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(1)

非破壊検査による現場計測データを活用した長期使 用水圧鉄管の材料特性評価と健全度診断技術に関す る研究

著者 川村 文人

発行年 2019‑12

出版者 静岡大学

URL http://doi.org/10.14945/00027512

(2)

静岡大学  博士論文 

非破壊検査による現場計測データを活用した 長期使用水圧鉄管の材料特性評価と 

健全度診断技術に関する研究 

2019年12月 

大学院  自然科学系教育部 

(3)

目    次 

第 1 章  序論       1 

1.1 研究背景         1 

1.2 先行研究と課題         3 

1.3 研究目的         5 

1.4 本論文の構成         5 

第 2 章  長期使用水圧鉄管用鋼材の強度特性と破壊靭性        16

2.1  緒言         16 

2.2  長期使用水圧鉄管用鋼材の材料強度特性       16 

2.2.1  試験方法         16 

2.2.2  試験結果および考察         17 

2.3  長期使用水圧鉄管用鋼材の破壊靭性       20 

2.3.1  試験方法         20 

2.3.2  試験結果および考察         21 

2.4  結論         24 

第 3 章  腐食損傷した長期使用鋼材の残存強度評価        81 

3.1  緒言         81 

3.2  供試材,試験方法および有効板厚の定義       81 

3.2.1  供試材         81 

3.2.2  板厚測定         81 

3.2.3  腐食鋼材の引張試験         82 

3.2.4  有効板厚の定義         82 

3.3  試験結果および考察         82 

3.3.1  腐食鋼材の引張試験結果         82 

3.3.2  腐食鋼材の板厚測定結果         83 

3.3.3  腐食鋼材の有効板厚評価手法         83 

3.3.4  腐食鋼材の残存強度評価         84 

3.3.5  有効板厚評価手法の実構造物への適用性       84 

3.4  結論         85 

(4)

第 4 章  非破壊検査による長期使用した SS400 溶接継手の 

破壊靱性評価        104

4.1  緒言         104 

4.2  試験方法         104 

4.2.1  供試材         104 

4.2.2  化学組成分析         104 

4.2.3  マクロおよびミクロ組織観察      105 

4.2.4  破壊靱性試験         105 

4.2.5  低靱性溶接継手試験片に関する各種試験      105 

4.2.6  現場溶接継手の化学組成分析・ミクロ組織観察および硬さ試験    106 

4.2.7  工場溶接継手の角変形による応力度評価      106 

4.3  試験結果および考察         106 

4.3.1  化学組成分析結果         106 

4.3.2  マクロおよびミクロ組織観察結果      107 

4.3.3  溶接継手部の破壊靱性         107 

4.3.4  溶接継手部の破壊靱性と化学組成との相関性      108 

4.4  結論         110 

第 5 章  長距離超音波を用いた水圧鉄管における  コンクリート小支台接触部の腐食状況評価        137

5.1  緒言         137 

5.2  腐食状況に適した超音波の選定         137 

5.2.1  長距離超音波探傷技術の動向調査      137 

5.2.2  室内試験         138 

5.3  腐食調査に適した周波数の検討         141 

5.4  腐食評価方法の検討         142 

5.5  結論         143 

第 6 章  結言      

(5)

第 1 章  序論  1.1   研究背景 

2011

3

11

日に発生した福島第一原子力発電所の事故以来我が国における再生可 能エネルギーの開発は益々重要視されている1)。現在実用可能な再生可能エネルギーとし ては,太陽光発電,風力発電,バイオマス発電,地熱発電,潮流発電および水力発電(小 水力発電)があげられる。しかしながら,水力発電以外のほとんどの再生可能エネルギ ーは,歴史も浅く,今後の更なる技術開発を必要としている。一方,水力発電は古くか ら開発されているエネルギーであり,安全性および信頼性の面からも再生可能エネルギ ーの主体となり得るものである。ただし,低コストで新規開発が可能な小水力発電所の 計画地点は極めて少ない。技術的に完成度が高い水力発電を再生可能エネルギーの中心 にしていくためには,小水力発電の開発に加えて,既設水力発電所の有効活用が必要不 可欠である。特に,50 年以上の長期にわたって供用されてきた既設水力発電所の設備に おいては老朽化が進行し,設備延命化のための維持管理手法の開発が重要な課題となっ ている。

水力発電には河川流量の利用方式によって水路式と貯水池式とがある。水路式は,河 川から取り入れた水をまず導水路トンネルに導き,水槽(ヘッドタンク)を経て水圧鉄 管に落とす。他方,貯水池式では,水は貯水池から直ちに水圧鉄管に入り,そのまま水 車に導かれる。両者を組み合わせた貯水池水路式では,かなりの水深から取水するため,

導水路は圧力トンネルとなり,水圧鉄管との間にサージタンクが必要となる。

Fig.1

に各 種水力発電形式の概要を示す。また,Fig.2に本研究の対象とした貯水池水路式水力発電 所の全景を示す。

水圧鉄管は水力発電所の主要工作物の一つで,水車に高圧または高速の水を供給する ための導水管である。水圧鉄管は,地表に沿って設置される露出管方式と揚水式発電所 の水圧鉄管に代表される埋設管方式に大別される。土木工事が容易であるため,明治時 代から昭和

30

年代中頃までほとんどの発電所が露出管を採用していた2)。水圧鉄管の設 計,鋼材の

JIS

制定および事故例を

Table1

に示す。初期の水圧鉄管は錬鉄を使用したリ ベット管であり,大正初期まで国内では小規模なものしか製造できず,外国からの輸入 に頼っていた。水圧鉄管用鋼材は,昭和初期までの輸入管を除いては,ほとんどが,JES

(日本標準規格)第

20

号(引張強さ

34〜47kgf/mm

2,伸び

17%以上)が採用され,昭

13

年(

1938

年)の

JES

の改正後は

JES430

号の一般構造用圧延鋼材第

1

SS34

(引 張強さ

34〜41kgf/mm

2,伸び

25%以上)

,第

2

SS41(引張強さ 41〜50kgf/mm

2,伸 び

23%以上)等の軟鋼が主として採用された。その後,昭和 25

年(1950年)頃までの 戦中,戦後にかけて鋼材の不足から品質が低下した2)。そのため,昭和

20

年から「水門 鉄管技術基準」が制定された昭和

35

年(1960 年)までの水圧鉄管の健全性評価におい

1

(6)

て材質的な面から評価レベルを落としている事例もある3)。昭和

25

年頃を境に溶接技術 の進歩により,工場溶接(縦方向継手,周方向継手)はサブマージアーク溶接,現場の 周方向継手もアークエアガウジングによる突合せ溶接が採用された。同時期にポータブ ル

