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伝統的なチーズ中のにおい成分の改善

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(1)

伝統的なチーズ中のにおい成分の改善

著者 塩谷 一紗, 海老塚 広子

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

巻 37

ページ 77‑81

発行年 2014‑07

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009952/

(2)

《温故知新プロジェクト》

伝統的なチーズ中のにおい成分の改善

塩 谷 一 紗

*

 海老塚広子

*

Improvement of Odor Components of Traditional Cheese

Kazusa SHIOTANI, and Hiroko EBIZUKA

1. 緒   言

チーズは、牧畜酪農国の代表的な伝統食品であり栄養価 の高い食品として評価され、嗜好、生体調節機能の面から も注目されている食品である。

チーズの歴史は約8000年前の動物の家畜化から始まり、

人類にとって最も古くからある食品の一つであるとともに 古代の人々の知恵が反映された食品として現代においても 親しまれている。チーズ作りのプロセスは様々であるが、

最終的に美味しく食べることが目的となっている1)。現代 においては生体調節の観点から機能性を十分に発揮させつ つ美味しく食べることが重要視されており、加熱調理や燻 製といった方法で風味を改善することは非常に意義がある ことだと考えられる。

チーズはナチュラルチーズとプロセスチーズに大別さ れ、ナチュラルチーズは熟成過程においてチーズの主要成 分であるタンパク質カゼインや脂肪の分解によって風味や 組織が形成されることでチーズとして完成する。プロセス チーズは1種類以上のナチュラルチーズを粉砕し、加熱 溶解して乳化、成型することでチーズとして完成する2) ナチュラルチーズの中でも熟成に青カビを使用する青カ ビチーズは、独特の香りを有するため日本人において好ま れない傾向が強い。しかし、加熱調理を行うことで青カビ チーズ独特の香りが緩和され食べやすくなると言われてい る。

そこで本研究では、世界三大ブルーチーズとして知られ ているゴルゴンゾーラ、スティルトン、ロックフォールを 用いて加熱調理による香りの変化を機器分析により比較検 討することを目的とした。

さらに、青カビチーズに限らず、チーズを好まない人に 対する有効的な調理法としては燻製が挙げられる。従来、

燻製は食品の長期保存を目的として行われた加工法であ り、最近では食品への香りの付加による独特の香りを楽し むものへと変化している3)

本研究では、プロセスチーズを用いて燻製チーズを作成 し燻製による香気の変化を比較検討した。

2. 実 験 方 法 1) 試料調製

(1) 試料

加熱を行う試料として3種類の青カビチーズ、ゴルゴ ンゾーラ、スティルトン、ロックフォールを用いた。いず れも市販のチーズを購入した。

燻製を行う試料として6Pチーズ((株)雪印メグミルク)

を用いた。

(2) 加熱方法

加熱は、マッフル炉((株)いすゞ製作所)を用いて行っ た。加熱温度は150°C, 200°C, 250°Cでそれぞれの試料を 10 gずつ秤取し10分間の加熱を行った。

(3) 燻製方法

燻製は4種類の燻煙材、さくら、なら、りんご、ウイ スキーオークを使用し、115〜120°C10分および20 行った。

2) におい識別装置による香気分析

加熱を行った青カビチーズ、燻製を行ったプロセスチー ズにおける香気の変化はにおい識別装置(FF-2A:(株)島 津製作所) を用いて分析することにより比較した。

加熱、燻製両処理を行ったチーズは窒素(G1)が充填 されたサンプルパック内に入れ、37°Cの恒温機内で1 間香気を発生させた後、香気の経時的変化を防ぐため、香 気を別のサンプルパック内に回収し分析を行った。

加熱、燻製いずれにおいても対照として加熱を行わない チーズ(非加熱)、燻製を行わないチーズ(非燻製)も同 様にして分析を行った。

3) 固相マイクロ抽出およびガスクロマトグラフ質量分 析計による香気成分分析

(1) 固相マイクロ抽出(SPME抽出)

加熱を行った青カビチーズおよび非加熱のチーズの香気 成分を固相マイクロ抽出法(Solid-Phase Microextrac- tion; SPME)によって回収した。香気成分捕集のための ファイバーはCarbon (CAR)/PDMSを使用した。

香気をサンプルパック内に発生させ(37°C,20分)、

* 東京家政大学(Tokyo Kasei University)

(3)

塩谷一紗 海老塚広子 ファイバーを挿入し香気成分を捕集した(37°C,15分)。

(2) ガスクロマトグラフ質量分析計による香気成分分析 香気成分分析はガスクロマトグラフ質量分析計(GC/

MS; (株)ア ジ レ ン ト テ ク ノ ロ ジ ー)を 用 い て 行 っ た。

SPME抽出によって香気成分を捕集したファイバーをGC の気化室に挿入し250°C15分加熱することで香気成分 を脱離した。

GC/MS分 析 は、次 の 条 件 で 行 っ た。カ ラ ム はDB- WAX (60 m×0.25 mm×0.50 μm)、カ ラ ム 温 度 は40°C 5分間保持した後、6°C/分で240°Cまで昇温し240°C 10分間保持した。キャリアガスはヘリウムを使用した。

