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近年の日本映画における性表現規制
――映倫審査の妥当性の検証と審査基準の提起――
Rating of Sexual Expression in Recent Japanese Movies
Verification of Validity in Judgements by Film Classification and Rating Organization and Raising of Standards
1W153011-5 飯村 真子 指導教員 是枝 裕和、 土田 環 IIMURA Mako KORE-EDA Hirokazu TSUCHIDA Tamaki
概要:本論文では、近年の映画倫理委員会(通称「映倫」)の審査基準と表現のあり方について、考察・検証を行う。作品ごとにレイティングを指 定する映倫の審査は、映画を公開する際に、対象となる観客の範囲を限定し収入に影響を与える点で、興行のなかで重要なプロセスといえよう。し かしその絶対的な基準は存在せず、むしろ「揺れ動くもの」だと映倫審査員さえ発言している。本論文では近年の映画作品を詳細に分析すること で、映倫の中にある内在的な基準を見出すことができると仮定した。検証において適当な性表現を抽出するために、これまでの性表現規制の歴史や 映倫の審査方法について調査し、参考とした。分析にあたっては、2017 年の日本映画を対象とし、作品における性表現の秒数など定量的な検証と、
人物関係や表現の度合など定性的な検証の二通りの検証を行った。検証結果と考察を踏まえ、現在の映倫審査の妥当性と、審査における基準の必要 性について述べる。
キーワード:性表現、レイティング、映画倫理委員会、青少年保護
Keywords : Sexual Expression, Rating, Film Classification and Rating Organization, Protection of Youth
1.序論 ―映倫審査において基準は必要か?
元映倫管理委員である宮沢俊義は映倫の審査について「多数の 人が考える”こういうことは許される、許されない”という水準は 尊重しなければならぬが、ただし、この水準は動くものである」
(宮沢、1969)と述べている。映倫の審査は作品を主題・題材と その表現の仕方に応じ、年齢別に分類するとしながらも、その絶 対的な基準は明記されていない。本論文ではそのことに疑問を呈 し、現在の映倫審査の妥当性を検証する。具体的には、明記され た基準はなくとも、近年の映画の性表現を抽出し分析することで、
隠された、もしくは映倫の中にある内在的な基準を見出すことが できると仮定する。それが難しいならば、同じ一視聴者である18 歳未満、15歳未満の子どもたちにとっても指定区分の差が分から ないということであり、果たしてそれは本当に意味のある区分で あるのか、考察する。また、規制の理由は性表現のみならず「残 酷性」「犯罪描写」など他にも多く存在するが、先行研究が比較的 多く、また全ての指定区分にてそれを理由に規制されている作品 のあるものが性表現だけであるため、本論文では性表現規制に対 象を絞ることで、規制区分のより詳細な境界を追究した。
2.研究背景 ―性表現規制の歴史と現状
元来、性表現は中世ヨーロッパにおいて政治的、宗教的、道徳 的な理由により生活の中から排除されてきた。以降、惰性的に「性
表現は規制されるべきだ」という風潮は続き、規制すること自体 が目的化されてきたが、1960 年頃から司法によって性表現を規 制する正当性が問われるようになると、「青少年の保護」を、その 根拠とするようになった。
映倫は 1949年に設立されていたが、十分に機能していなかっ たために、都道府県の青少年育成保護条例が推進・制定されるこ とになった。この条例では「全裸又は半裸の描写によって卑猥な 感じを受けるもの」や「法に触れる性的行為を賛美するもの」な どを不健全な図書類として指定できるとし、さらに青少年に対す る性的玩具の売買を禁止している。また 1998年にアメリカを倣 って表1の4つの指定区分が新たに採用され、現在でもこの指定 区分が使用されている。
表1. 映倫審査における指定区分の説明
3. 検証方法 ―抽出する描写を考えるにあたって
本研究では第2章で整理した性表現規制の歴史や現状を参考に 区分の名称 説明
G 年齢にかかわらず誰でも観覧できる。
PG-12 1 2歳未満の年少者の観覧には、親又
は保護者の助言、 指導が必要 。 R15+ 1 5歳未満は観覧禁止。
R18+ 1 8歳未満は観覧禁止。