X

線検査装置が輸入され現場検査に適用された。しかし,「水門鉄管技術基準」が制定 される昭和

35

年までは溶接継手の検査は義務づけられておらず 4)5),製作メーカーで独 自の検査が行われていた。このことより,「水門鉄管技術基準」が制定される以前の水圧 鉄管には,使用材料の品質に加えて溶接施工性にも問題があったことが推察される。

過去に国内で発生した水圧鉄管の破損事例を

Table2

に示す7-10)。公開されている破損 事例は

5

件であり,竣工年は昭和

18

年(1943年)以前の材料である。ヒューマンエラ ーによる誤作動で圧潰した分水第三発電所以外の

4

件は,全て粗悪な使用材料と溶接継 手の施工不良とが原因である6-10)。なお,大橋発電所の損壊事故は,経年腐食による水圧 鉄管の耐荷力低下も損壊の一因とされている9)。他の発電所においても竣工から

20

年以 上経過しており,腐食による部材の応力レベルの上昇も破損事故に影響していたものと 推察される。

国外においても水圧鉄管溶接継手

3

件の破損事例が報告されている(Table3)11-13)。特 に,ラピノ発電所(ポーランド)の水圧鉄管破損事故は,1927 年に竣工して

70

年が経 過した

1997

年に発生しており,溶接継手の施工不良と経年による劣化も影響した軟鋼溶 接継手の脆性破壊が主因とされている。これは我が国における上述の

4

件の事例に類似 している。この事故で発電所が

2.5m

浸水し,3名が亡くなった12)。2000年には高張力 鋼を使用した破損事故が発生している。スイスのクルゾン・ディクソン発電所の水圧鉄 管は,最大設計水頭

2000m

で,全て岩盤埋設式である。そのため鋼材には高張力鋼

(P355NL1, S690QL, S890QL)が使用されている。破損したのは,水圧鉄管下部に使用 されている

S890QL(HT100)の溶接継手である。事故調査委員会の報告によれば損壊

の原因は,水素に起因した遅れ割れであり,施工不良による影響も指摘されている。こ の事故により,水圧鉄管内部の水が岩盤を突き破って地山表面に流出し,農地や道路が 流出するとともに

3

名の人命が奪われた13)。このように水圧鉄管が損壊すれば,停電損 失,土木および電気施設の損害にとどまらず,周辺住民の生活を一瞬にして奪ってしま うほどの大事故につながる。水圧鉄管の損壊事故の未然防止には,水圧鉄管の健全度を 継続的に評価し,評価結果に基づいた最適な対策の実施が必要である。

(7)

1.2   先行研究と課題 

高度経済成長期に建設された我が国の橋梁,圧力容器等の鋼構造物を主体とした社会 資本の中には,既に

50

年以上にわたって長期間使用されているものが少なくない。また,

これらの設備については,構造材料のミルシートや設計仕様等の基本データが残存せず,

材料特性が不明な設備も多い。一方,古い設備から逐次更新を行ってきた従来の社会資 本整備の形態は,設備の延命化を推進する方向へと着実に変化してきている。このよう な背景下で,既設構造物に対する健全性評価手法の確立ならびに高度化は重要な技術的 課題とされている。

これらの多角的なニーズに対応するため,鋼構造物の健全性評価に関する研究が益々 重要視されている。その多くは,材料特性である強度,靭性の特定に関するものである。

材料強度(本論文で材料強度とは引張強さおよび

0.2%耐力を示す)が不明なものについ

ては,簡易な手法として携帯用硬さ計による測定硬さから材料強度を推定するのが一般 的である。しかし,その測定精度は,被検査物の保持状態や測定面の粗さ等により大き く変化するため,硬さ測定法は,信頼性が高い手法とは言いがたい。したがって,現状 では,既設構造物から部分的に材料を採取し,各種材料試験を行い,材料特性の評価を 行うことが最も有効な手法とされている。

鋼材の機械的性質である強度と靭性は,鋼構造物において最も重要な特性である。鋼 材の強度には,①炭素含有量,②炭化物粒子の大きさとその分布,③結晶粒(フェライ ト)の大きさが大きく影響する。②と③は金属組織の問題であるが,①の炭素含有量も 金属組織の量的関係に大きな影響を及ぼす 14)。そのためミルメーカーを主体に金属組織 の影響度について広範囲にわたる研究が行われている。しかしながら,これらの研究の ほとんどは,新しい材料開発を目的としたものであり,既設構造物の強度と靭性を対象 とした研究は極めて少ない。

沼崎15)16)は,昭和

20

年代以前に製造された水圧鉄管(鍛接管,鋲接管および溶接管)

について材質試験を実施し,機械的性質および化学成分の分布を評価している。0.2%耐 力は,鍛接管が

343N/mm

2以下,鋲接管および溶接管は

196〜343N/mm

2のものが多い。

継手別の

0.2%耐力は,かなりばらつきがあり,特に鋲接管と溶接管で著しい。引張強さ

は,鍛接管が

392N/mm

2 以下,鋲接管は

343

490N/mm

2 および溶接管は

392

490N/mm

2のものが最も多い。継手別の分布は,鋲接管と溶接管はかなりばらつきが大

きく,規格外の強度のものもある。これは鋲接管や溶接管には昭和

13

年(1938年)以前の い わ ゆ る

SS39(382

460N/mm

2

)

17)あ る い は 第 二 次 大 戦 中 の

SS00

SS00×(333

490N/mm

2

)

18)等 が 含 ま れ て い る た め で あ る 。 全 体 的 に み る と

SS400

相 当(392〜

490N/mm

2

)のものが 2/3

強あり,その平均値はほぼ中央値となっている。当該データで は

392

490N/mm

2のものが

70

%強となったが,戦時中の水圧鉄管は,ほとんど更新さ れていることから,この割合は現在では

100%近くなっていると報告している。

3

(8)

一方,鋼材の靭性に関係する指標である伸びについては,鍛接管は伸び値の高い方に 寄った分布,鋲接管および溶接管は

30

%より低い方に寄った分布となっている。平均値 としてはそれぞれかなり良い伸び値を示しているが,溶接管の最低値は極めて低いもの となっている。これは戦争末期の粗悪な材料が含まれているためである。

V

ノッチシャル ピー衝撃試験の破面遷移温度は,0℃以下のものが

3%,0℃〜15℃のものが 25%,16℃

以上ものが

71%となっており,ほぼ全てが高温の遷移温度を示している。 0℃における吸

収エネルギーの分布は,

20N-m

以下のものが

90

%以上を占めており,さらに

9.8N-m

以 下のものも約半数が該当する。すなわち,昭和

20

年(1945年)以前の水圧鉄管は,ほぼ全 てが低靭性であることを報告している。このことは,我が国における水圧鉄管破損事故 の原因を裏付けるものである。

化学組成は

SS

材の主要

5

元素(C,

Si, Mn, P, S)について分析を行っている。 C(炭

素)は鋼の性質に大きく影響を与える元素であり,炭素量の増加とともに,強度と硬度が 高くなる。一方,伸び,絞り,特にシャルピー吸収エネルギーは急激に減少し,靭性が 低下する。Si(ケイ素)の重要な機能は脱酸剤として作用することであり,軟鋼ではキル ド鋼で

