2005FY-001-1
光テクノロジーロードマップ報告書(情報通信分野)
ユビキタス社会の実現に向けた光情報通信機器・
基盤技術研究開発の提言
2005 (平成 17 )年 9 月
光産業技術振興協会
財団 法人
この事業は,競輪の補助金を受けて実施したものです.
-i-
序文
当協会が毎年行っている光産業動向調査委員会のアンケート調査結果によると,2005(平成17) 年度の光産業国内生産額は,金額にして約9.3兆円,前年比10%増という高い伸びが予測されて いる.情報通信分野は,2000年後半からの世界的なIT不況,ネットワークバブルが弾けた影響 が甚大で,市場はようやく回復基調にあると言われているが,低価格化とも相まって厳しい事業 環境にある.しかしながら,この間も,インターネットに代表されるデジタル情報通信のIPトラ フィック需要は年2倍以上の伸びを続けており,光技術はその中核をなす産業技術で,社会イン フラからオフィス,家庭など社会生活の全てに係わる基盤/基幹技術と位置づけられ,今後の社 会発展の原動力と考えられている.
これらの産業を支える光技術は,高度情報通信ネットワーク社会,ユビキタス社会実現を目指 す我が国にとってキーテクノロジーの一つであり,情報通信のみならず高齢化社会に向けての医 療・福祉,環境調和型のエネルギーや経済社会システムの整備など幅広い分野での貢献が期待さ れている.このような社会的要請に的確に応えるためには,将来のニーズがいつ頃,どのような 形で現れ,それに対してどのようなタイムスケジュールで技術開発を進めて行くべきかの筋道を 明らかにして行くことが必要である.
当協会では,今後の光産業の研究開発展開を見定めるべく,1996年に「光テクノロジーロード マップ策定委員会」を発足させ,情報通信,情報記録,電子ディスプレイ,入出力,計測センシ ング,太陽光エネルギー,光加工,ヒューマンインターフェースなど分野毎にロードマップ策定 作業を進めてきた.これらの先端技術の進展は著しく,情報通信分野ではインターネットトラフ ィックの急増や波長多重通信技術の進展を受けて見直し作業を行い,2000年3月と2002年3月 に改定版の報告書を,また,2004年3月にはIT不況が深刻化し企業内で研究開発環境が厳しさ を増す状況等を踏まえて,研究開発の目指すべき方向性,プロジェクトのあり方等の検討を進め 報告書を取りまとめた.この度,従来からの活動を踏まえて更に検討を進め,「ユビキタス社会 の実現に向けた光情報通信機器・基盤技術研究開発の提言」と題した報告書をとりまとめること ができた.
本報告書は,田中昭二策定委員会委員長,荒川泰彦策定専門委員会委員長をはじめ,多くの委 員各位および協力者の調査,審議活動をもとに,またご指導いただいた講師の方々の多大なご支 援のもとに完成したものである.ここに深く感謝の意を表する次第である.
2005(平成17)年9月
財団法人 光産業技術振興協会 会 長 金杉 明信
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-ii-
光テクノロジーロードマップ策定委員会名簿
(順不同,敬称略)
委 員 長 田 中 昭 二 財団法人 国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所 所長
委 員 荒 川 泰 彦 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 生産技術研究所 教授
有 信 睦 弘 株式会社 東芝 執行役常務 研究開発センター 所長 池 上 徹 彦 会津大学 学長
内 山 隆 株式会社 富士通研究所 取締役
大 津 元 一 東京大学大学院工学系研究科 電子工学専攻 教授 尾 形 仁 士 三菱電機株式会社 上席常務執行役開発本部長
神 谷 武 志 独立行政法人 大学評価・学位授与機構 学位審査研究部 部長 國 尾 武 光 日本電気株式会社 執行役員 兼 中央研究所 所長
古 池 進 松下電器産業株式会社 代表取締役専務 島 田 禎 晉 株式会社 オプトウエーブ研究所 フェロー 島 田 潤 一 独立行政法人 産業技術総合研究所 研究顧問 高 橋 明 シャープ株式会社 技術本部 デバイス研究所 所長 中 原 恒 雄 住友電気工業株式会社 顧問
西 村 吉 雄 東京工業大学 監事
福 永 泰 株式会社 日立製作所 中央研究所 所長 矢 嶋 弘 義 超技術開発者集団株式会社 技術顧問 事 務 局 田 口 剣 申 (財)光産業技術振興協会 主幹
-iii-
光テクノロジーロードマップ策定専門委員会(情報通信部会)名簿
(順不同,敬称略)
委 員 長 荒 川 泰 彦 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 生産技術研究所 教授
副委員長 小 林 功 郎 東京工業大学 精密工学研究所 教授 委 員 石 田 晶 日本大学 大学院法学研究科 客員教授
勝 山 造 住友電気工業株式会社 伝送デバイス研究所
量子デバイス研究部 部長 (平成17年4月より)
上 條 健 沖電気工業株式会社 研究開発本部 先端デバイスラボラトリ マネージャ
鹿 田 實 日本電気株式会社 中央研究所 研究企画部 エグゼクティブ・エキスパート
鈴 木 信 夫 株式会社 東芝 研究開発センター
先端電子デバイスラボラトリー 研究主幹
種 谷 元 隆 シャープ株式会社 電子部品事業本部 化合物半導体事業部 副事業部長 兼 技術統括
辻 伸 二 株式会社 日立製作所 中央研究所
ULSI研究部 光デバイス研究センタ長 主管研究員 津 田 俊 隆 株式会社 富士通研究所 取締役
中 沢 正 隆 東北大学 電気通信研究所 教授 布 施 優 松下電器産業株式会社
ネットワーク開発センター伝送方式グループ チームリーダー
(平成17年3月まで)
野 毛 宏 松下電工株式会社 新規商品創出技術開発部
