生態系における移入種と在来種との相互関係
- エ ー ジ ェ ン ト ・ ベ ー ス ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る -
日 大 生 産 工 (院 ) ○ 村 山 智 隆 日 大 生 産 工 柴 直 樹
1. 序論
近年、多くの地方、または都心で「移入種(外来種) 」 による在来種への悪影響が問題になっている
3)。例え ば、動物では、カミツキガメ、ブラックバス、ブルー ギル、マングースなど、植物では、サトイソギク、ハ ナイソギクなどがあり、これら以外にも国内移入され た種が多数存在する。これらは、様々な経緯でその土 地以外から移入された。
また、現在、移入種についてのさまざまな考え方、
偏見、知見が存在している。よって、本論文では、実 際に報告されている事例を考察し、それらを再現する ためのシミュレーションモデルを構築し、コンピュー ターシミュレーションを行うことにより、今後の移入 種対策について検討することを目的としている。
2. 研究の方法
モデルを構築する手法としてエージェント・ベー ス・アプローチを採用する。この手法は、ある環境空 間に、エージェントと呼ばれる個々のアクターを配置 し、そのエージェントに簡単な規則を与え、それぞれ の相互作用による全体としての創発的な振舞いを観察 するシミュレーション技法である。
今回のシミュレーションにおけるプラットフォーム
は、 NetLogo を用いる。 NetLogo は GUI を採用し、
Logo 言語をベースとしたモデル記述言語による簡単 な構築ができる利点がある
4)。
3. シミュレーションターゲット
今回、ターゲットとする事例は以下の通りである。
事例①
近年の長野県木崎湖おいて、オオクチバスが雑魚を 減少させ、雑魚のプランクトンに対する捕食圧が低下 し、結果としてプランクトンが増殖した事例
3)。 事例②
オオクチバスを除去した後にアメリカザリガニが大 繁殖し、ヒシが食いつくされた事例
3)。これは事例① を基に考えると、オオクチバスが侵入したことにより 被捕食者の餌が大量発生し、結果、被捕食者が大増殖 し、ヒシが食いつくされる事態となったと推定できる。
また、このような事例も存在する。 「いくつかの魚種 の全長分布は Ranger 湖(オオクチバスを駆除した湖)
では小型個体に偏ったが Mouse 湖(オオクチバスを 放流した湖)では大型に偏った。
3)」これには、 「ブラ ックバスが小さな魚を選択的に摂食したことによるも のと推定されている
3)」という理由がある。よって、
オオクチバスの捕食により遺伝的に大きくなる強い個 体のみが残り、全体の体長分布が偏ったと思われる。
そこで注目したいことは、1 匹当たりのエネルギーの 必要量である。大きくなれば、もちろんより多くのエ ネルギーが必要になることは明らかである。
よって、これらの事例から、 「オオクチバスからの捕 食圧がかかっている生物は、摂食要求度が高くなる。」
という推測をすることができる。また、この推測を「捕 食圧による摂食要求度の変動」とする。このことから、
事例②をもとに、 「摂食要求度が高い状態の生物は捕食 圧から急激に解放されると大増殖し、結果餌がなくな り絶滅する可能性がある。 」ということが推測でき、こ れを「捕食圧解放による被捕食者絶滅の可能性」とす る。今回は、 「捕食圧解放による被捕食者絶滅の可能性」
を再現するシミュレーションモデルを構築する。
4. シミュレーションモデル
t = 0, 1, 2,…を時間軸とする。モデルでの移入種と 在来種についての基本的な相互関係を図 1 に示す。図 1 から主なエージェントは、 「プランクトン」 、 「在来種
(成体) 」 、 「在来種(幼体) ) 」 、 「移入種(成体) 」 、 「移 入種(幼体) 」だとわかる。では、それぞれのエージェ ントについての行動規則を示す。
図 1:モデルでの移入種と在来種の相互関係
プランクト ン の行動規則
プランクトンの個体数は、内的自然増殖率(intrinsic grow rate )ε 、環境収容力または環境容量 (environm- ental capacity carrying capacity)K、プランクトンの
総個体数 Np(t) による以下のロジスティック方程式に
従う
1)。
d Np(t)