0.2〜0.4%,リムド鋼では 0.1%以下しか含まれない。Mn

(マンガン)は,全ての 鋼に含まれており,鋼を清浄するために使用される。また,Mnは

S(硫黄)と結合して MnS

となり,硫黄の害を緩和する作用がある。軟鋼には約

1%以下含まれ,C

以外の元 素で鋼の機械的性質を向上させ,さらに靭性をあまり低下させないという効果がある。

この特性を生かして高張力鋼の様に,高い強度を必要とする場合は,C の一部を

Mn

に 置き換えて強度を補うことが行われている。P(リン)は,鋼を硬化させるため常温加工 性を害し,特に衝撃値に及ぼす影響が著しく,約

0.25%

で衝撃値は

0

となるという報告 もある。実際の軟鋼においては多量に含有することはないが,リンは偏析しやすくゴー ストバンドを形成していることが多い。そのため,平均含有量が低い場合でも,局部的 には

0.1%

以上に達することもある。

S

(硫黄)は軟鋼に含まれる程度の量では機械的性 質に及ぼす影響はほとんどない。

S

は鋼に対して強度よりも高温脆性に影響を与える。ま た,Sはリンよりも偏析が大きく,サルファーバンドを形成し,局部的には

3〜4

倍にも なる。分析結果より,

C

は鍛接管で

0.1%以下,鋲接管は 0.3%以下に寄った分布となって

いるのに対し,溶接管はかなり幅広い分布になっている。全体的には

0.15〜0.25%のもの

が約

60%

を占めている。溶接管においては,第二次大戦中の粗悪材が含まれているため

(9)

よいとされている 19)。溶接管は平均値でみても鍛接管,鋲接管よりも

Mn/C

が低い。溶 接性は

Mn/C

のほか,

P

S

の含有量,偏析およびラミネーション等も考慮すべきであり,

特に古い時代の鋼材はその必要があると報告している。

これらの各種試験結果は,既設構造物からの切取試験(破壊試験)によるものである。

既設構造物からの材料の採取は,対象設備の機能を一次的に停止させる必要があり,直 接的なコストである採取よりも機能停止による間接的なコストが高価となる。また,設 備全体に対して多くの材料の採取が不可能なため,重機等のアクセスが容易である箇所 や,足場の仮設を必要としない代表的な箇所で行うのが一般的である。さらに,採取材 の材料試験結果がその設備全体に対してどの程度の代表性を有しているかについても検 証がなされていないのが現状である。一方,採取を行わずに,非破壊検査により材料特 性が推定できれば,数多くの部材についての評価が可能になる。また,間接的なコスト に影響する設備の機能停止が不要であり,維持管理費の大幅な低減も期待できる。

1.3   研究目的 

本研究では,約

50

年にわたり長期使用された水力発電所の水圧鉄管を対象として,非 破壊検査による現場計測データを活用した材料特性評価と健全度診断手法についての提 案を目的とし,①長期使用水圧鉄管用鋼材の材料特性(強度,靭性)の把握,②腐食損 傷した長期使用鋼材の残存強度評価,③非破壊検査による長期使用した

SS400

溶接継手 の破壊靭性評価④長距離超音波を用いた水圧鉄管におけるコンクリート小支台接触部の 腐食状況評価を行った。

1.4   本論文の構成 

本論文は,長期使用水圧鉄管を対象として,非破壊検査による現場計測データを活用 した材料特性評価と健全度診断技術を提案したもので,以下の

6

章からなる。

1

章「序論」では,従来の研究と本研究の意義・目的について述べた。

2

章「長期使用水圧鉄管の材料強度と破壊靭性」では,約

50

年経過した

SS400

(旧

SS41)鋼製の水力発電所水圧鉄管材料について,化学組成分析,マクロおよびミクロ組

織観察,引張試験,硬さ試験,CTOD試験(き裂先端開口変位試験),シャルピー衝撃試 験といった各種材料試験を実施し,母材の化学組成と材料強度・破壊靭性値(限界

CTOD

5

(10)

値:δc)には高い相関性があり,化学組成から材料強度および破壊靭性値を推定できる ことを明らかにした。

3

章「腐食損傷した長期使用鋼材の残存強度評価」では,長期間使用された水力発 電所の水圧鉄管およびダムゲートから腐食鋼材を切り出し,引張試験および板厚測定を 実施し,腐食材の残存強度は,作用荷重直角方向の最小平均板厚で評価できることを明 らかにした。

4

章「非破壊検査による長期使用した

SS400

溶接継手の破壊靱性評価」では,

50

経過した

SS400

鋼製水圧鉄管溶接継手部の化学組成分析,マクロおよびミクロ組織観察,

SEM

破面観察,

EPMA

分析,硬さ試験および工場溶接継手の角変形部について応力度評 価(応力測定,

FEM

解析)を実施し,溶接継手の破壊靭性値(限界

CTOD

値:δc)は,

加工硬化の影響を定量評価することで母材の破壊靭性値(限界

CTOD

値:δ

c

)から推定 できる可能性があることを明らかにした。

5

章「長距離超音波を用いた水圧鉄管におけるコンクリート小支台接触部の腐食状 況評価」では,水圧鉄管の腐食が最も危惧されるコンクリート小支台接触部について複 数の長距離超音波を使用して腐食状況を確認し,腐食による残存板厚の評価には

SH

波が 優位であることを明らかにした。

6

章「結論」では,以上の各章における本研究の成果をまとめて述べた。

本論文の構成と主たる成果を

Fig.3

に示す。

(11)

参考文献 

1)日本学術会議,再生可能エネルギー利用の展望,(2017).

2)社団法人電力土木技術協会,水力技術百年史,(1992).

3)通商産業省  資源エネルギー庁,鋼構造物の診断マニュアル(案),(1993).

4)社団法人水門鉄管協会,水門鉄管技術基準,(1960).

5

)社団法人水門鉄管協会,水門鉄管技術基準  水圧鉄管・鉄鋼構造物編,

(2007)

6)神谷貞吉,最近におけるペンストックの破壊問題について,公益社団法人土木学会,

土木学会誌,№45(1960),1-7.

7

)吉田昇,長殿発電所水圧鉄管の破壊事故について,社団法人電力土木技術協会 発電水力

No.47(1960), 9-20.