制御機器開発部 副参事 (平成17年4月より)
笠原 久美雄 名古屋大学 先端技術共同研究センター 教授
(平成17年3月まで)
本 島 邦 明 三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
光通信技術部 部長 (平成17年4月より)
盛 岡 敏 夫 日本電信電話株式会社 未来ねっと研究所 主幹研究員
(平成17年8月まで)
山 林 由 明 日本電信電話株式会社 未来ねっと研究所
フォトニックトランスポートネットワーク研究部 部長
(平成17年9月より)
渡 辺 正 信 独立行政法人 産業技術総合研究所 光技術研究部門長 オブザーバ 桜 井 照 夫 独立行政法人 産業技術総合研究所 光技術研究部門
シニアアドバイザー
事 務 局 田 口 剣 申 (財)光産業技術振興協会 開発部 主幹 川 井 隆 志 (財)光産業技術振興協会 開発部 主幹
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-iv-
委員以外の策定専門委員会参加者名簿
(敬称略,順不同)
石 川 浩 独立行政法人 産業技術総合研究所
超高速光信号処理デバイス研究ラボ 研究ラボ長 高 田 篤 日本電信電話株式会社 未来ねっと研究所 主幹研究員 挟 間 壽 文 独立行政法人 産業技術総合研究所
超高速光信号処理デバイス研究ラボ 副研究ラボ長 萬 伸 一 財団法人 国際超電導産業技術研究センター
超電導工学研究所 デバイス研究開発部 低温デバイス開発室 主幹研究員 石 原 聰 (財)光産業技術振興協会 開発部 部長
小 野 佑 一 (財)光産業技術振興協会 光IT推進部 室長
光テクノロジーロードマップ策定経緯
平成16年 7月 15日(月) 平成16年度第1回策定専門委員会
9月 17日(金) 平成16年度第2回策定専門委員会および講演
「東京電力のFTTHサービス“TEPCO光”の事業展開」
田代哲彦氏(東京電力(株)光ネットワーク・カンパニー)
「ユビキタスネットワーキングフォーラムの動向」
市川晴久(NTT未来ねっと研究所 所長)
10月 15日(金) 平成16年度第1回策定委員会
11月 4日(木) 平成16年度第3回策定専門委員会および講演
「FTTHの現状と将来展望」
三木哲也氏(電気通信大学 教授)
12月 21日(木) 平成16年度第4回策定専門委員会 平成17年 1月 18日(火) 平成16年度第5回策定専門委員会 2月 17日(木) 平成16年度第6回策定専門委員会 3月 2日(水) 平成16年度第7回策定専門委員会 3月 23日(水) 平成16年度第2回策定委員会
4月 19日(火) 平成17年度第1回策定専門委員会
7月 6日(木) 平成17年度第2回策定専門委員会および講演
「超電導SFQ(単一磁束量子)回路の進展と光技術の連携」
日高睦夫氏((財)国際超電導産業技術研究センター)
9月 15日(木) 平成17年度第3回策定専門委員会
目 次
序 文 ……….……… i
委 員 会 名 簿 ……….……… ii
策 定 経 緯 ……….……… iv
I. 背景 ……… 1
II. 技術展望 ……… 4
II-1 ロードマップ的技術課題 ………. 4
(1) 超長距離ネットワーク(国際統合網)………. 4
(2) メトロネットワーク(地域IPバックボーン網)………. 5
(3) アクセス系 ……… 7
(4) ホームネットワーク………. 8
II-2 戦略的課題 ………..… 10
III. 提言-結びにかえて-………..……… 11
-1-
I. 背景
インターネットに代表されるIP トラフィック需要はIT/ネットワークバブル崩壊後も減少す ることはなく,むしろトラフィック量は年2倍以上のペースで増大し続けている.90年代の日本 経済低迷の影響を受けて日本の通信事情は遅れているとも言われたが,「第II期科学技術基本計 画」,「e-Japan戦略」等の政策と施策,これにADSLの値頃感とが相まってブロードバンド化 が急速に進み,2,000万加入を突破する域にまで達した.最近では,ADSLやFTTHなどアクセ ス系の普及,高速化の進展を受けてメトロ/幹線系ネットワークでの容量不足が懸念されており,
対応・対策の必要性が検討され始めている.電話を含め情報流通のIP化は既定の路線でもあり,
アクセス系の光化,FTTHは340万回線加入を越え(総務省;2005年6月末集計),各国から 今後の動向が注目されている.さらに,2004年11月にNTTが発表した中期経営戦略では,2010
年に3,000 万のユーザに光アクセス・次世代ネットワークサービスを提供することが目標として
掲げられている.
今,ADSL,CATVの加入者数は飽和傾向にあり,代わってFTTHの伸びが著しいことなどか らも,本格的なブロードバンド,ユビキタス情報化社会の実現に向け離陸を始めたともいえる.
光通信は,1970年代,実用化を目指して日米欧の先駆的な研究開発がほぼ同時進行的に進めら れ,80年代に入って光ファイバ通信が商用化されるに至ったが,技術的には,日本が一歩先んじ ることができた.この要因として,産業界の自立的な研究開発,投資と共に,学による技術先導 と人材輩出,NTTと光大プロに代表される官による牽引が相乗効果を発揮し,ベクトルのそろっ た研究開発が国を挙げて行われたことが上げられる.当時の日本の技術優位に対して米国が危機 感を強めたことが,欧米の政府機関や研究機関が相次いで我が国の研究開発状況を調査する為に 訪れたことでも伺われる.米国では,この分野での挽回を期して,80 年代後半から WDM
(Wavelength Division Multiplexing,波長多重)技術を中心とする国家プロジェクトが動き始 め,ゴア副大統領のIT強化策等産学官の連携が功を奏して,90年代半ばにはWDM技術が急成 長し,今日の大容量光通信ネットワークが形成される原動力となった.
