモデル
2.1マルチエージェントモデルとは
マルチエージェントモデルは,多数存在する エージェント(ここでは自動車や歩行者)のひ とつひとつを,エージェントの種類ごとに設定 したルールに従って行動させるモデルである.
2.2
マルチエージェントシミュレータ(MAS) マルチエージェントシミュレータ(MAS)は,
構造計画研究所が開発したソフトウェアであり,
マルチエージェントシステムを容易に構築する ための様々な機能が用意されている.
3
シミュレーション
3.1大手町交差点の実測
大手町交差点は,十字路であり,4 方向とも すべて左折・直進車線,直進車線,右折車線の
3車線で構成されている.また,4 方向とも右 折専用信号があり,右矢印が点灯する.交差す る
2本の道路の制限速度はともに
40km/hであ る.この交差点において自動車と歩行者の数を 実測した.
3.2
シミュレーションの設定
3.2.1交差点の設定
・左折または直進をする車線,直進車線,右折 専用車線の合計
3車線で構成される十字路の 交差点である.
・信号は青信号・黄信号・赤信号と右折専用信 号がある.
・信号の周期は
1周
130秒とする.
・シミュレーションの
1ステップは現実世界の
0.5
秒に対応する.
・シミュレーションにおける1マスは
1.67メー トルに対応する.
・車が右左折する際,横断歩道の手前に自動車 が停車できるスペースが
1台分ある.
・ 交差点には,自動車と歩行者のみが存在する.
3.2.2
自動車のルール設定
1)共通ルール
・定められた出現確率に従って発生する.
・自動車の速度は,1 ステップあたりに
1マス 進む速度を
1マス/ステップと表記すると,1 マス/ステップ(=12km/h),2 マス/ステップ
(=24km/h),3マス/ステップ(36km/h)と段階 的に変化する.
・前方の自動車が停止した場合には,3 マス(=
5m)の間隔をあけて停車する.
・自動車は前方
7マス以内に自動車が存在しな い時は加速する.
・前方
14マス以内に自動車が存在する場合に は減速する.
・黄信号では減速しない.ただし,赤信号にな った瞬間に停止線の手前にいる自動車は減速 し,停止する.停止線を越えている自動車は そのまま交差点を通過する.
・赤信号時は,停止線の手前にいる最初の自動 車は停止線の手前から徐々に減速し,停止線 上で停止する.
2)左折車のルール
・左車線には,左折する自動車と直進する自動 車とが,定められた出現確率で発生する.
・左折する自動車は交差点の手前から徐々に減 速し,交差点内は
1マス/ステップで進む.
・横断歩道の特定部分に歩行者がいる場合は,
自動車は横断歩道の手前で停止する.歩行者 がいない場合は停止せず進む.
・左折後の横断歩道の手前には自動車が
1台停 止できるスペースがある.
・左車線に自動車が行列を作っているとき,左 車線にいる直進する自動車は,中央車線の前 方
2マス,後方
14マスの範囲に自動車がい ない場合であれば,車線を変更し,中央車線 へ移動することができる.
3)右折車のルール
・右折する自動車は交差点の手前から徐々に減 速し,交差点内に
1マス/ステップの速度で進 入する.途中で斜め
45度方向に向きを変え,
縦
1マス,横
1マスの速度で進む.
・対向の左車線と中央車線が,ともに
12マス 以上あいて,その間を右折することが可能な 状態になったときは,右折する.
・横断歩道に歩行者がいる場合には,1 台のみ
横断歩道の手前のスペースに停止することが
可能である.
3.2.3
歩行者のルール設定
・定められた出現確率に従って発生する.
・歩行者はランダムで
5列に発生する.偏りが 生じる場合があるが,偏りを考慮しない.
・前方の歩行者との距離が
1マス(=1.67m)以上 開いた後,横断を開始する.
・青信号が点滅したら,横断歩道上をすでに歩 いている歩行者以外は,横断しない.
・歩行者の年齢・性別などの属性は考慮せず,
どの歩行者も等しい速度で横断する.
・歩行者の速度は
0.3マス/ステップとする.