8)北陸電力株式会社,小見発電所水圧鉄管事故の概要,社団法人電力土木技術協会

発電水力

No.47(1960)

21-25

52

9)小澤章三,小池寛,大橋発電所水圧管路の事故及び復旧工事,社団法人電力土木技術

協会 発電水力

No.48(1960), 45-61.

10)社団法人電力土木技術協会 ,第 7

回発電水力講習会テキスト別冊, 23-35.

11)社団法人電力土木技術協会 発電水力 No.133(1974), 60-61.

12

)社団法人水門鉄管協会,水門鉄管,

No.225(2006), 3-16.

13) Adam. Adamkowski

CASE STUDY: LAPINO POWERPLANT PENSTOCK FAILURE, JOURNAL OF HYDRAULIC ENGINEERING, Vol.127(2001), 547-555.

14

)社団法人  日本鉄鋼協会:鋼材の性質と試験,

1976

15)沼崎吉次:既設水圧鉄管の腐食・強度に関する調査,電力土木, No.151(1977), 37-40.

16)沼崎吉次:昭和 20

年以前の水圧鉄管の強度・材質について,電力土木,

No.156(1978),

21-27

17)日本標準規格 JES G56

一般構造用圧延鋼材,(1938).

18)臨時日本標準規格 臨 JES G56

一般構造用圧延鋼材,(1941).

19)日本工業規格 JIS G 3106

溶接構造用圧延鋼材,(2008).

7

(12)

Figure Captions 

Table 1  水圧鉄管の設計等に関する歴史的変遷  Table 2  水圧鉄管の破損事例(国内) 

Table 3  水圧鉄管の破損事例(国外) 

Fig.1  発電形式別の概要図 

Fig.2  貯水池水路式発電所と水圧鉄管 

Fig.3  本論文の構成と主たる成果 

(13)

Table1  水圧鉄管の設計等に関する歴史的変遷(1/2) 

(図書名制定のポイント)容応 正6(1917)水力電気基本的な設計 正14(1925)JES20号制定 溶接用開 和6(1931)ービ 和12(1937)日中争(戦時体制 和14(1939)JES430号制 和18(1943)分一(低品質料,溶接欠陥 資供 和23(1948)JES 金属3101 制 鉄管協会設立 和25(1950)朝鮮Valves,Gates and Steel Conduits 和26(1951)発電所ペンストック設Y分岐理論 和27(1952)JIS G3101 制定 和28(1953)RTにる現場検 和29(1954)分三(空気弁水弁誤操作)溶接手の本格ペンストック標準示方溶接技術 和32(1957)技術基準 和34(1959)長殿(鋼材の化疲労)JIS G3101改訂  大橋(施工不,低品質材料 小見(応力集 和35(1960)鉄管技術基準(初版)設計基準の統 和39(1964)河川施行力鋼デザインマニュアルペンストック編 和40(1965)JIS G3101改用水力設備の技術基準 和41(1966)JIS G3101改

故例  )内は要因 降伏点の 1/2

基準など 張強さの 1/4

  設計準な 使 用 鋼 材 に 低 品 質 材 料

使 用 の 可 能 性

溶 接 技 術 未 熟 練 の 可 能 性

9

(14)

Table1  水圧鉄管の設計等に関する歴史的変遷(2/2) 

書名制定のポイン容応 鉄管技術基準(1改)JIS改訂に伴う材質補正 許容応力の引上げ JIS G3101改 ル(脆性破壊JIS G3101改鉄管技術基準(2改)JIS改訂に伴う材質補正 鉄管解説追補高張力鋼,岩盤負 JIS G3101改 Y形,球形設計 鉄管技術基準(3改)構造設計多様化対 JIS G3101改 ダム・堰施設技術基準(一次案)放流管の設計を適 ・堰施設技術基準(初版) 鉄管技術基準(4改)中小水力コスト低減 JIS G3101改 中・脆性破壊 クソン(脆性破壊)・堰施設技術基準(1改)

  )内は要因 降伏点の 1/2

基準など  設計準な

(15)

Table2  水 圧 鉄 管 の 破 損 事 例 (国内) 

発電所 竣工年 発 生  年月日 破損の状況 破損の原因  分水第一(高知県)1943 1943.6.28

・2号水圧鉄管(No.55管)が通水中に   破裂  ・№55管が破裂,噴流は管路沿いに流下し 発電所が埋没  ・発電所員,工事関係者5名死亡 

劣悪な材料(戦時中の割当鋼材)の使用および 溶接欠陥に起因する溶接部からのき裂進展によ る破裂10) 分水第三(高知県)1941 1954.1.21

・№1 固定台〜№2 固定台間の管長32mが 圧潰  ・鉄管弁(バタフライバルブ)を閉塞した 状態で空気弁用制水弁(スルースバルブ) を全閉操作したまま排水実施 

空気弁の不作動(誤操作)による圧潰10) 長殿(奈良県) 1937 1959.3.22

・発電所本館直上流水圧鉄管埋設部が破裂  ・破裂口の大きさは長さ2.9m,幅1.0mで  溶接線付近より円周方向にめくれる  ・噴出した土砂水により発電機室が約80m  冠水 

高応力下における微小圧力変動に基づく鋼材の  脆性破壊7) 大橋(高知県) 1941 1959.4.9 

・斜坑部水圧鉄管の現場溶接継手部4本が 切断,管の食い違い,管自体も変形  ・発電所建屋から上流20m地点山腹から濁 水が噴出し,発電所建屋内に流入,発電 機能が完全に麻痺 

施工不良(溶接欠陥,裏込めコンクリートの不 均一)と品質の悪い材料の使用および経年によ る耐荷力の低下9) 小見(富山県) 1932 1959.4.18

・№3固定台直下のマンホール補強板と  その下面に接する縦方向溶接継手の一部  が裂損開口  ・山腹崩壊3000m3 ,道路の流出100m,  公衆負傷2名 溶接の施工不良によりマンホール補強板が有効 に働かなかったために生じた応力集中によるき 裂の発生8)

11

(16)

Table3  水 圧 鉄 管 の 破 損 事 例 (国外) 

 発 生  年月日 破損の状況 破損の原因   1973.7.23

・発電所付近の曲管部が充水試験中に破裂 ・水は破裂部(長さ1.0m,幅0.7m)から 垂直噴流状となって吹き出し,発電所は 30cm冠水 

自動溶接の際に熱の影響を受けた部位を起点 とする脆性破壊11)  1997.12 

・発電所内の分岐管部水圧鉄管の破裂  ・発電所の下部構造は完全に浸水,機械室 は床面から2.5mの高さまで浸水  ・機械室の浸水により3名死亡 

負荷遮断試験時の水撃作用による管内水圧の 上昇,破損した分岐管部への過大な応力集中に 加え経年による溶接継手部の耐荷力低下も影 響した脆性破壊12)  2000.12.12