WDM 技術の進展は,日本メーカの研究開発/事業環境を激変させた.即ち,技術優位と集積 性を源泉として製品開発を行ってきた垂直統合(インテグラル)型事業構造の色合いが強い日本 のメーカは,それ故に高い国際競争力を有していたとも言えるが,米国の市場原理,グローバル 化戦略のなかで,これを最も具体化したともいえるWDMの進展を受けて,米国発の水平分業的 モジュラー型企業との競合を強いられることとなった.この様な環境変化に対応する為にも,国 内では関連事業の整理,統廃合,分社化等が進められ競争力の維持,強化へ向け注力されて来た が,以前と比べ国際競争力が低下したことは否めない.
光通信産業では,黎明期から日米欧が同時進行的に研究開発を行ってきた経緯もあり,元来,
市場は世界という意識が強い.WDM の進展を受け,一時は「ムーアの法則を越える光通信・長 距離ネットワーク需要(の伸び率)」とまで言われたが,2000年をピークに,ネットワークバブ ルが弾けると,その反動は逆に大きく,市場は激減,縮小し,国内生産額は盛時の半分以下とな
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-2-
り未だ低迷が続いている(図1).2003年末頃から市場は緩やかに回復しているとも言われてい るが,グローバル化,製造業のアジアシフトが進んでおり,技術の拡散に伴い価格競争が以前に も増して激しくなっている.ネットワークバブル崩壊後の光通信関連事業の回復が他の光産業と 比べて緩慢であるのは,幹線系での需要,特に北米での投資が激減していることを反映している とも言えるが,一方,生産現場では,光デバイス/部品などの需要数は確実に,あるものはバブ ル時以上に増大しているものの,低価格化がそれ以上に同時並行的に進んでおり金額として積み 上がらない為とも言われている.
一方,ユビキタス情報化社会の実現に向け,光アクセス系の世界的な普及はこれから本格化す るものと期待されている.ここでは,北米や日本など従来から光通信を先導してきた国々以外に アジア諸国が普及に積極的であり,いわゆるBRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)諸国等 の動向が注目される.調査予測によると,世界のFTTH市場は,2003年の37 億ドルが,10 年 後には228億ドルと6倍強の成長が予測されており,アジア市場の60%が中国とインドによって 占められるとも言われている.この間の日本での経過,推移を見るまでもなく,光アクセス,ブ ロードバンド市場を牽引するのは,低コスト化とサービスの効率化など高付加価値化にあるもの と考えられる.
幹線系では,ネットワークバブル時に,主に北米において,過大投資された後遺症(未使用回 線)が未だ残っており,ここしばらくは長距離/幹線系での需要増を見込むことは難しい.しか しながら,ブッシュ政権は 2007 年までに高速インターネット網を全米に張り巡らすよう議会,
産業界に要請しており,最近では,アンバンドリング政策が緩和されたことを受けて,RBOC
(Regional Bell Operational Company,地域電話会社)などがトリプルプレイ(インターネット,
年 度 92 94 96 98 00 04
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0 1 2
情報通信分野の国内生産額(兆円)
(光協会「光産業の動向(2005.3)」より)
(予測)
0 5 10 15 20
(光協会「光産業の将来ビジョン」
(2004.11)より)
情報通信分野の世界市場規模(兆円)
1.5
5.6
18.4
2002 2010 2015
0 5 10 15 20
(見込)
年 度 92 94 96 98 00 04
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(光協会「光産業の動向(2005.3)」より)
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(光協会「光産業の動向(2005.3)」より)
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情報通信分野の国内生産額(兆円)
(光協会「光産業の動向(2005.3)」より)
(予測)
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(光協会「光産業の将来ビジョン」
(2004.11)より)
情報通信分野の世界市場規模(兆円)
1.5
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2002 2010 2015
0 5 10 15 20
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(光協会「光産業の将来ビジョン」
(2004.11)より)
情報通信分野の世界市場規模(兆円)
1.5
5.6
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2002 2010 2015
0 5 10 15 20
2002 2010 2015
0 5 10 15 20
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(見込)
図1. 情報通信分野の国内生産額の推移と世界市場規模(予測)
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映像配信,IP電話),フルサービス化に向けて活発に動き始めている.今後,アクセス系での需 要増とビジネスユースの活発化を受けて,メトロネットワークを中心に需要増が予測される.こ こでは,高速・大容量で高信頼なネットワークが求められており,世界的規模での環境負荷低減 への対応と共に,それ以上に逼迫する高速化に伴う機器電力需要増に対処する上からも,省エネ・
省スペース・高(波長)利用効率への期待が高く,多チャンネルROADM(Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer,再構成可能な光分離挿入多重化装置)や,更には光バーストスイッチ等,
高性能集積光ノード装置への需要が喚起されるものと期待されている.
情報通信分野の世界市場として,2010年には5.6兆円(2002年比で年率18%の伸張)が,2015 年には18.4兆円(2010年比で年率27%の伸張)という高い伸びが予測されている(図1).
IP化,ブロードバンド化の進展を受け,通信関連市場のすそ野は確実に拡がっている.一方で,
生産のグローバル化,アジアへの製造拠点の展開も足早に進んでいる.最近では,川上・川下,
更にはハードとソフトの統合による製造業の日本回帰も言われているが,例えば,東アジア諸国 における組み立て技術は確実に向上しており,従来技術の延長線上での製造,組み立て工程では 人件費等のコスト面から国内製造業の優位性を見出すことは難しい.また,今後,日本での高齢 化,少子化が急速に進むのは確実であるのと比べ,中国を初めとするBRICs諸国での人材の育成 と輩出は始まったばかりである事を考慮すると,研究開発環境の変化をも覚悟しなければならな い.BRICs諸国が市場としてのみではなく,研究開発の上でも競合する相手として存在感を増す のは確実である.この様な観点からも,我が国の存在感とアジアの一員としての役割分担,分業 を持続的に可能とするような研究開発,製造技術,事業モデルの確立が不可欠であり,模倣困難 で新たな市場の創出に繋がる技術革新,技術優位を確立することが今求められている.