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作品中の性表現を抽出し、性表現の秒数や回数といった数値的な 考察と、その表現方法や人物関係に着目した考察の2通りの考察 を行った。まず作品における性表現の秒数や回数をもとにした分 析においては、映倫の公式な審査理由と都道府県の青少年健全育 成保護条例を参考に「性愛描写」「性的台詞」「身体の露出」「性的 玩具」の描写を基準として、その持続時間や頻度を数値化した。
次に、作品の内容に関する分析にあたっては、映倫審査員の1人 である平山達郎に対するインタヴューの回答(平山、2016)から、
「性愛描写」のなかに6つの具体的な描写の有無を基準項目とし た。また現在までの性表現規制において描写の中で性的行為をす る二人の人物関係が重要視されてきたことからその規制基準の構 成要素も抽出した。本研究で使用するサンプルは、海外の規制を 考慮しない純粋な映倫審査の現状について考察すること、DVD化 されていて容易に検証できることから、2017年に審査された日本 映画とする。そのなかでも、性表現を理由に規制されている作品 と、ラブストーリーのジャンルに属するG指定作品の合計45本 を選んだ。
4.検証結果および考察 ―映倫審査基準の提起
2017 年の日本映画を対象に、指定区分の内在的な基準や境界 を見出すことができるという仮定のもと検証した結果、表2のよ うになった。表における数字は秒数、回数、割合の指標それぞれ の平均の値であり、指定区分ごとの平均値の差は見られたが、必 ずしもその値はR18+の作品 > R15+の作品 > PG-12の作品にな っているわけではないため、数値で明確な基準を提示することは できなかった。しかし秒数や回数の値が大きい作品ほど高い規制 を受けやすくなると言える。PG-12指定とR指定の境界は明らか であったが、R15+指定とR18+指定の区分の差を作品の内容から
見出すことは難しく、鑑賞者の印象に過ぎない程度であるといえ よう。
5.結論と展望 ―「R18+」が持つ意味とその妥当性
検証結果をもとにすると、G指定作品と規制作品の境界や、PG- 12指定作品とR指定作品の境界が明らかになる。また性表現の持 続時間や回数といった数値も、明確な基準はないものの平均の差 が見られたことなどから指定区分を決定する一要素となり得ると 考えられる。以上は仮定が成り立つ結果となったが、R15+とR18+
の差については数値以外の作品の内容や表現といった部分におい て見出すことが難しかった。現在の表現規制は「青少年の保護」
を目的としており、R指定とは決められた年齢未満の青少年がそ の表現に触れないために設けられている。しかし、本論文が示す ように、一視聴者がR15+指定とR18+指定の境界を見極めること が難しいとするならば、同じ一視聴者である青少年にとってR18+
指定という区分は無意味なものではないか。つまり「映倫にしか わからない」審査が本当に青少年の育成にとって意味のある審査 であるのか、疑問であるということだ。
また2017年の映画の中には『娼年』(三浦大輔、2018)に代表 されるように、「R18+指定であること」がある種の宣伝文句とし て利用されることが多いことを指摘したい。考察で述べたように、
単純な性表現の多さや時間の長さによってR18+指定は受け得る。
結果、映画を審査して指定区分が決定するという流れが倒錯し、
R18+指定を受けることで呼ぶことができる話題性のために映画 を作る、つまり映画の中で無意味な性表現を増やすに至る可能性 もある。そこで絶対的な基準を設けることが、そのような「宣伝 のための映画」になることを防ぐことにも繋がるのではないか。
今後の展望として、レイティングと映画の宣伝方法やその効果に 相関関係があるのかどうか、詳細に分析することでレイティング の基準の必要性について考察を深めたい。
6.参考文献(抜粋)
・加藤幹郎、『映画 視線のポリティクス』、1996年、筑摩書房。
・白田秀彰、『性表現規制の文化史』、2017 年、亜紀書房。
・三井重二、「映倫の自主を脅かすもの」、「キネマ旬報」
No.340、1963年、キネマ旬報社。
・高橋英一、「トップに聞く 宮沢俊義映倫管理委員「黒い雪」
問題を語る」、「キネマ旬報」No.509、1969年、キネマ旬報社。
G PG-12 R15+ R18+ 規制区分による差
なし 性表現の有無
身体の露出の有無
123.3 218.2 725.2秒数における平均の差は見られたが 明確な基準は見出せなかった 2.8 6.1 10.4回数における平均の差は見られたが
明確な基準は見出せなかった
2.5 5.8 25.5
割合(本論文で設定した指標)における 平均の差は見られた
またR15+/R18+のみ基準を見出せる なし 性風俗やアダルトビデオの扱いの有無 なし あり 詳細な性愛描写の有無
あり
あり
表2. 検証結果:規制区分による差