Np(t)= ε 1 - Np(t) (1) dt K
The interaction between introduced species and native species on ecosystem
– by the agent-based simulation –
Tomotaka MURAYAMA and Naoki SIBA
在来種の行動規則
在来種はプランクトンを捕食して繁殖、成長する。
捕食方法は摂食要求度 P(t) に従うものとし (2) 式のよ うに定める。 P(t)は自種の現在個体数 Nn(t)、過去の最 大個体数 Nn (t) に従い変化する。 Nn (t) は 0~(t-1) 時点までの最大個体数である。ここで ε と AP は定数 である。
Nn(t)
P(t)= ε 1 - AP + AP (2) Nn (t) また、プランクトン濃度を PD(t)とおく。そして、
(3) 式の規則に従い、捕食行動を行う
捕食成功 : PD t 100 P t のとき
捕食失敗 : PD t 100 P t のとき (3) z 在来種によるプランクトンの捕食
以下では
N: 在来種の個体の集合 ,I: 移入種の個体の集合 i∊N, j∊I とする。
個体の総効用 utilitiy t を (4) 式に定義する。
(4)の u:効用、 C: れぞれ u=u/v, C=C/v
) る。
コスト(幼体はそ とする はともにパラメータであ
utilitiy t utility t 1 u: 捕食成功のとき utility t 1 C: 捕食失敗のとき (4) また、 1 回の捕食成功により、プランクトン数 Np(t) は u 減少する。次に、自然死はパラメータである約 L 年 (L はパラメータである、 1 年 =100 ステップ ) 、また は、 utilitiy t <0 の時に起こるとする。
z 成長
young t を個体 i が時刻 t において幼体であること
を示すブール値関数とする。T のとき幼体、F のとき 成体である。シミュレーション開始時の個体はすべて
young 0 Fであり、それ以降に生まれた幼体は
young t T とする。出産後の時刻 t(>0)での
young t は(5)式に従う。 growu はパ ラメータである。
young t
T: young t 1 T and utilitiy t growu のとき F: young t 1 F
or young t 1 T and utilitiy t growu のとき
(5)
z 繁殖
t での個人の幼体 ) 式のように定め る。spu
出産数 spn t を (6 と n はパラメータである。
spn t n: utility t spu のとき
0: tility t のとき (6) u
集合 N の要素数を i とするとき、t で生まれた総 幼体出産数 spn t は (7) となり、在来種bの個体数を (8) 式のようになる。
spn t sp t
Nn t N 1 spn t (8) n 7 n t
繁殖により新たに spn t 数生まれた個体はすべ
て幼体( young t T )である。また、出産直後の
utility t は(9)式 となる。
utility t utility t 1
2 9 以上の成長と繁殖の手法は、移入種でも使用する。
移入種の行動規則
移入種は在来種を捕食して、繁殖、成長する。
z 移入種による在来種の捕食
捕食方法は vision を半径とする視界(図 2)内に在 来種が入った場合、その在来種を捕食し捕食成功とな る。それ以外は捕食失敗となる。そして、 utilitiy t は
(10)式のようになる。 (10)式の C:コスト(幼体は C=C/v)
はパラメータである。
図 2 :視覚
utilitiy t
utility t 1 utility t : 捕食成功のとき
utility t 1 C : 捕食失敗のとき
(10)
また、1 回の捕食が成功すると、在来種は 1 個体減 少する。次に、自然死、幼体の成長、成体の出産は、
在来種での自然死、成長、出産と同様であるが、ただ し、移入種固有のパラメータに従う。また、放流され る移入種はすべて成体young t Fであり、それ以降 に生まれた幼体は young t T とする。
5. シミュレーション実験