今,「日本は世界で一番安いブロードバンド環境にある」と言われているが,グローバル化の 中で持続的発展を遂げて行く為には,国として安全・安心で堅牢なネットワークを構築していく ことが必要かつ最重要な課題であり,ビジネスモデルを含めて通信インフラの観点からも誰が投 資すべきか等の検討,議論が成されなければならない.また,情報通信は,ユビキタス社会の実 現を目指す我が国にとって,ディスプレイや入出力機器は言うに及ばずあらゆる産業,経済活動 の根幹を成すものであり,国際競争力の向上・維持・強化の観点からも,その育成,強化が大き な課題である.国内通信関連メーカの競争力,活力の低下が否めない現状において,欧米諸国は 言うに及ばす,進展著しいアジア諸国とも協調,競合して行くためには,従来技術の延長とは一 線を画するような“もの作り”を含めた技術革新,新規技術の創生・創出と,新たなる事業(運営) モデルの構築を目指した国としての戦略的な活動が求められているものと認識される.
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-4-
II. 技術展望
II-1.ロードマップ的技術課題
当協会では,インターネットの爆発的成長の幕開けを目前に控えた1996年に,21世紀に向け た光技術の展開を方向付けることを目的として,「光テクノロジーロードマップ」の策定を開始 し,情報通信テクノロジーロードマップを 1998 年3月に上梓した.その後,インターネットト ラフィックの著しい増大とWDM技術の進展を受けて改定作業を行い,2000年改定版を策定した.
ここでは,「地球規模での国際統合網」「地域IPバックボーン網」「ユーザアクセス網」という 3 つのネットワークモデルを提案し,各々についての技術発展の可能性について整理した.その 中で,地域IPバックボーン網(メトロネットワークとほぼ同じ意味)の整備を最重要かつ緊急の 課題と位置づけ,フォトニックルータとこれらを支えるデバイス技術の開発を国レベルで取り組 むべきであると提言した.2002年には,2000年版を追補,拡充する形で,ワイヤレスアクセス,
情報家電のロードマップを新たに加え再改定を行った.2004年には,従来のロードマップとは視 点を変え,光情報通信技術の開発戦略について検討を進め,日米欧の情報通信政策とプロジェク トの動向調査とも併せて報告書を取りまとめた.
この間,2000 年をピークとした IT/ネットワークバブルの崩壊を受けて,ロードマップで描 いたWDM波長数や光スイッチの多重度などの開発目標(マイルストーン)と実際の技術開発に 差が生じている領域もあり,見直しが必要とされる部分もあるが,最近では,市場/事業環境の 緩やかな回復傾向を受けて,環境負荷低減への配慮と共に,より切実な投資/運用コストの低減,
効率化の観点から,省エネ・省スペース・高利用効率が以前にも増して強く求められている.ま た,ワイヤレス,空間光通信,電力線通信,人体通信などアクセス系やホームネットワークでの 多様性が予想以上に進んでいる.
この様な最近の状況を踏まえ,以下に,上記3つのネットワークモデルに準じて,ハードウエ ア,装置・デバイスを中心にその重要技術と課題をまとめた.
(1) 超長距離ネットワーク(国際統合網)
光ファイバ増幅器の出現により超長距離化が現実のものとなり,WDM 技術の進展と相まって 伝送容量の飛躍的な拡大が図られてきた.今後,光ファイバ増幅器の広帯域化と共に,チャレン ジングではあるが,超高速化(現状の10Gb/s-TDM(Time Division Multiplexing,時分割多重)
から160Gb/s-OTDM(Optical TDM,光時分割多重)に向けて)への取り組みとその進展に合わ せて分散補償技術の高度化等が求められる.超高速化は非常にリスクの高い研究開発ではあるが,
国際競争力を維持,強化する上からも高い技術レベルを確保する施策が必要であり,かつ又,国 際的な協調も必要とされる.
主なデバイス技術の課題は,
① WDM広帯域化: 光増幅器の帯域が広帯域化の制限要因であり,E+S+C+Lバンド200 nm 程度をカバーする複合光ファイバ増幅器,広帯域等化器等の開発が必要となる.また,高速
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化及びWDM化に比例する電力消費の抑制が切実な課題となり,電子制御LSIやファイバ監 視系をも含めたトータルな装置としての低消費電力化と,増幅器励起用光源の高効率化など 要素光デバイスレベルでの性能改善を図る必要がある.
② 光MUX/DEMUX・光3R: 電子回路変調TDM方式での実用限界は40Gb/s程度と見なさ れており,チャレンジングではあるが,更なる高速化に向け,光信号のままでデータ再生・
タイミング再生・波形再生(光 3R)を行い,光パルス信号の時間領域での多重/分離(光
MUX/DEMUX)回路技術を開発して160Gb/sクラスの超高速伝送を可能とする.また,こ
の目的に叶う光デバイスとして超高速短パルス光源(半導体レーザ,LD)と低ビットエラー 符号化のための超高速光変調器,DEMUXのための光ゲートスイッチ等の開発が必要となる.
③ 低偏波分散ファイバ: 160Gb/s クラスの長距離伝送にはファイバの分散特性,特に偏波モ ード分散を現状より1桁以上低減させる(~0.01ps/√km)製造技術の革新が必要となる.