検出できた化合物はライブラリに登録されている化合物 をもとに同定した。

4) 統計処理

統計処理はSPSSを用いて多変量解析、Asmell2を用 いて臭気指数相当値による類似度解析を行った。

3. 実 験 結 果

1) 加熱による香気、香気成分の変化

(1) におい識別装置による香気分析結果

FF-2Aによる香気分析の結果は、(株)島津製作所指定

9種の基準ガス(硫化水素、硫黄系、アンモニア、ア ミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳香族 系、炭化水素系)をもとにした臭気寄与と、チーズ間のに おいの類似度を算出しSPSSによる統計処理を行った。

9種の基準ガスをもとに算出した臭気寄与については、

ゴルゴンゾーラとスティルトンはほぼ類似しており、

250°Cの加熱で硫化水素は増加、アンモニアは減少すると いった変化傾向を示した(図1-A, B)。ロックフォールで は、200°Cの加熱で硫化水素、炭化水素系、芳香族系が減 少するといった変化傾向を示した(図1-C)。

チーズ間のにおいの類似度については、どのチーズも加 熱によりにおいが変化することが示唆された。ゴルゴン ゾーラでは、250°Cで加熱を行ったチーズの香りが特に異 なり、スティルトンでは、加熱チーズ群はほぼ類似し非加 熱チーズとは異なっていた(図2-A, B)。ロックフォール で は、非 加 熱 と150°C加 熱 群 が 類 似、200°C加 熱 と 250°C加熱群が類似しこの2群は異なる結果となった(図 2-C)。

(2) SPME-GC/MSによる香気成分分析結果

(i) 非加熱チーズの香気成分

ゴルゴンゾーラ、スティルトン、ロックフォールいずれ においても青カビチーズにおける主要香気成分である 2-Heptanone, 2-Nonanone, 2-Heptanol4)が 検 出 さ れ た。

ゴルゴンゾーラでは9種類、スティルトンでは10種類の

化合物が検出されほぼ類似した結果となった。ロック フォールにおいては11種類の化合物が検出され、ロック フォールにおいてのみ検出された化合物があった。ゴルゴ ンゾーラ、スティルトンでも検出できた化合物に加え、

Methyl hexanoate, Ethyl hexanoate, Methyl octanoate 図 1 青カビチーズ加熱香気の9種の基準ガスによる臭気寄与

A:ゴ ル ゴ ン ゾ ー ラ B:ス テ ィ ル ト ン C:ロ ッ ク フォール

◆:非加熱 □:200°C加熱 △:250°C加熱

図 2 青カビチーズ間のにおいの類似度

A:ゴ ル ゴ ン ゾ ー ラ B:ス テ ィ ル ト ン C:ロ ッ ク フォール

(4)

といった脂肪酸メチルエステル、エチルエステルやOcta- noic acidといった脂肪酸が検出された(図3)。

(ii) 加熱による香気成分の変化

加熱による香気成分の変化は非加熱、または初めて検出

できた加熱温度におけるエリア面積を1として各加熱チー ズのエリア面積の割合を算出して比較した。その結果、

2-Pentanone, 2-Heptanone, 2-Nonanoneのようなケトン 類では、全てのチーズにおいて200°C加熱で著しく減少、

または加熱温度依存的に減少した(図4)。Butanoic acid, Hexanoic acidをはじめとする脂肪酸では、チーズによっ て変化傾向は異なり、加熱によって減少する脂肪酸と、加 熱 に よ っ て 増 加 す る 脂 肪 酸 と が あ っ た(図5-A, B)。

2-Heptanolのようなアルコールでは、全てのチーズにお

いて200°C加熱で著しく減少した(図5-C)。

ロックフォールでのみ検出された脂肪酸メチルエステ ル、エチルエステルの変化傾向は、いずれも200°C加熱 で検出ができなくなった。また、250°C加熱でTrimethyl pyrazine, Tetramethyl pyrazineといったピラジン類が検 出された(図6)。

図 3 SPME-GC/MSによるロックフォール(非加熱)の香気 成分

1: 2-Pentanone 2: 2-Heptanone 3: Methyl hexanoate 4: Ethyl hexanoate 5: 2-Heptanol 6:

Methyl octanoate 7: 2-Nonanone 8: Benzene, 1-methoxy-4-methyl 9: Butanoic acid 10: Hexanoic acid 11: Octanoic acid

図 4 青カビチーズの加熱による変化(ケトン類)

A: 2-Pentanone B: 2-Heptanone C: 2-Nonanone 左:ゴルゴンゾーラ 中央:スティルトン 右:ロック フォール

図 5 青カビチーズの加熱による変化(脂肪酸、アルコール)

A: Butanoic acid B: Hexanoic acid C: 2-Heptanol 左:ゴルゴンゾーラ 中央:スティルトン 右:ロッ クフォール

(5)