・水圧鉄管の破裂  ・水圧鉄管内部の水が岩盤を突き破って地 山表面に流出し,周辺の表土を崩壊させ るとともに,発電所近辺の川に流れ込ん でせき止め  ・農地や道路の流出,地域住民3名死亡  S890鋼(HT100)溶接継手の水素に起因した遅 れ割れもしくは応力腐食割れ(溶接の施工不良 も含まれる)13)

(17)

(a)水路式発電所(上段:縦断面図,下段:平面図) 

(b)貯水池式発電所(上図:縦断面図,下図:平面図) 

(c)貯水池水路式発電所(上図:縦断面図,下図:平面図)  Fig.1  発電形式別の概要図 

導水路(無圧水路)

余水路 排砂路

貯水池(調整池)

貯水池(調整池)

貯水池(調整池)

サージタンク

圧力トンネル

導水路

排砂路 余水路

河  川

ダム

放水口

貯水池

(調整池)

河  川

圧力トンネル

13

(18)

サージタンク

水 圧 鉄 管

(19)

(主たる成果)

材料の化学組成から材料強度の推定が可能となることを示した

腐食損傷した長期使用鋼材の残存強度評価

※腐食損傷鋼材で試験を実施

・精密板厚測定,腐食材および平滑材引張試験

・両者の関係から腐食鋼材残存強度を評価

(主たる成果)

腐食鋼材残存強度は作用荷重直角方向の最小平均板厚で評価できることを示した

6

結  論

・長期使用鋼材の材料特性(強度,靱性)は化学組成より推定できる可能性が ある。また,腐食損傷鋼材の残存強度評価,SH波による残存板厚評価は健 全度評価手法として有用性がある。

Fig.3  本論文の構成と主たる成果 

※長期使用水圧鉄管用鋼材で靱性試験を実施

・CTOD試験,シャルピー衝撃試験

・化学組成と破壊靱性の相関性評価

(主たる成果)

母材の化学組成から限界

CTOD

値:δcの推定が可能となることを示した

3

4

章 非破壊検査による長期使用した

SS400

溶接継手の破壊靱性評価

※長期使用水圧鉄管の溶接継手で破壊靱性試験を主体に実施

・PMI化学分析,CTOD試験,SEM破面観察,マイクロビッカース硬さ試験

・非破壊検査による化学組成から溶接継手部の破壊靱性値を評価

(主たる成果)

溶接継手の破壊靱性値は加工硬化の影響を定量評価することで母材の破壊靱性 値から推定できる可能性があることを示した。

5

章 長距離超音波を用いた水圧鉄管コンクリート小支台接触部の腐食状況評価

※長距離超音波(SV

波,SH波,ガイド波)の伝播特性,腐食分解能試験等を実施

・模擬腐食試験片と実構造物による非破壊検査(

UT

,精密板厚測定)

・両者の関係から長距離超音波による水圧鉄管小支台接触部の腐食状況を評価

(主たる成果)

水圧鉄管の腐食が最も危惧されるコンクリート小支台接触部について長距離超音波 を使用して腐食状況を確認した結果,腐食による残存板厚の評価には

SH

波が優位 であることを示した。

※長期使用水圧鉄管用鋼材で各種試験を実施

・化学組成分析,マクロおよびミクロ組織観察,引張試験,硬さ試験

・化学組成と材料強度の相関性評価

2

章 長期使用水圧鉄管用鋼材の材料強度と破壊靭性 第

1

背 景 課 題

・長期使用鋼構造物の更新時期集中による維持管理費の高騰

・長期使用鋼構造物の延命化には維持管理費の低減が不可欠

・軟鋼主体の長期使用鋼構造物の多くは材料特性が不明瞭

・材料特性を把握するための供試材採取は調査コストが大

・長期使用鋼構造物の健全度評価手法が未確立

目 的 ・長期使用鋼構造物の延命化を目指し,非破壊検査による現場計測 データを活用した設備の実態を適切に評価できる健全度診断技術 を提案すること

15

(20)

第 2 章  長期使用水圧鉄管用鋼材の強度特性と破壊靭性 

2.1  緒言 

高度経済成長期に建設され

50

年以上にわたって長期間使用されている水圧鉄管につい ては,構造材料のミルシートや設計仕様等の基本データが残存せず,材料特性(材料強度,

靱性)が不明な設備も多い。そのため、長寿命化計画の観点から、信頼性の高い健全度評価 を行うためには、これらの材料特性を適切に把握する評価手法の確立が急務である。

長期使用されている水圧鉄管の健全度評価に最も必要な基本的指標は耐荷力である。耐 荷力は,構造計算から求めた発生応力度と許容応力度との対比で求める。発生応力度が許 容応力度以下であれば耐荷力は問題ない。一方,発生応力度が許容応力度を超過する場合 は,設備の改修が必要になる。SS400 に代表される軟鋼の許容応力度は,「水門鉄管技術 基準」において鋼材の材料強度(引張強さ,降伏点)に対する安全率で規定されている1)。 したがって,既設鋼構造物の材料強度を適切に把握することは健全度評価において重要な 課題である。

水圧鉄管の破損形態は耐荷力不足による延性破壊と材料の靱性低下による脆性破壊に大 別される。我が国おける特徴的な水圧鉄管の破損事故は,昭和

34

年(1959年)に相次い で発生した初期溶接管の破損事故である。さらに,昭和

18

年(1943年)には,完成後の 通水中に破損事故が起こっている。これらの破損原因は,低品質の材料,施工不良および 腐食による耐荷力の低下等に起因した脆性破壊である。構造材料の破壊靱性については高 張力鋼をはじめとする鋼材および溶接継手を対象に多くの研究がなされている。しかしな がら,経年鋼材の破壊靭性に関する研究は比較的少ない。したがって,長期使用水圧鉄管 の健全性評価において脆性破壊に対する評価手法の開発は材料強度の評価とともに極め て重要な課題である。

本章では,1953年に建設され約

50

年間使用されてきた水力発電所の水圧鉄管から材料 を採取し,化学組成分析,組織観察,引張試験および硬さ試験を実施し,材料強度につい て検討した。また、破壊靱性試験(CTOD試験)およびシャルピー衝撃試験を実施し,経 年使用鋼材の靱性についても検討するとともに材料強度と同様に化学組成と靱性との相 関性についても検討した。

(21)

手部および現場溶接継手部の

3

部位で合計

28

枚を採取した(Table2)。溶接継手部は,

超音波探傷試験および放射線透過試験により溶接欠陥の有無,等級分類を行い,試験片加 工位置を決定した(Fig.4)。

2)  化学組成分析 

母材使用材料の化学組成を把握するために,SS41(現行

JIS SS400)の主要 5

元素で ある

C,Si,Mn,P,S

について化学組成分析を行った。Cは

JIS G 1211(燃焼 赤外線

吸収法),Sは

JIS G 1215(燃焼 赤外線吸収法)