④ 40Gb/s-TDM 対応要素技術: 今までの単純なパルス通信とは異なり,光信号の位相や偏波
を利用して感度,周波数利用効率の向上を図る多値変復調技術(RZ-DPFSK,RZ-DQPFSK 等)が進展しており,次世代 40Gb/s-TDM システムの商用化に向けて,光デバイス,電気
MUX/DEMUX回路(構成),偏波モード分散補償等での変革が必要である.
(2) メトロネットワーク(地域IPバックボーン網)
インターネットユーザや事業所が集中する都市部でのメトロネットワークが上述の地域 IP バ ックボーン網のモデルに等しい.ここでは,ネットワーク構成として,ノード系(データ集線,
経路選択)と伝送系に大別される.伝送系は超長距離ネットワークと共通の技術基盤,開発課題 を有するが,トラフィック需要として超長距離ネットワーク以上の大容量が,一方,ノード系に ついてもネットワークとしてのより高い柔軟性要求が予想される.
[ノード系]
既存も含めネットワークの効率的運用が図れる技術として ROADM が注目されており,2004 年の市場として1億ドルが,2005年には前年比倍増の世界需要が予測されている.また,ルータ 市場として2004年の実績380億ドルが5年後には840億ドルに伸張するとも予測されている.
ここでの増大要因として,VPN(virtual private network)サービスやアクセス系でのトリプル プレイ,ネットワークの融合化が進むためと分析されている.デバイス/サブシステム導入の要 件として,省電力・省スペース・効率(的運用)が今以上に求められ,さらにはフレキシブルな 拡張性が必要とされる.ROADMはバーストSW(スイッチ)への前段階と位置づけられ,GMPLS
(Generalized Multi Protocol Label Switching)によるネットワーク制御から,光空間SW,波 長変換技術等の発展を受けて時系列制御も含めた光バースト対応に移行していくことが予想され,
更には,光パケットSWによる高速ルーティングにより波長の高利用効率化が期待される.最重 要課題として,小型・低電圧動作可能な高速光SWの開発が上げられる.
省電力・省スペースは,個別デバイスの高効率/省電力化を図ることは勿論であるが,信号監 視をも含めて装置トータルで考える必要がある.高速化に伴い消費電力の需要増は必至であるが,
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-6-
OEO(光→電気→光)変換を伴わない光のレベルでの効率的なカットスルー等が期待される.
また,最近では,シリコンLSIの微細化に伴い,ゲート遅延は軽減されるものの配線遅延が逆 に大きくなりLSIとしてのトータル性能の向上が難しくなっており,光の高速性,並列処理性が 注目されており光配線への期待が高い.チップ内,チップ間,ボード間,システム/装置間を光 インターコネクトすることによる高性能化(高速・大容量転送等)と共に,トータルなセット,
システムとしての省電力・省スペースの観点からも光技術と電子技術の融合化,連携によるブレ ークスルーが期待される.
[伝送系]
メトロネットワーク伝送系での課題は,長距離ネットワークと基本的には同じである.伝送距
離として100 km程度のリングあるいはメッシュ構成を想定しており,大容量化へのアプローチ
として,長距離ネットワーク以上に広帯域なWDM,高速伝送が期待される.
ネットワークバブルの後遺症もあり,40Gb/sシステムの商用化が緒に就いた段階とも言えるが,
光デバイス/部品,電気 MUX/DEMUX 回路の高性能化,信号のバースト化に対応した光ファ イバ増幅器や光バースト受信機,高速化に伴う分散補償,チャネル監視/制御など,更なる取り 組みが必要といえる.
以下にメトロネットワーク(地域IPバックボーン網)での主な課題を列挙する.
[ノード系]
① ROADM: 今後のメトロネットワークインフラ投資の中心的な存在であり,省電力・省スペ
ースで運用効率が高く,拡張性に優れた装置・サブシステムの開発が課題であり,競争力の 源泉となる.
② 光バックボーン: ノード装置の省電力・省スペース・高速化のためには,ボード間・バッ クボーン内の光インターコネクションが必須であり,小型・低消費電力・高性能な光インタ ーコネクトモジュールを低コストで実現するために,光デバイス技術とシリコン制御フォト ニクス技術やシリコン LSI 技術を融合・連携して光電子複合集積チップ(光電子融合シリコ ンプラットフォーム)を実現するような取り組みが重要となる.また,光と電気を融合・連 携させた分散補償の実現なども注目すべき技術である.
③ 光SW: 現状ではMEMS型空間光スイッチ256×256クラスがモジュール化されフィール ド試験されているが,分波/合波機能,可変減衰機能等とスイッチ機能を集積した機能モジ ュールが提案されており,集積度のアップと共に新機能の付与など新たな視点での取り組み 強化が望まれる.バースト対応には高速性(≦μsec)が要求されるが,大規模化への拡張性 と共に,用途拡大の為にも駆動電圧の低減(≦3.3V)と小型化が大きな課題となる.
④ 波長変換: WDMネットワーク上でのチャンネル間の衝突回避,あるいは効率的な運用をす る上から,波長可変素子,低雑音・高効率波長変換素子等の開発が必要となる.
⑤ 制御回路:(シリコンプラットフォーム上での)電子要素技術として,低消費電力・高速ラ ベル処理電子回路,高速電気分散補償回路などが必要となる.
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⑥ 光メモリ技術: 中長期的な課題として,光パケットSWの世代には不可欠となる光DRAM,
光ランダムアクセスメモリでのブレークスルーが求められる.フォトニック結晶による群速 度遅延制御が注目されており,光バッファーメモリとして小型・高集積化可能な形態での機 能実現が期待される.