実際にモデルを実行し、様々なパラメータの下で結 果を導き出す。シミュレーションモデルにより示した いターゲットの振舞いは「捕食圧解放による被捕食者 絶滅の可能性」である。よって、この仮定が成り立つ 状況をモデル上で再現する手順はⅠ~Ⅳの通りである。
表 1:プランクトンの初期値
表 2 :在来種の初期値
Np(0) 10000
K 30000
εp 0.25
Nn(0) 600
Nn(0) 0
εn 0.5
growu 4±2
L 300±50
C,u 1
v 0.1
spu 50
n 4
u0 0
AP 78
I. オオ の再 II. オオ III. オオ IV. オオ では、手順 (counter
Ⅰ.表 1, まず、
るロジス ージェン 変数とし い、初期 する。そ 前進する 動、成長
Ⅱ. 3000 ス Ⅰを繰 匹の移入 に、前進 う。
Ⅲ.オオ
図 表 3:移
オクチバスが放 再現
オクチバスを放 オクチバスの定 オクチバスを個 順に沿って実
はパラメータ 2,3 の初期値に
、プランクトン スティック方程 ントとして環境 して扱う。次に 期個体数 600 そして、1 ステ る。またこのス 長を行う。
ステップにオオ 繰り返し、 300 入種を放流する 進、捕食行動、
クチバスが定着 Ni(0) growu counter(%
u0 L C,u
v spu
n
図 3:時間にお
移入種の初期値
放流される前の 放流
定着
個体数の count
験を行う。
)
によりモデルを ンの個体数は表 程式に従う。プ 境空間上には配 に在来種の個体 匹を環境空間 テップ間に環境
ステップ間に捕
オクチバスを 00 ステップに る。放流後、在
、繁殖行動、成 着することを
100 50±1 0
%) 100
0 750±10
1 0.1 50
1
ける個体数の 値
の持続可能な状
ter% を除去す
を実行 表 1 を初期値 プランクトンは 配置せずマクロ 体数は、表 2 に 内にランダム 境空間単位 1 ず
捕食行動、繁殖
100 匹放流す
に、環境内に 1 在来種と同じよ 成長、自然死を
確認する。
0
00
変化(条件(ス
状態
る。
とす はエ ロな に従 配置 ずつ
殖行
する。
100 よう を行
オ 認す
Ⅳ.
る 回 を オ
6.
モ 設定 A)
ら ン B)
流 種 一 る 量 昇 こ C) こ チバ よっ して なっ
設定 1 2ステップ>4500 オオクチバスが する。
オオクチバス
4500 ステップ
る。このとき、
回の仮定である を考慮に入れる オオクチバスの 表 4:オ
シミュレー
モデルの実行結 定 1
0~2999 ステッ この区間では らず、プランク ンスを保ってい 3000~4499 ス
3000 ステップ
流される。そし 種が減少する。
一時的に減少す る形となり、オ また、ここで 量である。オオ 昇している。こ ことによるもの 4500~7000 ス この区間で、摂
バスを 100%除
って数が抑えら て、ある程度の ってきたため個
定 条件
ステップ
>4500
ステップ>4500 a0 and P(t)>90) が 4500 ステッ スを個体数の 1 プからオオクチ
摂食要求度 P る「捕食圧によ るためである。
の除去タイミン オオクチバス除
ーション結果
結果を図 3、図 ップ
は、まだオオク クトン、在来種 いる。
ステップ プになりようや して、オオクチ
しかし、絶滅す するが、移入種 オオクチバスは で注目したいこ オクチバス投入 これはプランク ので、事例①に ステップ
摂食要求度が 9 除去する。除去 られていた在来 の個体数に達し 個体数が減少す
件
and P(t)>90 and P(t)>100
ブラ ブラ
))
ップまで定着す 100%除去する チバスの 100%
P(t)の値に注目 よる摂食要求度 よって、 P(t)の ングを表 4 に定 除去開始条件
果
図 4 に示す。
クチバスが放流 種(成体、幼体
やくオオクチバ チバス放流によ
するようなこと 種も減少し在来 は定着する。
ことは、プラン 入以前と比べて クトンの捕食圧 に相当するとい 90 以上のとき 去すると今まで 来種が増殖を始 したところで、
する。ところが すること確 る。
% を除去す
目する。今 度の変動」
の値により 定める。
操作 ラックバスの個体数 ラックバスの個体数
数100%を除去 数100%を除去