,Si,Mn,Pについては,JIS G 1253

(スパーク放電発光分光分析法)により分析した。なお,分析試料の採取位置は板厚の

1/4

近傍とした。

3)  組織観察 

母材使用材料についてマクロ・ミクロ組織観察を行った。ミクロ組織観察は,板厚方向 に対して表面,

1/4t, 1/2t

の位置について光学顕微鏡により

50

および

200

倍で観察した。

4)  引張試験 

引張試験は母材と溶接継手について実施した。母材の引張試験は,基本的な材料強度で ある引張強さと

0.2%耐力を把握することを目的に JIS Z 2201 1A

号試験片を用いて実施 した(Fig.5)。溶接継手部の引張試験は,溶接欠陥が強度(引張強さ)に及ぼす影響を定 量的に評価するために,

Table3

および

Fig.6

に示す放射線透過試験結果により

1〜4

類に 分類されたきず(溶接欠陥)を内在する引張試験片(JIS Z 3121 1A号および

3A

号試験 片)を用いて実施した。

5) 硬さ試験 

材料強度と密接な関係を有する硬さ試験を実施し,引張試験で得られた引張強さと比 較した。非検部を格子状に

12

区画に分割し,JIS Z 2244に基づき格子点においてビッカ ース硬さ試験機により試験力

98.307N

で測定した。また,定置式硬さ計(ビッカース硬 さ試験機)と非破壊検査に用いる携帯用硬さ計(エコーチップ硬さ計,超音波硬さ計)に よる計測結果を比較し,両者の整合性についても調査した。携帯式硬さ計の場合,試験片 厚や試験片重量が小さいと試験片保持方法の影響を受けると考えられる。そこで,試験片 を

80mm

幅×80mm高さ×250mm長さの

SS400

製保持材の上に載せ,試験片と保持材 の間に隙間が生じないようにした。また,試験片が安定するように四隅をボルトで固定し て測定を行った。

2.2.2  試験結果および考察  1)  化学組成分析

17

(22)

Table4

および

Fig.7

に化学組成分析結果を示す。化学組成の変動範囲は,C:0.13〜

0.34%,Si:0.01〜0.23%,Mn:0.39〜0.64%,P:0.003〜0.012%,S:0.018〜0.049%

であった。また,炭素等量

Ceq

は,0.212〜0.429%であった。建設当時の

JIS G 3101- 1952

における

SS41

の規定値は,P < 0.06%,S < 0.06%であることから,試験結果は規 定値を満足する結果を示している。

個別データに着目すると板厚

25mm

の試験片は

0.23%と Si

含有量が他の材料と比べ て著しく高い値を示しており,意図的に

Si

を添加した

SS41

とは異なる鋼種が充当され ているものと思われる。また,同じ板厚

25mm

の他の試験片では,0.34%の

C

を含有し ており,平均的な炭素含有量の

0.18%の約 2

倍となっている。

これらの結果より,同一構造部材における同じ板厚部においても化学組成が広範囲に 分布しており,個々の板における化学組成の差が大きいことが判明した。したがって,部 分的な代表箇所における部分的な材料採取試験結果から全体の設備の材料強度を特定す るには問題があるものと推察される。

2)  組織観察

マクロ組織観察の結果,多くの板の表面に軽微な腐食が観察された。また,板厚内部に は,化学組成の差によるものと考えられる筋状模様が観察され,Fig.8に示すような板厚 中央部に明瞭な偏析が見られる箇所も見出された。

Fig.9

および

Fig.10

に示す様に母材使用材料のミクロ組織は,フェライトが主体であ

るが,パーライトも観察され典型的な

SS41

の組織を呈していた。板表面の組織は,板厚

1/4t

部や

1/2t

部に比べて,パーライトが少なくなっていた。これは凝固時に生じた成分 差や,圧延加熱時の脱炭によるものと思われる。このように,板表面と内部では,化学組 成や硬さが異なっている。

3)  化学組成と材料強度

母材部の引張試験結果について

Fig.11

に母材部の引張強さと

0.2%耐力の分布を示す。

また,Fig.12 には,引張強さと

0.2%耐力の関係を示す。引張強さについては,389〜

393MPa

JIS G 3101

の規格下限値

400MPa

を下回る値を示した(Fig.11(a))。これら 規格下限値を下回る試験片は約

30%(60

試験片)であり,ガンベル分布も同様の傾向を

(23)

て,C 含有量自体は材料強度を推定する因子にはなり得ない。Fig.13(a)に示される結果 に基づいて,Ceqから材料強度を線形回帰した結果を

Fig.14

に示す。全体的な傾向は良 好であり,実験データのバラツキは±30 MPa以内となっている。表面で測定された

Ceq

1/4t

で測定された

Ceq

とを比較して

Fig.15

に示す。Fig.15より,相関性は高いとは 言えない(相関係数=0.847)。これは

Fig16

に示すように,炭素量が脱炭により表面で減 少するためである。Fig.15における表面の

Ceq

を使用して,Fig.17 および

Fig.18

の材 料強度を推定した。1/4t の

Ceq

と比較して,相関係数は,σB

= 0.961 0.834,σ

0.2

= 0.833 0.805

とともに減少することになり,推定精度が低下する(Fig.13(a),Fig.17)。こ の結果は,異常値 σB ≒ 560MPaに対して安全な推定を与えることに留意する必要があ る。化学組成を

PMI(Positive Material Identification)で測定した場合にも同様の傾向

が確認された(Fig.19,

Fig20)

。 PMIは非破壊的な評価であり,ラボ分析(燃焼−赤外 線吸収法)と異なるアルゴンガスシールよる発光分光分析法を採用している。そのため

C

含有量を低く測定する可能性があることに注意する必要がある5)。これらの結果より,板 厚

1/4t

における

Ceq

と強度は高い相関関係を示すことが明確となった。

4)  硬さと材料強度の関係 

表面ビッカース硬さ(本稿では定置式硬さという)から推定した引張強さと引張試験結 果から実測値を比較した結果,相関係数は

0.67

と低い値であった(Fig.21)。これは,組 織観察結果でも述べたように,板厚表面部と内部とで組織が異なることから,引張強さを 決定する板厚全体の化学組成や硬さと,測定する表面部の硬さが異なるためと推察され る。

Fig.22

は,

Hv

に基づき強度を推定した結果を示す。σ0.2=0.445 σB

+64.5

(Fig.12)

によって与えられる式および σB

= 2.33Hv+134(Fig.21,Fig.22(a)