[伝送系]
メトロネットワーク伝送系での課題,技術開発要素共に長距離ネットワークと同じであるが,
より一層の省電力化,低コスト化が要求される.これらに対応するため,レーザ光源の温調不要 化,変調器の無チャープ化,40Gb/s直接変調半導体光源など光デバイスでの性能改善,新しい多 値変調方式に対応した新規デバイスの開発などが求められる.
また,メトロネットワークはあらゆる経済活動のバックボーンとして位置付けられ高いセキュ リティ性が求められる.高度な盗聴/漏洩防止技術と正確な個人認証技術はネットワークを通じ た犯罪行為やスパム情報の氾濫を阻止すると共に,産業の維持発展に必要な課金システム構築の 基礎となる.ここではソフトウエア的な対応と共に,ハードウエア的な取り組みとして,量子暗 号,鍵配信などの技術開発と普及が求められる.
(3) アクセス系
今後,FTTHの普及とその高速化(>10Gb/s)が進む一方で,固定型無線アクセス(FWA)が,
FTTHを補完する形で普及するものと予想される.また,WDM 技術の経済化に伴い,ユーザ側
で直接パスの設定,解除が可能でQoS(Quality of Service)を保証した光波長パスサービスの普 及が期待される.これらの本格的な普及と競争力を確保するためには,光デバイス/セットの『低 価格化』『低消費電力化』が不可欠となる.そのためには,従来の技術的延長線ではなく,大幅 な低コスト化と汎用化,標準化を目指した全く新しいコンセプトのデバイス構造・プロセス技術 の開発が必要であり,汎用化・標準化・高度化を目指した革新的な製造/プロセス技術の開発と 高品質を確保する視点が重要となり,同時にそれら関連技術の知的財産権の確保も必要とされる.
また,通信と放送の融合,あるいはトリプルプレイの進展を受けて,家庭内での超高精細HDTV 受信,ネットワークゲームなど,サーバ蓄積型の大容量デジタルコンテンツへの需要が喚起され ることが予想される.これらは,SAN(storage area network) あるいは LAN(local area network)の超高速・大容量化とも結びつけられ,この様な需要に対応するためには 100Gb/sク ラスの伝送速度が必要とも言われている.これには民生品レベルでの超高速デバイス/システム 技術の開発が要請される.
重要なデバイス技術課題としては,
① 低コスト化指向の技術開発: 汎用品あるいは新たな市場を求めて,デバイス・モジュール の低価格化に寄与する全く新しいコンセプトの製造/プロセス技術の開発が求められる.そ のためには,モジュール化する上での部品点数の削減と性能補償のための部品を必要としな
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いデバイス開発が不可欠であり,従来デバイスの性能改善ではなく,例えば温度無依存LDの 開発など,新規材料開発,デバイス構造・設計上から高効率/低消費電力化を図る検討が必 要といえる.また,モジュール化での大きなコスト要因として光軸合わせ等,組み立て・調 整工程が有り,検査工程も含めこれらの簡易化,自動化を推進する必要がある.さらに,モ ジュールを構成するデバイスチップや光部品を標準化し,その再利用率を高めるほか,組立・
調芯・検査の工程を標準化して自動化を容易にすることも重要である.
② 標準CAD開発: デバイス設計とウェーハプロセスを連携した標準CADの開発と運用によ り,生産拠点間の連携と分担,知的財産権の確保を行うことが重要となる.また,特に,汎 用光部品,モジュールの標準化推進も重要であり,超低価格光デバイス/部品の出現は,光 を意識しない情報処理端末としての新たな市場,応用分野の開拓にも寄与する.
③ 光インターコネクト: 10Gb/sを越えるコンパクトな情報伝送媒体としては光ファイバしか なく,コンピュータ間等をも含めLAN,SANの高速・大容量化に向けて光インターコネクト 技術での革新が求められる.バックプレーンなどでは,高速・低消費電力化のみならず,多 数の電線を束ねる煩雑さの回避,省スペースの点からも光技術への期待は高く,低価格化,
汎用化へのブレークスルーが求められる.そのためには,光素子の低価格化,集積化と共に,
シリコン LSI技術,シリコン制御フォトニクス技術等とも一体化した光電子融合化技術開発 の視点が重要となる.また,複数チャンネルの超高精細HDTVや3次元TVを違和感なく(非 圧縮または低圧縮伝送で)見るためには 100Gb/sクラスに対応できる超高速光インターコネ クト技術の開発も重要となる.
(4) ホームネットワーク
ホームネットワークでは,デジタル情報家電の普及に合わせて家庭内および外部とのネットワ ーク化が進むものと予測される.取り扱い易さの点から,光技術は無線技術と競合,補完関係に もあるが,伝送距離と大容量化,安定化と高セキュリティ性が普及要因となる.
ネットワーク化はコンテンツファイル転送やネットワークゲーム等の双方向通信の進展を受け,
大容量デジタル映像機器等に先導されることが予測される.超高精細HDTVや3次元TVを低圧 縮で違和感なく見るためには50Gb/s級の伝送速度が必要と言われており,普及価格帯での超高速 伝送路/ネットワークとこれを実現するための超高速デバイス技術の開発が必要となる.
ここでは,現状の幹線/メトロ系での10~40Gb/s技術,あるいは新規100Gb/sクラスの超高 速光伝送技術が無線,モバイル機器等ともシームレスに接続,転送できるようにすることが重要 となり,無線技術の高度/高速化と共に光端末,インターフェースでの革新が求められる.
一方で,電灯線や照明などが新たなキャリア媒体として利用され,ホームネットワークと家電 との融合が更に進むものと予想される.また,現状,屋外環境では,自動車や携帯電話において,
情報伝送量の増大に伴い電磁波干渉(EMI)や配線数の増加を抑止するために配線の光化が要望 されつつある.今後,車載ネットワークやモバイル通信機器内部でも光配線,光インターコネク ト技術が活用されていくものと思われる.