塩谷一紗 海老塚広子

2) 燻製による香気の変化

FF-2Aによる香気分析の結果を9種の基準ガスを基に

算出した臭気寄与とチーズ間のにおいの類似度について比 較検討した。

9種の基準ガスを基に算出した臭気寄与については、非 燻製のチーズと比較すると燻製を行ったチーズでは9 全ての基準ガスで類似度に違いが見られた。特に硫化水素 における違いが大きく、さらにエステル系、アルデヒド 系、炭化水素系、芳香族系、有機酸系のガスに関しても違 いが見られた。

チーズ間のにおいの類似度については、さくらを用いて 燻製を行ったチーズは多少違いは見られるが、燻製を行っ たチーズは燻煙時間ごとに類似した香りとなっていた。

4. 考   察

1) 青カビチーズの加熱香気分析

におい識別装置による香気分析の結果、加熱によって香 気が変化することが示唆された。

SPME-GC/MSによる香気成分分析の結果、非加熱状態

で検出できた化合物は、既報の化合物と一致していた4) 非加熱のロックフォールでは、脂肪酸メチルエステル、

エチルエステルといった特徴的な化合物が検出でき、この

ことから原料乳から移行した成分の影響が推察された。

におい識別装置の結果を踏まえて加熱による香気成分の 変化を比較したところ、ケトン類では200°C加熱で顕著 に減少、または加熱温度依存的に減少する結果となった。

このことは全てのチーズにおいて一致していた。

脂肪酸では、各チーズにおいて変化傾向が異なり、加熱 によって減少する脂肪酸と加熱によって検出される脂肪酸 2種類の変化傾向を示した。

図 6 脂肪酸メチルエステル、エチルエステルの変化傾向およ びピラジン類

A: Methyl hexanoate, B: Ethyl hexanoate, C: Methyl octanoate, D: Trimethyl pyrazine, E: Tetramethyl pyrazine.

図 7 燻製チーズ香気の9種の基準ガスによる臭気寄与 A:10分燻製 B:20分燻製 C:非燻製

◆:非燻製 △:燻製(なら)

図 8 燻製チーズ間のにおいの類似度

(6)

アルコールでは、200°C加熱で顕著に減少し、全ての チーズにおいて一致していた。

さらにロックフォールでは、加熱によってピラジン類が 検出され、この結果からも原料乳の影響が推察された。ピ ラジン類はアミノカルボニル反応により生成する化合物で あり、チーズ中のアミノ酸、ペプチド由来のアミノ基、ケ トン類由来のカルボニル基の反応により生成されたと考え られる。

また、原料乳についてはゴルゴンゾーラ、スティルトン は牛生乳、ロックフォールは羊生乳が製造に用いられる。

生乳中のタンパク質は牛で3.25%、羊で5.6%であり、脂 肪は牛で3.5%、羊で7.8%である5)

羊生乳中のタンパク質、脂肪含量が牛生乳と比較して約 2倍であることがタンパク質の分解によるアミノ酸、ペプ チドおよび脂肪の分解による脂肪酸に影響し、さらに加熱 が加わることによって生成されるピラジン類にも影響して いると推察した。

加熱による香気成分分析の結果、青カビチーズの最も 特 徴 的 と さ れ る 香 気 成 分(2-Heptanone, 2-Nonanone, 2-Heptanol)が200°C加熱で顕著に減少、もしくは加熱 温度依存的に減少したことから、200°C前後で加熱を行う 調理法が有効であると推察した。

2) 燻製チーズの香気分析

におい識別装置による香気分析の結果、燻製を行うこと によって香気が変化することが示唆された。

9種の基準ガスを基に算出した臭気寄与において変化の 見られたエステル系、炭化水素系、アルデヒド系はカルボ ニル化合物、芳香族系はフェノール化合物、アルデヒド系

はアルデヒド、有機酸系は有機酸である。

燻煙に含まれている化合物の内、代表的な化合物はカル ボニル化合物、フェノール系化合物、アルデヒド、有機酸 でありいずれも保存性の向上に関与している。さらに、カ ルボニル化合物は燻製独自の色艶、香りの付加にも関与し ている3)

燻煙に含まれ、保存と香りに関与している4種類の化 合物に相当するガスにおいて違いが見られたことから、燻 煙由来の香りがチーズに付加されたことにより類似度に変 化が見られたと推察した。

加熱、燻製を行ったチーズの香気分析の結果、加熱に よって青カビチーズの最も特徴的とされる香気成分が減少 した。また、燻製によって燻製独自の香気がチーズに付加 されたことからこの二つの調理法がチーズの風味の改善に 有効的であると考えられる。

謝   辞

本研究を行うにあたりご支援いただきました東和食品研 究振興会の方々に深謝いたします。

文   献

1) Jim Law,亀 和 田 俊 一(2010).Making Artisan Cheese,

アールアイシー出版

2)齋藤忠夫,堂迫俊一,井越敬司(2010).現代チーズ学,食 品資材研究会

3)食品保存の科学(2012).食品保存と生活研究会 4)[食べ物]香り百科事典(2007).日本香料協会

5)めん羊生産物等の有効利用及び活用方法等に関する調査報告

III,公益社団法人 畜産技術協会

図 4 青カビチーズの加熱による変化(ケトン類)
図 8  燻製チーズ間のにおいの類似度

参照

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