)を用いた場合,精 度は

Fig.18

および

Fig.20

と同様である。代わりに,よく知られた実験式 σB

= 3.2Hv

(Fig.21および

Fig.22(b)

)を採用すると,精度はわずかに低下するが,その全体の推 定は依然として安全側にある。したがって,PMI(Fig.19)とともに,Hvの使用も非破 壊評価に有効な手段である。

Fig.23

の定置式硬さ測定と携帯式硬さ測定の相関係数は,定置式硬さ計による測定結

果に関して,超音波硬さ計で

0.98,エコーチップ硬さ計で 0.94

となった。超音波硬さ計 は,定置式硬さ計に比較して,平均値で⊿Hv5〜15 程度高く,素材表面のビッカース硬 さが高いほど差が大きい結果となっている。この両測定方法による硬さの差については,

小早川の実験結果6)(⊿Hv=10〜20)とほぼ同じといえる。一方,エコーチップ硬さにつ いては,平均値で

Hv=15〜35

程度高くなっている。

そこで,エコーチップ用基準試験片(Hv570±Hv15)の定置式硬さ計による測定なら びに試験片の保持状態を変化させて比較測定を行った。その結果を

Table5,Table6

に示 す。Table5 より,エコーチップ基準試験片の硬さは,両測定法による差は小さかった。

また,Table6 の保持状態別測定結果については,「ボルト固定無し・グリース塗布無し」

の場合には,エコーチップ硬さは初回測定値(Hv112)に比べて大幅に低下した。ただし,

19

(24)

測定値の変動が大きく,また

Hv100

以下の値(表中に括弧付きで示した値)の測定時に は正常でない打撃音が観測された。これは,試験片と保持材との隙間が影響したものと考 えられる。一方,「ボルト固定・グリース塗布」で保持した場合は,エコーチップ硬さの ほうが定置式硬さ計 より⊿Hv26高くなった。

したがって,試験片の厚さ,重量,形状および測定姿勢の影響を受けないように,試験 片の固定を十分に行った保持方法では,エコーチップ硬さは,下向き,横向き,および上 向きの

3

姿勢とも,定置式硬さより高くなるものと推察される。なお,前述の小早川は,

両測定方法を比較し,エコーチップ硬さの方が定置式硬さより若干低い結果を得ている。

ただし,小早川は,エコーチップ硬さの測定において,薄い試験片(10mm厚×30mm幅

×50mm 長さ)を特に保持せず測定していると思われ,今回と保持方法が異なることが 両者の結果が一致しない理由と考えられる,これらの結果から,エコーチップ硬さにおい ては,試験片が厚いものや,試験片重量が軽い場合には,保持方法により硬さが大きく変 化すると考えられるため,注意が必要である。

5)溶接欠陥が強度に及ぼす影響 

Fig.24

に溶接欠陥のレベル別に実施した引張試験結果を示す。Fig.24より,ほとんど

の試験片は母材部で破断したものの,4類の一部試験片において,溶接金属で破断し,引 張強さの低いものが認められた。

1〜3

類では,影響は認められないが,

4

類の場合,最大 で母材規格下限値(400MPa)の約

84%まで低下した。4

類については,溶接金属部で破 断するものと,母材部で破断するものがあり,その中でもきずの多いものが溶接金属部で 破断している。なお,溶接金属部で破断したものは健全なものより

80%程度の強度であ

り,「水門鉄管技術基準」7)にある値とほぼ同値である。

2.3  長期使用水圧鉄管用鋼材の破壊靭性 

2.3.1  試験方法  1)  破壊靭性試験 

破壊靭性試験は,切欠き(先端疲労き裂)を有する試験片に単調増加荷重を与え,クリ ップゲージと呼ばれる変位計で荷重と開口変位を記録する試験であり,破壊時の開口変

(25)

延性脆性遷移温度は、破壊挙動を把握するための重要なパラメータとなることから 10), 試験温度による影響を把握するために,0℃を主体に,−10℃についても部分的に実施し た。なお,1供試体あたりの試験片本数は

3

本とし,試験片の板厚は,10,15,20およ び

25mm

とした。

測定された破壊靱性値(限界

CTOD

値)は,荷重とクリップゲージ開口変位との関係 から以下のようにδ

c

,δ

u

およびδ

m

として分類される。

δ

c

:脆性破壊発生時の

CTOD(Fig.26

の(i)と(ii))

δ

u

:安定したき裂進展後の脆性破壊発生時の

CTOD(Fig.26

の(iii)と(iv)) δ

m

:延性破壊開始時の

CTOD(Fig.26

の(v))

さらに,限界

CTOD

値は,Fig.26において以下のように定義されるクリップゲージ開 口変位

V

pに基づいて求められる。

2 2

p 0

c u m p P

p 0 0

( )

(1 )

, ,

( )

Y

r W a

K f V

m E r W a a z (1)式についての詳細は,WES 1108:1995

8)を参照。

2)  シャルピー衝撃試験 

シャルピー衝撃試験結果から得られるシャルピー吸収エネルギーは,CTOD 試験が実 施できない場合に破壊靭性値を推定する指標として使用されることが多い11-13)。そこで,

CTOD

試験結果からの実測値との関係を把握する目的で

2mmV

ノッチ試験片を作成し,

JIS Z 2242

に基づきシャルピー衝撃試験を実施した。なお,フルサイズの試験片が採取

できない

10mm

材では

7.5mm

幅のサブサイズ試験片で試験を実施し,試験結果を

4/3

して,比較を行った。試験温度は,0℃,−20℃,20℃を各試験片の共通温度とし,シャ ルピー吸収エネルギーの測定値より,遷移曲線が得られるようにそれぞれ試験温度を設 定した。

2.3.2  試験結果および考察 

1)  破壊靱性値と化学組成との関係 

試験温度

0℃における CTOD

試験の結果を

Table7〜Table10

ならびに

Fig.27〜Fig.30

に示す。試験結果より,不安定破壊開始時の開口変位δ

c

,安定延性き裂成長に続いて起 こる不安定破壊開始時の開口変位δ

u

,そして延性的に破壊する場合の最大荷重到達時開 口変位δ

m

が得られた。

Fig.31

CTOD

試験片の破面を示す。Fig.31(a)の試験片は,Fig.26の(ⅴ)に対応する δ

m

に分類される。すなわち,破面は破断前に塑性変形していた。

Fig.31(b)の試験片は,

Fig.26

の(iii)に対応する δ

u

とした。この試験片は,き裂が断面の中心に伝播し,それか

21

(26)