-9- 重要デバイス技術としては,
① 光版USB・光コネクタ: ホーム内での有線接続による情報伝達は,無線と比較して家電と
の親和性が低いが,セキュリティ性と大容量,高速処理の点で優位にある.その優位性を生 かすためには,既存の電気伝送路,コネクタと置換可能なモジュール形態(光を意識しない で使える,例えば,光USB端末)で超低価格化を追求する必要がある.車載ネットワークや 携帯電話内部の光配線用デバイスに関しても,低消費電力化と共に同様の要求がある.これ らは,アクセス系での低コスト光デバイス技術,光インターコネクト技術をさらに発展させ て,徹底した標準化プロセス,人件費発生工程の回避技術(素子選別,組み立て,信頼性チ ェックの自動化など)及びそれに適したデバイスを開発する視点が重要となる.
② 新規伝送技術用デバイス: 家電と融合した情報伝送媒体として電力線伝送(PLC)の普及 が期待されているが,不要電磁波放出やノイズの影響などの課題が残る.一方,広帯域性を 獲得できる技術として照明あるいはディスプレイ光源自体の高周波変調による情報伝送,コ ネクションが期待されており,高速変調LED光源,超小型・低価格トランシーバの開発など が要請される.
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II-2.戦略的課題
IP技術は,その起源が米国の軍事目的の研究にあり,その民間転用であることは良く知られて いる.この様な大変革をもたらしたブレークスルー技術は,所謂ロードマップ的な技術の延長線 上にはなく,非連続的な個人の独創的発意もさることながら,しばしば従来技術の限界,飽和状 態の中,“従来技術とは無縁,あるいは異なるモチベーション”の中から生まれてきており,
DARPA(Defense Advanced Research Programs Agency)等,政府/公的機関での戦略的先導 とサポートが大きな役割を果たして来ている.
情報通信,特に,バックボーンネットワークは国を代表する基幹ネットワークであり,これは ユビキタス社会を目指す我が国にとってあらゆる経済活動の基盤と位置づけられ,その安全性と ストレス無く使えること,例えば電力利用口としてのコンセント,あるいは高速道路的な役割が 期待される.
現在の日本の通信産業の低迷の根底には,80年代のテクノロジーの自給自足を背景とした垂直 統合(インテグラル)型事業モデルでの技術優位が市場競争力の源泉として国際競争力を発揮し 得た時代から,技術の拡散に伴う米国発のモジュラー型事業の台頭により,日本企業の国際的競 争力が相対的に低下したことにあるとも言える.この様な状況下では,単に市場原理に任せるの ではなく競争優位な新たな事業構造の形成と新しい制度,経済原理の導入を行うための施策とし ての国家プロジェクトの推進が望まれる.また,国家プロジェクトを単に技術開発に留めず,産 業,事業の変革に向けた先導的施策として,新市場形成や事業のスタートアップなどを盛り込ん だ戦略的プロジェクト構想として設定,運営すべきである.
「ブロードバンドネットワーク」,「ユビキタス情報化社会」の実現に向けた情報通信の研究 開発,国家プロジェクトを通して国際競争力の源泉となる人材育成も含めて新たなる技術ストッ クを蓄え,グローバル化の中で,その技術ストックを事業的観点から活用する環境,知的財産権 の強化を図り,新市場・新事業分野の創生という視点から異種技術間の融合・連携・摺り合わせ 等に戦略的に取り組むべきである.
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III. 提言-結びにかえて-
京都議定書が本年(2005年)2月16日に正式発効した.これは,温室効果ガスの総排出量を,
1990 年比で 6%削減することを公約したことであり,2003 年の実績値が+8%とも言われている
ことを考慮すると,今後,2012 年までに14%のCO2等の温暖化ガス排出の削減を行わなければ ならないことを意味する.これを実現するためには,産業界での改善活動,技術改善と技術革新 は言うに及ばす,国を挙げての意識改革と大きなブレークスルー技術を招来する研究,技術開発 の施策が望まれる.
「どこでも,いつでも,誰とでも」ネットワーク化を可能とし,意図した情報をストレスなく 得られ,扱えるユビキタス社会を目指す我が国にとって,安全・安心で堅牢な光情報通信ネット ワークの整備は国として取り組まなければならない大きな課題である.このことは「e-Japan 戦 略 II」の中においても,「現在,世界最先端となっているインフラ整備については,2006 年以 降も引き続き,世界最先端を維持し,その高度化を図っていく」と明言されている.情報通信技 術とネットワークの高度化は,全ての産業のインフラ,バックボーンとして,また国家セキュリ ティ上からも極めて重要である.フォトニックネットワークは,国として経済を活性化し,国際 競争力を維持・強化,持続的発展を遂げていくためには不可欠なものであり,国自らが産業界・
学界をリードして,次世代高信頼ネットワーク網の実現に向けて,その基盤技術の高度化を図る 国家プロジェクトを遂行する必要がある.
今後のネットワークの進展を考えると,NGN(Next Generation Network)構想の議論に代表 される様に,更なる広帯域化,全 IP 化,移動通信と固定通信の融合(FMC: Fixed Mobile Convergence),ならびにend-to-endでの QoS(Quality of Service)の提供が大きな課題とな る.これはネットワークに対して,継続的な広帯域化と同時に網機能の向上を意味,要求してお り,それを機器コストおよび運用コストの増大無しに実現することを求めているとも言える.現 状でもIPトラヒックは年率2倍以上で伸びており,従って機器についてはビット単価当たりで年 率 1/2 のコストダウンが期待されていることになる.また,この伸び率が半導体のムーアの法則 を超えている事から,現状のままで進展すると機器の消費電力が増大することは必至であり,運 用コストの増大が避けられないことになる.