・歩行者同士がぶつかるなどの干渉は考慮しな い.
3.3 シミュレーションの実行
実測で得られたデータを用いて
MASでシミ ュレーションを行う.通過できる自動車の台数 を
30周期計測し,
1周期あたりの平均通過台数 を表
1に示す.図はシミュレーションの様子で ある.
4
異なる条件下における交通量
4.1
歩行者の出現確率の変化による交通量の変 化
歩行者の出現確率が
0の場合,通常の
3倍の 場合,通常の
5倍の場合について
30回ずつシ ミュレーションを行い,1 周期の間に通過でき る自動車の台数をそれぞれ計測した.1 周期あ たりの平均通過台数を表
2に示す.
南北方向の左折車は,歩行者の出現確率の増 減によって大きな影響を受ける.しかし,東西 方向の自動車の左折に関しては,歩行者の影響 はほとんど無い.東西方向は,自動車の出現確 率が低く,左折車の数も少ないため,交差点の 通過台数は自動車の出現確率に依存しているた めであると推測される.また,右折車はすべて の方向でほとんど影響を受けていない.データ は直進車の数が非常に多く,右折車は,対向の 直進車の影響を受け,横断歩道の歩行者の数の 増減にはほとんど影響されないと推測される.
図 シミュレーションの様子
表
1 自動車の通過台数の平均と分散南→北 北→南 西→東 東→西
左 直 右 左 直 右 左 直 右 左 直 右 計 平均 4.7 18 3.7 5.0 17 4.2 3.5 12 2.3 2.9 15 4.6 92.9 分散 2.5 12 2.2 1.8 9.1 1.6 2.3 9.3 1.6 2.2 3.0 3.3 29.8
表
2 歩行者の出現確率を変化させたとき歩行者の 南→北 北→南 西→東 東→西 出現確率 左 直 右 左 直 右 左 直 右 左 直 右 計
なし 6.8 18 4.1 6.0 18 4.2 2.3 11 2.5 2.4 15 4.3 94.2 通常 4.7 18 3.7 5.0 17 4.2 3.5 12 2.3 2.9 15 4.6 92.9 3倍 3.0 19 3.6 3.0 18 3.6 2.8 12 2.4 2.5 15 4.0 88.2 5倍 3.0 19 3.7 2.9 18 3.8 2.6 11 1.9 2.5 14 4.2 85.7
表
3 横断歩道手前の停車スペースが無い場合南→北 北→南 西→東 東→西 ルール 左 直 右 左 直 右 左 直 右 左 直 右 計
通常 4.7 18 3.7 5.0 17 4.2 3.5 12 2.3 2.9 15 4.6 92.9 無し 4.3 19 3.4 4.8 18 3.0 3.1 11 2.3 2.7 15 4.1 90.2
表
4 1周期あたりの交通容量
南→北 北→南 西→東 東→西
左車線 15.69 19.66 14.88 16.60
中央車線 29.00 29.00 20.50 20.50
右車線 13.66 5.58 7.16 14.32
4.2.1
車線変更を禁止にした場合
車線変更を禁止すると,左折車の通過台数が 減少する.左車線の直進車が中央車線に移動で きないために,左車線が混雑するためである.
4.2.2
右左折における横断歩道手前のスペース
が無い場合
1
周期あたりの平均通過台数を表
3に示す.
西→東を除き,右折車の通過台数が減少する.
4.3
従来の交差点における交通容量との比較 従来の方法で求めた交通容量を表
4に示す.
シミュレーションで求めた値は,従来の交通容 量と比較して,小さい値であった.
5
まとめ
歩行者の出現確率が高くなると,自動車の左 折に大きな影響を与える.また,横断歩道の手 前における自動車の停止スペースの有無も,自 動車の交通量に影響する.シミュレーションの 結果で得られた通過台数の値は,従来の方法で 求めた交通容量の半分程度の値であったが,待 ち行列が長くなることがあった.
参考文献
[1]
社団法人交通工学研究会:道路の交通容量
1985,コロナ社,東京,
1987.
[2]