ら脆性破壊していた。最後に,

Fig.31(c)の試験片は Fig.26

の(ⅰ)に対応する δ

c

に分類さ れ,破断前の塑性変形は見られなかった。

Fig.32

に切欠き位置別の限界

CTOD

値を示す。Fig.32より,δ

c

は δ

u

および

δm

よ りも小さい値を示した。また,δ

c

は切欠き位置が溶接金属の場合に最小値を示した。試 験片の板厚

10mm

では,δ

c

は観察されなかった。試験温度( 0℃および-10℃ )の影響は ほとんど認められなかった。一方,工場溶接継手の溶接金属に関しては,板厚

15mm

に おいてδ

c

に比較的大きな変化が見られた。

SEM

により,起点部の破面観察を行ったが,

特に変状は無く,基本的なへき開破面の脆性破壊であった。しかしながら、マイクロビッ カース硬さ試験では,溶接金属の硬さ(Hv = 239)は母材の硬さよりも高いことが判明 した。ただし,両者の化学組成および組織構造は類似していた。また、工場溶接継手の溶 接金属の硬さは,現場溶接継手の溶接金属の硬さ(Hv = 183)よりも高かった。これらの 結果より,工場溶接継手の低靱性は,施工時における加工硬化が関連しているものと推察 される。

前項において化学組成から

0.2%耐力と引張強さを推定することが可能であることを

示した9)。そこで、母材について δ

c

C

含有量および

Ceq

との相関性を検討した。そ の結果を

Fig.33

に示す。Fig.33 より,δ

c

C

含有量および

Ceq

の増加とともに減少 し、高い相関性を示した(C:R =−0.894、

Ceq:R =−0.923)

。Cが鋼の靭性を劣化させ ることは,よく知られており,その原因としては,炭化物の析出がき裂発生の核になるた めと考えられている10)。不純物元素の

P

は,低温脆性を促進する元素であり,粒界に偏 析して焼もどし脆性への感受性を高める。また,Sは,介在物を形成し,衝撃試験におけ る延性破壊領域の吸収エネルギーを下げることが言われている 10)14)15)。Fig.34 は,これ らの不純物元素とδ

c

との関係を表したものであるが,一般的に靭性を低下させると言わ れている

P

S

の影響は特に認められなかった。この原因として,材料が軟鋼であり,

C

含有量が少ないこと,また,P,Sともに悪影響を及ぼすほどの含有量がなかったこと が考えられる。一般的に材料の靭性は,金属組織の種類や,結晶粒の組織構造が影響する と言われており,化学成分のみで靭性を評価するのは問題があるとも言える。しかしなが ら,母材部は,各試験片とも,フェライトとパーライトから成るほぼ同じ組織構造を呈し ていること,また,結晶粒にも大差がないことから,化学成分のみで靭性評価を行なって も、推定精度への大きな影響はないものと考える。

(27)

2)  破壊靱性値とシャルピー吸収エネルギーとの関係 

母材部のシャルピー衝撃試験結果を試験温度ごとにまとめてシャルピー吸収エネルギ ーと脆性破面率を遷移曲線にしたものを

Fig.36

および

Fig.37

に示す。SS400 について のシャルピー吸収エネルギーに関する

JIS

規定はないため,Fig.38に示す同年代におけ る

SS400

材のシャルピー衝撃試験結果16)17)と対比を行った。Fig.38によれば,0℃にお けるシャルピー吸収エネルギーの下限値

10J

に対して,Fig.36の試験結果の最小値は,

3J

であり,下限値よりも低い結果となっている。

0

℃における溶接部のシャルピー吸収エ ネルギーの平均値は,ほとんどの場合,溶接金属で最も低く,ボンド,HAZと切欠き位 置が溶接金属部から離れるにしたがって高くなっている(Fig.39)。また,母材部では,

ボンドと同程度か,ボンドより低く,

HAZ

に比較すると低い値になっている。これは,

ボンドや

HAZ

では,切欠きの一部に靭性の低い溶接金属部が含まれるものの,母材部よ り結晶粒径が小さく靭性の高い熱影響部を多く含むことによるものと考えられる。破面 遷移温度と化学成分の関係を示す

Fig.40

を見ると,

Ceq

C

含有量の増加とともに破面 遷移温度は上昇するが,シェルフエネルギーは低下する傾向にある。また,

Fig.41

の不純 物元素との関係においては,CTOD試験結果と同様に

P

の影響は認められず,Sの影響 も顕著には認められなかった。

次に,WES 2805:1997に示される母材についての次式を用いて,シャルピー吸収エ ネルギーと限界

CTOD

値の関係を確認した。

δc

[T] = 0.001・vE[T+⊿T]

  ⊿

T = 133

0.125

σ0.2−

6t

0.5 ここで,

δ

c[T] ;温度 T(K)における限界 CTOD

値(mm)

vE[T+

T] ;

温度

T+

T(K)

におけるシャルピー吸収エネルギー

(J)

  σ0.2

;室温における材料の 0.2%耐力(N/mm

2

)

t ;材料の厚さ(mm)(ここでは,試験片の厚さを使用)

なお,⊿Tは約

333〜353K

であるが

vE[T+⊿T]の試験値がないため,[T+⊿T]に最も

近い試験温度

T

における吸収エネルギー

vE[T']

を用いた。

vE[T']

と限界

CTOD

値との 関係,およびシャルピー吸収エネルギーからの限界

CTOD

値推定結果を

Table11

に,ま た,δcに限定した場合の関係を

Fig.42

に示す。これらより,母材について

WES

の式に よりシャルピー吸収エネルギーから推定した限界

CTOD

値δ

c

は,

CTOD

試験による実 測値より低めの値を示すことから,評価結果は,安全側となることがわかった。

23

(28)

2.4  結論 

50

年にわたり長期使用された水圧鉄管から採取した

SS41

鋼について各種材料試験 を行い,化学組成分析結果を主体に材料強度および破壊靭性との相関性について検討し た。得られた結果は下記のとおりである。

(1)

50

年間使用した

SS41

の材料強度に経年劣化は認められない。

(2)

溶接欠陥で

4

類に分類されるものについては,きずの規模,多寡により引張強さが

20%程度低減する。

(3)

携帯式硬さ計により材料強度を推定する場合は,測定結果にある程度の範囲を設定 して評価を行なう必要がある。

(4)

母材の化学組成と材料強度には高い相関性があり,化学組成から材料強度を推定で きる。

(5)

母材の炭素当量

Ceq

と限界

CTOD

値 δ

c

の間には強い相関関係がある。

(6)

溶接金属は母材よりも限界

CTOD

値 δcが低い。

(7)

不純物元素(P)および硫化物(S)の含有量と限界

CTOD

値 δc との間に相関性はな い。

(8) Ceq

は加工硬化等の影響により溶接金属の限界

CTOD

値 δcを推定するための予

測パラメータとはなり得ない。

(9) WES

の式を適用した場合においてシャルピー吸収エネルギーから推定した限界

CTOD

値 δcは実測値より低めの値となる。

参照

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