このような状況を踏まえ,フォトニックネットワークとしては何を優先的に取り組むべきか.
先ず,ビット単価の継続的な削減について,2つの側面が考えられる.即ち,
(1) 光部品・モジュールの高性能/高機能化と抜本的な低価格(例えば,現状の1/100~
1/1000)実現技術の研究開発
(2) ファイバ帯域のより効率的利用を可能とする方式技術の研究開発 である.
抜本的な低価格を実現するアプローチとしては,光集積化が上げられる.フォトニック結晶,シ リコン制御フォトニクスを始めとする集積化基盤技術,光電子集積化回路設計技術,自動実装技
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術,簡易試験技術などの研究開発が重要となる.また,デバイス開発・集積化の視点として,新 機能/高性能化と共にコスト構造,電力消費構造を大きく変える様な光部品・機器の構成技術と 生産技術の開発,革新が重要となる.光ファイバ帯域の効率的利用については,利用バンドの拡 大,OTDM(Optical Time Division Multiplexing)を用いたTDMの高速化実現や,多値符号化 などが有力な候補であるが,何れも新たな要素技術の研究開発が必須である.
一方,トラヒックの伸びにより,現状のアプローチでは消費電力や機器の設置面積の面でシス テムが成り立たなくなる.低消費電力化の必要性は既に 2000 年頃に指摘されていたが,ネット ワークバブルの崩壊で一時関心が薄れていた感もある.しかしながら,実際にはトラヒックは確 実に伸び続けており,懸念されていた事が現実味を帯びて来ている.フォトニックネットワーク の低消費電力化は,クーラレス化に代表される様な光デバイス自体の低消費電力化は勿論である が,光の特徴を活用したネットワークシステム全体としての低消費電力化により着目した対応が 必要である.ここでは,電気と光の適切な役割分担と融合が重要な視点となる.波長ルーティン グと(G)MPLS(Generalized Multi Protocol Label Switching)を組み合わせたノード部でのカ ットスルーなどは代表的なアプローチであり,システム全体の電力削減効果も大きい.要素技術 をシステム化し,トータルなネットワークシステムとしての電力削減を目指した取り組み(例え ば,現状の1/2~1/3目標)を展開する必要がある.
また,我が国は,元来,物つくりを得意とし,光デバイスやマイクロエレクトロニクス,家電 製品等の生産では世界をリードして来た.しかしながら,最近では,技術の拡散により中国をは じめとしたアジア諸国の低価格攻勢による急追を受け,同分野においても守勢,劣勢に立たされ つつある.
一方,我が国は,e-Japan戦略の推進を通じて,ADSLやFTTHによるブロードバンドサービ スで技術的には世界トップに立ったが,これを運用する事業体にとって,将来にもわたり収益性 が期待しうるものとは言い難く,特にFTTH用光部品・機器のコスト構造と電力消費でのブレー クスルーが求められている.
この様な観点から,新技術の研究開発に国を挙げて取組み,FTTH 本格普及の隘路となってい る課題をクリアし,世界に先駆けてユビキタス社会を実現すると同時に,光エレクトロニクス分 野で我が国が得意としてきた『物つくり』産業を復活させなければならない.このためには,長 年培われてきた光エレクトロニクス技術と共に,マイクロエレクトロニクスの技術蓄積を光部 品・機器に活用し,シリコンLSI技術やナノテテクノロジーなどとも融合・連携を図り,各種国 家プロジェクト間でのシナジー効果が発揮できる戦略的な取組みが重要となる.
中長期的な戦略や,機動力・柔軟性に富む省庁連携を進める上からも,国としてのグランドデ ザインを統一的かつ継続的に検討し,これに基づき責任を持って計画・立案・実施が図られなけ ればならない.
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以上の様なことを考慮して,具体的なプロジェクトのテーマとしては次のものが上げられる.
●高効率(省電力・省スペース・高運用効率)フォトニックネットワーク機器技術基盤開発 光の特徴(無誘導,高速,多重性)を生かして,信号1ビット当たりのコスト,消費電力,
転送処理時間,伝送距離を飛躍的に改善する電子デバイス技術とも融合・連携した高機能ネット ワーク機器の開発を行う.
(1) 光ルータ集積化技術開発(ROADM,高速低電圧動作光スイッチ,多機能集積光モジ ュール等)
(2) 広帯域高効率光アンプ技術開発
(3) 高効率光源・光3R技術開発
(4) 光電子融合プラットフォーム集積化技術開発
(5) 高効率フォトニックネットワーク伝送方式開発
(6) 先端セキュア機器開発
(7) 革新的材料の開発
(8) 製造革新・標準化対応CAD技術開発
●光電子融合システムチップ技術基盤開発
電気信号の速度/伝送限界を打破する光インターコネクション,光配線・光導波路技術をコ アとして,光デバイス技術とシリコンLSI技術,シリコン制御フォトニクス技術等との融合・連 携によりトータルとして小型・高性能・低消費電力なシステムチップ/デバイスの開発を行い,
新たな応用分野の開拓にも資する.
(1) シリコンプラットフォーム上での光電子混載技術の開発
(2) 光電子融合システム/デバイス開発
(3) チップ間/ボード間/装置間光配線用光電子融合集積化技術開発
(4) 革新的製造・プロセス技術開発
(5) 低消費電力端末・LSI融合化技術開発
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―――――― 禁 無 断 掲 載 ――――――
光テクノロジーロードマップ報告書(情報通信分野)
ユビキタス社会の実現に向けた光情報通信機器・
基盤技術研究開発の提言
発 行 2005(平成 17)年 9 月
編集・発行 財団法人 光産業技術振興協会
〒112-0014 東京都文京区関口 1-20-10 住友江戸川橋駅前ビル 7 階 電話(03)5225-6431